ほんの累積 平成23年4月
平成23年4月28日
「サム・ホーソーンの事件簿」5 エドワード・D・ホック 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-20107-4 C0197
「サム・ホーソーンの事件簿」6 エドワード・D・ホック 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-20109-8 C0197
「WE LOVE ジジイ」 桂望実 文芸春秋 ISBN:978-4-16-327840-7 C0093
「マリアビートル」 伊坂幸太郎 角川書店 ISBN:978-4-04-874105-7 C0093
「高峰秀子」 監修:斎藤明美 キネマ旬報社 ISBN:978-4-87376-326-2 C0074
サム・ホーソーン短編集邦訳最終編。読めば読む程うまいなあと感心する。
トリックも申し分無く、シリーズの進行としてのやりかたも第一次大戦終了から第二次大戦終了という戦況を語ることで見事につながっている。
こういう作家さんもいるんですね。ミステリーも奥深い、がこの翻訳者木村二郎さんですか、ことばづかいに癖が在ってそっちも面白かった。
桂望実はお久しぶり。相変わらずエネルギーもらった!という感じの読了感。こんな小説がいっぱいあったらいいのにとしみじみ思う。
東京でコピーライターやっていたバツイチ男が、難にも無いジジイとババアしかいない田舎に隠遁したところじわじわとひっぱりだされてという話。そういえば、グランドゴルフも似たような感じの広まり方したような気がする。
「マリアビートル」はグラスホッパーに出て来た「業者」なる殺し屋たちが東北新幹線の中で右往左往しながらという話。
どう見たって収拾がつくとは思えない業者たちの思惑が錯綜して、なぜかちゃんと伏線しっかり最後に納まるという職人技。
どうやって筋を組み立てているんでしょうか、この作家。その上に噛み合ないようで噛み合っている漫才みたいな会話がやたらと可笑しい。
頭の中で筋を整理する為に数回読み返さないと判らない部分あり。登場人物複数ですが自分みたいな記憶音痴?でも混乱しないところはやっぱり上手い。
「業者」のお話3弾目出るか、出ないか。とことん運の悪い殺し屋にははらはらドキドキ笑ってしまう。
「高峰秀子」
単なる女優アルバムでなく充実しています。読み物としてもレベル高し。
共演した当時の二枚目俳優、男優女優含めてみたい人には必見。写真が大きいので鑑賞に堪えます。
すごいなあ、とおもいつつ眺める。原節子に、ロッパ、森繁久彌に上原謙、錚々たる面々。
監修者斎藤明美の文章が最高。
平成23年4月21日
「十字軍物語」1 塩野七生 新潮社 ISBN:978-4-10-309633-7 C0322
「古代ローマの24時間」よみがえる帝都ローマの民衆生活 アルベルト・アンジェラ 河出書房新社 ISBN:978-4-309-22531-9 C0022
「迷惑な進化」病気の遺伝子はどこから来たのか? シャロン・モアレム ジョナサン・プリンス ISBN:978-4-14-081256-3 C0047
西欧の叙事詩的ないいまわしに「血は川のごとくに流れ」云々というのがあるけれど、実際のところそれは「現実」を形容していたということらしい。
「神」の名の下に「神聖な」行為であるとして始めた十字軍の内実は、「異教徒を抹殺」することを目的にしたかのようである。
略奪、虐殺、意に従わない都市に侵入するや数万人の人々を凡て皆殺しにながらの行進というのも凄まじい。
想像をたくましくしたら読み進めないような血なまぐささに流石に閉口する部分あり。
これも「西洋」の歴史なわけですか。どれくらい続く予定なのか知らんこのシリーズ。
「古代ローマの24時間」
面白くはあるのだけれど、著者の観点におもいっきり「西欧風バイアス」がかかっていてムッと来る。自分んとこの風習が違うからと言って馬鹿にしてはいけんだろう。上から目線とはこういうのを言うんだな。
ということで、まあまあ珍しくはあるのだが変にセンチメンタルな描写とかいらない意味付けとかが邪魔でしかたないのでとりあえず半分ほど読む。惜しいよなあ。出がジャーナリストだから変に煽ったり盛り上げてしまうのだろうか。
