スロットが設置されたラスベガスの空港
カジノを主要産業として発展してきた街・ラスベガス。2017年10月に現地を視察した鳥畑与一氏のリポートを掲載する。
ラスベガスで驚いたのは空港の荷物受取所など至る所にスロットが置かれ、ホテルはフロントもレストランも全てがカジノを中心に配置されていることだった。ギャンブル依存症を警告するパンフなどはほとんど見当たらず、カジノでは未成年者の入場チェックもない。
街そのものが、全ての客の全ての余裕時間をギャンブルへと誘導し、リピーター(依存症者)にしていく仕組みになっている。実際、滞在中に7割超の客がギャンブルを体験する。その結果、カジノ目的の初訪問客はわずか1%だが、再訪者では12%に跳ね上がる。
週末のカジノに足を踏み入れると異様な熱気で溢れていた。ブラックジャックのテーブルでは、ある客が最高1万㌦の賭けに熱くなっていた。偶然性の賭けなので勝ち負けを繰り返す。勝った時は小躍りし、負けが続いた時は横の妻を覗き込む。無表情な妻にやめるきっかけを無くした客は、数万ドルはあったチップの山を全て失い憤然と立ち去った。
同様にやめられない客がATMに行列をなし、夜通しギャンブルを続けていた。射殺犯もまたこういうギャンブル依存症の一人だった。「依存症は深刻だが、そういう奴はこの街に住めなくなる」という現地ガイドの言葉が印象的だった。
ストリップ地区ですらカジノ収益は低迷している。裕福な観光客をターゲットにした高級ホテル・ウィンのカジノは、新館のアンコールと併せても年間収益6億㌦程度で赤字に苦しんでいる。日本進出を狙うMGM、シーザーズ、LVサンズ、ウィンの4大カジノ企業が占拠するストリップ地区の24のカジノ収益は合計54億㌦で、平均約2億㌦でしかない。
IR化に伴う巨大な設備投資と絶えざる更新、その金利の返済負担、カジノ収益によるホテル代などの料金サービス、エンターテイメントの費用……。カジノ企業は膨大な支出が求められ、ストリップ地区全体は赤字構造に喘いでいる。
カジノ客から駐車料金を去年から取るようになったとの嘆きも聞いた。シーザーズは15年1月に連邦破産法11条を申請し、再建中である。老舗ホテル・サーカスサーカスの隣には建設途中で中断したカジノが放置されており、ラスベガスでさえIRは儲からないビジネスと化している。なるほど、疲弊したラスベガスから見れば、日本がまさに「黄金の国」に見える現実であった。
(おわり)
第7回 赤字構造にあえぐ街~ラスベガス訪問記(下)