小部経典(クッダカ・ニカーヤ)

 

13. 2. ジャータカ聖典(本生経・第二部)

 

【目次】

 

17. 四十なるものの集まり

 

17. 1. テーサクナの章

 

17. 1. 1. テーサクナ・ジャータカ(三者の鳥・本生物語521)

17. 1. 2. サラバンガ・ジャータカ(サラバンガ・本生物語522)

17. 1. 3. アランブサー・ジャータカ(アランブサー・本生物語523)

17. 1. 4. サンカパーラ・ジャータカ(サンカパーラ・本生物語524)

17. 1. 5. チューラスタソーマ・ジャータカ(小なるスタソーマ・本生物語525)

 

18. 五十なるものの集まり

 

18. 1. ニリニカーの章

 

18. 1. 1. ニリニカー・ジャータカ(ニリニカー・本生物語526)

18. 1. 2. ウンマダンティー・ジャータカ(ウンマダンティー・本生物語527)

18. 1. 3. マハーボーディ・ジャータカ(大いなる菩提・本生物語528)

 

19. 六十なるものの集まり

 

19. 1. ソーナカの章

 

19. 1. 1. ソーナカ・ジャータカ(ソーナカ・本生物語529)

19. 1. 2. サンキッチャ・ジャータカ(サンキッチャ・本生物語530)

20. 七十なるものの集まり

 

20. 1. クサの章

 

20. 1. 1. クサ・ジャータカ(クサ・本生物語531)

20. 1. 2. ソーナナンダ・ジャータカ(ソーナとナンダ・本生物語532)

 

21. 八十なるものの集まり

 

21. 1. 小なる鵞鳥の章

 

21. 1. 1. チューラハンサ・ジャータカ(小なる鵞鳥・本生物語533)

21. 1. 2. マハーハンサ・ジャータカ(大なる鵞鳥・本生物語534)

21. 1. 3. スダーボージャナ・ジャータカ(甘露の食料・本生物語535)

21. 1. 4. クナーラ・ジャータカ(クナーラ・本生物語536)

21. 1. 5. マハースタソーマ・ジャータカ(大なるスタソーマ・本生物語537)

 

22. 大なるものの集まり

 

22. 1. ムーガパッカの章

 

22. 1. 1. ムーガパッカ・ジャータカ(唖にして片輪なる者・本生物語538)

22. 1. 2. マハージャナカ・ジャータカ(大なるジャナカ・本生物語539)

22. 1. 3. スヴァンナサーマ・ジャータカ(スヴァンナサーマ・本生物語540)

22. 1. 4. ニミ・ジャータカ(ニミ・本生物語541)

22. 1. 5. ウマンガ・ジャータカ(隧道・本生物語546)

22. 1. 6. ブーリダッタ・ジャータカ(ブーリダッタ・本生物語543)

22. 1. 7. チャンダクマーラ・ジャータカ(チャンダ王子・本生物語542)

22. 1. 8. マハーナーラダカッサパ・ジャータカ(大なるナーラダカッサパ・本生物語544)

22. 1. 9. ヴィドゥラ・ジャータカ(ヴィドゥラ・本生物語545)

 

22. 1. 9. 1. 異常嗜好の章

22. 1. 9. 2. 宝珠の章

22. 1. 9. 3. 博打の章

22. 1. 9. 4. 在家の居住についての問い

22. 1. 9. 5. 特相の章

22. 1. 9. 6. 王〔の家〕における住〔のあり方〕

22. 1. 9. 7. 中略あるもの

22. 1. 9. 8. 善き人の法の章

22. 1. 9. 9. カーラー山の章

 

22. 1. 10. ヴェッサンタラ・ジャータカ(ヴェッサンタラ・本生物語547)

 

22. 1. 10. 1. 十の願い事の話

22. 1. 10. 2. 雪山

22. 1. 10. 3. 布施の章

22. 1. 10. 4. 入林

22. 1. 10. 5. ジュージャカの部

22. 1. 10. 6. 小なる森の説明

22. 1. 10. 7. 大なる森の説明

22. 1. 10. 8. 幼児たちの部

22. 1. 10. 9. マッディーの部

22. 1. 10. 10. 帝釈天の部

22. 1. 10. 11. 大王の部

22. 1. 10. 12. 六者の士族の行為

 


 

 

13. 2. ジャータカ聖典(本生経・第二部)

 

阿羅漢にして 正等覚者たる かの世尊に 礼拝し奉る

 

17. 四十なるものの集まり

 

17. 1. テーサクナの章

 

17. 1. 1. テーサクナ・ジャータカ(三者の鳥・本生物語521)

 

1. 〔王が尋ねた〕「ヴェッサンタラに、あなたに、尋ねます。鳥よ、あなたに、幸せが存せ。王権を為すことを欲する者によって、いったい、何が、為されるべきであり、為されたなら、優れたものとなるのですか」〔と〕。

 

2. 〔ヴェッサンタラが答えた〕「父が、バーラーナシーの領主であるカンサが、まさに、長きのはてに、わたしに──怠りある者が、怠りなきわたしに、父が、子に──〔教示を〕促しました。

 

3. まずは、最初に、真実を離れるもの(虚偽)を、忿激〔の思い〕(怒り)を、〔あざけりの〕笑いを、防ぎ護るように。そののち、諸々の為すべきことを為すように。士族よ、それを、〔人々は〕掟と言います。

 

4. 父よ、〔まさに〕その、あなたが〔為すところの〕苦行の行為──疑念〔の余地〕なく、過去において為されたものであり、貪る者として、さらに、怒る者として、〔まさに〕その、〔あなたが〕為すところの〔苦行の行為〕──それを、もはや、そののち、為さないように。

 

5. 国土を繁栄させる者(王)よ、士族が怠っていると、国土において、一切の財物が消失します。それは、王の罪と説かれます。

 

6. 父よ、シリー(吉祥天)は、かつまた、アラッキー(不吉天)は、〔問いを〕尋ねられた者たちとして、この〔言葉〕を説きました。『嫉妬〔の思い〕なく、奮起と精進ある人を、わたし(シリー)は喜ぶであろう』〔と〕。

 

7. 嫉妬〔の思い〕と悪しき心臓(悪心)ある、行為の汚れた人を、大王よ、輪の破壊者であるカーラカンニー(アラッキー)は喜びます。

 

8. 〔まさに〕その、あなたは、全ての者たちにたいし善き心の者として、全ての者たちにとって守護ある者として、〔世に〕有りなさい。大王よ、不運を除きなさい。住居地は、幸運とともに有れ。

 

9. まさに、その、幸運と堅固を成就した人士にして、大いなる領主たるカーシ〔国〕の長は、朋友ならざる者(敵)たちの、根元を、さらに、先端を、断ち切ります。

 

10. まさに、生類の長たる帝釈〔天〕もまた、奮起において怠ることがありません。彼は、善において〔道心〕堅固を為して、奮起において意を為します。

 

11. 音楽神たちは、祖霊たちは、天〔の神々〕たちは、生を共にする者たちとして、如なる者たちとして、〔世に〕有ります。奮起している者たちに、怠りなくある者たちに、天神たちは従い行きます。

 

12. 父よ、〔まさに〕その〔あなた〕は、怠らない者として、怒らない者として、諸々の為すべきことを為しなさい。そして、諸々の為すべきことにおいて努めるのです。怠け者は、安楽を見出しません。

 

13. まさしく、そこにおいて、あなたの、諸々の行持の境処があります。まさしく、これが、教示です。朋友たちを安楽に至り得させるためには、かつまた、朋友ならざる者たちの苦しみのためには、〔これで〕十分です」〔と〕。

 

14. 〔王が尋ねた〕「クンダリニーよ、あなたは、〔問いに答えることが〕できますか。太守の眷属よ、〔あなたは、どのように〕思いますか。王権を為すことを欲する者によって、いったい、何が、為されるべきであり、為されたなら、優れたものとなるのですか」〔と〕。

 

15. 〔クンダリニーが答えた〕「父よ、そこにおいては、一切が確立している、まさしく、二つの境処があります。すなわち、そして、〔いまだ〕得られていないものを得ることであり、さらに、〔すでに〕得たものを守ることです。

 

16. 父よ、慧者にして義(意味)の熟知者たる家臣たちを知りなさい。父よ、博徒ならず、詐欺師ならず、酒乱ならず、散財者ならざる〔家臣たち〕を。

 

17. 父よ、まさしく、そして、それが、あなたに存する財であるとして、そして、彼が、その〔財〕を、馭者が車を愛護するように守ってくれるなら、彼は、あなたのために、諸々の為すべきことを為すでしょう。

 

18. 内なる人を善く愛護し、自ら、富を注視して、そして、蓄財を、さらに、借財を、他者を縁として為さないように。

 

19. 自ら、入来するものと衰失するもの(収益と損失)を知るように。自ら、為したことと為さなかったことを知るように。批判するに値する者を批判するように。励起するに値する者を励起するように。

 

20. 車上の雄牛(王)よ、自ら、地方を、義(利益)あるものとして統治しなさい。法(正義)にかなわない属吏たちが、あなたの、財を、そして、国土を、消失させることがあってはいけません。

 

21. そして、諸々の為すべきことを、勢いよく〔力まかせで〕、為してはいけません。あるいは、〔他の者に〕為させてはいけません。なぜなら、勢いよく〔力まかせで〕為した行為を、愚か者は、のちに悩み苦しむからです。

 

22. あなたの極めて激しい怒りを、不要に解き放ってはいけません。なぜなら、忿激によって、多くの栄える家が、家なきに赴いたからです。

 

23. 父よ、『〔わたしは〕権力者として〔世に〕存している』と、義(意味)なきことに努めてはいけません。女たちに、さらに、男たちに、あなたのために、苦痛を生成するものが存してはいけません。

 

24. 身の毛のよだつ〔畏怖の思い〕を離れ、欲望〔の対象〕に従い行く者として、王があるなら、一切の財物は消失するでしょう。それは、王の罪と説かれます。

 

25. まさしく、そこにおいて、あなたの、諸々の行持の境処があります。まさしく、これが、教示です。今や、能ある者として、功徳を作り為す者として、酒乱ならざる者として、散財者ならざる者として、〔世に〕存するように。大王よ、戒ある者として、〔世に〕存するように。劣戒の者は、堕所にある者です」〔と〕。

 

26. 〔王が尋ねた〕「〔すでに、わたしは〕尋ねました──コーシヤ姓の者(ヴェッサンタラ)に、さらに、まさしく、そのように、クンダリニーに。ジャンブカ(菩薩)よ、今や、あなたが説きたまえ──諸々の力のなかの最上の力を」〔と〕。

 

27. 〔菩薩は答えた〕「世における人士にして偉大なる者には、五つの種類の力があります。そこにおいて、腕の力は、まさに、最後の力と説かれます。

 

28. 長寿者よ、そして、財物の力は、第二の力と説かれます。長寿者よ、そして、家臣の力は、第三の力と説かれます。

 

29. まさしく、そして、出生の力は、それは、疑念〔の余地〕なく、第四のものです。そして、すなわち、これらの一切を、賢者は収め取ります。

 

30. 諸々の力のなかの最勝の力は、至高の力は、それは、智慧の力です(※)。智慧の力に保全され、賢者は、義(利益)を見出します。

 

※ テキストには paññābaṃ とあるが、PTS版により paññābalaṃ と読む。

 

31. たとえ、もし、愚か者が、興隆する最上の大地を得るも、〔彼の〕欲するままならずに、あるいは、〔彼を〕打ち負かして、他の者が、それを治めます。

 

32. たとえ、もし、善き生まれの士族が、王権を得て、〔世に〕有るも、まさに、智慧浅きカーシ〔国〕の長は、たとえ、一切をもってしても、〔安楽に〕生きません。

 

33. まさしく、智慧は、所聞〔の正邪〕を判別するものであり、智慧は、名誉と名声を増大させるものです。智慧を伴った人は、この〔世において〕、たとえ、苦しみのうちにあるも、諸々の安楽を見出します。

 

34. そして、まさに、聞こうとせずにいる者は、誰であれ、智慧に到達することはありません──多聞の者に由来せずして、法(正義)に依って立つものを明確に覚らずにいる者は。

 

35. しかしながら、彼が、法(性質)の区分を知る者であり、〔正しい〕時に起きる者であり、休むことなき者であり、〔正しい〕時に奮起するなら、彼に、行為の果は実現します。

 

36. 〔心を〕傾けないことを戒とし、〔心を〕傾けないことに慣れ親しみ、厭離して為す者に、正しい義(利益)は実りません。

 

37. しかしながら、内に専念し、そのように、〔心を〕傾けることに慣れ親しみ、厭離せずして為す者に、正しい義(利益)は実ります。

 

38. 〔心の〕制止への専念〔努力〕と名づけられたものを、貯えられたものを守ることを、父よ、あなたは、それらに慣れ親しむのです。行為なき〔怠惰〕へと〔自らを〕追い込んではいけません(怠惰であってはならない)。なぜなら、行為なき〔怠惰〕によって、思慮浅き者は、葦の家のように沈み行くからです。

 

39. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、母と父にたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

40. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、子と妻たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

41. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、朋友と家臣たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

42. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──輸送の者たちにたいし、さらに、軍隊の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

43. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──村の者たちにたいし、さらに、町の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

44. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──国土の者たちにたいし、さらに、地方の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

45. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──さらに、沙門と婆羅門たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

46. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、獣と鳥たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

47. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ。法(正義)〔の道〕を歩んだなら、安楽をもたらします。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

48. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ。インダ(インドラ神)を含め、梵〔天〕(ブラフマー神)を含め、天〔の神々〕たちは、善き行ないによって、天〔の神〕たる〔境遇〕に至り得たのです。王よ、法(正義)を怠ること(放逸)があってはいけません。

 

49. まさしく、そこにおいて、あなたの、諸々の行持の境処があります。まさしく、これが、教示です。智慧を有する者に慣れ親しむ、巧みな智ある者として〔世に有りなさい〕。完全なるものを、それを、自ら知る者として〔世に有りなさい〕」〔と〕。ということで──

 

 テーサクナ・ジャータカが、第一となる。

 

17. 1. 2. サラバンガ・ジャータカ(サラバンガ・本生物語522)

 

50. 〔アヌシッサが尋ねた〕「〔装いを〕十分に作り為し、耳飾をつけ、美しい衣をまとい、瑠璃や真珠をつけ、剣や刀を装着している、車上の雄牛(王)たちよ、立ち止まられよ。あなたたちは、いったい、どのような者たちなのですか。人間の世において、あなたたちのことを、〔人々は〕どのように知るのですか」〔と〕。

 

51. 〔王たちが答えた〕「わたしは、アッタカです。また、この者は、ビーマラタです。また、この者は、気高きカーリンガ王です。〔心身が〕善く自制された聖賢たちと会うために、諸々の問いを尋ねるために、〔わたしたちは〕存しています──ここにやってきた者たちとして」〔と〕。

 

52. 〔アヌシッサが尋ねた〕「旅路にある十五〔夜〕の月のように、〔あなたは〕宙空に〔赴き〕、空中に止住します。夜叉(帝釈天)よ、大いなる威力ある方よ、あなたに尋ねます。人間の世においてあなたのことを、〔人々は〕どのように知るのですか」〔と〕。

 

53. 〔帝釈天が答えた〕「諸天においては、彼のことを、〔神々が〕『スジャンパティ』と言うなら、人間の世においては、彼のことを、〔人々は〕『マガヴァント』と言う。彼が、天の王が、今日、これに至り得たのだ──〔心身が〕善く自制された聖賢たちと会うために」〔と〕。

 

54. 〔帝釈天が言った〕「遠きにおいて、わたしたちは聞いた──大いなる神通ある者にして、神通の徳の具有者たる、聖賢たちが集いあつまったことを。清信した心で、彼らを、聖者たちを、〔わたしは〕敬拝する。彼らは、生あるものの世において、ここにおいて、最勝の人間たちなのだ」〔と〕。

 

55. 〔アヌシッサが言った〕「入信長き聖賢たちの香りは、身体から死に行き、風によって去り行きます。千の眼ある者(帝釈天)よ、ここから戻りたまえ。天の王よ、聖賢たちの香りは、不浄なるもの(悪臭である)」〔と〕。

 

56. 〔帝釈天が言った〕「入信長き聖賢たちの香りは、身体から死に行き、風によって去り行く。種々様々な花の芳しき花飾のように、尊き者よ、そして、この香りを、〔わたしたちは〕待ち望んでいる。まさに、ここにおいて、天〔の神々〕たちは、嫌悪の表象ある者たちにあらず(悪臭ではない)」〔と〕。

 

57. 〔聖賢たちに、アヌシッサが尋ねた〕「生類の長にして福徳あるプリンダダです。天〔の神々〕たちのインダたる帝釈〔天〕です。マガヴァントです。スジャンパティです。彼が、阿修羅の衆を撃破する天の王が、問いを尋ねる機会を望みます。

 

58. ここに、これらの賢者たちのなかの、まさしく、いったい、誰が、諸々の〔問いを〕尋ねられた者として、精緻なる問いを、そして、人間の君主たる三者の王に、さらに、天〔の神々〕たちのインダたるヴァーサヴァに、説き明かすのでしょうか」〔と〕。

 

59. 〔聖賢たちが答えた〕「この聖賢は、サラバンガ(菩薩)は、苦行者にして、〔自己を〕制した者であり、〔智慧を〕生じた者であり、淫事から離れた者である。師匠の子にして、善く教え導かれた形質ある者である。彼が、彼らに、諸々の問いを説き明かすであろう」〔と〕。

 

60. 〔アヌシッサが言った〕「コンダンニャ(菩薩)よ、諸々の問いを説き明かしてください。善き形姿ある聖賢たちは、あなたに乞い求めます。コンダンニャよ、これは、人間たちにおける法(真理)です。それが、年長者のもとに至り着くなら、これは、〔負うべき〕荷(責務)となります」〔と〕。

 

61. 〔菩薩は言った〕「諸君よ、尋ねたまえ──〔問い尋ねの〕機会が作り為された者たちとして、それが何であれ、意に望み求めるところの問いを。まさに、わたしは、その〔問い〕その〔問い〕を、あなたたちに説き明かすであろう。この世を、さらに、他〔の世〕を、自ら、〔あるがままに〕知って」〔と〕。

 

62. 〔世尊は言った〕「そして、そののち、マガヴァントたる帝釈〔天〕は、義(道理)を見る者たるプリンダダは、そして、すなわち、望み求めるところのものとして存していた、第一の問いを尋ねた」〔と〕。

 

63. 〔帝釈天が尋ねた〕「いったい、何を打ち殺して〔そののち〕、いついかなる時も憂い悲しまないのですか。何を捨棄することを、聖賢たちは褒め称えるのですか。誰が説いた粗暴な〔言葉〕を、ここに、忍耐するべきなのですか。コンダンニャよ、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください」〔と〕。

 

64. 〔菩薩は答えた〕「忿激〔の思い〕を打ち殺して〔そののち〕、いついかなる時も憂い悲しまない。〔虚栄の〕偽装を捨棄することを、聖賢たちは褒め称える。全ての者たちが説いた粗暴な〔言葉〕を、ここに、忍耐するべきである。正しくある者たちは、この忍耐を、最上のものと言う」〔と〕。

 

65. 〔帝釈天が尋ねた〕「あるいは、同等の者の、あるいは、また、より最勝の者の、両者の言葉を忍受することはできます。いったい、どうして、下劣の者の言葉を忍耐できるというのでしょう。コンダンニャよ、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください」〔と〕。

 

66. 〔菩薩は答えた〕「まさに、恐怖あることから、最勝の者の言葉を忍耐するべきである。また、激昂を因として、同等の者の〔言葉を忍耐するべきである〕。そして、彼が、ここに、下劣の者の言葉を忍耐できるなら、正しくある者たちは、この忍耐を、最上のものと言う。

 

67. 〔行住坐臥の〕四つの道の形態を、最勝のものと、同等のものと、さらに、あるいは、また、下劣のものと、どのように、識知できるというのだろう(見た目で人は判断できない)。正しくある者たちは、醜い形態で〔世を〕歩む(身を飾らない)。まさに、それゆえに、全ての者たちの言葉を忍耐するべきである。

 

68. まさに、王を有して戦っている大軍団でさえも、この義(利益)を得ないであろう──すなわち、忍耐ある正なる人士が得るであろう、〔この義を〕。忍耐の力ある者に、諸々の怨みは止み静まる(彼にたいし、誰も、怨みを抱かない)」〔と〕。

 

69. 〔帝釈天が尋ねた〕「あなたの見事に語られた〔言葉〕を随喜して、〔今度は、それとは〕他のものを、あなたに尋ねます。どうか、それを説いてください。すなわち、ダンダキが、ナーリケーラが、さらに、アッジュナが、そして、また、カラーブ王が、〔世に〕有ったのですが、極めて悪しき行為の者たちである彼らの、赴く所()を説いてください。聖賢たちを悩み苦しめる者たちは、どこにおいて再生したのですか」〔と〕。

 

70. 〔菩薩は答えた〕「まさに、キサ・ヴァッチャに〔塵を〕振りまいて、ダンダキ〔王〕は、人々と共に、国土と共に、根を断ち切られた。クックラという名の地獄において、〔彼は〕煮られ、彼の身体に、諸々の熱炭が落ちる。

 

71. すなわち、〔心身が〕自制された出家者たちを、法(真理)を話している汚れなき沙門たちを、傷つけた、〔まさに〕その、ナーリケーラを、他所(他の世)において、犬たちが、集いあつまって喰い尽くす──もがきおののいている〔彼〕を。

 

72. さらに、アッジュナは、頭を下に、足を上に、槍と串の地獄に落とされた──忍耐ある苦行者にして長き梵行者たるアンギーラサ・ゴータマを傷つけて。

 

73. すなわち、出家者を、忍耐を説いている汚れなき沙門を、こま切れに切断させた、カラーブは、大いなる熱苦にして辛辣なる恐怖の無間〔地獄〕に、再生して煮られる。

 

74. 賢者たる者は、これらの地獄のことを聞いて、さらに、より最悪なる諸々の他の〔地獄〕のことを〔聞いて〕、ここにおいて、沙門や婆羅門たちにたいし、法(正義)〔の道〕を歩むがよい。このように為す者は、天上の境位へと近しく至る」〔と〕。

 

75. 〔帝釈天が尋ねた〕「あなたの見事に語られた〔言葉〕を随喜して、〔今度は、それとは〕他のものを、あなたに尋ねます。どうか、それを説いてください。どのような種類の者を、戒ある者と、〔智者たちは〕説くのですか。どのような種類の者を、智慧ある者と、〔智者たちは〕説くのですか。どのような種類の者を、正なる人士と、〔智者たちは〕説くのですか。どのような種類の者を、まさに、吉祥は捨棄しないのですか」〔と〕。

 

76. 〔菩薩は答えた〕「彼が、この〔世において〕、〔心身が〕自制された者としてあり、身体によって、かつまた、言葉によって、さらに、意によって、何であれ、悪しきことを為さず、自己を因として、偽りを話さないなら、そのような種類の者を、戒ある者と、〔智者たちは〕説く。

 

77. 深遠なる問いを意に熟慮しつつ、あまりに益なく残忍な行為を為さず、〔正しい〕時に言及された義(道理)ある句を遠ざけないなら、そのような種類の者を、智慧ある者と、〔智者たちは〕説く。

 

78. 彼が、まさに、為されたことを知る知恩の慧者であり、善き朋友をもち、かつまた、堅固なる信愛の者として有り、苦しんでいる者のために、為すべきことを真剣に為すなら、そのような種類の者を、正なる人士と、〔智者たちは〕説く。

 

79. これらの一切の徳を具した、信ある者であり、柔和なる者であり、分け与える者であり、寛容なる者であるなら、愛護ある者を、友誼ある者を、優しい言葉ある者を、そのような種類の者を、まさに、吉祥は捨棄しない」〔と〕。

 

80. 〔帝釈天が尋ねた〕「あなたの見事に語られた〔言葉〕を随喜して、〔今度は、それとは〕他のものを、あなたに尋ねます。どうか、それを説いてください。戒を、そして、また、吉祥を、さらに、正しくある者たちの法(教え)を、さらに、智慧を、何を、より最勝なるものと、〔智者たちは〕説くのですか」〔と〕。

 

81. 〔菩薩は答えた〕「『まさに、智慧は、最勝である』〔と〕、智者たちは説く。星々にとっての星の王(月)のようなものである。戒は、そして、また、吉祥は、さらに、正しくある者たちの法(教え)は、智慧ある者の随従者たちと成る」〔と〕。

 

82. 〔帝釈天が尋ねた〕「あなたの見事に語られた〔言葉〕を随喜して、〔今度は、それとは〕他のものを、あなたに尋ねます。どうか、それを説いてください。どのように為す者が、どのようなものとして為す者が、どのようなものを習行しながら、どのようなものを習修しながら、この〔世において〕、智慧を得るのですか。智慧による実践〔の道〕を、今や、説いてください。どのように為す者が、智慧ある人間と成るのですか」〔と〕。

 

83. 〔菩薩は答えた〕「精緻にして多聞なる年長者たちに慣れ親しむがよい。そして、志学者として、遍問者として、存するがよい。諸々の見事に語られた〔言葉〕を、真剣に聞くがよい。このように為す者は、智慧ある人間と成る。

 

84. 智慧ある者は、〔五つの〕欲望の属性(妙欲:色・声・香・味・触)を、無常〔の観点〕から、苦〔の観点〕から、さらに、病〔の観点〕から、〔あるがままに〕注視する。このように観察する者は、諸々の苦しみにして大いなる恐怖ある〔五つの〕欲望〔の対象〕にたいする欲〔の思い〕を捨棄する。

 

85. 彼は、貪り〔の思い〕を離れた者は、憤怒〔の思い〕を取り除くがよい。無量なる慈愛の心を修めるがよい。一切の生類にたいし、棒(武器)を置いて、〔誰からも〕非難されることなく、梵の境位へと近しく至る」〔と〕。

 

86. 〔菩薩は言った〕「〔あなたたちの〕到来は、大いなる義(意味)あるものと成った──アッタカよ、あなたの〔到来は〕、そして、また、ビーマラタの〔到来は〕、さらに、気高きカーリンガ王の〔到来は〕。あなたたちの全ての、欲望〔の対象〕にたいする貪り〔の思い〕は捨棄されたのだ」〔と〕。

 

87. 〔王たちが言った〕「他者の心を知る方よ、このことは、そのとおりです。わたしたちの全ての、欲望〔の対象〕にたいする貪り〔の思い〕は捨棄されました。〔わたしたちへの〕資助の機会を作ってください。すなわち、あなたの境遇に、〔わたしたちが〕至り着くように」〔と〕。

 

88. 〔菩薩は言った〕「〔あなたたちへの〕資助の機会を作ろう。なぜなら、そのように、あなたたちの欲望〔の対象〕にたいする貪り〔の思い〕は捨棄されたからである。広大なる喜悦によって、身体を充満しなさい。すなわち、わたしの境遇に、〔あなたたちが〕至り着くように」〔と〕。

 

89. 〔王たちが言った〕「あなたの教示の全てを、〔わたしたちは〕為しましょう。広き智慧ある方よ、その〔教示〕その〔教示〕を、あなたが説くであろうなら。広大なる喜悦によって、身体を充満します。すなわち、あなたの境遇に、〔わたしたちが〕至り着くように」〔と〕。

 

90. 〔菩薩は言った〕「キサ・ヴァッチャの、この供養は為された。善き形姿ある聖賢たちよ、貴君たちは去りたまえ。常に〔心が〕定められた、瞑想を喜ぶ者たちと成れ。これは、出家者にとって最勝の喜びである」〔と〕。

 

91. 〔世尊は言った〕「最高の義(意味)を伴った諸々の詩偈を聞いて、賢者たる聖賢によって見事に語られた〔諸々の詩偈〕を〔聞いて〕、彼らは、歓嘆を生じ、随喜しながら、福徳ある天〔の神々〕たちは、天の都へと立ち去った。

 

92. 義(意味)があり、見事な文の、これらの詩偈を、賢者たる聖賢によって見事に語られた〔これらの詩偈〕を──彼が誰であれ、これら〔の詩偈〕を、義(対象)と為して聞くなら、過去と未来の殊勝〔の地位〕(輪廻からの解脱)を得るであろう。過去と未来の殊勝〔の地位〕を得て、死魔の王の見えざるところ(彼岸)に赴くであろう。

 

93. サーリプッタは、サーリッサラとして、そして、カッサパは、メンディッサラとして、そして、アヌルッダは、パッバタとして、そして、カッチャーヤナは、デーヴァラとして──

 

94. そして、アーナンダは、アヌシッサとして、そして、コーリタ(モッガッラーナ)は、キサ・ヴァッチャとして、ウダーイン長老は、ナーラダとして、覚者の衆は、〔聖賢の〕衆として、世の主(ブッダ)は、サラバンガとして、〔世に存した〕。このように、ジャータカを保持しなさい」〔と〕。ということで──

 

 サラバンガ・ジャータカが、第二となる。

 

17. 1. 3. アランブサー・ジャータカ(アランブサー・本生物語523)

 

95. 〔世尊は言った〕「そこで、偉丈夫たるインダは、阿修羅の征服者にして勝利者たちの父は、説いた──スダンマー〔の集会場〕(善法講堂)において、天女のアランブサーの機嫌を取って」〔と〕。

 

96. 〔帝釈天が言った〕「従者をはべらす者よ、天〔の神々〕たちは、インダを含む三十三〔天の神々〕たちは、あなたに乞い求める。聖賢の誘惑者よ、アランブサーよ、イシシンガのもとに赴け(聖賢のイシシンガを誘惑し、堕落させよ)。

 

97. 行持あり梵行ある、この者が、わたしたちを超え行く前に、涅槃を喜ぶ年長者となる〔前に〕、彼の、諸々の道を妨害せよ」〔と〕。

 

98. 〔アランブサーが言った〕「天の王よ、まさしく、何なのでしょうか、あなたは。わたしだけに、あなたは要請します。『聖賢の誘惑者よ、赴け』〔と〕。他にもまた、仙女たちは存在するのに。

 

99. まさしく、そして、憂いなき〔天の〕ナンダナ林には、わたしのような者よりも、より優れた者たちがいます。彼女たちにもまた、機会有れ。彼女たちをもまた、誘惑者として派遣なされませ」〔と〕。

 

100. 〔帝釈天が言った〕「まさに、たしかに、〔あなたは〕真理を話す。他にもまた、仙女たちは存在する。まさしく、そして、憂いなき〔天の〕ナンダナ林には、あなたのような者よりも、より優れた者たちがいる。

 

101. 彼女たちは、男のもとに赴き、世話することを、このように覚知しない。全ての肢体が美しく輝く女よ、すなわち、あなたが覚知するとおりには。

 

102. 美しい者よ、赴け──まさしく、あなたが。そして、〔あなたは〕女たちのなかの最も優れた者として存している。まさしく、あなたの色艶と形姿によって、〔彼を〕自らの支配に導き入れるであろう」〔と〕。

 

103. 〔アランブサーが言った〕「天の王に命じられた者として、わたしが赴かないことは、まさしく、ありません。しかしながら、この者を襲うことが、〔わたしを〕恐怖させるのです。なぜなら、気高き威光ある者として、婆羅門はあるからです。

 

104. 聖賢を襲って、無数の人たちが、地獄に至り得たのです。迷妄の輪廻を惹起したのです。それゆえに、諸々の身の毛がよだつのです」〔と〕。

 

105. 〔世尊は言った〕「欲する色艶ある仙女は、この〔言葉〕を説いて、立ち去った──アランブサーは、従者をはべらす者は、イシシンガと交わることを求めながら。

 

106. そして、彼女は、その林に入って──イシシンガによって守られ、半ヨージャナの遍きにわたり、ビンバジャーラカ〔樹〕に等しく覆われた〔その林〕に〔入って〕──

 

107. ごく早朝、朝食のとき、日の出の時分に向かい、竈を掃除しているイシシンガのもとへと近しく赴いた」〔と〕。

 

108. 〔イシシンガが言った〕「いったい、誰なのですか。雷光のように、明けの明星のように、〔あなたは〕輝きます。手には様々な彩りの装飾品があり、宝珠の耳飾を付けた方です。

 

109. 太陽の色艶に似た方です。金色の栴檀の香りある方です。腿が引き締まり、大いなる幻想ある方です。年若く、典雅なる見た目ある方です。

 

110. 華奢で、柔和で、清浄なる方です。あなたの〔両の〕足は、しっかりと確立し、あなたの赴く〔姿〕は、愛すべきものであり、わたしの意を、まさしく、奪い去ります。

 

111. あなたの〔両の〕腿は、まさしく、均整で、象の鼻の如くです。あなたのお尻は、艶やかで、まるで、〔磨きぬかれた〕さいころ盤のようです。

 

112. 青蓮の花糸のような、あなたの臍は、善くしっかりと収まり、遠くからは、黒の塗料が満ちているかのように見えます。

 

113. 胸から生じるものは、二様に生じ、まろやかで、善くしっかりと盛り上がっています。乳を保ち、垂れることなく、半分の瓜に等しき、〔両の〕乳房です。

 

114. 長く、螺貝の面の輝きある、首は、まるで、羚羊のようです。唇は、麗しく、〔深紅の〕舌に似ています。

 

115. そして、諸々の上〔の歯〕も、さらに、諸々の下〔の歯〕も、楊枝によって磨き清められ、〔上下〕二つに生じ、欠けることなく生えている、あなたの諸々の歯は、善き見た目あるものです。

 

116. 白なき真紅のジンジュカ〔樹〕の果に似た、かつまた、広くもあり、かつまた、大きくもある、あなたの〔両の〕眼は、善き見た目あるものです。

 

117. 長過ぎず、善く磨かれ、黄金のように積み上げられ、頭に生えている、あなたの諸々の髪は、栴檀の香りがします。

 

118. およそ、耕作者や牧畜者たちとしてあるかぎり、さらに、すなわち、商人たちの境遇としても、さらに、〔心身が〕自制された苦行者たる聖賢たちの勤しむところとしても──

 

119. この地の圏域において、あなたと等しく同等の者を、〔誰も〕見ないでしょう。あなたは、あるいは、誰なのですか、あるいは、誰の子なのですか。どのように、わたしどもは、あなたのことを知るべきですか」〔と〕。

 

120. 〔アランブサーが言った〕「〔今は〕問いのための時ではありません。あなたに、幸せ〔有れ〕。カッサパ(イシシンガ)よ、このように、赴く所が存している〔今となっては〕。愛しい方よ、さあ、〔わたしたちは〕喜び楽しむのです──わたしたちの庵所で、両者ともに。さあ、あなたを抱きましょう。諸々の喜びに巧みな智ある者と成りなさい」〔と〕。

 

121. 〔世尊は言った〕「欲する色艶ある仙女は、この〔言葉〕を説いて、立ち去った──アランブサーは、従者をはべらす者は、イシシンガと交わることを求めながら。

 

122. そして、彼は、ゆったりした勤しみの行為を断ち切って、勢いよく出て行って、彼女に追い付き、最上の編髪を撫でまわした。

 

123. 振り向いた美しい者は、極めて美しく輝く者は、彼を抱きしめた。そのとき、〔彼は〕梵行から死滅した。すなわち、そこで、〔アランブサーが〕満足した、そのとおりに。

 

124. 〔天の〕ナンダナ林に住しているインダのもとに、〔アランブサーは〕意をもって赴いた。彼女の思惟を了知して、天の象たるマガヴァントは──

 

125. すみやかに、寝台を送り届けた──金の付属品を有し、五十の天蓋を有し、千の白毛布の上掛けが施された〔寝台〕を。

 

126. そこにおいて、美しく輝く者は、〔まさに〕その、この者(イシシンガ)を、胸に為して保持した。すなわち、ただの一刻であるかのように、三年のあいだ保持した。

 

127. 三年ののち、目覚めて、酔いが醒めた婆羅門(イシシンガ)は、祭火堂の遍きにわたり、緑の木々を見た。

 

128. 咲き誇る新緑の林を、コーキラ〔鳥〕たちの群れがさえずっている〔林〕を、遍きにわたり見回して、泣き叫びながら、諸々の涙をこぼした」〔と〕。

 

129. 〔イシシンガが言った〕「捧げものをせず、諸々の呪文を詠唱せず、祭火への捧げものは衰退するところとなった。いったい、誰なのだ──わたしを楽しませることで、過去に、〔わたしの〕心を誘惑したのは。

 

130. わたしが、林に住んでいると、その者は、まさに、わたしの威光から発生したものを、種々なる宝に遍く満ちたものを、海にある舟を〔捕捉する〕ように収め取ってしまった」〔と〕。

 

131. 〔アランブサーが言った〕「わたしは、あなたを楽しませるために、天の王に命じられた者です。心によって心を打ちました。怠りあるあなたは、目覚めませんでした」〔と〕。

 

132. 〔イシシンガが言った〕「父(菩薩)は、カッサパは、まさに、これらのことを、わたしに教示する。『蓮に等しきは女たちである。学徒よ、彼女たちに目覚めるがよい(注意せよ)。

 

133. 〔両の〕胸の腫物に目覚めるがよい。学徒よ、彼女たちに目覚めるがよい』〔と〕。かくのごとく、父は、わたしに教示した──わたしへの慈しみ〔の思い〕ある者として、そのとおりに。

 

134. わたしは、彼の言葉を為さなかった──年長者である父の教えを。人間のいない林のなかで、〔まさに〕その〔わたし〕は、今日、独り、思い惑う。

 

135. 〔まさに〕その、わたしは、〔父に言われた〕そのとおりに為すであろう。厭わしきものとして存せ──わたしの生命は。あるいは、ふたたび、〔誘惑に負けた〕そのような者と成るとして、わたしには、死が有るであろう」〔と〕。

 

136. 〔世尊は言った〕「彼の、威光が、さらに、精進と〔道心〕堅固が、〔心に〕確立されたのを知って、アランブサーは、イシシンガを収め取った──頭をもって、〔彼の両の〕足を(平伏し敬拝した)」〔と〕。

 

137. 〔アランブサーが言った〕「大いなる勇者よ、わたしに怒ってはいけません。大いなる聖賢よ、わたしに怒ってはいけません。福徳ある三十三〔天の神々〕たちのために、大いなる義(利益)が、わたしの歩むところとなりました。そのとき、天の都の全てが、あなたの揺れ動かすところとして存したのです(梵行の威光によって、天が揺れ動いた)」〔と〕。

 

138. 〔イシシンガが言った〕「そして、すなわち、三十三天〔の神々〕たちは、さらに、三十三〔天の神々〕たちのヴァーサヴァ(帝釈天)も、幸いなる者よ、かつまた、あなたも、安楽の者と成れ。少女よ、安楽なるままに赴け」〔と〕。

 

139. 〔世尊は言った〕「彼の〔両の〕足を収め取って、そして、彼に、右回り〔の礼〕を為して、合掌を差し出して、〔彼女は〕その場から立ち去った。

 

140. そして、彼女のもとに存していた、〔まさに〕その、金の付属品を有し、五十の天蓋を有し、千の白毛布の上掛けが施された寝台であるが、まさしく、その寝台に乗って、〔彼女は〕天〔の神々〕たちの現前に赴いた。

 

141. 燃え盛る雷光のように、松明のように、至り来る彼女を〔見て〕、天のインダは、満足した者となり、悦意の者となり、歓悦の者となり、〔彼女に〕願い事を与えた」〔と〕。

 

142. 〔アランブサーが言った〕「帝釈〔天〕よ、一切の生類たちのイッサラ(イーシュヴァラ神・自在神)よ、もし、願い事を、〔あなたが〕わたしに与えてくれたのなら、聖賢の誘惑者として、〔わたしが〕赴くことがありませんように。帝釈〔天〕よ、この願い事を、〔わたしは〕願います」〔と〕。ということで──

 

 アランブサー・ジャータカが、第三となる。

 

17. 1. 4. サンカパーラ・ジャータカ(サンカパーラ・本生物語524)

 

143. 〔王が尋ねた〕「聖なる外見ある者として、清らかな眼の者として、〔あなたは〕存している。〔わたしは〕思う──貴君は、良家から出家した者である。智慧を有する者よ、いったい、どうして、諸々の富と諸々の財物を捨棄して、家から出て、出家したのか」〔と〕。

 

144. 〔アラーラが答えた〕「人の天たる方よ、自ら、大いなる威力ある大蛇(菩薩)の天宮を見て、諸々の功徳の大いなる報いを見て、王よ、わたしは、信によって出家した者として〔世に〕存しています」〔と〕。

 

145. 〔王が尋ねた〕「出家者たちは、虚偽の言葉を、欲を欲するままに話さず、恐怖ゆえに〔話さ〕ず、憤怒ゆえに〔話さ〕ない。〔問いを〕尋ねられた者として、この義(意味)を、わたしに告げ知らせよ。聞いて〔そののち〕、わたしに、清信が生じるであろう」〔と〕。

 

146. 〔アラーラが答えた〕「国土の君主よ、商売に赴きつつ、まさに、道において、〔残忍な〕ボージャ族の者たちを見たのです──増大した身体の大蛇を〔天秤で〕担いで、歓喜しながら赴く〔彼ら〕を。

 

147. 人のインダよ、〔まさに〕その、わたしは、彼らと遭遇して、まさに、身の毛がよだち、恐怖し、言いました。〔わたしは尋ねました〕『恐ろしい身体のこの〔龍〕は、どこに連れて行かれるのだ。ボージャ族の者たちよ、〔あなたたちは〕龍によって、何を為すというのだ』〔と〕。

 

148. 〔彼らは答えました〕『この龍は、増大した身体の大蛇は、食料を義(目的)として連れて行かれる。肉は、かつまた、美味でもあり、かつまた、豊満でもあり、かつまた、柔和でもある。ヴィデーハ族の者よ、あなたは、味を了知しない。

 

149. これから、わたしたちは、自らの家に赴いて、諸々の刃を取って、〔この龍を〕切り裂いて、諸々の肉を、歓喜しながら食べるのだ。まさに、わたしたちは、蛇たちにとっては、まさに、賊たちなのだ』〔と〕。

 

150. 〔わたしは言いました〕『それで、もし、この、増大した身体の大蛇が、食料を義(目的)として連れて行かれるなら、あなたたちに、十六の荷牛を与えよう。この龍を、結縛から解き放ちたまえ』〔と〕。

 

151. 〔彼らは言いました〕『まさに、たしかに、わたしたちにとって、この〔龍〕は、意に適う食物である。しかしながら、わたしたちにとって、多くの蛇は、過去に食するところ。アラーラよ、あなたの、その言葉を為そう。ヴィデーハ族の者よ、そして、わたしたちの朋友と成れ』〔と〕。

 

152. そのとき、まさに、彼らは、〔龍を〕結縛から解き放ちました──すなわち、戒条ある〔龍〕の鼻孔から脇腹にかけての〔結縛から〕。そして、結縛から解き放たれた、その龍の王は、しばらくして、東に向かい立ち去りました。

 

153. 東に向かい赴いて、しばらくして、〔涙に〕満ちた〔両の〕眼で、わたしを顧みました。そのとき、まさに、わたしは、十指の合掌を差し出して、背後から、〔その龍に〕付き従いました。

 

154. 〔わたしは言いました〕『急ぎ至急、まさに、あなたは、まさしく、去り行くべきです。朋友ならざる者たちが、あなたを、ふたたび捕捉することがあってはいけません。残忍な者たちと、ふたたび遭遇することは、まさに、苦しみです。ボージャ族の者たちの見えざるところに去り行きたまえ』〔と〕。

 

155. 彼は、清らかな湖に赴きました──青く光り輝き、喜ばしく、善き水場ある〔湖〕に。恐怖を克服し満足した〔龍〕は、諸々のジャンブ〔樹〕やヴェータサ〔樹〕が茂っているところに入りました。

 

156. 人のインダよ、彼は、その〔湖〕に入って、長からずして、龍は、天の者とともに、わたしのもとに出現しました。子が父に〔為す〕ように、わたしに近しく立ちました──心臓に至る〔言葉〕を、耳に安楽なる〔言葉〕を、話しながら。

 

157. 〔彼は言いました〕『アラーラよ、あなたは、わたしにとって、そして、母として、父として、内々の者として、命の恩人として、道友として、存しています。そして、〔わたしは、あなたによって〕自らの神通を〔ふたたび〕獲得した者として存しています。アラーラよ、わたしの諸々の住居地を見てください──沢山の食物があり、多くの食べ物と飲み物がある、ヴァーサヴァ(帝釈天)のマサッカサーラ〔宮殿〕のような〔住居地〕を──

 

