――指導現場では帯同弁護士としてどのような対応をしているのか。
被指導者は個別指導という極度の緊張状態のなか、技官の質問を正確に理解しないまま回答したり、答えが噛み合っていなかったりすることがある。ドクターが感情的になることもある。そんな時に、第三者として、「質問内容が理解できていないようなのでもう一度説明してほしい」と伝えたり、「いったん休憩しましょうか」とアドバイスしたりする。
私は一言も発さず指導が終了することもあるが、ドクターは「心強かった」と述べてくれる。帯同によって指導・監査の心理的負担を取り除き、当局による威圧的指導を排除することにつながっているのではないか。
――技官の質問を正確に理解しないとうはどういうことか。
監査の例だが、「私は確かに『不実記載』をいたしました」とする調書にサインを求められたドクターがいた。「不実記載」だとルール違反を認識していながらカルテに記入したことになる。しかし、よくよく話を聞くと、そのドクターは指導を受けて初めて誤りであることを知ったとのことだった。ルールを認識していたのと、していなかったのでは、調書にもとづいて処分がくだされる際に結果が違ってくる。調書を訂正してもらい、事なきを得たが、指導の現場でも似たようなことが起きる可能性がある。
――指導の場で保険医への人権侵害がおこるのはなぜか。
指導を監査の前の取り調べ(質問調査権)に近いものとして理解している技官も中にはいる。自分たちのコントロール下にあると、自前のストーリーに沿うよう誘導質問する傾向がある。あいまいな答え方をすると、ドクターの思いや事実とは全く違った形で受けとられかねない。帯同弁護士がチェックすべき点は、被指導者の回答と技官の認識のズレを防ぎ、議論を確認し“交通整理”することにある。つまり、行き過ぎた指導にならないよう、適正指導を守らせることだ。
――不正請求があったときはどう対応するのか。
摘発を免れたり、処罰を軽くするために不正行為を擁護することが帯同の目的ではない。黒を白と言いくるめることはできない。指導を通じて誤りを反省し、返還に応じることもある。その上で、たとえ違反の事案であっても、保険医が弁明すべきは弁明できるよう支援し、被指導者が不当な扱いを受けないために、事実と適正な手続きに基づいた指導が行われるよう援助することを心掛けている。
※弁護士の帯同を希望される方は大阪府歯科保険医協会事務局 (TEL 06-6568-7467)までお問い合わ せください
にし・あきら:1960年 生まれ。1988年、弁護士登録(大阪弁護士会所属)。過労死裁判、原爆症認定訴訟、大阪空襲訴訟などを担当。協会顧問弁護士。