EA+ST1100DOHC Head project
2002年7月のフェスタ360でお披露目してしまいました。
まだ後には引けると言い聞かせ・・・・・・・
EA型エンジンにDOHC4バルブヘッドを載せてみたいというプロジェクトです。
なぜこんな事を思いついたか
ある日、バイク雑誌「Bikers Station」1999年10月号をぺらぺら見ていると、この雑誌の掲載されていたHONDA ST1100のエンジンの透視図が目にとまりました。V型4気筒、コックドベルトでアイドラーギアを駆動し、カムシャフト間はギア駆動のDOHC4バルブ1100cc。片バンク2気筒・・・・・この時なんとなくひらめいてしまいました。EAにこのエンジンのヘッドは乗せられないのでしょうか。
まずは情報収集です。しかしバイク屋にパーツリストが入手できるか問い合わせたところ、輸出専用車なのでパーツリストなどの情報が簡単には手に入りません。フレームナンバーが無いとパーツリストすら入手できない事が判明。ここで挫折するわけには行きません。どうにか入手する手段は無いか、せめてフレームナンバーでもわかればと色々調査を開始。
平行してインターネットでの情報収集も行なったところ、ヘッドとブロックの写真を発見。EAと同じオープンデッキブロックですが、オイルの戻り穴が一つなのが大きく違います。
パーツリストの方は、アメリカホンダから「Motorcycle Identification Guide」という本が出ていて、これには本田技研がアメリカに輸出したバイクのフレームナンバーが年式毎に掲載されている事が判明。まずはこの本をリンドバークにて取り寄せました。この本からフレームナンバーを調べ、ここでやっとパーツリスト注文し入手する事が出来ました。ついでにHAYNESから出ているST1100のマニュアルも入手しました。
ちなみに僕はEAが搭載されている車は所有した事すらありません。じゃあ何でとおっしゃいますね?面白そうだから、DOHCのエンジンをいじってみたかったから・・・・ただそれだけです。
文献も入手できたので、これらより色々調べていきます。写真は入手したST1100パーツリストのヘッド部分です。
以下はここで判明した事。
①ST1100は左右90度バンクで、前後の気筒は360度位相。片バンクを使うとEAと同じ位相になる。
②EAのタイミングベルトに合わせてST1100の右バンクを載せると前方排気、左バンクを乗せると後方排気となる。
③エンジンの回転方向はEAにヘッドを載せると逆になる。
④見た目で気筒間のヘッドボルト以外は位置が異なる。
⑤タイミングベルトの駒がEAは台形、ST1100は半球形と異なる。
⑥ST1100のボア・ストロークは73.0mm x 64.8mmで排気量は1084cc圧縮比10.0:1。
⑦ST1100のヘッドからのオイル戻り穴は排気側にある。
⑧冷却水の出口は吸気ポート下にある。
さて、ここまでの調査で、EAにヘッドを載せるとしたら、ノーマルヘッドと同じ吸排気レイアウトで、EAのブロックが前方に傾いている事からオイル戻りの心配の少ない右バンクかなあ、と言ったところまで考える事が出来ました。
この時点で、ボアピッチ、スタッドボルト位置等に関してはEAもST1100ともども不明でしたので、(EAは所有した事も無いので・・・誰かに聞くにしても話しがとっぴ過ぎるし・・・)ヘッドガスケットを入試して更なる調査をする事にしました。ちなみにST1100のヘッドガスケットは左右共通(12251-MT3-004)で価格は1600円!でした。
入手したヘッドガスケット左からST1100、EA、参考にEHの順です。
重ねて見るとこんな感じです。左はSTとEA、右はSTとEH。
ST1100のガスケットですが、メタル製で3枚構成になっています。ブロック、ヘッドのいずれかを改造せねばならないはずですが、新規にガスケットを作るよりは安価でメタルガスケットを入手できるのであれば、これを使わない手は無いですね。O/Hも手軽にできるし。
さて、ガスケット比較で判った事。
①ST1100のボアピッチは90mm、EAは88mm、参考でEHは93mm。
②ボア間のヘッドボルトは使えるかと見ていましたが、全く合う所はありません!