文化人類学的とはいえないようなコメントがなければ面白いのに。残念なり。
「迷惑な進化」
まず、装幀に文句付けたい。本の中身は文句付けよう無く面白いしためになる。長沼毅の極限環境学に通ずるところあり。
これは目からウロコ本です。免疫学、ペスト関係に興味がある方にも必見。語りは面白いし判り易く内容も充実。
本当にお勧めの一冊でなかなかこんなのには出会えません。
そうか、「鉄」は大事なのだなあ。
平成23年4月14日
「サム・ホーソーンの事件簿3」エドワード・D・ホック 創元推理文庫 ISBN:4-488-20105-9 C0197
「サム・ホーソーンの事件簿4」エドワード・D・ホック 創元推理文庫 ISBN:4-488-20106-7 C0197
「深海生物学への招待」 長塚毅 日本放送出版協会 ISBN:4-14-001775-9 C1345
「海に沈んだ町」 三崎亜記 朝日新聞出版 ISBN:978-4-02-250832-4 C0093
「メリーゴーランド」 荻原浩 新潮社 ISBN:4-10-468901-7 C0093
同じ作家で紛らわしい。といってもこれ以上の題名の付け方はないし。
名前は「サ」の文字しか合っていないのだから違いに気がつかない自分の方が間抜けとも言える。
しかし、このシリーズの1、2は図書館のどこに並んでいるのだろう?
サイモン氏はホラーがかっているが、このサム君はお医者さん。
サイモンシリーズでは語り手の奥さんが障害となっているので、独身三昧のサム君は気楽な奴なのだ。
作家の女性観あらわれてませんか、ひょっとしてというのは冗談。
本格推理といってもよいトリックの短編ばかり。よくまあこんなに沢山書けたものである。おすすめの作家なり。
長塚毅氏の3冊めを読む。刊行は1996年で著者近影の写真がなんとも可愛い。(おい!)
昨日ブログを拝見したところ今年50才になられたばかりとのこと。経歴からいうとかなり華麗な方、否波瀾万丈な方のようである。
先に読んだ新書の方が新しいので研究成果もまとまりの方もあちらを読んでみた方がとっかかりが良い。
こちらは深海艇による探査の関係やチューブワームの方に主力が置かれている。(ご専門ですから)
一見磊落な風にもみえるが、じつはかなり繊細な方なのではないかと仄聞。
この二十年新しい分野の学問が開かれて来ていたのだと知る。
「海に沈んだ町」
このタイミングでこの題名を読むのは辛い、が三崎亜記の世界を読まずにはいられない。
それにしても相変わらず不穏な世界なのである。突如一つの町が海に沈み、「団地船」が海をさまよう。
挿入される写真がこれまた雰囲気を盛り上げてくれる。
風刺なのか妄想なのか、だんだんと思考の三半規管をやられて平衡感覚を失っていっているような気持ち悪さ。
その世界観のベースにはしっかりと「日本近代文化史」というのがあって、それがじわじわとねじれて物語が立ち上がって来るところが怖い。
「メリーゴーランド」
極めつけの公務員コメデイ。笑っていいのかマズいのか悩みつつ思わず吹き出した。これこそ強烈な風刺。
あまりに上手いので怒れないだろう、ここまでやられると。
まあある意味やりきれないような結末ではあるけど、かといってど〜んと暗くなるわけでもない。
むちゃくちゃ立ちまくったキャラクターを存分に楽しむべし、というところです。
平成23年4月7日
「51番目の密室」世界短編傑作集 早川書房編集部 ハヤカワポケットミステリ1835ISBN:978-4-15-001835-1 C0297
「サイモン・アークの事件簿」1 エドワード・D・ホック 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-20108-1 C0197
「サイモン・アークの事件簿」2 エドワード・D・ホック 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-20110-4 C0197
「コーラル城の平穏な日々」デルフィニア戦記外伝2 茅田砂胡 中央公論新社 ISBN:978-4-12-501145-5 C0293
