「運河」(浮標集;茨木和生選;2015年1月号~2015年12月号まで)掲載作を整理しました。
第68巻第1号(平成27年1月号)
花野行く遠き記憶のなかを行く
飛火野を覆ひ尽くせる鰯雲
日差ある雨の降り出し赤のまま
参道といふ秋風の通り道
別れ際にも握手する月明り
第68巻第2号(平成27年2月号)
セーターを腕まくりしてより本気
朝市の客に振る舞ふ干菜汁
一日に会議が三つ日短
屈みても見下ろす仏石蕗の花
クリスマスツリーを除けて反省会
第68巻第3号(平成27年3月号)
古書店に寄り道もする紅葉狩
川沿ひに空家の続く烏瓜
蜂の子の佃煮も出て薬喰
微動だにせず冬虹を見てゐたり
所有者は百歳といふ茸山
第68巻第4号(平成27年4月号)
手袋の代はりと軍手渡さるる
スキーせぬ者を集めて読書会
花嫁の花は何色冬の虹
声かけて叩く学生雪だるま
本棚の本取り出して煤払
第68巻第5号(平成27年5月号)
歌島は神島のこと冬の潮
海女小屋にいただく牡蠣の握り飯
赤子抱く姉に羽織らずショールかな
初伊勢の赤子は眠りから覚めず
第68巻第6号(平成27年6月号)
姉の子に父の面影青き踏む
永き日やシナリオになきことも言ひ
十二まで数へてやめる蛙の子
読書灯灯したるままの朝寝かな
うららかや二軒続けて漬物屋
第68巻第7号(平成27年7月号)
土筆摘む子どもの方が多く摘む
二十二時の夕食となり菠薐草
誓子忌の漬物を噛む音愉し
麗かやレジャーシートに寝転がり
母の服母に着付けてもらひけり
第68巻第8号(平成27年8月号)
時鳥嘆いてゐるのかもしれず
休日は金魚に飼はれてゐる心地
風愉しむ場所よ藤棚の下は
とりあへず麦茶を飲んでからといふ
麦飯の誘ふ戦争体験談
第68巻第9号(平成27年9月号)
白玉や母は心配してばかり
どこまでかわらざれども蛙の国
泳ぎをりひとりとなりてをりたれど
開会宣言の議長のアロハシャツ
水中りのち時差ぼけのやうなもの
第68巻第10号(平成27年10月号)
熊出没注意蝮に注意とも
父の死にはじまる話夏の夜の
文月や十七音の物語
地震のニュース噴火のニュース朝曇
足の指先を感じて泳ぎけり
第68巻第11号(平成27年11月号)
夏空の見え隠れする原生林
冷房を使はぬことも修行とは
鳥声は風を呼ぶ声旱空
星涼し自然保護区に近づけば
我の他をらぬプールに泳ぎけり
第68巻第12号(平成27年12月号)
鳥の鳴き声するたびの涼しさよ
正面に川の流るる夏館
鳥どちの集まつてくる暮石の忌
山椒魚眠り足らざる顔をせり