――臨床研究の到達状況と課題を教えてください。
2013年4月から、不可逆性歯髄炎に罹患し、健全な歯髄を有する不要歯を提供できる患者を対象に5症例の臨床研究を実施しました。その結果、安全性に問題ないことが確認され、有効性についても5例中4例で移植後1ヵ月以内には歯髄の再生が見られました。残りの1例は、移植前に感染根管歯となりましたが、移植後9ヵ月には再生が認められました。
課題としては、幹細胞を移植する際に根管内を完全除菌しなければならないということです。そこで私たちはナノバブルと抗菌薬を併用した新しい根管洗浄方法を開発しました。
ナノバブルとは高圧ガスを含むナノサイズの水の泡です。これと抗菌薬を混ぜて根管内を洗浄します。非常に細かく複雑な根管の形状が完全除菌を困難にする要因となっていますが、ナノバブルを混ぜることで薬剤が象牙細管内の深くまで浸透し、短時間で除菌することができます。ナノバブルが実用化されれば、根管治療において先生方や患者の負担を減らすことができると思います。なるべく早く先生方にお届けできるよう研究を進めたいと考えています。
――歯髄幹細胞による歯髄と象牙質の再生。実用化への展望を聞かせてください。
実用化に向けては、臨床研究を次の段階に進め、症例を増やしていくことになります。歯髄幹細胞を分取・培養し、歯科医院に提供する細胞加工施設や幹細胞バンクの設立も進められており、自費診療にはなりますが実用化はそう遠くはないと考えています。
課題としてはやはりコストの問題です。いくら技術の安全性、有効性が確認されても何百万円もしていたのでは、手が届きません。これまでの研究では、患者自身の歯から分取・培養した幹細胞を使用してきましたが、コストが高くなるため、同種の細胞を移植することも検討する必要があります。また、幹細胞バンクが広まり若いうちに自身の細胞を保存することが一般化していけばさらにコストは下げられると思います。
歯髄幹細胞は、血管や神経を誘導する効果が他の幹細胞より高く、歯髄の再生以外にも脳梗塞の治療にも期待が持てます。一人でも多くの患者さんを歯髄幹細胞により救えるよう今後も研究を進めていきたいと思います。