提言書 案

ver.4

平成22年1月18日

文責 樋井川流域治水市民会議

1月28日に行う予定の提言案です.1月18日の市民会議に基づき作成しました.

内容は今後の話し合いによって変わりますので、確定したものではありません.

樋井川流域治水に関する市民提言(案)

樋井川流域治水市民会議

提言の趣旨

私たちは、樋井川の洪水を契機に新しい時代の治水対策を実現するために樋井川流域治水市民会議を立ち上げ、その解決策について議論を重ねてきました。この提言は、市民会議での議論の結果でありますが、流域治水対策を進めるうえでの重要な過程の一つであると認識しております。ある意味では始まりの始まりであります。

ここで提言する流域治水対策は、河川改修などハードの治水対策のみに頼るのではなく、流域に係わる全ての人が協力し、貯水・遊水・浸透を中心とした治水対策を行おうという新しい試みの提言であります。流域全体で雨水を貯水・遊水・浸透させることは、洪水を防ぐための極めてシンプルな原則的な方策でありますが、全国においてもなかなか達成されていないのが実情です。それは多様な関係者が組織の垣根を越えて協力することがなかなか困難だったからです。が困難であること、市民に対して流域で治水を行うことの重要性やその方法に対する十分な情報が行きわたらなかったからです。

ここに、「様々な立場の人々が、一市民として平等に話し合う」市民会議の役割があります。さらに、この提言の実現のためには関係者および流域全住民の連携と実現の可能性を信じる強い意志およびともに行動し実行することが必要です。

私たち市民会議は行政、企業、各種団体との連携を図りながら、自ら行動しこの提言を実現していく覚悟でいます。治水対策を単に治水対策としてとどまらせるのではなく、あわせて緑豊かな空間を形成し、子供たちが水に関心を持ち活動し、温かな人間関係を構築する端緒とし、この治水対策を発展させたいと考えています。治水対策を環境、福祉、教育そして地域づくりへと展開しようという試みなのです。

治水対策という一つの目的を共有して、地域の市民・各主体間につながりをむすぶことを、みんなで行う作業。これは、新しい「みんなが協力し、助け合える地域づくり」の実践の始まりであり、地域社会の未来への希望となることだいう理解が、広まりつつあります。

福岡市におかれましては、この提言を真摯に受け止めていただき、樋井川流域に関係する全ての住民との協働(共働ではないか)のもと、流域治水対策を推進していただきますようお願いする所存であります。

市民と住民の言葉の整理

現状認識

福岡市では平成11年に御笠川が、平成15年に御笠川と多々良川が、平成21年に樋井川が氾濫するなど、近年都市型の水害が頻発しています。これらの要因は降雨強度の強い降雨ですが、流域の都市化による洪水流量の増加もその要因の一つとして見逃せない事実です。

樋井川流域(樋井川、桧原川、駄ヶ原川、一本松川、片江川、七隈川)は源を市民憩いの場である油山に発し、平野と山地の境界には多くのため池を有し、福岡市中心部である南区、城南区、中央区、早良区の住宅地を流下し、博多湾に注ぐ流域面積29.1km2、流路延長12.9kmの都市小河川です。流域人口はおよそ17万人で、流域の都市化率は約70%です。河川の水質は清澄で、上流域の地質が風化花崗岩であることから河床は白い砂で形成され、アユやシロウオが生息する環境豊かな市民に親しまれている河川です。

しかしながら、近年、都市化の進展とゲリラ豪雨により、いったん雨が降ると10分から20分という短い時間に急速に水位が上昇し、河川の中で水遊びするときには留意しなければならない状況になっています。また、河川沿いでは、氾濫が発生しており平成21年豪雨においても200戸以上が浸水し、鳥飼、田島、草香江地区には避難勧告が出されるなど大きな被害を生じています。

流域治水の概念

流域治水は、流域全体で取り組む治水のことです。河道改修と下水道整備だけにとどまらず、流域全体で、雨水の貯留・遊水・浸透などの流出抑制を図り、かつソフトな防災対策を含んだ総合的な取り組みです。流域治水では洪水抑制に加え、氾濫をある程度許容する一方で、被害を最小限にするあらゆる方策を講じます。