158. 〔まさに〕その、諸々の〔快意なる〕土地の区画を具した形態の〔住居地〕を。まさしく、そして、小石がなく、柔和で、さらに、浄美にして、草低く、かつまた、塵少なき地です。そこにおいて、〔人々は〕清信ある者たちとなり、憂いを捨棄します。

 

159. 〔その地は〕喧噪なく、瑠璃の青にして、四方には極めて喜ばしきアンバ林(マンゴーの果樹園)があり、そして、熟したものや、さらに、半熟のものや、諸々の果をもつ〔アンバ樹〕が美しく咲き誇り、常に、〔全ての〕季節に、諸々の果を保持します』〔と〕。

 

160. 人のインダよ、それらの林の中に、光り輝くばかりの住居地があります。銀の閂があり、黄金で作られている、巨大なるものにして、空中における雷光のように光り輝きます。

 

161. 宝珠で作られ、黄金で作られている、巨大なるものにして、無数の彩りがあり、常に美しく化作され、王よ、黄金の腕飾を〔身に〕付け〔装いを〕十分に作り為した少女たちによって遍く満ちています。

 

162. 彼は、至上の色艶あるサンカパーラ(菩薩)は、急ぎの様子で、高楼に登って、千の柱があり無比なる威厳ある〔高楼〕に〔導き〕、そこにおいては、彼の妻である王妃が有ったのでした。

 

163. そして、一者の女が、急ぎの様子で、瑠璃で作られている高価な〔坐〕を抱えて、催促されることなく、天然の宝珠を具有した浄美なる坐を運んできました。

 

164. そののち、蛇は、わたしの〔両の〕手を収め取って、筆頭の坐に坐らせました。〔彼は言いました〕『貴君は、ここに、この坐に坐りたまえ。まさに、貴君は、わたしにとって、尊重する者たちのなかの随一の方です』〔と〕。

 

165. そして、他の女が、急ぎの様子で、水を携えて、近づいて行って、人のインダよ、わたしの〔両の〕足を洗いました──愛しい夫である亭主のために、妻が〔為す〕ように。

 

166. そして、他の女が、急ぎの様子で、黄金で作られている鉢を差し出して、様々な種類の香味ある無数なる汁を、快意なる形態の食事を、近くに置きました。

 

167. バーラタ(王)よ、〔彼女たちは〕夫の意を見出して、諸々の楽器で、食事を終えたわたしに奉仕しました。少なからざる天の欲望〔の対象〕によって、大いなること、それ以上に、わたしに供奉しました。

 

168. 〔彼は言いました〕『アラーラよ、わたしの、これらの三百の妻は、全てが均整の取れた者たちであり、蓮華以上の輝きある者たちです。アラーラよ、これらの者たちは、まさに、あなたの欲することを為す者たちです。あなたに与えましょう。彼女たちと楽しんでください』〔と〕。

 

169. まる一年のあいだ、天の味を味わい楽しんで、そのとき、まさに、わたしは、そのうえで語りかけました。〔わたしは尋ねました〕『どのようなわけで、かつまた、どのように、龍〔のあなた〕に、この〔天宮〕が得られたのですか。どのように、最勝の天宮に到達したのですか。

 

170. あなたにとって、偶然に得られたものですか、〔必然による〕変化から生じるものですか、それとも、自ら作り為したものですか、天〔の神々〕たちによって与えられたものですか。龍の王よ、この義(意味)を、〔わたしは〕あなたに尋ねます。どのように、最勝の天宮に到達したのですか』〔と〕。

 

171. 〔彼は答えました〕『わたしにとって、偶然に得られたものではなく、〔必然による〕変化から生じるものではなく、自ら作り為したものではなく、あるいは、また、天〔の神々〕たちによって与えられたものでもありません。諸々の悪ならざる自らの行為によって、諸々の功徳によって、わたしのこの天宮は得られたのです』〔と〕。

 

172. 〔わたしは尋ねました〕『あなたにとって、どのようなものが、掟なのですか、また、どのようなものが、梵行なのですか。これは、どのような善き行ないの報いなのですか。龍の王よ、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください。いったい、どのように、あなたのこの天宮は得られたのですか』〔と〕。

 

173. 〔彼は答えました〕『〔わたしは〕王として、マガダ〔国〕のイッサラとして、ドゥッヨーダナという名の大いなる威力ある者として、〔世に〕有りました。〔まさに〕その〔わたし〕は、生命を、暫しのものと、常久ならざるものと、変化の法(性質)あるものと、正しく見出して──

 

174. 清信した心の者となり、そして、食べ物を、さらに、飲み物を、広大なる布施を、恭しく施しました。〔布施の〕泉と成った、わたしの家が、そのとき、存しました(家は、布施の場となった)。そして、沙門や婆羅門たちは満足したのです。

 

175. そして、花飾を、そして、香料を、そして、塗料を、灯具を、乗物を、そして、在所を、衣服を、臥所を、さらに、食べ物や飲み物を、諸々の布施を、そこにおいて、〔わたしたちは〕恭しく施しました。

 

176. わたしにとって、それが、掟です。また、それが、梵行です。これは、その善き行ないの報いです。まさしく、それによって、わたしのこの天宮は得られたのです──沢山の食物があり、多くの食べ物と飲み物があり、さらに、諸々の舞踏と諸々の歌詠を具した形態のものとして。しかしながら、これは、長きに止住するものなるも、常久のものではありません』〔と〕。

 

177. 〔わたしは尋ねました〕『少なき威力の者たちが、大いなる威力ある者を、威光なき者たちが、威光ある者を、〔すなわち〕あなたを、打ち砕きます。牙を武器とする方よ、まさしく、どうして、何を縁として、乞食者たちの手中に至り着いたのですか(なぜ、ボージャ族の者たちに捕捉されたのか)。

 

178. はてさて、あなたに、大いなる恐怖が付き従ったのですか。はてさて、あなたに、歯の根の威光は付き従わなかったのですか。牙を武器とする方よ、まさしく、どうして、何を縁として、乞食者たちの〔心の〕汚れを引き起こしたのですか』〔と〕。

 

179. 〔彼は答えました〕『わたしに、大いなる恐怖が付き従ったことはありません。彼らによって、わたしの威光を打ち砕くことはできません。そして、正しくある者たちの諸々の法(教え)は、見事に述べ伝えられたものとしてあり、海岸のように超え難きものなのです。

 

180. アラーラよ、〔月の〕十四〔日〕と十五〔日〕には、〔わたしは〕常に斎戒に入ります。そこで、十六者の〔残忍な〕ボージャ族の者たちがやってきました──縄を掴んで、さらに、堅固な索縄を〔掴んで〕。

 

181. 鼻を破断して縄を通して、残忍な者たちは、わたしを完全に捕捉して連れて行きました。このような苦しみを忍受しつつも、わたしは、斎戒を乱さずにいます』〔と〕。

 

182. 〔わたしは尋ねました〕『一なる道において、〔彼らは〕道にいるあなたを見ました──そして、活力と色艶を具した形態の〔龍〕を。さらに、〔あなたは〕吉祥と智慧を修めた者として存しています。龍よ、何を切望しながら、〔あなたは〕苦行を為すのですか』〔と〕。

 

183. 〔彼は答えました〕『アラーラよ、子を因としてにあらず、財を因としてにあらず、さらに、また、寿命を因としてにあらず。人間の胎〔に生まれること〕を切望しながら、それゆえに、勤しんで、〔わたしは〕苦行を為します』〔と〕。

 

184. 〔わたしは尋ねました〕『あなたは、眼は赤く、肩は間隔が広く、〔装いを〕十分に作り為し、髪と髭は整えられ、〔身体は〕赤の栴檀で美しく塗られ、音楽神の王のように、方々に光り輝きます。

 

185. 〔あなたは〕天の神通に至り得た者として存しています。大いなる威力ある者です。一切の欲望〔の対象〕の保有者と成った者です。龍の王よ、この義(意味)を、〔わたしは〕あなたに尋ねます。何によって、ここより、人間の世は、より勝っているのですか』〔と〕。

 

186. 〔彼は答えました〕『アラーラよ、人間の世より他に、あるいは、清浄は、あるいは、自制は、等しく見出されません。そして、わたしは、人間の胎を得て、生と死の終極を為すのです』〔と〕。

 

187. 〔わたしは言いました〕『あなたの前にて、わたしが住しているのも、まる一年となります。食べ物と飲み物によって奉仕された者として、〔わたしは〕存しています。龍よ、〔別れを〕告げて、〔わたしは〕去ります。人のインダ(龍の王)よ、〔家を〕長きに離れ住んだ者として、わたしは存しています』〔と〕。

 

188. 〔彼は言いました〕『そして、子たちは、妻たちは、さらに、従僕たちは、常に教示され、あなたに奉仕します。はてさて、どうでしょう、誰であれ、あなたを責めることはありませんでした。アラーラよ、まさに、わたしにとって愛しきは、あなたを見ること』〔と〕。

 

189. 〔わたしは言いました〕『たとえば、また、家に、そして、母がいて、父がいて、愛しき子に恵まれ、住しているとして、それよりも、また、わたしにとって、これこそは、より勝っています。龍よ、なぜなら、あなたの心は、わたしにたいし清信しているからです』〔と〕。

 

190. 〔彼は言いました〕『わたしのもとに、宝珠の紅玉が見出されます。財をもたらすものであり、秀逸なる宝珠の宝です。〔それを〕携えて、あなたは、自らの家に赴きたまえ。財を得て〔そののち〕、その宝珠を投げ捨てるのです』〔と〕。

 

191. 諸々の欲望〔の対象〕は、人間のものもまた、常久ならざるものと、変化の法(性質)あるものと、わたしによって見られました。〔この〕危険を、〔五つの〕欲望の属性(妙欲:色・声・香・味・触)のうちに見て、王よ、わたしは、信によって出家した者として〔世に〕存しています。

 

192. 諸々の木の果のように、人間たちは落ちます──そして、年少者たちも、さらに、年長者たちも、肉体の破壊ある者たちとして。王よ、このことをもまた見て、出家した者として〔世に〕存しています。雑物なしの沙門の資質こそは、より勝っています」〔と〕。

 

193. 〔王が言った〕「まさに、たしかに、慣れ親しむべきは、智慧を有する者たちであり、多聞の者たちであり、すなわち、多くの境位に思弁ある者たちである。アラーラよ、そして、龍〔の言葉〕を聞いて、さらに、あなた〔の言葉〕を〔聞いて〕、諸々の少なからざる功徳を、〔わたしは〕作り為すであろう」〔と〕。

 

194. 〔アラーラが言った〕「まさに、たしかに、慣れ親しむべきは、智慧を有する者たちであり、多聞の者たちであり、すなわち、多くの境位に思弁ある者たちです。王よ、そして、龍〔の言葉〕を聞いて、さらに、わたし〔の言葉〕を〔聞いて〕、諸々の少なからざる功徳を、〔あなたは〕作り為したまえ」〔と〕。ということで──

 

 サンカパーラ・ジャータカが、第四となる。

 

17. 1. 5. チューラスタソーマ・ジャータカ(小なるスタソーマ・本生物語525)

 

195. 〔菩薩は言った〕「町の者に、朋友と家臣たちに、従者たちに、〔わたしは〕告げる。頭に白髪が生じたのだ。今や、わたしは、出家〔の道〕を選ぶであろう」〔と〕。

 

196. 〔人々が言った〕「いったい、どうして、諸々の地なきことを話すのですか。陛下よ、〔あなたは〕わたしの胸に、矢を立てられました。あなたには、七百の妻がいます。あなたにとって、彼女たちは、いったい、どのように成るのですか」〔と〕。

 

197. 〔菩薩は言った〕「これらの者たちは、年少の者たちとして、〔人々に〕覚知されるであろう。彼女たちは、〔いずれ〕他者のもとにもまた赴くであろう。そして、天上〔の境位〕を(※)切望しながら、それによって、わたしは出家するであろう」〔と〕。

 

※ テキストには Saggañcassa とあるが、PTS版により Saggañ ca と読む。

 

198. 〔母が言った〕「スタソーマ(菩薩)よ、悪しく得られたものが、わたしに存しました(悪しき子をもった)。すなわち、あなたの、母として、わたしは〔世に〕有ります。陛下よ、すなわち、わたしが嘆いているのに、〔わたしに〕期すことなく、〔あなたは〕出家します。

 

199. スタソーマよ、悪しく得られたものが、わたしに存しました。すなわち、あなたを、わたしは産みました。陛下よ、すなわち、わたしが嘆いているのに、〔わたしに〕期すことなく、〔あなたは〕出家します」〔と〕。

 

200. 〔父が言った〕「スタソーマよ、まさに、この法(真理)が、何だというのだ、そして、まさに、出家が、何だというのだ。陛下よ、すなわち、まさに、老いたわたしたちに期すことなく、〔おまえは〕出家する。

 

201. おまえの子たちもまた、多くは年少にして、若さ〔の盛り〕に至り得ていない。たとえ、彼らが愛らしくあるも、おまえを見ずにいるなら、思うに、〔彼らは〕苦しみに遭遇するのだ」〔と〕。

 

202. 〔菩薩は言った〕「そして、わたしの、これらの子たちとは、年少にして、若さ〔の盛り〕に至り得ていない、愛らしくある者たちとは、あなたたちの全てともまた、たとえ、長きに止住しても、〔いずれは〕別れ別れの状態になるのです」〔と〕。

 

203. 〔妻たちが言った〕「はてさて、あなたの心臓は断ち切られたのですか。それとも、さてまた、あなたには、わたしたちにたいする慈悲〔の思い〕は存在しないのですか。陛下よ、すなわち、嘆いているわたしたちに期すことなく、〔あなたは〕出家します」〔と〕。

 

204. 〔菩薩は言った〕「さてまた、わたしの心臓は断ち切られていない。わたしには、あなたたちにたいする慈悲〔の思い〕もまた存在する。そして、天上〔の境位〕を切望しながら、それによって、わたしは出家するであろう」〔と〕。

 

205. 〔王妃が言った〕「スタソーマよ、悪しく得られたものが、わたしに存しました(悪しき夫をもった)。すなわち、あなたの、妻として、わたしは〔世に有ります〕。陛下よ、すなわち、わたしが嘆いているのに、〔わたしに〕期すことなく、〔あなたは〕出家します。

 

206. スタソーマよ、悪しく得られたものが、わたしに存しました。すなわち、あなたの、妻として、わたしは〔世に有ります〕。陛下よ、すなわち、わたしの子宮の結生(妊娠)に期すことなく、〔あなたは〕出家します。

 

207. 子宮に至った、わたしの胎児は円熟しています。〔わたしが〕彼を産む、それまでは、わたしが、独り、寡婦となり、そのあとに、諸々の苦しみを見ることがあってはなりません」〔と〕。

 

208. 〔菩薩は言った〕「子宮に至った、あなたの胎児は円熟している。さあ、あなたは、産むのだ──至上の色艶ある子を。彼を捨棄して、わたしは出家するであろう。

 

209. チャンダー(王妃)よ、あなたは泣き悲しんではならない。林の漆黒そのものの眼をした方よ、憂い悲しんではならない。優美なる高楼に登りなさい。〔あなたに〕期すことなく、〔わたしは〕去り行くであろう」〔と〕。

 

210. 〔長男が言った〕「母よ、誰が、あなた〔の心〕を乱したのですか。どうして、泣き叫ぶのですか。さらに、わたしを激しく見るのですか。誰を、打ち殺せないというのでしょう。〔わたしが〕殺してやります。親族たちが見ているなかでも」〔と〕。

 

211. 〔王妃が言った〕「まさに、彼は、殺すことができません。息子よ、すなわち、〔国土の〕征圧者(王)が、わたし〔の心〕を乱しました。息子よ、あなたの父は、わたしに言いました。『〔あなたに〕期すことなく、〔わたしは〕去り行くであろう』」〔と〕。

 

212. 〔長男が言った〕「すなわち、わたしは、過去にあっては、庭園へと出かけ、さらに、発情した象たちを討ちもするのですが、スタソーマが出家したとき、今や、いったい、どのように為すというのでしょう」〔と〕。

 

213. 〔次男が言った〕「そして、泣き叫んでいる、わたしの母のためにも、さらに、〔あなたの出家を〕欲さない長兄のためにも、あなたの〔両の〕手をもまた掴みます。まさに、あなたは去り行きません。〔あなたの出家を〕欲さない、わたしたちのために」〔と〕。

 

214. 〔菩薩は言った〕「乳母よ、立ち上がれ。あなたは、他所において、この童子を喜ばせてやれ。わたしに、障害を為すことがあってはならない──天上〔の境位〕を切望しているわたしに」〔と〕。

 

215. 〔乳母が言った〕「それなら、さあ、光の作り手たる、この〔子〕を、〔誰かに〕与えてしまいましょうか。わたしにとって、この〔子〕に、いったい、何の義(利益)があるというのでしょう。スタソーマが出家したとき、わたしにとって、この〔子〕に、いったい、何を為すというのでしょう」〔と〕。

 

216. 〔将軍が言った〕「そして、あなたの蔵は、広大にして、さらに、あなたの貯蔵庫は、遍く満ちておられます。そして、地は、あなたの征圧するところとなりました。陛下よ、喜び楽しみたまえ。出家してはなりません」〔と〕。

 

217. 〔菩薩は言った〕「そして、わたしの蔵は、広大にして、さらに、わたしの貯蔵庫は、遍く満ちている。そして、地は、わたしの征圧するところとなった。それを捨棄して、〔わたしは〕出家するであろう」〔と〕。

 

218. 〔長者が言った〕「陛下よ、わたしにもまた、多大なる財があり、数えることさえもできません。それを、一切もろともに、あなたに施します。陛下よ、喜び楽しみたまえ。出家してはなりません」〔と〕。

 

219. 〔菩薩は言った〕「〔あなたの〕多大なる財を、〔わたしは〕知っている。クラヴァッダナ(長者)よ、そして、あなたに供養される者として、〔わたしは〕存している。そして、天上〔の境位〕を切望しながら、それによって、わたしは出家するであろう。

 

220. 激しく焦慮する者として、〔わたしは〕存している。ソーマダッタ(弟)よ、不満〔の思い〕は、わたしを侵す。多くの障りもまた、わたしにある。まさしく、今日、わたしは出家するであろう」〔と〕。

 

221. 〔弟が言った〕「そして、これは、あなたにとって好ましくあるところ。スタソーマよ、まさしく、今日、今や、あなたは出家したまえ。わたしもまた出家するでありましょう。わたしは、あなたなしでは、〔世に〕止住することができません」〔と〕。

 

222. 〔菩薩は言った〕「まさに、出家することはできない。なぜなら、城市において、さらに、地方においても、成り行かないからだ」〔と〕。〔人々が言った〕「スタソーマが出家したとき、今や、いったい、どのように為すというのでしょう」〔と〕。

 

223. 〔菩薩は言った〕「思うに、器のなかに導かれた、この僅かな水のように、このように、極めて微小なる生命において、さてまた、酔い痴れるための時はない。

 

224. 思うに、器のなかに導かれた、この僅かな水のように、このように、極めて微小なる生命において、盲者たる愚者たちは酔い痴れる。

 

225. 彼らは、地獄を増大させる──そして、畜生の胎を、さらに、餓鬼の境域を。渇愛の結縛に結縛された者たちは、阿修羅の衆を増大させる」〔と〕。

 

226. 〔人々が言った〕「塵の塊が放出される──〔わたしたちから〕遠く離れていないところにおいて、さてまた、プッバカの高楼において。思うに、まさに、福徳ある法(真理)の王(菩薩)の、諸々の髪が断ち切られたのだ。

 

227. 彼の、この高楼は、善き色艶の花の花飾が振りまかれ、そこにおいて、王は、女たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

228. 彼の、この高楼は、善き色艶の花の花飾が振りまかれ、そこにおいて、王は、親族たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

229. 彼の、この楼閣は、善き色艶の花の花飾が振りまかれ、そこにおいて、王は、女たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

230. 彼の、この楼閣は、善き色艶の花の花飾が振りまかれ、そこにおいて、王は、親族たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

231. 彼の、このアソーカ〔樹〕の林は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、女たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

232. 彼の、このアソーカ〔樹〕の林は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、親族たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

233. 彼の、この庭園は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、女たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

234. 彼の、この庭園は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、親族たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

235. 彼の、このカニカーラ〔樹〕の林は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、女たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

236. 彼の、このカニカーラ〔樹〕の林は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、親族たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

237. 彼の、このパータリー〔樹〕の林は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、女たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

238. 彼の、このパータリー〔樹〕の林は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、親族たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

239. 彼の、このアンバ〔樹〕の林は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、女たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

240. 彼の、このアンバ〔樹〕の林は、美しく花ひらき、全ての時が喜ばしく、そこにおいて、王は、親族たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

241. 彼の、この蓮池は、〔花に〕等しく覆われ、卵生の〔鳥〕たちがそぞろ行き、そこにおいて、王は、女たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

242. 彼の、この蓮池は、〔花に〕等しく覆われ、卵生の〔鳥〕たちがそぞろ行き、そこにおいて、王は、親族たちの群れに取り囲まれ、渡り歩いたのだ。

 

243. まさに、まさに、王は、出家したのだ。スタソーマは、この王権を捨棄して、黄褐色の衣をまとい、象のように、独りある者となり、歩む」〔と〕。

 

244. 〔菩薩は言った〕「まさに、過去における、諸々の遊び戯れの喜びを、さらに、諸々の笑い興じ〔の喜び〕を、思い浮かべてはならない。諸々の欲望〔の対象〕が、あなたたちを打ち砕いてはならない。なぜなら、スダッサナの城市は、喜ばしくあるからである。

 

245. そして、無量なる慈愛の心を修めよ──そして、昼に、さらに、夜に。功徳の行為者たちの居住所たる天の都に、〔彼は〕赴いたのだ」〔と〕。ということで──

 

 チューラスタソーマ・ジャータカが、第五となる。

 

 四十なるものの集まりは〔以上で〕終了となる。

 

 その〔章〕のための摂頌となる。

 

 〔そこで、詩偈に言う〕「鸚鵡の賢者たるジャンブカ(三者の鳥)と耳飾(サラバンガ)があり、優れた少女のアランブサー・ジャータカがあり、そして、最も優れた最上のサンカという吉祥の呼び名あるもの(サンカパーラ)があり、敵を調御する王たる優れたスタソーマ(小なるスタソーマ)があり、〔それらの五がある〕」と。

 

18. 五十なるものの集まり

 

18. 1. ニリニカーの章

 

18. 1. 1. ニリニカー・ジャータカ(ニリニカー・本生物語526)

 

1. 〔王が言った〕「地方は〔炎暑に〕焼かれ、そして、また、国土も滅し去る。ニリニカーよ、さあ、赴け。わたしのために、彼を、婆羅門を、〔おまえの支配に〕導き入れよ(誘惑し堕落させよ)」〔と〕。

 

2. 〔ニリニカーが言った〕「王よ、わたしは、苦痛に忍耐なき者です。わたしは、旅路に熟知なき者です。わたしは、どのように、象が慣れ親しむ林に赴くのでしょう」〔と〕。

 

3. 〔王が言った〕「栄える地方に赴いて、そして、象によって、さらに、車によって、木を群結した乗物(舟)によって、ニリニカーよ、このように赴け。

 

4. 士族の女(ニリニカー)よ、象と馬と車の者たちを、徒歩の者たちを、〔彼らを〕連れて、まさしく、赴け。色艶と形姿によって、まさしく、おまえの支配に、彼を導き入れるのだ」〔と〕。

 

5. 〔案内人が言った〕「芭蕉〔の葉〕の旗を標識として、アーブジー〔樹〕に取り囲まれた、イシシンガの喜ばしき庵所が、これに見られます。

 

6. 点灯された、彼の祭火が、これに〔見られます〕。煙が、これに見られます。イシシンガは、大いなる威力ある者は、思うに、まさに、祭火を捧げているのです」〔と〕。

 

7. 〔世尊は言った〕「そして、宝珠の耳飾を付け、やってくる彼女を見て、恐怖したイシシンガは、葉を覆いとする庵所に入った。

 

8. そして、彼女は、彼の庵所の門のところで、毬で遊び戯れる──秘密のものを、さらに、諸々の明示のものも、〔身体の〕各部を見せながら。

 

9. そして、遊び戯れている彼女を見て、草庵に赴いた結髪者は、庵所から出て、この言葉を説いた」〔と〕。

 

10. 〔イシシンガが尋ねた〕「はてさて、まさに、その木は、何なのですか。その〔木〕の果は、さてまた、このように去り行くも、たとえ、遠くに投げられても、〔あなたの手許に〕戻り、あなたを捨棄して去り行きません」〔と〕。

 

11. 〔ニリニカーが答えた〕「梵(婆羅門)よ、わたしの庵所の近くにあるガンダマーダナ〔山〕に、そのような木々が多くあります。その〔木〕の果は、さてまた、このように去り行くも、たとえ、遠くに投げられても、〔わたしの手許に〕戻り、わたしを捨棄して去り行きません」〔と〕。

 

12. 〔イシシンガが言った〕「来たれ、貴君は、この庵所に。食べたまえ。そして、足に塗る油を、さらに、食物を、受容したまえ。〔わたしが〕施しましょう。貴君は、ここに、この坐に坐りたまえ。貴君は、これより、諸々の根や果を食べたまえ」〔と〕。

 

13. 〔イシシンガが尋ねた〕「これは、あなたの〔両の〕腿の間にあるものは、何なのですか。極めて淫靡で、黒きもののように見えます。〔問いを〕尋ねられた者として、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください。はてさて、あなたの一物は、蔵に入ってしまったのですか」〔と〕。

 

14. 〔ニリニカーが答えた〕「わたしが、根や果を探し求め、林のなかを歩いていると、極めておぞましい形態の熊に近づいてしまったのです。彼は、出くわすと、いきなり、わたしに飛び掛かって、わたしを押し倒して、一物を引き抜いたのです。

 

15. 〔まさに〕その、この傷が、痒くなり、むずむずするのです。さらに、全ての時に、快を得ないのです。貴君は、この痒みを取り除くことができます。貴君は、乞い求められた者として、婆羅門の義(目的)を為したまえ」〔と〕。

 

16. 〔イシシンガが言った〕「あなたの傷は、深き様子にして、赤みを有し、腐ってはいないのですが、傷は臭く、かつまた、大きい。あなたのために、何らかの特別の施術を為しましょう──すなわち、貴君が、最高の安楽ある者と成るように」〔と〕。

 

17. 〔ニリニカーが言った〕「梵行者よ、効果があるのは、呪文の施術ではなく、煎薬の施術ではなく、薬草〔の施術〕ではありません。〔あなたの〕柔らかいもので打ち叩き、それによって、痒みを取り除いてください──すなわち、わたしが、最高の安楽ある者と成るように」〔と〕。

 

18. 〔イシシンガが尋ねた〕「はてさて、貴君の庵所は、ここからどれくらいのところにあるのですか。どうでしょう、貴君は、林のなかで喜び楽しみますか。はてさて、どうでしょう、あなたには、沢山の根や果がありますか。どうでしょう、貴君を、猛獣たちは害しませんか」〔と〕。

 

19. 〔ニリニカーが答えた〕「ここから真っすぐ、北の方角に、ヒマヴァント(ヒマラヤ)から発出するケーマー川があります。その〔川〕の岸辺に、わたしの喜ばしき庵所があります。ああ、貴君が、わたしの庵所を見るとよいのですが。

 

20. そして、諸々のアンバ〔樹〕が、諸々のサーラ〔樹〕が、さらに、諸々のティラカ〔樹〕が、諸々のジャンブ〔樹〕が、諸々のウッダーラカ〔樹〕が、かつまた、諸々のパータリー〔樹〕が、〔一切時に〕咲き誇ります。遍きにわたり、妖精たちがさえずる〔庵所〕を、ああ、貴君が、わたしの庵所を見るとよいのですが。

 

21. ここにおいて、わたしには、諸々のターラ〔樹〕の、そして、根もあり、さらに、果もあります。色と香りを具した形態の〔庵所〕を、諸々の〔快意なる〕土地の区画を具した形態の〔庵所〕を、その〔庵所〕を、ああ、貴君が、わたしの庵所を見るとよいのですが。

 

22.(※) ここにおいて、わたしには、沢山の、そして、根もあり、さらに、果もあります。色と香りと味を具したものです。さてまた、その地に、猟師たちがやってきます。その〔地〕から、わたしの根や果を奪い去ってはいけません」〔と〕。

 

※ テキストには 21. とあるが、誤記と見て 22. と訂正する。

 

23. 〔イシシンガが言った〕「父(菩薩)は、わたしのために、根や果を探し求め、出掛けています。今や、夕方の時には戻ります。まさしく、〔わたしとあなたの〕両者で、その庵所に赴きましょう。まずは、父が、根や果〔の採取〕から帰ることです」〔と〕。

 

24. 〔ニリニカーが言った〕「他の多くの、善き形姿ある聖賢たちがいます。道沿いには、聖賢たる王たちが住しています。まさしく、彼らに、わたしのその庵所のことを尋ねるのです。彼らは、わたしの現前に、あなたを導くでしょう」〔と〕。

 

25. 〔イシシンガに、菩薩は尋ねた〕「諸々の薪は、おまえによって折られず、水は、おまえによって運ばれず、祭火もまた、おまえによって捧げられず、いったい、どうして、愚か者のように思い惑うのだ。

 

26. 諸々の薪は折られ、かつまた、祭火は捧げられ、苦行もまた、おまえによって行知され、梵行者としてあり、前には、わたしのために、そして、椅子も、さらに、水も、〔準備されて〕有り、梵と成ったおまえは、喜び楽しんでいた。

 

27. 薪を折ることなく、水を運ぶことなく、〔おまえは〕存している。祭火を捧げることなく、食料を設えることなく、〔おまえは〕存している。わたしのために、おまえは、今日、わたしに語りかけることもない。はてさて、滅びがあるのか、さてまた、何か、心の苦しみがあるのか」〔と〕。

 

28. 〔イシシンガが答えた〕「ここに、結髪の梵行者がやってきました。極めて美しく、極めて細き者であり、〔わたしを〕教え導きます。まさしく、〔背丈も〕長過ぎることもなく、また、短過ぎることもなく、尊き者の〔頭は〕、諸々の極めて黒々とした髪によって〔覆われています〕。

 

29. 髭は生えておらず、色艶は古からず、また、そして、彼の首には、置き台の形をした〔飾り物〕があり、胸には、二つの対なる腫物が美しく生じ、黄金のティンドゥカ〔樹〕に似た光り輝きがあります。

 

30. そして、彼の顔は、とても美しく、さらに、〔両の〕耳には、先端が曲がった〔耳飾〕が垂れ下がり、学徒が歩いていると、それらは光り輝きます──さらに、諸々の結髪のために結ぶ、その糸も。

 

31. さらに、他にも、彼には、青と黄と赤の、そして、白の、四つの飾り物があり、学徒が歩いていると、それらは鳴り響きます──雨期における鸚鵡(おうむ)たちの群れのように。

 

32. ムンジャ〔草〕で作られる帯を〔身に〕付けず、また、まさに、出家者の諸々の被り物を〔身に付け〕ず、腰の間には、諸々の華奢な〔飾り物〕があり、それらは光り輝きます──空中における雷光のきらめきように。

 

33. そして、諸々の棘なく、諸々の茎なく、臍の下、腰に配された〔それらの果〕は、打たれることなく、常に音色を奏でます。父よ、ああ、それらは、どのような木の果なのですか。

 

34. そして、彼の諸々の結髪は、とても美しく、百を超えており、先端が巻かれ、善き香りがします。頭(頭髪)は、二様に、善き形態に区分けされています。ああ、いったい、まさに、わたしに、そのように、諸々の結髪が存するでしょうか。

 

35. そして、彼が、色と香りを具した形態の、それらの結髪を振り乱す、そのときは、風に揺らぐ青蓮のように、また、まさしく、そのように、この庵所は等しく香りただよいます。

 

36. そして、彼の汚泥は、とても美しく、すなわち、わたしの身体にあるような、このようなものではなく、それは、風に揺れたなら、あたかも、美しく咲き誇る初夏の林のように、〔宙を〕ただよいます。

 

37. 彼は、木の果を、地に打ち付けます──美しく彩りあざやかな形態の、好ましく美しい〔木の果〕を。そして、投げられた〔木の果〕は、彼の手に戻ってきます。父よ、ああ、いったい、まさに、それは、どのような木の果なのですか。

 

38. そして、彼の諸々の歯は、とても美しく、清浄で、均等で、法螺貝の優美さを具有し、〔それらが〕開かれていると、〔見ている者の〕意を清信させます。まさに、まちがいなく、彼は、それらによって、野菜を咀嚼したことがありません。

 

39. 彼の語るところは、粗野ならず、騒々しからず、甘く、柔らかで、真っすぐで、高揚せず、軽薄ならず、〔声の〕響きは、快意で、カラヴィーカ〔鳥〕の美しき声にして、心臓に至り、わたしの意を、まさしく、喜ばせます。

 

40. 声はまろやかで、言葉は話し過ぎず、まちがいなく、〔聖典の〕読誦に相応しからざることはありません。ああ、彼を、まさしく、ふたたび見ることを、〔わたしは〕求めます。なぜなら、学徒は、すでに、わたしの朋友と成ったからです。

 

41. 〔彼の〕傷は、善く合わさり、一切所に艶やかで、広く、作りが善く、蓮華の花びらに似ていて、学徒は、まさしく、それをもって、わたしを包み込んで、腿を開き、腰をもって押し付けました。

 

42. 〔彼の光輝は〕輝き渡り、光り輝き、かつまた、遍照します──空中における雷光のきらめきのように。彼の〔両の〕腕は柔らかで、〔黒の〕塗料を塗ったに等しい諸々のうぶ毛があり、円く様々な彩りの諸々の指があり、美しく輝きます。

 

43. 肢体は粗野ならず、そして、うぶ毛は長からず、彼の諸々の爪は、長くもまたあり、先端が赤くなっています。〔両の〕柔らかな腕で、〔わたしを〕抱きしめながら、善き形姿ある者は、〔わたしを〕喜ばせながら、奉仕してくれました。

 

44. 木の綿に似た光輝にして、金の螺貝の面をした円くて美しい肌があり、〔両の〕手は柔らかく、それらで、わたしに触れて、ここから去り行ったのです。父よ、〔それらは〕わたしを焼き焦がします。

 

45. まちがいなく、彼は、天秤の種類を運んだことがありません。まちがいなく、彼は、自ら、諸々の薪を折ったことがありません。まちがいなく、彼は、斧で木々を打ち倒したことがありません。なぜなら、彼の〔両の〕手に、たこが存在しないからです。

 

46. そして、熊が、まさに、彼の傷を作りました。彼は、わたしに説きました。『わたしを、安楽の者と為したまえ』〔と〕。それを、わたしは為しました。それによって、わたしには、福楽が存しました。梵(婆羅門)よ、そして、彼は説きました。『〔わたしは〕存しています──安楽の者として』と。

 

47. さらに、あなたの、この蔓草の葉の敷物は、そして、わたしによって、かつまた、彼によって、まさしく、形は乱されました。〔わたしたちは〕疲れた様子ながらも、水のなかで喜び楽しんでは、繰り返し、柴小屋に入り行くのです。

 

48. 父よ、今日、わたしに、諸々の呪文は明白ならず。祭火への捧げものはなく、祭祀の経典もまたなく、そして、また、〔わたしが〕あなたの諸々の根や果を食べることもないでしょう──彼を、梵行者を、〔わたしが〕見る、それまでは。

 

49. 父よ、たしかに、あなたもまた覚知しています──どこの方角に、梵行者が住しているのかを。父よ、わたしを、その方角に、すみやかに至り得させたまえ。あなたの庵所において、わたしが死んでしまってはいけません。

 

50. 鳥たちが鳴きさえずり、鳥たちの群れが慣れ親しむところ、まさに、種々様々に咲き誇る林のことを、わたしは聞きました。父よ、わたしを、その林に、すみやかに至り得させたまえ。あなたの庵所において、〔わたしが〕命を捨棄する前に」〔と〕。

 

51. 〔菩薩は言った〕「わたしは〔言う〕。音楽神や天〔の神〕や仙女たちの群れが慣れ親しむ、この、輝石ある林において、聖賢たちの昔ながらの居住所において、このような不満〔の思い〕に至り得るべきではない。

 

52. 『朋友たちが有る』〔と〕、さらに、『有らず』〔と〕、親族たちや朋友たちにたいし、〔人々は〕愛情を作り為す。彼が、〔自らについて〕『どこからやってきた者として、〔わたしは〕存している』〔と〕、まさしく、知らないなら、そして、この者は、卑しむべき者であり、あるいは、何ものかに〔思いが〕固着した者である。

 

53. まさに、共住によって、朋友たちは、繰り返し結ばれる(依存し拘束される)。集うことなき朋友は、まさしく、彼は、共住なきことで老い朽ちる(独住に耐えられない)。

 

54. それで、もし、おまえが、梵行者を見るなら、それで、もし、おまえが、梵行者と談じ合うなら、実った作物が大水に〔流される〕ように、この苦行の徳を、すみやかに捨棄するであろう。

 

55. ふたたび、また、もし、梵行者を見るなら、ふたたび、また、もし、梵行者と談じ合うなら、実った作物が大水に〔流される〕ように、この行き及んだ熱(苦行者の威光)を、すみやかに捨棄するであろう。

 

56. 息子よ、まさに、これらの精霊たちは、種々様々な形態で、人間の世を歩む。智慧を有する人は、それらに慣れ親しまない。その〔精霊〕に近づいて、梵行者は滅し行くのだ」〔と〕。ということで──

 

 ニリニカー・ジャータカが、第一となる。

 

18. 1. 2. ウンマダンティー・ジャータカ(ウンマダンティー・本生物語527)

 

57. 〔菩薩は尋ねた〕「スナンダよ、いったい、誰のものなのだ──赤煉瓦の城壁によって守られた、この住居地は。誰なのだ──遠く火炎のように見え、宙空に〔光り輝く〕山の頂きの炎のような〔この女は〕。

 

58. スナンダよ、いったい、この者は、誰の娘として〔世に〕有るのだ。いったい、この者は、誰の嫁として、さらに、また、〔誰の〕妻として、〔世に有るのだ〕。〔問いを〕尋ねられた者として、まさしく、ここに、すみやかに、わたしに告げ知らせよ。未婚なのか、もしくは、あるいは、夫が存するのか」〔と〕。

 

59. 〔スナンダが答えた〕「人のインダ(国王)よ、まさに、わたしは、知っています──この者のことを。そして、母についても、さらに、父についても、さらに、また、彼女の〔夫のことも〕。地上の警護者よ、まさしく、あなたのために、その男は、夜に、昼に、あなたの義(利益)に怠りなくあります。

 

60. 人のインダよ、そして、繁栄し、さらに、興隆し、かつまた、極めて繁栄している者であり、かつまた、あなたの家臣の一者でもある、〔家臣の〕アビパーラカの、彼の妻として、この者はあります。王よ、命名としては、ウンマダンティーとなります」〔と〕。

 

61. 〔菩薩は言った〕「おや、おや、これが、この者の名であるのか。そして、母によっても、かつまた、父によっても、見事に善くしっかりと付けられたものだ。なぜなら、そのとき、ウンマダンティーは、わたしを眺めながら、〔わたしを〕狂者(ウンマッタカ)と為したのだから。

 

62. 満月のもと、彼女は近坐した──鹿のつぶらな眼をした者は、白蓮の皮膚と肢体ある者は。鳩〔の足〕の赤き〔衣〕をまとう者を見て、そのとき、わたしは思った──『二つの満月が有った』〔と〕。

 

63. 諸々の浄美かつ麗美な睫毛で誘惑しながら、わたしを見つめる、そのとき、〔彼女は〕あくびをしながら、わたしの意を、まさしく、奪い去る──林に生まれ、山にいる妖精のように。

 

64. まさに、そのとき、宝珠の耳飾を付けた、大柄で金色の〔その〕女は、単衣をまとい、迷走する鹿のように、〔わたしを〕見つめる。

 

65. いったい、いつ、わたしを、赤き爪と美しきうぶ毛の、栴檀の真髄を塗った柔らかき〔両の〕腕ある者は、円き指の、こなれた慧者の所作ある者は、頭から〔足まで〕浄美なる女は、近しく知るのであろう。

 

66. いったい、いつ、わたしを、金の網の胸覆いをした、ティリータの娘は、細き胴ある者は、柔らかき〔両の〕腕で抱きしめるのであろう──密林に生えた木を、蔓草が〔覆い尽くす〕ように。

 

67. いったい、いつ、〔赤の〕染液で染めた美しい肌の、まろやかな乳房をした、白蓮の皮膚と肢体ある者は、口を口に差し出すのであろう──酒飲みが、酒飲みの酒の盃に〔口を寄せる〕ように。

 

68. そのとき、〔わたしは〕見た──全てが幸いにして意が喜びとする彼女が、〔そこに〕立っているのを。そののち、〔わたしは〕自らの心に、何ものをも覚らない。

 

69. 宝珠の耳飾を付けたウンマダンティーを見る者となり、わたしは、昼夜に眠れない──千〔金〕を失った者のように。

 

70. もし、帝釈〔天〕が、わたしに、願い事を与えてくれるなら、かつまた、わたしに、その願い事が得られるなら、一夜、あるいは、二夜を、アビパーラカと成るであろう。ウンマダンティーと喜び楽しんで、そののち、シヴィ王として存するのだ」〔と〕。

 

71. 〔菩薩に、アビパーラカが言った〕「生類の長(王)よ、わたしが精霊たちを礼拝していると、夜叉がやってきて、この〔言葉〕を、このことを説きました。『王の意は、ウンマダンティーに固着するところとなった』〔と〕。あなたに、彼女を施しましょう。お楽しみください」〔と〕。

 

72. 〔菩薩は言った〕「善から転落するなら、そして、〔わたしは〕不死の者として存さず。かつまた、人は、このことを、そして、わたしの悪と知るであろう。そして、おまえの意に、激しい悩み苦しみが存するであろう──施して〔そののち〕、愛しきウンマダンティーを見ない者となり」〔と〕。

 

73. 〔アビパーラカが言った〕「人のインダよ、あなたより他に、あるいは、わたしより〔他に〕、為された行為のことを、一切もろともに知ることはありません。すなわち、ウンマダンティーは、わたしによって、あなたに施されたのです。王よ、激したまえ。〔欲の〕林の下生えを放たれよ」〔と〕。

 

74. 〔菩薩は言った〕「彼が、悪しき行為を為している人間であるなら、彼は、思い考える──『このことを、他者たちが知ってはならない』〔と〕。精霊たちは、見る──〔悪しき行為を〕為しているこの者を。さらに、地において、道理ある人たちとして有る、それらの者たちも、〔彼の行為を見る〕。

 

75. 地における人としてあるなら、おまえより他の、いったい、どこの誰が、世において、信じるというのだろう──『〔ウンマダンティーは〕わたしの愛しき者にあらず』という〔おまえの言葉を〕。そして、おまえの意に、激しい悩み苦しみが存するであろう──施して〔そののち〕、愛しきウンマダンティーを見ない者となり」〔と〕。

 

76. 〔アビパーラカが言った〕「人のインダよ、たしかに、この者は、わたしにとって、愛しき者です。地上の警護者よ、彼女は、わたしにとって、愛しからざる者ではありません。幸いなる方よ、あなたは、ウンマダンティーのもとに、まさしく、赴きたまえ──獅子が、巌の洞窟へと近づくように」〔と〕。

 

77. 〔菩薩は言った〕「慧者たちは、自己の苦痛に責め苛まれたとして、安楽の果ある行為を遍捨することはない。あるいは、また、等しく迷妄となった者たちも、安楽に酔い痴れたなら、そして、〔そのときは、もはや〕悪しき行為を励行することはない」〔と〕。

 

78. 〔アビパーラカが言った〕「まさに、あなたは、わたしの、そして、母であり、さらに、父であり、夫であり、亭主であり、養育者であり、かつまた、天神です。子と妻と共に、わたしは、あなたの奴隷です。主人よ、安楽なるままに、欲望を為したまえ」〔と〕。

 

79. 〔菩薩は言った〕「彼が、『〔わたしは〕権力者として〔世に〕存している』と、悪を為し、なおかつ、為して〔そののち〕、他者たちに恐懼しないなら、それによって、彼は、長き寿命を生きない。天〔の神々〕たちもまた、〔その〕悪によって、彼のことを正視する」〔と〕。

 

80. 〔アビパーラカが言った〕「所有者たちによって、親族ならざる者に施された布施を、すなわち、法(正義)に依って立つ者たちが受容するなら、受容者たちは、さらに、また、施者たちも、そこにおいて、まさしく、安楽の果ある行為を為すのです」〔と〕。

 