うーんこれは大変だぞー。
ヘッドガスケットによる調査で大変な作業だと言うことが判明し、ここで挫折しようかと考えていました。ところが、2000年5/28に静岡県清水市日本平ホテル駐車場で行なわれた「世紀末360ミーティング&ガレージセールin日本平」でEAの腰下が安価にて出品しているのを発見。これを衝動買いしてしまいました。EAエンジンを丸ごと入手するには費用がかかるなと思った矢先です。なんと幸運と言うか今考えると泥沼にはまった感じですな。
というわけでブロック側での検討を行います。STのガスケットをEAのボアの合わせて置いてみます。ボア間、ブロック後方のヘッドボルトは微妙にずれている事が判ります。また、事前のガスケット同士の調査で、EAの左前方のブロックにSTのヘッドボルトに合わせて穴が開きそうな平面の場所が有りました。そこの部分のブロックをよくよく見るとなんとウォーターポンプのインペラが入るところの上で、ブロック上面からヘッドボルト穴をあけるとここに貫通してしまうことが判明。うーんウォーターポンプをどうにかせねば・・・・・・
ブロックをSTに合わせてヘッドボルトを開ける事を前提に検討した結果。
①左前のヘッドボルトは穴をあけるとウォーターポンプと干渉。ウォーターポンプを外部でまかなう。
②右前のヘッドボルトはブロックを溶接で盛って対応。
③ボア間、ブロック後方のヘッドボルトは若干のずれなので現行の穴を埋めて再び開ける。
④ブロック後方のクランクブリーザーは蓋をしてブリーザーホースを接続できる様にする。
⑤ブロック前方のオイル戻り穴はブロック側を塞ぎ、ヘッドからブロックorオイルパンに配管を作る。
左前 右前
こんな事をもんもんと考えているうちに、ガスケットの流用はあきらめ、ヘッド側で加工してヘッドボルトの位置を出きるのではないか。ブロック側とヘッド側とお互いを加工すると小加工で済むのでは無いかという考えがむくむくと出てきました。これにはヘッドを入手し、検討せねばにっちもさっちも行きません。ここで清水の舞台を飛び降りる決心でST1100のヘッドの新品を発注してしまいました!!!
ST1100右バンクのヘッドを買ちゃいました!
部品番号は12010-MT3-731、価格は¥51,900-(税別)。大枚を叩いての購入です。
ヘッドの吸気ポートが若干上を向いています。さらにEAのブロックが前傾しているため、キャブはダウンドラフトタイプが良さそうです。FCRなんて付けて見たいものです。
ヘッドの排気ポートの上に2次空気吸気用の穴が開いているのが見えるでしょうか、これが排気ポートの途中まで繋がっています。パーツリストを入手する際、成るべく新しいフレームナンバーで注文したのですが、古い型式でしたらこの穴は開いていなかったはずです。HAYNESのマニュアルの写真ではこの穴が無い古い型式でした。ちょっと失敗しましたね。
ヘッドへのオイル供給はヘッドに穴を開けて直接行なえばいいやと考えていましたが、ヘッドを見てみますと、ブロックからのオイルはヘッドボルト経由でさらにそこからカムホルダーへオイルラインが開いています。さらにヘッドボルトの周辺には水穴が通っている様で、穴を開けてオイルは供給できそうにありません。これも今後検討が必要ですね。
冷却水の出口が吸気ポートの間から出ています。EAのクランクブリーザー用の穴と干渉します。
さて、ヘッドボルトはまったく合わないし、オイル戻り穴、クランクブリーザー穴も合いません。ヘッドの小加工での対応も考えましたが、ゆがみが心配なので溶接はしたくありません、また水穴との干渉も怖いのでヘッドの穴あけも考え物です。やはりブロック側を加工するのが良かろうという結論に達しました。
さて、ボアピッチが2mm異なるのも問題です。ニッサンL型エンジンの3L化などの記事でオフセットボーリングの話しがありますが、EAではL型に比べてボアが小さいのでオフセット量が同じでもボアと比較するとオフセットの割合が大きくなり、コンロッドの曲がりに繋がりかねません。しかし、STの燃焼室のボアは73mm有り、燃焼室の形状からしてヘッドを面研してもこれはあまり小さくなりそうに有りませんし、またガスケットを流用する事を考えるとボアをオフセットしたいところです。
そこでいかに辻褄を合わせるか・・・・そこで考えてのが、以下の案です。
①コンロッドの大端部がEAより1mm薄い物を探し出し、クランクの方にコンロッドがスラスト方向に動かない様、溶接+研磨加工。
②現行のスリーブを抜き、さらにスリーブの回りを削り取ってウエットスリーブをそれぞれ左右に1mmオフセットして挿入する。
③ブロックの上部にアルミを溶接し*1、STのヘッドの合うようクローズドデッキに変更。この時EAのヘッドボルトは全て埋め、STに合ったヘッドボルト穴を開ける。
④オイル戻り穴はEA従来の穴は埋め、新規にブロック下部もしくはオイルパンに戻す経路を作成。
⑤クランクブリーザー穴はバランサーの穴の上で切り取り蓋をし、STの冷却水出口を確保する。