流域治水対策は、河道改修と下水道整備を中心とした緊急対策と、流域における貯留・遊水、浸透などの流域対策の双方を実施するものです。

樋井川の流域治水では、治水対策を環境、福祉へとつながる地域づくりとしての広い概念で流域治水という用語を用いています。

流域治水の目標

・時間雨量100㎜の雨に対して氾濫しない地域の実現

・ゲリラ豪雨(局所的短時間降雨)による短時間の水位上昇の抑制

・治水対策に合わせて環境を改善し、環境教育、福祉、地域づくりへと発展させる

提言1 全住民、全関係主体が協働で行う流域治水の推進

・ 樋井川の流域治水を総合的に協働で進めるための仕組みの構築

・ 洪水、渇水問題には全ての住民の生活の仕方、意識が関係しているという事実認識

・ 流域治水都市宣言

・ 組織横断的な連携

流域全体で治水を行うためには、全ての場所を対象とした貯水・遊水・浸透能力の向上、そのための制度構築、効果を評価するための科学的な研究が必要です。流域住民、事業者、行政、学者など全ての住民、全ての主体が連携して、協働で治水対策を総合的に推進することが必要です。そのためには何より関係主体間の意思の確認と治水対策を実施する協働で進めるための仕組みの構築が重要です。

提言2 治水と環境・福祉・教育を切り離さない考え方の共有

・ 河川の緊急対策とあわせて環境の向上を図るという考え方

・ 日常の助け合いの仕組みが災害時の共助として機能するという認識

・ 流域治水へのとりくみが福祉活動、環境教育などへと発展するという考え方

流域治水対策を進めるときには、その基本的な考え方を共有する必要があります。治水対策を単に治水対策としてとどまらせるのではなく、あわせて河川沿いの道を遊歩道・コミュニティ道路にするなど、緑豊かな空間を形成し、子供たちが水に関心をもって活動し、温かな人間関係を構築するという考え方を共有する必要があります。また日常の助け合いの仕組みを、災害時の共助へと展開し、雨水貯留が福祉活動、環境教育などへと発展するという認識を共有することが重要です。

提言3 2009年7月洪水に対応する緊急対策

・ 堆積土砂の掘削、拡幅、横断工作物の見直しなどによる河川整備

・ 下水道・用水路の逆流防止策の実施施設の整備

治水対策としては、緊急対策と流域対策があります。流域治水の一部としてまず、2009年7月24日の氾濫に対応した緊急対策が必要です。そのために、堆積土砂の掘削、拡幅、横断工作物の見直し、局所的なパラペットなどによる河川整備と、下水道・用水路の逆流防止の原因を調査し、逆流防止策を実施することなど施設の緊急整備が考えられ、それぞれの管理者が主体となって、整備を進めることを提案します。なお、河川整備にあたっては、親水利用、景観、生態系への十分な配慮を、市民と協力して行う必要があります。

提言4 流出抑制による流域対策

・ 時間雨量100㎜の雨に対して、40%の流出抑制(目標)

・ 土地利用ごとに流出抑制を最大限図る方策の実施

・ 実施の過程で分かったことを次に活かす執行体制

時間雨量100mmを対象に40mmの流出抑制すなわち100㎜降った時に、流域から40%の流出抑制することを目標とします。これは下水道計画が59㎜対応であるためです。なお、流出抑制を行う過程で、提言目標の一つである「ゲリラ豪雨による短時間の急激な水位上昇の抑制」も達成されると考えています。ただし、樋井川の洪水は1時間より短時間の降雨に対して発生するため今後詳細な検討が必要です。

流域内の全ての地区・土地利用形態の場所で、流出抑制をすることを目指し、土地利用ごとに最大限の貯水・遊水・浸透の対策を実施することが不可欠です。とくに、ため池、公園、学校、公共施設、および空き地は、実現可能性が高く、効果も期待できるため、迅速なる対策の実施が望まれます。特にため池の治水機能の強化および遊休地に対する調節池の設置は効果が大きいため緊急対策として実施する必要があります。また、個人住宅、民間企業・集合住宅、道路、および駐車場の敷地も広大であり、市民との協力のもと、これらの場所においても対策を進めることが必要です。なお山林の面積は広大ですが、保水能力・保水方法ともに明確になっておらず、早急に調査・研究を行う必要があります。

また、川沿いの公園を切り下げるなどして遊水機能を強化することは洪水到達時間を長くする効果が期待できます。

参考のために、以下に土地利用ごとの流出抑制量の目安と抑制方法を示します。

図 40%流出抑制を実現するための土地利用ごとの抑制の目安

ü 山林(全流域の28.1%の面積)

森林土壌の質の向上

ü 農地(1.6%)

保全策

ü ため池(1.5%)

集水面積(14.4%) 90%の場所で集水面積からの流出量は全量カット→13%

かさ上げ、浚渫、はき口形状の改善、利水容量の振替などにより全量カット

集水域の外から水を集めることができればさらに抑制可能

ü 公園(5.3%) 80%の場所で流出抑制→4%

公園は少し掘って水をためる

ü 学校(5.4%)全ての場所で全量カット→5.4% モデル的に重要、教育的効果大

福大型グランド+縁を高くする、屋根の水はタンクにためる(浄水タンクの雨水利用)、貯めた水の有効活用

ü 民間企業・集合住宅(16.8%)

