ほんの累積 平成24年2月−3月

平成24年3月22日

「わたしには家がない」ハーバード大学に行ったホームレス少女 ローラリー・サマー 竹書房 ISBN:4-8124-1784-8 C0097

「よろずのことに気をつけよ」 河瀬七緒 講談社 ISBN:978-4-06-217143-4 C0093

「いねむり先生」 伊集院静 集英社 ISBN:978-4-08-771401-2 C0093

「十字軍物語3」 塩野七生 新潮社 ISBN:978-4-10-309635-1 C0322

「百」 色川武大(いろかわ ぶだい) 新潮社

「宿六・色川武大」 色川孝子 文芸春秋 ISBN:4-16-344200-6 C0095

「スパイス、爆薬、医薬品」世界史を変えた17の化学物質 P・ルクーター J・バーレサン 中央公論新社 ISBN:978-4-12-004307-9

「水時計」 ジム・ケリー 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-27805-2 C0197

「火焔の鎖」 ジム・ケリー 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-27806-9 C0197

「RDG 5 レッドデータガール」学園の一番長い日 荻原規子 角川書店 ISBN:978-4-04-110039-4 C0093

「夢違」(ゆめちがい) 恩田陸 角川書店 ISBN:978-4-04-110060-8 C0093

怠けているうちに1ヶ月経過。

ほとんど活字を食っていないけどここまで溜まってしまったのは単に先月分があるため。さてさて中身を覚えているだろうかと挑戦。

「わたしには家がない」

米国のシングルマザーの子がホームレス収容施設を親子で転々としつつ、なんと裕福な子女子息の通う名門ハーバード大学に通い卒業という標題とおりのノンフィクション。

米国全土にこういう施設がかなりあるらしくというのも興味深い事情に加え、やはりホームレスの子女がここまでの名門に入学するというのはアメリカンドリーム、すなわち珍しいからテレビに出されたりインタビューされたりしていたらしい。

ただ卒業した時点が当然ながら本人にとっての「終点」ではない。

これからどうやって研究したり生活してゆくか、というのが本分なわけで。珍しいパンダ扱いで読むよりも、このあと彼女がどういう風に生きてゆくのかということの方が大切。

「よろづのことに気をつけよ」

江戸川乱歩賞受賞作。受賞作より受賞後の方を読むことが多いのだけれど今回は趣向をかえてみた。

えらくスピーデイーな展開でやたらと調子良い。が、次作は何か書いているのだろうか。突然小説を書き出した第一作がこれらしい。すんません、感想がどっかに消え失せた。あ、そうだ「京極夏彦から蘊蓄を取ったらこんな感じ」かしらんと。すなわち、あっけない。

「いねむり先生」

絶賛されている本ということで。「古本屋の女房」の作者を伊集院と勘違いしており、これは映画の夏目雅子つながり勘違い。

ということは別にして、ある意味とても怖い人たちの話であった。

幻覚を日常的に見て暮らさねばならないというのは想像を絶するものがある。ということでわが本の遍歴は「いねむり先生」である色川武大の本へとつづくのだ。

「十字軍物語3」

まだまだつづくのではとおもっていたこのシリーズ、この巻で終了とはなんともさびしい。

その寂しさにまさる十字軍とサラセンの暴虐きまわりない闘いと血腥さ。あっけにとられる。塩野七生の真骨頂というか、小気味の良い語りにうっとり、していていいのかどうかよくわからんが。

「百」「宿六・色川武大」

「百」は著者色川武大、「宿六」は、その妻孝子が著者。怖いっす。淡々と語っているのがよほど怖い。

「スパイス・爆薬・医薬品」

時間切れで中途で終わったが、理系好きな高校生に断然おすすめの、そして科学史好きの大人には世界観が一気に広がる目からウロコ本。

これに「銃・鉄・病原菌」を揃えたらミクロからマクロまで俯瞰する世界史が眼前に出現する。

久々に良い本に出会ったという感じ。(といいつつ読み終えられなかったけど)