*1 案1はウオータージャケット内側、案2はブロック上側。案2の方が長いコンロッド使用可。
イメージの絵を書いて見ました。しかし、ボーリング屋でこんな事やってくれるでしょうか。やってくれてもいくら掛かるんでしょうか。うーーむ。
ノーマルクランク
クランク改
ノーマルブロック
ブロック改1案
ブロック改2案
堀口内燃機さんにウエットスリーブ化とクランクの溶接加工の相談をしに行ったところ、クランクの溶接加工は溶接の熱による変形が懸念され、ジャーナルを細く加工しなくてはならなくなる可能性があり、ウエットスリーブ化も変形しそうでお勧めできないとのことでした。まあ、そう言われてもしょうがありません。無理な加工だとは思っていました。
他に方法は無い物かと、会社の帰りに横浜市の図書館に「国産エンジンデータブック」を借りに行って見ました。しかし、蔵書は有っても貸出禁図書となっていて、中央図書館に行かなければ閲覧できないとのことでした。仕方が無いので次の週末に紅葉坂の図書館まで行ってきました。この図書館は受験時代に来た記憶がありますが、建て替えたようで綺麗に成っています。さて、書庫に行くと誰かが閲覧しているようで見当たりません。仕方なく2年前の'98,'99年版データブックを奥から出してもらい調べました。
各メーカーのデーターを調べて流用部品を探すのは流石に大変なので、とりあえずホンダの情報を重点的に調べ、コピーを取って来ました。家に帰りついて、このデータをじっくり眺めて見ます。
まずはクランクピン径がEAと同じ36mmのコンロッドをピックアップします。さらにST100のボア73mmに近い4バルブのピストンを探して見ました。すると、CB750(RC17)がクランクピン径36mm、大端幅が21mmでした。EAの大端幅が21.8mmですから0.8mm細くなっています。また、ピストンはVF800が72mm、オーバーサイズを使えば72.5mmで73mm用のヘッドガスケットで行けそうです。この2つのピストンピン径は17mmと同じです。さらにCB750コンロッド+VFR800ピストンの組み合わせだと、コンロッド長+ピストンピンハイトは110+23.3=133.3mmでEAの106.5+27.2=133.7mmでほぼ一緒になります。これでしたらちょうど圧縮比はブロック面研で調節できそうです。
当初はどうせならもっと大きなピストンを入れて排気量も大きくしようと考え、ウエットスリーブ化を検討しましたが、このピストンでしたらオフセットボーリング+スリーブ新造で行けそうです。排気量は418ccと成ります。
さて、ここでEAの大端幅21.8mmにCB750の21mmのコンロッドを組んで1mmオフセットさせるのに、クランクを溶接せずに行なう方法がネックとなります。そこで考え付いたのが、CB750のコンロッド片面を0.1mm面研し、反対側のキャップ側の一部を面研してスラストメタルもしくはワッシャーの半分の形状の金属をクランクに組み込む時に入れる事によって、オフセット位置決めを行なう方法です。これならどうにか実現できないでしょうか。またまた堀口内燃機さんに相談してみましょう。
予算が無いため、お金のかからない方法で検討をして見ました。ブロックをいかに加工するか、まずは粘土で作ってみました。
オイル戻り穴をどの様に戻すかは大きな問題です。最初はまっすぐ下に下ろす通路を設ければ良いかと考えましたが、そこにはばバランサーシャフトの軸受けが有り、簡単には行きそうも有りません。色々考えた結果、もともと有るオイル戻り穴に戻すのが良さそうです。
ST1100のヘッドボルトを通すため、前側左右に肉盛りが必要です。右側はブロック外側なので問題無さそうですが、左はウオーターポンプのインペラが入る部分と成ります。インペラは外して、外部に電動ウオーターポンプを付けるしか無いですね。
これ以外のヘッドボルトも微妙に位置が異なるため、元々のボルト穴は塞いで、再び開ける必要があります。当然、オイル戻り穴の上も塞ぎます。
ブロックの加工を始めました。ブロックの後ろはヘッドから出る水路を避けるためにブリーザーの部分を削っています。前側はオイル戻り穴を追加しています。
さらにこんな部品を作っています。
アルミ板から作ったものはこの様にブロックに付けます。パイプはこのヘッドからのオイル戻り穴を先ほどブロックにあけた穴に接続します。また粘土で付けてみました。
ヘッドを載せるとこんな感じです。
ブロックのヘッドボルト穴がヘッドと合わないため、埋めました。使用したのはメタルコピーという商品でバイクのアフターパーツ屋のDAITONAが扱っている商品です。
これをボルト穴に入れたのですが、気泡が入らないようにするのが結構大変でした。それにM10のネジだと入れる量が多くもったいないですねえ。これでしたらアルミの棒をこれで接着する方が良かったかもしれません。
あまったのはブロックにボルトを追加する部分に擦り付けました。しかしまだまだ量が足りませんねえ。
このプロジェクトは没に成りました。費用もないし、乗せる車も無いし・・・・・・・