81. 〔菩薩は言った〕「地における人としてあるなら、おまえより他の、いったい、どこの誰が、世において、信じるというのだろう──『〔ウンマダンティーは〕わたしの愛しき者にあらず』という〔おまえの言葉を〕。そして、おまえの意に、激しい悩み苦しみが存するであろう──施して〔そののち〕、愛しきウンマダンティーを見ない者となり」〔と〕。

 

82. 〔アビパーラカが言った〕「人のインダよ、たしかに、この者は、わたしにとって、愛しき者です。地上の警護者よ、彼女は、わたしにとって、愛しからざる者ではありません。すなわち、ウンマダンティーは、わたしによって、あなたに施されたのです。王よ、激したまえ。〔欲の〕林の下生えを放たれよ」〔と〕。

 

83. 〔菩薩は言った〕「彼が、自己の苦痛によって、他者の苦痛を〔思い定め〕、あるいは、〔他者の〕安楽によって、自己の安楽を思い定めるなら──『わたしにとって、このことが、まさしく、そのようにあるなら、他者たちにも、そのようにある』〔と〕、彼が、このように知るなら──彼は、法(真理)を知ったのだ。

 

84. 地における人としてあるなら、おまえより他の、いったい、どこの誰が、世において、信じるというのだろう──『〔ウンマダンティーは〕わたしの愛しき者にあらず』という〔おまえの言葉を〕。そして、おまえの意に、激しい悩み苦しみが存するであろう──施して〔そののち〕、愛しきウンマダンティーを見ない者となり」〔と〕。

 

85. 〔アビパーラカが言った〕「人のインダよ、〔あなたは〕知っています。この者は、わたしにとって、愛しき者です。地上の警護者よ、彼女は、わたしにとって、愛しからざる者ではありません。人のインダよ、愛しきもの(善果)あることから、愛しきものを、あなたに施すのです。陛下よ、愛しきものを施す者たちは、愛しきものを得ます」〔と〕。

 

86. 〔菩薩は言った〕「〔まさに〕その、わたしは、まちがいなく、欲望を因とする自己を打破するであろう。なぜなら、法(正義)ならざるものによって法(正義)を打破することは、わたしにはできないからである」〔と〕。

 

87. 〔アビパーラカが言った〕「人のインダよ、人のなかの最勝の勇者よ、それで、もし、あなたが、わたしの念慮するところを欲さないなら、シヴィ〔国〕の全ての人に、彼女を施捨します。わたしによって解き放たれた、そののち、彼女を呼ぶのです」〔と〕。

 

88. 〔菩薩は言った〕「アビパーラカよ、侍官よ、もし、おまえが、汚れなき者を施捨するなら、おまえにとって、益なきことのために存するであろう。そして、おまえには、大いなる批判もまた存するであろう。さらに、また、おまえには、城市に味方は存さないであろう」〔と〕。

 

89. 〔アビパーラカが言った〕「わたしは、この批判に耐えましょう──非難を、賞賛を、さらに、一切の難詰を。地上の警護者よ、わたしに、この〔一切〕が到来せよ。シヴィよ、安楽なるままに、欲望を為したまえ」〔と〕。

 

90. 〔菩薩は言った〕「彼が、まさしく、非難に〔取り合わ〕ず、また、賞賛に〔取り合わ〕ず、難詰に〔取り合わず〕、供養にもまた取り合わないなら、そして、吉祥も、さらに、幸運も、彼から離れ去る──あたかも、大雨の水が、高地から〔流れ行く〕ように」〔と〕。

 

91. 〔アビパーラカが言った〕「それが何であれ、かつまた、苦痛も、かつまた、安楽も、そして、法(正義)から外れることの意の悩苦をも、こののち、わたしは、〔その〕一切を、胸をもって超え渡ります──あたかも、動かないものたちと動くものたちにとっての、地のように」〔と〕。

 

92. 〔菩薩は言った〕「そして、法(正義)から外れることの意の悩苦を、さらに、苦痛を、わたしは、他者たちに求めない。まさしく、独り、この重荷を運び行くであろう──法(正義)に依って立つ者として、何であれ退失させることなく」〔と〕。

 

93. 〔アビパーラカが言った〕「人のインダよ、天上へと近しく赴く功徳の行為なのです。あなたが、わたしに、障りを為すことがあってはなりません。清信した者として、ウンマダンティーを、あなたに施します──あたかも、王が、祭祀において、財を、婆羅門たちに〔施す〕ように」〔と〕。

 

94. 〔菩薩は言った〕「侍官よ、たしかに、おまえは、わたしの益を探し求める者である。ウンマダンティーは、かつまた、おまえは、わたしの友人たちである。天〔の神々〕たちも、さらに、祖霊たちも、全ての者たちが、〔わたしを〕非難するであろう──そして、悪しきものを、未来の運命に見ながら」〔と〕。

 

95. 〔アビパーラカが言った〕「シヴィ王よ、町の者たちと共に、そして、全ての地方の者たちは、まさに、これを、法(教え)ならざるものと説かないでしょう。すなわち、ウンマダンティーは、わたしによって、あなたに施されたのです。王よ、激したまえ。〔欲の〕林の下生えを放たれよ」〔と〕。

 

96. 〔菩薩は言った〕「侍官よ、たしかに、おまえは、わたしの益を探し求める者である。ウンマダンティーは、かつまた、おまえは、わたしの友人たちである。そして、正しくある者たちの諸々の法(教え)は、見事に述べ伝えられたものとしてあり、海岸のように超え難きものなのだ」〔と〕。

 

97. 〔アビパーラカが言った〕「わたしにとって、〔供物を〕捧げるべき者として、利益と慈しみ〔の思い〕ある者として、〔あなたは〕存しています。そして、充足者として、供給者として、欲望〔の対象〕の警護者として、〔あなたは〕存しています。王よ、あなたにおいて、捧げられたものは、まさに、大いなる果となります。むしろ、わたしのために、ウンマダンティーを受容したまえ」〔と〕。

 

98. 〔菩薩は言った〕「アビパーラカよ、侍官の子よ、まさに、たしかに、おまえは、わたしのために、一切の法(正義)〔の道〕を歩んだ。旭日のもと、生あるものの世において、二足者として、人としてあるなら、おまえより他の、いったい、誰が、ここに、安穏の作り手として〔存するというのだろう〕」〔と〕。

 

99. 〔アビパーラカが言った〕「はてさて、あなたは、最勝なる者として、あなたは、無上なる者として、あなたは、法(正義)に至る者として、法(正義)を知る思慮ある者として、〔世に〕存しています。〔まさに〕その、法(正義)に守られた者として、まさしく、長きにわたり、生きたまえ。法(正義)の警護者よ、そして、わたしに、法(正義)を示したまえ」〔と〕。

 

100. 〔菩薩は言った〕「アビパーラカよ、それでは、さあ、わたしの言葉を聞け。わたしは、おまえに、正しくある者たちが習い修める法(正義)を示そう。

 

101. 善きかな、法(正義)を好む王は。善きかな、智慧ある人は。善きかな、朋友たちを裏切らない者は。悪を為さないことは、安楽である。

 

102. 忿激せず法(正義)に依って立つ王の領土において、人間たちは、安楽に暮らすであろう──涼やかな影ある、自らの家にて。

 

103. そして、わたしは、このことを願わない。正視することなく為された行為は、善きにあらず。あるいは、また、彼らが、知っていながら、自ら、為すなら。おまえは、わたしの、これらの喩えを聞け。

 

104. もし、牛たちが〔川を〕超えつつあるに、雄牛が、曲がり赴くなら、それら〔の雌牛たち〕は、全ての者たちが、〔雄牛に追従して〕曲がり赴く──導く者が、曲がり赴いた者として存しているうちは。

 

105. まさしく、このように、人間たちにおいて、彼が、最勝者として敬われ、〔世に〕有るとして、もし、彼が、法(正義)ならざる〔道〕を歩むなら、なおのこと、他の人々は、〔法ならざる道を歩むであろう〕。もし、王が、法(正義)ならざる者として〔世に〕有るなら、国土は、〔その〕全てが、苦痛のうちに臥す。

 

106. もし、牛たちが〔川を〕超えつつあるに、雄牛が、真っすぐに赴くなら、〔それらの〕雌牛たちは、全ての者たちが、〔雄牛に追従して〕真っすぐに赴く──導く者が、真っすぐに赴く者として存しているうちは。

 

107. まさしく、このように、人間たちにおいて、彼が、最勝者として敬われ、〔世に〕有るとして、それで、もし、彼が、法(正義)〔の道〕を歩むなら、なおのこと、他の人々は、〔法の道を歩むであろう〕。もし、王が、法(正義)にかなう者として〔世に〕有るなら、国土は、〔その〕全てが、安楽のうちに臥す。

 

108. さらに、また、わたしは、法(正義)ならざる〔道〕によって、不死なることを望み求めない──アビパーラカよ、あるいは、この地の一切を征圧することを。

 

109. まさに、それが何であれ、人間たち〔の世〕において、ここに見出される、宝として、牛たちがあり、奴隷があり、そして、黄金があり、衣があり、黄の栴檀があり──

 

110. 馬や女たちがあり、宝玉があり、かつまた、宝珠があり、さらに、また、わたしのその〔宝〕を、月と日が守るとして、それを因として、〔わたしが〕不正〔の道〕を歩むことはない。シヴィ〔国〕の中に生まれた雄牛(王)として、〔わたしは〕存している。

 

111. 導き手であり、益ある者であり、気高き者であり、国土の警護者であり、シヴィ〔国〕の法(正義)を敬恭している者であり、〔まさに〕その〔わたし〕は、法(正義)だけを熟慮している者であり、それゆえに、自らの心の支配のうちに転じ行く者ではない」〔と〕。

 

112. 〔アビパーラカが言った〕「大王よ、たしかに、あなたは、常に、災厄なき吉祥を、長きにわたり、王権を、為すでしょう。なぜなら、あなたには、智慧があり、如なる者として、〔あなたは〕存しているからです。

 

113. あなたのこの〔言葉〕を、〔わたしたちは〕随喜します。すなわち、〔あなたは〕法(正義)を怠りません。士族(王)は、法(正義)を怠って、権力者は、国土から死滅します。

 

114. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、母と父にたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

115. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、子と妻たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

116. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、朋友と家臣たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

117. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──輸送の者たちにたいし、さらに、軍隊の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

118. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──村の者たちにたいし、さらに、町の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

119. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──国土の者たちにたいし、さらに、地方の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

120. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──さらに、沙門と婆羅門たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

121. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、獣と鳥たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

122. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ。法(正義)〔の道〕を歩んだなら、安楽をもたらします。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

123. 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ。インダ(インドラ神)を含め、梵〔天〕(ブラフマー神)を含め、天〔の神々〕たちは、善き行ないによって、天〔の神〕たる〔境遇〕に至り得たのです。王よ、法(正義)を怠ること(放逸)があってはいけません」〔と〕。ということで──

 

 ウンマダンティー・ジャータカが、第二となる。

 

18. 1. 3. マハーボーディ・ジャータカ(大いなる菩提・本生物語528)

 

124. 〔王が尋ねた〕「いったい、どうして、杖を、どうして、皮衣を、どうして、傘を、どうして、履物を、そして、どうして、鉤を、かつまた、どうして、鉢を、さらに、また、どうして、大衣を、婆羅門よ、〔あなたは〕急ぎの様子で運び去ったのですか。いったい、どの方角を望み求めるのですか」〔と〕。

 

125. 〔菩薩は答えた〕「十二年のあいだ、あなたの前にて住してきましたが、褐色の犬に吠えられたことを、〔わたしは〕証知しません。

 

126. 〔まさに〕その、この〔犬〕は、まさしく、倨傲にして、白い牙を見せながら吼えます──妻を相手のあなたの〔言葉を〕聞いて、わたしに向けての信が離れた〔あなた〕の〔言葉を聞いて〕」〔と〕。

 

127. 〔王が言った〕「〔わたしが〕為したことは、これは、汚点と成りました──婆羅門よ、すなわち、〔あなたが〕語るとおりに。この〔わたし〕は、より一層、〔あなたに〕清信します。婆羅門よ、住したまえ、赴いてはなりません」〔と〕。

 

128. 〔菩薩は言った〕「かつては、全てが白きものとして存しました。そののち、また、まだらのものと成りました。今や、全てが赤く、わたしにとっては、立ち去るべき時です。

 

129. かつては、内に存しました──そののち、中に、そののち、外に。追放と成る前に、わたしは、まさしく、自ら、逃れ行くのです。

 

130. 水なき井戸のような、信が離れた者に慣れ親しむべきではありません。それで、もし、また、それを掘るとして、泥土の臭いがする水となります。

 

131. まさしく、清信している者に慣れ親しむべきです。清信していない者を避けるべきです。清信している者に奉侍するべきです──水を義(目的)とする者が、湖に〔赴く〕ように。

 

132. 人士として親しくしている者と親しくするべきです。〔敵として〕親しくしていない者と親しくするべきではありません。彼が、親しくしている者と親しくしないなら、彼は、正ならざる人士の法(性質)ある者です。

 

133. 彼が、親しくしている者と親しくせず、慣れ親しんでいる者に慣れ親しまないなら、彼は、まさに、悪に依って立つ人間であり、枝に依拠する獣(猿)のようなものです。

 

134. 幾度となく交わることから、そして、集まりなきによって、さらに、時ならざるに乞い求めることによって、これによって、朋友たちは失われます。

 

135. それゆえに、幾度となく赴くべきではなく、かつまた、長きのはてに赴くべきではなく、〔正しい〕時に乞いを乞い求めるべきです。このように〔為すなら〕、朋友たちは失われません。

 

136. 長過ぎる居住によって、愛しき者は、愛しからざる者と成ります。まさに、あなたに〔別れを〕告げて、〔わたしどもは〕去り行きます──あなたにとって、愛しからざる者たちと成る前に」〔と〕。

 

137. 〔王が言った〕「もし、このように、乞い求めている者たちの合掌を、〔あなたが〕覚らないなら、世話する者たちとして存しているわたしたちの言葉を、〔あなたが〕為さないなら、このように、あなたに乞い求めます。ふたたび、〔共住の〕時機を作るべきです」〔と〕。

 

138. 〔菩薩は言った〕「もし、このように〔世に〕住んでいるわたしたちに、障りなく有るなら、大王よ、国土を繁栄させる者よ、あるいは、また、あなたに、あるいは、わたしに、まさしく、また、まさに、お目にかかることになるでしょう──諸々の昼と夜の経過あるときに」〔と〕。

 

139. 〔無因の生起を説く者に、菩薩は言った〕「もし、お話から、〔偶然の〕接合の状態によって、〔物事が〕随転するのであり、〔人は〕欲することなく、あるいは、為すべきではないことを〔為し〕、あるいは、また、為すべきことを為すなら、欲することなく為すべきではないことが〔為されたとき〕、ここに、誰が、悪によって汚されるというのでしょう(偶然によって悪から解き放たれることになる)。

 

140. もし、その〔論〕が、そして、義(道理)あるものであり、かつまた、法(正義)あるものであり、善きものであり、さらに、悪しきものではないなら、もし、貴君の言葉が真理であるなら、猿は、わたしによって見事に殺されたのです(わたしに非はなく、わたしを褒めるべきである)。

 

141. もし、まさに、自己の論に、罪科を識知するなら、あなたは、わたしを非難するべきではありません。なぜなら、貴君には、そのようなものとして、〔過誤の〕論があるからです(あなたの論に非があり、わたしを責めるべきではない)」〔と〕。

 

142. 〔創造神による生起を説く者に、菩薩は言った〕「それで、もし、イッサラ(イーシュヴァラ神・自在神)が、一切の世〔の人々〕の生命を営為するなら、そして、繁栄と災厄の状態を〔営為し〕、善と悪の行為を〔営為するなら〕、〔善悪の〕指定を為す人士たるイッサラは、それによって汚されます。

 

143. もし、その〔論〕が、そして、義(道理)あるものであり、かつまた、法(正義)あるものであり、善きものであり、さらに、悪しきものではないなら、もし、貴君の言葉が真理であるなら、猿は、わたしによって見事に殺されたのです。

 

144. もし、まさに、自己の論に、罪科を識知するなら、あなたは、わたしを非難するべきではありません。なぜなら、貴君には、そのようなものとして、〔過誤の〕論があるからです」〔と〕。

 

145. 〔宿命論を説く者に、菩薩は言った〕「それで、もし、過去(前世)に作り為した因が、楽と苦を受けるなら、過去に作り為した悪として、その負債があり、〔かつまた、宿命によって〕この者が解き放たれることになり、過去の負債の解き放ちある者は、ここに、誰が、悪によって汚されるというのでしょう(宿命によって悪から解き放たれることになる)。

 

146. もし、その〔論〕が、そして、義(道理)あるものであり、かつまた、法(正義)あるものであり、善きものであり、さらに、悪しきものではないなら、もし、貴君の言葉が真理であるなら、猿は、わたしによって見事に殺されたのです。

 

147. もし、まさに、自己の論に、罪科を識知するなら、あなたは、わたしを非難するべきではありません。なぜなら、貴君には、そのようなものとして、〔過誤の〕論があるからです」〔と〕。

 

148. 〔断滅論を説く者に、菩薩は言った〕「まさしく、四つ〔の元素〕(地水火風)に執取して、命ある者たちの形態は発生します。そして、それから、形態が発生するなら、まさしく、そこにおいて、近しく赴きます。まさしく、この〔世において〕、生命は生き、死してのち、死してのちと、滅し去ります。

 

149. この世が断絶するなら、すなわち、愚者たちも、さらに、すなわち、賢者たちも、世が断絶しているとき、ここに、誰が、悪によって汚されるというのでしょう。

 

150. もし、その〔論〕が、そして、義(道理)あるものであり、かつまた、法(正義)あるものであり、善きものであり、さらに、悪しきものではないなら、もし、貴君の言葉が真理であるなら、猿は、わたしによって見事に殺されたのです。

 

151. もし、まさに、自己の論に、罪科を識知するなら、あなたは、わたしを非難するべきではありません。なぜなら、貴君には、そのようなものとして、〔過誤の〕論があるからです」〔と〕。

 

152. 〔功利論を説く者に、菩薩は言った〕「〔自己を〕賢者と思量する愚者たちである、世における功利論者たちは言います。『母を〔殺すであろうし〕、父を殺すであろうし、そこで、長兄をもまた〔殺すであろうし〕、さらに、子と妻たちを殺すであろう。もし、そのようなものとして、義(目的)が存するなら』〔と〕。

 

153. その木の影に、坐るなら、あるいは、臥すなら、その〔木〕の枝を折るべきではありません。まさに、朋友を裏切る者は、悪しき者です。

 

154. そこで、義(目的)が生起したとき、根ごと、もろともに引き抜くべきであるなら、わたしのばあいもまた、糧食をもって義(目的)とするのであり、猿は、わたしによって見事に殺されたのです。

 

155. もし、その〔論〕が、そして、義(道理)あるものであり、かつまた、法(正義)あるものであり、善きものであり、さらに、悪しきものではないなら、もし、貴君の言葉が真理であるなら、猿は、わたしによって見事に殺されたのです。

 

156. もし、まさに、自己の論に、罪科を識知するなら、あなたは、わたしを非難するべきではありません。なぜなら、貴君には、そのようなものとして、〔過誤の〕論があるからです」〔と〕。

 

157. 〔菩薩は言った〕「無因の論ある人士、そして、すなわち、イッサラの所作とする者、さらに、過去の作り為しとする者、断絶〔の論〕ある者、そして、すなわち、功利の論ある人──

 

158. これらの者たちは、〔自己を〕賢者と思量する愚者たちであり、世における正ならざる人士たちです。そのような者は、悪を為すでしょう。さらに、他者にもまた、〔悪を〕為さしめるでしょう。正ならざる人士との交わりは、苦しみを終極とし、辛辣なる〔果〕を生成するものです。

 

159. 過去に、羊の形態をした狼が存しました。〔彼は〕危惧されることなく、山羊たちの群れに近づきます。雌羊を殺して、雌山羊を〔殺して〕、さらに、雄山羊を〔殺して〕、それによって、〔群れの者たちを〕恐れわななかせて、欲するままに逃げ去ります。

 

160. そのような種類の者たちである、或る沙門や婆羅門たちは、隠蔽を為して、人間たちを騙します。断食者たちであり、さらに、野宿者たちであり、塵や埃まみれのうずくまりの精励を〔為す者たちであり〕、さらに、日を置いての食事を〔為す者たちであり〕、水断ちを為す者たちであり、〔自己を〕阿羅漢と説いている悪行の者たちです。

 

161. これらの者たちは、〔自己を〕賢者と思量する愚者たちであり、世における正ならざる人士たちです。そのような者は、悪を為すでしょう。さらに、他者にもまた、〔悪を〕為さしめるでしょう。正ならざる人士との交わりは、苦しみを終極とし、辛辣なる〔果〕を生成するものです。

 

162. すなわち、『精進は存在しない』と言い、さらに、無因を説く、それらの者たちがいます。他者の為すことを、さらに、自己の為すことも、『虚妄である』と等しく説明した、それらの者たちもいます。

 

163. これらの者たちは、〔自己を〕賢者と思量する愚者たちであり、世における正ならざる人士たちです。そのような者は、悪を為すでしょう。さらに、他者にもまた、〔悪を〕為さしめるでしょう。正ならざる人士との交わりは、苦しみを終極とし、辛辣なる〔果〕を生成するものです。

 

164. まさに、それで、もし、精進が存在しないなら、善と悪の行為が〔存在しないなら〕、王は、大工を養わず、また、諸々の機具も作らせません。

 

165. しかしながら、すなわち、精進が存在し、善と悪の行為が〔存在する〕ことから、それゆえに、王は、大工を養い、諸々の機具を作らせるのです。

 

166. もしくは、百年のあいだ、天が、雨を降らせず、雪を落とさないなら、この世は、断絶するでしょうし、この人々は、滅し去るでしょう。

 

167. しかしながら、すなわち、天が、雨を降らせ、さらに、雪を降らせることから、それゆえに、諸々の作物は成熟し、そして、国土は、長きに守られるのです。

 

168. もし、牛たちが〔川を〕超えつつあるに、雄牛が、曲がり赴くなら、それら〔の雌牛たち〕は、全ての者たちが、〔雄牛に追従して〕曲がり赴きます──導く者が、曲がり赴いた者として存しているうちは。

 

169. まさしく、このように、人間たちにおいて、彼が、最勝者として敬われ、〔世に〕有るとして、もし、彼が、法(正義)ならざる〔道〕を歩むなら、なおのこと、他の人々は、〔法ならざる道を歩むでしょう〕。もし、王が、法(正義)ならざる者として〔世に〕有るなら、国土は、〔その〕全てが、苦痛のうちに臥します。

 

170. もし、牛たちが〔川を〕超えつつあるに、雄牛が、真っすぐに赴くなら、〔それらの〕雌牛たちは、全ての者たちが、〔雄牛に追従して〕真っすぐに行きます──導く者が、真っすぐに赴く者として存しているうちは。

 

171. まさしく、このように、人間たちにおいて、彼が、最勝者として敬われ、〔世に〕有るとして、それで、もし、彼が、法(正義)〔の道〕を歩むなら、なおのこと、他の人々は、〔法の道を歩むでしょう〕。もし、王が、法(正義)にかなう者として〔世に〕有るなら、国土は、〔その〕全てが、安楽のうちに臥します。

 

172. 彼が、果をもつ大木の、生(なま)の果を断つなら、そして、その〔果〕の味を、〔彼は〕知ることなくあり、さらに、その〔果〕の種も滅し去ります。

 

173. 大木の如く、国土を、法(正義)ならざる〔道〕によって統治するなら、そして、その〔国土〕の味を、〔彼は〕知ることなくあり、さらに、彼の国土も滅し去ります。

 

174. 彼が、果をもつ大木の、熟した果を断つなら、そして、その〔果〕の味を、〔彼は〕識知し、さらに、その〔果〕の種も滅しません。

 

175. 彼が、大木の如く、国土を、法(正義)〔の道〕によって統治するなら、そして、その〔国土〕の味を、〔彼は〕識知し、さらに、彼の国土も滅しません。

 

176. そして、彼が、王として、地方を、法(正義)ならざる〔道〕によって統治するなら、彼は、王として、全ての〔根や葉や花や果や〕薬草に遮られる士族と成ります。

 

177. まさしく、そのように、それらの売買に専念する者たちにして、滋養ある布施と供物を為す者たちである、城市の者たちを害している〔王〕は、彼は、蔵に遮られます。

 

178. 攻撃〔の対象〕となる優れた田畑を知る者たちであり、戦場で功労を為した者たちである、勲功者たちを害している王は、彼は、軍隊に遮られます。

 

179. まさしく、そのように、〔心身が〕自制された梵行者たちを害している権力者は、法(正義)ならざる〔道〕を歩む士族は、彼は、天上に遮られます。

 

180. さらに、その王が、法(正義)ならざるものに依って立つ者であり、汚れなき妻を殺し、残忍な状況を生み出すなら、そして、子たちに遮られます。

 

181. 地方にたいし、町の者たちにたいし、そして、軍隊の者たちにたいして、法(正義)〔の道〕を歩むべきです。さらに、聖賢たちを害するべきではありません。子と妻にたいし、正義〔の道〕を歩むべきです。

 

182. 彼は、そのような地上の長は、忿激しない国土の警護者は、敵たちを等しく動揺させます──阿修羅の君主たるインダのように」〔と〕。ということで──

 

 マハーボーディ・ジャータカが、第三となる。

 

 五十なるものの集まりは〔以上で〕終了となる。

 

 その〔章〕のための摂頌となる。

 

 〔そこで、詩偈に言う〕「第一のものとして、ニリニカーという呼び名あるものを有するものがあり、かつまた、第二のものとして、優れたウンマダンティーを有するものがあり、かつまた、第三のものとして、吉祥なるボーディ(大いなる菩提)という呼び名あるものがあり、かつまた、三つの浄美なるものが、勝者によって言説された」と。

 

19. 六十なるものの集まり

 

19. 1. ソーナカの章

 

19. 1. 1. ソーナカ・ジャータカ(ソーナカ・本生物語529)

 

1. 〔菩薩は言った〕「彼の〔言葉を〕聞いて、百〔金〕を与えよう。ソーナカを見たなら、千〔金〕を〔与えよう〕。誰が、砂で遊んだ仲間(幼馴染み)であるソーナカのことを、わたしに告げ知らせるのだ」〔と〕。

 

2. 〔世尊は言った〕「そこで、五つの髻をした年少の少年が説いた」〔と〕。〔少年が言った〕「わたしの〔言葉を〕聞いて、百〔金〕を与えたまえ。ソーナカを見たなら、千〔金〕を〔与えたまえ〕。わたしが、砂で遊んだ仲間であるソーナカのことを、あなたに告げ知らせましょう」〔と〕。

 

3. 〔菩薩は尋ねた〕「彼は、どの地方にいるのだ。諸々の国土の、さらに、諸々の町の、〔どこにいるのだ〕。どこにおいて、ソーナカを見たのだ。〔問いを〕尋ねられた者として、それを、わたしに告げ知らせよ」〔と〕。

 

4. 〔少年が答えた〕「陛下(菩薩)よ、まさしく、あなたの領土における、まさしく、あなたの庭園の地に、青々と光り、意が喜びとする、真っすぐに伸びた、諸々の大いなるサーラ〔樹〕があります。

 

5. 喜ばしく、互いが他に依拠し、雲に相等しく立っています。それら〔の木〕の根元において、ソーナカは、執取〔の思い〕なく、瞑想します──世の執取ある者たちが焼かれているなか、涅槃に到達した者(独覚)として」〔と〕。

 

6. 〔世尊は言った〕「そして、そののち、王は出発した。四つの支分(象兵・馬兵・車兵・歩兵)ある軍団とともに。〔彼は〕道を平坦に作り為させて、ソーナカのいるところに赴いた。

 

7. 庭園の地に赴いて、密林のなかを渡り歩きながら、端坐するソーナカを見た──〔世の執取ある者たちが〕焼かれているなか、涅槃に到達した者を」〔と〕。

 

8. 〔菩薩は言った〕「剃髪し大衣を着た、この比丘は、まさに、貧者である。母なき者であり、父なき者であり、木の根元において瞑想する」〔と〕。

 

9. 〔世尊は言った〕「この言葉を確認して、ソーナカは、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。〔ソーナカが言った〕「王よ、貧者として〔世に〕有るのではありません。法(真理)に、身体によって触れているのです。

 

10. そして、彼が、法(正義)を無視して、法(正義)ならざるものに随転するなら、王よ、彼は、悪を行き着く所とする悪しき者であり、貧者として〔世に〕有るのです」〔と〕。

 

11. 〔菩薩は尋ねた〕「『アリンダマ』というのが、わたしの名である。わたしのことを、〔人々は〕『カーシ〔国〕の王』と知る。ソーナカよ、どうであろう、ここに至り得た貴君に、安楽の臥所はあるのかな」〔と〕。

 

12. 〔ソーナカが答えた〕「常に、また、財なく家なき比丘には、幸せがあります。彼らは、自らのものを、蔵に貯め置かず、瓶に〔貯め置か〕ず、壷に〔貯め置き〕ません。他者によって準備されたものを探し求める者たちであり、それによって、〔身を〕保ち行きます──善き掟の者たちとして。

 

13. 第二に、また、財なく家なき比丘には、幸せがあります。食べるべきは、罪過なき〔行乞の〕食であり、そして、誰であれ、咎め立てません。

 

14. 第三に、また、財なく家なき比丘には、幸せがあります。食べるべきは、冷えた〔行乞の〕食であり、そして、誰であれ、咎め立てません。

 

15. 第四に、また、財なく家なき比丘には、幸せがあります。国土において解放者として歩んでいる彼に、執着〔の思い〕は見出されません。

 

16. 第五に、また、財なく家なき比丘には、幸せがあります。城市が焼かれているとき、彼のものは、何も焼かれませんでした。

 

17. 第六に、また、財なく家なき比丘には、幸せがあります。国土において〔盗賊が〕強奪しているとき、彼のものは、何も奪われませんでした。

 

18. 第七に、また、財なく家なき比丘には、幸せがあります。盗賊たちに守られた道を、さらに、すなわち、諸他の障害あるところも、鉢と衣料を取って、安穏に赴きます──善き掟の者として。

 

19. 第八に、また、財なく家なき比丘には、幸せがあります。その〔方角〕その方角に、〔彼が〕立ち去るなら、まさしく、期待なき者として赴きます」〔と〕。

 

20. 〔菩薩は尋ねた〕「比丘よ、たとえ、これらの多くの幸せがあり(※)、すなわち、あなたが賞賛するとして、ソーナカよ、さてまた、諸々の欲望〔の対象〕にたいし貪求あるわたしは、どのように為すというのだ。

 

※ テキストには Bahūpi bhadrā etesaṃ とあるが、PTS版により bahūpi bhadrakā ete と読む。

 

21. 諸々の人間の欲望〔の対象〕は、わたしにとって愛しきものであり、さらに、諸々の天のものもまた、わたしにとって愛しきものである。そこで、いったい、どのような理由によって、両の世において、〔わたしたちは、幸せを〕得るのだ」〔と〕。

 

22. 〔ソーナカが答えた〕「欲望〔の対象〕にたいし貪求ある者たちは、欲望〔の対象〕に歓楽ある者たちであり、諸々の欲望〔の対象〕に耽溺する者たちであり、人として、諸々の悪しき〔行為〕を為して、悪しき境遇(悪趣)に再生します。

 

23. しかしながら、すなわち、諸々の欲望〔の対象〕を捨棄して、離欲した者たちは、何も恐れない者たちであり、〔心の〕専一なる状態に到達した者たちであり、彼らは、悪しき境遇に赴きません。

 

24. あなたのために、喩えを為しましょう。アリンダマよ、それを聞きたまえ。喩えによって、ここに、一部の賢者たちは、義(道理)を知ります。

 

25. ガンガーの大河を運ばれ行く〔象の〕死骸を見て、智慧少なく心なき烏は、等しく思い考えました。

 

26. 〔すなわち〕『さてまた、まさに、この乗物が得られた。さてまた、この食物は少なからず。そこにおいて、夜に、そこにおいて、昼に、まさしく、そこにおいて、〔わたしの〕意は喜びあるものとなる』〔と〕。

 

27. 象の諸々の肉を喰いながら、バーギーラティー〔川〕(ガンガー川)の水を飲みながら、〔対岸の〕林や塔廟を等しく見ながら、宙を赴くもの(烏)は、〔象の死骸から〕飛び去りませんでした。

 

28. そして、彼を、死骸を喜ぶ怠りの者を、下り行くガンガー〔川〕は、海に到達し、〔海上へと〕運び去りました。そこにおいて、翼あるものたちには、赴く所がありません。

 

29. そして、彼は、食物が完全に尽き、宙を赴くものは、高く飛び上がって〔眺め見るも〕、西はなく、東はなく、北はなく、南もまたありません。

 

30. 彼が、陸地に到達し帰還することはありませんでした。そこにおいて、翼あるものたちには、赴く所がありません。そして、彼は、まさしく、そこにおいて、〔海に〕落ちました──あたかも、力弱き者のように、そのように。

 

31. そして、海の、魚たちは、鰐たちは、大魚たちは、鮫たちは、彼を打ち負かして、為すがままに喰いました──翼が効かず、震えおののいている〔烏〕を。

 

32. 王よ、まさしく、このように、あなたはあり、さらに、すなわち、他の欲望〔の対象〕を享受する者たちもあります。もし、貪求ある者たちが、〔貪欲を〕吐き捨てないなら、彼らのことを、烏の智慧のようなものと、知者たちは〔知ります〕。

 

33. 王よ、これが、あなたのために為された、義(道理)を見示する喩えです。そして、あなたは、それによって覚知するのです──もしくは、あるいは、為すであろうが、あるいは、さにあらずとも。

 

34. 一つの言葉を、また、二つの言葉を、慈しみ〔の思い〕ある者は話すでしょうが、それ以上は語りません──尊貴なる者の現前にある、奴隷のように」〔と〕。

 

35. 〔世尊は言った〕「ソーナカ〔独覚〕は、無量の覚慧ある者は、この〔言葉〕を説いて、立ち去った──宙空のなか、空中のうちに、士族に教示して〔そののち〕」〔と〕。

 

36. 〔菩薩は言った〕「はたして、誰がいるのか。これらの王の侍官たちなのか、明敏さに至り着いた隷民たちなのか。王権を引き渡そう。わたしは、王権に義(目的)ある者にあらず。

 

37. まさしく、今日、わたしは出家するであろう。誰が、明日の死を知るであろう。わたしが、思慮浅き烏のように、諸々の欲望〔の対象〕の支配に従い行くことがあってはならない」〔と〕。

 

38. 〔大臣が言った〕「あなたには、年少の子が存在します──国土を繁栄させる者たるディーガーヴが。彼を、王権に灌頂するのです。彼は、わたしたちの王と成るでしょう」〔と〕。

 

39. 〔菩薩は言った〕「すみやかに、〔おまえたちは〕王子を連れてくるのだ──国土を繁栄させる者たるディーガーヴを。彼を、王権に灌頂しよう。彼は、おまえたちの王と成るであろう」〔と〕。

 

40. 〔世尊は言った〕「そののち、〔彼らは〕王子を連れてきた──国土を繁栄させる者たるディーガーヴを。彼を見て、王は言い渡した──意が喜びとする独り子に」〔と〕。

 

41. 〔菩薩は言った〕「全てにわたり円満成就した六万の村がある。子よ、それらを治めるのだ。おまえに、王権を引き渡そう。

 

42. まさしく、今日、わたしは出家するであろう。誰が、明日の死を知るであろう。わたしが、思慮浅き烏のように、諸々の欲望〔の対象〕の支配に従い行くことがあってはならない。

 

43. 全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた六万の象が、金の飾紐をつけ金の鞍かけを装着する象たちが──

 

44. 槍と鉤を手にする将校たちの乗るところとなる。子よ、それらを治めるのだ。おまえに、王権を引き渡そう。

 

45. まさしく、今日、わたしは出家するであろう。誰が、明日の死を知るであろう。わたしが、思慮浅き烏のように、諸々の欲望〔の対象〕の支配に従い行くことがあってはならない。

 

46. 全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた六万の馬が、まさしく、生まれながらの良馬たる、シンダヴァの駿馬(シンドゥ産の良馬)たちが──

 

47. 短剣と弓を保持する将校たちの乗るところとなる。子よ、それらを治めるのだ。おまえに、王権を引き渡そう。

 

48. まさしく、今日、わたしは出家するであろう。誰が、明日の死を知るであろう。わたしが、思慮浅き烏のように、諸々の欲望〔の対象〕の支配に従い行くことがあってはならない。

 

49. 武装し旗を掲げた六万の車が、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔六万の車〕が──

 

50. 弓を手にし武装する将校たちの乗るところとなる。子よ、それらを治めるのだ。おまえに、王権を引き渡そう。

 

51. まさしく、今日、わたしは出家するであろう。誰が、明日の死を知るであろう。わたしが、思慮浅き烏のように、諸々の欲望〔の対象〕の支配に従い行くことがあってはならない。

 

52. 六万の乳牛がいる。赤き〔肌〕をした牛主たる雄牛たちがいる。子よ、それらを治めるのだ。おまえに、王権を引き渡そう。

 

53. まさしく、今日、わたしは出家するであろう。誰が、明日の死を知るであろう。わたしが、思慮浅き烏のように、諸々の欲望〔の対象〕の支配に従い行くことがあってはならない。

 

54. 全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた一万六千の婦女がいる。様々な彩りの衣と装飾品の者たちであり、宝珠の耳飾を付けた者たちである。子よ、彼女たちを治めるのだ。おまえに、王権を引き渡そう。

 

55. まさしく、今日、わたしは出家するであろう。誰が、明日の死を知るであろう。わたしが、思慮浅き烏のように、諸々の欲望〔の対象〕の支配に従い行くことがあってはならない」〔と〕。

 

56. 〔ディーガーヴが言った〕「父よ、わたしが、まさしく、年少のとき、わたしは、『母が死んだ』と聞きました。父よ、わたしは、あなたなしでは、生きることさえもできません。

 

57. あたかも、林にある象に、幼い〔象〕が、そのあとから従い行くように──諸々の山の難所において、諸々の平坦なところにおいて、さらに、諸々の平坦ならざるところにおいて、征し行く者に〔従い行くように〕──

 

58. このように、あなたに従い行きます。鉢を取って(※)、そのあとから。あなたにとって、扶養し易き者と成ります。あなたにとって、扶養し難き者と成りません」〔と〕。

 

※ テキストには puttamādāya とあるが、PTS版により pattamādāya と読む。

 

59. 〔菩薩は言った〕「あたかも、財を探し求める商人たちの海船を、そこにおいて、魔魚が捕捉するなら、商人たちは、災厄ある者たちとして存するように──

 

60. まさしく、このように、この者は、〔悪しき〕賽の目の子であり、わたしに障りを為す者である。この王子を、歓楽の増大あるところに、宮殿に、至り得させよ。

 

61. そこにおいては、手に金の飾り物をした〔少女〕たちがいる。あたかも、仙女たちが、帝釈〔天〕を〔喜び楽しませる〕ように、そこにおいて、それらの者たちが、彼を喜び楽しませるであろう。そして、この者は、彼女たちとともに喜び楽しむであろう」〔と〕。

 

62. 〔世尊は言った〕「そののち、〔人々は〕王子を、歓楽の増大あるところに、宮殿に、至り得させた。彼を、国土を繁栄させる者たるディーガーヴを、見て、少女たちは言った」〔と〕。

 

63. 〔少女たちが尋ねた〕「いったい、〔あなたは〕天神として存しているのですか、音楽神として〔存しているのですか〕、それとも、プリンダダ(都の破壊者)たる帝釈〔天〕として〔存しているのですか〕。あなたは、あるいは、誰なのですか、あるいは、誰の子なのですか。どのように、わたしどもは、あなたのことを知るべきですか」〔と〕。

 

64. 〔ディーガーヴが答えた〕「〔わたしは〕天〔の神〕として存するにあらず、音楽神にあらず、また、プリンダダたる帝釈〔天〕にあらず。わたしは、カーシ〔国〕の王の子であり、国土を繁栄させる者たるディーガーヴである。わたしにかしずけ。おまえたちに、幸せ〔有れ〕。わたしは、おまえたちの主人と成ろう」〔と〕。

 

65. 〔世尊は言った〕「そこにおいて、彼に、国土を繁栄させる者たるディーガーヴに、少女たちは言った」〔と〕。〔女たちが尋ねた〕「王は、どこにおいでになったのですか。王は、ここからどこに赴いたのですか」〔と〕。

 

66. 〔ディーガーヴが答えた〕「王は、汚泥を超え行ったのだ。王は、高地に立っている──棘なく茂みなき大道を行く者として。

 

67. しかしながら、わたしは、悪しき境遇に至る道を行く者として存している──それによって、〔人々が〕悪しき境遇に赴く、棘を有し茂みを有する〔道〕を〔行く者として〕」〔と〕。

 

68. 〔女たちが言った〕「王(ディーガーヴ)よ、〔まさに〕その、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕──獅子にとっての山窟のように。大王よ、統治してください。あなたは、わたしたちの全ての、イッサラ(イーシュヴァラ神・自在神)です」〔と〕。ということで──

 

 ソーナカ・ジャータカが、第一となる。

 

19. 1. 2. サンキッチャ・ジャータカ(サンキッチャ・本生物語530)

 

69. 〔世尊は言った〕「車上の雄牛たるブラフマダッタ王が坐ったのを見て、そこで、〔家来は〕彼に知らせた。〔家来が言った〕『すなわち、〔あなたが〕慈しみ〔の思い〕ある者として存する──

 

70. サンキッチャ(菩薩)が、この方が、聖賢たちに善く敬われている方が、到着したのです。急ぎ至急、お出かけください。すみやかに、大いなる聖賢にお会いください』〔と〕。

 

71. そして、そののち、王は、急ぎ、〔良馬を〕設えた戦車に乗って、朋友と家臣たちに取り囲まれ、車上の雄牛は、〔サンキッチャのもとに〕赴いた。

 

72. カーシ〔国〕の国土を繁栄させる者は、五つの王章を取り置いて、毛扇と王冠を〔取り置いて〕、さらに、刀剣と傘蓋をと履物を〔取り置いて〕──

 

73. 王は、乗物から降りて、覆いを捨て置いて、ダーヤパッサ〔の林園〕において端坐するサンキッチャのもとへと近づいて行った。

 

74. 近づいて行って、彼は、王は、聖賢と共に〔今回の出会いを〕喜び合った。〔喜ばしく記憶されるべき〕その話を〔聖賢と〕を交わして、一方に近坐した。

 

75. まさしく、一方に坐った〔王〕は、そこで、〔今がその〕時と思い考えた。そののち、諸々の悪しき行為のことを尋ね始めた。

 

76. 〔王が尋ねた〕『聖賢のサンキッチャに、〔わたしどもは〕尋ねます──聖賢たちに善く敬われている方に、ダーヤパッサ〔の林園〕において端坐する方に、聖賢の僧団に尊ばれる方に。

 

77. 人として、法(正義)〔の道〕を犯し歩む者たちは、死してのち、どのような境遇に赴くのですか。わたしは、法(正義)〔の道〕を犯し歩みました。〔問いを〕尋ねられた者として、それを、わたしに告げ知らせてください』〔と〕。

 

78. 聖賢のサンキッチャは言った──カーシ〔国〕の国土を繁栄させる者に、ダーヤパッサ〔の林園〕において端坐する者に。〔菩薩は答えた〕『大王よ、わたしの〔言葉を〕聞きなさい。

 

79. 非道を行きつつある者のために、すなわち、道を教示する者がいるとして、その〔教示者〕の言葉を、もし、〔彼が〕為すであろうなら、彼を、棘〔の道〕が狙うことはありません。

 

80. 法(正義)ならざる〔道〕を実践する者に、すなわち、法(正義)〔の道〕を教示する者がいるとして、その〔教示者〕の言葉を、もし、〔彼が〕為すであろうなら、彼は、悪しき境遇に赴くことはありません。

 

81. 大王よ、法(正義)の道があり、いっぽう、法(正義)ならざる非道があります。法(正義)ならざる〔道〕は、〔人を〕地獄に導きます。法(正義)〔の道〕は、〔人を〕天上に至り得させます。

 

82. 王よ、法(正義)ならざる〔道〕を歩む者たちは、人として、不正を生きる者たちです。死してのち、〔彼らが〕赴く、その境遇ですが、諸々の地獄のことを、あなたに〔告げ知らせましょう〕。わたしの〔言葉を〕聞きなさい。

 

