【8番出口 パロ】二次創作SS01

阿木くんのお墓参りに行く世界線の鐡と8番出口の怪異の話

※ゲーム『8番出口』のパロディです

※IFのお話です!!!!!!!!!頼む阿木くん死ぬな!!!!!!!!!!!

 ――はた、と気が付いた。


「ん? どうしたのクロちゃん、急に立ち止まって」


 じっと自分を見つめる切れ長の瞳は、いつもと変わらずに自分を映している。


「っ、…………」


 『阿木』といつも通り、呼びかけようとした声が詰まる。はく、と何の音にもならなかった鐵の僅かな呼吸だけが体外へと吐き出され、空気中に溶け消えていった。


 ……違う。

 彼は。コレは、阿木ではない。


 押し黙る鐵に対して、阿木とよく似た〝ナニカ〟はその瞳をじっと向け続けている。ガラス玉のような瞳からは、鐵が『自身をニセモノだと気付いた』と理解したのかどうかはわからないが、ソレは鐵の次の行動を見抜こうと観察しているようにも思えた。

 不規則になった呼吸を整えるように少しだけゆっくりと息を吸えば、鐵の肺に少し湿った香りのする空気が飛び込んでくる。地下特有のじっとりとした冷たい香りがもたらす不快感はくもった思考をクリアにしていった。


「…………」

「おーい、クロちゃん?」


 鐵は阿木に扮したナニカの質問には答えず、その代わりと言わんばかりに鋭い視線を送る。観察していることを隠しもしない、そんな視線だった。


 ソレは見れば見るほど鐵の相棒であった阿木にそっくりで、見れば見るほど全くの別人だった。蛍光灯の白い光を反射する黒髪も、その長さも、口調も、交わる視線の高さも、歩き方も、声も、全てが同じで、その全てが『偽物』であることの証明だった。

 よく考えれば当たり前のことなのに如何して気づかなかったのだろうか。


 鐵のかつての相棒である阿木は、もう既にこの世にはいないというのに。

 

 飲み込んだ唾が鐡の乾いた喉を潤していく。数刻前、彼の墓前で飲んだ苦いコーヒーの味を思い出した。


 生きている人間にとって大切な故人の姿を借りてやってくるモノが、とうていまともな存在だとは思えない。少しずつ回り始めた頭で考えてみれば、どうしてこんな地下通路にいるかさえ思い出せないのだから、おそらく鐵の気づかぬうちに取り込まれていたのだろう。


 仮に、目の前の阿木の姿を真似た存在が襲い掛かってくると仮定しよう。

 その場合、鐵は己の肉体のみで応戦しなければならない。墓参りの帰りだという最後の記憶が正しいのであれば、おそらくここは日本である。当然、武器など所持していない。

 果たして自分が勝てる相手なのか、そんな考えが鐵の脳裏をよぎっていく。

 別に、阿木に似た存在を手にかけることが嫌な訳ではない。コレはけして彼などではなく、ただ物真似をしているだけの存在だからだ。どちらかといえば「不愉快」の一言につきるので、許されるのであれば〝処理〟したいとさえ考えてしまうかもしれない。

 鐵が心配しているのはソレに触れた時、問題が起こらないかどうかという点だった。自身の肉体が溶ける、壊死する、アレに取り込まれる、なにかしらの『呪い』を受ける――。

 目の前の存在が人知を超えたものなのであれば、どれもこれもあり得ない話ではない。


「えっ、」


 そこまで考えたものの、鐡のやるべきことはとうに決まっている。くるり、と踵を返した鐵に対して阿木の紛い物は驚いたような声を上げた。


 『異変を見つけたら、すぐに引き返すこと』


 これは〝異変〟だ。だから、引き返さなければならない。

 背を向けた瞬間に襲い掛かってくる可能性があるが、前に進むという選択肢がない以上、そうする他はない。

 ご丁寧に壁に貼り付けられた注意書きには『手を出してはいけない』という記載はなかったが、同時に『危害を加えても構わない』とも書いていなかった。唯一の指示は『引き返すこと』のみ。それならば従うまでである。


「ねえ、クロちゃんってば!」


 それに。


「ねえ、ってば!」


 万が一、彼が『本物の阿木健生』なのであれば。


 引き返し始めた鐡の背に言葉を投げかけるのではなく、速足で駆け寄り、鐡の隣にやって来るはずなのだ。


「――おいていかないで」


 背後からそんな声が聴こえたと同時に曲がり角に到達する。鐡は一切振り向かずに右へ曲がるとそのまま歩き続けた。

 引き留めるような声はもう聞こえてこない。

 長い通路を歩き続けた鐵の視線の先、壁に貼り付けられた案内板の文字は『0番出口』ではなく、『1番出口』に変わっていた。


「――おいて逝ったのはお前の方だろう、阿木」


 ぽつりとこぼれた呟きには憎しみも、悲しみの色もなかったが、どこか少しだけ虚しさを覚えるものだった。

▽あとがき


鐵は阿木くんが先に死んでしまったことを恨んでいたりはしません。環境が環境だし、お互いにいつ死んでもおかしくはないと思っているので。

いろんなものを見てきたけれど『死後の世界は存在しない』と思っているので、阿木くんの姿が見えたら普通は警戒するのに今回何も感じなかった自分は許せない。


鐵にとっての『阿木くん』って生きていた阿木くんだけで、記憶の中の阿木くんのことも自分が改変している可能性があると考えているので、もう『本当の阿木くん』には会えないと思っています。

死んでも会えない人です。死後の世界があると思ってないから。

思い出を振り返る度に「本当の阿木はなんて言ったんだったか」とか考えてます。


ちなみに、もし襲ってくるタイプの異変だったとして。

異変の阿木くんに襲われて死ぬとしても「ああ、見抜けなかったんだな俺は」って自分に落胆しつつ、当然の報いだな~って思います。

応戦はしようとするけど、8番出口の異変って普通に追いつかれたら〝ゲームオーバー〟なので応戦する間もなく即死するかな、と。


※進む時は左に曲がっていたはずなので、右曲がりであってるはず。多分。その辺はちょっとうろ覚えです。