河野 珠希 (Kono Tamaki)
新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻
井研究室 修士2年
井研究室HP:http://www.ts.k.u-tokyo.ac.jp/inomoto
核融合炉開発に向け、球状トカマクプラズマのイオンの温度・流速計測を行っています。
次世代エネルギー源 核融合発電
経済成長とともに、世界のエネルギー需要は増加しています。
日本政府は2020年10月に、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを発表しました。
現在主力を担っている火力発電の代替エネルギーとして、太陽光・風力・地熱発電などが注目されていますが、これらは天候や地理条件に左右されやすく、発電量が安定しにくいという課題があります。
そこで、燃料がほぼ無尽蔵で、CO₂を出さず、安定運転が可能な新エネルギー源として、核融合発電が注目されています。
近年では国際的な共同実験(例:ITER)に加え、民間企業による商用炉開発競争へと広がりを見せています。
核融合反応 地上に太陽を作る?
太陽がなぜ無酸素状態の宇宙で燃えているように見えるのか、考えたことはありますか?
実は太陽の中心で起こっているのは、「核融合反応」という燃焼とは全く異なる反応です。
高温・高圧下で水素原子核同士が融合し、ヘリウム原子核に変わるとき、わずかな質量の減少(質量欠損)が生じます。この失われた質量がE = mc² の関係により莫大なエネルギーへと変換されます。
このエネルギー量は、同じ質量の化学燃料(石油など)の燃焼反応と比べて100万倍以上も大きいことが知られています。
このように太陽で起きている核融合反応をモデルにしつつ、地球上で安全に制御し、発電に利用しようとするのが核融合発電技術の研究開発です。
発電に検討される、DT反応
球状トカマク型 (紫部分が閉じ込められたプラズマ)
社会実装への課題
核融合の実現には、物理学的課題と工学的課題の両面からの解決が求められています。発電として利用するには、次の3条件を同時に満たす必要があります。
十分に高い密度のプラズマを生成すること
反応が持続するのに十分な閉じ込め時間を確保すること
反発力(クーロン力)に逆らって原子核同士を接近・融合させるために、 プラズマを1億度以上の高温状態に保つこと
これらを満たす手法の1つとして、プラズマを磁場によって閉じ込める「磁場閉じ込め式核融合炉」 があります。
中でも、トカマク型やヘリカル型など様々な方式があり、当研究室ではその中でも球状トカマク型核融合炉(Spherical Tokamak)に注目しています。
研究テーマ・今後の展望
私の研究では、当研究室にある球状トカマク型実験装置「UTST」において、プラズマの温度と流れ場の計測を行っています。
プラズマが発する光(スペクトル)の波長変化(ドップラーシフト)を解析することで、 イオンの運動エネルギ-や流速を非接触的に可視化し、構造の検証を行います。
特に、炉壁の近くでは、温度や流れが不均一になりやすく、その構造を明らかにすることで、プラズマ閉じ込め性能の向上につながることを期待しています。
当研究室の実験器「UTST」