――推進派はカジノによる波及効果を主張しています。
カジノの経済効果を正確に評価するには、プラス効果とマイナス効果を総合的に分析することが必要だ。
プラス効果は、①域外からの顧客によるギャンブル収益の「目的地効果」②域外に流出していたギャンブル支出を取り戻す「奪還効果」――がある。マイナス効果としては、①本来域内で消費される予定のマネーを吸収するだけの「代替効果」 (共食いとも呼ばれる)②域外資本の投資によって利益が流出する「漏出効果」――がある。
これらの評価に加え、ギャンブル依存症の増大に伴う社会的コストを勘案しなければ、最終的な社会全体の利益は判断できない。目的地効果が期待できずに代替効果が中心になれば、地域社会にとっては貧困と格差が広がり、多くの不幸を生み出すことになりかねない。日本では目的地効果はほとんど期待できない一方、依存症の社会的コストが非常に大きくなると考える。
――カジノには刑法の賭博禁止規定を無効化するほどの経済効果(公益性) があるのでしょうか。
香港の投資銀行CLSAは、日本で 12カ所のカジノをオープンすれば合計250億㌦のカジノ収益が生まれるとしている。
この推計の問題点は、カジノ収益の経済的特質を無視したものになっていることだ。ノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソンは著書『経済学』でギャンブルについて、 「新たな価値を生み出さない所得の移転」と指摘している。賭けを通じたマネーの移動でしかないゼロサム行為であり、カジノ収益そのものは何の経済的な富も生み出さないのである。
また、サミュエルソンは胴元(カジノ企業)が必ず儲かるゆえに「顧客側の所得格差を拡大する」とも述べている。カジノでは胴元側の取り分が設定されており、勝ち負けが同確率でも賭けを繰り返せば顧客側の持ち金は必ず減少する仕組みだ。カジノ収益を「経済効果」とすることは負けた側のマイナス効果を無視した極めて一面的な評価に過ぎない。その一部を還元したとしても公益性が大きいとは言えない。