生気象(健康気象)

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生気象健康気象

 「生気象」は、Biometeorology(バイオメテオロロジー)を日本語訳したものであり、気象・気候と人間を含むあらゆる生物との関係を研究する、非常にグローバルな研究テーマです。なかでも、地球温暖化や都市ヒートアイランド現象由来の気温上昇は、人体へ様々な健康被害をもたらすため、近年多くの関心が向けられています。こうした背景を踏まえ、日下研究室では、気象モデルや統計解析、被験者実験などの手法を用いて、様々な研究テーマに取り組んでいます。以下、これまでの研究成果の一部を紹介します。

Okada and Kusaka (2013) : 黒球温度推定式の開発

 日本では、熱中症リスクの指標として、「湿球黒球温度(WBGT)」が広く利用されています。WBGTの算出には、気温や湿度の他に、「黒球温度」という放射や気流が影響する温度が必要となります。Okada and Kusaka (2013)では、この黒球温度をアメダスから得られる要素のみで推定できるよう、黒球の熱収支を基にした推定式を開発しました。

Ikeda and Kusaka (2021) : 熱中症搬送者数予測モデルの開発

 Ikeda and Kusaka (2021)は、機械学習と統計解析を用いて、熱中症搬送者数予測モデルを開発しました。暑熱順化を考慮したことで、従来のモデルと比較して予測誤差が半減し、大幅な精度向上に成功しました。

2018 年 6 月 1 日から 9 月 30 日までの 1 日あたりの熱中症患者数

灰色の棒グラフが実際に観測された熱中症患者数

折れ線がモデルによる予測患者数(Ikeda and Kusaka, 2021)

Asano et al. (2022) : 暑熱ストレスによる知的生産性の低下を検証

 Asano et al. (2022)は、真夏日に屋外をたったの15分間歩いただけで、直後の学習・仕事能力(知的生産性)が低下することを発見しました。低下した知的生産性は屋内に戻ってから50分間で元の水準に戻ることも確認されました。

Asano et al. (2022)で実施された被験者実験の写真
(a)屋内でのテスト時,(b)屋外での歩行時

 その他、日下研究室では、将来における、寝苦しい夜の増加(日下ほか, 2013)、スキー場の営業日数の減少(Suzuki-Parker et al., 2018)など、温暖化の影響評価も行っています。

(文責:中村 祐輔)