ほんの累積 平成24年6月

平成24年6月24日

「ロスト・シテイZ」探検史上、最大の謎を追え デイヴィッド・グラン ISBN:978-4-14-081425-3 C0098

「転迷 隠蔽捜査4」 今野敏 新潮社 ISBN:978-4-10-300255-0 C0093

「廃院のミカエル」 篠田節子 集英社 ISBN:978-4-08-771378-7 C0093

「身体のいいなり」 内澤旬子 朝日新聞出版 ISBN:978-4-02-250819-5 C0095

「全国一周岬巡り」 樋口実 文芸社 ISBN:4-286-01234-4 C0026

「蚊トンボ白鬚(しらひげ)の冒険」 藤原伊織 講談社 ISBN:4-06-211198-5 C0093

全然探検向きでないインドア派の記者がたまたまアマゾン密林のなかに消えた英国人冒険家にはまってしまって、という話ですが

別に冒険ジャンル好きでなくとも読んでみる価値がある。というのは、大英帝国時代どうして多数の「冒険家」が発生したかという

時代の要請としての歴史的背景が丁寧に描かれているある意味珍しい本ゆえに。

個人の人生を描くおまけにという以上に詳しいので、自称冒険家たちが多数「養成」されどういう考えで彼等が世界中の「未開な地」に

散らばって行ったかという事情が非常に興味深くよめるのです。おすすめ。

しかし「英国紳士という種族」が発生するには、こういうことに便利だったからという考え方もできてちょっと目からウロコ。

いやなに歴史的にはちょっと前の時代なのです。なにしろ第一次大戦に主人公の冒険家は参戦している。年代的にはアガサ・クリステイより 少し年上というところでしょうから。

「転迷」

隠蔽捜査シリーズも4冊目になりましたが、このシリーズやっぱり面白いです。まだまだかいてもらえるかなあ。楽しみ。

「廃院のミカエル」

今回はイタリアが舞台。篠田節子上手いなあ。全然外国を描いても違和感が無いところなど。しかもじわじわと恐怖感が

湧いて来るホラーだし。病み付きになっています。リアルとホラーの混ざり具合が絶妙でありまして、完成度高い。

すぐに読み尽くすには勿体なすぎるので、続けては読みませんが結構多作でもいらっしゃるので嬉しい。

「身体のいいなり」

先日の「飼い喰い」の著者が書いた身体の本。ものごごろついた頃からすでにずっと具合のいい時が無かったという著者が、

乳がんを見つけて両方切除、手術後の手当であれこれやるうちに何故か以前よりまともな感覚の身体になった、といういきさつを書いています。

というか、結局これはそれまで身体の訴えを完全無視して意思で押さえ込んでいたゆえに反乱が起きたのだというような考えに至り。

で、いまはとりあえず「身体のいいなり」で生活している、ということなのですが。

どんだけそれまで身体に酷い事をしていたのか、とそっちのことが知りたくなってしまった。

酷い話なのですけれど、もう語り口が面白く(ゴメンナサイ)。内容的には飼い喰いのために豚さんを飼っていた時期にあたります。

「全国一周岬めぐり」

鉄ちゃんでもない、とくに歴史に興味があるわけでもない70をすぎた爺さんが思い立って日本全国岬を基本電車とバスで歩いたという本。

この年代のひとが一番日本でいい目の人生過ごしているのではないかと、読みながらちょっと思う。

といっても、昭和10年生まれで電電公社定年まで勤めていい役職まで出世して天下りして あとは悠々自適ゴルフ三昧というひとがそうそう居るわけではないでしょうが。

本人の経歴がなぜ関係ある、と言われるかもしれないけれども微妙に関係しているので。

というのは、全国有名どころの観光地スルーしてマイナーなところばかり目指しておられるのですがその理由悉く「あそこはもう会社の関係で行った」 「団体旅行で行った」云々

いやどれだけこの人会社関係で観光旅行してるのよ、ということで。

うちのご近所もしっかり今回ルートに入っておりますけれども、ということは相当マイナーな観光地というお墨付きを頂いたようなもので複雑なものが。

なれば電車とバスでの観光案内になるのではないか、という指摘もありそうですが。

ものすごい強行軍で移動しておられるので、末端は結構な頻度でタクシーつかっている。ゆえにそっちもあまり参考にならないかも。

結局運賃宿泊ほかで100万円くらい使ったというご報告でしたが、何の為にまわったのだか肝心のところなにをしたかったのかと。

で、思ったんだがやはりこれ「青春18切符」をお使いで?

