再生医療と歯科の未来
重度歯周病でも抜歯不要に
脂肪幹細胞で歯槽骨再生
大阪大学歯学部附属病院「近未来歯科医療センター」副センター長・竹立匡秀氏
歯周病の治療に新たな光が差している。患者自身の脂肪組織由来の幹細胞を移植して歯槽骨を再生する世界初の臨床研究が大阪大学歯学部附属病院の「近未来歯科医療センター」で進行中だ。2018年までに12人の歯周病患者に幹細胞の移植を終えた。「臨床研究の最初のステージが完了した」と話す竹立匡秀氏(同センター副センター長)に実用化への展望を語ってもらった。
大工を増やす
歯周病の再生療法というと、GTR法やエムドゲインゲル、そして2016年に保険適用されたリグロスなどがあります。いずれも歯周組織の幹細胞の自己修復力を活性化させることで再生を誘導する治療法と捉えることができます。
しかし、歯根膜が破壊された重度の歯周病では幹細胞の増殖能や分化能が低下しており、内在する幹細胞だけでは十分な効果は期待できません。大工のいない建設現場に資材を投入するようなイメージです。そのため、従来の治療法の適用は軽度~中程度に限られています。
そこで私たちは、重度の歯周病でも抜歯せずに治療できるように幹細胞を移植して“大工”を増やし、歯周組織を再生する治療法の開発を始めました。
欠損部に移植
骨再生に使うのは患者自身の皮下脂肪から単離・培養した幹細胞です。皮下脂肪組織は、患者への侵襲が少なく、比較的簡単かつ安全に採取することが可能です。単離された幹細胞は増殖能が高く、自己細胞なので移植後の拒絶反応がないのも特徴です。
手順は、①へその下あたりから皮下脂肪をおおよそ30cc吸引②脂肪組織から幹細胞を単離し、4~8週間かけて培養③幹細胞をフィブリンゲルと混合し、フラップ手術の際に歯槽骨欠損部に合わせて填入・移植――という流れです。
2015年に1例目の移植を40代の女性に実施。深さ4㍉の下顎犬歯の遠心にある歯槽骨欠損部に移植すると、9カ月後のエックス線検査では歯槽骨の再生がはっきりと確認できました。2例目以降は抜歯になるぐらい欠損の大きい患者にも移植しました。
第1段階の臨床研究の主な目的は安全性の評価ですが、有効性についても期待できる結果が得られています。幹細胞と歯科用骨補填剤との組み合わせなども試しながら、有効性を高め、新規治療法として確立したいと考えています。
実用化へ努力
一方で、一般臨床への応用には大きな壁があります。幹細胞の培養は365日24時間、厳密に管理しなければならないからです。臨床研究では研究室のメンバーで協力し合いながら培養してきましたが、長く続けることは容易ではありません。
今後は民間企業とも協力しながら幹細胞の培養・管理をアウトソーシングする一方で、歯周組織再生を目的とした幹細胞製剤の開発に取り組んでいきたいと考えています。一般の歯科医師の先生方が歯周病治療で活用できるようになるのはまだ先ですが、一日でも早く実用化できるよう研究室のメンバーと力を合わせて努力したいと思います。