83. 等活〔地獄〕があり、そして、黒縄〔地獄〕があり、集合〔地獄〕があり、さらに、二つの叫喚〔地獄〕があり、さらに、他にも、大いなる阿鼻〔地獄〕があり、さらに、炎熱〔地獄〕があり、焦熱〔地獄〕があります。

 

84. かくのごとく、これらの八つの超え行き難き地獄が告げ知らされ、各自に、諸々の残忍な行為に満ち溢れた十六の増長〔地獄〕があります。

 

85. 諸々のおぞましく惨憺たる熱苦があり、諸々の大いなる恐怖の火炎があり、そして、諸々の身の毛のよだつ形態があり、諸々の恐ろしい恐怖と苦痛があります。

 

86. 四つの隅があり、四つの門があり、等分に計量され区分され、鉄柵を極限とし、鉄によって覆い包まれています。

 

87. それら〔の地獄〕の鉄製の地は、燃え盛り、火に充ち、百ヨージャナ(由旬:長さの単位・軛牛の一日の旅程距離)の遍きにわたり充満し、一切時に止住します。

 

88. これらの者たちは、足を上に、頭を下に、地獄に落ちます──〔心身が〕自制された苦行者たる聖賢たちを誹謗する者たちは。

 

89. それらの、生あるものを殺す者たちは、あたかも、片々に為された魚たちのように煮られます──数えようもない年月のあいだ、罪障の作り手たる人たちは。

 

90. 常に、内外共に、五体が焼かれているので、地獄から出ることを求めるも、〔彼らが〕門に到達することはありません。

 

91. 〔彼らは〕東から走り行き、そののち、西へと走り行きます。〔彼らは〕北からもまた走り行き、そののち、南へと走り行きます。まさに、その〔門〕その門に赴くも、まさしく、その〔門〕その門が締められます。

 

92. 幾千年のあいだ、人として、地獄に至る者たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫びます──少なからざる苦痛に至り得て。

 

93. 怒り狂った毒蛇のように超え行き難く威光ある者を、〔心身が〕自制された苦行者を、善き形姿ある者たちを、襲うべきではありません。

 

94. 超身の大いなる射手にして、ケーカカ〔国〕の君主たるアッジュナ〔王〕は、聖賢のゴータマを襲って、千の腕を断ち切られました。

 

95. ダンダキ〔王〕は、塵なきキサ・ヴァッチャに塵を振りまいて、根から断ち切られたターラ〔樹〕のように、その王は、虚無に赴いたのです。

 

96. マッジャ〔王〕は、福徳あるマータンガにたいし、〔自らの〕意を暴発させて、従者と共に断絶され、そのとき、マッジャの林と成りました。

 

97. アンダカヴェンダの者たちは、聖賢のカンハディーパーヤナを襲って、互いに他を棍棒で打ち砕いて、夜魔の王国に等しく至り得たのです。

 

98. さらに、この、かつては空中を歩むも、聖賢に呪詛されたチェッチャ(チェーティヤ国の王)は、地に突き入りました──下劣な自己ある者となり、〔時の〕末路(死)が至り得たとき。

 

99. まさに、それゆえに、欲〔の思い〕から至り来るものを、賢者たちは賞賛しません。汚れなき心の者は、真理を伴った言葉を語るべきです。

 

100. もし、汚れた意で、その人が、明知と行ないの成就者たる牟尼を眺め見るなら、彼は、下なる地獄に赴く者と〔成ります〕。

 

101. それらの者たちが、粗暴な行動の人たちであり、年長者たちを誹謗するなら、彼らは、後継者なく、相続者なく、基盤なきターラ〔樹〕(切断された椰子の木)たちと成ります。

 

102. そして、彼が、為すべきことを為した大いなる聖賢たる出家者を殺すなら、彼は、長夜にわたり、黒縄地獄において煮られます。

 

103. そして、彼が、法(正義)ならざるものに依って立つ王であり、国土を砕破する獣愚の者であるなら、地方〔の人々〕を苦しめて、死してのち、炎熱〔地獄〕において煮られます。

 

104. そして、彼は、天の百千年のあいだ煮られます。彼は、炎の群れに打ち負かされ、苦痛の感受(苦受)を感受します。

 

105. 彼の身体から、光り輝く諸々の火炎が放たれます──火を食物とする〔彼〕の五体は、諸々の毛からも、諸々の爪からも。

 

106. 常に、内外共に、五体が焼かれているので、苦痛に征圧され、あたかも、刺し棒に苦悩する象のように吼え叫びます。

 

107. 彼が、最低の人であり、貪欲から、あるいは、憤怒から、父を殺すなら、彼は、長夜にわたり、黒縄地獄において煮られます。

 

108. 彼は、そのような者は、銅の釜のなかで煮られます。そして、煮られた者を、〔獄卒たちは〕諸々の刀で損ない、皮膚なき者と〔為して〕、盲者と為して、糞尿を食料とする者と〔為して〕、そのような種類の人を、灰のなかに押し込みます。

 

109. そして、熱せられ焼かれた鉄の玉を、さてまた、〔獄卒たちは〕諸々の長夜に熱せられた長い鋤を取って〔口を〕固定し、諸々の〔鉤のついた〕縛り縄で〔舌を引き出して〕開かれた口に、羅刹たちが押し入れます。

 

110. そして、黒犬たちが、さらに、まだらのものたちが、鷲たちが、さらに、大烏たちの群れが、鉄の口をした鳥たちが、一緒になって、震えおののいている者を喰います──舌を区分けして、血の付いた肉片を。

 

111. 〔まさに〕その、焼け焦げたターラ〔樹〕の遍壊した五体を、羅刹たちは、叩き潰しながら渡り歩きます。まさに、彼らには、諸々の喜びがあり、いっぽう、他の者たちには、諸々の苦痛があります。彼らが誰であれ、世において、ここに、父を殺害する者たちは、このような地獄に住します。

 

112. そして、子が、母を殺して〔そののち〕、ここから、夜魔の領地に赴いて、自己の行為の果へと近しく赴く者となり、激しい苦痛を惹起します。

 

113. 極めて力ある人間ならざる者(獄卒)たちは、生母を殺した者を、繰り返し、諸々の鉄製の毛で責め苛みます。

 

114. 自らの五体から漏れ出る、〔まさに〕その、自己から発生する血液を、溶解した赤銅のように熱せられたものを、母を殺害する者に飲ませます。

 

115. 腐った死骸を忌避しながら、糞泥の悪臭を〔忌避しながら〕、膿と血に似た湖に入って、〔彼は〕立ちます。

 

116. 〔まさに〕その、この者を、そこにおいて、鉄の口をした超身の蛆虫たちが、等しく貪り求め者たちとなり、表皮を破って、肉と血を喰います。

 

117. そして、彼は、その地獄に至り得た者は、サタポーリサ〔地獄〕(百人深地獄)に潜る者となります。腐った死骸は、百ヨージャナの遍きにわたり、〔臭いを〕放ちます。

 

118. まさに、眼ある者もまた、その臭いによって、〔両の〕眼を失います。ブラフマダッタ(王)よ、母を殺害する者は、このようなものとして、苦痛を得ます。

 

119. 鋭利で征服し難い剃刀の切っ先に従い行って、堕胎者たちは、ヴェータラニー川の難所に落ちます。

 

120. 十六指〔の長さ〕の棘ある鉄製のシンバリ〔樹〕たちが、両〔岸〕から、ヴェータラニー川の難所に垂れ下がります。

 

121. 彼らは、炎をあげて止住し、遠くからは火の塊のように〔見え〕、火とともに燃え盛り、〔一〕ヨージャナの高さに盛り上がります。

 

122. これらの者たちは、熱せられ、鋭い棘ある、諸々の地獄に行きます──かつまた、姦通する女たちであり、かつまた、密通する男たちです。

 

123. 彼らは、多々に打たれ、転がり回り、肩を下に、倒れ落ちます。手足を貫かれ、〔地に〕臥します──長きに起き、一切時に〔眠れずに〕。

 

124. そののち、夜の明け方に、大いなる山の如き、熱せられ、火で煮え立つ、銅の釜に入り行きます。

 

125. このように、そして、昼に、さらに、夜に、迷妄に包着された劣戒の者たちは、自らの行為〔の報い〕を、過去における自己の悪行〔の報い〕を、味わいます。

 

126. そして、すなわち、財で買われた妻が、主人を軽んじるなら、あるいは、姑を、あるいは、また、舅を、あるいは、また、義兄や義姉を、〔軽んじるなら〕──

 

127. 彼女の舌の先端を、結縛と共に、釣針で引き抜きます。彼女は、蛆虫たちがいる、ヴヤーマ(:長さの単位・一ヴヤーマは約二メートル)ほどの舌を、自己のうちに見るも、伝えることができず、死してのち、炎熱〔地獄〕において煮られます。

 

128. 屠羊者たち、屠豚者たち、漁夫たち、獣の捕縛者たち、盗賊たち、屠牛者たち、猟師たち、栄誉ならざることについて栄誉と為す者(中傷者)たちは──

 

129. 諸々の刃で、諸々の銅の鎚で、諸々の刀で、さらに、諸々の矢で、打ちのめされながら、灰の川に、頭を下に、落ち行きます。

 

130. 夕に、朝に、奸計を為す者は、諸々の鉄の鎚で打ちのめされ、そののち、他の悪しき自己ある者たちの吐き出したものを、常に食べます。

 

131. 烏たちが、豹たちが、鷲たちが、さらに、鉄の口をした大烏たちが、震えおののいている者を喰います──罪障の作り手たる人を。

 

132. すなわち、獣によって獣を殺し、あるいは、また、鳥によって鳥を〔殺す〕、それらの者たちは、正しからざる者たちであり、塵に覆われた者たちとして、増長地獄に赴く者たちと〔成ります〕。

 

133. しかしながら、正しくある者たちは、この〔世における〕、善き行ないによって、行為〔の報い〕によって、上なるところに赴きます。善き行ないの果を見なさい。インダを含め、梵〔天〕を含め、天〔の神々〕たちと〔成ります〕。

 

134. 大王よ、それを、あなたに、〔わたしは〕説きます。国土の長として、法(正義)〔の道〕を歩みなさい。すなわち、のちに悩み苦しむことがないような、その善き行ないを、王よ、そのような、法(正義)〔の道〕を歩みなさい』」〔と〕。ということで──

 

 サンキッチャ・ジャータカが、第二となる。

 

 六十なるものの集まりは〔以上で〕終了となる。

 

 その〔章〕のための摂頌となる。

 

 〔そこで、詩偈に言う〕「そこで、六十なるものの集まりにおいて、わたしが語ったことを聞きなさい。ジャータカという呼び名を有する最も優れたものとして、ソーナカとアリンダマという呼び名を有するもの(ソーナカ)があり、そのように、優れた車上の雄牛たるキッチャ(サンキッチャ)が説かれた」と。

 

20. 七十なるものの集まり

 

20. 1. クサの章

 

20. 1. 1. クサ・ジャータカ(クサ・本生物語531)

 

1. 〔母に、菩薩は言った〕「財と共に、車と共に、腕飾と共に、一切の欲望〔の対象〕を具有した、この国土は、あなたのものです。この王権は、あなたのものです。母よ、統治してください。わたしは赴きます。すなわち、愛しきパバーヴァティー(マッダ王の王女)のいるところに」〔と〕。

 

2. 〔菩薩に、パバーヴァティーが言った〕「真っすぐならざるものと成った〔心〕で、そして、昼に、さらに、夜に、深夜の時においても、大いなるものを運んでいる〔あなた〕です。クサよ、あなたは、すみやかに、クサーヴァティーに戻りなさい。わたしは、醜き色艶の者が住することを求めません」〔と〕。

 

3. 〔菩薩は言った〕「わたしがここからクサーヴァティーに赴くことはないでしょう。パバーヴァティーよ、あなたの色艶に誘惑された〔わたし〕は、マッダ〔王〕の喜ばしき家を喜びます。〔自らの〕国土を捨棄して、あなたと会うことに喜びある〔わたし〕です。

 

4. パバーヴァティーよ、あなたの色艶に誘惑された〔わたし〕は、等しく迷乱した形態の者となり、地を渡り歩きます。〔わたしは〕方角を知りません。〔わたしは〕どこからやってきた者として存しているのでしょう。鹿のつぶらな眼ある方よ、〔わたしは〕存しています──あなたに酔い痴れた者として。

 

5. 金の衣をまとう方よ、銀の美しき帯をした方よ、可愛いお尻をした方よ、まさに、あなたへの欲望あるがゆえに、わたしは、王権に義(目的)ある者にあらず」〔と〕。

 

6. 〔パバーヴァティーが言った〕「ああ、彼に有るのは、実なきこと。すなわち、〔彼のことを〕求めていない者を、〔彼は〕求めます。王よ、〔あなたは〕欲することなき者を欲します。折られることなきものを折ることを求めます」〔と〕。

 

7. 〔菩薩は言った〕「あるいは、欲することなき者であれ、あるいは、欲することを有する者であれ、すなわち、人が、愛しき者を得るなら、ここにおいて、〔わたしたちは〕利得ある者を賞賛します。利得なき者は、そこにおいて、悪しき者となります」〔と〕。

 

8. 〔パバーヴァティーが言った〕「〔あなたは〕カニカーラ〔樹〕の木片で岩の芯を掘ります。〔あなたは〕網で風を捕縛します。すなわち、〔あなたのことを〕求めていない者を、〔あなたは〕求めます」〔と〕。

 

9. 〔菩薩は言った〕「柔和なる特相ある方よ、まちがいなく、あなたの心臓には、岩が置かれています。すなわち、地方を超えてやってきた〔わたし〕であるのに、あなたに、快なるものを見出しません。

 

10. すなわち、わたしに渋面を為して、王女が見つめるとき、そのとき、〔わたしは〕調理師として〔世に〕有ります──マッダ王の内宮において。

 

11. すなわち、わたしに笑いかけながら、王女が見つめるとき、そのとき、〔わたしは〕調理師ではなく〔世に〕有り、そのとき、〔わたしは〕クサ王として〔世に〕有ります」〔と〕。

 

12. 〔パバーヴァティーが言った〕「まさに、それで、もし、占い師たちに、真なる言葉が有るなら、あなたがわたしの亭主として存在することは、まさしく、ありません──むしろ、〔人々は、わたしを〕七様に切断せよ」〔と〕。

 

13. 〔菩薩は言った〕「まさに、それで、もし、他の者たちに、もしくは、あるいは、わたしに、真なる言葉が〔有るなら〕、あなたに亭主が存在することは、まさしく、ありません──獅子の声あるクサ(菩薩)より他には」〔と〕。

 

14. 〔傴僂の女に、菩薩は言った〕「傴僂の女よ、クサーヴァティーに至り得て〔そののち〕、おまえのために、金の首飾を作らせよう──それで、もし、柳腰のパバーヴァティーが、わたしを眺め見るなら。

 

15. 傴僂の女よ、クサーヴァティーに至り得て〔そののち〕、おまえのために、金の首飾を作らせよう──それで、もし、柳腰のパバーヴァティーが、わたしに語りかけるなら。

 

16. 傴僂の女よ、クサーヴァティーに至り得て〔そののち〕、おまえのために、金の首飾を作らせよう──それで、もし、柳腰のパバーヴァティーが、わたしに笑いかけるなら。

 

17. 傴僂の女よ、クサーヴァティーに至り得て〔そののち〕、おまえのために、金の首飾を作らせよう──それで、もし、柳腰のパバーヴァティーが、わたしに高笑するなら。

 

18. 傴僂の女よ、クサーヴァティーに至り得て〔そののち〕、おまえのために、金の首飾を作らせよう──それで、もし、柳腰〔のパバーヴァティー〕が、わたしを〔両の〕手で近しく触れるなら」〔と〕。

 

19. 〔パバーヴァティーに、傴僂の女が言った〕「まさに、あろうことか、この方は、王女は、クサにたいし、さてまた、快なるものを見出さないとは──報酬に義(目的)なく、〔王でありながら〕雇われ男となり、〔王女に誠意を示す〕調理師〔のクサ〕にたいし」〔と〕。

 

20. 〔パバーヴァティーが言った〕「まさに、あろうことか、この者が、その傴僂の女が、舌切り〔の刑〕を得ないとは──善く研がれた刃でもって、このように、悪語を話しているのに」〔と〕。

 

21. 〔傴僂の女が言った〕「彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『大いなる盛名ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

22. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『大いなる財産ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

23. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『大いなる勢力ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

24. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『大いなる国土ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

25. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『大王である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

26. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『獅子の声ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

27. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『麗美の声ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

28. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『艶美の声ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

29. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『美妙の声ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

30. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『甘美の声ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

31. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『百の技能ある者である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

32. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『士族(王)である』ともまた為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです。

 

33. 彼を、形姿によって量ってはいけません。パバーヴァティーよ、崇高さによって、『クサ王である』と為して、光輝ある方よ、〔彼を〕愛しき者と為すのです」〔と〕。

 

34. 〔マッダ王に、大臣たちが言った〕「これら〔の七者の士族たち〕は、頑健にして龍たる者たちであり、全てが武装し、〔都を包囲して〕止住します。城壁を蹂躙し、都から、この方を、パバーヴァティーを、連れて行くつもりです」〔と〕。

 

35. 〔大臣たちに、マッダ王が言った〕「わたしは、この者を、パバーヴァティーを、七片と為して、〔七者の〕士族たちに与えよう。彼らは、わたしを殺すために、ここにやってきた者たちなのだ」〔と〕。

 

36. 〔世尊は言った〕「金色の絹をまとう王女は、立ち上がった──奴婢たちの群れに尊ばれる者は、涙に満ちた〔両の〕眼で」〔と〕。

 

37. 〔王妃に、パバーヴァティーが言った〕「あろうことか、〔まさに〕その、塗粉に慣れ親しんだ〔わたしの〕顔が、〔象の〕牙を柄とする鏡で注視してきた〔わたしの顔〕が、美しい眼があり塵を離れ穢れなく浄美なる〔わたしの顔〕が、士族たちによって捨て放たれ、林のなかに止住するのです。

 

38. あろうことか、それらの、黒く、先端が巻かれ、柔和で、栴檀の真髄を塗った、わたしの諸々の髪を、混乱きわまる墓所の中で、鷲たちが〔両の〕足で引き抜くのです。

 

39. あろうことか、それらの、赤き爪と美しきうぶ毛の、栴檀の真髄を塗った、わたしの柔らかき〔両の〕腕が、林のなかで、士族たちによって断ち切られ、廃棄され、烏が収め取って、欲するところに去り行くのです。

 

40. あろうことか、それらの、ターラ〔樹の果〕に似た、垂れ下がることなく、カーシ産の栴檀に慣れ親しんだ、わたしの〔両の〕乳房に、か弱い幼な子が母に〔為す〕ように、野狐が食らいつくのです。

 

41. あろうことか、〔まさに〕その、諸々の金の帯に慣れ親しみ、大きくて善く引き締まった、〔わたしの〕お尻を、士族たちによって断ち切られ林のなかに投げ捨てられた〔わたしのお尻〕を、野狐たちの群れが引き回すのです。

 

42. 犬たちが、烏たちが、さらに、野狐たちが、さらに、すなわち、牙ある者たちとして存している、他の者たちが、あろうことか、パバーヴァティーを食物として、不老の者たちと成るのです。

 

43. それで、もし、遠くからやってきた〔七者の〕士族たちが、〔わたしの〕諸々の肉を運び去ったなら、母よ、〔わたしの〕諸々の骨を乞い求めて、それを、路傍において焼いてください。

 

44. 母よ、諸々の田畑を作らせて、ここにおいて、諸々のカニカーラ〔樹〕を育ててください。諸々の冬〔の季節〕があるなか、雪〔の季節〕が経過するにおいて、すなわち、それらの開花した〔カニカーラ樹〕が存するとき、母よ、〔あなたは〕わたしのことを思い浮かべるでしょう。『パバーヴァティーは、このような色艶の者である』」〔と〕。

 

45. 〔世尊は言った〕「彼女の母は、天の色艶ある士族の女(王妃)は、立ち上がった──そして、剣を、さらに、屠殺台を、マッダ王の内宮に見て」〔と〕。

 

46. 〔王に、王妃が言った〕「あろうことか、この剣で、善き表象ある者を、体躯の均整なる者を、娘を殺して、マッダよ、〔あなたは〕士族たちに与えるのです。

 

47. 〔パバーヴァティーに、王妃が言った〕「子よ、義(利益)を欲するわたしの言葉を、〔あなたは〕為しませんでした(菩薩を拒絶した)。〔まさに〕その〔あなた〕は、今日、血に等しく覆われ、夜魔の王国に赴きます。

 

48. 人は、このように〔罪を〕犯し、そして、より悪しきことに遭遇します──すなわち、まさに、〔彼の〕益となり義(利益)を見る者たちの言葉を、〔彼が〕為さないなら。

 

49. しかしながら、それで、もし、今日、典雅なる見た目ある王子(菩薩)を、クサ〔草〕とともに生まれた士族を、黄金と宝珠の帯をした者を、親族たちの群れに供養される者を、〔あなたが〕認めるなら、〔あなたは〕夜魔の領地に赴きません。

 

50. そこにおいては、まさに、太鼓が鳴り響き、さらに、象が吼え叫ぶ、士族たちの家にあるなら、幸いなる者よ、それよりも、より楽しきこととして、いったい、何があるというのでしょう。

 

51. そして、門では馬がいななき、王子が吟詠する、士族たちの家にあるなら、幸いなる者よ、それよりも、より楽しきこととして、いったい、何があるというのでしょう。

 

52. 孔雀や白鷺が鳴き、郭公が鳴いている、士族たちの家にあるなら、幸いなる者よ、それよりも、より楽しきこととして、いったい、何があるというのでしょう」〔と〕。

 

53. 〔パバーヴァティーに、王妃が尋ねた〕「他国の者を撃破し賊を蹂躙する方(菩薩)は、彼は、いったい、どこにいるのでしょう。すなわち、わたしたちを苦しみから解き放ってくれる、クサです、秀逸なる智慧を有する方です」〔と〕。

 

54. 〔パバーヴァティーが答えた〕「他国の者を撃破し賊を蹂躙する方は、彼は、まさしく、ここにいます。すなわち、彼らの全てを打破するであろう、クサです、秀逸なる智慧を有する方です」〔と〕。

 

55. 〔王妃が尋ねた〕「はてさて、〔あなたは〕狂者となり、話します。暗愚の愚者となり、語ります。もし、クサが、到来者として存しているなら、どうして、わたしたちが、彼のことを知らないというのでしょう」〔と〕。

 

56. 〔パバーヴァティーが答えた〕「この調理師の男です。王女の内宮にいます。腰巻を堅固に為して、かがみこみ、瓶を洗います」〔と〕。

 

57. 〔王妃が尋ねた〕「下賎の者として、チャンダーラ(旃陀羅:賎民・非人)として、あなたは存しているのですか。それとも、家を絶やす者として存しているのですか。〔あなたは〕マッダの家に生まれた者であるのに、どうして、愛ある方を奴隷と為すのですか」〔と〕。

 

58. 〔パバーヴァティーが答えた〕「下賎の者ならずに、チャンダーラならずに、〔わたしは〕存しています。かつまた、家を絶やす者として存しているのでもありません。あなたに、幸せ〔有れ〕。〔彼は〕オッカーカ〔王〕の子です。はてさて、あなたは、〔彼のことを〕『奴隷』と思います。

 

59. 彼は、二万の婆羅門を、常に食べさせます。あなたに、幸せ〔有れ〕。〔彼は〕オッカーカ〔王〕の子です。はてさて、あなたは、〔彼のことを〕『奴隷』と思います。

 

60. 彼のために、二万の象を、〔家来たちは〕常に設えます。あなたに、幸せ〔有れ〕。〔彼は〕オッカーカ〔王〕の子です。はてさて、あなたは、〔彼のことを〕『奴隷』と思います。

 

61. 彼のために、二万の馬を、〔家来たちは〕常に設えます。あなたに、幸せ〔有れ〕。〔彼は〕オッカーカ〔王〕の子です。はてさて、あなたは、〔彼のことを〕『奴隷』と思います。

 

62.(A) 彼のために、二万の車を、〔家来たちは〕常に設えます。あなたに、幸せ〔有れ〕。〔彼は〕オッカーカ〔王〕の子です。はてさて、あなたは、〔彼のことを〕『奴隷』と思います。

 

62.(B) 彼のために、二万の雄牛を、〔家来たちは〕常に設えます。あなたに、幸せ〔有れ〕。〔彼は〕オッカーカ〔王〕の子です。はてさて、あなたは、〔彼のことを〕『奴隷』と思います。

 

63. 彼のために、二万の乳牛を、〔家来たちは〕常に搾乳します。あなたに、幸せ〔有れ〕。〔彼は〕オッカーカ〔王〕の子です。はてさて、あなたは、〔彼のことを〕『奴隷』と思います」〔と〕。

 

64. 〔パバーヴァティーに、王が言った〕「愚者よ、たしかに、おまえの悪行である。すなわち、大いなる勢力ある士族が、龍たる彼が、蛙の姿で、ここにやってきたことを、〔おまえは〕告げ知らせなかったのだ」〔と〕。

 

65. 〔菩薩に、王が言った〕「大王よ、車上の雄牛よ、あなたは、わたしどもの非礼をお許しください。〔まさに〕その、あなたが、〔誰も〕知らない格好で、ここにやってきたことを、〔わたしどもは〕了知しませんでした」〔と〕。

 

66. 〔菩薩は言った〕「〔まさに〕その、わたしが、調理師として有るなら、それは、わたしのような者には適合せず。まさしく、あなたは、わたしに清信するのです。陛下よ、あなたに悪行は存在せず」〔と〕。

 

67. 〔パバーヴァティーに、王が言った〕「愚者よ、赴け、謝罪せよ──クサ王に、大いなる勢力ある方に。謝罪されたクサ王は、彼は、おまえに、生命を与えるであろう」〔と〕。

 

68. 〔世尊は言った〕「父の言葉を聞いて、天の色艶ある者は、パバーヴァティーは、頭をもって、〔彼の両の〕足を収め取った──クサ王を、大いなる勢力ある者を」〔と〕。

 

69. 〔パバーヴァティーが言った〕「すなわち、これらの夜が、〔虚しく〕過ぎ行ったのです。陛下よ、〔まさに〕その、これら〔の夜〕が、あなたなくして。頭をもって、あなたの〔両の〕足を敬拝します。車上の雄牛よ、わたしに怒ってはいけません。

 

70. あなたに、一切を明言します。大王よ、わたしの〔言葉を〕聞いてください。そして、また、あなたにとって愛しからざることを、わたしは、ふたたび為しません。

 

71. もし、このように、〔わたしが〕乞い求めているのに、わたしの言葉を、〔あなたが〕為さないなら、今や、父は、わたしを殺して、士族たちに与えるでしょう」〔と〕。

 

72. 〔菩薩は言った〕「このように、あなたが乞い求めているのに、どうして、あなたの言葉を、〔わたしが〕為さないというのでしょう。美しい方よ、あなたにたいし怒りを離れた者として、〔わたしは〕存しています。パバーヴァティーよ、あなたは、恐れてはいけません。

 

73. あなたに、一切を明言します。王女よ、わたしの〔言葉を〕聞いてください。そして、また、あなたにとって愛しからざることを、わたしは、ふたたび為しません。

 

74. 可愛いお尻をした方よ、まさに、あなたへの欲望あるがゆえに、〔思いのままに〕できるのに、苦しみを忍受したのです──マッダ〔王〕の家の多くの者を殺して、パバーヴァティーよ、あなたを連れて行くことが〔できるのに〕」〔と〕。

 

75. 〔人々に、菩薩は言った〕「種々なる彩りが施された車に、馬たちを設えよ。そこで、賊たちを砕破する、わたしの勢いを見よ」〔と〕。

 

76. 〔世尊は言った〕「そして、彼を、マッダ王の内宮において、そこにおいて、〔人々は〕見た──獅子のように〔口を〕開き、腕を組み、打ち震わせている〔クサ〕を。

 

77. そして、象の背に乗って、パバーヴァティーを乗せて、戦場に入って、クサは、獅子吼を吼え叫んだ。

 

78. 吼え叫んでいる彼の、その〔声〕を聞いて、獅子の〔声を聞いた〕他の獣たちのように、クサの声の恐怖に苦悩し、〔七者の〕士族たちは逃げ去った。

 

79. 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、クサの声の恐怖に苦悩し、互いに他を断ち切った。

 

80. その戦場の先頭における〔この光景を〕見て、欣喜した意図ある者となり、天のインダ(帝釈天)は、クサ王に、光り輝く宝珠を与えた。

 

81. 彼は、その戦場を征圧して、光り輝く宝珠を得て、象の背に乗った王は、ナガラの都に入った。

 

82. 七者の士族たちを、生け捕りのまま捕捉して、結縛して、舅に差し出した」〔と〕。〔菩薩は言った〕「陛下よ、これらの者たちが、あなたの賊たちです。

 

83. あなたの朋友ならざる者たちは、まさしく、全ての者たちが、打破され、あなたの支配に赴いたのです。彼らを、あなた〔の手〕で、欲するままに為したまえ。彼らを、あるいは、解き放つか、あるいは、殺すのです」〔と〕。

 

84. 〔王が言った〕「これらの者たちは、まさしく、あなたの賊たちです。まさに、彼らは、わたしの賊たちにあらず。わたしたちの大王よ、まさしく、あなたが、彼らを、あるいは、解き放つか、あるいは、殺するのです」〔と〕。

 

85. 〔菩薩は言った〕「あなたの、天女の如く浄美なる、これらの七者の娘たちを、彼らの一者一者に与えたまえ。あなたの婿たちと成るのです」〔と〕。

 

86. 〔王が言った〕「あなたは、まさしく、そして、わたしたちの、さらに、彼女たちの、わたしたちの全ての、イッサラです。わたしたちの大王よ、まさしく、あなたが、彼らに与えたまえ。それを、〔あなたが〕求めるなら」〔と〕。

 

87. 〔世尊は言った〕「獅子の声あるクサは、そのとき、それらの士族たちの一者一者に、マッダ王の娘たちの一者一者を与えた。

 

88. その利得によって喜悦し、獅子の声あるクサに満足した、七者の士族たちは、まさしく、ただちに、自らの国土へと出発した。

 

89. そして、パバーヴァティーを携えて、光り輝く美しい宝珠を〔携えて〕、クサ王は、大いなる勢力ある者は、クサーヴァティーに帰還した。

 

90. 彼らは、まさに、一つの車にあり、〔道を〕行きつつ、クサーヴァティーに入りつつ、色艶と形姿をもって相等しく、互いが他に輝きまさることはなかった。

 

91. 母は、子と一緒になった。そして、妻と亭主の両者は、そのとき、彼らは、和合者たちとして〔世に〕存し、興隆する地に住したのだった」〔と〕。ということで──

 

 クサ・ジャータカが、第一となる。

 

20. 1. 2. ソーナナンダ・ジャータカ(ソーナとナンダ・本生物語532)

 

92. 〔王が尋ねた〕「いったい、〔あなたは〕天神として存しているのですか、音楽神として〔存しているのですか〕、それとも、プリンダダ(都の破壊者)たる帝釈〔天〕として〔存しているのですか〕、人間として有る神通者として〔存しているのですか〕。どのように、わたしどもは、あなたのことを知るべきですか」〔と〕。

 

93. 〔ナンダが答えた〕「〔わたしは〕天〔の神〕でもまたなく、音楽神でもなく、プリンダダたる帝釈〔天〕でもまたありません。人間として有る神通者です。バーラダ(王)よ、このように知りたまえ」〔と〕。

 

94. 〔王が言った〕「貴君が形と為した、このことは、少なからざる仕事です。貴君は、天が雨を降らせているとき、降雨なきものと為しました。

 

95. そののち、貴君は、おぞましき熱風があるとき、涼やかな影を作りました。そののち、貴君は、朋友ならざる者(敵)たちの中にあるとき、矢の救護を為しました。

 

96. そののち、貴君は、諸々の興隆する国土を、それらを自在のものと為しました。そののち、貴君は、百者の士族を従い行く者たちと為しました。

 

97. わたしどもは、貴君に満足した者たちとして存しています。〔あなたが〕求める宝を、それを、〔わたしどもに〕説いてください。象の乗物を、馬の車を、さらに、〔装いを〕十分に作り為した女たちを、諸々の喜ばしき住居地を、わたしどもは、貴君に施しましょう。

 

98. さらに、あるいは、ヴァンガ〔国〕を、マガダ〔国〕を、わたしどもは、貴君に施しましょう。さらに、あるいは、アッサカー〔国〕を、ヴァンティー〔国〕を、わたしどもは、悦意の者たちとして、あなたに施しましょう。

 

99. あるいは、また、王権の半分を、わたしどもは、貴君に施しましょう。それで、もし、あなたにとって、王権に義(目的)があるなら、それを、〔あなたが〕求めるなら、統治してください」〔と〕。

 

100. 〔ナンダが言った〕「さてまた、わたしにとって、王権に、城市に、あるいは、財産に、義(目的)は〔見出され〕ません。さらに、また、わたしにとって、地方にも、義(目的)は見出されません。

 

101. まさしく、貴君の征圧した国土において、林のなか、庵所が存します。わたしの父が、さらに、生母が、両者ともに、庵所に暮らしています。

 

102. わたしは、往古の師匠たちである彼らにたいし、功徳を作り為すことを〔いまだ〕得ません。貴君を会衆と為して、〔兄の〕ソーナ(菩薩)に、統御を乞い求めたいのです」〔と〕。

 

103. 〔王が言った〕「あなたの、その言葉を為しましょう。婆羅門よ、すなわち、〔あなたが〕わたしに話す、〔その言葉を〕。そして、まさに、この〔言葉〕を、わたしどもに告げ知らせてください。『どれだけの者たちが、乞い求める者たちと成るのだ』」〔と〕。

 

104. 〔ナンダが言った〕「百を超える地方の者たち、さらに、大家の婆羅門たち、さらに、善き生まれの盛名ある、これらの全ての士族たち、さらに、貴君マノージャ王です。十分に、乞い求める者たちと成るでしょう」〔と〕。

 

105. 〔家臣に、王が言った〕「象たちを、さらに、馬たちを、設えよ。馭者よ、車に装着して、諸々の手綱を掴め。〔車上に設置した〕諸々の足場に諸々の旗を掲げよ。〔わたしは〕その庵所に赴くであろう──すなわち、コーシヤ(ソーナとナンダの父)が暮らしているところに」〔と〕。

 

106. 〔世尊は言った〕「そして、そののち、王は出発した──四つの支分(象兵・馬兵・車兵・歩兵)ある軍団とともに。〔彼は〕喜ばしき庵所に赴いた──すなわち、コーシヤが暮らしているところに」〔と〕。

 

107. 〔菩薩に、王が尋ねた〕「カーダンバ〔樹〕の天秤棒は、誰のものですか。四アングラ(長さの単位・一アングラは約二センチ)の宙に〔浮き〕、水運びのために赴いている〔あなた〕の肩に触れることなく進み行きます」〔と〕。

 

108. 〔菩薩は答えた〕「大王よ、わたしは、ソーナ、掟を伴った苦行者として、母と父を養います──夜に、昼に、休みなく。

 

109. 方角の長(王)よ、林のなかで、そして、果を、さらに、根を、〔それらを〕運び込んで、母と父を養います──過去に為されたことを随念しながら」〔と〕。

 

110. 〔王が尋ねた〕「〔わたしどもは〕庵所に赴くことを求めます。すなわち、コーシヤが暮らしているところに。ソーナよ、道を、わたしどもに告げ知らせてください。それによって、〔わたしどもが〕庵所に赴くことになる、〔まさに、その道を〕」〔と〕。

 

111. 〔菩薩は答えた〕「王よ、この一本道です。すなわち、この、雲に似たところ、コーヴィラーラ〔の花々〕に等しく覆われたところ、ここにおいて、コーシヤは暮らしています」〔と〕。

 

112. 〔世尊は言った〕「この〔言葉〕を説いて、大いなる聖賢は、急ぎ、立ち去った──宙空のなか、空中のうちに、士族に教示して〔そののち〕。

 

113. 〔彼は〕庵所を掃除して、坐を設けて、草庵に入って、父を目覚めさせた。

 

114. 〔菩薩は言った〕『善き生まれの盛名ある、これらの王たちがやってきます。大いなる聖賢よ、庵所から出て、あなたは、〔門前に〕坐ってください』〔と〕。

 

115. 彼の、その言葉を聞いて、大いなる聖賢は、急ぎ、庵所から出て、門前に近坐した。

 

116. そして、威光によって燃え盛っているかのような、その〔王〕がやってくるのを見て、士族たちの群れに取り囲まれた〔王〕を〔見て〕、コーシヤは、この〔言葉〕を説いた。

 

117. 〔コーシヤが尋ねた〕『諸々の太鼓は、そして、諸々の小鼓は、諸々の法螺貝は、諸々の銅鼓や鐘鼓は、誰のものですか。〔行列の〕前を行き、車上の雄牛(王)を笑わせている〔それらの鳴らしもの〕は、〔誰のものですか〕。

 

118. 個々に雷光の色艶ある金の紐によって矢束を装着した若者たちは、誰のものですか。誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

119. 溶炉の口のなかで精錬された〔黄金〕のような、カディラ〔樹〕の炭火の似姿ある、さてまた、〔誰の〕顔が、好ましく輝くのですか。誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

120. 差し出された傘蓋は、誰のものですか。傘骨を含め意が喜びとする〔傘蓋〕は、太陽の光を防護する〔傘蓋〕は、〔誰のものですか〕。誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

121. 鉤を掴んで、最上の毛扇を〔掴んで〕、誰のために、優れた功徳ある〔誰〕のために、象の背に〔乗って〕やってくる〔誰〕のために、〔彼らは〕歩むのですか。

 

122. 諸々の白い傘蓋は、さらに、武装した良馬たちは、誰のものですか。遍きにわたり、〔誰を、それらは〕取り囲むのですか。誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

123. 盛名ある一百の士族たちは、誰に従いながら、遍きにわたり、巡り行くのですか。誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

124. さらに、象と馬と車と歩兵の四つの支分ある軍団も、遍きにわたり、巡り行きます。誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

125. この大いなる軍団は、誰の背後から〔背後へと〕、従い転じ行くのですか──海洋の諸々の波のように、極限なく揺るぎない〔この軍団〕は』〔と〕。

 

126. 〔王が答えた〕『勝利者たちの長たるインダのような、王のなかの王たるマノージャです。ナンダの会衆が、梵行者たちの庵所に行きます。

 

127. この大いなる軍団は、彼の背後から〔背後へと〕、従い転じ行きます──海洋の諸々の波のように、極限なく揺るぎない〔この軍団〕は』〔と〕。

 

128. 栴檀を塗った者たちは、カーシ産の最上の〔衣〕を〔身に〕付ける者たちは、全てが合掌の者たちと成って、聖賢たちのもとに近しく到達した」〔と〕。

 

129. 〔王が尋ねた〕「はてさて、どうでしょう、貴君には、健やかにあられますか。どうでしょう、貴君には、悩みなくあられますか。どうでしょう、〔あなたたちは〕落穂によって〔身を〕保ち行きますか。どうでしょう、多くの根や果がありますか。

 

130. どうでしょう、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくありますか。どうでしょう、猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、害は見出されませんか」〔と〕。

 

131. 〔コーシヤが答えた〕「王よ、まさしく、そして、わたしたちには、健やかにあります。王よ、さらに、悩みなくあります。そこで、〔わたしたちは〕落穂によって〔身を〕保ち行きます。さらに、多くの根や果があります。

 

132. そこで、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくあります。猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、わたしたちに、害は見出されません。

 

133. 多くの膨大なる年月のあいだ、ここに、庵所に暮らしている者たちに、意が喜びとしない病苦が生起したことを、〔わたしは〕証知しません。

 

134. 大王よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。おいでになられた〔あなた〕は、イッサラとして存しておられます。それが、ここに存するものであるなら、〔何なりと〕お申し付けください。

 

135. 諸々のティンドゥカ〔の果〕を、諸々のピヤーラ〔の果〕を、諸々のマドゥカ〔の果〕を、諸々のカースマーリー〔の果〕を、小さく少なきものではありますが、諸々の果を、王よ、優れたもの、優れたものを、お食べください。

 

136. 山窟から運び込んだ、冷たい、この飲み物をもまた、大王よ、それで、もし、あなたがお望みなら、そののち、お飲みください」〔と〕。

 

137. 〔王が言った〕「その施しは納受され、供物は全ての者に為されました。ナンダの言葉をもまた傾聴してください。彼は言示します。

 

138. 貴君の現前にやってきた〔わたしども〕は、ナンダの会衆として存しています。そして、貴君は、衆のなかで、ナンダの言葉を聞きたまえ」〔と〕。

 

139. 〔ナンダが言った〕「百を超える地方の者たち、さらに、大家の婆羅門たち、さらに、善き生まれの盛名ある、これらの全ての士族たち、さらに、貴君マノージャ王は、わたしの言葉をお許しください。

 

140. さらに、共に赴いた者たちとして存している、それらの者たちも、ここに、庵所にいる夜叉たちも、林のなかにいる〔かつて生類として世に〕有った者たちや〔これから生類として世に〕有るであろう者たちも、わたしの言葉を聞きたまえ。

 

141. 生類たちに、礼拝を為して、善き掟の聖賢(菩薩)に、〔わたしは〕説きます。〔まさに〕その、わたしは、〔兄である〕あなたの右腕です──コーシヤ(菩薩:姓による呼称)よ、〔庵所に〕暮らしているあなたの。

 

142. わたしの父を、さらに、生母を、養うことを欲する者として存している、わたしにとって、勇者よ、これ(両親の扶養)は、功徳の境位です。コーシヤよ、わたしを妨げてはいけません。

 

143. まさに、このことは、正しくある者たちによって近しく知られたことです。このことを、わたしに委ねたまえ。〔母と父への〕奉仕と世話によって、長夜にわたり、〔兄である〕あなたによって、〔善なる功徳が〕作り為されました。母と父〔への奉仕と世話〕には、諸々の功徳があります。わたしのために、〔天の〕世を与える者と成ってください。

 

144. まさしく、そのように、人間たちは存在します。法(教え)における法(真理)の句を知る者たちとして。聖賢よ、あなたが知る、そのとおりに、天上の世への道はあります。

 

145. 奉仕と世話によって、母と父に安楽をもたらす者を、〔まさに〕その、わたしを、〔兄であるソーナは〕功徳から妨げます──聖なる道を妨げる人となり」〔と〕。

 

146. 〔菩薩は言った〕「弟の会衆である貴君たちは、わたしの言葉を聞いてください。大王よ、過去からの家の伝統を遍く衰退させる者は、最尊の者たちにたいし法(正義)ならざる〔道〕を歩む者は──彼は、地獄に再生します。

 

147. 方角の長よ、しかしながら、すなわち、過去からの法(教え)に巧みな智ある者たちは、そして、〔法の〕遵守を成就した者たちは──彼らは、悪しき境遇に赴きません。

 

148. 母は、そして、父は、さらに、兄弟は、姉妹は、親族と眷属たちは、彼らの全てが、長男の荷とするところです。バーラダ(王)よ、このように知りたまえ。

 

149. 重き荷を引き受けて、舟頭のように邁進するのです。そして、〔わたしは〕法(教え)を怠りません。車上の雄牛よ、そして、〔わたしは〕長男として存しています」〔と〕。

 

150. 〔王が言った〕「闇のなか、知恵に到達した者たちとして、〔わたしたちは〕存しています(※)。火あるがゆえに、光を〔知る〕ように、まさしく、このように、貴君コーシヤ(菩薩)は、わたしたちに、法(真理)を遍く示しました。

 

※ テキストには Adhigamā とあるが、PTS版により Adhigat' amha と読む。

 

151. すなわち、光の作り手にして世の天たる昇り行く太陽が、命あるものたちに、善きものと悪しきものの形態を遍く示すように、まさしく、このように、貴君コーシヤは、わたしたちに、法(真理)を遍く示しました」〔と〕。

 

152. 〔ナンダが言った〕「このように、乞い求めているわたしの合掌を、〔あなたさまが〕覚らないなら、〔わたしは〕あなたの従僕と成りましょう。奮起し世話する者と〔成りましょう〕」〔と〕。

 

153. 〔菩薩は言った〕「ナンダよ、たしかに、〔あなたは〕正しくある者たちによって説示された正なる法(教え)を識知する。あなたは、聖者であり、聖なる励行ある者であり、甚だしく、わたしにとって好ましくある」〔と〕。

 

154. 〔母と父に、菩薩は言った〕「尊き〔父〕に、さらに、尊き〔母〕に、〔わたしは〕説きます。わたしの言葉を聞いてください。わたしにとって、この重荷は、いついかなる時も、重荷と思われることなく有りました。

