ほんの累積 平成23年3月

平成23年3月31日

「夏への扉」 ロバート・A・ハインライン 早川書房 ISBN:978-4-15-209059-1 C0097

「怪奇小説傑作集3」 H・P・ラグラフト他 創元推理文庫 ISBN:4-488-50108-7 C0197

「辺境生物探訪記」生命の本質を求めて 長沼毅 藤崎慎吾 光文社新書472 ISBN:978-4-334-03575-4 C0245

「ハートシェイプト・ボックス」 ジョー・ヒル 小学館文庫 ISBN:978-4-09-408130-5 C0197

新訳というのに特にこだわりはなく、久しぶりに読んでみるかというノリ。古びませんね名作は。

ハインラインとかシルヴァヴァーグとか、さかんに翻訳されていた時代がちょうど20代半ばでしたので

ハインラインも数は読んでいる筈なのですが、ちょっと苦手な作家だったか。

セクシャル方面が結構ねちっこく書かれていたような気がして、そのあたりのせいで敬遠しはじめたのでした。

とはいえやはり大御所、作品の数といい内容といい見事な作家。

やはり猫好きにはたまらない「夏の扉」。久しぶりに楽しんだ。

「怪奇小説傑作集」

図書館にずらっと並んでおりまして、どれから読んでいいのか悩む。とりあえずラグラフト、ということで。

このクトォルー世界?の亜作品の方が自分的におなじみなので、思った程には不気味でなかった。

栗本薫だのキングだの、語りが驚異的にうまい作家が描くとそりゃあもう夜眠れなくなる。キングでいえば「霧」とか「ランゴリアーズ」とか。

映画化されて迫力ないとか文句言っているヒトもみかけますが、なれば原作お読みください。保証つき。

閑話休題。

その昔見栄だけで読んでみた「谷間の百合」とか「レ・ミゼラブル」(これは編集無しのもの)

とかの「ロマンス!」とか言う感じの叙情的な語りの作品があったりして楽しめました。ナントカ氏の娘とかいうの、良かったです。

「辺境生物探訪記」

もともと微生物関係は「微生物の狩人」知識で止まっている自分、落とすべき鱗などないのですがむちゃくちゃ「目からウロコ本」でした。

これは絶対科学好きの中高校生に読ませたい。まあ大人でもちょっと完全には理解出来ないとは思いますが。

先日ラジオで初めて「サカナ君」とかいうヒトのしゃべりを聞いたのですが、それと同じでこの長沼毅(ながぬま たけし)と言うヒトの話を聞いたらどうだったかな、とふと考えた。

「読んだ後に知った方がいい」タイプのひとというのもありますから。

地球生物の種が地球外からやって来たという説、なにを馬鹿なと思っておりましたが

なるほどこの本を読むとそれも有りかもと納得出来ます。

深海の世界から、太陽系、地下から、南極、北極、沙漠、ウラン鉱の生成とか、もう無茶苦茶話は広がります。

こんな研究やっているヒトがいるんだと思うと世の中楽しくなる。

ただ、相当の変人?機会があったら声を聞いてみよう。こわいものみたさ、で。

「ハートシェイプト・ボックス」

2010年映画化とか後書きにあるのですが、本当にされたのか?

期待に違わぬ良い作品だった。なにが良いって、主人公が「ロッカー」(倉庫じゃないよ)として生きているのね。

矢沢永吉みたいだあ。それとホラーをドッキングさせて、というところが面白い味になった。

人生はロックだぜ。一本筋の通った主人公に乾杯!

平成23年3月18日

「家蠅とカナリア」 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫 ISBN:4-488-16804-3 C0197

「伊藤計劃記録」 早川書房ISBN:978-4-15-209116-1 C0093

「ロードサイド・クロス」 ジェフリー・デイーヴァー 文芸春秋 ISBN:978-4-16-329720-0 C0097

古典の匂いのする現代推理小説。時代背景が第二次世界大戦後?なのに何故か近世みたいな気がして。

「この時代にそれはないだろう」と一瞬つっこみたくなるアイテムが出て来るのだが、

よく考えると劇場の電飾照明あって当然の時代背景なのだった。

どこかクリステイの若い頃、ポワロが活躍していた頃みたいな錯覚(?ポワロはベルギー難民なのだから合っている?)

それでいて古色蒼然としたトリックでもなし。不思議な感じのする、見事な作品。

面白い作家である。

「伊藤計劃」

前段の虐殺器官と一緒に借りてきたもの。確実に自分とは「世代」が違うのだということを認めざるをえず。

押尾守に心躍らせ、と言う時点で彼にとってこちらは前時代の人間であるということがあらわになる。

延々と殺戮ゲームのような描写がつづくのを読んでいると、シューテイングゲームに明け暮れる小学生が育ったら

こんな風な感覚になるのだろうか、とふと考えてしまう。(考え過ぎだろうけど)

「売れるゲーム」を追求して巷に溢れさせてしまう「大人の事情」とやらを考えれば、それが子供のせいではないにしろ。

僅か2年間だったという作家期間。病に斃れることがなければ、この作家の世界はどのように発展していったことだろうかと考えつつ、

やはり想像が及ばない。

こんな陰惨で救われない物語を読んでいる最中に、現実の惨禍の情報を知る。

「ぱっと剥ぎ取ってしまったあとの世界」

原民喜の表現が頭のなかをよぎる。(原民喜「夏の花」青空文庫所収)

