カジノ

幻想の経済効果


鳥畑与一氏(静岡大学人文社会科学部教授)に聞く

第1回 刑法を無視した合法化

政府が進めるカジノ・統合型リゾート(IR)で地域経済は本当に発展するのか。IRに詳しい 鳥畑与一氏(静岡大学教授)に聞いた。

――カジノは刑法が禁止する賭博にあたらないので しょうか。

公営賭博である競輪や 競馬は刑法の賭博禁止の違法性を阻却(しりぞけること)して、「公設・公営・公益」などの8要件(下表)を満たすことで行われてきた。しかし、カジノは「民設・民営・営利」という点一つをとっても、 違法性は明らかだ。

2016年末の国会審議では、カジノ推進派はIR型カジノには「経済効果が大きく」 、税収や観光・地域経済の振興に役立つ「公益性」があるという論理で、政府見解を180度転換した。

雇用や税収の増大、観光などによる地域経済への波及効果が「公益性」と呼べるなら、税金を納めるような民間の営利活動はすべて「公益性」があることになってしまう。民営の競馬や競輪なども合法となり、パチンコもIR内で営業すれば〝3店方式〞も必要なくなる。雇用や納税などの「経済効果」があればいいのなら、もはやIR型であろうがなかろうが「合法」だ。刑法が賭博を犯罪と規定していることさえ無視している。


――経済効果が大きければ「公共性」があるといえるのでしょうか。

IR型カジノの特徴は、カジノ以外にも会議場施設やレクリエーション施設、展示施設、宿泊施設などの複合的サービスを備えていることにある。 「経済効果」という点では、単体で設置するカジノよりも大規模化する。推進派は「経済効果が大きいこと=公共性」を主張するものの、そもそも経済効果の量的基準さえ議論されていない。

IR型カジノが巨大な経済効果をもたらすがゆえに「合法」であるという論理は、IRカジノの経済効果を大きく見せようとする誘因となる。それは、より多くの日本国民をギャンブル漬けにすることと表裏一体だ。

「経済効果」の大きさを「公益性」として強調すれば、 「射幸性」を高める要因になり、 「副次的弊害」を生む可能性も高まらざるを得ない。結局、刑法の賭博禁止の要件を満たさず、違法性を阻却できなくなるという矛盾を孕む。

とりはた・よいち:1958年生まれ。大阪市立大学経営学研究科後期博士課程修了。専門は国際金融論。著書に『カジノ幻想』(ベスト新書、 2015年) など。

カジノ~幻想の経済効果 鳥畑与一氏(静岡大学教授)に聞く:大阪歯科保険医新聞2017.9.25~2017.11.25©大阪府歯科保険医協会