都市の雲・降水・霧

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都市の雲

 都市の影響を受けていると考えられている雲として、東京の環状8号線道路付近の上空に積雲列となって出現する「環八雲」があります。環八雲が出現する場所は東京湾と相模湾からの2方向の海風が収束する場所にあたり、基本的に環八雲は海風の収束によって自然的に発生すると考えられています。

 ただ、都市が環八雲の位置や量に影響しているというシミュレーション結果があり、都市は雲の発生に影響する可能性があります。

都市は降水を発生・強化させるのか?

 「都市は降水を発生・強化させるのか?」日下研究室では、この未解決問題に長らく取り組んできました。

 この問題に対して有効だと考えられている手法に、都市の感度実験(応答実験)があります。これは、都市がある場合とない場合の気象シミュレーションを行なって比較し、都市の応答(つまり降水に対する都市の影響)を調べる方法です。

 Kusaka et al. 2014は、関東地方を対象に領域気象モデルWRFを用いて都市がある場合とない場合の降水シミュレーションを多数実施し、両者の結果に有意な差があるか検定を行いました。その結果、都市化が都市上で夏季に強い降水を増やすことを世界で初めて統計的に示しました。さらに、都市化による海風前線の強化・海風による水蒸気輸送量の増加・山岳起因の降水系からの冷気外出流と海風の収束の強化が強雨を増加させることを明らかにしました。

 Kusaka et al. 2014による統計的な検定の結果とそこで提唱したメカニズムは、世界的に有名な都市気候の専門書「Urban Climates」(Oke et al. 2017)の284ページ目で紹介されました。

都市の存在による8月の月降水量増加率
Kusaka et al. 2014より)

都市の存在による3h降水強度別頻度の増加率
左からCTRL(東京都市圏の平均)、HB1(東京都心の平均)、HB2(人工排熱HB1の2倍)
Kusaka et al. 2014より)

 Kusaka et al. 2019は、東京都市圏で都心の風下で短時間強雨の頻度が高いことを観測データを用いて統計的にました。さらに、その原因が都市化による海風前線の変形であることを243メンバーの2次元アンサンブル感度実験により明らかにしました

都市による海風改変を介した収束域の変化を表す模式図
Kusaka et al. 2019より)

都市の霧

 都市は降水を増加させる一方で、都市の霧日数を減少させているのではないか、と言われています。Gu et al. 2019では、Gu先生・日下先生・ドアン先生らが領域気象モデルWRFを用いた数値実験によって、都市化が霧日数を減少させることを世界で初めて示しました。

上海での霧の年間発生数の減少
※霧の発生タイプごとに色分け
Gu et al. 2019より)

(文責:学生一同)