ほんの累積 平成23年7月

平成23年7月25日

「卵をめぐる祖父の戦争」 デイヴィッド・ベニオフ 早川ポケットミステリ1838 ISBN:978-4-15-001838-2 C0297

「スターバト・マーテル」 篠田節子 光文社 ISBN:978-4-334-92697-7 C0093

マコート君の(あんたは知り合いか!)「アンジェラの灰」を思い出しながら読んでしまう。

全くにして悲惨。だいたい舞台がレニングラード包囲戦のまっただなかというところで既に明らか。

何万人と言う人々がドイツ軍によって包囲され犠牲になった。たまたま命拾いをした19才と14才の若者が飢餓で死体が街にころがっている街で卵を一ダース調達しろと無理難題をふっかけられて、さてどこへ彷徨い探し歩いたか、と言う顛末。

あほらしくて笑うしか無いような理不尽な要求がまかりとおる、そんな政治的状況で武器になるのは「笑い」

悲惨だけれど可笑しい。しかし、これ宣伝文にエンターテイメントの文字を見かけたような気がするが、ほんとにそう思う?

楽しめるんですけどね。キャラクターが最高、かも。

篠田節子を定期的になぜか読みたくなる。

何かの病でしょうか。(失礼な)特にカタカナ題名ものを何故か選んでしまう。これもまた摩訶不思議。

このひと普通に物語している筈なのになぜか読んでいると変な世界に連れて行かれちゃう。今回もそうでした。

なんだか変な世界を垣間みる心地。よござんす。

変な不倫小説よりリアルな女性の心理描写も捨て難し。アツいんだか醒めているんだか。

平成23年7月20日

「たてつく二人」 三谷幸喜 清水ミチコ 幻冬舎 ISBN:978-4-344-01943-0 C0095

「小さいころに置いてきたもの」 黒柳徹子 新潮社 ISBN:978-4-10-355006-8 C0095

「水辺にて」 梨木香歩 筑摩書房 ISBN:4-480-81482-5 C0095

「狼女物語」美しくも妖しい短編傑作選 G・マクドナルドほか 工作舎 ISBN:978-4-87502-436-1 C0097

「怪物」 福田和代 集英社 ISBN:978-4-08-771410-4 C0093

いやあ冗談で夫婦仲のことをつついていた清水サン、これからは洒落ではなくなりました。

相変わらず仲がいいのか悪いのか判らないこお二人のトークはやはり面白い。

黒柳徹子の文章はいつよんでも安定している。明確な話し方と、それと対照的なボケかたとが絶妙。

そうか、ナイターゲームは暗いからボールが見えないかもとか、イチローフアンだが相変わらず野球音痴だったり。(人のことはいえないけど。同じくらいサッカー判らん)

でも根っこにはちゃんと「まっとうな人生」を全うしている人の確固とした基盤が感じられる。高峰秀子さんといい、稀な克己の人でもあるのだなあという感じがする。

梨木香歩は、そう自分と歳ははなれていないのだけれど走破して行く距離と活動の広さに驚く。

ファルトボートを車のうえに乗っけて、北海道の川、富士の湖、ダム湖と、相当の距離を駆け回る。

その上でこの静謐にみちみちた文章を書くのだからいったいどんな方なのだろう。美味しい文章というものがあるならば、まさにこれ。

「狼女物語」

ランダムに読み始めて、ジェンダーバイアスがもろに満ち満ちた短編につきあたり吐き気を催す。が、さすがにG・マクドナルドの物語は逸品。後書きを読んで、バイアスぶちこんだ物語も、それはそれで意味のある提示であることに納得。

というか、後書きは「狼女」に関する歴史的思想の考察というか論文の性質のもの。

「嗜好として物語を読む」か「精神史の象徴として学問的に読む」かという選択の二面性が現れて来て、趣向としてもいったいこの本何を目指しているのか?と少々不可解。

その混乱は別にしてもなかなか良い物語が揃っていることは認める。表紙のロセッテイの絵が効いています。なるほどこの絵も「狼女」の主題だったのかあ!

「怪物」

しばらく取り置きをと思っていたのに、思わず手に取ってしまった…。ほんとうにこういうゴミ処理場あるのだろうか?

あると凄いぞ、真に迫っていた。物語的には最後のところの心理展開についてゆけず。そういうところがこの作家の特徴なのかと思いつつ、なにやら最後の最後でポーンとつきはなされてあっけにとられてしまうような。

まあいいや、高村薫の照柿のときほどではないし。

平成23年7月12日

「アリアドネの弾丸」 海堂尊 宝島社ISBN:978-4-7966-7741-7 C0093

「オー!ファーザー」 伊坂幸太郎 新潮社 ISBN:978-4-10-459604-1 C0093

「本に埋もれて暮らしたい」桜庭一樹読書日記 桜庭一樹 東京創元社 ISBN:978-4-488-02468-0 C0093

さすがにこの本を最初に読んでも何が何だか分からない。

ちゃんとはじめのバチスタから読むとちょい出演のキャラも楽しめてよろしい。

なんと今回は高階院長が殺人事件の容疑者となるという波乱に満ちた展開なり。

誰の陰謀だ!というのもありますが、桜宮に巣食う闇の一族?の復活も含めてまだまだ海堂ワールドは広がってゆく模様です。

「オー!ファーザー」 父親が四人という非常に珍しい環境に育った由紀夫君が事件にまきこまれる。

キャラが際立っておりまして、これは映画化してみると非常に楽しそうだ。さて誰にどの男優をあてるか、で相当楽しめる。

あれかこれか、でもギャラがすごく高くなりそう。でもやってみてもらうと楽しいぞ絶対。なにしろ設定が40代だからベテラン俳優がすんなりあてはまる。問題は、由紀夫君の母親にどの女優をあてるか。

「桜庭一樹」

トワイライトそんなに面白いのか?最後の対談で映画で男優が無茶苦茶インドアの人らしく、全速力で疾走する姿に爆笑が起こったとか、無茶苦茶ボールを女投げしていたとか、そこんとこ見てみたい気が…(設定は真反対)

そういえば、最近ダンナさんの話が出ていない気がするのだが?