 

155. 母と父に安楽をもたらし、奉仕する者として存している、〔まさに〕その、わたしに、ナンダは、会衆を為して、〔母と父に〕奉仕するために乞い求めます。

 

156. すなわち、まさに、求めるなら、欲するままに、梵行者たちとして存しているあなたたちの一者が、ナンダに願うのです。『ナンダは、誰それに奉仕せよ』」〔と〕。

 

157. 〔母が言った〕「息子よ、あなたに認めてもらったからには──ソーナよ、あなたに依拠する、わたしたちです──ナンダの、梵行者の、頭に接吻することを、〔わたしは〕得るべきです。

 

158. 風に揺らぐ、アッサッタ〔樹〕の幼い若芽のように、長きのはてに、ナンダを見て、わたしの心臓は動揺します。

 

159. たとえ、眠りについた夢のなかでも、ナンダが帰ってきたのを見る、そのときは、勇躍する者と〔成り〕、悦意の者と成ります。『ナンダが、この者が、わたしたちのもとに帰ってきたのだ』〔と〕。

 

160. しかしながら、目覚めて〔そののち〕、ナンダが帰ってきていないのを見る、そのときは、より一層の憂いが、さらに、少なからざる失意が、〔わたしを〕侵します。

 

161. 〔まさに〕その、わたしは、今日、長きのはてに、ついに、ナンダが帰ってきたのを見ます。かつまた、夫にとっても、かつまた、わたしにとっても、愛しき者であるナンダが、わたしたちの家に入りました。

 

162. 父にとってもまた、ナンダは、極めて愛しき者です。すなわち、ナンダが家から離れて住むことがないように、息子よ、ナンダは、その〔願い〕を得よ。ナンダは、わたしに奉仕せよ」〔と〕。

 

163. 〔ナンダに、菩薩は言った〕「〔わたしたちに〕慈しみ〔の思い〕ある者であり、かつまた、〔わたしたちが〕立脚する者であり、そして、過去においては、わたしたちに乳を与える者である。天上の世への道がある。聖賢よ、〔その〕母が、あなたに願うのだ。

 

164. 母は、過去においては、〔わたしたちに〕乳を与える者であり、〔わたしたちを〕保護する者であり、功徳を伴った者である。天上の世への道がある。聖賢よ、〔その〕母が、あなたに願うのだ」〔と〕。

 

165. 〔人々に、菩薩は言った〕「〔母は〕子の果(子宝)を望みながら、天神に礼拝します。そして、諸々の星宿を尋ねます──さらに、諸々の季節や年月を。

 

166. 〔子に恵まれる〕季節に沐浴した彼女の胎には、入胎が有ります。それによって、妊婦と成り、それによって、『善き心の者』と呼ばれます。

 

167. あるいは、まる一年のあいだ、あるいは、〔それよりも〕少なく、〔子を〕守り抜いて出産します。彼女は、それによって、『生む者』と〔呼ばれ〕、それによって、『生母』と呼ばれます。

 

168. 乳房の乳で、歌で、さらに、肢体の着物で、泣き叫んでいる子をあやします。それによって、〔彼女は〕『あやす者』と呼ばれます。

 

169. そののち、おぞましき熱風あるとき、わがものと為して、覚知なき幼児を見守ります。それによって、〔彼女は〕『養う者』と呼ばれます。

 

170. そして、それが、母の財として有るなら、さらに、それが、父の財として有るなら、この者のために、両者ともどもに守ります。『さてまた、わたしたちの子のために、〔財は〕存するのだ』〔と〕。

 

171. 『子よ、このように〔有れ〕』『子よ、それを〔為せ〕』〔と〕、かくのごとく、母は打ちのめされます。〔わが子が〕若さ〔の盛り〕に至り得たなら、深夜には他者の妻たちに酔い痴れ、夕方には帰らない子を〔気に病み〕、かくのごとく、母は打ちのめされます。

 

172. このように、苦難をもって〔母に〕養われた男が、母の世話をしない者となるなら、母にたいし、誤った〔道〕を歩んで、彼は、地獄に再生します。

 

173. このように、苦難をもって〔父に〕養われた男が、父の世話をしない者となるなら、父にたいし、誤った〔道〕を歩んで、彼は、地獄に再生します。

 

174. 『財を欲する者たちの財もまた、〔いずれは〕消え行く』〔と〕、かくのごとく、わたしは聞きました。母を世話せずして、彼は、あるいは、苦難に遭遇します。

 

175. 『財を欲する者たちの財もまた、〔いずれは〕消え行く』〔と〕、かくのごとく、わたしは聞きました。父を世話せずして、彼は、あるいは、苦難に遭遇します。

 

176. かつまた、歓嘆は、かつまた、歓喜は、常なる笑いや戯れは、これは、母を世話して、〔あるがままに〕識知している者に得られます。

 

177. かつまた、歓嘆は、かつまた、歓喜は、常なる笑いや戯れは、これは、父を世話して、〔あるがままに〕識知している者に得られます。

 

178. かつまた、布施は、かつまた、愛ある言葉は、かつまた、すなわち、この〔世において〕、義(利益)ある行ないは、かつまた、その場その場において分のままに、諸々の法(事象)にたいし等しくあることは──これらのものは、まさに、世における愛護です。進み行く車の、〔四つの〕楔(車軸に車輪を固定する部品)のようなものです。

 

179. そして、これらの〔四つの〕愛護が存在しないなら、母は、子を契機として、敬慕を、あるいは、供養を、得ないでしょう──あるいは、父も、子を契機として。

 

180. しかしながら、すなわち、これらの〔四つの〕愛護があり、賢者たちは、正しく注視することから、それゆえに、大いなるものに至り得るのであり、そして、彼らは、賞賛されるべき者たちと成ります。

 

181. 母と父は、『梵〔天〕たち』と〔説かれ〕、『往古の師匠たち』と説かれます。そして、子供たちにとって、〔供物を〕捧げるべき者たちであり、子孫にたいし、慈しみ〔の思い〕ある者たちです。

 

182. まさに、それゆえに、賢者は、彼らを、礼拝するべきであり、かつまた、尊敬するべきです。食べ物によって、さらに、飲み物によって、衣によって、かつまた、臥具によって、塗油によって、沐浴によって、そして、〔両の〕足を洗い清めることによって。

 

183. 母と父にたいする、その世話によって、彼を──まさしく、この〔世において〕、彼を──賢者たちは賞賛し、〔彼は〕死してのち、天上において歓喜します」〔と〕。ということで──

 

 ソーナナンダ・ジャータカが、第二となる。

 

 七十なるものの集まりは〔以上で〕終了となる。

 

 その〔章〕のための摂頌となる。

 

 〔そこで、詩偈に言う〕「そこで、この七十なるものの優れた集まりにおいて、共に有れ──優れたクサーヴァティーの王(クサ)が、そこで、また、さらに、優れたソーナと善きナンダ(ソーナとナンダ)が、所聞として承認された、この七十なるものにおいて」と。

 

21. 八十なるものの集まり

 

21. 1. 小なる鵞鳥の章

 

21. 1. 1. チューラハンサ・ジャータカ(小なる鵞鳥・本生物語533)

 

1. 〔菩薩は言った〕「スムカよ、〔わたしのことを〕気にかけずに、鳥たちは立ち去る。おまえもまた、去れ。〔わたしのことを〕待ってはならない。捕縛された者のうちに、道友たることは存在しない」〔と〕。

 

2. 〔スムカが言った〕「わたしが、あるいは、去るとして、あるいは、去らないとして、それによって、〔わたしが〕不死の者として存することはありません。楽しんでいるあなたに近侍しておきながら、どうして、苦しんでいるあなたを捨棄できるというのでしょう。

 

3. あるいは、あなたと共に死があり、あるいは、あなたと別れて生があります。その死こそは、より勝っています。すなわち、もし、あなたと別れて生きることになるなら。

 

4. 大王よ、これは、法(正義)ではありません。すなわち、このような境遇あるあなたを捨棄することです。鳥の君主よ、それが、あなたの境遇であるなら、それは、わたしにとって好ましくあるのです」〔と〕。

 

5. 〔菩薩は言った〕「罠に捕縛された者に、厨房より他に、いったい、どのような境遇があるというのだろう。それが、どうして、〔思慮をもって〕思い考え、〔捕縛されずに〕解き放たれている、おまえにとって好ましくあるというのだろう。

 

6. 鳥よ、あるいは、おまえは、どのような義(利益)を見るというのだろう──わたしにとって、さらに、おまえにとっても、あるいは、残された親族たちにとっても、〔わたしたちの〕両者に、生命の滅尽あるときに。

 

7. 黄金の二つの尾翼をもつ者よ、すなわち、盲者が闇を赴くことではないのか。命を共に捨てつつ、そのようなことに、どのような義(利益)を照らすというのだろう」〔と〕。

 

8. 〔スムカが言った〕「飛ぶものたちの最勝者よ、いったい、どうして、法(正義)のうちに、義(利益)を覚らないのですか。法(正義)が敬恭され、〔世に〕存しているなら、命ある者たちに、義(利益)を見示します。

 

9. 〔まさに〕その、わたしは、法(正義)を熟視しながら、かつまた、法(正義)から現起した義(利益)を〔熟視しながら〕、そして、あなたにたいする信愛を正しく見ながら、生命を希求しないのです。

 

10. たしかに、これは、正しくある者たちの法(教え)です。およそ、朋友であるなら、災難のうちにある朋友を、たとえ、生命を因としても、捨てるべきではないのです──〔常に〕法(教え)を随念しながら」〔と〕。

 

11. 〔菩薩は言った〕「そして、〔まさに〕その、この法(正義)〔の道〕は、おまえによって歩まれた。さらに、わたしにたいする信愛も見出された。わたしの、この欲望(命令)を、〔おまえは〕為すのだ。さてこそ、去れ──わたしに許された者として。

 

12. さてまた、しかし、このように、〔おまえが〕去った時には、すなわち、わたし〔の捕縛〕による親族たちの破断あるも、それは、おまえによって、覚慧を成就し最高に統御されたものとして存するであろう」〔と〕。

 

13. 〔世尊は言った〕「かくのごとく、聖なる生活ある聖者たちが、このように話し合っていると、〔卑しき〕山民(猟師)が現われた──病める者たちにとっての死神のような者が。

 

14. 長夜にわたり〔互いに〕益ある鳥たちは、彼らは、賊を認めて、両者ともに、沈黙のままに存し、坐から移動しなかった。

 

15. そして、ダタラッタ(菩薩)たちが、そこかしこに飛び跳ねているのを見て、鳥の賊(猟師)は、鳥の君主たちに勢いよく進み行った。

 

16. そして、彼は、勢いよく進み行って、最高の鳥たちに近づいて、山民はたじろいだ──『〔彼らは〕捕縛されたのか』と熟慮しながら。

 

17. まさしく、一者は捕縛され坐しているが、しかしながら、いっぽうで、他は捕縛されておらず、捕縛され坐している者に近づいて、〔その〕危険を見ている。

 

18. そののち、彼は、まさしく、疑問をもち、白き者たちに語りかけた──増大した身体をもち、〔そこに〕坐している、鳥の群れの衆の君主たちに」〔と〕。

 

19. 〔猟師が尋ねた〕「はてさて、すなわち、大いなる罠に捕縛された者が逃亡を為すことはないとして、そこで、何ゆえに、あなたは、捕縛されていないのに、力ある鳥であるのに、〔ここから〕去らないのですか。

 

20. あなたにとって、この鳥は、いったい、どのようなものと成るのですか。〔あなたは〕解き放たれているのに、捕縛された者に近侍します。〔他の〕鳥たちは、〔彼を〕捨棄して行くのに、どうして、〔あなたは〕独り、残るのですか」〔と〕。

 

21. 〔スムカが答えた〕「鳥にとって朋友ならざる者よ、彼は、わたしにとって、王であり、そして、わたしにとって、友であり、命に等しき者なのです。彼を捨棄することは、まさしく、ありません。時に転機がある、そのかぎりは」〔と〕。

 

22. 〔猟師が尋ねた〕「また、どうして、この鳥は、仕掛けられた罠を見なかったのですか。まさに、これは、大いなる者たちの境処です。〔すなわち、彼らは〕災難を覚ることができるのです」〔と〕。

 

23. 〔スムカが答えた〕「すなわち、生命の消滅あるときに、人が、滅びの者と成るとき、そこで、かつまた、網も、かつまた、罠も、〔それらに〕近づいてもなお、〔それらを〕覚らないのです」〔と〕。

 

24. 〔猟師が言った〕「大いなる智慧ある者よ、さてまた、しかし、このように、〔各所に〕広げられた多くの種類の罠があり、〔獣たちは〕秘密のものに近づいては捕縛されます──そこで、このように、生命の滅尽あるときに」〔と〕。

 

25. 〔スムカが言った〕「さてまた、まさに、共住に安楽の生成あるのは、これは、あなたを相手としてのことです(あなたが相手であるからこそ、ここにこうして話し合える)。さてまた、〔あなたは〕わたしたちを許します。さてまた、〔あなたは〕わたしたちに生命を与えてくれるでしょう」〔と〕。

 

26. 〔猟師が言った〕「まさしく、そして、わたしにとって、あなたは、捕縛された者として存していません。また、〔わたしは〕あなたの屠殺も求めません。欲するままに、すみやかに、ここから去って、煩悶なき者となり、あなたは、長きに生きてください」〔と〕。

 

27. 〔スムカが言った〕「わたしは、このことを、まさしく、求めません──この者の生命より他のものは。それで、もし、一者をもって、〔あなたが〕満足の者として存するなら、この者を解き放ってください。そして、わたしを食物としてください。

 

28. 〔わたしたちの〕両者は、背丈と幅では、年齢でも、均等の者たちとして存しています。あなたに、利得として、生命は存在しません。あなたは、〔わたしを〕この者と換えてください。

 

29. それでは、さあ、正しく熟視するのです。わたしたちにたいし、あなたの貪求〔の思い〕有れ。まずは、わたしを、罠で捕縛してください。そのあとで、鳥の君主を解き放ってください。

 

30. そして、まさしく、ただちに、利得が、さらに、乞いによって作り為された〔利得〕が、あなたに存するでしょう。そして、〔恩を感じた〕ダタラッタの者たちからの友情が、生あるかぎり、あなたに存するでしょう」〔と〕。

 

31. 〔猟師が言った〕「あなたによって解き放たれ、ここから去り行く者を、大いなる群れの者たちは、まさに、見よ──そして、朋友と家臣たちも、かつまた、扶養者たちも、さらに、子と妻たちも、眷属たちも。

 

32. そして、あなたの、そのような友情は、この〔世において〕、多くの者たちに見出されるものではありません──すなわち、あなたのように、ダタラッタのために命を共通のものとする友人は。

 

33. それでは、あなたの道友を解き放ちましょう。王は、あなたに従い行く者と成れ。欲するままに、すみやかに、ここから去って、親族たちの中で光り輝きたまえ」〔と〕。

 

34. 〔世尊は言った〕「彼は、主人に尊重〔の思い〕ある者は、主人が解き放たれたので満足し、鳥は、〔猟師に〕語りかけた──耳に安楽なる言葉を話しながら」〔と〕。

 

35. 〔スムカが言った〕「猟師よ、このように、全ての親族たちと共に、喜びたまえ。すなわち、解き放たれた鳥の君主を見て、今日、わたしが喜ぶように。

 

36. さあ、〔わたしは〕あなたに従い学びます。すなわち、あなたもまた、〔利得を〕得るであろうように。この者は、ダタラッタは、あなたに利得を〔得させます〕──何であれ、悪しきものを見ることなく。

 

37. すみやかに、内宮に連れて行って、わたしたちの両者を、王に見せるのです──結縛せずに、普通の状態で、天秤棒の両端に止住しているままに。

 

38. 〔すなわち〕『大王よ、これらの者たちは、鵞鳥の君主たるダタラッタたちです。まさに、この者は、鵞鳥たちの王です。他の者である、この者は、軍団長です』〔と〕。

 

39. 疑念〔の余地〕なく、人の君主は、鵞鳥の王たるこの者を見て、満足した者となり、悦意の者となり、歓悦の者となり、多くの財を、あなたに与えるでしょう」〔と〕。

 

40. 〔世尊は言った〕「彼の、その言葉を聞いて、〔猟師は〕行為をもって完遂した。すみやかに、内宮に赴いて、鵞鳥たちを、王に見せた──結縛せずに、普通の状態で、天秤棒の両端に止住しているままに」〔と〕。

 

41. 〔猟師が言った〕「大王よ、これらの者たちは、鵞鳥の君主たるダタラッタたちです。まさに、この者は、鵞鳥たちの王です。他の者である、この者は、軍団長です」〔と〕。

 

42. 〔王が尋ねた〕「また、どうして、これらの鳥たちが、おまえの手中に至り着いたのだ。どうして、猟師である〔おまえ〕が、大いなる者たちのイッサラである〔これらの鳥たち〕に、この〔世において〕、到達したのだ」〔と〕。

 

43. 〔猟師が答えた〕「人の君主よ、諸々の湖沼に設置された、これらの罠が存します──思うに、その〔場所〕その場所で、鳥たちの命を殺傷するものとして。

 

44. そのような罠に近づいて、鵞鳥の王は捕縛されました。彼に近侍する者は、捕縛されていません。この者は、わたしに語りかけました。

 

45. 聖ならざる者たちによっては極めて為し難きものを、〔心の〕状態としては最上のものを、〔この者は〕思い定めます──主人の義(利益)に勤しみながら、法(正義)と結び付いた者として、〔この〕鳥は。

 

46. この者は、生命に値する者(自由の身)でありながら、自己みずから、生命を捨てて、泣き悲しみながら坐し、主人の生命を乞い求めました。

 

47. 彼の、その言葉を聞いて、わたしは、清信に到達しました。そののち、彼を、罠から解き放ち、そして、安楽なるままに許しました。

 

48. 彼は、主人に尊重〔の思い〕ある者は、主人が解き放たれたので満足し、鳥は、〔わたしに〕語りかけました──耳に安楽なる言葉を話しながら。

 

49. 〔すなわち〕『猟師よ、このように、全ての親族たちと共に、喜びたまえ。すなわち、解き放たれた鳥の君主を見て、今日、わたしが喜ぶように。

 

50. さあ、〔わたしは〕あなたに従い学びます。すなわち、あなたもまた、〔利得を〕得るであろうように。この者は、ダタラッタは、あなたに利得を〔得させます〕──何であれ、悪しきものを見ることなく。

 

51. すみやかに、内宮に連れて行って、わたしたちの両者を、王に見せるのです──結縛せずに、普通の状態で、天秤棒の両端に止住しているままに。

 

52. 〔すなわち〕「大王よ、これらの者たちは、鵞鳥の君主たるダタラッタたちです。まさに、この者は、鵞鳥たちの王です。他の者である、この者は、軍団長です」〔と〕。

 

53. 疑念〔の余地〕なく、人の君主は、鵞鳥の王たるこの者を見て、満足した者となり、悦意の者となり、歓悦の者となり、多くの財を、あなたに与えるでしょう』〔と〕。

 

54. このように、この者の言葉によって、これらの者たちは、両者ともに、わたしによって連れてこられたのです。まさに、まさしく、ここにおいて、これらの者たちは存しました──両者ともに、わたしに許された者たちとして。

 

55. 〔まさに〕その、この者は、このような境遇ある鳥であり、最高の法(正義)にかなう鳥です。なぜなら、わたしのような猟師に、柔和〔の心〕を生じさせるのですから。

 

56. 陛下よ、そして、あなたへの貢物として、このようなものを、〔わたしは〕他に見ません。全ての捕鳥者の村においてです。人間の君主よ、彼を見てください」〔と〕。

 

57. 〔世尊は言った〕「浄美なる黄金の椅子に坐っている王を見て、鳥は、〔王に〕語りかけた──耳に安楽なる言葉を話しながら」〔と〕。

 

58. 〔菩薩は尋ねた〕「はてさて、どうでしょう、貴君には、健やかにあられますか。どうでしょう、貴君には、悩みなくあられますか。どうでしょう、この国土は興隆し、法(正義)によって、〔あなたは〕統治しますか」〔と〕。

 

59. 〔王が答えた〕「鵞鳥よ、まさしく、そして、わたしには、健やかにあります。鵞鳥よ、さらに、悩みなくあります。そこで、この国土は興隆し、法(正義)によって、わたしは統治します」〔と〕。

 

60. 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、貴君の家臣たちにおいては、何であれ、汚点は見出されないですか。どうでしょう、そして、彼らは、あなたに諸々の義(事態)あるとき、〔自らの〕生命に期待なくありますか」〔と〕。

 

61. 〔王が答えた〕「そこで、また、わたしの家臣たちにおいては、何であれ、汚点は見出されません。そこで、また、彼らは、わたしに諸々の義(事態)あるとき、〔自らの〕生命に期待なくあります」〔と〕。

 

62. 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、あなたの妻は、〔あなたに〕似合いの者であり、従順で愛しき話し手として、子供と形姿と福徳を具し、あなたの欲〔の思い〕の支配に従い行く者ですか」〔と〕。

 

63. 〔王が答えた〕「そこで、わたしの妻は、〔わたしに〕似合いの者であり、従順で愛しき話し手として、子供と形姿と福徳を具し、わたしの欲〔の思い〕の支配に従い行く者です」〔と〕。

 

64. 〔王が尋ねた〕「はてさて、どうでしょう、貴君は、その大いなる賊の手中に落ちたのですが、その災難があるとき、最初に、〔あなたは〕広大なる苦痛を惹起しましたか。

 

65. どうでしょう、〔賊は〕急いでやってきて、〔あなたを〕棒で叩きましたか。このような〔仕打ちが〕、これらの卑しむべき者たちには、しきたりとして、まさしく、ただちに有るのです」〔と〕。

 

66. 〔菩薩は答えた〕「大王よ、このような災難が存しているとき、〔わたしには〕平安が存しました。そして、この者は、何であれ、わたしたちにたいし、まさしく、賊として現われませんでした。

 

67. 山民は後ずさり、まさしく、先に、語りかけました。そのとき、まさしく、このスムカが、賢者たる者が、答えました。

 

68. 彼の、その言葉を聞いて、この者は、清信に到達しました。そののち、わたしを、罠から解き放ち、そして、安楽なるままに許しました。

 

69. そして、このことは、まさしく、スムカによって、この者の義(利益)のために思い考えられたのです──貴君の現前に赴くことも、この者のために財を求めることも」〔と〕。

 

70. 〔王が言った〕「まさしく、そして、このことは、貴君たちにとって、善き訪問と〔成れ〕。そして、〔わたしは〕存している──〔貴君たちとの〕会見あるがゆえに満足した者として。そして、また、この者は、多くの富を、求めるかぎり得るのだ」〔と〕。

 

71. 〔世尊は言った〕「人間の君主は、諸々の財物によって、山民を満足させて、鳥に語りかけた──耳に安楽なる言葉を話しながら」〔と〕。

 

72. 〔菩薩に、王が言った〕「すなわち、まさに、主権ある法(正義)として、何であれ、〔わたしの〕支配が転起するなら、一切所において、あなたに権力〔有れ〕。〔あなたたちが〕それを求めるなら、〔あなたは〕それを統治してください。

 

73. 布施を義(目的)として、あるいは、受益してもらうために、さらに、すなわち、他の、役に立つものとして、この富を、あなたたちに施します。権力を、あなたたちに捨て放ちます」〔と〕。

 

74. 〔スムカに、王が言った〕「そして、すなわち、このスムカが、賢者たる者が、わたしに語りかけてくれるなら、覚慧を成就した者が、欲するままに〔語りかけてくれるなら〕、それは、わたしにとって、最高の愛しきこととして存するでしょう」〔と〕。

 

75. 〔スムカが言った〕「大王よ、わたしは、まさに、龍の王のように、中途に返事することができません。それは、わたしにとって、規律として存さないのです。

 

76. まさしく、そして、彼は、わたしたちにとっての最勝者であり、そして、あなたは、最上の有情たる方です。地上の警護者であり、人間のインダであり、多くの因による供養があります。

 

77. それらの両者が話しているなら、〔彼らの〕判断が下されているときに、人間の君主よ、召使によって、中途に返事されるべきではありません」〔と〕。

 

78. 〔王が言った〕「法(正義)によって、まさに、山民は〔言う〕。『鳥は、賢者である』と。まさしく、まさに、〔いまだ〕自己を作り為していない者に、このような方法が存するべくもない。

 

79. このように、至高の性向ある者なのだ。このように、最上の有情たる者なのだ。わたしが見たものとして〔世に〕存する、そのかぎりにおいて、このような者を、〔わたしは〕他に見ない。

 

80. 〔わたしは〕存しています──あなたたちの、〔至高の〕性向によって、さらに、甘美なる言葉によって、満足した者として。そして、また、わたしには、この欲〔の思い〕があります。『あなたたちの両者を、長きに見たい』」〔と〕。

 

81. 〔菩薩は言った〕「すなわち、最高の朋友にたいし為されるべきことが、それが、あなたによって、わたしたちにたいし為されたのです。疑念〔の余地〕なく、〔わたしたちは〕存しています──あなたによって〔信愛に〕至り得た者たちとして。すなわち、わたしたちにたいする、あなたの信愛です。

 

82. しかしながら、それでは、まちがいなく、親族たちの群れにとって、極めて大いなる障りとなります。わたしたちを見ないことで、多くの鳥たちに、苦しみがあります。

 

83. 彼らの憂いを打破するために、あなたに許されたなら、わたしたちは、敵を調御する者よ、あなたに、右回り〔の礼〕を為して、親族を見るべく〔立ち去ります〕。

 

84. たしかに、わたしは、広大なる喜悦を、貴君たちとの会見あるがゆえに見出します。しかしながら、また、この大いなる義(利益)が、親族たちへの信頼が、存するのです」〔と〕。

 

85. 〔世尊は言った〕「ダタラッタは、鵞鳥の王は、人の君主に、この〔言葉〕を説いて、最上の速さに達して、親族たちの群れへと近しく赴いた。

 

86. 最高の鳥たちが、彼らが、無病の者たちとして到着したのを見て、鵞鳥たちは、『ケーカー』と鳴き、多々なる声が生じた。

 

87. 彼らは、主人に尊重〔の思い〕ある者たちは、主人が解き放たれたので満足し、縁たる者を得た鳥たちは、〔主人を〕遍きにわたり取り囲んだ。

 

88. このように、朋友ある者たちには、義(利益)あるがゆえに、〔彼らの〕全てが、僥倖ある者たちと成る──すなわち、鵞鳥のダタラッタたちが、親族たちの群れへと近しく赴いたように」〔と〕。ということで──

 

 チューラハンサ・ジャータカが、第一となる。

 

21. 1. 2. マハーハンサ・ジャータカ(大なる鵞鳥・本生物語534)

 

89. 〔菩薩は言った〕「これらの鵞鳥たちは、立ち去る──恐怖に動揺した、鳥たちは。黄金の皮膚ある者よ、金の色艶ある者よ、スムカよ、欲するままに立ち去れ。

 

90. 独り、罠の支配に赴いた、わたしを捨棄して、親族たちの群れは、期すことなく去り行く。どうして、独り、〔おまえは〕残るのか。

 

91. 飛ぶ者たちのなかの最勝者よ、まさしく、飛べ。捕縛された者にたいし、道友たることは存在しない。煩悶なき〔境遇〕から退失してはならない。スムカよ、欲するままに立ち去れ」〔と〕。

 

92. 〔スムカが言った〕「ダタラッタ(菩薩)よ、わたしは、たとえ、苦しみに打ち負かされたとして、あなたを捨棄できません。わたしに、生あるも、あるいは、死あるも、〔わたしは〕あなたと共に有るでしょう。

 

93. ダタラッタよ、わたしは、たとえ、苦しみに打ち負かされたとして、あなたを捨棄できません。聖ならざるものと結び付いた行為に、わたしを結び付けることはできません。

 

94. あなたとは、幼馴染みの友人として、〔わたしは〕存しています。かつまた、あなたとは、共なる心に立脚する者として、〔わたしは〕存しています。鵞鳥たちのなかの最も優れた最上なる方よ、わたしは、あなたの軍団長として知られた者です。

 

95. どうして、わたしが、ここから去り、親族たちの中で誇示できるというのでしょう。飛ぶ者たちのなかの最勝者たる方よ、あなたを捨棄して、ここから去り、彼らに、何を説くというのでしょう。ここに、命を捨てます。聖ならざることを為すことはできません」〔と〕。

 

96. 〔菩薩は言った〕「スムカよ、まさに、これは、法(正義)である。すなわち、おまえは、聖なる道に立脚する者である。すなわち、主人にして友人たるわたしを捨て去ることができないのは。

 

97. まさに、おまえを見ていると、わたしに、恐怖は、まさしく、しかし、生じることがない。おまえは、到達する──わたしの、このように成った者の、生命に」〔と〕。

 

98. 〔世尊は言った〕「かくのごとく、聖なる生活ある聖者たちが、このように話し合っていると、棒を取って、〔卑しき〕山民が、急ぎ、激しく、至り来た。

 

99. 至り来る彼を見て、スムカは絶叫した。鵞鳥は、王の前に立った──震える〔王〕を安堵させながら」〔と〕。

 

100. 〔スムカが言った〕「飛ぶ者たちのなかの最勝者たる方よ、恐怖してはいけません。なぜなら、如なる者たちは恐怖しないからです。わたしは専念します──法(正義)を伴った相応しい専念〔努力〕に。〔わたしの〕その説諭によって、すみやかに、罠から説き放たれるでしょう」〔と〕。

 

101. 〔世尊は言った〕「彼の、その言葉を聞いて、スムカの、見事に語られた〔言葉〕を〔聞いて〕、身の毛がよだった山民は、合掌を、彼に手向けた」〔と〕。

 

102. 〔猟師が尋ねた〕「鳥が、人間の〔言葉〕を語っているのを、あるいは、聞いたことも、あるいは、見たことも、わたしはない。聖なることを説きながら、鳥が、人間の言葉を放っている。

 

103. あなたにとって、この鳥は、いったい、どのようなものと成るのですか。〔あなたは〕解き放たれているのに、捕縛された者に近侍します。〔他の〕鳥たちは、〔彼を〕捨棄して行くのに、どうして、〔あなたは〕独り、残るのですか」〔と〕。

 

104. 〔スムカが答えた〕「鳥にとって朋友ならざる者よ、彼は、わたしにとって、王であり、彼の軍団長として、〔わたしは〕従事してきました。災難のうちにある彼を、鳥の君主を、捨て去ることはできません。

 

105. 大いなる衆にとっての、わたしにとっての、主人が、独り、災厄に至ることがあってはなりません。友よ、山民よ、それ、そのとおりに、この者は主人であり、近くにあって〔こそ〕喜び楽しめるのです」〔と〕。

 

106. 〔猟師が言った〕「鳥よ、聖なる行持ある者として、〔あなたは〕存しています。すなわち、〔行乞の〕食を、〔あなたは〕敬います(施しの恩を忘れない)。あなたに、彼を、主人を、〔わたしは〕献じます。両者ともに、安楽なるままに去り行きたまえ」〔と〕。

 

107. 〔スムカが言った〕「それで、もし、自己〔の生計〕を目的として、鵞鳥たちや〔他の〕鳥たちに、〔罠が〕置かれたなら、友よ、あなたの、この恐怖なき〔平安〕の施物を、〔わたしたちは〕納受しましょう。

 

108. もし、自己〔の生計〕を目的とせずして、鵞鳥たちや〔他の〕鳥たちに、〔罠が〕置かれたなら、猟師よ、〔あなたは〕権利なき者として、わたしたちを解き放っているのであり、〔あなたは〕盗みを為すことになります(他者の命令で罠を仕掛けたなら、獲物を解き放つのは罪となる)。

 

109. あなたが、その王の雇われであるなら、まさしく、彼を、欲望〔の対象〕に至り得させてあげなさい。そこにおいて、自制ある王は、証知あるままに為すでしょう」〔と〕。

 

110. 〔世尊は言った〕「かくのごとく、このように説かれた山民は、金の色艶ある者たちを、黄金の皮膚ある者たちを、両の手で包み抱いて、籠のなかに収容した。

 

111. 彼らを、籠のなかに赴いた鳥たちを、光り輝く色艶ある両者を、スムカを、そして、ダタラッタを、〔両者を〕携えて、猟師は立ち去った。

 

112. 運ばれながら、ダタラッタは、スムカに、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。〔菩薩は言った〕「スムカよ、〔わたしは〕甚だしく恐怖する。金色をもって特相とする腿ある〔わたしの妻〕は、わたしたちの屠殺を了知して、そこで、自己を屠殺するであろう(妻の自害を心配する)。

 

113. スムカよ、そして、雌鵞鳥は、金色の美しい皮膚あるスヘーマー(妻)は、海辺の鷺のように、まちがいなく、哀れに泣き叫ぶであろう」〔と〕。

 

114. 〔スムカが言った〕「このように、世〔の人々〕にとって、大いなる者であり、無量なる者であり、大いなる衆師たる者が、一者の女を憂い悲しむなら、これは、智慧ある者らしからぬこと。

 

115. 〔あなたは〕良きと悪しきの両者の香りを送る風のようであり、生のものと熟したものを〔食べる〕童のようであり、美食に妄動ある盲者のようです。

 

116. 〔あなたは〕諸々の義(利益)について判断を知らざる者であり、わたしには、〔あなたは〕愚か者であるかに思えます。〔あなたは〕為すべきことと為すべきではないことを知りません──時の末路に等しく至り得た者となり。

 

117. すなわち、〔あなたが〕女たちをより勝っていると思うなら、〔あなたは〕半ば狂者として〔言葉を〕発しているのです。まさに、多くの〔男〕たちに共通のものとしてあるのが、これら〔の女たち〕であり、酒飲みたちにとっての居酒屋のようなものです。

 

118. この〔女という存在〕は、そして、幻想であり、さらに、陽炎であり、憂いであり、かつまた、病であり、禍です。これら〔の女たち〕は、そして、鋸であり、さらに、結縛であり、洞窟に臥す死魔の罠です。すなわち、人が、彼女たちにたいし信頼するなら、彼は、男たちにおける最低の男なのです」〔と〕。

 

119. 〔菩薩は言った〕「それが、年長者たちによって近しく知られたものであるなら、それを非難することが、誰ができるというのだろう。大いなる元素ある者たちとして、女というものは、世に生まれ来たのだ。

 

120. 彼女たちにおいて、遊興が志向され、彼女たちにおいて、歓楽が確立され、彼女たちにおいて、諸々の種が成長し、すなわち、この、有情たちが生まれるのだ。彼女たちにたいし、人として、誰が厭離するというのだろう──〔彼女たちの〕命ゆえに、〔自己の〕命を陥れても。

 

121. スムカよ、おまえこそは、他にあらず。婦女たちのために、〔おまえは〕諸々の義(目的)に専念する。〔まさに〕その、おまえに、今日、恐怖が生じたのであり、恐怖したことで生じるのが、思慧である。

 

122. なぜなら、〔生命の〕疑念に至り得た者は、〔その〕全てが、恐怖し、恐怖を忍受するからだ。しかしながら、賢者たちは、大いなる者たちは、まさに(※)、専念し難き義(目的)に専念する。

 

※ テキストには mahantāno とあるが、PTS版により mahantā no と読む。

 

123. この義(目的)のために、王たちは、助言者たる勇士を求める。〔まさに〕その、自己の末路たる災難を、〔粉砕し〕拒否する、勇士である。

 

124. わたしたちを、今日、王の料理人たちが、厨房で切り裂くことがあってはならない。〔竹の〕果が、その竹を打ち殺したように、まさに、そのように、〔両の〕翼の色艶は、〔わたしたちを打ち殺す〕(金色の羽をもっているために殺されてしまう)。

 

125. 〔おまえは〕解き放たれていながらもまた、飛び立つことを求めず、自ら、結縛へと近しく赴いた。〔まさに〕その〔おまえ〕もまた、今日、〔生命の〕疑念に至り得た者なのだ。義(目的)を収め取れ。口を〔開いては〕ならない。

 

126. 〔まさに〕その〔おまえ〕は、専念するのだ──法(正義)を伴った相応しい、その専念〔努力〕に。おまえの説諭によって、わたしの命を探し求める〔道〕を歩め」〔と〕。

 

127. 〔スムカが言った〕「飛ぶ者たちのなかの最勝者たる方よ、恐怖してはいけません。なぜなら、如なる者たちは恐怖しないからです。わたしは専念します──法(正義)を伴った相応しい専念〔努力〕に。〔わたしの〕その説諭によって、すみやかに、罠から説き放たれるでしょう」〔と〕。

 

128. 〔世尊は言った〕「その猟師は、鵞鳥の天秤棒とともに、王の門へと近しく赴いた」〔と〕。〔猟師が言った〕「わたしのことを、王に知らせたまえ。『ダタラッタが、この者が、至り着いたのです』」〔と〕。

 

129. 〔世尊は言った〕「功徳を顕示する彼らを見て、特相が等しく思認された両者を〔見て〕、まさに、自制ある王は、家臣たちに言い渡した」〔と〕。

 

130. 〔王が言った〕「猟師に与えよ──諸々の衣を、食べ物を、さらに、飲み物を、食料を。〔彼が〕欲するままに為す者であるなら、黄金を、彼に〔与えよ〕──この者が求める、そのかぎりを」〔と〕。

 

131. 〔世尊は言った〕「清信した自己ある猟師を見て、カーシ〔国〕の王は、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。〔王が尋ねた〕「友よ、ケーマカ(猟師)よ、すなわち、この〔池〕が、鵞鳥たちで満ち、止住しているとして──

 

132. 好ましき〔鵞鳥たち〕の中に在する者のもとに、罠を手に、どのように近しく赴いたのだ。親族たちの群れに取り囲まれた非凡なる者を、どのように捕捉したのだ」〔と〕。

 

133. 〔猟師が答えた〕「わたしが、〔鵞鳥たちの〕諸々の餌場に近侍しながら、今日で、第七夜となります。この者の足跡を探し求めながら、怠ることなく、瓶のなかに依拠していたのです(瓶に隠れて見張っていた)。

 

134. そこで、食を探し求め、歩んでいる彼の足跡を見ました。そこにおいて、わたしは、罠を起き、このように、その鳥を捕捉しました」〔と〕。

 

135. 〔王が尋ねた〕「猟師よ、二者のこれらの鳥がいる。そこで、〔おまえは〕『一者』と語る。はてさて、おまえの心は、転倒してしまったのか、それとも、いったい、何を求め願うのだ」〔と〕。

 

136. 〔猟師が答えた〕「彼〔の翼〕には、諸々の真紅の線があり、金に似て美しく、胸に達して止住するのですが、〔その〕彼が、わたしの結縛へと近しく赴いたのです。

 

137. そこで、この光り輝く鳥(スムカ)は、結縛されていないのに、結縛された痛苦の者に、聖なることを説きながら、〔罠の外に〕止住していたのです──人間の言葉を放ちつつ」〔と〕。

 

138. 〔スムカに、王が尋ねた〕「スムカよ、そこで、今や、どうして、顎を閉ざして止住するのか(黙ったままでいるのだ)、それとも、わたしの衆に至り得たので恐怖し、恐怖あるがゆえに、〔何も〕語らないのか」〔と〕。

 

139. 〔スムカが答えた〕「カーシ〔国〕の長よ、わたしは、あなたの衆に入って、恐怖したのではありません。わたしは、そのような義(事態)にたいし恐怖あるがゆえに、言葉を語らないのではありません」〔と〕。

 

140. 〔王が言った〕「あなたの、従者を見ず、車兵たちを〔見〕ず、また、歩兵たちを〔見〕ない。彼の、あるいは、盾を〔見〕ず、あるいは、防具を〔見ず〕、さらに、武装した弓の使い手たちを〔見ない〕。

 

141. 金貨を〔見〕ず、あるいは、黄金を〔見ず〕、あるいは、見事に造作された城市を〔見ない〕。堀が巡らされ、入り難く、堅固な見張塔と門小屋がある〔城市〕を〔見ない〕。スムカよ、そこにおいて、〔あなたが〕入ったなら、〔そのときは〕恐怖するべくも恐怖しないのだが」〔と〕。

 

142. 〔スムカが言った〕「わたしにとって、従者に、城市に、あるいは、財産に、義(目的)は〔見出され〕ません。わたしたちは、空中を歩む者たちであり、道なき道を行きます。

 

143. そして、『賢者たちである』と〔世に〕聞かれた者たちとして、精緻にして義(道理)に思弁ある者たちとして、〔わたしたちは〕存しています。そして、〔あなたが〕真なるものにおける確立者(真実を語る者)として存するなら、〔わたしたちは〕義(道理)ある言葉を語りましょう。

 

144. しかしながら、あなたの〔言葉が〕、何を為すというのでしょう──〔あなたが〕真ならざる者であり、聖ならざる者であるなら。〔あなたが〕虚偽を説く者であり、残忍な者であるなら、たとえ、善語が話されたとして、〔何を為すというのでしょう〕。

 

145. あなたは、婆羅門たちの言葉から、この平安なる〔池〕を作らせました。かつまた、あなたによって、恐怖なき〔池〕と、これらの十種の方角に布告されたのです。

 

146. 水は清らかで、清澄なる、あなたの蓮池に入って、そして、そこにおいては、沢山の食があり、かつまた、ここにおいては、鳥たちに害はない、〔と布告されたのです〕。

 

147. この評判を聞いて、〔わたしたちは〕あなた〔の蓮池〕の前に到来した者たちとして存するも、〔まさに〕その〔わたしたち〕が、あなたの罠に結縛された者たちとして存するのです。あなたのこの〔言葉〕は、虚偽として語られたのです。

 

148. 虚偽を説くことを尊んで、さらに、悪しき欲求と貪欲を〔尊んで〕、〔天と人の〕二つの境目を超え行って、〔人は〕快ならざるところに再生します(悪趣に再生する)」〔と〕。

 

149. 〔王が言った〕「スムカよ、〔わたしたちは〕違反なくある。また、まさしく、貪欲から、〔あなたたちを〕捕捉したのでもない。『賢者たちである』と〔世に〕聞かれた者たちとして、精緻にして義(道理)に思弁ある者たちとして、〔あなたたちは〕存している。

 

150. まさしく、また、ここに到来した〔あなたたち〕が、義(道理)ある言葉を発するべく、友よ、スムカよ、そのように、山民は言われ、あなたを捕捉したのだ」〔と〕。

 

151. 〔スムカが言った〕「カーシ〔国〕の長よ、生命が〔滅尽に〕導かれたとして、まさしく、〔わたしたちは〕恐怖なくあります。時の末路に等しく至り得たとして、〔わたしたちは〕義(道理)ある言葉を語るのです。

 

152. すなわち、獣によって獣を殺すなら、あるいは、また、鳥によって鳥を〔殺すなら〕、あるいは、所聞によって所聞を買うなら、それよりもより聖ならざることとして、どのようなものがあるというのでしょう。

 

153. さらに、すなわち、聖ならざる法(性質)に依託し、聖なる言葉を語るなら、彼は、〔天と人の〕二つの世から転落します──まさしく、そして、この〔世において〕、さらに、他所においても。

 

154. 盛名に至り得たとして怠るべきではなく、〔生命の〕疑念に至り得たとして悩むべきではなく、まさしく、諸々の為すべきことに努めるべきであり、かつまた、〔自己の〕諸々の欠陥を統御するべきです。

 

155. すなわち、時の末路に等しく至り得た年長者たちとなり、〔この世から〕去って行った者たちは、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、このように、彼らは、三十三〔天〕に赴いたのです。

 

156. カーシ〔国〕の長よ、この〔言葉〕を聞いて、法(正義)を、自己において守りたまえ。そして、ダタラッタを解き放ちたまえ──鵞鳥たちのなかの最も優れた最上なる方を」〔と〕。

 

157. 〔王が言った〕「水を、足に塗る油を、持ってくるのだ──さらに、高価なる坐を。〔わたしは〕籠から解き放つ──ダタラッタを、福徳ある方を。

 

158. さらに、彼を、慧者たる軍団長(スムカ)を、精緻にして義(道理)に思弁ある者を、〔解き放つ〕。彼は、王にたいし、楽なるときは楽なる者として〔有り〕、苦なるときは苦なる者として有る。

 

159. このような者は、まさに、主人の食糧を食するに値する──すなわち、このスムカのように、王のために命を共通のものとする友人は」〔と〕。

 

160. 〔世尊は言った〕「そして、八つの足があり、意が喜びとする、全てが黄金の椅子に、艶やかなカーシ〔産の布〕が敷かれた〔椅子〕に、ダタラッタは近坐した。

 

