世界人口80億人超えに思う。
世界の人口は2022年11月15日に80億人に達し、その後も1分間に156人、
1日で22万人、1年で8千万人が増え続けている(世銀、国連、米国勢調査局の推計)。
2016年7月、私はこの時、世界人口の予測グラフ(国立社会保険・人口問題研究所
作成)を見て驚いた。それは。私が生まれた年1931年ではまだ20億にも満たなかった
世界人口が、グラフで急激に一直線に上昇して80億へと跳ね上がっていることだった。
永い人類の歴史から考えてもこの人口爆発は全く異常なのではないか、人間の数が、
地球の限りある資源の限界を超えているのではないかと考えて『世界の人口爆発は
続いている』というエッセーを書いた。
エッセーでは世界で発生しているテロ事件や、紛争、戦争、難民、格差、貧困、対立
などの原因の背景には、結局のところすべて、世界の人口爆発増があるとした。そして
どうすべきかでは、当時『世界で一番貧しい大統領』といわれたホセ・ムヒカ、ウルガイ
大統領の国連リオ会議での演説「残酷な競争より足るを知り、分かち合いが大切」との
要旨を紹介したうえで、限りある地球上の資源、これを人類同士で奪い合い、他を排除
して滅亡させる、というのではなく、人類はお互い、資源の限界を知り、分かち合って
進むという考え方に立たなければならない、と結んだ。
その後も世界人口は増え続けていたが半面、日本の人口は毎年55万人から60万人、
減り続けていることもあって、日本の政治家、有識者、新聞、テレビとも、人口問題
といえはほとんどが、日本の少子化問題と対策が語られ、論じられてきていた。世界
人口が80億人を越えたことは報じられてはいたが、その世界人口増を危機として
語られる論調には、お目にかかることはなかった。
2023年1月10日、朝日新聞朝刊の社説に『人口80億人、地球の限界を考える』
という記事が出た。「人間は文明の発達とともに養える人口を増やしてきた。技術が
進歩して食糧を増産し、利用できる土地や資源も広がった」と、日本だけでなく、
地球人類の進展経過を述べて「半面、地球が生産できる生物資源も、利用できる地
下資源も無限ではない。いま、地球はどれくらいの人口を抱えられるのだろうか」
と問題提起を行っている。
私は「そうだ確かに、爆発的に増え続ける人口を支える地球の限界が問題なのだ」と
思った。そして「よくぞ、この人類の人口増問題を社説で取り上げてくれたものだ」と
うれしく感じた。社説は人間が地球環境にどれだけの負荷を与えているかを知るひとつ
の指標を示している。「エコロジカル・フットプリント(生態系を踏みつけている足跡)、
これはカナダの学者が提唱したもので、人間の生活や経済活動によって農地や森林など
の陸地や、漁場となる海をどれだけ使っているかを示す。この国際組織「グローバル・
フットプリント・ネットワーク」によると、世界人口が30億人余りだった1961
年には人間は地球0・7個分の生活だったが、71年に1個分を超え、いまは1・8個
分の暮らしだという。すでに地球が人間の生活や活動を支える限界を超えてしまって
いるのだ。
もし世界中の人々が日本と同じ暮らしをしたら、地球が2・9個必要になる。米国と
同じなら5・1個、中国なら2・4個、インドなら0・8個だ。豊かで便利な生活は、
それだけ未来に負荷をかけているさまが浮かぶ、としている。
そして、地球は46億年の歴史で5回の大量絶滅を経験してきた。現在は6500万年
前に恐竜などが絶滅した時代に続く第6の大量絶滅時代と呼ばれ、当時より急速に生物
種が減っている。約800万種いるとされる動植物の内約100万種が絶滅の危機に直
面し、絶滅の勢いは、過去1千万年間の平均の数十倍から数百倍も早まっている。
人間による破壊力はすさまじい。と、人間の人口の増加によって、自然を破壊し続けて
いることが記され、自然の破壊が一定の境界を超えると回復不可能となり、人類が繁栄
を続けることができないと、述べられている。
今後、地球の人口はどうなっていくのか、については、社説は2050年代に100億人
を超え、2080年代に104億人でピークを迎えると推定されているとしている。その
先に、減少して安定的な人口になってゆくとしても、それまで、生活を支える地球の限界
を人類は超えずに済むのだろうか、と問題を投げかけている。
社説のこの、2080年代、104億人口ピーク予測は、国連の2022年度版の予測に
よるものである。しかし、中国の人口はすでに減少に転じ、中南米諸国などでも出生率の
低下が進行しており、世界の人口が減少に転じるのが、少し早まるのではないかとの予測も
出始めてはいる。それでも半面、すぐにインドの人口は中国を上回り、世界一の人口国となり、
エジプト、エチオピア、コンゴ、ナイゼリア、タンザニアなどのアフリカの人口爆発は当面
止まらないので、世界人口は100億人までは、増え続けるものと私は思っている。