さすがにこの惨禍を前にして伊藤計劃の世界に没入することは神経がもたないので、今回は断念。

こんな時にはジェットコースターに乗るのが一番と、めっけた「ロードサイド・クロス」に乗ってみる。

おおよそのところは読み取れているわねと自画自賛。この作家のお話は惨すぎず陰惨すぎず、しかも色事もあっさりしているので読んでいて安心出来る。

スカーペッタとちがってネットの世界の紹介の仕方がさりげなく判り易く効果的に書かれているのでストレスなく読める。

上手いなあと舌を巻く。リンカーン・ライムシリーズではFace Bookのこともとても判り易く説明していた。

下手なIT関係の入門書よりはるかに面白く役に立つ。(悪い意味でも、だが)

Burning Wireも面白いのだろうなあ、が、Under The Dome進んでいない。

キャロル・オコンネル新作出ていないかしら。かといって「愛しい骨」を読む気になれず。

デイーヴァーの邦訳に難は感じないのに、オコンネルの邦訳がどうしてもしっくりいかないのは何故だろう。

今狙っている本は宮部みゆきの「ばんば憑き」。「あんじゅう」は新聞連載時に読んでいた。このさいまとめて読むと改めて楽しいか。

平成23年3月10日

「烈日ー東京湾臨海署安積班」 今野敏 角川春樹事務所 ISBN:978-4-7584-1166-0 C0093

「虐殺器官」 伊藤計劃 早川書房 ISBN:978-4-15-208831-4 C0093

「スカーペッタ 核心」上 パトリシア・コーンウェル 講談社 ISBN:978-4-06-276837-5 C0197

「スカーペッタ 核心」下 パトリシア・コーンウェル 講談社 ISBN:978-4-06-276838-2 C0197

「シモネッタのドラゴン姥桜」 田丸公美子 ISBN:978-4-16-370950-5 C0095

読んでいると心和む安積班。今回水野刑事が加わりました。そほど。

「虐殺器官」

相当話題になっているらしき作品を読んでみる。目黒さんは絶賛だったか?あまりの早世が悔やまれる。

これがデビュー作なのだから超新星のような新人が現れたといっても過言ではなかったろう。

ちょっと気になったのは、この作品の示しているイメージを読者がどこまで捉えきれるかということ。

高校生あたりがイメージを正確に描き切るのは難しいかも。

ある程度の「教養」を蓄えた年代でないと「何いってるのだかわからん」状態になる虞れを感じた。

京極夏彦みたいに「蘊蓄を逆手に取って読者を煙に撒きついでに呪術をかける」という高度な技術もあるのだけれど。

基本的に面白ければ読者は勝手についてくるし自習もするけど、あんまり不案内なのも何だし。

たとえばどこから「ボルヘスの絵」という話が出てくるのか、と一瞬戸惑い。

(経歴を読んで納得。多摩美出身の美術畑なら当然「常識」の範囲内)

ある程度美術の知識がないとそこから某かのイメージを想起するのは無理なのではないか。

マイナーな画家とは言わないが、中高校生にそれを求めるのはあんまりなような(一般の大人でも?)。

そのような感じで「借りて来た言葉やイメージを持って来て埋める」部分を気にしつつ読んでいたが後半は気にならなくなった。

読者の「常識」と作家の「常識」がぶつかって折り合いをつけるわけだから、表現というのは難しい。

「星新一」が「古びない表現」を求めて試行錯誤していたという話を思い出させる。

この作品は読み継がれてゆくだろうか?作者が早々に退場してしまった後でも。

若い年代に好まれそうなパラレルワールドを舞台にした作品なので、余計にそう思う。

それにしても久々にハードなSF読んだ気がする。文体のせいなのか、なんだか翻訳物を読んでいるような感覚に捕われた。

しかし主題からして米国作家が書いたらまずい、ってか絶対に書きそうにない話です。

終盤である程度落ちは想像出来たが、そこに至る「心理」の転換が見事だった。これは相当の作家でないと書けないだろうと感心。

「核心」

スカーペッタ!ああスカーペッタ!

久しぶりに読んでいて認識。このシリーズを読む体力が自分にはなくなったらしい。

ルーシーだのベンソンだのの葛藤を読むのが面倒って、それってはじめから読む意味ないしと言う奴である。

どうもジェフリー・デイーヴァーのジェットコースターにばかり乗ってしまって、各駅停車に乗って周りを楽しむ余裕と体力がなくなったと言った感じなり。やれやれ。

話に出て来る最先端のIT技術についてゆくので精一杯だった。

「ドラゴン姥桜」

東大目指す「お母さん」の生態、そこまで書いていいのか?!と言う気がしなくもないが、息子は既に就職しているから良いのか。

しかし、この本を読んだ息子がどんなリアクションをしたかと想像しようとしてもしきれない。

親子三人漫才やっているような気がしなくもないが。「とびがとびを産んだ!」というおことばの真意は?

いずれにせよ「口の減らない母子像」というのだけはしっかり描ける。抱腹絶倒の話でした。

まさか本当に「親子で記念写真」?さすが東大。笑えない。

あのう、一般のひとでも買わせて戴けますか「東大饅頭」?