161. そして、虎〔の毛皮〕が縫い合わされた、全てが黄金の坐席に、ダタラッタの直後に、スムカは進み行った。

 

162. カーシ〔国〕の女たちは、諸々の金の鉢に多々なるものを携えて、彼らのもとに、鵞鳥たちのもとに、至高の王の贈り物を運んできた。

 

163. カーシ〔国〕の王に命じられ、運ばれてきた至高のものを見て、諸々の政治の法(性質)に巧みな智ある〔ダタラッタ〕は、そののち、直後に、〔王に〕尋ねた」〔と〕。

 

164. 〔菩薩は尋ねた〕「はてさて、どうでしょう、貴君には、健やかにあられますか。どうでしょう、貴君には、悩みなくあられますか。どうでしょう、この国土は興隆し、法(正義)によって、〔あなたは〕統治しますか」〔と〕。

 

165. 〔王が答えた〕「鵞鳥よ、まさしく、そして、わたしには、健やかにあります。鵞鳥よ、さらに、悩みなくあります。そこで、この国土は興隆し、法(正義)によって、わたしは統治します」〔と〕。

 

166. 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、貴君の家臣たちにおいては、何であれ、汚点は見出されないですか。どうでしょう、そして、彼らは、あなたに諸々の義(事態)あるとき、〔自らの〕生命に期待なくありますか」〔と〕。

 

167. 〔王が答えた〕「そこで、また、わたしの家臣たちにおいては、何であれ、汚点は見出されません。そこで、また、彼らは、わたしに諸々の義(事態)あるとき、〔自らの〕生命に期待なくあります」〔と〕。

 

168. 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、あなたの妻は、〔あなたに〕似合いの者であり、従順で愛しき話し手として、子供と形姿と福徳を具し、あなたの欲〔の思い〕の支配に従い行く者ですか」〔と〕。

 

169. 〔王が答えた〕「そこで、わたしの妻は、〔わたしに〕似合いの者であり、従順で愛しき話し手として、子供と形姿と福徳を具し、わたしの欲〔の思い〕の支配に従い行く者です」〔と〕。

 

170. 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、国土は、抑圧なく、どこからも禍なくありますか。無理やりではなく、法(正義)によって、正義によって、〔あなたは〕統治しますか」〔と〕。

 

171. 〔王が答えた〕「そこで、国土は、抑圧なく、どこからも禍なくあります。無理やりではなく、法(正義)によって、正義によって、わたしは統治します」〔と〕。

 

172. 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、正しくある者たちは、敬われていますか。正しからざる者たちは、遍く避けられていますか。もしや、法(正義)を無視して、法(正義)ならざるものに随転していませんか」〔と〕。

 

173. 〔王が答えた〕「そして、正しくある者たちは、わたしによって敬われています。正しからざる者たちは、遍く避けられています。まさしく、法(正義)に随転し、法(正義)ならざるものは、わたしによって無視されています」〔と〕。

 

174. 〔菩薩は尋ねた〕「士族よ、どうでしょう、未来を、長きものならずと正しく注視しますか。どうでしょう、酔うべきもの(欲望の対象)に酔わず、他の世を恐れずにありますか」〔と〕。

 

175. 〔王が答えた〕「鳥よ、わたしは、未来を、長きものならずと正しく注視します。十の〔善なる〕法(性質)に安立し、他の世を恐れません。

 

176. 布施が、戒が、遍捨が、正直が、温厚が、苦行が、忿激なき〔思い〕が、そして、悩害なき〔思い〕が、さらにが、忍耐が、反感なき〔思い〕が──

 

177. かくのごとく、これらの〔十の〕善なる法(性質)が、自己において安立しているのを、〔わたしは〕見ます。そののち、わたしに、喜悦が生じます──さらに、少なからざる悦意が。

 

178. しかしながら、スムカは、思弁せずして、粗暴な言葉を捨て放ちました──汚点ある〔心の〕状態を了知せずして、わたしたちに、この鳥は。

 

179. 彼は、忿激し、理ならずに、粗暴な言葉を放ちました。すなわち、わたしたちに、〔諸々の罪過が〕見出されないなら、これは、智慧ある者らしからぬこと」〔と〕。

 

180. 〔スムカが言った〕「人間の君主よ、それが、わたしの錯誤として存するのは、勢いあってのことです。そして、ダタラッタが結縛されたとき、わたしの苦痛は、広大なるものとして有りました。

 

181. あなたは、わたしたちを、父が子供たちを〔許す〕ように、大地が生類たちを〔許す〕ように、王の象たる方よ、〔罪を〕犯したわたしたちを、許したまえ」〔と〕。

 

182. 〔王が言った〕「あなたのこの〔言葉〕を、〔わたしどもは〕随喜します。すなわち、貴君は隠匿しません。鳥よ、〔心の〕鬱積を、〔あなたは〕壊し去っています。鳥よ、〔心が〕真っすぐな者として、〔あなたは〕存しています。

 

183. カーシ〔国〕の王の住居地において、それが何であれ、宝として存するなら、銀を、そして、金を、多くの真珠と瑠璃を──

 

184. さらに、諸々の宝珠を、諸々の真珠貝を、衣を、黄の栴檀を、皮衣を、さらに、象牙の品を、多くの銅と黒の鉄を──この富を、あなたたちに施します。権力を、あなたたちに捨て放ちます」〔と〕。

 

185. 〔菩薩は言った〕「車上の雄牛よ、たしかに、あなたに敬われている者たちとして、かつまた、尊敬されている者たちとして、〔わたしたちは〕存しています。諸々の法(正義)のもとに転起しているわたしたちの師匠として、あなたは〔世に〕有りたまえ。

 

186. 師匠よ、あなたに認められ許されたなら、わたしたちは、敵を調御する者よ、あなたに、右回り〔の礼〕を為して、親族を見るべく〔立ち去ります〕」〔と〕。

 

187. 〔世尊は言った〕「全夜のあいだ思い考えて、真実のとおりに話し合って、カーシ〔国〕の王は、鵞鳥たちのなかの最も優れた最上なる者を許した。

 

188. そののち、夜の明け方に、日の出に向かい、見送っているカーシ〔国〕の王の居所から、彼らは飛び立った。

 

189. 最高の鳥たちが、彼らが、無病の者たちとして到着したのを見て、鵞鳥たちは、『ケーカー』と鳴き、多々なる声が生じた。

 

190. 彼らは、主人に尊重〔の思い〕ある者たちは、主人が解き放たれたので満足し、縁たる者を得た鳥たちは、〔主人を〕遍きにわたり取り囲んだ。

 

191. このように、朋友ある者たちには、義(利益)あるがゆえに、〔彼らの〕全てが、僥倖ある者たちと成る──すなわち、鵞鳥のダタラッタたちが、親族たちの群れへと近しく赴いたように」〔と〕。ということで──

 

 マハーハンサ・ジャータカが、第二となる。

 

21. 1. 3. スダーボージャナ・ジャータカ(甘露の食料・本生物語535)

 

192. 〔コーシヤが言った〕「〔わたしは〕買うことも、まさしく、なく、売ることもまた、ない。さらに、また、わたしには、そして、蓄積も存在しない。極めて難渋の形あるものとして〔苦労の末に得られた〕、この〔得物〕は、まさに、僅かなるもの。パッタ(容積の単位・一パッタは四分の一升)の飯は、これは、二者にとっては十分ならず」〔と〕。

 

193. 〔菩薩は言った〕「少なきなかから、少なきを施すがよい。中なるなかから、中なるを〔施すがよい〕。多きなかから、多きを施すがよい。布施なきは、成り立たず。

 

194. コーシヤよ、それを、あなたに、〔わたしは〕説く。諸々の布施を、〔まずは〕施したまえ。そして、食べたまえ。聖なる道に、〔まずは〕入りたまえ。独りで食べる者は、安楽を得ず」〔と〕。

 

195. 〔月の神のチャンダが言った〕「そして、彼の捧げものは、無駄と成り、さらに、また、〔彼の〕発奮も、無駄と〔成る〕──客が坐ったときに、彼が、食料を、独りで食べるなら。

 

196. コーシヤよ、それを、あなたに、〔わたしは〕説く。諸々の布施を、〔まずは〕施したまえ。そして、食べたまえ。聖なる道に、〔まずは〕入りたまえ。独りで食べる者は、安楽を得ず」〔と〕。

 

197. 〔日の神のスリヤが言った〕「そして、彼の捧げものは、真理と成り、さらに、また、〔彼の〕発奮も、真理と〔成る〕──客が坐ったときに、彼が、食料を、独りで食べないなら。

 

198. コーシヤよ、それを、あなたに、〔わたしは〕説く。諸々の布施を、〔まずは〕施したまえ。そして、食べたまえ。聖なる道に、〔まずは〕入りたまえ。独りで食べる者は、安楽を得ず」〔と〕。

 

199. 〔帝釈天の馭者のマータリが言った〕「そして、池に、人は捧げものをする──さらに、〔水〕多き〔聖なる〕ガヤーにおいて、ドーナ〔の池〕において、ティンバルの渡し場において、流れ激しき大河において。

 

200. そして、彼の捧げものは、現実と成り、そして、彼の発奮は、現実と成る──客が坐ったときに、彼が、食料を、独りで食べないなら。

 

201. コーシヤよ、それを、あなたに、〔わたしは〕説く。諸々の布施を、〔まずは〕施したまえ。そして、食べたまえ。聖なる道に、〔まずは〕入りたまえ。独りで食べる者は、安楽を得ず」〔と〕。

 

202. 〔音楽神のパンチャシカが言った〕「まさに、彼は、結縛を有するものを、長き糸の釣針を、飲む──客が坐ったときに、彼が、食料を、独りで食べるなら。

 

203. コーシヤよ、それを、あなたに、〔わたしは〕説く。諸々の布施を、〔まずは〕施したまえ。そして、食べたまえ。聖なる道に、〔まずは〕入りたまえ。独りで食べる者は、安楽を得ず」〔と〕。

 

204. 〔コーシヤが尋ねた〕「秀逸なる色艶あるは、まさに、これらの婆羅門たちである。そして、何を因として、あなたたちのこの犬は、高下諸々の色艶の輝きに変異するのですか。婆羅門たちよ、どうか、告げ知らせてください。いったい、あなたたちは、どのような方たちなのですか」〔と〕。

 

205. 〔菩薩は答えた〕「ここにやってきた者たちは、そして、チャンダと、さらに、スリヤと、〔その〕両者であり、いっぽう、この者は、天の馭者たるマータリです。わたしは、帝釈〔天〕として、三十三〔天の神々〕たちのインダ(インドラ神)として、〔世に〕存しています。そして、この者は、まさに、『パンチャシカ』と呼ばれます。

 

206. 諸々の手鈴が、そして、諸々の小鼓が、さらに、諸々の太鼓や鼓が、眠りについたこの者(パンチャシカ)を目覚めさせます。そして、目覚めた〔この者〕は愉悦します。

 

207. 彼らが誰であれ、これらの物惜で吝嗇の者たちが、沙門や婆羅門たちを誹謗する者たちとしてあるなら、まさしく、この〔世において〕、肉体としての肉身を捨て置いて、身体の破壊ののち、地獄に行きます。

 

208. 彼らが誰であれ、これらの善き境遇を願い求めている者たちが、自制と分与の法(性質)において安立した者たちとしてあるなら、肉体としての肉身を捨て置いて、身体の破壊ののち、善趣に行きます。

 

209. あなたは、過去の諸生において、わたしたちの親族として存していました。〔まさに〕その〔あなた〕は、物惜〔の思い〕ある者として、〔他者を〕悩ます者として、悪しき法(性質)の者として、〔世に有ります〕。まさしく、あなたの義(利益)のために、ここにやってきた者たちとして、〔わたしたちは〕存しています。悪しき法(性質)の者として、地獄に赴いてはいけません」〔と〕。

 

210. 〔コーシヤが言った〕「まさに、たしかに、あなたたちは、わたしの益を欲する者たちです。すなわち、わたしのために、〔あなたたちは〕正しく教え示します。〔まさに〕その、わたしは、そのとおりに為すでしょう──益を探し求める者たちによって説かれた一切を。

 

211. 〔まさに〕この、わたしは、まさしく、今日、〔物惜を〕止めます。そして、また、わたしは、何であれ、悪しき〔行為〕を為しません。さらに、また、わたしには、何であれ、施すべからざるものは存在しません(一切を施す)。さらに、また、施さずして、水を飲みません。

 

212. そして、このように、一切時に、わたしが施していると、ヴァーサヴァ(帝釈天)よ、これらの財物は滅尽するでしょう。帝釈〔天〕よ、そののち、わたしは、出家するでしょう──限りあるかぎりの諸々の欲望〔の対象〕を捨棄して」〔と〕。

 

213. 〔世尊は言った〕「最上の山にして、優れた岩山たる、ガンダマーダナ〔山〕において、彼女たち(帝釈天の四人の娘)は、優れた天〔の神〕に警護され、歓喜する。そこで、一切の世に至る優れた聖賢(ナーラダ)が、美しく花ひらいた優れた木の枝を携えて、至り来た。

 

214. 三十三〔天の神々〕たちによって、優れた不死の者たちによって、尊敬され慣れ親しまれる、清らかで善き香りの最上の花を──天〔の神々〕たちより他に、あるいは、人間たちによっても、あるいは、魔人たちによっても、得られたことなき、まさに、それに値する、この〔優れた木の枝〕を〔携えて〕。

 

215. そののち、黄金の如き皮膚をした、女人の君主たる四者の女は、立ち上がって、牟尼(ナーラダ)に──そして、アーサーは、さらに、サッダーは、シリーは、それから、ヒリーは、まさしく、ナーラダ婆羅門に──かくのごとく説いた」〔と〕。

 

216. 〔天女たちが言った〕「大いなる牟尼よ、梵(婆羅門)よ、それで、もし、あなたによって〔与える相手が〕指定されたなら、パーリタッチャ〔樹〕のこの花を、わたしたちに与えたまえ。全ての境遇が、あなたに実現せよ。あなたもまた、わたしたちにとって、まさしく、すなわち、ヴァーサヴァ(帝釈天)のような、〔そのような者と〕成りたまえ」〔と〕。

 

217. 〔世尊は言った〕「〔まさに〕その、乞い求めている者たちを正視して、ナーラダは、かくのごとく説き、〔彼女たちに〕争い合いを起こした」〔と〕。〔ナーラダが言った〕「わたしにとって、これら〔の花〕に、義(目的)は存在しない。誰であれ、あなたたちのなかでより勝っている、まさしく、その者が、彼女が、その〔優れた木の枝〕を飾り立てよ」〔と〕。

 

218. 〔天女たちが言った〕「ナーラダよ、あなたは、わたしたちのなかで、まさしく、無上なる者を正視して、〔あなたが〕求める、その者に、彼女に、授与したまえ。ナーラダよ、まさに、わたしたちのなかで、その者に、あなたが与えるなら、わたしたちのなかで、まさしく、彼女は、最勝者と等しく思認された者と成るでしょう」〔と〕。

 

219. 〔ナーラダが言った〕「美しい五体ある者よ、この言葉は、善きにあらず。婆羅門の誰が、争い合いを起こせよう。それで、もし、ここに、最上と最低を、〔あなたたちが〕知らないなら、赴いて、まさしく、生類の君主(帝釈天)に尋ねよ」〔と〕。

 

220. 〔世尊は言った〕「彼女たちは、ナーラダによって最高に動乱させられ、色艶の驕りによって驕慢した者たちとなり、〔争いを〕起こしたのだった。千の眼ある者(帝釈天)の現前に赴いて、生類の君主に尋ねた。『いったい、誰が、より勝っている者なのですか』〔と〕。

 

221. 〔動乱し〕意を傾けている彼女たちを見て、プリンダダ(帝釈天)は、優れた天〔の神〕は、合掌を為し、かくのごとく説いた」〔と〕。〔菩薩は尋ねた〕「美しい五体ある者よ、あなたたちは、まさしく、全ての者たちが、等しく有る。幸いなる者よ、いったい、誰が、このような争いを起こしたのだ」〔と〕。

 

222. 〔天女たちが答えた〕「その方は、ナーラダは、一切の世を歩む大いなる牟尼であり、法(正義)に依って立つ方であり、真理に勤勉なる方であり、彼が、優れた岩山たるガンダマーダナ〔山〕において、わたしたちに説いたのです。『それで、もし、ここに、最上と最低を、〔あなたたちが〕知らないなら、赴いて、まさしく、生類の君主に尋ねよ』」〔と〕。

 

223. 〔菩薩は言った〕「優れた五体ある者よ、彼は、密林を歩む大いなる牟尼(コーシヤ)は、施さずしては、食事を食べない。コーシヤは、〔施す相手を〕弁別して、諸々の布施を施す。まさに、その者に、彼が施すなら、まさしく、その者は、より勝っている者なのだ」〔と〕。

 

224. 〔マータリに、菩薩は言った〕「まさに、すなわち、彼は、南の方角に在する──ガンガー〔川〕の岸辺において、ヒマヴァント(ヒマラヤ)の山麓において。彼は、コーシヤは、飲み物と食料が得難い。天の馭者よ、彼に、甘露〔の食料〕を至り得させよ」〔と〕。

 

225. 〔世尊は言った〕「彼は、マータリは、優れた天〔の神〕に命じられ、千〔の馬〕を設えた車に乗って、まさしく、極めてすみやかに、〔コーシヤの〕庵所へと近しく赴いて、見られることなく、牟尼に、甘露〔の食料〕を与えた」〔と〕。

 

226. 〔コーシヤが尋ねた〕「水と火の捧げもの〔の世話〕に、光の作り手にして世の闇を除去する最上のもの(太陽)に、まさに、奉仕しているわたしのために、一切の生類を超え行って、ヴァーサヴァ(帝釈天)が──いったい、誰が、このように、わたしの〔両の〕手に、どうして、甘露〔の食料〕を置いたのだ。

 

227. 法螺貝の如く白く、無比なる見た目にして、清らかで善き香りがする、愛しき形態の未曾有なるものを、わたしの〔両の〕眼によっては、まちがいなく、過去に見たことがないものを、天神の誰が、わたしの〔両の〕手に、どうして、甘露〔の食料〕を置いたのだ」〔と〕。

 

228. 〔マータリが答えた〕「大いなる聖賢よ、大いなる牟尼よ、わたしは、大いなるインダに命じられ、急ぎ、甘露〔の食料〕を運びました。〔あなたは〕わたしのことを知ります。『天の馭者のマータリである』〔と〕。最上の食事を食べたまえ。遠慮してはいけません。

 

229. そして、〔これを〕食べた、その〔天神〕は、十二の悪しきものを打破します──飢えを、渇きを、不満を、懊悩と疲弊を、そして、忿激と怨恨を、論争と中傷を、さらに、寒さと暑さと倦怠を。これは、最上の味ある〔食事〕です」〔と〕。

 

230. 〔コーシヤが言った〕「マータリよ、〔これを〕食べることは、わたしにとって適確ならず。過去において、『施さずしては、〔食事を食べない〕』と、わたしによって、最上の掟が〔為されたのです〕。さらに、また、一者のための食は、聖者たちに供養されず、そして、分け与えない者は、安楽を見出しません。

 

231. 婦女を殺害する者たちが、さらに、すなわち、これらの密通者たちがいます。朋友を裏切る者たちが、さらに、すなわち、善き掟の者たちを呪詛する者たちがいます。第五の者たちとして物惜〔の思い〕ある者たちがいます。そして、彼らの全てが、最低の者たちです。それゆえに、施さずしては、水さえも摂らないのです。

 

232. まさに、その〔わたし〕は、あるいは、女に、また、あるいは、男に、知者たちによって等しく褒め称えられた布施を施します。信ある者たちは、寛容なる者たちは、この〔世において〕、物惜〔の思い〕を離れた者たちは、まさに、これらの者たちは、清らかにして真なる者たちと等しく思認され、〔世に〕有ります」〔と〕。

 

233. 〔世尊は言った〕「そののち、優れた天〔の神〕に命じられ、思うところの者たちである、黄金の如き皮膚をした四者の少女は、そして、アーサーは、さらに、サッダーは、シリーは、それから、ヒリーは、その庵所に至り着いた──そこにおいては、コーシヤがいる。

 

234. 浄美なる色艶によって祭火の炎のような彼女たちを見て、全てが最高に歓喜した〔コーシヤ〕は、四方それぞれに〔出現した〕四者の少女に、かくのごとく説いた──そして、マータリの面前にて」〔と〕。

 

235. 〔東のシリーに、コーシヤが尋ねた〕「天神よ、誰なのですか。あなたは、〔装いを〕十分に作り為し、明けの明星のように、東の方角に光り輝きます。金の塊を身とする方よ、あなたに尋ねます。わたしに告げ知らせてください。あなたは、どのような天神として存しているのですか」〔と〕。

 

236. 〔シリーが答えた〕「わたしは、人間たちに供養される者、天女のシリー(吉祥)です。常に悪ならざる有情に仕え親しむ者です。甘露〔の食料〕の論争によって、あなたの前に到来した者です。優れた智慧ある方よ、あなたは、わたしに、甘露〔の食料〕を分けてください。

 

237. 大いなる牟尼よ、わたしが、その者に、甘露〔の食料〕を求めるなら、彼は、人として、一切の欲望〔の対象〕によって歓喜します。最上の供犠者たる方よ、わたしのことを、『シリー(吉祥)』と知ってください。優れた智慧ある方よ、あなたは、わたしに、甘露〔の食料〕を分けてください」〔と〕。

 

238. 〔コーシヤが言った〕「技能を〔具し〕、明知と行ないを〔具し〕、覚慧を具し、自らの行為をもって至徳なる人たちが、あなた(吉祥)によって捨棄されたなら、何も得ません。〔まさに〕その、このことは、善きことならず。すなわち、この、あなたによって為されたことは。

 

239. 〔わたしは〕見ます──怠け者で大飯食いの男を、また、極めて悪しき家系の形姿なき人を。シリーよ、あなたに守られた者は、善き生まれの者にもまた〔横柄に〕命じます──財物ある安楽なる者が、奴隷に〔命じる〕ように。

 

240. 〔わたしは〕知ります──彼を、〔まさに〕その、真ならざる者を、区分なき〔あり方〕に慣れ親しむ者を、知者に襲い掛かる迷乱した者を。そのような者は、坐と水に値しません──ましてや、甘露〔の食料〕は〔言うまでもなく〕。去りなさい。わたしにとって、〔あなたは〕好ましからず」〔と〕。

 

241. 〔南のアーサーに、コーシヤが尋ねた〕「誰なのですか──歯は白く、耳飾を装着し、腕輪は彩りあざやかで、艶やかな指輪を保持する〔あなた〕は。みずみずしい色艶〔の衣〕をまとって、火〔の色〕に染まったクサ〔草〕の若枝を飾り付けて、〔あなたは〕美しく輝きます。

 

242. 矢と弓を保持する者によって〔追跡され〕迷走する雌鹿のように、見捨てられた者のように弱々しく、〔あなたは〕見つめます。優しい眼をした方よ、この〔世における〕、あなたの伴侶は、誰なのですか。森や林のなかで独りある者となり、〔あなたは〕恐れないのですか」〔と〕。

 

243. 〔アーサーが答えた〕「コーシヤよ、この〔世における〕、わたしの伴侶は、〔誰も〕存在しません。マサッカサーラ(帝釈天の住居)に発生した天神として、〔わたしは〕存しています。アーサー(願望)であり、甘露〔の食料〕の願望によって、あなたの前に到来した者です。優れた智慧ある方よ、あなたは、わたしに、甘露〔の食料〕を分けてください」〔と〕。

 

244. 〔コーシヤが言った〕「願望によって、財を探し求める商人たちは行きます。〔彼らは〕舟に等しく乗って、海を巡り行きます。さらに、また、或るときは、そこにおいて、彼らは沈みます。財を失い、資金を消失し、〔彼らは〕行きます。

 

245. 願望によって、耕作者たちは、諸々の田畑を耕します。手段を尽くし、諸々の種を蒔きます。災禍によって、あるいは、旱魃によって、そののち、果に至るものを、何であれ見出しません。

 

246. さらに、自己の為す諸々のことを、主人たちにたいし為し、願望を尊んで、安楽を探し求める人たちがいます。彼らは、主人の義(目的)ゆえに、ふたたび破れ去り、何も得ることなく、方々に消え去ります。

 

247. かつまた、穀物を〔捨棄して〕、かつまた、財産を〔捨棄して〕、親族たちを捨棄して、願望によって、天上に卓越の意図ある者たちとなり、安楽を探し求める者たちがいます。たとえ、粗野なる苦行に、長きの間を苦しむも、邪道に登って、悪しき境遇に陥ります。

 

248. これらの願望ある者たちは、難所を説く者たちと等しく思認された者たちです。アーサーよ、甘露〔の食料〕の願望を、自己において取り除きなさい。そのような者は、坐と水に値しません──ましてや、甘露〔の食料〕は〔言うまでもなく〕。去りなさい。わたしにとって、〔あなたは〕好ましからず」〔と〕。

 

249. 〔西のサッダーに、コーシヤが尋ねた〕「福徳ある方よ、ジガンニャという名の呼び名ある方角に向けて、〔あなたは〕福徳によって光り輝いています。金の塊を身とする方よ、あなたに尋ねます。わたしに告げ知らせてください。あなたは、どのような天神として存しているのですか」〔と〕。

 

250. 〔サッダーが答えた〕「わたしは、人間たちに供養される者、天女のサッダー(信仰)です。常に悪ならざる有情に仕え親しむ者です。甘露〔の食料〕の論争によって、あなたの前に到来した者です。優れた智慧ある方よ、あなたは、わたしに、甘露〔の食料〕を分けてください」〔と〕。

 

251. 〔コーシヤが言った〕「布施を、調御を、施捨を、さらに、また、自制を、〔人々は〕持して、まさに、或るときは、信仰によって為します。窃盗を、虚偽を、奸計を、さらに、また、中傷を、あなた(信仰)から堕落した、まさに、或る者たちは、ふたたび為します。

 

252. 男は、妻たちにたいし、同等〔の生まれ〕の者たちとして、戒を成就した者たちとして、また、亭主に掟ある者たちとして、期待ある者となり、良家の婦女たちにたいしてもまた、欲〔の思い〕を取り除いて、水汲みの奴婢にたいする信仰を、ふたたび為します(下女に手をつける)。

 

253. サッダーよ、まさしく、あなたは、他者の妻に慣れ親しむ者です。〔あなたは〕悪を為します。〔あなたは〕善をもまた遠ざけます。そのような者は、坐と水に値しません──ましてや、甘露〔の食料〕は〔言うまでもなく〕。去りなさい。わたしにとって、〔あなたは〕好ましからず」〔と〕。

 

254. 〔北のヒリーに、コーシヤが尋ねた〕「夜が明け、朝日が出たとき、その方は、最上の形姿と色艶ある者に見えます。天神よ、わたしには、〔あなたは〕その喩えのような者に思えます。わたしに告げ知らせてください。あなたは、どのような仙女として存しているのですか。

 

255. 猛暑のさなかのように、火から生じたかのように、黒くあり、風に揺らぎ、赤き花弁の花飾ある方です。誰なのですか、か弱い鹿が眺めているかのように、〔あなたは〕立ちます。まさしく、語ることを探し求めつつも、〔あなたは〕言葉を解き放ちません」〔と〕。

 

256. 〔ヒリーが答えた〕「わたしは、人間たちに供養される者、天女のヒリー(恥)です。常に悪ならざる有情に仕え親しむ者です。甘露〔の食料〕の論争によって、あなたの前に到来した者です。〔まさに〕その、わたしは、たとえ、甘露〔の食料〕でも、乞い求めることができません。婦女にとって、乞い求めることは、形として腰布のようなものなのです(恥ずかしくてできない)」〔と〕。

 

257. 〔コーシヤが言った〕「美しい五体ある方よ、法(真理)によって、正理によって、〔あなたは〕得るでありましょう。まさに、これは、法(真理)です。まさに、甘露〔の食料〕は、乞い求めるものではありません。乞い求めずにいる、〔まさに〕その、あなたを、わたしは、お招きします。甘露〔の食料〕によって、そして、それを、〔あなたが〕求めるなら、それをもまた、あなたに施します。

 

258. 金の塊を身とする方よ、〔まさに〕その、あなたは、わたしによって、今日、自らの庵所に招かれました。まさに、あなたは、わたしによって、一切の味をもって供養されるべき方です。あなたを供養して〔そののち〕、ともに、甘露〔の食料〕を食しましょう」〔と〕。

 

259. 〔世尊は言った〕「彼女は、光輝あるコーシヤに許された。たしかに、ヒリーは、喜ばしき庵所に入った──水があり、聖者に供養される果があり、常に悪ならざる有情が仕え親しむ〔庵所〕に。

 

260. ここにおいて、多くの木々が生い茂り、花ひらいている。諸々のアンバ〔樹〕が、諸々のピヤーラ〔樹〕が、そして、諸々のパナサ〔樹〕が、諸々のキンスカ〔樹〕が、諸々のソーバンジャナ〔樹〕が、諸々のロッダ〔樹〕が、さらに、また、諸々のパドマカ〔樹〕が、さらに、諸々のケーカ〔樹〕が、諸々のバンガ〔樹〕が、諸々のティラカ〔樹〕が、美しく花ひらいている。

 

261. ここにおいて、多く〔の木々〕が、諸々のサーラ〔樹〕が、諸々のカレーリ〔樹〕が、諸々のジャンブ〔樹〕が、諸々のアッサッタ〔樹〕やニグローダ〔樹〕やマドゥカ〔樹〕やヴェータサ〔樹〕が、諸々のウッダーラカ〔樹〕が、諸々のパータリー〔樹〕が、諸々のシンドゥヴァーラカ〔樹〕が、諸々の快意なる香りあるムチャリンダ〔樹〕やケータカ〔樹〕がある。

 

262. 諸々のハレーヌカ〔樹〕が、諸々のヴェールカ〔樹〕が、諸々のケーヌ〔樹〕が、諸々のティンドゥカ〔樹〕が、諸々の粟や野生米が、さらに、また、諸々の支那豆があり、ここにおいて、多く〔の木々〕が、諸々のモーチャ〔樹〕が、諸々の芭蕉が、諸々のサーリ〔米〕が、諸々のパヴィーヒ〔米〕が、さらに、諸々の胡椒が、諸々のタンドゥラ〔米〕がある。

 

263. まさしく、その〔庵所〕の北側には、天然の至福なる蓮池があり、粗野ならず、傾斜なく、善きものにして、悪臭がない。

 

264. そこにおいて、魚たちは、共に喜び、平安にして、多くの食料がある。シング〔魚〕たちが、サヴァンカ〔魚〕たちが、サンクラ〔魚〕たちが、さらに、サタヴァンカ〔魚〕たちが、ローヒタ〔魚〕たちが、せせらぎを行き交うアーリ〔魚〕たちが、パーティーナ〔魚〕たちが、カーカ〔魚〕たちが、〔これらの〕魚たちがいる。

 

265. そこにおいて、鳥たちは、共に喜び、平安にして、多くの食料がある。白鳥たちが、白鷺たちが、さらに、孔雀たちが、さらに、鴛鴦(おしどり)たちが、鶚(みさご)たちが、多くの、彩りあざやかな、郭公たちが、冠毛ある雉たちがいる。

 

266. そこにおいて、多くの、種々なる獣たちの群れが、〔水を〕飲むためにやってくる。獅子たちが、虎たちが、さらに、猪たちが、熊や狼や鬣狗(ハイエナ)たちが──

 

267. 犀たちが、さらに、雄牛たちが、水牛たちが、ローヒタ〔鹿〕たちが、ルル〔鹿〕たちが、さらに、羚羊たちが、さらに、野豚たちが、ガニン〔鹿〕たちが、ニーカ〔鹿〕や豚たちが、ここにおいて、多くの、カダリー鹿たちが、山猫たちが、耳ある兎たちがいる。

 

268. 地や山は、様々な彩りの花々が広がり、鳥たちが鳴きさえずり、鳥たちの群れが慣れ親しむところとなる。

 

269. 彼女は、美しい皮膚ある〔ヒリー〕は、青々とした木々〔の枝〕につかまり、大いなる雨雲に雷光が〔付き従う〕ように、〔コーシヤに〕付き従った。彼女のために、頭をしっかり結び、クサ〔草〕で作られ、清らかで善き香りがする、皮衣に慣れ親しんだ坐席を広げて、〔コーシヤは〕ヒリーに、この〔言葉〕を説いた。『美しい方よ、安楽なるこの坐に坐ってください』〔と〕。

 

270. 坐席に着いた彼女のために、すなわち、〔応対を〕求めている〔ヒリー〕のために、そのとき、コーシヤは、結髪と皮衣を〔身に〕保つ大いなる牟尼は、急ぎ、諸々の新しい葉と共に、水と甘露〔の食料〕を、自ら運んだのだった。

 

271. 彼女は、わが意を得た〔ヒリー〕は、彼に、結髪を〔身に〕保つ〔コーシヤ〕に、〔両の〕手を差し出して、かくのごとく説いた。『さあ、わたしは、今現在、あなたに供養されたのです。梵(婆羅門)よ、勝利ある者として、〔わたしは〕三十三〔天〕に赴きます』〔と〕。

 

272. 彼女は、光輝あるコーシヤに許された者として、栄誉の酔いに酔い、〔言葉を〕発した──千の眼ある者の現前に赴いて。『ヴァーサヴァよ、これが、甘露〔の食料〕です。わたしに、勝利を与えたまえ』〔と〕。

 

273. 帝釈〔天〕もまた、そのとき、まさしく、ただちに、最上の神女を供養した──インダと共に天〔の神々〕たちも。すなわち、彼女が、天〔の神々〕と人間たちに供養される者が、合掌の者となり、新しい坐席に近坐した、〔そのとき〕。

 

274. まさしく、彼に、まさしく、ふたたび、マータリに、千の眼ある者は、三十三〔天の神々〕たちのインダは、指示した。『赴いて、わたしの言葉を、コーシヤに説け。「コーシヤよ、アーサーよりも、さらに、サッダーとシリーよりも、ヒリーが甘露〔の食料〕を得たのは、どのような因によるのか」』〔と〕。

 

275. 〔マータリは〕車を引き出した──美しく浮き漂い(※)、光り輝いている、要塞に等しき、その〔車〕を──ジャンブー川の〔金貨の如き〕轅があり、金に似た〔車〕を──〔装いを〕十分に作り為した、彩りあざやかな黄金に似た〔車〕を。

 

※ テキストには su vatthaṃ とあるが、PTS版により suplavatthaṃ と読む。

 

276. ここにおいて、多くの、黄金の孔雀たちが降下し、象や牛や馬たちが、樫鳥や虎や豹たちがいる。ここにおいて、羚羊たちが、鹿たちが、鳥たちがいる。ここにおいて、戦いに相応しい瑠璃製の獣たちがいる。

 

277. そこにおいて、〔天の神々たちは〕数千の王を運ぶ馬たちを設えた──若き象に等しく、〔装いを〕十分に作り為し、金の網の胸覆いをして、頭飾りをつけ、声は行き渡り、着することなき〔馬〕たちを。

 

278. マータリは、〔まさに〕その、最勝の乗物に乗って、これらの〔十の〕方角に咆哮した。そして、天空を、そして、巌を、そして、密林を、海洋を含む大地を、揺震させた。

 

279. 彼は、まさしく、すみやかに、〔コーシヤの〕庵所へと近しく赴いて、外衣を一つの肩に掛け、合掌を為し、マータリは、多聞にして年長けた教導者に、天の婆羅門に、かくのごとく説いた」〔と〕。

 

280. 〔マータリが尋ねた〕「コーシヤよ、インダの言葉を、こころして聞きたまえ。わたしは、使者です。プリンダダは、あなたに尋ねます。『コーシヤよ、アーサーよりも、さらに、サッダーとシリーよりも、ヒリーが甘露〔の食料〕を得たのは、どのような因によるのか』」〔と〕。

 

281. 〔コーシヤが答えた〕「マータリよ、わたしには、シリー(吉祥)は、暗愚であるかに思えます。天の馭者よ、また、サッダー(信仰)は、常ならざる者です。アーサー(願望)は、わたしによって、まさに、難所を説く者と等しく思認されました。しかしながら、ヒーリー(恥)は、聖なる徳における確立者です。

 

282. そして、すなわち、姓に守られた、これらの少女たちは──かつまた、すなわち、年増の者たちも、かつまた、すなわち、夫を有する女たちも──彼女たちは、男たちにたいする欲〔の思い〕と貪り〔の思い〕が沸き上がったとして、恥〔の思い〕(ヒリー)あるがゆえに、自らの心を、自己みずから防護します。

 

283. 戦場の先頭において矢や槍を受け、敗れ、倒れながら、逃げ去るとして、恥〔の思い〕あるがゆえに、彼らは、生命を捨棄して引き返し、ふたたび、〔戦闘を〕引き受けます──恥〔の思い〕を意とする者たちとして。

 

284. すなわち、海水の衝撃に限度があるように、まさに、この恥〔の思い〕は、悪しき人を防護するものです。彼女を、ヒリーを、一切の世において、聖者に供養される者と、天の馭者よ、あなたは、インダに知らせたまえ」〔と〕。

 

285. 〔マータリが言った〕「コーシヤよ、誰が、あなたに、この見解を授けたのですか。梵〔天〕ですか、大いなるインダですか、さらに、あるいは、パジャーパティですか。まさに、ヒリーは、この者は、天〔の神々〕たちにおいて、最勝者と等しく思認されました。大いなる聖賢よ、〔彼女は〕大いなるインダの娘として生まれました。

 

286. さあ、来たれ、今や、三十三〔天〕へと旅立ちたまえ──わがものである、この車に等しく登って。インダと姓を共にする者よ、そして、インダは、あなたを待っています。まさしく、今日、あなたは、インダとの共住へと入り行きたまえ」〔と〕。

 

287. 〔世尊は言った〕「このように、悪しき行為なき者たちは、清浄となる。そこで、善き行ないある者の果は、消失しない。彼らが誰であれ、甘露の食料を見たなら、彼らは、まさしく、全ての者たちが、インダとの共住に赴いた者たちとなる。

 

288. ウッパラヴァンナーは、ヒリーとして、施主の比丘は、コーシヤとして、〔世に〕存した。アヌルッダは、パンチャシカとして、アーナンダは、マータリとして、〔世に〕存した。

 

289. カッサパ比丘は、スーリヤ(日の神のスリヤ)として、モッガッラーナは、チャンディマー(月の神チャンダ)として、〔世に〕存した。サーリプッタは、ナーラダとして、正覚者は、ヴァーサヴァとして、〔世に〕存した」〔と〕。ということで──

 

 スダーボージャナ・ジャータカが、第三となる。

 

21. 1. 4. クナーラ・ジャータカ(クナーラ・本生物語536)

 

 このように告知され、このように随聞される。一切の薬草を大地が保持し、無数の花や花畑が広がり、象や牛や水牛やルル〔鹿〕や犁牛や斑〔鹿〕や犀や牛耳〔鹿〕や獅子や虎や豹や熊や狼や鬣狗(ハイエナ)やウッダーラ〔鹿〕やカダリー鹿や山猫や兎やカンニカ〔鹿〕が歩み行き、そぞろ行く幼象の集団や大猪や象の族種や象たちの群れが住し、イッサ鹿やサーカ鹿やサラバ鹿やエーニー鹿やヴァータ鹿やパサダ鹿や半人獣や妖精や夜叉や羅刹が慣れ親しみ、若芽や若枝を付け花を持ち先端が花ひらいた無数の木々の群れが広がり、鶚(みさご)や鷓鴣(しゃこ)や鷹や孔雀や杜鵑(ほととぎす)や雉やチェーラーヴァカやビンカーラやカラヴィーカなどの鳥たちの群れが常に鳴きさえずり、黒の塗粉や赤の塗粉や黄の塗粉(硫黄)や朱の塗粉(辰砂)や金や銀や黄金が数百の界域(鉱物資源)として被覆され装飾された地域において、さて、まさに、このような形態の喜ばしき密林において、あまりに極めて彩りあざやかで、あまりに極めて彩りあざやかな羽を覆いとする、クナーラという名の鳥(菩薩)が住している。

 

 さて、まさに、まさしく、そのクナーラ鳥には、三千五百の雌の若鳥が、侍者たちとしてある。そこで、さて、まさに、二者の若鳥は、薪を口に咬んで、そのクナーラ鳥を中央に坐らせて、飛び立つ。「そのクナーラ鳥を、旅の先々の道において、疲れが悩ましてはならない」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕下に、下にと、飛び立つ。「それで、もし、このクナーラ鳥が、坐から落下するなら、わたしたちが、彼を、〔両の〕翼で受け取るのだ」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕上に、上にと、飛び立つ。「そのクナーラ鳥を、熱光が苦しめてはならない」と。

 

 五百と五百の若鳥は、〔その〕両脇に、飛び立つ。「そのクナーラ鳥を、あるいは、寒さが、あるいは、暑さが、あるいは、草が、あるいは、塵が、あるいは、風が、あるいは、露が、近しく触れてはならない」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕前に、前にと、飛び立つ。「そのクナーラ鳥を、あるいは、牛飼いが、あるいは、家畜番が、あるいは、草の運び手が、あるいは、薪の運び手が、あるいは、木こりが、あるいは、薪で、あるいは、小石で、あるいは、手で、あるいは、土塊で、あるいは、棒で、あるいは、刃で、あるいは、諸々の砂礫で、打撃を与えてはならない。このクナーラ鳥が、あるいは、諸々の薮と、あるいは、諸々の蔓と、あるいは、諸々の木と、あるいは、諸々の枝と、あるいは、諸々の柱と、あるいは、諸々の岩と、あるいは、諸々の力ある鳥と、出くわしてはならない」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕後に、後にと、優雅で友誼ある、美妙で甘美なる、諸々の言葉で呼び合いながら、飛び立つ。「このクナーラ鳥が、坐において〔退屈し〕、焦慮してはならない」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕方角に、方角にと、無数の木から様々な種類や品種の果を運び来ながら、飛び立つ。「このクナーラ鳥が、飢えによって、疲弊してはならない」と。

 

 そこで、さて、まさに、それらの若鳥たちは、そのクナーラ鳥を〔運びながら〕、まさしく、林園から林園へと、まさしく、庭園から庭園へと、まさしく、川の渡し場から川の渡し場へと、まさしく、山の頂きから山の頂きへと、まさしく、アンバ林からアンバ林へと、まさしく、ジャンブ林からジャンブ林へと、まさしく、ラブジャ林からラブジャ林へと、まさしく、椰子の通路から椰子の通路へと、まさしく、すみやかに、〔彼の〕喜びを義(目的)として至り行く。

 

 そこで、さて、まさに、クナーラ鳥は、昼のあいだ、それらの若鳥たちに取り囲まれ、このように指弾する。「賎民たちよ、おまえたちは、消えてしまえ。賎民たちよ、盗賊たちよ、質悪く、正しからず、心軽く、為されたことに返礼なく、風のように欲するままに赴く者たちよ、おまえたちは、消え失せろ」と。

 

 さて、まさに、まさしく、その、山の王たるヒマヴァント(ヒマラヤ)の、東の方角の部分において、極めて微細にして極めて精緻なる山を起源とする、諸々の青き流れがある。

 

 青蓮や白蓮や赤蓮やナリナ〔蓮〕やサタパッタ〔蓮〕やソーガンディカ〔蓮〕やマンダーラカ〔蓮〕が立派に成長し、清らかな香りがあり、美しく輝く地域において(※)──

 

※ テキストには māvakappadese とあるが、PTS版により pāvakappadese と読む。

 

 クラヴァカやムチャリンダやケータカやヴェーディサやヴァンジュラやプンナーガやバクラやティラカやピヤカやアサナやサーラやサララやチャンパカやアソーカやナーガの木やティリーティやブジャパッタやロッダやチャンダナの大林において、カーラーガルやパドゥマカやピヤングやデーヴァダールカやチョーチャの茂みにおいて、カクダやクタジャやアンコーラやカッチカーラやカニカーラやカンニカーラやカナヴェーラやコーランダカやコーヴィラーラやキンスカやヨーディカの林やマッリカーや穢れなく罪なきバンディや極めて好ましいバギニマーラが花を付け、ジャーティやスマナや甘い香りのダヌタッカーリやターリーサやタガラやウシーラやコッタやカッチャが広がり、アティムッタカ〔の花〕や満開の蔓草が広がり装飾された地域において、白鳥や水鳥や雁や鴨が鳴き、呪術師や魔術師や沙門や苦行者の衆が住し、優れた天〔の神〕や夜叉や羅刹や魔人や音楽神や妖精や大蛇が渡り行く地域において、さて、まさに、このような形態の喜ばしき密林において、あまりに極めて甘美なる鳴き声の、美麗なる眼の、酔い痴れる眼の、プンナムカという名のまだら郭公が住している。

