ポリエン系の真菌薬は、エルゴステロールで作られた細胞膜を壊すのですが、アゾール系抗真菌薬は、小胞体でのエルゴステロールの合成を阻害します。
細胞膜の主成分エルゴステロールを失った真菌は成長が阻害されます。
アゾール系の真菌薬には
イミダゾール系のミコナゾール
イミダゾール系のクロトリマゾール
トリアゾール系のフルコナゾール
トリアゾール系のイトラコナゾール
トリアゾール系のボリコナゾール
があります。
主流はトリアゾール系です。
イミダゾール系は、口内のカンジタ症に用いる真菌薬です。
HIV感染時の口腔カンジダ症の治療にトローチ剤として用いられます。
イミダゾール系は真菌の細胞膜を阻害することによって、殺菌的に作用します。
副作用は少ないとされている医薬品ですが、吐き気、嘔吐などの胃腸症状が伴うという報告があります。
ケトコナゾールは抜け毛防止の効果があるとされる成分ですが、フケや水虫の改善にも用いられる合成抗真菌薬としても使用されています。
男性型脱毛症(AGA)による抜け毛の予防と、脂漏性脱毛症の両方に効果がある成分として多くの製品に使用されています。
また病院の診察において脂漏性脱毛症と診断された場合にも、こちらのケトコナゾールが配合された薬剤を処方されることがあります。
販売されている商品の形状は様々あり、内服薬、クリーム、シャンプーなどに用いられています。
クロトリマゾール
クロトリマゾールはアゾール系の抗真菌薬です。
効き目がよいことから、皮膚真菌症などの治療に幅広く用いられています。
日本ではバイエル薬品から「エンペシド」という医薬品に含まれています。
クロトリマゾールは比較的、刺激痛などが少ないとされている成分です。
ミコナゾール
ミコナゾールはアゾール系の抗真菌剤です。1969年にヤンセン・ファーマスーティカにより開発され、皮膚真菌症の治療に用いられています。
真菌を包む細胞膜に対して阻害し、真菌を絶滅させることができます。
硝酸塩の形で皮膚・粘膜に適用される他、内服用、真菌によるフケの防止用のシャンプー等にも配合された製品もあります。
ミコナゾールにはゲル剤があり、口腔や食道のカンジダ症に適応される事はありますが、注射剤型は有効性や副作用の問題もあり、あまり処方されなくなっています。
フルコナゾール
イトラコナゾール
ボリコナゾール
フルコナゾール
トリアゾール系抗真菌薬の中で、最も多く使われているのは、フルコナゾールです。
フルコナゾールには、注射薬、経口薬の両方があります。
どちらも優れたバイオアベイラビリティ(投与された薬物が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標)を示し、高い血中濃度、組織移行性が得られ、かつ安全性もアムホテリシンB などに較べるとかなり高く、これらが臨床的な使い易さに直結し、巾広く使用されて来ました。
フルコナゾールのプロドラッグとしては、注射用のフォスフルコナゾールがあります。
ただし、フルコナゾールの抗真菌スペクトル(有効真菌種)は、カンジダ属やクリプトコッカスなどに限られています。
また、フルコナゾール耐性のカンジダ属も増加の傾向があります。
副作用は少ないのですが、幾つかの薬剤との間に薬物間相互作用のある事が知られており、併用薬には注意しなければなりません。
また、副作用として膣の分泌が増加することが確認されており、女性の為の”濡れ薬=媚薬”としても、利用されています。
ダイフルカン~女性器の濡れ薬・女性用バイアグラ・媚薬としての真相
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イトラコナゾール
イトラコナゾール(日本での商品名:イトリゾール)は、白癬菌、カンジダ属、アスペルギルス属など幅広い真菌に対して強力な抗真菌作用を示します。
フルコナゾールよりも守備範囲が広く、爪や皮膚への移行性が良く、貯留性も優れていることが分かっている薬です。
そのため、爪白癬に対しても使用されます。
爪白癬は、爪の中に真菌が隠れこんでしまうため、なかなか完治しない病気です。
爪白癬の治療では、パルス療法(薬を服用する期間と服用しない期間を交互に設ける方法)を実施します。
また、皮膚や爪などの表面に存在する真菌症だけでなく、内臓などの奥深くで発症する内臓(深在性)真菌症に対しても有効な薬です。
イトラコナゾールには経口のカプセル剤と注射剤があります。
重症・難治例の多いアスペルギルス症ではその適応は限られたものであり、アスペルギローマなどの慢性例に主に使用されて来ました。
マラセチア菌にも効果を発揮するので、毛皮炎(身体ニキビ)にも適応があります。
また、犬・猫の外耳炎及び皮膚糸状菌とか、猫のクリプトコッカス症等、ペットの治療にも使われます。
ボリコナゾール
その真菌が消化管や肺など体の内部で異常増殖することがあります。
内臓真菌症(深在性真菌症)です。
ポリコナゾールは、細胞膜の生合成を阻害することで真菌を殺菌します。
カンジダ、クリプトコックス、アスペルギルスをはじめ、フサリウムやスケドスポリウムという真菌に有効です。
これらによる消化器真菌症や呼吸器真菌症、髄膜炎など重い内臓真菌症の治療に用います。
広い抗菌スペクトルを持つアゾール系抗真菌薬です。
消化管吸収が良好で、注射と同等の高い血中濃度が得られます。
カンジダ属に対する抗真菌活性は、フルコナゾール(ジフルカン)より強いとされます。
また、侵襲性アスペルギルス症に対しては、アムホテリシンB(ファンギゾン)を上回る有効率と生存率が報告されています。
やはり注射剤、経口剤の両剤型があり注射から経口へのスウィッチ療法も可能です。
抗菌スペクトルはフルコナゾール耐性も含めたカンジダ属、クリプトコッカス属、アスペルギルス属などと巾広く、臨床的な有効性にも高い期待がかけられています。
ただ、安全性面に若干の問題があり、特に東洋人では本薬の肝臓での代謝酵素が不十分なヒトが20%程度存在し、その人達ではボリコナゾールの血中濃度が高値となり、それに伴う肝機能障などの副作用が多発します。
そこで、本薬では血中濃度や肝機能をチェックしながら、その投与量を調節する事も必要となります。
又、原因は不明ですが、一過性に視覚異常が高頻度に出現しますので、外来で処方する場合などでは、患者にあらかじめ注意しておく必要もあります。
アスペルギルス症に対して優れた臨床効果
幅広い抗真菌スペクトル アスペルギルス、カンジタ、クリプトコッカス、フサリウム、スケドスポリウム
優れた組織移行性(ラット) 肺、肝、腎をはじめ脳、眼などの重要臓器に優れた組織移行性
注射と経口の選択が可能 (バイオアベイラビリティー約96%)患者の状態に応じて選択可能
副作用発現率 深在性真菌症を対象とした国内第Ⅲ相試験での副作用発現率は、総症例100例中78例(78%)であった。
主な副作用は、
羞明(25%)、視覚障害(24%)、γーGTP増加(11%)、悪心(8%)、嘔吐(8%)、肝機能異常(8%)、頭痛(8%)、AST増加(7%)、ALP(7%)、ALT(6%)、霧視(5%)、肝障害(5%)、食欲不振(5%)、不眠症(5%)等であった。