局地風

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局地風(おろし風、ギャップ風)

 局地風とは、ある地域だけで吹く局地的な風のことです。高校の教科書では地域風と呼ばれています。局地風には気流が山を越える際に山の風下側斜面やその麓で吹く「おろし風」、谷の出口で吹く「ギャップ風(地峡風・海峡風)」などが挙げられます。実際の山脈には谷や峠があり、そこを選択的に降りてきて谷の出口で強風が見られることもあることから、両者の区別は研究者によって異なることもあります。

 谷を持つ山脈の場合、おろし風とギャップ風の判別は難しい面もありますが、スーパーコンピューターと数値モデルの発展により、おろし風のメカニズムは最近見直されてきていて、教科書に載っている従来の概念が一部変わりつつあります。

 他にも陸と海の間の温度差で吹く「海陸風」や平地と山岳の間で吹く「山谷風」など熱的要因の弱風も局地風の仲間に入れられることがあります。身近な風なので古くから研究されていて、そのメカニズムもおおよそ理解されています。近年では都市と海風の関係が注目されています。

おろし風のイメージ図

ギャップ風のイメージ図

 日下研究室の学生たちは、これまでそれぞれの地元で吹く局地風の研究を行ってきました。これは、地元は土地勘があることからその地域の特徴についてよく知っていたり、現地の方とのコミュニケーションを円滑に進めやすいというメリットがあるためです。以下で、これまでの研究について一部紹介します。

Nishi and Kusaka (2019) : 関東地方で吹く「空っ風」

空っ風はおろし風の一種であること、ただし一般的なおろし風よりも山から降りて来やすい性質を持っていることを示し、その原因は山脈が曲がっているためだという、新しい説を提唱しました。また、空っ風はこれまでボラ型の局地風だと広思われていましたが、実はフェーン型も同じくらい多いことを統計的に明らかにしました。

図:空っ風発生時の地上風分布図

Koyanagi and Kusaka (2019): 富山県砺波平野で吹く「井波風」

 日本最強の局地風は、従来より言われてきたやまじ風・広戸風・清川だしの3大悪風(3大局地風)ではなく、実は富山県砺波平野で吹く「井波風」であることを長期間のデータから示しました。また、井波風が世界の局地風と比べてとりわけ狭い範囲でしか吹かない理由は、八乙女山からのハイドロリックジャンプ(跳ね水現象)を伴うためだということをつきとめました。

図:井波風とそれを防ぐ屋敷林

図:井波風の分布と局所性

Asano and Kusaka (2021): 山形県の鳥海山山麓で吹く「鳥海おろし」

 山形県で発生した白穂(稲穂が白く枯れる現象)の原因を調査しました。その結果、鳥海山を迂回しながら吹きおろす局地風「鳥海おろし」によってフェーン効果が局所的に強まり、白穂が発生したことを明らかにしました。フェーンが白穂を引き起こすことをシミュレーションで証明した世界初の研究となりました。

図:鳥海おろしによるフェーン効果 。温位(左)と風速(右)

フェーン現象

 フェーンとは、ヨーロッパのアルプス地方で吹く局地風の名前です。フェーンは、山脈風下側で吹く高温乾燥の強風のことで、ロッキー山脈の風下側で吹くチヌーク(シヌーク、シヌック)をはじめとして、似たような風が世界中で確認されています。それぞれ、チヌークのように固有の名前を持っていますが、フェーン型の山越え気流をフェーンと呼ぶこともあります。

 フェーンとフェーン現象は混同されがちですが、フェーンは風そのものの名前、フェーン現象は山越え気流による高温乾燥強風現象を意味します。日本では、フェーン現象というとこのうちの特に高温現象をさすことが多いです。一方、アルプスやロッキーでは強風のイメージの方が強いようで、研究の多くは強風に着目して行われています。

 最近では、scramblingを伴うフェーンなど世界中でさまざまなタイプのフェーンが提唱されており、フェーンはおろし風と同様その概念が変わりつつある現象でもあります。以下で、これまでの研究の一部について紹介します。

Kusaka et al. (2021) : 富山平野で発生したフェーン現象

 過去10年間に富山平野で発生したフェーン現象198事例を対象に、フェーンのメカニズムをタイプ別に分類しました。その結果、フェーンの約81%が力学メカニズム(山の風上斜面に降水なし)で発生していることが分かりました。驚いたことに、教科書でよく見る純粋な熱力学メカニズム(山の風上斜面で降水あり)はわずか1%しかありませんでした。残り18%は力学と熱力学メカニズムの混合型(Scramblingを伴う)でした。

力学フェーン

熱力学フェーン

力学・熱力学の混合型

混合型(Scramblingを伴う)

図:主なフェーンのタイプ

(文責:中井 猛人・安倍 啓貴)