「水時計」「火焔の鎖」

ジム・ケリー2連作。ミステリーでありノアールであり、というタイプの話。

活字食欲減退時にはいまいちの味だったが出来は悪くない。なにしろ面白い主人公の環境設定。ちょっと動機にあまり切羽詰まった感じが無いのが玉にきずか。

「RDB5 レッドデータガール」

そろそろこの物語も最終章に入って来た。あと一冊というとこだろうか。謎の全貌がそろそろ見えて来始めている。 どう納まるのだろうかと楽しみなところ。

「夢違」

恩田陸さん賞をまたとれなかったけど、いいんです。ファンとしてはどちらにせよ読むんですから。

ジャック・フィニイか内田善美かという世界が広がるが、やはり恩田陸である。

最後の場面何故か山本周五郎の「樅の木は残った」の最後の一行を思い出し、鳥肌が立つおもい。

平成24年2月29日

「ねじまき少女」 バオロ・バチガルピ 上 早川文庫SF1809 ISBN:978-4-15-011809-9 C0197

「ねじまき少女」 バオロ・バチガルピ 下 早川文庫SF1810 ISBN:978-4-15-011810-5 C0197

「いとま申して」 北村薫 文芸春秋 ISBN:978-4-16-329920-4 C0093

「遊びをせんとや生まれけむ」 久世光彦 文芸春秋 ISBN:978-4-16-371840-8 C0095

今回はいずれも、最後まで読み終えられなかった本のラインナップになってしまった。

ねじまき少女。たとへば。「村の入り口に<門>のつもりなのか鳥居が立っていた」(ラストサムライ)とか、「大本営に赤い鳥居が。そして作戦検討用テーブルの天板は<竹の簀の子>だった」(パール・ハーバー?)とか、「一般の日本家屋にありえない宝塚舞台並みの大階段」(キル・ビルだから仕方ない)とかはなんとか引き攣った笑いで飲み込んで誤摩化して来たのだけれど。

どうもこの本どこか自分の「鬼門」に触れたらしい。てなわけで、口からボロクソな突っ込みが出たがって困ってしまう。

多分「タイ」とか「中国」とか「日本」とか具体的なイメージの名前をつかってしまっているせいで余計に気に障るのだと思う。

「タイ」に設定しなければよかったのにね、どうしてもそうしないといけなかったのだろうか?

まあ、ノーベル文学賞受賞の?「ソーネチカ」読んで吐き気を催してしまった人間のいうことなのでそういうものかとお思いください。米国の有名な賞を三つも獲ってしまったという一般には絶賛の作品であります。

「いとま申して」

北村薫氏の曾祖父から父親へといたる人生を時代の流れとともに語りつつという本。なんと江戸時代からの話で、曾祖父は医者、父親は旧制中学校時代から同人誌を発刊するという文学少年。雑誌「童話」で投稿を競ったのは淀川長治とか、出て来る人物錚々たる方ばかり。

図らずも「パンとペン」に連なるような時代に沿った本の選択となりました。まだまだこれから話は続きそうなのですが、ひょっとして金子みすゞが先には出てくるのでは、なんて言う気がします。

読みながら、こんな豊かな親子関係のなかで北村氏は育ったからこんな暖かい文章を書けるのかもしれぬと感じました。

「遊びをせむとやうまれけん」

こちらは威勢のいい、というより殺伐とした旧制高校時代をすごした久世氏の若き日の思い出。テレビ創成期の勢い奇談珍談が。

もちろん名作となった向田邦子とタッグを組んだ番組の裏話も。人前とか食事しながら読んだら酷い目にあうこと間違いなし。ご飯が吹き出ます。

それでもしんみりしするのは、ここに出て来る人々のほとんどが(そして著者も)鬼籍に入ってしまっていることを考えてしまうから。内田裕也って怖いかも…

平成24年2月18日

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」 ジョナサン・サフラン・フォア NHK出版 ISBN:978-4-14-005603-5 C0097