 

 さて、まさに、まさしく、そのプンナムカまだら郭公には、三千五百の雌の若鳥が侍者たちとしてある。そこで、さて、まさに、二者の若鳥は、薪を口に咬んで、そのプンナムカまだら郭公を中央に坐らせて、飛び立つ。「そのプンナムカまだら郭公を、旅の先々の道において、疲れが悩ましてはならない」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕下に、下にと、飛び立つ。「それで、もし、このプンナムカまだら郭公が、坐から落下するなら、わたしたちが、彼を、〔両の〕翼で受け取るのだ」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕上に、上にと、飛び立つ。「そのプンナムカまだら郭公を、熱光が苦しめてはならない」と。

 

 五百と五百の若鳥は、〔その〕両脇に、飛び立つ。「そのプンナムカまだら郭公を、あるいは、寒さが、あるいは、暑さが、あるいは、草が、あるいは、塵が、あるいは、風が、あるいは、露が、近しく触れてはならない」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕前に、前にと、飛び立つ。「そのプンナムカまだら郭公を、あるいは、牛飼いが、あるいは、家畜番が、あるいは、草の運び手が、あるいは、薪の運び手が、あるいは、木こりが、あるいは、薪で、あるいは、小石で、あるいは、手で、あるいは、土塊で、あるいは、棒で、あるいは、刃で、あるいは、諸々の砂礫で、打撃を与えてはならない。このプンナムカまだら郭公が、あるいは、諸々の薮と、あるいは、諸々の蔓と、あるいは、諸々の木と、あるいは、諸々の枝と、あるいは、諸々の柱と、あるいは、諸々の岩と、あるいは、諸々の力ある鳥と、出くわしてはならない」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕後に、後にと、優雅で友誼ある、美妙で甘美なる、諸々の言葉で呼び合いながら、飛び立つ。「このプンナムカまだら郭公が、坐において〔退屈し〕、焦慮してはならない」と。

 

 五百の若鳥は、〔その〕方角に、方角にと、無数の木から様々な種類や品種の果を運び来ながら、飛び立つ。「このプンナムカまだら郭公が、飢えによって、疲弊してはならない」と。

 

 そこで、さて、まさに、それらの若鳥たちは、そのプンナムカまだら郭公を〔運びながら〕、まさしく、林園から林園へと、まさしく、庭園から庭園へと、まさしく、川の渡し場から川の渡し場へと、まさしく、山の頂きから山の頂きへと、まさしく、アンバ林からアンバ林へと、まさしく、ジャンブ林からジャンブ林へと、まさしく、ラブジャ林からラブジャ林へと、まさしく、椰子の通路から椰子の通路へと、まさしく、すみやかに、〔彼の〕喜びを義(目的)として至り行く。

 

 そこで、さて、まさに、プンナムカまだら郭公は、昼のあいだ、それらの若鳥たちに取り囲まれ、このように賞賛する。「姉妹たちよ、善きかな、善きかな。姉妹たちよ、これは、まさに、あなたたちにとって、良家の娘たちにとって、適切なることである。すなわち、あなたたちが、主人を喜ばせるのは」と。

 

 そこで、さて、まさに、プンナムカまだら郭公は、クナーラ鳥のいるところに、そこへと近づいて行った。まさに、クナーラ鳥の、侍者の若鳥たちは、そのプンナムカまだら郭公が、はるか遠くからやってくるのを見た。見て、プンナムカまだら郭公のいるところに、そこへと近づいて行った。近づいて行って、そのプンナムカまだら郭公に、こう言った。「愛しい方よ、プンナムカよ、このクナーラ鳥は、あまりに極めて粗暴で、あまりに極めて粗暴な言葉の者ですが、まさしく、おそらく、まさに、さすがに、あなたがやってきて、〔わたしたちは〕愛しき言葉を得るでしょう」と。「姉妹たちよ、まさしく、おそらく、まさに」と言って、クナーラ鳥のいるところに、そこへと近づいて行った。近づいて行って、クナーラ鳥と共に〔今回の出会いを〕喜び合って、一方に坐った。一方に坐った、まさに、プンナムカまだら郭公は、そのクナーラ鳥に、こう言った。「友よ、クナーラよ、どうして、あなたは、雌たちが、善き生まれの良家の娘たちが、正しい実践者たちとしてあるのに、誤った実践者として存するのですか(彼女たちに冷たく振る舞うのですか)。友よ、クナーラよ、雌たちが、たとえ、まさに、意に適わない話し手たちであるとして、意に適う話し手として有るべきであり、また、ましてや、意に適う話し手たちであるなら、なおさらのこと」と。

 

 このように言われたとき、クナーラ鳥は、そのプンナムカまだら郭公を、このように指弾した。「友よ、賎しむべき者よ、賎民よ、おまえは、消えてしまえ。友よ、賎しむべき者よ、賎民よ、おまえは、消え失せろ。妻を勝利者とするおまえに、いったい、何ができるというのだ」と。また、そして、このように指弾されたプンナムカまだら郭公は、そののち、すぐに、退去した。

 

 そこで、さて、まさに、プンナムカまだら郭公に、他時にあって、まさしく、長からずして、荒々しい病苦が生起した。血の下痢とともに、激烈で死に至るほどの諸々の〔苦痛の〕感受が転起する。そこで、さて、まさに、プンナムカまだら郭公の、侍者の若鳥たちに、この〔思い〕が有った。「病苦の者として、まさに、このプンナムカまだら郭公はある。まさしく、おそらく、まさに、この病苦から、〔どうして〕出起できるというのだろう」と。独り、伴侶なき者として、〔プンナムカまだら郭公を〕捨棄して、クナーラ鳥のいるところに、そこへと近づいて行った。まさに、クナーラ鳥は、それらの若鳥たちが、はるか遠くからやってくるのを見た。見て、それらの若鳥たちに、こう言った。「賎民たちよ、さてまた、おまえたちの主人は、どこにいるのだ」と。「愛しい方よ、クナーラよ、病苦の者として、まさに、プンナムカまだら郭公はあります。まさしく、おそらく、まさに、その病苦から、〔どうして〕出起できるというのでしょう」と。このように言われたとき、クナーラ鳥は、それらの若鳥たちを、このように指弾した。「賎民たちよ、おまえたちは、消えてしまえ。賎民たちよ、盗賊たちよ、質悪く、正しからず、心が軽佻で、為されたことに返礼なく、風のように欲するままに赴く者たちよ、おまえたちは、消え失せろ」と言って、プンナムカまだら郭公のいるところに、そこへと近づいて行った。近づいて行って、そのプンナムカまだら郭公に、こう言った。「ああ、友よ、プンナムカよ」と。「ああ、友よ、クナーラよ」と。

 

 そこで、さて、まさに、クナーラ鳥は、そのプンナムカまだら郭公を、そして、〔両の〕翼で、さらに、顔の嘴で、遍く収め取って、起き上がらせて、種々なる薬を飲ませた。そこで、さて、まさに、プンナムカまだら郭公の、その病苦は安息した。そこで、さて、まさに、クナーラ鳥は、そのプンナムカまだら郭公が、病から出起したので、病から長からず出起した者に、こう言った。

 

 「友よ、プンナムカよ、わたしは見たのだ──二者の父をもつカンハーを。五者の亭主をもちながら、第六の男に、すなわち、この、不具者の足萎えに、心を結縛している者を」と。また、そして、くわえて、ここにおいて、〔彼の〕言葉が有る。

 

290. 〔菩薩は言った〕「そこで、アッジュナ、ナクラ、ビィーマセーナ、ユディッティラ、さらに、サハデーヴァ王──これらの五者の亭主たち以外に、女は、傴僂の小人と、悪しきを為した(姦淫した)」と。

 

 「友よ、プンナムカよ、わたしは見たのだ──サッチャタパーピーという名の沙門尼を。墓場の中に住しながら、四度目まで食事を遠慮しながら、酒に酔った者と、悪しきを為した。

 

 友よ、プンナムカよ、わたしは見たのだ──カーカヴァティーという名の王妃を。海の中に住しながら、ヴェーナテイヤの妻は、ナタクヴェーラと、悪しきを為した。

 

 友よ、プンナムカよ、わたしは見たのだ──クルンガデーヴィーという名のうぶ毛の美しい〔王妃〕を。エーリカクマーラを愛していながら、チャランガクマーラとダナンテーヴァーシンと、悪しきを為した。

 

 まさに、このように、このことは、わたしによって知られた。ブラフマダッタの母のことを、〔わたしは知る〕。〔彼女は〕コーサラ王を捨棄して、パンチャーラ〔王〕のチャンダと、悪しきを為した」〔と〕。

 

291. 〔菩薩は言った〕「そして、これらの者たちは、さらに、他の者たちも、悪しきを為した。それゆえに、わたしは、婦女たちを、信頼せず、賞賛しないのだ。たとえば、大いなる地上の大地が、〔何によっても〕等しく染まり、いかなるものも止住し、一切と共にあり、震えおののかず、動じないように、そのように、婦女たちはあり、彼女たちを、男は、信頼するべきではない。

 

292. たとえば、猛々しい獣の獅子が、血肉を食料とし、五つの武器をもち、極めて獰猛で、無理やり喰い、他を害することを喜ぶように、そのように、婦女たちはあり、彼女たちを、男は、信頼するべきではない」〔と〕。

 

 「友よ、プンナムカよ、まさに、娼婦にして遊女たちではないか。まさに、これらの者たちではないか、性悪女というものは、殺戮者というものは。すなわち、この、娼婦にして遊女たちである、これらの者たちは」と。

 

 「編髪を為した盗賊のようなものであり、毒入りの酒のようなものであり、言葉上手の商人のようなものであり、イッサー〔鹿〕の角のように転倒し、蛇のように二枚舌で、暗坑のように隠蔽され、断崖のように満たし難く、羅刹のように満足させ難く、夜魔のように一方的に奪い去り、炎のように一切を食物とし、川のように一切を運び去り、風のように欲するままに歩み、ネール(須弥山)のように区別なく為し、毒樹のように常に結果している」と。また、そして、くわえて、ここにおいて、〔彼の〕言葉が有る。

 

293. 〔菩薩は言った〕「盗賊のようなものであり、毒入り〔の酒〕ようなものであり、商人のように法螺吹きで、イッサー〔鹿〕の角のように転倒し、蛇のように二枚舌で──

 

294. 暗坑のように隠蔽され、断崖のように満たし難く、羅刹のように満足させ難く、夜魔のように一方的に奪い去り──

 

295. 炎や川や風のようなものであり、ネールのように等しく至り着き、毒樹のように常に果があり、宝の終極を為す婦女たちは、家にある財物を消失させる」と。

 

 「友よ、プンナムカよ、四つのものがある。すなわち、為すべきことが生じたとき、義(利益)なきことを行なうものと成る、これらの事物であり、それらのものは、他者の家に住ませるべきではない。雄牛であり、乳牛であり、乗物であり、妻である。賢者は、これらの四つの財産を、家から離れて住ませるべきではない」〔と〕。

 

296. 〔菩薩は言った〕「雄牛を、そして、乳牛を、さらに、乗物を、妻を、親族たちの家に住ませるべきではない。乗物なき〔親族〕たちは、車を破壊する。運び過ぎで、雄牛を殺す。搾乳によって、子牛を殺す。妻は、親族の家で汚れる」と。

 

 「友よ、プンナムカよ、六つのものがある。すなわち、為すべきことが生じたとき、義(利益)なきことを行なうものと成る、これらの事物である」〔と〕。

 

297. 〔菩薩は言った〕「弦なき弓、そして、親族の家にいる妻、彼岸の舟、そして、車軸が壊れた乗物、遠くにいる朋友、そして、悪しき道友は、為すべきことが生じたとき、義(利益)なきことを行なうものと成る」と(※)。

 

※ テキストには bhava’’’nti とあるが、PTS版により bhavantīti と読む。

 

 「友よ、プンナムカよ、まさに、八つの状況によって、婦女は、主人を見下す。貧しき者たることによって、病める者たることによって、老いた者たることによって、酒乱の者たることによって、迷乱した者たることによって、放逸の者たることによって、一切の義務に随転することによって、一切の財産を贈与することによって。友よ、プンナムカよ、まさに、これらの八つの状況によって、婦女は、主人を見下す」と。また、そして、くわえて、ここにおいて、〔彼の〕言葉が有る。

 

298. 〔菩薩は言った〕「貧しき者を、さらに、また、病める者を、老いた者を、酒乱の者を、放逸の者を、さらに、迷乱に至り得た者を、一切の義務に〔身を〕捧げる者を、一切の欲望〔の対象〕を与え委ねることで、主人を、〔妻は〕見下す」と。

 

 「友よ、プンナムカよ、まさに、九つの状況によって、婦女は、汚点を運び来る。そして、林園に赴くことを戒とする者と成り、そして、庭園に赴くことを戒とする者と成り、そして、川の渡し場に赴くことを戒とする者と成り、そして、親族の家に赴くことを戒とする者と成り、そして、他者の家に赴くことを戒とする者と成り、そして、鏡や衣装や装飾への専念〔努力〕に専念し戒とする者と成り、そして、酒飲みと成り、そして、眺め見ることを戒とする者と成り、そして、門前に立つ者と成る」と。友よ、プンナムカよ、まさに、これらの九つの状況によって、婦女は、汚点を運び来る」と。また、そして、くわえて、ここにおいて、〔彼の〕言葉が有る。

 

299. 〔菩薩は言った〕「そして、林園〔に赴くこと〕を戒とし、庭園〔に赴くこと〕を〔戒とし〕、川〔に赴くこと〕を〔戒とし〕、親族〔の家に赴くこと〕を〔戒とし〕、他者の家〔に赴くこと〕を〔戒とし〕、鏡や衣装や装飾に専念し、そして、すなわち、酒飲み女となり──

 

300. そして、すなわち、眺め見ることを戒とし、そして、すなわち、門前に立つ者となる。これらの九つの状況によって、婦女たちは、汚点を運び来る」と。

 

 「友よ、プンナムカよ、まさに、四十の状況によって、婦女は、男を魅惑する。屈伸する、屈曲する、ふざける、恥じ入る、爪で爪を打ち叩く、足で足を踏みしめる、薪で地を引っ掻く、幼児を、跳び越す、跳び越させる、遊び戯れる、遊び戯れさせる、くちづけする、くちづけさせる、食べる、食べさせる、与える、乞い求める、ものまねをする、声高に語る、低声に語る、遠離せずして語る、遠離して語る、舞踏によって、歌詠によって、音楽によって、泣き悲しむことによって、ふざけることによって、飾り立てることによって、笑い興じる、見つめる、腰を振る、陰部をもぞもぞさせる、腿を開く、腿を閉じる、乳房を見せる、脇を見せる、臍を見せる、眼を伏せる、眉を上げる、唇を掻く、舌を上げ下げする、衣装を脱ぐ、衣装を着る、頭髪を解く、頭髪を結う。友よ、プンナムカよ、まさに、これらの四十の状況によって、婦女は、男を魅惑する。

 

 友よ、プンナムカよ、まさに、二十五の状況によって、婦女は、汚れていると知られるべき者と成る。主人の外在を褒め称える、外在している者を思い浮かべない、帰還した者を喜ばない、彼の栄誉ならざることを話す、彼の栄誉を話さない、彼の義(利益)なきことを行なう、彼の義(利益)を行なわない、彼の為すべきではないことを為す、彼の為すべきことを為さない、〔着物を〕まとって臥す、背面し横たわる、また、まさに、転々悶々の類の者と成る、喧々囂々の類の者と〔成る〕、長く息する、苦痛を感受する、大小便に間断なく赴く、過ちを習行する、他の男の声を聞いて耳孔を開き傾ける、また、まさに、財物を傾ける者と成る、近所の者たちと親交を為す、また、まさに、足繁く出て行く者と成る、巷を歩み行く者と〔成る〕、また、まさに、姦通者と成る、常に主人にたいし尊重〔の思い〕なく汚れた意と思惟ある者と〔成る〕、間断なく門に立つ、〔両の〕脇を、〔両の〕手足を、〔両の〕乳房を、見せる、方々に赴いて〔男を〕見つめる。友よ、プンナムカよ、まさに、これらの二十五の状況によって、婦女は、汚れていると知られるべき者と成る」と。また、そして、くわえて、ここにおいて、〔彼の〕言葉が有る。

 

301. 〔菩薩は言った〕「彼の外在を褒め称える。彼の外出を憂い悲しまない。帰還した亭主を見て喜ばない。いついかなる時も、主人の栄誉ならざることを語る。これらのものが、汚れている者の特相と成る。

 

302. 自制なく、彼の義(利益)なきことを行なう。そして、為すべきではないことを為し、義(利益)を退失させる。〔着物を〕まとって臥す。背面の者と〔成る〕。これらのものが、汚れている者の特相と成る。

 

303. そして、転々悶々の類の者と成る。喧々囂々の者と〔成る〕。そして、長く息する。苦痛の感受者と〔成る〕。大小便に間断なく赴く。これらのものが、汚れている者の特相と成る。

 

304. 過ちを習行する。為すべきではないことを為す者と〔成る〕。他者が語っている声を傾聴する。そして、財物を傾ける者と〔成る〕。〔男たちと〕親交を為す。これらのものが、汚れている者の特相と成る。

 

305. 苦難とともに得たものを、困難とともに運び込んだ財を、苦痛とともに貯えた富を、消失させる。そして、近所の者たちと親交を為す。これらのものが、汚れている者の特相と成る。

 

306. 足繁く出て行く者と〔成る〕。巷を歩み行く者と〔成る〕。そして、常に主人にたいし汚れた意図ある者と〔成る〕。姦通者と成る。尊重〔の思い〕が離れ去った者と〔成る〕。これらのものが、汚れている者の特相と成る。

 

307. 間断なく門口に立つ。〔両の〕乳房を、そして、〔両の〕脇を、見せている。方々に心が迷走し、〔男を〕見つめる。これらのものが、汚れている者の特相と成る。

 

308. 全ての川は、湾曲しながら赴く。全ての林は、薪で作られている。全ての婦女たちは、安全なところが得られるなら、悪しきを為すであろう。

 

309. それで、もし、あるいは、時節を、あるいは、静所を、得るなら、あるいは、また、そのような安全なところを得るなら、まさしく、全ての婦女たちは、はたして、悪しきを為すであろう。他〔の男〕を得たなら、たとえ、足萎え〔の男〕を相手にしてでも。

 

310. 男たちのために喜びを作り為す女たちにたいし、そして、無数の心ある制御なき〔女〕たちにたいし──たとえ、もし、一切所において、喜悦を作り為さずに存することがないとして──信頼するべきではない。なぜなら、女たちは、〔人の往来する〕渡し場に等しいからである(男の共有物である)。

 

311. カンダリーやキンナラーのばあい、すなわち、まさに、見てのとおりで、全ての婦女たちは、家を喜ばない。妻は、彼を、そのような人間を、捨て去って〔顧みない〕──他の足萎えの男を見て〔そののちは〕。

 

312. そして、バカ〔王〕とバーヴァリカ王は、〔両者ともに〕欲望〔の対象〕に従い行く最たる者(愛欲の者)であるが、〔その両者が共有する〕妻は、〔自己の〕支配に従い行く配下の者(従者)と情交した。あるいは、また、婦女たちが、それより他の誰と姦通せずにいられよう。

 

313. ピンギヤーニーは、一切の世のイッサラ(イーシュヴァラ神・自在神)たるブラフマダッタ王の愛しき妻であるが、〔自己の〕支配に従い行く配下の者と情交した。あるいは、また、彼女も、欲を欲する者として、その〔欲望の対象〕に到達することはなかった。

 

314. 心が軽佻で貪欲の者たちに、恩知らずの裏切り者たちに、婦女たちに、天の有情ならざる〔世の〕男は、信を置くことはできない。

 

315. 彼女たちは、為されたことを覚知せず、為すべきことを〔覚知せ〕ず、母を、父を、あるいは、兄弟を、〔覚知し〕ない。法(正義)を超え行く聖ならざる者たちであり、まさしく、自らの、心の支配に行き着く。

 

316. 愛しく、意に適う、長きに従い住してきた者でさえも、慈しみ〔の思い〕ある命に等しい主人でさえも、諸々の不幸があるときは、さらに、諸々の為すべきことがあるときは、彼を捨棄する。それゆえに、わたしは、婦女たちを信頼しない。

 

317. まさに、婦女たちの心は、猿のようなもの、移りに移り行く木の影のようなもの。動きに動く婦女たちの心臓(心)は、車輪の外輪のように遍く転起する。

 

318. 彼女たちが、〔注意深く〕正視しながら、執取するべき形態ある富を、男に見る、そのときは、諸々の優雅な言葉で、この〔男〕を導く──カンボージャの者たちが、水から生じる〔草〕で、馬を〔誘う〕ように。

 

319. 〔注意深く〕正視しながら、執取するべき形態ある富を、男に見ない、そのときは、遍きにわたり、彼を遍く避ける──〔川を〕超え渡り、川の彼岸に至った者が、筏を〔捨て去る〕ように。

 

320. 粘着物の如き者たちであり、炎のように一切を食物とする者たちであり、激しく流れる川のような変わり身の幻術師たちである。なぜなら、これらの者たちは、愛しき者に〔慣れ親しみ〕、かつまた、愛しからざる者にも慣れ親しむからである。あたかも、舟が、此方の岸辺に〔赴き〕、かつまた、彼方〔の岸辺〕に〔赴く〕ようなもの。

 

321. 彼女たちは、一者のものにあらず、二者のものにあらず、〔市場に〕開かれた店のようなものである(万人共有のものである)。彼が、彼女たちのことを、『わたしのもの』と思うとして、風を、網で捕らえるようなもの。

 

322. あたかも、そして、川のように、さらに、道のように、酒場や集会場や水飲場のように、このように、まさに、世の婦女たちはある(万人共有のものである)。彼女たちに、限度は見出されない。

 

323. これらの者たちは、火に等しく、黒蛇の如くにして、外の草に〔餌を求める〕牛たちのように、優れた者、優れた者に、触れ行く。

 

324. 火に、象に、黒蛇に、即位灌頂した〔王〕に、さらに、全ての女人に──これらの者たちに、人は、〔慎重なる〕判断ののち、親近するがよい。それらの者たちにあっては、まさに、一切の状態が知り難い。

 

325. 最たる色艶の者は、〔慣れ親しむべきに〕あらず。多くの者に欲せられる者は、〔慣れ親しむべきに〕あらず。能ある女人は、慣れ親しむべきにあらず。他者の妻は、〔慣れ親しむべきに〕あらず。財を因とする者は、〔慣れ親しむべきに〕あらず。これらの五者の婦女たちは、慣れ親しむべきにあらず」〔と〕。

 

 そこで、さて、まさに、鷲の王たるアーナンダは、クナーラ鳥〔の言葉〕の、最初と中間と結末を〔的確に〕知って、その限度において、これらの詩偈を語った。

 

326. 〔アーナンダが言った〕「たとえ、もし、財に満ちたこの地を、男が、等しく思い認めた婦女に与えるとして、〔女というものは〕時節を得たなら、彼をもまた軽んじるであろう。彼女たちの支配に、念慮なき者たちの〔支配に〕、赴くべきではない。

 

327. たとえ、もし、奮起する者であり、畏縮なき生活者であり、愛しく、意に適う、若々しい主人であるとして、諸々の不幸があるときは、さらに、諸々の為すべきことがあるときは、彼を捨棄する。それゆえに、わたしは、婦女たちを信頼しない。

 

328. 男は、『〔彼女は〕わたしを求める』と、〔婦女たちを〕信頼するべきではない。『〔彼女は〕わたしの現前にて泣き悲しむ』〔と、婦女たちを〕信頼するべきではない。なぜなら、これらの者たちは、愛しき者に〔慣れ親しみ〕、かつまた、愛しからざる者にも慣れ親しむからである。あたかも、舟が、此方の岸辺に〔赴き〕、かつまた、彼方〔の岸辺〕に〔赴く〕ようなもの。

 

329. 古き枝の敷物を、信頼するべきではない。古き朋友の盗賊を、信頼するべきではない。『わたしの友である』と〔説く〕王を、信頼するべきではない。十者の母たる婦女を、信頼するべきではない。

 

330. 徹底して戒なく、自制なく、喜びを作り為す女たちにたいし、信頼するべきではない。妻が、徹底して愛情に従い行くも、信頼するべきではない。なぜなら、女たちは、〔人の往来する〕渡し場に等しいからである(男の共有物である)。

 

331. 〔婦女たちは、男を〕打ち殺すであろう、断ち切るであろう、断ち切らせもまたするであろう。〔婦女たちは、男の〕喉さえも断ち切って、〔その〕血を飲むであろう。下賎な欲望の者たちにたいし、自制なき者たちにたいし、ガンガーの渡し場の如き者たちにたいし、情愛を為してはならない。

 

332. 彼女たちにとって、虚偽は、真理のようにある。彼女たちにとって、真理は、虚偽のようにある。外の草に〔餌を求める〕牛たちのように、優れた者、優れた者に、触れ行く。

 

333. これらの者たちは、外出によって、色目によって、さらに、微笑によって、〔男を〕誘惑する──さらに、また、だらしなく衣をまとうことによって、さらに、美妙なる口調によって。

 

334. まさに、これらの者たちは、言説ある盗賊たちであり、そして、饒舌の砂糖ある猛獣たちであり、すなわち、人間たちを騙すことであるなら、彼女たちは、何であれ、知らないことはない。

 

335. 正しからざるは、まさに、世の婦女たちである。彼女たちに、限度は見出されない。そして、貪染ある者たちであり、さらに、尊大なる者たちである。あたかも、一切を食糧とする炎のようなもの。

 

336. 婦女たちに、まさに、愛しき者は存在せず、愛しからざる者もまた見出されない。なぜなら、これらの者たちは、愛しき者に〔慣れ親しみ〕、かつまた、愛しからざる者にも慣れ親しむからである。あたかも、舟が、此方の岸辺に〔赴き〕、かつまた、彼方〔の岸辺〕に〔赴く〕ようなもの。

 

337. 婦女たちに、まさに、愛しき者は存在せず、愛しからざる者もまた見出されない。財あるがゆえに、〔誰にでも〕抱きつく。木に依拠する蔓草のようなもの。

 

338. 象番、馬番、牛飼い、チャンダーラ(旃陀羅:賎民・非人)(※)、火葬夫、花を捨てる者(汚物の清掃者)でも、財を有するなら、女たちは落ちて行く。

 

※ テキストには maṇḍalaṃ とあるが、PTS版により caṇḍālaṃ と読む。

 

339. たとえ、良家の子息でも、無一物なら捨棄する。たとえ、屍に等しく同等の者なるも、まさに、財を因として、女たちは従い行き、落ちて行く」〔と〕。

 

 そこで、さて、まさに、天の婆羅門たるナーラダは、鷲の王たるアーナンダ〔の言葉〕の、最初と中間と結末を〔的確に〕知って、その限度において、これらの詩偈を語った。

 

340. 〔ナーラダが言った〕「四つのものがある。これらのものを、〔人々は〕満たさない。それらのことを語っている、わたしの〔言葉を〕聞きたまえ。鳥の長よ、〔すなわち〕海であり、婆羅門であり、王であり、さらに、また、婦女である。

 

341. それらが何であれ、地に依拠する諸々の流れは、海洋に至り行く。それらは、海を満たさない。まさに、不足なるがゆえに、満ち足りず。

 

342. そして、婆羅門は、語り物を第五とするヴェーダ〔聖典〕を学得しても、より一層、また、所聞(学識)を求めるであろう。まさに、不足なるがゆえに、満ち足りず。

 

343. そして、王は、海を含み山を含む一切の地を征圧して占拠しつつも、無限なる宝の蓄積ある他の海を望み求める。まさに、不足なるがゆえに、満ち足りず。

 

344. 一者一者の婦女に、かつまた、勇士たちであり、かつまた、力ある者たちであり、一切の欲望の味を運び来る者たちである、八者八者の亭主たちが存するとして、第九の者にたいし、欲〔の思い〕を作り為すであろう。まさに、不足なるがゆえに、満ち足りず。

 

345. 全ての婦女たちは、炎のように一切を食物とする者たちである。全ての婦女たちは、川のように一切を運び去る者たちである。全ての婦女たちは、諸々の棘からなる枝のような者たちである。全ての婦女たちは、財を因として行き着く。

 

346. そして、男は、網で風を撫でることになり、片手で海洋を汲むことになり、自らの手で音を立てることになる──すなわち、女人たちにたいし、全ての情愛を投げ放つなら。

 

347. 盗賊にして多くの思惑ある〔女〕たちには、彼女たちにあっては、真なるものは極めて得難きもの。婦女たちの情愛は、水のなかの魚の行方のように、了知し難きもの。

 

348. 柔和な会話では十分ならず、川に等しき満ち難さ、彼女たちは、〔悪所に〕沈む。それを見出して、遠く離れ、遍く避けるがよい。

 

349. 誘引する大いなる幻想にして、梵行を動乱させる〔女〕たちは、〔悪所に〕沈む。それを見出して、遠く離れ、遍く避けるがよい。

 

350. あるいは、欲によって、あるいは、財によって、これらの者たちが、彼に仕え親しむなら、火が、燃料を〔焼き尽くす〕ように、すみやかに、彼を焼き尽くす」〔と〕。

 

 そこで、さて、まさに、クナーラ鳥は、天の婆羅門たるナーラダ〔の言葉〕の、最初と中間と結末を〔的確に〕知って、その限度において、これらの詩偈を語った。

 

351. 〔菩薩は言った〕「賢者が、たとえ、鋭利な剣を手にする憤怒の魔物と談じ合うとして、たとえ、烈火の蛇に近づくとして、独りで、独りある女人と談じはしないであろう。

 

352. まさに、女たちは、世〔の人々〕の心を掻き乱すものにして、舞踏や歌詠や口調や微笑を武器とし、気づきを現起せずにいる者を捕縛する──島において、女羅刹たちの群れが、商人たちを〔襲う〕ように。

 

353. 彼女たちに、規律は存在せず、統御は〔存在し〕ない。酒や肉を喜ぶ、自制なき者たちである。彼女たちは、男の資産を飲み尽くす──海洋にいる巨大魚のマカラのように。

 

354. 五つの欲望の属性(五妙欲:色・声・香・味・触)を快楽の境涯とし、〔心が〕高揚し、定まることなく、自制なき者たちである、女人たちは、放逸の者に流れ行く──諸々の川が、海に〔流れ行く〕ように。

 

355. あるいは、欲によって、歓楽によって、あるいは、財によって、女たちが、その男と近しく談じるなら、貪欲と憤怒の殺戮者たちは、彼を、たとえ、火と同等の、そのような者であるも、焼き尽くす。

 

356. 富者と知って、大いなる財ある男と〔知って〕、財を有するがゆえに、自己と共に流れ行き、心が染まった彼を押し包む──森の蔓草や蔦葛が、サーラ〔樹〕を〔覆い包む〕ように。

 

357. 彩りあざやかな幻影の顔をもち、〔装いを〕十分に作り為した、彼女たちは、様々な種類の欲〔の思い〕とともに、〔男に〕近しく至る。女たちは、笑い、高笑する──サンバラ(阿修羅の王)のように、百の幻術を熟知する者たちとして。

 

358. 女たちは、黄金や宝珠や真珠に飾られ、亭主の家々において尊敬され守護されるも、主人に背く(不倫をする)──心臓の間に依拠する〔女〕が、ダーナヴァ(阿修羅)に〔背いた〕ように。

 

359. 多くの人々に尊敬され供養される、まさに、威光ある明眼の男でさえも、女たちの支配に赴いたなら、光り輝かない──ラーフ(阿修羅の一類で日蝕や月蝕を引き起こすとされる)に打ち砕かれた月のように。

 

360. 怒り狂った敵が〔彼の〕敵に、汚れた心の者が〔自らの〕支配に至り来た敵に、為すであろう、その〔災厄〕──それよりも、より一層の災厄に、女たちの支配に赴いた者は、〔女たちの情愛に〕期待ある者は、遭遇する。

 

361. 髪を剃られ爪を断たれ脅迫されたとして、棒と共に足や手で脅迫されたとして、まさしく、下劣なる者に従い行くのが、まさに、女たちなのだ。彼女たちは、喜び楽しむ──蝿たちが、死骸を〔喜ぶ〕ように。

 

362. 彼女たちは、家々に、あるいは、道々の間に、また、あるいは、王都や城市にいる。安楽を義(目的)とする眼ある者は、仕掛けられたナムチ(悪魔)の縄や網を、遍く避けるがよい。

 

363. 善なる苦行の徳を投げ放って、すなわち、諸々の聖ならざる行ないの習行者としてあるなら、諸々の天たることと、地獄を換えることになる──壊れ易い宝珠を〔つかまされた〕商人のように。

 

364. 彼は、この〔世において〕非難され、さらに、他所において〔非難され〕、思慧に劣る者は、自らの行為によって打ち砕かれ、定まることなく落ちては落ち、〔悪所に〕赴く──悪路における怒った驢馬の車のように。

 

365. 彼は、焦熱地獄へと、さらに、鉄の刃のシンバリヴァナ〔地獄〕へと、近しく至る。畜生の胎に住して、餓鬼の王の境域を解き放たない。

 

366. そして、〔天の〕ナンダナ〔林〕(天界の林園)における諸々の天の遊興と喜悦があり、さらに、人間〔の世〕における転輪〔王〕の行ないがあるとして、女人たちは、放逸ある者を滅ぼし、かつまた、彼を悪しき境遇へと行かしめる。

 

367. 諸々の天の遊興と喜悦は、さらに、人間〔の世〕における転輪〔王〕の行ないは、得難きものにあらず──そして、黄金の宮殿を住居とする仙女たちも、〔得難きものにあらず〕──それらの者たちが、女人たちを義(目的)としない者たちとして〔道を〕歩むなら。

 

368. 欲望の界域(欲界)を超え行く境遇である、形態の界域(色界)における状態は、得難きものにあらず──すなわち、貪欲を離れた境域への再生も、〔得難きものにあらず〕──それらの者たちが、女人たちを義(目的)としない者たちとして〔道を〕歩むなら。

 

369. 一切の苦しみを超え行く至福〔の境地〕である、究極にして不動なる無為〔の境地〕(涅槃)は、涅槃に到達した清らかなる者たちによるなら、得難きものにあらず──それらの者たちが、女人たちを義(目的)としない者たちとして〔道を〕歩むなら」〔と〕。

 

370. 〔世尊は言った〕「そのとき、わたしは、クナーラとして、ウダーインは、まだら郭公として、〔世に〕存した。アーナンダは、鷲の王として、そして、サーリプッタは、ナーラダとして、〔世に〕存した。覚者の衆は、〔聖賢の〕衆として、〔世に存した〕。このように、ジャータカを保持しなさい」〔と〕。ということで──

 

 クナーラ・ジャータカが、第四となる。

 

21. 1. 5. マハースタソーマ・ジャータカ(大なるスタソーマ・本生物語537)

 

371. 〔カーラハッティが尋ねた〕「板前よ、おまえは、何ゆえに、このような諸々の極めて凶悪な行為を為すのだ。〔おまえは〕迷乱し、女たちを〔殺害し〕、さらに、男たちを殺害する。肉を因としてなのか、それとも、財産を動機としてなのか」〔と〕。

 

372. 〔板前が答えた〕「自己を因としてにあらず。財産を動機としてにあらず。子や妻のためにあらず。仲間や親族たちのために〔あらず〕。幸甚なる方よ、そして、わたしの主人が、尊貴にして地上の警護者たる方(王)が、彼が、このような肉を喰らうのです」〔と〕。

 

373. 〔カーラハッティが言った〕「それで、もし、おまえが、主人の義(利益)に専念し、諸々の極めて凶悪な行為を為すなら、まさしく、早朝に、宮殿に至り得て、わたしとともに、王の面前において、彼に談じるのだ」〔と〕。

 

374. 〔板前が言った〕「幸甚なる方よ、カーラハッティよ、すなわち、あなたが語るとおり、そのとおりに、わたしは為しましょう。まさしく、早朝に、宮殿に至り得て、あなたとともに、王の面前において、彼に説きましょう」〔と〕。

 

375. 〔世尊は言った〕「そののち、夜の明け方に、日の出に向かい、カーラ(カーラハッティ)は、板前を携えて、王のもとへと近づいて行った。近づいて行って、王に、この言葉を説いた」〔と〕。

 

376. 〔カーラハッティが言った〕「大王よ、本当に、まさに、板前は、あなたに命じられ、女や男たちを殺し、あなたは、〔それらの〕肉を喰らうのですか」〔と〕。

 

377. 〔食人の王が言った〕「カーラよ、まさしく、このように、そのとおり、板前は、わたしに命じられた。わたしの義(利益)を為しているのであり、どうして、この者を誹謗するのだ」〔と〕。

 

378. 〔カーラハッティが言った〕「〔大魚の〕アーナンダは、味を貪り求める者となり、全ての魚を喰って、衆が完全に滅尽したので、自己を喰って死んだのです。

 

379. このように、放逸の者となり、味にたいする尊重〔の思い〕に染まった愚者が、すなわち、未来を覚らないなら、子供たちを砕破して、さらに、親族たちを捨て去り、のたうち回って、まさしく、自己を喰うのです。

 

380. この〔言葉〕を聞いて、あなたの欲〔の思い〕は離れ去りたまえ。王よ、人間の肉を食物としてはいけません。二足者の君主よ、あなたは、魚(アーナンダ)のように、この国土の全部を、空と為してはいけません」〔と〕。

 

381. 〔食人の王が言った〕「名としては、スジャータという名の者がおり、彼には、正嫡たる実子がいる。〔ひとたび味を知った〕ジャンブ〔樹〕の果肉を得ずして、その〔実子〕は死んだのだ──その〔果肉〕の消滅あるときに(他の食料を食べる気にならず餓死した)。

 

382. カーラよ、まさしく、このように、わたしは、最上の味の食物を食べて〔そののち〕、人間の肉を得ずしては、思うに、生命を捨棄するであろう」〔と〕。

 

383. 〔王に、カーラハッティが喩えを示した〕「〔子の婆羅門に、父の婆羅門が言いました〕『学徒よ、形姿麗しき者として、〔おまえは〕存している。安穏なる家に生まれた者として、〔おまえは〕存している。息子よ、おまえは、食物ならざるもの(酒)を食物とすることはできない』〔と〕。

 

384. 〔子の婆羅門が言いました〕『諸々の味のなかの、これは、随一のものです。何ゆえに、あなたは、わたしを妨げるのですか。そこにおいて、〔まさに〕その、わたしは赴くでしょう──すなわち、このようなものを、〔わたしが〕得るところへと。

 

385. 〔まさに〕その、わたしこそは、出て行きましょう。あなたの現前において、住することはないでしょう。婆羅門よ、〔まさに〕その、わたしを見ることで、あなたが喜ばないなら』〔と〕。

 

386. 〔父の婆羅門が言いました〕『学徒よ、たしかに、他にもまた、相続者たる子供たちを、〔わたしたちは〕得るであろう。卑しむべき者よ、おまえは、消え失せろ──すなわち、至り得たおまえのことを、〔もはや〕聞くことなきところへと』〔と〕。

 

387. 王よ、二足者のインダよ、まさしく、このように、あなたはあります。わたしの〔言葉を〕聞きたまえ。〔人々は〕あなたを国土から追放するでしょう。すなわち、〔婆羅門が〕酒飲みの学徒を〔追放した〕ように」〔と〕。

 

388. 〔食人の王が言った〕「名としては、スジャータという名の者がおり、自己を修めた者たちの弟子である。まさしく、仙女を欲しながら、彼は、〔何も〕食べず、彼は、〔何も〕飲まなかった。

 

389. 草の先端で水を汲んで、海の水を量るとして、このように、人間の諸々の欲望はある──天の諸々の欲望の現前においては。

 

390. カーラよ、まさしく、このように、わたしは、最上の味の食物を食べて〔そののち〕、人間の肉を得ずしては、思うに、生命を捨棄するであろう」〔と〕。

 

391. 〔カーラハッティが言った〕「あたかも、また、彼らが、宙を赴くダタラッタの鵞鳥たちが、食ならざるものを食することで、〔彼らの〕全てが滅没に至ったように──

 

392. 王よ、二足者のインダよ、まさしく、このように、あなたはあります。わたしの〔言葉を〕聞きたまえ。王よ、〔あなたは〕食物ならざるものを食物とします。それゆえに、〔人々は〕あなたを追放するでしょう」〔と〕。

 

393. 〔道行く沙門に、国を追放された食人の王が言った〕「『立て(止まれ)』と、わたしは説いたが、〔まさに〕その、あなたは、面前にあり、〔先を〕赴く(立ち止まらない)。梵行者よ、あなたは、立たざる者であるのに(歩いているのに)、〔自分のことを〕『立つ者として存している』と談じる。あなたのこの〔言葉〕は、沙門に相応しからず。そして、わたしの剣を、〔あなたは〕鷺の羽と思いなす」〔と〕。

 

394. 〔沙門が言った〕「王よ、わたしは、諸々の自らの法(正義)において立つ者として存している。名と姓を変じ転ずることはない。そして、盗賊のことを、世において、〔人々は〕立たざる者と説く──ここ(現世)から死滅した、悪所にある者のことを、地獄にある者のことを。

 

395. 王よ、それで、もし、あなたが、信を置くなら、士族よ、スタ(スタソーマ・菩薩)を捕捉しなさい。彼によって、祭祀を執り行なって〔そののち〕、このように、〔あなたは〕天上に赴くであろう(スナソーマを犠牲にして祭祀をすれば天界に再生する)」〔と〕。

 

396. 〔婆羅門に、菩薩は尋ねた〕「いったい、どこの国土に、あなたの生地はあるのですか。そこで、どのような義(目的)によって、ここにおいでになったのですか。婆羅門よ、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください。何を、〔あなたは〕求めるのですか。〔わたしが〕施しましょう──あなたが望み求めるものを、今日」〔と〕。

 

397. 〔婆羅門が答えた〕「大地の大いなるイッサラ(王)よ、極めて深遠なる義(意味)ある、海洋の如く優れた、四つの詩偈があります。まさしく、あなたの義(利益)のために、ここにやってきた者として、〔わたしは〕存しています。最高の義(意味)を伴った〔四つの〕詩偈を聞きたまえ」〔と〕。

 

398. 〔捕捉した菩薩に、食人の王が尋ねた〕「すなわち、多聞にして多くの境位に思弁ある者たちは、智慧を有し思慧ある者たちであり、まさに、〔彼らは〕泣き叫ばない。すなわち、賢者たちが、憂いを除き去る者たちとして〔世に〕有るなら、まさに、このことは、〔世の〕人たちにとって、最高の洲(依り所)となる。

 

399. 自己のことか、親族のことか、もしくは、子や妻のことか、穀物のことか、財産のことか、銀のことか、金のことか、スタソーマ(菩薩)よ、まさしく、何を、おまえは悩み苦しむのだ。クルの子孫の最勝者よ、おまえの、その言葉を聞こう」〔と〕。

 

400. 〔菩薩は答えた〕「わたしが泣き悲しむのは、まさしく、自己のことにあらず、子や妻のことにあらず、財産のことにあらず、国土のことにあらず。しかしながら、正しくある者たちには、過去からのものとして歩まれてきた、法(正義)〔の道〕がある。婆羅門とのその約束のことを、〔わたしは〕悩み苦しむ(四つの詩偈の約束が未履行ゆえに悩み苦しむ)。

 

401. 自らの国土の主権に立つ者(王)として、わたしと婆羅門とで、約束が為されたのだ。その約束〔の施物〕を、婆羅門に施して〔そののち〕、真なる〔言葉〕を守る者として、ふたたび〔ここに〕戻り行くであろう」〔と〕。

 

402. 〔食人の王が尋ねた〕「わたしは、このことに、まさしく、信を置かない。安楽の人となり、死魔の口から解き放たれた者が、朋友ならざる者の手に、ふたたび戻り行くであろうか。クルの子孫の最勝者よ、〔解き放たれたおまえが〕わたしのもとへと近しく至ることは、まさに、ない。

 

403. おまえは、食人鬼の手から解き放たれ、自らの都に赴いて、欲するままに欲する者となる。王よ、甘美にして愛しき生命を得て〔そののち〕、どうして、おまえが、わたしの現前に至るというのだろう」〔と〕。

 

404. 〔菩薩は答えた〕「完全なる清浄の戒ある者は、死を願うであろう。悪しき法(性質)の者として非難され、生命を〔願うことは〕ない。たとえ、それ(生命)を因として、偽りを話すとして、その人を、諸々の悪しき境遇から救うことは、まさに、ない。