「蚊トンボ白鬚の冒険」

ある意味「テロリストのパラソル」から逃れられないという団塊世代の作家さん。それはそれで特化しているともいえるけど、

20才の男の子がハードボイルド系の性格というのは自然とは言えませんが、驚天動地の設定でなんとかかんとかこなしている。

おたがいツッコミあってる主人公ふたり?の喋りが面白い。脇役も面白いしそれはそれで楽しく読めました。

とはいえあまり後味のよろしくない幕切れ。エンターテイメントなのだから考慮して欲しかった。

故人となった現代作家はあまいり読まない傾向にあり。面白かったら面白かったでこれから新作もう読めないのかと悲しくなるので。

でもシリウスの道?は目黒考二推奨だけあって面白かったよなあ。(といいつつ中身忘れている)

蚊トンボ設定は、多分20才の男の子のしゃべりを到底書けない作家さんの苦肉の策なんだろうなあ、と。

そんなのがバンバン書ける器用な作家さんはもっと売れてるかも(失礼)

と、自分に出来ない事を要求する自分勝手な読者の自分。

平成24年6月9日

「飼い喰い」三匹の豚とわたし 内澤旬子 岩波書店 ISBN:978-4-00-025836-4 C0036

「相性」 三浦友和 小学館 ISBN:978-4-09-388212-5 C0095

「密売人」 佐々木譲 角川春樹事務所 ISBN:978-4-7584-11769 C0093

「犬として育てられた少年」 ブルース・D・ペリー マイア・サラヴィッツ 紀伊国屋書店 ISBN:978-4-314-01061-0 C0011

「ジェノサイド」 高野和明 角川書店 ISBN:978-4-04-8741835 C0093

「飼い喰い」

体を張った実験的ルポルタージュ。以前読んだ「世界屠畜紀行」の著者が、今度は三頭の豚を飼って育て上げ屠畜して実際に喰らうという趣向。

そもそも飼うための家と豚舎を創る所から始まるというのが第一歩。まさか都会では飼えないから田舎に場所を探すのだが、なんと彼女はペーパードライバー。必須であるクルマの運転からして絶望的なお手並み。

それでもなんとも貫徹してしまう所のエネルギーたるやこれは或る意味超人なのではないか。とさえ思える。体力のない虚弱体質が100キロ近くまでになる豚を三頭も扱わないといけないわけで。

なんだかだとやりながらも、三頭の豚に対する「愛情」がひしひしと伝わって来る。読みながらインガルスの「大草原の小さな家」を思い出していた。

そういえば先日読んだキングの1922だったか、あれもアメリカの乳牛を飼う農場の話だったのだった。

下手な小説より数段面白くもあるし、一度読んでおいて絶対損はない。「雑食動物のジレンマ」読んで恐ろしい思いをした後なら尚更。

「相性」

山口百恵とは多分同級生の年代の自分。特にファンだったわけでもないのでその恋人とかいう三浦友和という人物にも当時興味があったわけでもなし。

えらく清潔感あふれる正統派いい子みたいな外見であると思っていたけれど、このインタビュー読んだらそうでもないらしい事を初めて知る。

そうだったんですか。でもやはり「まっとうな感覚の人」であることはよくわかった。

「密売人」

「うたう警官」シリーズのメンバー。なにゆえ「密売人」なんていう題名にしたのかちょっと自分には不明。佐々木譲はこういう複数の登場人物による連携の話運びが上手いのがよくわかる。場面の展開はスムーズだし視点が替わっても違和感なく、話がぶれないので安心して読める。

てなわけで、このシリーズの好きな人には楽しめる一冊。この分ならばまだまだ続きそうである。

「犬として育てられた少年」

精神医のカウンセラー的視点から書かれた実録ものは結構あるのですが、これは「幼児期に与えられた虐待によるトラウマ」によって起きる「脳の機能障害」甚だしくは「萎縮」を解説した本です。

幼児期の環境のためにどんどん「脳の発達障害」が起こり、それが「精神障害」の域となって現れて来るという話。そこからカウンセリングしてなんとか正常の域に暮らせるようになった患者、十代半ばで凶悪犯罪を犯し死刑囚となった少年などさまざまな人を語っている。

なんというか、親になる前にいちど読んでおいた方がいいんじゃないか。この患者達の親の半分には悪意はなく、単なる「無知」によって子供にトラウマあたえてしまっていたと書いてある。

ベビーシッターの選定の誤りというのは別として、標題になった「犬として育てられた少年」なんかは、親も祖母も亡くなりドッグブリーダーだった祖父が子供の育て方が判らないので、「犬と一緒に檻のなかで育てた」などという話もあり。

「乳児期に養育者との身体的接触を断った状態で育てられると、脳の機能が正常に発育せず萎縮する」というのは、CT、MRIスキャンの時代でないと発見出来ないですね。

「ジェノサイド」

前に読んだ幽霊人命救助隊は完璧に忘却の彼方。ただ、脚本家が書くとなんだか軽い読み物になるのか知らんという印象だったのは覚えている。

が、今回は忘れられませんね。化けました。自分の好みかどうかは別として、ほとんど完璧なSF(なのかな?)

あちこち絶賛の声を聞いたのはなるほど当然でありました。物語に違和感なし、破綻なし、結末の着地も美事に決まりました。

滅多に出会えない傑作の一冊。エンターテイメントであります。唯一堪えられないのは少年兵士の件ですが、これは現実に起こっている事ですので自分が文句をつける筋合いではありません。

やれやれ梅雨いりとは。雨か?