「ねじれた文字、ねじれた路」 トム・フランクリン 早川書房 ポケミス1851 ISBN:978-4-15-001851-1 C0297

「変死体」上 パトリシア・コーンウェル 講談社 ISBN:978-4-06-277141-2 C0197

「変死体」下 パトリシア・コーンウェル 講談社 ISBN:978-4-06-277142-9 C0197

最近頭の回路が老化したせいであまり前衛的なものとか、新しい表現法みたいな物語は避けている。それでも時折評判になっているらしい本を覗いてみたりするという、今回はその手の本。

映画化されてるということが主な動機なのだが、少々手こずった。サリンジャーを思わせる饒舌体に惑わされ、複数の物語が交錯しながらすすんでゆくというので迷子になり。結果悪い話ではなかったけれど、どういう風に映画化したんだろうかこれまた想像するに余りある。

ギュンター・グラスのブリキの太鼓張りのイメージの海は苦手なのだが、その混乱が少年の感情の奔流を現していて効果的ではある。まいったな。

「ねじれた文字」は邦題としてはいかがなものかと言う気がしなくもないが、中身は「ミステイック・リバー」的なイメージのなかなか趣のある物語だった。

ちょっとご都合主義?という感じの作りかとは思ったが、最後に少し救いはあるし暗くならずにすんだ。佳作。

ルヘインの作を読んでいなかったらもっと評価は高かったろうけど、なにしろあっちは圧倒的だから仕方ない。ミステリーというよりはノアール的な傾向にある。

スカーペッタの「黒蠅」がなにか問題があったかしら、なんだかTwitterで出ているけど。年齢の話でしょうか?

主人公を突然若返らせるなんていう技は普通出来ないんだろうけど、あえてやっちゃったコーンウェルの開き直りはそれでいいんじゃないかと思う。クリステイだってポワロとかマープルの年で相当苦労していらっしゃった話があったような。作者本人が著作権持ってるんだしどう料理しようと自由かも。60才が20才になったらホラーになっちゃうけどね。

てなはなしはさておいて「黒蠅」は話についてゆけなくて結局読み終えられなかったんだっけ。読み終えられないのに何故読むのとひとり突っ込みながら今回も手にとり、今回は読めました。

理由は…わかりません。こっちの脳みその回路が故障していなかっただけかもしれない。最近スカーペッタの愚痴を延々と聞いているのが面倒なんですよね。で、今回もスタッフがひとり死亡する。たしか以前も…

大丈夫かスカーペッタ!ミステリー的には可もなし不可もなし。マリーノにも少し優しくしてやれよ、とつぶやくのであった。

平成24年2月11日

「やなりいなり」 畠中恵 新潮社 ISBN:978-4-10-450714-6 C0093

「私たちは進化できるのか」凶暴な遺伝子を超えて 長沼毅 廣済堂出版 新書017 ISBN:978-4-331-51579-2 C0295

「心理学的にありえない」上 アダム・ファウラー 文芸春秋 ISBN:978-4-16-380860-4 C0097

「心理学的にありえない」下 アダム・ファウラー 文芸春秋 ISBN:978-4-16-380870-3 C0097

そろそろ残り少なくなってきた若旦那シリーズ。今回はお料理のレシピ付き。小豆粥なんて作ったことは無いけれども美味しそう。

その昔お稲荷さんは作ったこともあるけど、見事にのり巻き寿司は失敗。干瓢がうまく煮れなかったのよね。以来試したことは無い。

たまには生菓子などお上品に買ってみようかしらとも思うのだが、銘菓店の並びをみましたら一つ三百円くらいいたしまして、さすがお茶で有名な城下町ならではのお値段。といってもスイーツだったら安い方かな。

「私たちは進化できるのか」

自分の小さかった頃は確かに「氷河期」に向かっているといわれていたのに、いつのまにか「地球温暖化」だと騒がれている。なにがなんだかとお考えの方はどうぞこの本を選び下さいませ。

そうですねえ。海面上昇が温暖化を原因としないのならばその危機感はどうだという話ではある。もともと地球全体の気候は押しとどめるすべも無く変化しているという本も読んだことはあるし、今更無駄だといえなくもなし。

