研究紹介

(メディカル情報生命専攻・学生)

薛 世玲那(セツ セレナ)

メディカル情報生命専攻 研究室 D1

泊研究室HP:https://www.iqb.u-tokyo.ac.jp/tomari/jp/

タンパク質の機能を解き明かす

生き物の体内では、タンパク質が実働部隊として体内で大きな役割を担っています。そして、人には約10万種類のタンパク質が存在するとされていますが、そのすべての働きが解明されているわけではありません。

私が研究対象としている Heroタンパク質 は、明確な立体構造をとる多くのタンパク質(図左側)とは異なり、全長にわたって構造をとらない、いわゆる超天然変性タンパク質といわれるタンパク質群です(図右側)。こういったタンパク質のはたらきはこれまでほとんど明らかにされてきていません。ヒトにおいても少なくとも数百種類のHeroタンパク質が存在すると予測しています(Tsuboyama et al., PLOS Biol., 2020)

構造のあるタンパク質

ヘモグロビン

AlphaFold AF-68871-F1

Heroタンパク質

(超天然変性タンパク質)

の模式図

Heroタンパク質の性質

多くのタンパク質は通常、高温で熱せされると、構造が壊れ、凝集してしまいます。卵の白身が過熱調理すると無色透明から白色になるのも同様の現象です。

超天然変性タンパク質であるHeroタンパク質は、高い熱安定性を持ちます。溶液中のHeroタンパク質をで95度という高温で熱しても、凝集し沈殿してしまうということがないのです。

Heroタンパク質群の性質

Heroタンパク質のはたらき

Heroタンパク質は、それ自体に過熱ストレスへの抵抗性があるだけでなく、他のタンパク質が乾燥、高温、有機溶媒といったストレスによって不安定化し、凝集、沈殿してしまうのを防ぐことができることも明らかになりました。(Tsuboyama et al., PLOS Biol., 2020)

生体内でタンパク質が不安定化し、異常凝集してしまうことは神経変性疾患の原因となることが知られています。神経変性疾患のひとつである筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因のひとつは、TDP‐43というタンパク質の異常凝集です。Heroタンパク質がTDP-43 の異常凝集を抑制できることが培養細胞、ハエ個体を用いた研究でわかりました。

しかし、Heroタンパク質が凝集を抑制する作用メカニズムやヒト神経細胞で実際にどのようにはたらくのかといったことはわかっていません。

研究テーマ

私の研究テーマは、ヒト神経細胞での異常凝集タンパク質に対するHeroタンパク質群の作用を追究することです。既知の6種類以外のHeroタンパク質を明らかにし、タンパク質凝集との相互作用を解明することで、神経細胞におけるHeroタンパク質群の全容に迫りたいと考えています。