「運河」(浮標集;茨木和生選;2017年1月号~2017年12月号まで)掲載作を整理しました。
第70巻第1号(平成29年1月号)
裏門に続く畦道曼珠沙華
欠席者数の増加も台風禍
教会のなかの明るさ秋の蝶
呼び集められたるほどの小鳥来る
母は祖母の話などして藤袴
第70巻第2号(平成29年2月号)
魚市場青果市場の秋祭
カンナ燃ゆ夕暮近き伊良湖港
蔵出しの新酒を注ぐ紙コップ
ことごとく薄の明るさと思ふ
神島を指さして秋惜しみけり
第70巻第3号(平成29年3月号)
温泉のある宿冬の合宿所
冬滝の前をゴールときめゐたり
ダイエットなど気にするな薬喰
セーターの上にセーター着てしまふ
年暮るる下巻は貸出中のまま
第70巻第4号(平成29年4月号)
寒星の落ちてきさうなほどの数
冬の鳥日差戻れば増えてきて
寒さ増す川のすぐそばまで来れば
清流は音まで清し福寿草
初硯靑々誓子暮石の句
第70巻第5号(平成29年5月号)
綿虫も気に入つてゐる散歩道
東大寺春日大社の雪景色
岩もまた神の住処よ雪催
実に寒しマンチェスターの一月は
マルクスの時代を思ふ冬の空
第70巻第6号(平成29年6月号)
大学に能学部あり梅の花
学長のよく行く店の桜餅
海岸に向かつて更地花菜風
磐座のどこが正面猫柳
海側も山側も晴れ誓子の忌
第70巻第7号(平成29年7月号)
氾濫の過去を疑ふ春の川
鳥声の止むことのなき朝桜
さういへばといふ感じなる春の風邪
気象台までの急坂雪柳
永き日や欠伸とともに涙出て
第70巻第8号(平成29年8月号)
いつもより熱めの風呂に夏始
汗だくにリュックの中のノートまで
鹿の子と視線を合はすのに苦労
チャーミングポイントあらず油虫
時差ぼけの治まるまでを泳ぎけり
第70巻第9号(平成29年9月号)
靑々の句を思ひ出す時鳥
朝の大浴場朝の時鳥
吊橋を駆け抜けてゆく夏帽子
簡単に愛を語るな天道虫
何もせず何もおもはず滝しぶき
第70巻第10号(平成29年10月号)
鮎づくしだけは限定十五食
磐座のための緑蔭かと思ふ
草むしりトレーニングになるといふ
滝仰ぐ橋をいくつも渡り来て
短夜のお疲れさまといふ言葉
第70巻第11号(平成29年11月号)
湖や今年最初の真夏日と
鮒鮓のたつた一切れ膳につく
料理長の話楽しも鱧料理
蟬声に押しつぶされてしまひさう
よく歩きよく句を作り暮石の忌
第70巻第12号(平成29年12月号)
檸檬切る午後五時にとる休憩に
源泉は八十六度良夜なる
空地とはいへど賑やか猫じやらし
バスに乗り遅れてしまひばつたんこ
茨の実森林鉄道跡行けば