石田 響子(Ishida Kyoko)
新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻
資源生物制御学分野 修士2年
研究内容:
私は、マイマイガという昆虫の「性決定」の仕組みと多様性について研究をしています。
性決定研究とは?
私たちヒトをはじめ、ほとんどの生物は「性」を持っています。私たちヒトは通常、XX 性染色体を持つとメス(女)、XY 性染色体を持つとオス(男)になります。鳥類や鱗翅目昆虫では、ZZ 性染色体を持つとオス、ZW 性染色体を持つとメスになります。植物には雄花と雌花が存在し、一部の植物や線虫などでは、一個体が雌雄両方の生殖器官を持つ「雌雄同体」も存在します。
このように、「性」は生物に共通する形質ですが、それを決める仕組みは生物種ごとに大きく異なっています。なぜ性決定の仕組みに多様性が存在するのか、という疑問に対する答えは未だ見つかっておらず、これを明らかにすることは生物学的にとても意義のあることだと考えています。
マイマイガとは?
マイマイガは、日本をはじめとし、世界中の温帯地域に広く分布する鱗翅目昆虫です。様々な植物を食べるため、森林害虫として知られています。
マイマイガの成虫はオスとメスで外見が大きく異なります(図の左側の、黒い方がオス成虫、白い方がメス成虫)。マイマイガの性決定メカニズムについては昔から研究されており、生息地や種によって性決定のメカニズムが異なると考えられてきましたが、その詳細なメカニズムや多様性の有無については不明なままでした。
同じ種・もしくは近縁な種であるにも関わらず性決定メカニズムが異なる例はほとんど知られておらず、またマイマイガの成虫は見た目で簡単に雌雄を判別できることから、性決定の研究に適している生物であると考えられます。
マイマイガ(幼虫〜成虫)の形態
研究方法:
野外採集
北海道から九州までの日本の広い範囲で、マイマイガの卵塊(卵が塊となって産まれたもの)を採集します。(右図。毛状の塊の中に卵がたくさん入っています。)
実験
卵から DNA を抽出し、雌雄鑑別(その卵が雌雄どちらか)や種同定など、様々なことを分子実験によって調べます。
さらに、研究室内の飼育室で野外から採った卵塊を孵化させ、孵化率や死亡率、成虫の表現型などを観察します。
解析
ゲノム情報や地理的情報などを使用し、実験や飼育だけではわからないマイマイガの特徴をデータ解析からも明らかにします。
マイマイガ卵塊
これから進めたいこと・研究の将来性:
マイマイガの性決定メカニズムには、種間・地域間でどのくらい差があるのか?
同じ種、または自然に交配できるくらい近縁な種間で性決定のメカニズムが異なる例はあまり知られていないので、その違いを明らかにできたら面白いと思います。
性決定メカニズムが多様化した要因は何か?
同じ、または近い種間で性決定メカニズムが多様化したということは、多様化を促す要因が存在したと考えられます。生態学や進化学的視点も取り入れながら、マイマイガにおける性決定機構の多様化の進化機構、ひいては生物全体の性決定機構の多様性創出の謎に迫っていきたいと思っています。