研究紹介

環境システム学専攻・教員)

実験室を科学する

環境システム学専攻/新領域 環境安全管理室 特任助教・根津友紀子

研究を始めた”きっかけ”

「大学院生のころ、自然発火性の物質を使って有機合成をしていました。その時、操作を誤って化学物質にがついてしまったのです・・・」

この時は研究室メンバーがテキパキと対処してくれ、事なきを得ましたが、私自身は大パニック!こんな経験から、実験事故事例集、化学物質に関する本、実験の安全の手引き等、沢山本を読みました。また、仲間に助けられた経験から、研究テーマの異なる実験者が場所を共有していることに気が付きました。工場などと異なり、大学は常に新しい研究を行っている場所であり、大学生から教員まで実験者のレベルも広範囲です。こういったところの安全を守るためには何をすればいいのか?これが私の研究の原点です。

◆実験室の”モニタリング”

安全に対するルールは沢山あります。でも、大学実験室のように、新規性が高く、研究の自由度が高い場所に対して、そのルールを適応して、果たしてうまくいくのだろうか?こんな疑問から、実態を明らかにするために実験室のモニタリングを開始しました。

のモニタリング:行動解析

実験室の主役は”実験者”です。彼らの行動を解析せずには、実験室設計は考えられません。そこで、実験者の行動を観察、動線の解析、化学物質の危険有害性に関する認識を検討しました。

実験者の動線解析

実験者の合理性を明らかにするために、実験中の実験者の動線を取得し、実験シナリオとの関係を検討しました。必ずしも実験都合による最短行動をとるとは限らないことが分かり、実験者の個性・分野に関する検討も必要である可能性が出てきました。

化学物質の危険有害性に関する認識

有機化合物の構造式を使って危険有害性を5段階で評価する、正解のないアンケートを実施して、危険有害性の判断軸を統計的に抽出しました。先生は引火性を認識しているけれども、学生はその認識が低いことが分かり、安全講習などの見直しに役立つ結果が得られました。

モノのモニタリング:試薬瓶の動態解析

実験では様々な化学物質が使われています。実験中に試薬瓶はどこからどこへ移動しているのか?どこで使われているのか?これらをRFID(Radio Frequency Identification)という通信技術を用いてモニタリングしました。

RFIDによる試薬瓶の追跡

実験室内にRFIDタグ検知のアンテナを配置し、置かれた試薬瓶のIDと時間をPCに記録しました。

試薬瓶の移動パターンを可視化

実験室内での試薬瓶の移動パターンから、実験台が実験作業においてハブ的役割をしていることが明らかになりました。

空気環境のモニタリング:気流解析

「化学物質は局所排気装置(FH)で使うのが当然!」でも、分析装置、廃液タンク、作業場所が混んでて使えない!とか色々な理由でFHの外に化学物質が発生してしまうことがあることが分かってきました。一方で、実験室にはFHやエアコン、換気扇、隙間風など様々な気流が発生していることも分かってきました。そこで、実験室の気流を部屋全体で考えるために、シートレーザーとスモークを使って気流を可視化する実験や、流体シミュレーション(CFD)による計算的検討の両面から実験室の気流を解析しています。

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気流の可視化

煙にシートレーザーを照射してFH前の気流を可視化

画像処理による気流解析

可視化映像をPIV(Particle Image Velocimetory)処理をして煙の流れをベクトル化して気流解析

本研究のゴール ~次世代型実験室の創造のために~

このような検討を通じて、実験者が安全で快適に実験研究ができる、これまでにない次世代型の実験室を作ることが目標です。特に大学の実験研究は創造性、自由な発想が重要です。そういった活動を心置きなくしていただくために、実態をモニタリングした結果を用いて以下のような検討を行っています。

【テーマ例】

◎ばく露リスク低減のためのダウンフローを用いた化学実験室における気流制御

◎実験室の合理的なデザインの為のVRを用いた実験環境が与える実験者への影響

◎非通常性を検知することによる実験事故予防システムの構築


本研究は大島研究室(研究室HP)と共同で研究を行っています。