ヒートアイランド現象とは、都市がその周囲の郊外よりも気温が高くなる現象です。夏の日中に最も強く現れると思っている人が多いようですが、実際には、秋や冬の夜間に最も強く現れます。
また、関東地方の内陸が暑い理由(熊谷が暑い理由)として、東京の熱が海風によって運ばれるためだという説明をしばしば目に耳にしますし、以前の熊谷地方気象台のHPでもそのような説明をしていましたが、実はそうではありません。もしそうなら、暖気移流ということになり、東京の方が熊谷よりも高温でなくてはなりません。現在の熊谷地方気象台のHPでは、正しい説明に修正されています。
都市のヒートアイランド現象のメカニズムは、古くから研究されていますが、いまだに完全には解明されていません。日下研究室では、観測と数値実験によって、ヒートアイランドのメカニズムの解明という大きな未解決問題に取り組み続けています。Kusaka and Kimura (2004)は、長い間議論されてきた「ヒートアイランド強度が最大になるのは、日没数時間後なのか、それとも早朝なのか?」という未解決問題に一定の答えを出しました。
日下研究室では、過去および将来の土地利用変化や人工排熱の増加がヒートアイランドや海風に与える影響を調査しています。その対象は、東京に始まり、仙台、ベトナムのホーチミン、ハノイ、ブルガリアのソフィアなど、学生たちの興味とともにどんどん広がっています。
近年、地球温暖化やヒートアイランド現象により都市の暑熱環境が悪化しています。都市の暑熱環境が悪化すると熱中症になりやすくなるため、日下研究室ではそういった環境を改善させるための暑熱対策の研究をしています。
さて、暑熱対策というと皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?例えば、Kusaka et al. (2022a)では藤棚と学校の運動会などでよく使われるテントの下で暑さ指数(WBGT)を観測したところ、藤棚はWBGTを約2℃下げることができ、テントよりも約1℃大きな低減効果が見込めることが判明しました。
また、Kusaka et al. (2022b)では、街路樹・ドライミスト・日傘の環境下でのWBGTを観測し、3つのうち最も効果があるのは街路樹で、WBGTが日向より1.9℃低下することがわかりました。
そのほかにも、暑熱対策は壁面や屋上の緑化、海風の活用などがあります。図1は、壁面緑化の暑さ指数を評価するために町中に放射計を設置した様子を示しています。図2は、サーモカメラによって撮影された壁面緑化と地面の表面温度です。これらの図から、壁面緑化が表面温度を低下させていることがわかります。
暑熱対策の研究は実際に観測を行ったり、City-LESやENVI-metを用いた数値シミュレーションを行ったりしています。さらに被験者を伴った実験も行っており、暑熱対策は生気象(健康気象)とも密接なかかわりがある研究分野です。
(文責:諸橋 聡佳・山口 あい)