「運河」(浮標集;茨木和生選;2016年1月号~2016年12月号まで)掲載作を整理しました。
第69巻第1号(平成28年1月号)
海荒れの収まらぬまま秋の虹
秋晴の水産加工団地かな
客船を追ひ抜く漁船秋うらら
あとがきの感謝の言葉秋澄めり
秋刀魚焼く父の姿を思ひ出す
第69巻第2号(平成28年2月号)
干菜風呂一日一客取る宿の
大根を抜くときに言ふどつこいしよ
川沿ひに進めば着くと冬の空
この角を右に曲がれと雪達磨
プラチナかシルバーか寒三日月は
第69巻第3号(平成28年3月号)
団栗を数へる時の声弾む
寒星は鋭し漁火は鈍し
寒月に海の眩しき神戸かな
なほ寒し訃報の二つ重なれば
狐火や思ひ出せざることのあり
第69巻第4号(平成28年4月号)
湯ざめしてぶつかりやすき母娘
毛糸編むか散歩をするか息抜きは
鳥声を真似る口笛冬ぬくし
書斎には時計を置かず去年今年
姉は子をやはらかく抱き初湯殿
第69巻第5号(平成28年5月号)
トンネルを抜くれば春といふことも
土の春水も空気もご馳走と
俺といふ者僕といふ者あたたかし
浅春の卒業研究発表会
仮説から抜け出せぬまま二月尽
第69巻第6号(平成28年6月号)
一汁五菜の一つが木の芽和
遠くから象を観てをり春の昼
桜湯をいただくときの正座かな
春愉し二人同時に欠伸して
空は無限海は有限日永かな
第69巻第7号(平成28年7月号)
廃屋の三軒続く花明り
花時の養老駅の駅舎かな
十人の先頭を行く春日傘
菜の花が目印といふ美術館
朝食の前の朝風呂朝桜
第69巻第8号(平成28年8月号)
蔵の窓開かれてゐて山桜
麗かやバスの遅れも気にならず
暖かやライスに大中小ありて
春昼の湖の上歩きたし
春眠の母エプロンを着たるまま
第69巻第9号(平成28年9月号)
夕焼や崖屋造りの家続き
滝仰ぎゐる二十五人の無言
風薫る白樺林越えて来て
ハイキングにしては険しと夏帽子
釣り人はせせらぎを褒め靑嵐
第69巻第10号(平成28年10月号)
夕方にやうやく日差朴の花
学生を家に招きて冷素麺
素足にてひとりの時間愉しめり
本を読むための時間と水中花
遠泳の最後尾ゆく係かな
第69巻第11号(平成28年11月号)
仕事の前の仕事の後の泳ぎかな
昆虫学研究室の捕虫網
師は厳し親なほ厳し水中花
滴りや最後に残る目の疲れ
地図を広げて話し合ふ夕端居
第69巻第12号(平成28年12月号)
殺虫剤使はず高原の人は
秋晴の木曽駒ケ岳御嶽山
滝の真中のもつとも白きところかな
茸狩茸の植菌体験も
新蕎麦の挽きたて打ちたて茹でたてと