社説はこの80億人突破を機に、地球の現状と生活を見つめなおし、子孫に何を残せるか
考えていきたい。と結ばれていた。
私はさらに考える。やがて、人口100億人を突破するまでに、地球の資源の人口増
に対する限界から人類の生活の「貧困」がさらに増加し、「格差」が広がり、「対立」
が増え、「テロ」や「紛争」が頻発し「戦争」がさらに激しくなり、「難民」が一層
増えるおそれは十分にあると思わなければならないのではないか。人類は危機感を持ち、
真剣に人口増と向き合わねばならない時が今、まさに来ているのではないか。
今すでによく報道されているのは世界的な食糧問題・水不足・エネルギー危機などが
あるが、さらに砂不足などもある。日本では今のところ、一応順調に供給されてはいる
ので危機感を強く感じることは少ないかもしれないが、やがて日本でも不足が起こりうる
可能性のある資源として、今の世界の実情を知っておかねばならない。国連報告の最新
の推定では今、食料問題に関し世界30億人を超える人々が健康的な食事をする余裕がなく、
サハラ以南のアフリカと南アジアにおいて、これは人口の57%に当たるとしている。
水不足については、2050年になると世界人口の約半数が水不足にさらされ、4人に一人
は慢性的な水不足の影響を受けると予測されている。水といっても飲料水は勿論なくては
ならないが、生活用水、食糧の生産、畜産、工業製品の生産にも大量の水が必要なの
である。エネルギー危機については、今すでに世界的に石油、電力、ガスの価格が
高騰し、経済に変調をきたし始めている。そして砂不足。砂は水に次いで人類に
利用されている天然資源だ。砂はガラスやコンクリート、建設資材などに使用される。
その消費量は過去20年で3倍に増え年間500トンにもなる。国連は、このまま
では河川や海岸線を破壊し小さな島々を消滅させる可能性があると警告し危機回避に
向け、砂浜採掘禁止を含む緊急対策を呼び掛けてはいる。しかし、砂をめぐる激しい
攻防戦は各地ですでに起こっている。
私は「NHK・BS1『砂はカネになる』中国、台湾、マレーシアで争奪戦」(20
23年1月24日)を見て、台湾と中国の砂戦争はすでに始まっていることを知った。
台湾の馬祖列島の南竿島に昨年多数の中国海砂採取船がおしかけて、沖合で操業し、
たった2日間で目の前の海岸の砂浜が消えた、という。そして食糧問題についても、中
国は14億の人口を養うために必要として、ブラジルと大豆の驚くほどの大量購入の契
約を交わしているとしている。また農林水産省の「外国資本による森林買収に関する調
査の結果について」では、平成30年(2018年)の一年間で30件の日本の森林が
買収されており、そのうち13件が中国人または中国系法人である。中でも北海道の
倶知安町の17ヘクタールの湧水地を含む森林が買収されており、利用目的が未定
にはなっている。が、これは中国による水資源確保ではないのかとの報道もされて
いる。とにかく人口増に対する地球資源の獲得戦争は激しく火ぶたを切られている。
私は日本人全体が、この問題に対する危機感が少なく「ボウとして生きている」
様子が、歯がゆくて仕方がないと感じている。
私は今こそ、「地球資源に対する人類の適正人口はどうあるべきか」という課題に
世界全体で取り組むべき時だと思う。私は前に書いたエッセーで1980年に
「ロイヤルアメリカン」というグループがアメリカ・ジョージア州の山頂に建てた
「自然界の永久の調和として、(世界)人口5億人を維持しよう」というガイド
ストーンがあることを書いた。私は5億人の根拠が分からないので、5億人が適正
人口であるとはいえないが、世界が5億人だった時は、日本では江戸時代で将軍
家光の頃に当たり、人類の歴史からすればそれほど古いことではない。その後の
資源開発、技術の進歩(農業技術・医療技術・衛生技術・衣服住環境の進歩などを
含む)などを考えあわせ、世界各国の各部門で、新たにこの課題に取り組むことが
必要だと思う。
そして各国でそれぞれ研究検討の結果新しく生み出された適正人口を目標として、その
目標を目指して力を尽くし、より良き社会の新しい制度を作り上げてゆけば、人口増加も
また少子化も決しておそれるものでなく、克服できることが分かってくると思う。そして
地球資源を守り、独占や激しい奪い合いを何とか阻止するために、各国で話し合いを重ね
限りある地球資源の国際管理組織を作り、主な資源の共同開発・共同管理をして「分かち
合い」を進めるべきである。
限りある地球の資源は、戦い奪い合うものでなく、みんなで守り、分かち合うものである
ことを、幾度も繰り返し世界に訴え続けることが必要である。それを中心になって強力に
推進するのはどこの国か、それは今年、G7サミット(主要国首脳会議)の議長国を務める
日本国ではないのだろうか。
(2023年1月25日)