平成23年7月8日

「星の光、いまは遠く」上 ジョージ・R・R・マーテイン ハヤカワ文庫SF1813 ISBN:978-4-15-011813-6 C0197

「星の光、いまは遠く」下 ジョージ・R・R・マーテイン ハヤカワ文庫SF1813 ISBN:978-4-15-011814-3 C0197

「高峰秀子の流儀」 斎藤明美 新潮社 ISBN:978-4-10-322231-6 C0095

「先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!」[鳥取環境大学]の森の人間動物行動学 小林朋道 築地書館 ISBN:978-4-8067-1384-5 C0040

「ツナグ」 辻村深月 新潮社 ISBN:978-4-10-328321-8 C0093

マーテインの初期長編作。まず物語の環境設定のすばらしさに心奪われる。そして今は打ち捨てられた各都市の叙述のうつくしさ。

ハインラインやシルヴァヴァーグを思わせる翳り行く惑星の記述をよんでいるだけで陶然として来る。さすがマーテイン。 残酷で苛酷でしかしうつくしい世界。

とまあ筋に余り関係のないところで感動してても仕方ないが、この作家はジェットコースター系の人ではなく大河ドラマの面白さなのでそういう読み方が相応しい。

久々に、ファンタジーSFの源流に触れたような気分。

「高峰秀子」

いちど「説教されているような」という考えが浮かんだら離れなくなるので、そこを避けて読むと面白い本です。

小林教授は、今回はヤモリとイモリとモグラというふうに今回も盛りだくさん。イタチというのはフェレットのこととおぼしめせ。

モグラを飼うのはすごく難しいらしいのだが、この先生流石であります。そういえば、イモリを火鉢の中に入れていたことがあったが、いったいどこから見つけていたのかしら、覚えていない。ま、目の前が田んぼでありましたから。

アカハライモリ可愛かったなあ。ミミズを掘ってはやっていたものです。

辻村深月は最近ヤングアダルトの棚でよくみかける気がしていたが、こういう作家だったのか。初めて読む。

こういうテーマいろいろと感慨を催させるが、あまり深入りしたくない。恩田陸の常野シリーズを想起したが微妙に違う。(当然ながら)上手い作家だな、という印象。

平成23年7月3日

「生命の星・エウロバ」 長沼毅 NHKブックス992 日本放送協会 ISBN:4-14-001992-1 C1344

「ヴィズ・ゼロ」 福田和代 青心社 ISBN:978-4-87892-336-4 C0093

「The Burning Wire」 Jeffry Deaver ISBN:978-1-444-70428-0

下手なSF作品より夢のある科学の本。「エウロパ」とは木星の衛星のひとつ。

生物が産まれるための環境とはいかなるものか、という視点から説き起こされる「生命が誕生し進化するということ」の意味。

惑星の中心にマントル対流が生じる原因から、「呼吸」と「代謝」の科学的仕組みなど、絶対読んで損はしない。

多分この知識を基礎にして「生物学」というものがまた知識の堆積として発展して行くのだろう。

この著者の文章は読み易くかつ理解し易いので助かります。

「ヴィズ・ゼロ」

目黒考二お勧めの作家。毎回全然違う分野を舞台に書いているのだそうな。

しかし、読んでみて驚くのは「いきなり出て来て傑作」なこと。単に食わず嫌いだったためといわれそうだが、文句なしのエンターテイメント。普通は結構微妙なんですよねこういうタイプのお話。が、嘘くささも破綻も無いという凄い技。

高村薫を初めて読んだ時のような興奮であります。

ぼちぼち、この作家探して読もうか、それとも射程内の「おとりおき」にしておくか悩みの種。

なんて怖いんだ!スチールだらけの建築物、と思って周りを見回したらうちはこてこての日本家屋だった。

すなわち床は畳=絶縁体だらけ。漏電して火災という方が可能性高し。(笑)

扉も床も階段も窓枠もインテリアすべてスチール製だったら、建築物の端っこに高圧電線接触しただけで内部の人間すべてもれなく感電する。しかも直接高圧電力かけるとスチールが融解して「散弾」となり飛び散る。

おっそろしい話なのであった。キングに匹敵するホラーやもしれぬ。

とまあ、こんな恐ろしいことをする犯人相手にライムたちが出動する。デイーヴァーだけあって息をもつかせぬ展開。とくに後半にあってはもうトイレに行く時間も惜しみたくなるよなジェットコースター状態。

邦訳されたあかつきは、これを読み出す前に必ず時間を確保すること。文字通りの徹夜本なので滅多な時間に読み出すと読み終えるまでに「つづきを読みたい、でも読めない」という葛藤で酷いことになるので注意。

ここまで煽っておいて内容は解説しないのかよ!といわれそうだが、下手にネタバレするとファンに首締められる。