――帯同で感じた個別指導の問題点は。
自分が見ている限りでは当局側の言葉遣いや態度はおおむね丁寧で、慎重に対応しているように感じる。その一方で、適切な指導とは言い難いケースもある。指導の「中断」もそうだが、もう一つ問題に感じるのは「中断」中の患者調査だ。
中断後の指導再開の場では、技官から「先生は治療をしたと言うが、患者さんに聞いたら『知りません』と答えが返ってきた」と追及されることがある。個別指導の段階で犯罪捜査まがいの患者調査はすべきではない。また、その手法も専門用語を使って患者から聞き取りをしているのではないかと思うことがある。事実誤認に基づいた指導になる危険性をはらんでいる。
――具体的にどういうことか。
例えば、当局が患者に「根管治療を受けましたか」とストレートに伝えて理解してもらえるのか。「根管治療」という用語を知らない人は、「そんな治療は受けていません」と答えるだろう。「歯の神経を取って、根っこの治療をしてもらいましたか」というように、噛み砕いて尋ねる必要がある。
患者調査の内容を当局に確認すると、そこが曖昧になっていたり、ひどい話になると小学生から聞き取りしていたりする。安易に患者調査を実施すべきではない。
――指導はどうあるべきか。
医師法・歯科医師法第1条には、「医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」とある。その根拠になっているのは憲法25条の生存権だ。
保険医を指導する目的は、複雑で難解な保険診療のルールの周知徹底を通じ、国民の健康を保障することにある。その原点に立ち返り、指導大綱にある「懇切丁寧」で教育的な指導に変えていくことが求められる。
――教育的な指導を実現するには。
過去には指導の場で罪人扱いされ、自殺にまで追い込まれた事例があった。協会の先生方を中心とする運動のなかで、指導時の録音や弁護士の帯同が認められるようになった。保団連や日本弁護士会が提言しているように、▽選定理由の開示▽カルテの事前指定▽中断手続きの適正化――などの改善を通じて保険医の権利を守ることが強く求められる。
協会の顧問弁護士として、会員の先生方の権利擁護のために指導に帯同してきた。しかしながら、個々の帯同だけでは指導を変えるには限界がある。弁護士帯同の取り組みをもっと広げ、指導・監査制度全体の改善につながる大きな運動にしていくことが望まれる。帯同経験から思う私の帰着点だ。(おわり)
※弁護士の帯同を希望される方は大阪府歯科保険医協会事務局 (TEL 06-6568-7467)までお問い合わ せください
にし・あきら:1960年 生まれ。1988年、弁護士登録(大阪弁護士会所属)。過労死裁判、原爆症認定訴訟、大阪空襲訴訟などを担当。協会顧問弁護士。