飯澤 実咲 (Iizawa Misa)
新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻
小野亮研究室 修士2年
小野亮研HP: https://streamer.t.u-tokyo.ac.jp/index.html
大気圧プラズマの基礎と応用研究に取り組む研究室です!
私のテーマは、「プラズマのがん治療応用」でプラズマを用いながら動物実験や細胞実験を行っています。
固体、液体、気体を一般的に物質の3態と呼びます。気体にさらにエネルギーを加えると、物質の第4の状態とも呼ばれる「プラズマ(=電離気体)」を生成できます。宇宙の大部分を占めるプラズマですが、地球上ではプラズマはオーロラや稲妻、蛍光灯といった限られた形でしか見られません。しかし、技術の発展に伴い産業に応用されるようになりました。応用例として、医療応用や表面処理、気流制御などが研究されています。
プラズマは多成分系で、活性種、荷電粒子、電界、紫外線など様々なものを含んでいます。放電する時に流すガスや放電装置にもいくつかの種類があります。写真に示している放電は、ストリーマ放電と呼ばれます。棒電極と平板電極の間に高電圧をかけるとフィラメント状の放電を生成できます。
ストリーマ放電
プラズマの大きな特徴として、様々な活性種を含むことが挙げられます。通常の原子や分子は安定していますが、プラズマ状態では活性種と呼ばれる不安定で反応性が高い原子や分子になります。
主に生成される活性種は活性窒素種(RNS:reactive nitrogen species)と活性酸素種(ROS::reactive oxygen species)があります。
寿命は多くが数µs~数msと非常に短く、これらは照射対象表面にぶつかるとすぐに反応して比較的寿命の長い過酸化水素などになります。この反応性の高さがプラズマの応用研究ではとても重要になります。例えば、プラズマを細胞に照射すると、生成された活性種は細胞膜に作用し細胞内に入りダメージを与えます。これにより、DNA切断やミトコンドリア損傷、細胞死の誘導、シグナル伝達の変化などを起こします。
プラズマを生物学や医療に応用し、止血や滅菌、がん治療、傷の治りを早くするなどの研究例があります。
特にがん治療応用では、プラズマががん細胞を殺す・免疫細胞の活性化などの効果を発揮するという報告があります。プラズマが生成する活性種が、細胞にダメージを与えることで治療効果が得られると考えられていますが、その作用機序は未だ解明されていません。プラズマのがん治療への応用方法としては大きく2つあります。
①直接照射:プラズマを照射対象に直接照射する方法。プラズマで生成された荷電粒子、ラジカル、電界、紫外線など全てに照射対象はさらされる。
②間接照射:培地(細胞を培養するための液体)などにプラズマを照射し、その液体を細胞にさらすまたは腫瘍部分に入れる方法。プラズマで生成されたものの中でも長時間効果を発揮できるもののみが作用する。
直接照射
間接照射
私は特に直接照射による①免疫細胞の活性化と②プラズマの影響の拡大に注目しています。この研究に取り組むことで、将来的にはがん治療の選択肢が増えることが期待できます。
当研究室では、プラズマを腫瘍部分に照射し、免疫チェックポイント阻害剤(免疫の働きを良くする薬)を同時に使用することで弱っていた免疫細胞の働きがより良くなることを示しました。私は、より細かな免疫細胞の活性化状態を知り原理解明に1歩でも近づけるように動物実験に取り組んでいます。
プラズマを直接体に照射して治療する場合、プラズマが生成する活性種の寿命は非常に短いため、活性種自体が体の奥まで届いて作用しているわけではないと考えられています。しかし、①のような実験でプラズマの効果が発揮されるためにはプラズマの効果がより生体組織深くに広がる必要があります。この現象にはいくつかの別の理由があると考えられており、私はその中でも「バイスタンダー効果」に注目して細胞実験に取り組んでいます。(バイスタンダー効果=プラズマなどの刺激を受けた細胞の周辺に存在する細胞にも生物学的影響が広がる現象のこと。)
研究コンセプト