「現代生物科学入門10」 極限環境生物学 岩波書店 ISBN:978-4-00-006970-0 C3345
申し分ないミステリたち。「世界ミステリ全集」からの選集とのこと。初めてであったのは創元推理文庫のほうがおなじみだったので、それでほとんど読んでいない作品ばっかりなのか。関係無しで楽しめました。こういう作品たちを始めに出会うとミステリ好きになれるよね。
「サイモン・アーク」
ホックという作家名にどこかで出会っているらしいとは思うのだが思い出せずとりあえず借りてみる。
いやあ、珍しいホラータッチの探偵ものとは初めてであったぞ。といいつつしっかり本格推理ものなのである。
素晴らしいでないかい。まるでガードナーのペリイ・メイスンのホラー版というか、トリックが確かで新味有り。シリーズものとして続いていたというのは当然か。
とはいえ、ホラータッチをエラリー・クイーン氏に難色示されてなかなかEQマガジンに採用されなかったとか。ははは。
クイーンだって「神の火」なんてかなりホラーがかっていたと思うけど…
図書館にもう二三冊あったと思うので次の候補にしようかな。一気に読まないとどこまで読んだか判らなくなるので。
「コーラル城」
茅田さん、もものきの続刊大変なのかなあ。ま、いいか。デルフィニアがもう一冊出るとは考えていなかったので儲けた気になる。
クラッシュ・ブレイズの画集も出るそうな。(小説付き)。で、レデイー・ガンナの外伝もでているらし。
そういえば最後まで読んでいないままに書店に見かけなくなったなあ。
「現代生物科学」
長沼毅氏が特に変人というわけではないらしいので、安心して読んでみる。おお〜全然理解出来ないが新しい世界が開けて来た気がする。
「長沼毅が案内する南極大陸ツアー」なんてないものだろうか?あったら死にそうな目に遭いそうな気はするが…
ちょっと気軽にというわけには行かないが、氷河見学ツアーは要らんがそういう説明つきツアーがあったら行ってみたい。
中公新書「生命の探求」を高校時代に読んで興奮したのを思い出すくらいに面白い。
あれから四半世紀、科学の世界はこれだけ進歩してきたのだねえ、としみじみ。
といいつつ、まだ最終章読み終えていない。ちょっと集中力いります。
平成23年4月3日
「父として考える」 東浩紀・宮台真司 NHK出版 生活人新書324 ISBN:978-4-14-088324-2 C0236
「ハリウッド100年のアラブ」魔法のランプからテロリストまで 村上由見子 ISBN:978-4-02-259915-5 C0374
そういえば、この作家の小説が図書館の棚にあったなあと考えながら小説のかわりにこの対談集にてお試し。
上野千鶴子を必死に読んだ自分にとっては「おひとり様の老後」がなにゆえそんなに「ケッ!」と言われねばならないのかよくわからないが。
幼い娘にでれでれとなっておる著述家業のおふたりが語る「子供を持ったが故に考えたこと(感じたこと)」を語り合うと言う対談集。
自宅で仕事している父親ということで、子育て感覚についてはまあ多少まともな意見はお持ちのようだけれど、
さすがに都会育ちの東大卒などという経歴だけあってちょっと庶民には難しいというか、少々子育ても他人事風に見ることのできるような生活の余裕をお持ちか。
そうかあ、博士号?をとるまでの候補生に月20万円、取ってからは40万円の援助金が出る制度があったのか、
ってそれ庶民まともに働いてもそんな金もらえないし。なんなんだ、と関係ない所であきれたりする。
とまあ辛口の感想になったのは、上野千鶴子をけなして?くれたせい、とまあそれだけのこと。
このお二人の奥さんのお話も聞いてみたものである。さて。
「アラブ」のお話。
映画ファンはいうまでもなく、中東の歴史をわかりやすく勉強したいむきには非常におすすめの本。たいへん示唆的な本です。
ちょとひとことでは言い表せませんが、愕然とします。
進めば進む程辛口も辛口、激辛の語り口になるのですがそれもむべなること。おそるべし。
プロパガンダというものの恐ろしさがよおくわかります。
こころして読むべし。ひとのこころと思い込みのこわさ。