山岳などの地形によって、雲や降水域が形成・強化されることがよくあります。地形によって形成・強化された雲・降水域は、局地的な大雨や大雪をもたらしたり、あるいは降水・降雪を抑制したりします。日下研究室では、これらの気候学的な特徴をはじめ、メカニズムの解明に取り組んでいます。
局地前線は、風・気温の急変化によって積乱雲の発生や降水量を増加させたりします。日下研究室では、日本海低気圧や南岸低気圧に伴って発生する関東地方の局地前線、通称「沿岸前線」について研究を行っています。
関東地方の局地前線は、長さ数百km・厚さ数百m程度の規模で、関東内陸に生じた冷気層に海からの暖気が滑昇して発生すると言われています。また、局地前線ができることによって、関東内陸の視程悪化や降水量増加などが生じることが知られています。Kusaka and Kitahata (2009)は、寒冷前線が日本列島を通過する際にみられる降水パターンと局地前線の関係を調査しました。
山脈の風下では「雨陰・雪陰」と呼ばれる現象によって、降水量が少なくなります。冬季の日本列島では日本海側は大雪だけど、太平洋側は雪がほとんど降らないのもその効果です。日下研究室では、世界的に見ても小さな島である佐渡島で見られる「佐渡ブロック」と呼ばれる雪陰効果について研究しました。
新潟市は世界的な豪雪地帯に位置していますが、降雪量はそれほど多くなく、日本海側の他の地域よりも少ないです。これは佐渡島が雪雲をブロックして雪が少なくなるという説が唱えられています。この佐渡島の雪陰効果は、気象予報士や現地の方々の間で「佐渡ブロック」「佐渡ガード」と呼ばれ広く信じられています。
「佐渡ブロックは本当に存在するのか?」「佐渡島の雪陰のメカニズムは何なのか?」日下研究室では、気象レーダーの統計解析と気象モデルを用いた数値実験によって研究しました。佐渡ブロックは季節風が吹いている日の80%の割合で発生していることが分かりました。さらに、数値実験から佐渡島の雪陰効果は風下150 kmまで及ぶことが明らかになりました (Kusaka et al., 2023)。
この研究は多くの研究者や気象予報士の間で話題になったほか、地元新潟県のニュースや新聞にも取り上げられました。
佐渡ブロックの観測とシミュレーション
(a)気象レーダーの3時間降水量, (b)佐渡島がある場合の降水量,
(c)佐渡島が無い場合の降水量, (d)佐渡島の雪陰効果
“寒気せき止め現象(英:Cold-Air Damming)” とは、山脈によって冷たい空気がせき止められることで、山脈東側の平野部がまとまった寒気層に覆われる大気現象のことをいいます。関東地方でも時折発生し(Sengoku et al. 2024)、場合によって首都圏での降雪や台風接近時の記録的な大雨・強風といった極端な現象に関わることが指摘されています。
私たちは、この現象の実態解明に向けて、独自の高層気象観測や数値シミュレーションに基づく解析などに取り組んでいます。
山岳を迂回する流れによって、その風下では帯状の雲域や降水域を形成することが知られています。これらを総称して「収束線」と呼ぶことがあります。
日下研究室では、日本の太平洋側に発生する収束線について研究を行っています。日本では「日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)」が一番有名ですが、それ以外にも中部山岳の風下に発生する「房総不連続線」や、紀伊山地や四国山地の風下で発生する収束線もあります。太平洋側で発生する収束線でも降雨・降雪や竜巻などの突風を発生させるので、関心の高い現象です。現在、収束線の発生位置の違いと移動のメカニズムについてや、帯状の積雲列の形成メカニズムについて研究しています。
2021年12月26日14:00JSTのひまわり8号のトゥルーカラー再現画像
提供:情報通信研究機構(NICT)
局地前線
Kusaka, H., and H. Kitahata, 2009: Synoptic-scale Climatology of Cold Frontal Precipitation Systems during the Passage over Central Japan. SOLA, 5, 61-64. (DOI:10.2151/sola.2009‒016) PDFはこちら
雨陰・雪陰
Kusaka, H., N. Suzuki, M. Yabe, and H. Kobayashi, 2023: The snow-shadow effect of Sado Island on Niigata City and the coastal plain. Atmospheric Science Letters, 24(11), e1182. (DOI:https://doi.org/10.1002/asl.1182) PDFはこちら
寒気せき止め現象 (CAD)
(研究中...)
収束線
(研究中...)
(文責:鈴木 信康)