貯留住宅に対する容積率の緩和、保水性の舗装の義務化、貯水池の設置、トイレ洗浄水への利用時の料金免除、浸透ますとトレンチの設置

ü 公共施設(2%)全ての施設で全量カット→2%

浄水タンクの雨水利用

ü 空き地(1.1%)全ての場所で全量カット→1.1%

市民緑地として借りることができればいい

ü 個人住宅(17.2%)

雨水桝への枠設置、保水ブロックの利用、雨水タンク助成の強化、浸透ますの整備、敷地の非コンクリート化

ü 道路(16%)

生活道路と歩道は保水性・透水性の高い舗装とする

ü 駐車場(2.5%)

ü 河川(1.6%)

提言5 総合的な対策を行うための仕組みの構築・強化と実行

・ 流出抑制するための支流ごとのマスタープラン

・ 流出抑制をするための制度(法律、条例、協定、税制、基金など)づくり

・ 雨水貯留・浸透技術を助言する専門家(雨水コーディネータ)の養成と活用

・ 自主防災の仕組みの構築と指導(防災拠点)

・ 自主防災情報の提供(ハザードマップ、洪水予測システムの構築)

・ 上下流・校区住民・主体間の交流と分かち合い

緊急対策マニュアル

総合的な流域対策を実施するためには、ハードな施設整備だけでなく、それを社会に定着させるためのソフトな仕組みの構築、あるいはこれまでの仕組みの改善と強化が必要です。流出抑制を促進するための方策としては誘導措置と規制措置が必要であり、法律、条例、協定、税制、基金などを利用し、制度構築を図る必要があります。雨水貯留・浸透技術を導入する際には、専門的な知識を持った雨水コーディネーター制度を作り、雨水コーディネーターを養成し、普及にあたらせることが有効です。

流域治水対策の一つの柱が自主防災です。防災時の自助、共助の能力を高めるためには、日常的な地域住民の交流が基本であり、自治組織が中心となるべきです。氾濫の危険がある地域には自主防災組織の構築あるいは強化が必要で、実質的に機能させることが重要です。そのためには、防災活動拠点の整備、消防団との連携、地域防災リーダ、訓練、行政側からの指導などが必要です。

県管理河川と市管理の河川・下水道とが一体化したハザードマップの作成、車などを避難させることが可能な防災予測システム構築など適切な防災情報の提供によって自主防災力をなお一層高めることが可能です。

流域治水の基本は自分のところに降った雨によって、他の人が災害に合うということをなくすことです。したがって流域治水対策を進めるためには、上下流・校区住民・主体間の交流と分かち合いが必要であり、その交流を進めるのは私たち市民ですが、行政側の支援も欠かせません。

提言6 啓発

・ 全ての住民が水に関心をもつ社会の構築

・ 広報

・ 教育の実施(学校での貯留浸透の実施、教材、雨水(あまみず)センター、モデル住宅、モデル地域、交流等)

流域治水は全ての住民に係わるため、水に関心を持つ社会を構築する必要があります。そのためには、広報誌、ホームページ、記者クラブ、シンポジウム、勉強会などを活用し広く、積極的広報を行う必要があります。

次世代を支えるために子供たちに対する教育は不可欠です。学校での貯留浸透の実施はじかに体験できるという意味でもっとも効果的な教育といえます。また流域治水を理解するための教材の製作、さまざまな技術を直接体験できる雨水(あまみず)センター、雨水貯留の実態を体験できる雨水(あまみず)ハウス、重点的に雨水貯留を行い見学できるモデル地域の設定、上下流、校区間の交流なども有効な方策です。

提言7 技術開発への支援

・ 協働での各種要素技術の定量的評価

・ 流出抑制試験地の設定

・ 雨水産業の育成

流域治水が進まない理由の一つが効果の定量化が困難なことです。市民会議には複数の大学関係者がメンバーとして参加しており、今後学術的研究を進めようと考えています。戸建住宅の敷地からの流出抑制手法、浸透施設の浸透能力を明らかにすること、道路路面からの流出抑制手法を開発すること、小さなモデル流域を対象とした効果の検証などです。これらの研究を進める時には、測定場所の選定、測定機器の設置時の許可など、行政の支援は不可欠です。また、流域治水に係わる雨水産業が発展するための要素技術の基準、規格化を進め、福岡の地域性を反映した、新しい福岡の産業としての育成を促進することが求められます。

提言8 樋井川流域から他流域へ

福岡県、福岡市内には洪水に悩まされている地域がたくさんあります。私たちの取り組みを他流域に展開されることを期待しております。

今後の取り組み

平成21年検証と緊急時マニュアルの提示と議論

地域防災リーダ(10年間で1000名 防災リーダの育成 現在400名程度)