ほんの累積 平成24年1月

平成24年2月3日

「期待を超えた人生」 全盲の科学者が綴る教育・就職・家庭生活 ローレンス・スキャッデン 慶応義塾大学出版会 ISDN:978-4-7664-1873-6 C0036

「死体が語る歴史」古病理学が明かす世界 フィリップ・シャルリエ 河出書房新社 ISBN:978-4-309-22491-6 C0022

「コンタクト・ゾーン」 篠田節子 毎日新聞社 ISBN:4-620-10669-0 C0093

「天地明察」 冲方丁(うぶかたとう) 角川書店 ISBN:978-4-04-874013-5 C0093

「期待を超えた人生」

以前盲目で博物學者という人の話を読んだことがあるが、今回はもっと高齢で公の機関でも活躍した人の自伝。

米国の障がい者教育に関しての公共機関の役職についている。以前も思ったのだが、こういう障害者に対する教育が米国でしっかり普及しているらしいところに感心する。といいつつ、日本へのこういう分野について知っていないからそう思えるのかもしれないが。

「死体が語る歴史」

研究書というにはくだけていて、且つ断片的。延々と読んでいるとグロい描写に少々気分が悪くなるけれども、面白い。

火葬に慣れた?身にあっては、ここまで「生前と同じく見えるように」を目指す遺体保存処理の数々は、エジプトのミイラ作りに負けず劣らず複雑怪奇なり。しまいには遺体の全体、部分を「コレクション」して喜んでいる「高貴な人々」などの悪趣味さなんかもすごい。

「顔を保存する」ために頭蓋骨の前面を削ぎ顔の皮を剥がしたり、一体何を目指しているんだかと言う気がしなくもなし。

ちなみにこの本当の主旨は、それら遺体の科学的分析によって当時の人々の生活が判る、という話なのである。

当然ながら「保存状態がよい」ものでないと分析も難しいので、かように「大切に保存された」ものでないと残っていないということで、「処理」を語る過程があるわけで。

ジャンヌ・ダルクの火刑の詳細やら、その「遺骨」の真否鑑定やら、氷河のなかから現れた名高い「エッツイ」、王の愛人の死亡原因などいろいろあるのですが。グロいのがお好きでない方にはあまりお勧め出来ない科学の本。(寄生虫もです)

「コンタクト・ゾーン」

たまの篠田節子。またまた一気に読んでしまった。南方インドネシア系のリゾートで潤う国での政治争乱。

一癖ある女性三人がそっちの方が人が閑散としていいわとなめてかかってこの争乱から逃遅れ、船での逃避行がはじまる。流れ着いたのは…?

地元住民に匿われるが政府軍、ゲリラ、新政府正規軍が入れ替わり立ち代わり現れる。突如派閥分裂をおこし互いに殺し合うこれらの武装部隊相手にあの手この手で折衝生き残りを図る住民たちの中で明日をも知れぬ暮らしの3人。

さて、彼女等は無事に日本へ帰れるのか、という話なのだが。

すごいです。いろいろと考えさせられます。難民とはどういうものか、とか。

「天地明察」

冲方丁初見参。うまい。でもって、面白い。さすが受賞作。ほかに言うことなし、か。まず読め。

平成24年1月23日

「割れたひづめ」 ヘレン・マクロイ 国書刊行会

「暗い鏡の中に」 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫

「ひとりで歩く女」 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫 ISBN:4-488-16803-5 C0197

「美しき姫君 発見されたダ・ヴィンチの真作」 草思社 ISBN:4794217676

ヘレン・マクロイ4連発。几帳面に探している、と言いたいところだが実情は違う。図書館に着いた途端頭の中は更になり、次に何を読もうと思っていても思い出せないので行き当たりばったり。

ほんのたまに作家の名前を覚えてるとなんとか探し出せるので、印象深い名前とか、いきつけの本棚の場所にあると集中して読んでいるように見えるだけ。

とまあいっても、当然ながら好みでない作家にはなかなか手は伸ばさず。その点ヘレン・マクロイは申し分の無い出来の作家なり。 面白い!のひとことに尽きる。意匠よし、性格描写よし、展開となってはどう転がるのか先が読めず。

秋の夜長に布団に潜り込んで数冊持ち込めば、至福の刻を過ごせます。

「美しき姫君」

真作だろうが無かろうが、他国の庶民にとってはどうでもいいことになるのだけれど、この「鑑定調査」の詳細がとてつもなく興味深い。でもって、ダ・ビンチであろうがなんだろうがここまでの作品を顕微鏡的画面で見れるという楽しさは一級品。

でも、ダ・ビンチでなくて他の誰がこんな作品描けるのよ、といいたくもなるくらいに良い絵だわ。これが油絵でなく「なめし革」の上に色チョークとインクと多少の顔彩で描かれているというのが又信じ難い。

