カジノ

幻想の経済効果


鳥畑与一氏(静岡大学人文社会科学部教授)に聞く

第4回 税収上回る社会的コスト

――世界各国でカジノビジ ネスが停滞・後退傾向にあると聞きます。

近年、各国のカジノ経営は決して明るいとは言えない状況だ。米・ニュージャージー州のアトランティックシティではカジノ収益が半減し、12 軒あったカジノのうち5軒が閉鎖した。ラスベガスのストリップも回復傾向にあるがピーク時の10%減の水準である。世界で最も成功したモデルと言われたシンガポールのマリーナベイ・サンズでは、3年連続で収益が減少。ピーク時と比べ16 %も落ち込んでいる。同国のリゾート・ワールド・セントーサも40%もの収益減となっている。

世界最大の巨大カジノ市場であるマカオでも、全体のカジノ収益はピーク比で4割減だ。大きな要因として、中国人のVIPギャンブラーの市場が急速に縮小していることが指摘されている。世界のカジノ市場が飽和状態にあることは明白だ。


――ギャンブル依存症についてカジノ推進派は対策すれば問題ないと主張しています。

依存症率を減少させたシンガポールの事例がしばしば紹介される。同国の対策の特徴は、自国民のカジノ・ギャンブルを徹底的に規制している点だ。国内のカジノ宣伝や送迎サービスの禁止、入場料の徴収、低所得者層の入場禁止などに及ぶ。人口554万人のうち、カジノへの立ち入りを制限された市民は32万人を超え、カジノ参加率が大きく減少している。この数字から、いかに強い規制であるか分かるだろう。

同国政府が市民をカジノから徹底的に排除できるのは、カジノ収益が外国客に依拠しているからに他ならない。日本のIR型カジノは日本人をターゲットにし、国民全体をギャンブルに巻き込んでいくビジネスモデルだ。経済効果を優先する場合、シンガポールのように厳しく制限できるとは思えない。


――今でさえ国内にはギャンブル依存症の疑いがある人は320万人もいると推計されています。

日本では、パチンコや競輪、競馬などのギャンブルが公然と認められており、依存症の患者も多い。カジノ誘致による依存症対策を論じる前に、政府として対策を講じていてしかるべき問題だ。

この前提に立って問題点を指摘したい。推進派はギャンブル依存症対策として医療・相談体制の拡充などの効果を強調するが、依存症は「否認する病気」 「隠す病気」 「巻き込む病気」と呼ばれる。自ら病気を認識して治療に取り組むまでに財産を消費し、家族や友人を犠牲にし、健康を害し、果ては犯罪にまで至る。気づいてからでは遅いのである。ボトムに行き着いたのち、 「治癒するから問題ない」とはとても言えないだろう。

依存症患者の増加に伴い、犯罪や自己破産、健康悪化、失業など社会的コストの増大は地域経済に集中することになる。米・ニューハンプシャー州議会では、社会的コストがカジノによる税収を上回ると推計し、カジノ合法化案を否決した。日本のIRの経済効果の推計では、依存症による社会的コストは計算されていない。カジノの「負の効果」を直視しないまま誘致に突き進むことは到底許されない。

カジノ~幻想の経済効果 鳥畑与一氏(静岡大学教授)に聞く:大阪歯科保険医新聞2017.9.25~2017.11.25©大阪府歯科保険医協会