ほんの累積 平成23年9月

平成23年9月19日

「結晶世界」 J・G・バラード 創元推理文庫

「殺す」 J・G・バラード 東京創元社 ISBN:4-488-01620-0 C0097

「ねむりねずみ」 近藤史恵 創元推理文庫 ISBN:4-488-42702-2 C0193

先月だったか今月だったか「殺す」が新しく文庫になると宣伝していたようだったので、これを機会にバラードの三部作とやらを読破してみようと言う試みであります。で、その昔学生時代に本棚に並んでいた割にはほとんど読み返していない作品。

結晶世界すなわちそのまま世界が結晶化という単純な設定なのであります。

読んでみて何故そのようになったかを理解いたしました。SF文庫で出ていたとはいえこれはSFというより不条理小説に近い。

こんなに延々独白と風景描写がつづく鬱鬱とした物語の味が判るには若すぎたのよねきっと。

といいつつレムの「惑星ソラリス」と並んで妙に気になる存在だったには違いありません。

で、この歳になって改めて読み直した感想。名作だと思うけど、SFというジャンルと決めつけるのは間違いかと。

今回読んでて「白い闇」を思い出しました。書かれた年代のことを考えると恐ろしいくらいに先進的な作品だと思う。

コンラッド?の「闇の奥」というのが(「地獄の黙示録」の原作?)長年気になってしかしまだお目もじしていないのですがこういう感じなのかもしれない。いやあ、名作でした。

「殺す」

後書きにある意味「予言」と書いてありましたが、たしかに。ただし、どこがと聞かれてもお答え出来ない「ネタ」の範囲であります。不気味。

「ねむりねずみ」

「凍える島」のあとにつづく第二作目が歌舞伎もの、というのもこれどういう人なのだろう。で今は時代劇に自転車ものですから。

最後の詰めが少々甘いようなのは気のせいにしてもキャラクターの魅力的なこと。いいですねえ。門外漢にも理解出来るところが嬉しい。ちょっと北村薫テイストの交じった感じの雰囲気でした。

ちなみに、いちおう「解説」横に注意書きは書いてありますが「常識破りのネタバレ梗概」がそのまま書かれていますので注意って、編集者のひとこんなの許してどうするのよ。何考えてるのでしょう、完全に「犯罪」です。

「ふらんす物語」

永井荷風じゃあるまいし、と思ったらどうもそれからこの企画展の名前がついたようです、島根県立美術館企画展。

藤田さんはいまいち感覚が、とおもって期待せずに行ったらこれが無茶苦茶良かった。眼福。

浅井忠、荻原守衛、ロダンの歩く人、荻須高徳、須田国太郎、モジリアーニその他もろもろ名画家ぞろりと揃って目玉が飛び出そうになりました。今回はロダンの歩く人と荻原守衛のトルソを360度ぐるぐると巡りながらもう接近戦。

す、すげえ!最近男性のふくらはぎ筋肉フェチになっておるのですがもう完璧な造形でした。彫刻だったら、こんな筋肉いつまでもみていられるんだと感動。荻原守衛の女体も凄い迫力なのだった。

できればもう数回眺めにゆきたし。

平成23年9月15日

「チェーン・ポイズン」 本多孝好 講談社 ISBN:978-4-06-215130-6 C0093

「砂漠の悪魔」 近藤史恵 講談社 ISBN:ISBN:978-4-06-216454-2 C0093

このあいだのストーリーセラーに入っていた作家さんのひとり。(だと思う)

題名がこんなだし、冒頭からちょっと怖そうとおもいつつ、さてそこからどのように話が進むかと興味津々。

こういう設定、作家さんの嗜好でどんどん展開が変わるよねえと思いながら読み進め「ほう、最後にそうきたか!」という感じで終わった。

ネタバレしてもなんだし。これもミステリーであるので。

もっと後味の悪いことになるのではと心配していたがそうでもなかったので安心した。伊坂幸太郎に有川浩の希望を振りかけ、って意味判らないがなかなか面白かったのだった。

近藤史恵は「この本地震の前には執筆完了していたよね」と確認してみたくなるような時宜にあまりにかないすぎたような主題だった。ウイグル民族迫害のノンフィクション読んで、今まで原爆関係の本読んできた自分なので到底「エンターテイメント」という領域でこんな設定の本読もうとすると拒否反応が出る。

今回拒絶反応が出て途中すっぽかし。結末はまた後味よろしくないで終わる。(この設定で希望に満ちた結末なんて要望する方が不可能だが)

こわいです、近藤サン。次回からは内容確認してから読ませていただきます。

「エデン」どこかになかったかしらん。ストーリーセラーに短編が載っていたのでこのシリーズの本もそのうちまとめてでるのだろうなあと期待しています。

平成23年9月2日

「先生、キジがヤギに縄張り宣言しています!」鳥取環境大学の森の人間動物行動学 小林朋道 築地書館 ISBN:978-4-8067-1419-4 C0040

「バイバイ、ブラックバード」 伊坂幸太郎 双葉社 ISBN:978-4-575-23695-8 C0093

「図説 ウイリアム・モリス」ヴィクトリア朝を越えた巨人 ダーリング・ブルース 常田益代 ISBN:978-4-309-76113-8 C0371

「Story Seller 2」面白いお話再び売ります 新潮社ストーリーセラー編集部編 ISBN:978-4-10-136672-2 C0193

「Story Seller 3」面白いお話またまた売ります 新潮社ストーリーセラー編集部編 ISBN:978-4-10-136673-9 C0193

週末おでかけするので本が進まないだろうからと借りる予定はなかったのに、面白い大学教授シリーズの新刊をみつけてしまったためにしっかり借りる羽目になる。なんと今回はとうとう海水に棲む生物水槽まで研究室に導入される。

亀に「うどん」とか「そーめん」とか名付ける感覚も凄いかも。まさに行き当たりばったりという感じがしなくもないが、まあ生物学とはそう言うものなのかもしれない。

相変わらずマイペースのこの教授、とても楽しいので(生徒さんはどうか知らぬが)どうぞずっとこのシリーズ続きますように。

伊坂幸太郎ってどうやってこんなキャラの発想ができるのか不思議。大当たりはしないと思うが、この主人公を堺雅人に演じさせたらまさにはまり役なんじゃないかと思う。ゴールデンスランバーといい、この作家のキャラにはまりますね堺雅人。

初の「ユウビン小説」なのだそうですが、これなら最後に一冊の本になったのを読みたい。

「ウイリアム・モリス」のエネルギーには驚愕。しかしどうやって絵柄の版下をつくったのかその技術というか仕組みをみてみたい。またどこかで画集を探して眺めるも良し。

ストーリーセラー、おいそこまでやっていいのか、ある意味「犯罪」だろうと思うくらいに当代売れっ子の作家集めて書かせた中編小説集。おのおの作家一人で十分売れるのに、言ってみれば高級菓子の詰め合わせで読むも勿体ないくらい。

読み散らかしていると罪悪感さえ感じる。

おかげで今まで未読だった作家の数人読めたわけで、ある意味これは出版社の計略やもしれぬ。それにしても贅沢。

「まっさん」などは、わざと今まで読まなかったのだが(余りに上手すぎるのが判っているので、はめられるといまいましい)やっぱりこの人、玄人はだしとはこのことである。歌が唄えて、話も面白くて、物語も書けて、こりゃなんだ。

沢木耕太郎を読み飛ばしてしまうという、罪悪感。もっとしっとりした環境で読まないと勿体ないと思いつつ。 やれやれ、罪な本なのであった。