久々に太陽の黒点による地球への影響の話の記述もあり、そういえば最近その話も聞かないなあと思い出す。

こういう「学術的研究」にも流行というやつがあるのかも。長沼氏の話、大分グローバルになりつつある。

「インデイー・ジョーンズ」にくわえて「寺田寅彦」という名も冠して欲してみては、とこれは冗談だがこういう學者さんは貴重だと思う。

「心理学的にありえない」

上下巻同じ装幀のせいかとりちがえ。もともと乗っかった途端に新幹線並みで突っ走るタイプの物語のせいか、上巻半分で一時停止再開したらば手に取ったのが下巻だったのを気がつかず。

そういうもんだかと筋のとんだところで当分読み続け、ん?登場人物が突然死んでいる、出会ってもいなかった二人が共闘して闘っている?のに気付く。

いまさら上巻には戻れない状態まですすんでしまったので最後まで読んでしまった。もったいない。

通して読むのは又の機会に。スランかファイアースターターか地球幼年期の終わりかというはなし。おみごとな筋運び。

平成24年2月3日

「期待を超えた人生」 全盲の科学者が綴る教育・就職・家庭生活 ローレンス・スキャッデン 慶応義塾大学出版会 ISDN:978-4-7664-1873-6 C0036

「死体が語る歴史」古病理学が明かす世界 フィリップ・シャルリエ 河出書房新社 ISBN:978-4-309-22491-6 C0022

「コンタクト・ゾーン」 篠田節子 毎日新聞社 ISBN:4-620-10669-0 C0093

「天地明察」 冲方丁(うぶかたとう) 角川書店 ISBN:978-4-04-874013-5 C0093

「期待を超えた人生」

以前盲目で博物學者という人の話を読んだことがあるが、今回はもっと高齢で公の機関でも活躍した人の自伝。

米国の障がい者教育に関しての公共機関の役職についている。以前も思ったのだが、こういう障害者に対する教育が米国でしっかり普及しているらしいところに感心する。といいつつ、日本へのこういう分野について知っていないからそう思えるのかもしれないが。

「死体が語る歴史」

研究書というにはくだけていて、且つ断片的。延々と読んでいるとグロい描写に少々気分が悪くなるけれども、面白い。

火葬に慣れた?身にあっては、ここまで「生前と同じく見えるように」を目指す遺体保存処理の数々は、エジプトのミイラ作りに負けず劣らず複雑怪奇なり。しまいには遺体の全体、部分を「コレクション」して喜んでいる「高貴な人々」などの悪趣味さなんかもすごい。

「顔を保存する」ために頭蓋骨の前面を削ぎ顔の皮を剥がしたり、一体何を目指しているんだかと言う気がしなくもなし。

ちなみにこの本当の主旨は、それら遺体の科学的分析によって当時の人々の生活が判る、という話なのである。

当然ながら「保存状態がよい」ものでないと分析も難しいので、かように「大切に保存された」ものでないと残っていないということで、「処理」を語る過程があるわけで。

ジャンヌ・ダルクの火刑の詳細やら、その「遺骨」の真否鑑定やら、氷河のなかから現れた名高い「エッツイ」、王の愛人の死亡原因などいろいろあるのですが。グロいのがお好きでない方にはあまりお勧め出来ない科学の本。(寄生虫もです)

「コンタクト・ゾーン」

たまの篠田節子。またまた一気に読んでしまった。南方インドネシア系のリゾートで潤う国での政治争乱。

一癖ある女性三人がそっちの方が人が閑散としていいわとなめてかかってこの争乱から逃遅れ、船での逃避行がはじまる。流れ着いたのは…?

地元住民に匿われるが政府軍、ゲリラ、新政府正規軍が入れ替わり立ち代わり現れる。突如派閥分裂をおこし互いに殺し合うこれらの武装部隊相手にあの手この手で折衝生き残りを図る住民たちの中で明日をも知れぬ暮らしの3人。

さて、彼女等は無事に日本へ帰れるのか、という話なのだが。

すごいです。いろいろと考えさせられます。難民とはどういうものか、とか。

「天地明察」

冲方丁初見参。うまい。でもって、面白い。さすが受賞作。ほかに言うことなし、か。まず読め。