――維新の会の松井一郎大阪府知事は関西経済の活性化の起爆剤として、夢洲へのIR型カジノの誘致を推進しています。
カジノで本当に大阪は元気になるのか。府の「IR立地による影響調査」では、大阪万博前年にマリーナベイ・サンズ規模のIRを先行して開業するとし、集客数は1300万人、雇用は3・2万人増と推計している。経済効果は8600億円、税収効果は600億円と試算するなど、まさにバラ色の未来を描いている。
しかし、調査をよく見ると眉唾な話が多い。カジノ以外の収益を大きく見積もるため、集客数はシンガポールの観光客IR訪問率(38%)を大阪の観光客数に当てはめた。その半面、IR以外の客が大きく減る想定になっている。さらにカジノ運営会社から徴収する納付金は粗利の約50%で計算し、約250億円としているが、政府は10~40%で検討中だ。「効果」の水増しと批判されても仕方がない。 そもそも500億円程度では収益エンジンとしてのカジノになれない。
――IRへの訪問客が増えれば多少の経済効果があるのでは。
IRが開業すれば運営会社は集客のためにカジノのもうけで格安のホテルやレストラン、ショッピング施設を展開するだろう。IR客が増えれば、その裏返しとして大阪の他の施設を訪れる客が減ることになる。府の調査でもIR客は大幅に増加するものの、IR以外は14年比で数百万人減少する推計になっている。長期滞在型のIRは既存の大阪商圏から客を奪うことになる。
IRは最悪のカジノだ。IRが不平等な価格競争で多くの客の消費力を地元経済から奪う仕組みだからだ。カジノを合法としているイギリスでさえ、IR型カジノは認めなかった。それだけ地元経済へのマイナスの影響が大きいということだ。
――カジノに頼らずに国際競争力を高めるには。
IRの整備へ向けた政府の有識者会議は、議論の「取りまとめ」で、「我が国は、自然・歴史文化・気候・食という観光振興に必要な4つの条件を兼ね備えた世界でも数少ない国の一つ」と説明している。日本が観光資源に恵まれた国であることはカジノ推進派も認めている。
シンガポールがカジノに頼ったのは、狭小な都市国家で歴史が浅く、観光資源に乏しいからだ。16年の外国観光客数と消費額の増加率をみると、シンガポールは7年前と比べ2倍にも届いていない。日本はわずか5年で外国客数を4倍に、消費額を5倍に増やした。カジノをつくらなくても、大きな成果を挙げている。それだけの観光資源を持っている国が、なぜIR型カジノに頼らなければならないのか。観光政策を根本から問い直すべきだと言いたい。