都市気象モデル開発

English

 都市気象の研究を行う方法の一つとして数値シミュレーションがあります。現在では数値モデルを用いた研究が多く行われており、日下研では都市の特徴的な気候を再現するための数値モデルの開発が進められています。

都市街区気象モデル(LES)

 日下研では都市気象、サーマル、霧などの気象現象を対象にしたLarge Eddy Simulation(LES)モデルの開発を行っています。多くの気象モデルでは、アンサンブル平均に基づいた乱流モデルを用いているため、ランダムな渦変動は計算対象にはならず、突発的に起こる渦・擾乱の再現には向いていません。一方LESでは、計算格子間隔でとらえることのできる渦変動を直接数値的に解析し、それ以下のスケールの渦変動のみモデル化を行います。そのため、LESを用いることで大気境界層内や都市境界層内で発達する複雑な乱流構造を直接計算することができます。

 都市街区内の熱環境をLESを用いて計算したい場合、都市の建物を解像する他に、都市街区内の放射過程を計算するモデルが必要となります。街区内は建物が密集するほか、街路樹も林立しているため、放射環境は非常に複雑になります。日下研では、このような複雑な放射過程を計算するモデルとして、ラジオシティ法を用いた街区内放射モデルの開発を行っています。ラジオシティ法を用いると、複雑な街区構造であっても、高精度に放射計算をすることができます。この街区内放射モデルで求めた短波・長波放射量の計算値を基に、表面温度、顕熱・潜熱フラックスが求めることができ、LESモデルと結合することで都市街区内の詳細な熱環境を再現することが可能となります。

開発中のCity-LESモデルによってシミュレートされた東京駅周辺の気温変化

開発中のCity-LESモデルによってシミュレートされた東京駅周辺の地上気温の分布 

 複雑な放射過程を考慮することで、 都市内の熱環境を高解像度・高精度に再現することができます。LESモデルによる地表面温度分布()と観測による地表面温度分布(右)とを比較しても大差はなく、LESモデルの精度の高さがうかがえます。

東京駅周辺の地表面温度分布(12時)[℃]
(左)City-LESを用いたモデル図 (右)ヘリコプターによる観測図
(観測図は東京都環境科学研究所より提供)

都市キャノピーモデル(UCM)

 都市キャノピーモデルとは、都市の建物の効果を物理的に反映させたモデルのことで、WRFなどの気象モデルに取り入れられています。特に、日下先生の開発した単層都市キャノピーモデルは領域気候モデルWRFに公式採用されており、世界中のユーザに多く使用されています(Kusaka et al. 2001)。このモデルは、都市表面を道路面・壁面・屋根面の3つにわけ、それぞれの面に対して熱収支を解いていることが特徴であり、建物が存在することによる日陰の効果、建物間での風速の低減効果、建物間における日射や長波放射の反射効果も考慮されています。このモデルを使用することで、都市部で夜間に気温が下がりにくい効果を精度よく再現できるようになりました。

Kusaka et al. 2001より

領域気象モデル(WRF)

 WRFは、米国大気研究センター(NCAR)と米国海洋大気庁予測センター(NCEP)で開発された学術研究と天気予報の両方に対応した数値気象モデルです。もとはメソスケール・モデルとして開発されてきましたが、近年は気候シミュレーションやLESまで、様々なスケールの現象に適用できるよう改良を重ねてきました。日下研究室では、そんなWRFのポテンシャルを最大限に引き出すくらいの勢いで、実に様々なスケールの現象の解明にWRFを使っています。

 日下先生は、WRFで初めて公式なモデルとして採用されたUCMの開発者です。このことから、日下研ではWRFを用いた都市気候の研究がさかんに行われています。その他にも、海風や都市降水、都市の温暖化予測など、広い分野でWRFを活用しています。また、詳細な人口排熱分布や都市の密集度を考慮できるようになど、WRFの改良も行っており、特に都市モデルの改良やより精度の高い土地利用の組み込みなどに取り組んでいます。

2050年のホーチミンにおける人工排熱分布

(文責:山田 絵理花・八木 碧月)