【懐胎】ふせ03

D-4の変身が強制解除された後に、タブーに変身する時はもう完全に頭に血が昇ってた。死ぬ覚悟はできてないけど、死ぬかもとはちゃんと解ってた。


手毬は楽観的なので自分の状況がどこまで危機的なのかあまり考えてないから、最初の方(ひとみのお腹が大きくなるまで)は脱出系のホラゲみたいだなあって暢気に考えてた。誘拐はやばいな、とはちょっとだけ考えてたけど。ごみ箱で『お話』を見つけた時も、因習がテーマのホラゲみたいだなあ、くらいにしか考えてなかった。

でも、ひとみの腹部が大きくなって苦しそうな彼女を見た瞬間にさっき読んだ『お話』がどうしてもチラついて、もしかしてひとみは呪われた【裏切者】なのかもしれない…?となんとなく考える。そもそも元々あまりよくなかった顔色を更に酷くして、脂汗をかきながら苦しむひとみが心配でしょうがない。でも何の知識もないので、何とかしてあげたいけど何もできなくてモヤモヤしてた。途中で手を握ったのは、自分にできるせめてもの行動を苦し紛れに取った、という感じ。

この時点で【呪われた裏切者】=【三上ひとみ】は手毬の脳内にある。


探索を続け、生態研究室の操作パネルの映像を見た瞬間に、ひとみの両手に圧迫痕があったことを思い出し、【映像の女性】=【ひとみ】=今まで見てきた実験レポートで酷い目に遭っていた【アンノウン】だとひらめいてしまう。居ても立っても居られなくなり、苦しげなひとみに抱き着くけど、今はその記憶をなくしているひとみに真実を話すことはできなくて「なんでもない、なんでもないの」としか言えなかった。

実験室の地面にあった小さな文字に、ひとみに対して呪いをかけているくちなわさまが憎くて、研究員もへび人間も憎くて、何もかもが許せなくなってた。自分が何もできない無力な子供であることにも怒りが湧いていた。そこに来てひとみの震える声の「死にたくない」で全部プッツンした。


部屋に入った瞬間に目にしたイグを見た時も怖さの前に怒りで恐怖なんて感じなくなってるし、何が何でもとにかく目の前にいるそいつをぶっ飛ばしたかった。

(メインブリッジに入る前の段階で、ファルルはD-3に変身してしまっていたから自分が戦うしかないと思ってた。)

でも、殺してしまったらひとみに精神を移してしまう事は全部の情報が出そろった時点で気づいていたから、自分はあくまでも時間を稼ぎだっていうのはちゃんと頭の中にあった。まだ冷静なところがちょっと残ってた。で、「あとは頼んだよ、マブ」ってファルルに言ったんだけど…。

――D-4の変身が解除された瞬間に、あ、まずいな、って。頭から冷水をかけられたみたいに急に冷静になった。(実際は頭を鷲掴みされてたんだけど笑)あっさりD-4の変身は解けちゃったけどファルルはまだ戻ってこない。事前に見た資料でタブーはかなり危険なのはわかってた(だからこそファルルには見せずに隠し持っていた)。


 ……いま、頭を鷲掴みにされた状態のまま、ただの人間でいたのなら。ぼろ雑巾なんて言葉じゃ足りない、もはや原型なんて留めずに壁に血糊を残すだけの肉片に変わるんじゃないか。

 スプラッターなホラゲだってやった事があるせいで、リアルに予想ができてしまう自分の【死】が手毬の頭の中を駆け巡る。人間の技術力で作られたD-2とはいっても、少なくとも装甲のあった小沢は気絶しているあの攻撃を、何もまとわない自分が受ければ。どう考えても死ぬ。タブーになっても死ぬかもしれない、何もしなければ確実に死ぬ。それならば――

 ――それならせめて、死ぬかもしれなくても時間稼ぎを続けるべきだ。タブーに変身しても、狂わなければ元に戻れる可能性があるから。


ということでちょっと怖気づいたけど何もしないと死ぬなら死にたくないなってタブーに変身した。変身した後は「離せやコラ」ってバチボコにキレたので殴り合いを開始した。この時点でもまだ精神を保っていたんだけど、無事にファルルが救難信号を出してヘリポートに向かう道中、ひとみが転んだ瞬間に張りつめていた糸が切れちゃったんだと思う。あ、ヤバい(2回目)。それで狂った。仕方ないよね、か弱いJKだもん。


ひとみが転んでからヘリで目が覚めるまでは、もう発狂してたから手毬は何にも覚えてない。だからヘリの中で「あいつは?!」「ここどこ?!」「ひとみちゃんは?!」って矢継ぎ早に聞くんだけど、ファルルの「俺やったぞ、マブ」って言葉に、助かったんだ、ファルルが頑張ってくれたんだって安心するし、隣の『一番助けたかった人』のひとみが生きていることに涙腺が崩壊した。ただただ良かったって気持ちで胸がいっぱいになってボロ泣きした。で、ここで選択を迫られる。


 ――仲間になるか、忘れるか。


目が覚めてすぐに聞かれるから頭はそんなにすぐに冷静にはなってないけど、自分は『自分の命を懸けて戦うな』っていう言葉を守れなかったこと、怒りで冷静になれなかったこと、さっきと同じように死ぬかもしれない状況にまた陥るかもしれないこと、そんな考えが手毬の頭を巡って【忘れる】を選択した。

ひとみのことを忘れるのは心の底からつらいけど、でも自分は何の力もないちっぽけな子供だから、世界のために戦う覚悟はできない。さっきは怒りで恐怖を感じなかったけど、冷静な状態では恐怖に負けて逃げ出してしまうかもしれない。それならやっぱり忘れる方が正しい選択だ。というのが手毬の最終結論。



P.S.

JKに世界の命運を託しちまった…!待ってこれ『仮●ライダー』じゃなくて『プ●キュア』じゃん(考える顔文字)

手毬はめちゃくちゃ強い子だったので、SANは黒字になった。しばらく幻覚見えてるけど。えらい!

死ぬほどハラハラしたし、戦闘のダイス目で死ぬかと思ったけどめちゃくちゃ楽しかったのでいつか自分もKPで回したい~~~!