黄色の地に黒のチョークを載せると「緑色」になる、なんてパステルに慣れた人ならしっているのだろうけれど、これも驚き。 良い絵を見たわとしみじみ思える本でした。

平成24年1月12日

「幽霊の2/3」 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-16805-6 C0197

「殺す者と殺される者」 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-16806-3 C0197

玄人向けのミステリー、というか多分ミステリー読み初心者よりも相当読み込んだ読者層の方がより楽しめる逸品の二冊。

初心者のみなさん、これを読んで世のミステリーのレベルをこの作品と思い込むと酷いことになるよ、と警告したくなる。

謎解き、キャラクターに物語の運び方いずれをとってもこんなにさりげなく上手く書かれている作品はほとんどない。

変に梗概を検索して読んだら、謎解きの楽しみが薄れますのでここんとこは白紙状態でぜひ手に取っていただくことをお勧めする。

味は保証出来ます。こういう本に出会って読み進めている時間こそ「至福の刻」といえよう。

平成24年1月10日

「ピスタチオ」 梨木香歩 筑摩書房 ISBN:978-4-480-80428-0 C0093

「破壊者」 ミネット・ウオルターズ 創元推理文庫

「チューブな形而上学」 アメリー・ノートン 作品社 ISBN:978-4-86182-337-4 C0097

「言壷」(ことつぼ) 神林長平 中央公論社 ISBN:4-12-002380-x C0093

「影なき紳士」 マーテイン・ブース 文芸春秋 ISBN:4-16-315720-4 C0097

「私の家では何も起こらない」 恩田陸 メデイアファクトリー ISBN:978-4-8401-3165-0 C0093

「愛しい骨」 キャロル・オコンネル 創元推理文庫 ISBN:978-4-488-19512-0 C0197

「わたしが明日殺されたら」 フォージア・クーフィ 徳間書店 ISBN:978-4-19-863180-2 C0036

物語が神話へと変容してゆく。そんな感じの梨木香歩の世界。どんどん変な世界に漂ってゆく感じである。

そのうち心地いいのか悪いのか判らなくなるのではないか、なんて考えてもいるのだけれども。雰囲気がやはり「グリーン・ノウ」の世界に似ているような気がする。あんなふうに神話になって行くのだろうか。

時折ヨムヨムに家守綺譚のつづきを書いていられるようである。早く一冊の本にまとまらないかしらと心待ちにしている。

「破壊者」

読んでしまって後ろにある解説でこの作家そんなに作品があるわけではないらしいことを知る。勿体なかった。

どうせならペーパーバック買ってゆっくり読むべきだったと少し後悔。つぎは読了済みの作品が邦訳されるのを待つしかなし。

それにしても不穏な作品である。ミネット・ウオルターズらしい重くて居心地の悪い作品、といいつつ相変わらず面白し。

「チューブな形而上学」

正月用に借りて来た一冊。が、正月は活字が進まない影響で半分のみ。えらく面白い語り。表紙の女の子の写眞はご本人?

本当に陶磁器で作ったフランス人形そっくり…生物とは信じられないくらいに。で、題名「チューブ」ではなくて「シュールな半生」とでも変えた方がいいんじゃないかというくらいに独創的。

新作出たら必ずベストセラーらしいですこの作家さん。眼から鼻にぬけるよな頭の冴えぐあい、とみた。

ゆっくり腰を落ち着けた時に読みたし。

「言壷」

賞をもらったとかいう作品。参りましたッ!といいつつ上記の事情で完読ならず。

否最後まで読まなくても確信出来ます。最高です。で、怖い。非常に怖い。

ブラッドベリの「華氏○○度」なみに怖い。でもSF読むからにはこんな世界をしらねば損というか、SF好きとは言わせない。

「影なき紳士」

どこが「影なき」じゃ、どっぷり漬かってお日様の当たるとこにでられないような英国紳士ではないか。

映画はかなりの翻案です。 ハリウッド映画なんだからそこは仕方ないとして。別作品として読むとよろしいかと。

さすが「英国」の「独白」記述、品があって久し振りに「チップス先生さようなら」の雰囲気を思い出す。

地味ですが良い作品だった。

「私の家では何も起こらない」

そう確言するこの家の持ち主である女流作家が一番怖いかも。恩田陸さん最近ホラー小説づいているのだろうか。

近作の「夢違」も怖そうだし。数多くのホラー小説を読み込んだ作家が書くとこんなにおそろしい短編集が出来上がる。

でも、なんだか行ってみたいようなそんな丘の家。やれこわ。

「愛しい骨」

とうとう邦訳を手に取ってしまいました。で、謎解きの一部間違えて読んでおりました。いいけどさ。

ネタバレになっちゃうのでうかつなことは言えませんが、たしかにいろいろな「愛情」がこの作品には詰まっているのですよね。

それは確か。余りに切なすぎる愛が、涙を誘う。

「わたしが明日殺されたら」

一転してノンフィクション。アフガニスタンで生まれ、多分女性としては初めて議員になっている女性の半生。

女性の活躍を認めない団体、世論という逆風に真っ向から闘いを挑んでいるため暗殺される可能性がある。

いつ殺されるか判らないから二人の娘のために残す手紙の形式で本を書いている。

イスラム世界の女性たちがどのような暮らしをしているのか(していたのか)を知る為には非常に役に立つ。

たしかにこの人は「政治家」であるのだという感じがした。そう、政治家はこういうふうな思考論理をするのかと。

日本の政治家たちに読ませてやりたい、と思いますこの真摯さ。

何時命を取られるかもしれないという日常の中ではこんな風に、眼がまっすぐに前方を見ざるをえないのかもしれず。