 

405. それで、もし、また、風が山をもたらし、かつまた、月も、かつまた、日も、〔両者ともに〕地に落ち、さらに、全ての川が流れに反し逆流するとして、王よ、まさしく、しかし、わたしは、虚偽を話さない。

 

406. 天空が裂け、大洋さえもが干上がり、地を保つ大地が展転し、メール(須弥山)の連山が根ごと舞い上がるとして、王よ、まさしく、しかし、わたしは、虚偽を話さない。

 

407. そして、剣を、さらに、刃を、撫でまわす。友よ、わたしは、あなたに、誓いをもまた為す。あなたから解き放たれた〔わたし〕は、借りなき者と成って〔そののち〕、真なる〔言葉〕を守る者として、ふたたび〔ここに〕戻り行くであろう」〔と〕。

 

408. 〔食人の王が言った〕「自らの国土の主権に立つ者として、おまえと婆羅門とで、約束が為されたのだ。その約束〔の施物〕を、婆羅門に施して〔そののち〕、真なる〔言葉〕を守る者として、ふたたび〔ここに〕戻り行くのだ」〔と〕。

 

409. 〔菩薩は言った〕「自らの国土の主権に立つ者として、わたしと婆羅門とで、約束が為されたのだ。その約束〔の施物〕を、婆羅門に施して〔そののち〕、真なる〔言葉〕を守る者として、ふたたび〔ここに〕戻り行くであろう」〔と〕。

 

410. 〔世尊は言った〕「そして、彼は、食人鬼の手から解き放たれ、〔自らの都に〕赴いて、その婆羅門に、この〔言葉〕を言った」〔と〕。〔菩薩は言った〕「百〔金〕に値する〔四つの〕詩偈をお聞きしましょう。梵(婆羅門)よ、それら〔の詩偈〕が聞かれたなら、わたしの益のために存するでしょう」〔と〕。

 

411. 〔婆羅門が言った〕「スタソーマよ、正しくある者たちとの会合が、一度だけ有るとして、その出会いは、彼を守るが、正しからざる者たちとの多き交際は、さにあらず。

 

412. まさしく、正しくある者たちと、親交するように。正しくある者たちと、親愛を為すように。正しくある者たちの正なる法(教え)を了知して、より勝ることは有るが、より悪しきことは、さにあらず。

 

413. 美しく彩りあざやかな諸々の王車は、まさに、老い朽ちる。さらに、肉体もまた、老に近づく。しかしながら、正しくある者たちの法(教え)は、老に近づかない。正しくある者たちは、まさに、正しくある者たちと、〔不滅の法を、互いが互いに〕知らしめる。

 

414. かつまた、天空は、〔地から〕遠くにあり、かつまた、地は、〔天空から〕遠くにある。海の彼方を、それを、〔人々は〕『遠くにある』〔と〕言う。それよりも、まさに、より遠きものと、〔賢者たちは〕説く──王よ、かつまた、正しくある者たちの法(教え)を、かつまた、正しからざる者たちの〔法を〕」〔と〕。

 

415. 〔菩薩は言った〕「これらの詩偈は、〔それぞれが〕千〔金〕なるものであり、これらの詩偈は、まさに、百〔金〕に値せず。婆羅門よ、あなたは、四千〔金〕を、すみやかに収め取りたまえ」〔と〕。

 

416. 〔菩薩に、父が言った〕「八十〔金〕なら、さらに、九十〔金〕なら、詩偈としては〔有るであろう〕。さらに、また、百〔金〕に値する詩偈も有るであろう。スタソーマよ、まさしく、各自のこととして、知るのだ(自覚せよ)。千〔金〕なるものとして、まさに、どのような詩偈が、〔世に〕存するというのだろう」〔と〕。

 

417. 〔菩薩は言った〕「まさに、わたしは、自己の所聞(学識)の増大を求めます。『正しくある者たちである』と、正なる人士たちは、わたしと親しくするべきです。わたしは、諸々の流れによって〔満ち足りない〕大海のように、父よ、まさに、善語によって満足することはありません。

 

418. 火が草や薪を焼くように、海洋が諸々の川によって満ち足りないように、最勝の王よ、このように、また、それらの賢者たちは、聞いて〔そののち〕、善語によって満足することはありません。

 

419. 人のインダよ、わたしが、自らの奴隷の、義(道理)ある詩偈を聞く、そのときは、まさしく、彼に、恭しく傾聴するでしょう。父よ、諸々の法(教え)にたいする、わたしの満足〔の思い〕は、まさに、存在しません。

 

420. 財と共に、車と共に、腕飾と共に、一切の欲望〔の対象〕を具有した、この国土は、あなたのものです(もはや王権は捨棄した)。どうして、〔あなたは〕欲望〔の対象〕を因として、わたしを誹謗するのですか。わたしは、食人鬼の元に赴きます」〔と〕。

 

421. 〔父が言った〕「象兵たちも、車兵たちも、さらに、歩兵たちも、まさに、これらの者たちは、自己を守るために有る──さらに、すなわち、馬兵たちも、弓の使い手たちも。〔わたしたちは〕軍団を結成し、賊を打ち倒すのだ」〔と〕。

 

422. 〔菩薩は言った〕「食人鬼は、極めて為し難きことを為しました。わたしを、生け捕りにして〔そののち〕、捨て放ったのです。そのような過去の義務ある彼のことを思念しながら、人のインダよ、どうして、わたしが、彼を裏切るというのでしょう」〔と〕。

 

423. 〔世尊は言った〕「彼は、父を敬拝して、さらに、母を〔敬拝して〕、そして、町の者に教示して、さらに、軍隊に〔教示して〕、真なる〔言葉〕を説く者として、真なる〔言葉〕を守る者として、彼は赴いた──すなわち、食人鬼のいるところへと」〔と〕。

 

424. 〔菩薩は言った〕「自らの国土の主権に立つ者として、わたしと婆羅門とで、約束が為されたのだ。その約束〔の施物〕を、婆羅門に施して〔そののち〕、真なる〔言葉〕を守る者として、ふたたび帰り来た者として、〔ここに〕存している。食人鬼よ、祭祀を執り行なうのだ、わたしを喰え」〔と〕。

 

425. 〔食人の王が言った〕「この積み上げられた〔薪〕が、まさしく、煙を有するものとしてある、そのかぎりは、いずれにしろ、わたしの喰いものが失われることはない。煙がなくなるとき、火がまわり、善き加減のものとなる。百〔金〕に値する〔四つの〕詩偈を聞こう」〔と〕。

 

426. 〔菩薩は言った〕「食人鬼よ、おまえは、法(正義)ならざる者として、さらに、国土から落伍した者として、〔世に〕存している──〔汚れた〕腹(食欲)を因として。しかしながら、これらの詩偈は、法(正義)を宣説する。そして、法(正義)が、そして、法(正義)ならざるものが、どこに合致するというのだろう。

 

427. 法(正義)ならざる者に、残忍な者に、常に血を飲む者に、真なる〔言葉〕は存在せず──ましてや、法(正義)は〔言うまでもなく〕。所聞によって、何を為すというのだろう」〔と〕。

 

428. 〔食人の王が尋ねた〕「彼が、肉を因として猟を歩むとして、あるいは、彼が、自己を因として人を殺すとして、彼らは、死してのち、両者ともどもに等しきものと成る。いったい、何ゆえに、おまえは、わたしのことを、法(正義)ならざる者と説くのか」〔と〕。

 

429. 〔菩薩は答えた〕「覚知している士族によって喰うベからざる、五つ五つの食物がある。王よ、〔おまえは〕食物ならざるものを食物とする。それゆえに、おまえは、法(正義)ならざる者なのだ」〔と〕。

 

430. 〔食人の王が言った〕「おまえは、食人鬼の手から解き放たれ、自らの都に赴いて、欲するままに欲する者となるも、朋友ならざる者の手に、ふたたび帰り来た者として、〔ここに〕存している。王よ、政治の法(性質)に巧みな智ある者として、〔おまえは〕存していない」〔と〕。

 

431. 〔菩薩は言った〕「彼らが、政治の法(性質)に巧みな智ある者たちとして〔世に〕有るなら、彼らは、大概のところ、地獄にある者たちと成る。それゆえに、わたしは、政治の法(性質)を捨棄して、真なる〔言葉〕を守る者として、ふたたび帰り来た者として、〔ここに〕存している。食人鬼よ、祭祀を執り行なうのだ、わたしを喰え」〔と〕。

 

432. 〔食人の王が尋ねた〕「宮殿の居住があり、地や牛や馬たちがあり、欲望〔の対象〕としての婦女たちがあり、さらに、カーシ産の栴檀がある。〔その〕一切を、主人たることによって、〔おまえは〕そこにおいて得る。真なる〔言葉〕によって、どのような福利を、〔おまえは〕見るというのか」〔と〕。

 

433. 〔菩薩は答えた〕「およそ、何であれ、これらの味が地に存するとして、それらの味のより美味なるものは、真なる〔言葉〕である。そして、真なる〔言葉〕に依って立つ者たちである、沙門や婆羅門たちは、生と死の彼岸に超え渡る」〔と〕。

 

434. 〔食人の王が尋ねた〕「おまえは、食人鬼の手から解き放たれ、自らの都に赴いて、欲するままに欲する者となるも、朋友ならざる者の手に、ふたたび帰り来た者として、〔ここに〕存している。人のインダよ、まさに、まちがいなく、おまえに、死の恐怖はない。畏縮なき心の者として、真なる〔言葉〕を説く者として、〔おまえは〕存している」〔と〕。

 

435. 〔菩薩は答えた〕「無数なる形態の善き〔功徳〕は、わたしによって作り為された。すなわち、諸々の広大なる祭祀が執り行なわれ、賞賛された。他の世への道は清められた。法(正義)に依って立つ者の誰が、死を恐れるというのだろう。

 

436. 無数なる形態の善き〔功徳〕は、わたしによって作り為された。すなわち、諸々の広大なる祭祀が執り行なわれ、賞賛された。悩み苦しむことなく、他の世に赴くであろう。食人鬼よ、わたしを食する者よ、祭祀を執り行なうのだ。

 

437. そして、父は、さらに、母は、わたしによって奉仕された。法(正義)によって、わたしの主権は賞賛された。他の世への道は清められた。法(正義)に依って立つ者の誰が、死を恐れるというのだろう。

 

438. そして、父は、さらに、母は、わたしによって奉仕された。法(正義)によって、わたしの主権は賞賛された。悩み苦しむことなく、他の世に赴くであろう。食人鬼よ、わたしを食する者よ、祭祀を執り行なうのだ。

 

439. 親族たちにたいし、朋友たちにたいし、諸々の為すことは、わたしによって為された。法(正義)によって、わたしの主権は賞賛された。他の世への道は清められた。法(正義)に依って立つ者の誰が、死を恐れるというのだろう。

 

440. 親族たちにたいし、朋友たちにたいし、諸々の為すことは、わたしによって為された。法(正義)によって、わたしの主権は賞賛された。悩み苦しむことなく、他の世に赴くであろう。食人鬼よ、わたしを食する者よ、祭祀を執り行なうのだ。

 

441. 多くの者たちに、多種に、布施は、わたしによって施された。そして、沙門や婆羅門たちは満足させられた。他の世への道は清められた。法(正義)に依って立つ者の誰が、死を恐れるというのだろう。

 

442. 多くの者たちに、多種に、布施は、わたしによって施された。そして、沙門や婆羅門たちは満足させられた。悩み苦しむことなく、他の世に赴くであろう。食人鬼よ、わたしを食する者よ、祭祀を執り行なうのだ」〔と〕。

 

443. 〔食人の王が言った〕「覚知している人が、毒を食するでしょうか。燃え盛る烈火の毒蛇を〔掴むでしょうか〕。彼が、そのような真なる〔言葉〕を説く者を食するなら、彼の頭もまた、七様に引き裂けるでしょう。

 

444. 法(教え)を聞いて、〔世の〕人たちは、善と悪を識知します。さてまた、〔四つの〕詩偈を聞いて、わたしの意は、法(教え)を喜びます(四つの詩偈を聞かせてください)」〔と〕。

 

445. 〔菩薩は言った〕「大王よ、正しくある者たちとの会合が、一度だけ有るとして、その出会いは、彼を守るが、正しからざる者たちとの多き交際は、さにあらず。

 

446. まさしく、正しくある者たちと、親交するように。正しくある者たちと、親愛を為すように。正しくある者たちの正なる法(教え)を了知して、より勝ることは有るが、より悪しきことは、さにあらず。

 

447. 美しく彩りあざやかな諸々の王車は、まさに、老い朽ちる。さらに、肉体もまた、老に近づく。しかしながら、正しくある者たちの法(教え)は、老に近づかない。正しくある者たちは、まさに、正しくある者たちと、〔不滅の法を、互いが互いに〕知らしめる。

 

448. かつまた、天空は、〔地から〕遠くにあり、かつまた、地は、〔天空から〕遠くにある。海の彼方を、それを、〔人々は〕『遠くにある』〔と〕言う。それよりも、まさに、より遠きものと、〔賢者たちは〕説く──王よ、かつまた、正しくある者たちの法(教え)を、かつまた、正しからざる者たちの〔法を〕」〔と〕。

 

449. 〔食人の王が言った〕「人のインダよ、義(意味)があり、見事な文の、これらの詩偈を〔聞いて〕──あなたの、見事に語られた〔これらの詩偈〕を聞いて──歓嘆の者となり、歓悦の者となり、悦意の者となり、満足した者となり、友よ、四つの願い事を、〔わたしは〕あなたに施します」〔と〕。

 

450. 〔菩薩は言った〕「すなわち、おまえは、自己の死を覚らず、益と益なきことを〔覚らず〕、さらに、堕所と天上を〔覚らない〕。味を貪り求める者であり、悪しき行ないに固着している者である。悪しき法(性質)の者よ、おまえが、どのような願い事を施すというのだろう。

 

451. そして、わたしが、おまえに、『願い事を施したまえ』と説くとして、しかしながら、また、おまえは、施して〔そののち〕取り消すであろう。現に見られるものとしてある、この紛争と論争に、〔あるがままに〕知っている賢者として、誰が、近寄るというのだろう」〔と〕。

 

452. 〔食人の王が言った〕「あるいは、また、それを施して〔そののち〕取り消すなら、人は、その願い事を施すに値しません。友よ、願うのです──動じることなく。たとえ、命を捨て去ってでも、まさしく、施しましょう」〔と〕。

 

453. 〔菩薩は言った〕「聖者の友誼は、聖者と合致する。智慧ある者の〔友誼は〕、智慧ある者と合致する。あなたを、百年のあいだ、無病の者として、〔わたしは〕見たい。これを、〔四つの〕願い事のなかの第一のものとして、〔わたしは〕願う」〔と〕。

 

454. 〔食人の王が言った〕「聖者の友誼は、聖者と合致します。智慧ある者の〔友誼は〕、智慧ある者と合致します。わたしを、百年のあいだ、無病の者として、〔あなたは〕見ます。これを、〔四つの〕願い事のなかの第一のものとして、〔わたしは〕施します」〔と〕。

 

455. 〔菩薩は言った〕「すなわち、ここに、即位灌頂し、命名を為した、地上の警護者たる士族たちがいる。そのような地上の長たる者たちを、〔あなたは〕食さない。これを、〔四つの〕願い事のなかの第二のものとして、〔わたしは〕願う」〔と〕。

 

456. 〔食人の王が言った〕「すなわち、ここに、即位灌頂し、命名を為した、地上の警護者たる士族たちがいます。そのような地上の長たる者たちを、〔わたしは〕食しません。これを、〔四つの〕願い事のなかの第二のものとして、〔わたしは〕施します」〔と〕。

 

457. 〔菩薩は言った〕「あなたに捕捉された、百を超える士族たちは、手の平を串刺しにされ、涙顔で泣き叫んでいる。彼らを、自らの国土に行かせよ。これを、〔四つの〕願い事のなかの第三のものとして、〔わたしは〕願う」〔と〕。

 

458. 〔食人の王が言った〕「わたしに捕捉された、百を超える士族たちは、手の平を串刺しにされ、涙顔で泣き叫んでいます。彼らを、自らの国土に行かせます。これを、〔四つの〕願い事のなかの第三のものとして、〔わたしは〕施します」〔と〕。

 

459. 〔菩薩は言った〕「あなたの国土は分断し、まさに、〔食人の〕恐怖あるがゆえに、多くの人たちは、避難所に逃げ入り、動揺している。王よ、まさに、〔あなたは〕人間の肉を離れよ。これを、〔四つの〕願い事のなかの第四のものとして、〔わたしは〕願う」〔と〕。

 

460. 〔食人の王が言った〕「まさに、たしかに、その食物は、わたしにとって意に適うものであり、まさに、これを因として、林に入ったのです。〔まさに〕その、わたしが、こののち、どうして、断念できるというのでしょう。他のものを、〔四つの〕願い事のなかの第四のものとして、願ってください」〔と〕。

 

461. 〔菩薩は言った〕「人のインダよ、『それは、わたしにとって、まさに、愛しきもの』と、そのような者は、自己を放却して、諸々の愛しきものに慣れ親しむ。自己こそは、より勝るもの、そして、最高にして、より勝るもの。〔自己の〕義(利益)を集めたなら、いずれ、愛しき者たちを得るであろう」〔と〕。

 

462. 〔食人の王が言った〕「わたしにとって、人間の肉が、愛しきものなのです。スタソーマよ、識知してください。〔わたしを〕妨げることは、まさに、それはできません。友よ、他の願い事を願ってください」〔と〕。

 

463. 〔菩薩は言った〕「すなわち、愛しきものの守護者として、まさに、愛しきものに至るも、自己を放却して、諸々の愛しきものに慣れ親しむなら、酒飲みが、毒の混ざった飲み物を飲んで〔苦しむ〕ように、まさしく、それによって、彼は、他所において、苦しみの者と成る。

 

464. しかしながら、彼が、この〔世において〕、〔法を〕究明して、諸々の愛しきものを捨棄して、たとえ、苦難をもってしても、諸々の聖なる法(教え)に慣れ親しむなら、あたかも、苦しんでいる者が、諸々の薬を飲んで〔楽になる〕ように、まさしく、それによって、彼は、他所において、楽しみの者と成る」〔と〕。

 

465. 〔食人の王が言った〕「わたしは、父を捨棄して、さらに、母を〔捨棄して〕、かつまた、意に適う五つの欲望の属性(色・声・香・味・触)を〔捨棄して〕、まさに、これを因として、林に入ったのです。あなたのその願い事を、どのようなわけで、わたしが施すというのでしょう」〔と〕。

 

466. 〔菩薩は言った〕「賢者たちは、二度、言葉を言わない。真なる〔言葉〕による明言ある者たちこそが、正しくある者たちと成る。〔あなたは〕『友よ、願うのです』〔と〕、かくのごとく、わたしに言った。かくのごとく、あなたは説いたが、まさに、〔その言葉は〕あなたに合致せず」〔と〕。

 

467. 〔食人の王が言った〕「多くの、善ならざる利得に、福徳なきことに、名誉なきことに、悪しきことに、悪しき行ないに、〔心の〕汚れに、〔わたしは〕近しく赴きました──人間の肉を〔因と〕為したとき。あなたのその願い事を、どのようなわけで、わたしが施せるというのでしょう」〔と〕。

 

468. 〔菩薩は言った〕「『あるいは、また、それを施して〔そののち〕取り消すなら、人は、その願い事を施すに値しません。友よ、願うのです──動じることなく。たとえ、命を捨て去ってでも、まさしく、施しましょう』〔と、あなたは明言した〕。

 

469. 正しくある者たちは、命を捨て去るも、法(教え)をもまた〔捨て去ることは〕ない。真なる〔言葉〕による明言ある者たちこそが、正しくある者たちと成る。願い事を施して〔そののちは〕、まさしく、すみやかに為したまえ。最勝の善き王よ、これによって、〔安楽を〕成就せよ。

 

470. 手足の無事を因とする者は、財産を捨て去るであろう。生命を守る者は、手足を捨て去るであろう。法(教え)を〔常に〕随念している人は、手足を、財産を、さらに、また、生命を、一切を捨て去るであろう。

 

471. まさに、すなわち、人士たる者が、法(教え)を識知するがゆえに、さらに、すなわち、正しくある者たちが、彼の疑いを取り除くなら、まさに、その〔法〕は、彼にとって、そして、洲(依り所)となり、さらに、行き着く所となる。それによって、智慧ある者は、朋友を失うことがない」〔と〕。

 

472. 〔食人の王が言った〕「まさに、たしかに、その食物は、わたしにとって意に適うものであり、まさに、これを因として、林に入ったのです。しかしながら、それで、もし、この義(意味)を、〔あなたが〕わたしに乞うなら、友よ、この願い事をもまた、あなたに施します。

 

473. そして、〔あなたは〕わたしの師匠として〔世に〕有ります。さらに、わたしの友人として〔世に〕存します。友よ、あなたの言葉をもまた、わたしは為しました。友よ、あなたもまた、わたしの言葉を為してください。両者ともどもに赴いて、〔士族たちを〕解き放ちましょう」〔と〕。

 

474. 〔菩薩は言った〕「そして、〔わたしは〕あなたの師匠として〔世に〕有ります。さらに、あなたの友人として〔世に〕存します。友よ、わたしの言葉をもまた、あなたは為しました。友よ、わたしもまた、あなたの言葉を為しましょう。両者ともどもに赴いて、〔士族たちを〕解き放ちましょう」〔と〕。

 

475. 〔士族たちに、菩薩は言った〕「〔あなたたちは〕足に斑点ある者(食人鬼)によって悩み苦しめられ、手の平を串刺しにされ、涙顔で泣き叫んでいますが、けっして、この王を裏切らないように。わたしの真なる〔言葉〕による明言(申し出)を承諾してください」〔と〕。

 

476. 〔士族たちが言った〕「〔わたしたちは〕足に斑点ある者によって悩み苦しめられ、手の平を串刺しにされ、涙顔で泣き叫んでいますが、けっして、この王を裏切りません。あなたの真なる〔言葉〕による明言を承諾します」〔と〕。

 

477. 〔菩薩は言った〕「あたかも、あるいは、父が、あるいは、また、母が、慈しみ〔の思い〕ある者として、〔子の〕義(利益)を欲し、覚知しているように、まさしく、このように、あなたたちにとって、そして、この王は有れ。そして、あなたたちは、まさに、まさしく、〔彼の〕子であるかのように有れ」〔と〕。

 

478. 〔士族たちが言った〕「あたかも、あるいは、父が、あるいは、また、母が、慈しみ〔の思い〕ある者として、〔子の〕義(利益)を欲し、覚知しているように、まさしく、このように、わたしたちにとって、そして、この王は有れ。わたしたちもまた、まさしく、〔彼の〕子であるかのように有るでしょう」〔と〕。

 

479. 〔食人の王に、菩薩は尋ねた〕「料理人たちによって料理され、上手に調理され、見事に盛り付けされた、四つ足〔の動物の肉〕を、さらに、また、鳥の肉を、インダが甘露〔の食料〕を〔食する〕ように遍く受益して〔そののち〕、〔それを〕捨棄して、〔あなたは〕林のなかで、独り、どのように喜び楽しむのですか。

 

480. それらの士族の女たちは、すらりとして細腰で、〔装いを〕十分に作り為し、〔あなたを〕等しく取り囲んで、〔あなたを〕歓喜させました──諸天において、〔天女たちが〕インダを〔歓喜させる〕ように。〔彼女たちを〕捨棄して、〔あなたは〕林のなかで、独り、どのように喜び楽しむのですか。

 

481. 赤い枕のうえ、豊かな羊毛の布団のなか、浄美なる全ての臥具が備わっている臥所の中央で、安楽に臥して〔そののち〕、〔それを〕捨棄して、〔あなたは〕林のなかで、独り、どのように喜び楽しむのですか。

 

482. 深夜の、手鈴を、銅鑼を、さらに、また、まさに、女だけの楽器を、多くの、そして、美しい歌詠を、さらに、美しい音楽を、〔それらを〕捨棄して、〔あなたは〕林のなかで、独り、どのように喜び楽しむのですか。

 

483. 庭園を伴った沢山の花畑があり、極めて喜ばしきミガージナ〔の庭園〕を具した都を、馬たちと象たちと諸々の車を具した〔都〕を、〔それを〕捨棄して、〔あなたは〕林のなかで、独り、どのように喜び楽しむのですか」〔と〕。

 

484. 〔食人の王が答えた〕「すなわち、黒分(月が欠ける期間)における月が、まさしく、日々に退失するように、王よ、黒分の如きものとして、正しからざる者たちとの会合は有ります。

 

485. そのように、わたしは、最低の俗人である料理人の板前のもとに至り着いて、悪しき行為を為しました。それによって、〔わたしが〕悪しき境遇に赴く、〔まさに、その行為を〕。

 

486. すなわち、白分(月が満ちる期間)における月が、まさしく、日々に増大するように、王よ、白分の如きものとして、正しくある者たちとの会合は有ります。

 

487. そのように、わたしは、あなたのもとに至り着いて──スタソーマよ、識知してください──善き行為を為すでしょう。それによって、〔わたしが〕善き境遇に赴く、〔まさに、その行為を〕。

 

488. 人のインダよ、すなわち、陸において、雨降った水が、時に耐えられず、長き止住なきように、このように、また、正しからざる者たちとの会合は有ります──陸における水のように、時に耐えられないものとして。

 

489. 人のインダよ、人のなかの最勝の勇者よ、すなわち、池において、雨降った水が、長き止住あるように、このように、また、まさに、正しくある者たちとの会合は有ります──池における水のように、長き止住あるものとして。

 

490. 変わらないものとして、正しくある者たちとの会合は有ります。すなわち、また、〔世に〕止住するかぎり、まさしく、そのとおりに有ります。まさに、すみやかに、正しからざる者たちとの会合は滅し去ります。それゆえに、正しくある者たちの法(教え)は、正しからざる者たちから遠く離れているのです」〔と〕。

 

491. 〔菩薩は言った〕「彼が、勝つべきではない者に勝つなら、彼は、王にあらず。彼が、友に勝つなら、彼は、友にあらず。彼女が、亭主を恐怖させるなら、彼女は、妻にあらず。彼らが、老いた者を養わないなら、彼らは、子たちにあらず。

 

492. そこにおいて、正しくある者たちが存在しないなら、それは、集会にあらず。彼らが、法(教え)を話さないなら、彼らは、正しくある者たちにあらず。そして、貪欲を、さらに、憤怒を、迷妄を、〔それらを〕捨棄して、まさしく、法(教え)を話している者たちは、正しくある者たちと成る。

 

493. 賢者が愚者たちと混ざり合い、語らずにいるなら、〔彼のことを、人々が〕知ることはない。しかしながら、不死の境処を説示し語っているなら、〔彼のことを、人々は〕知る。

 

494. 〔彼は〕語るであろう、顕示するであろう、差し出すであろう──聖賢たちの旗である法(教え)を。見事に語られた旗あるのが、聖賢たちである。まさに、法(教え)は、聖賢たちの旗である」〔と〕。ということで──

 

 マハースタソーマ・ジャータカが、第五となる。

 

 八十なるものの集まりは〔以上で〕終了となる。

 

 その〔章〕のための摂頌となる。

 

 〔そこで、詩偈に言う〕「スムカ(小なる鵞鳥)があり、また、そして、大なる優れた鵞鳥があり、さらに、他に、最も優れた甘露の食料なるものがあり、鳥の君主たるクナーラという呼び名あるものを有するものがあり、優れた最上のスタソーマという呼び名を有するもの(大なるスタソーマ)があり、〔それらの五がある〕」と。

 

22. 大なるものの集まり

 

22. 1. ムーガパッカの章

 

22. 1. 1. ムーガパッカ・ジャータカ(唖にして片輪なる者・本生物語538)

 

1.(1) 〔天神が言った〕「賢者たることを、〔人に〕明かしてはいけません。全ての命ある者たちにとって、愚者と思われる者と成りなさい。全ての人が、あなたを軽蔑するのです。このように〔為すなら〕、あなたにとって、義(利益)と成るでしょう」〔と〕。

 

2.(2) 〔菩薩は言った〕「あなたの、その言葉を為しましょう。天神よ、すなわち、〔あなたが〕わたしに話す、〔その言葉を〕。母よ、わたしの義(利益)を欲する者として、〔あなたは〕存しています。天神よ、〔わたしの〕益を欲する者として、〔あなたは〕存しています」〔と〕。

 

3.(3) 〔馭者に、菩薩は言った〕「馭者よ、いったい、どうして、まさしく、急ぎながら、穴を掘るのですか。友よ、〔問いを〕尋ねられた者として、わたしに告げ知らせたまえ。穴で何を為そうとするのですか」〔と〕。

 

4.(4) 〔馭者が言った〕「王に生まれた子(菩薩)は、かつまた、唖者であり、かつまた、片輪であり、心もありません(無応答無反応である)。〔まさに〕その〔わたし〕は、王に厳命された者として存しています。『わたしの子を、林に埋めるのだ』」〔と〕。

 

5.(5) 〔菩薩は言った〕「〔わたしは〕存しています──聾者ではなく、唖者ではなく、片輪ではなく、そして、欠損者ではなく。馭者よ、もし、あなたが、わたしを林に埋めるなら、〔あなたは〕法(正義)ならざることを為すことになります。

 

6.(6) わたしの、〔両の〕腿を、さらに、〔両の〕腕を、見たまえ。そして、わたしの語るところを聞きたまえ。馭者よ、もし、あなたが、わたしを林に埋めるなら、〔あなたは〕法(正義)ならざることを為すことになります」〔と〕。

 

7.(7) 〔馭者が言った〕「いったい、〔あなたは〕天神として存しているのですか、音楽神として〔存しているのですか〕、それとも、プリンダダ(都の破壊者)たる帝釈〔天〕として〔存しているのですか〕。あなたは、あるいは、誰なのですか、あるいは、誰の子なのですか。どのように、わたしどもは、あなたのことを知るべきですか」〔と〕。

 

8.(8) 〔菩薩は言った〕「〔わたしは〕天〔の神〕として存するにあらず、音楽神にあらず、また、プリンダダたる帝釈〔天〕にあらず。わたしは、カーシ〔国〕の王の子であり、その〔わたし〕を、〔あなたは〕穴に埋めるのです。

 

9.(9) あなたが、その〔王〕に正しく依拠して生きるなら、わたしは、その王の子です。馭者よ、もし、あなたが、わたしを林に埋めるなら、〔あなたは〕法(正義)ならざることを為すことになります。

 

10.(10) その木の影に、坐るなら、あるいは、臥すなら、その〔木〕の枝を折るべきではありません。まさに、朋友を裏切る者は、悪しき者です。

 

11.(11) すなわち、木のように、そのように、王はあります。すなわち、枝のように、そのように、わたしはあります。すなわち、影に近しく赴く人のように、馭者よ、このように、あなたは存しています。馭者よ、もし、あなたが、わたしを林に埋めるなら、〔あなたは〕法(正義)ならざることを為すことになります。

 

12.(12) 自らの家から離れて住むも、〔彼は〕沢山の食物ある者として〔世に〕有り、多くの者たちが、彼に依拠して生きます──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

13.(13) その〔地方〕その地方に、諸々の町に、諸々の王都に、〔彼が〕行くなら、〔彼は〕一切所において供養される者と成ります──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

14.(14) 彼を、盗賊たちが打ち負かすことはなく、士族たちが軽んじることはなく、〔彼は〕一切の朋友ならざる者を超え渡ります──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

15.(15) 〔彼は〕忿激〔の思い〕なき者として自らの家に行き、集会場において歓迎され、親族たちのなかの最上者と成ります──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

16.(16) 〔他者を〕尊敬して、〔他者に〕尊敬される者と成ります。〔他者に〕尊重〔の思い〕を有する者は、〔他者に〕尊重される者と成ります。〔彼は〕栄誉と名誉に養われる者と成ります──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

17.(17) 〔他者を〕供養する者は、〔他者の〕供養を得ます。〔他者を〕敬拝する者は、〔他者の〕敬拝を〔得ます〕。盛名に、さらに、名誉に、〔彼は〕至り得ます──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

18.(18) 火が燃え上がるように、天神が光り輝くように、〔彼は〕吉祥から捨棄されざる者と成ります──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

19.(19) 彼に、牛たちは生まれます。田畑に蒔かれた〔種〕は成長します。〔彼は〕諸々の蒔かれた〔種〕の果を食べます──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

20.(20) 洞窟から、あるいは、山から、木から、〔その〕人が落ち、死滅したとして、立脚するものを得ます──彼が、朋友たちを裏切らないなら。

 

21.(21) 成長し根が広がったニグローダ〔樹〕を、風が〔倒さない〕ように、朋友ならざる者たちが、〔彼を〕打ち負かすことはありません──彼が、朋友たちを裏切らないなら」〔と〕。

 

22.(22) 〔馭者が言った〕「王子よ、さあ、〔わたしは〕あなたを連れ戻しましょう──自らの家へと。王権を為したまえ。あなたに、幸せ〔有れ〕。林のなかで、何を為すというのでしょう」〔と〕。

 

23.(23) 〔菩薩は言った〕「わたしにとって、〔まさに〕その、王権は、〔もう〕十分です──親族たちも、あるいは、財産も。馭者よ、わたしにとって、〔まさに〕その、王権は、法(正義)ならざる性行によって得られるのです」〔と〕。

 

24.(24) 〔馭者が言った〕「王子よ、ここから〔家に〕赴き、盛り沢山の贈り物を、わたしに得させたまえ。〔あなたの〕父は、さらに、〔あなたの〕母は、わたしに、〔盛り沢山の贈り物を〕与えるでしょう。王子よ、あなたが〔家に〕赴いたときには。

 

25.(25) そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、彼らもまた、わが意を得た者たちとなり、〔盛り沢山の贈り物を〕与えるでしょう。王子よ、あなたが〔家に〕赴いたときには。

 

26.(26) 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、衛兵たちは、彼らもまた、わが意を得た者たちとなり、〔盛り沢山の贈り物を〕与えるでしょう。王子よ、あなたが〔家に〕赴いたときには。

 

27.(27) 多くの穀物ある地方の者たちは、さらに、町の者たちは、集いあつまり、わたしに、諸々の貢物を与えるでしょう。王子よ、あなたが〔家に〕赴いたときには」〔と〕。

 

28.(28) 〔菩薩は言った〕「父にとっても、さらに、母にとっても、わたしは、捨て去られた者です──国にとっても、さらに、町にとっても、さらに、全ての〔王宮の〕少年たちにとっても。わたしに、自らの家は存在しません。

 

29.(29) わたしは、母から許され、わたしは、父から等しく捨て去られ、独り、林のなかで出家した者であり、諸々の欲望〔の対象〕を望み求めることはありません。

 

30.(30) たとえ、急がずにいるとして、まさしく、果への願い求めは等しく実現します。〔わたしは〕梵行(禁欲清浄行)の円熟者として〔世に〕存しています。馭者よ、このように知りたまえ。

 

31.(31) たとえ、急がずにいるとして、正しき義(道理)は円熟します。〔わたしは〕梵行の円熟者として〔世に〕存しています──離欲者として、何も恐れない者として」〔と〕。

 

32.(32) 〔馭者が尋ねた〕「このように、麗美なる言説ある者として、〔あなたは〕存しています。かつまた、明瞭なる言葉ある者として、〔あなたは〕存しています。何ゆえに、そして、父の、さらに、母の、現前において、そのとき、〔何も〕話さなかったのですか(どうして唖者を装っていたのか)」〔と〕。

 

33.(33) 〔菩薩は答えた〕「わたしは、〔関節が〕結び付いていないがゆえに、片輪なのではありません。耳が効かないがゆえに、聾者なのではありません。わたしは、舌が効かないがゆえに、唖者なのではありません。わたしのことを、唖者と認めてはいけません。

 

34.(34) わたしは、以前の生を思念します。そこにおいて、〔わたしは〕王権を為しました。そこにおいて、王権を為して、過酷なる地獄に至り得ました。

 

35.(35) まさしく、そして、二十年のあいだ、そこにおいて、王権を為し、八万年のあいだ、地獄において、〔わたしは〕煮られました。

 

36.(36) 『〔父と母が〕わたしを王権に灌頂させることがあってはならない』〔と〕、わたしは、その王権に恐怖し、それゆえに、そして、父の、さらに、母の、現前において、そのとき、〔何も〕話さなかったのです(王権から離れるために唖者を装っていた)。

 

37.(37) わたしを膝のうえに坐らせて、父は、〔家臣に〕義(事態)を教示します。『一者を殺せ、縛れ、一者を、灰汁刑に、一者を、串刺しにせよ』〔と〕、かくのごとく、彼に教示します。

 

38.(38) 粗暴に発せられた、それらの言葉を聞いて、わたしは、唖者ならざるに唖者の姿で〔振る舞い〕、片輪ならざるに片輪として等しく思認されたのです。わたしは、自らの糞尿のなかに潜り、坐していたのです。

 

39.(39) かつまた、難きものでもあり、かつまた、僅かなものでもあり、そして、それが、苦しみに束縛されたものであるなら、この生命に至り着いて〔そののち〕、誰が、怨みを作り為すというのでしょう──〔それが〕どのような〔理由〕によるのであれ。

 

40.(40) そして、智慧の利得なきによって、さらに、法(教え)の見なきがゆえに、この生命に至り着いて〔そののち〕、誰が、怨みを作り為すというのでしょう──〔それが〕どのような〔理由〕によるのであれ。

 

41.(41) たとえ、急がずにいるとして、まさしく、果への願い求めは等しく実現します。〔わたしは〕梵行の円熟者として〔世に〕存しています。馭者よ、このように知りたまえ。

 

42.(42) たとえ、急がずにいるとして、正しき義(道理)は円熟します。〔わたしは〕梵行の円熟者として〔世に〕存しています──離欲者として、何も恐れない者として」〔と〕。

 

43.(43) 〔馭者が言った〕「王子よ、わたしもまた、あなたの現前において出家します。わたしを招請されたまえ(わたしに出家を命じてください)。あなたに、幸せ〔有れ〕。出家は、わたしにとって好ましくあります」〔と〕。

 

44.(44) 〔菩薩は言った〕「馭者よ、車を引き渡して、借りなき者として、来たれ。まさに、出家は、借りなき者のためのもの。このことは、聖賢たちによって栄誉とするところ」〔と〕。

 

45.(45) 〔馭者が言った〕「まさしく、その、あなたの言葉を、わたしが為したなら、あなたに、幸せが存せ。まさしく、その、わたしの言葉を、あなたは、乞い求められた者として、為すに値します。

 

46.(46) すなわち、王を連れてくるまで、それまでは、まさしく、ここに居てください。まさしく、たぶん、あなたの父は、〔あなたを〕見て、満足した者として〔存するでしょうし〕、悦意の者として存するでしょう」〔と〕。

 

47.(47) 〔菩薩は言った〕「あなたの、その言葉を為しましょう。馭者よ、すなわち、〔あなたが〕わたしに話す、〔その言葉を〕。わたしもまた、ここにやってきたわたしの父と会うことを欲する者として存しています。

 

48.(48) 友よ、さあ、戻りなさい。親族たちに、〔わたしが〕健やかであることを説くのです。わたしの母と父に、〔わたしに〕言われた者として、〔わたしからの〕敬拝〔の言葉〕を説くのです」〔と〕。

 

49.(49) 〔世尊は言った〕「彼の、諸々の句を収め取って、そして、彼に、右回り〔の礼〕を為して、馭者は、車に乗って、王の門へと近しく赴いた。

 

50.(50) 母は、空の車を見て、独りでやってきた馭者を〔見て〕、涙に満ちた〔両の〕眼で、泣き叫びながら、彼を見つめた」〔と〕。

 

51.(51) 〔王妃が言った〕「この者が、彼が、馭者が、至り来る──わたしの実子を打ち殺して。まちがいなく、わたしの子は打ち殺された──地の主(王)ゆえに、地を増大させる者(死骸)となり。

 

52.(52) 朋友ならざる者たちは、まちがいなく、喜び楽しむ──怨みある者たちは、まちがいなく、満足した者たちとなる──わたしの実子を打ち殺して、やってきた馭者を見て」〔と〕。

 

53.(53) 〔世尊は言った〕「母は、空の車を見て、独りでやってきた馭者を〔見て〕、涙に満ちた〔両の〕眼で、泣き叫びながら、彼に遍く問い尋ねた」〔と〕。

 

54.(54) 〔王妃が尋ねた〕「はてさて、どうでしょう、唖者のままでしたか、はてさて、どうでしょう、片輪のままでしたか、はてさて、どうでしょう、そのとき、彼は、泣き喚きましたか──地において打ち殺されながら。馭者よ、それを、わたしに告げ知らせよ。

 

55.(55) どのように、〔両の〕手で、〔両の〕足で、唖者にして片輪なる者は、〔死ぬのを〕嫌がりましたか──地において打ち殺されながら。馭者よ、それを、わたしに告げ知らせよ」〔と〕。

 

56.(56) 〔馭者が言った〕「貴婦よ、わたしに、〔あなたが〕恐怖なき〔平安〕を与えるなら、わたしは、あなたに告げ知らせましょう──すなわち、わたしが、王子の現前において、あるいは、聞いたことを、あるいは、見たことを」〔と〕。

 

57.(57) 〔王妃が言った〕「友よ、あなたに、〔わたしは〕恐怖なき〔平安〕を与えましょう。馭者よ、恐れることなく、話しなさい──すなわち、あなたが、王子の現前において、あるいは、聞いたことを、あるいは、見たことを」〔と〕。

 

58.(58) 〔馭者が答えた〕「彼は、唖者ではなく、片輪ではありません。そして、彼は、明瞭なる言葉ある方です。彼は、まさに、王権に恐怖し、多くの〔不具の〕振りを為したのです。

 

59.(59) 彼は、以前の生を思念します。そこにおいて、〔彼は〕王権を為しました。そこにおいて、王権を為して、過酷なる地獄に至り得ました。

 

60.(60) まさしく、そして、二十年のあいだ、そこにおいて、王権を為し、八万年のあいだ、地獄において、彼は煮られました。

 

61.(61) 『〔父と母が〕わたしを王権に灌頂させることがあってはならない』〔と〕、彼は、その王権に恐怖し、それゆえに、そして、父の、さらに、母の、現前において、そのとき、〔何も〕話さなかったのです。

 

62.(62) 手足と肢体を成就した方であり、高さと広さある方であり、明瞭なる言葉ある方であり、智慧ある方であり、天上への道に立っておられます。

 

63.(63) あなたの実子である王子と会うことを欲する者として、それで、もし、あなたが存するなら、来てください、〔わたしは〕あなたを至り得させます──すなわち、テーミヤ(菩薩)が在するところに」〔と〕。

 

64.(64) 〔王が言った〕「馬たちを、車に設えよ。象たちに、飾紐を結べ。諸々の法螺貝と小鼓を鳴らせ。諸々の片太鼓を奏せ。

 

65.(65) 諸々の備え付けの太鼓を奏せ。諸々の麗美なる鼓を奏せ。そして、町の者たちは、わたしに従え。子に語り知らせる者として、〔わたしは〕赴くのだ。

 

66.(66) そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、すみやかに、諸々の乗物を設えよ。子に語り知らせる者として、〔わたしは〕赴くのだ。

 

67.(67) 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、すみやかに、諸々の乗物を設えよ。子に語り知らせる者として、〔わたしは〕赴くのだ。

 

68.(68) 集いあつまった地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、すみやかに、諸々の乗物を設えよ。子に語り知らせる者として、〔わたしは〕赴くのだ」〔と〕。

 

69.(69) 〔世尊は言った〕「そして、馭者たちは、俊速の運び手たるシンダヴァ(シンドゥ産の良馬)の馬たちを設え、王の門へと近しく赴いた。〔馭者たちが言った〕『陛下よ、これらの馬たちが設えられました』〔と〕。

 

70.(70) 粗雑なる〔馬〕たちは、速さ〔の観点〕によって退けられ、痩せている〔馬〕たちは、強さ〔の観点〕よって退けられ、痩せている〔馬〕たちと粗雑なる〔馬〕たちを避けて、〔優れた〕馬たちが集結し、設えられた。

 

71.(71) そののち、王は、急ぎつつ、〔馬たちを〕設えた車に乗って、宮女たちに言い渡した。『まさしく、全ての者たちが、わたしに従い行け』〔と〕。

 

72.(72) 毛扇を、王冠を、剣を、さらに、白の傘蓋を、〔それらを〕備品とし、諸々の黄金によって〔装いを〕十分に作り為した者たちは、車に乗って──

 

73.(73) そののち、その王は、馭者を前にして出発した。まさしく、すみやかに、〔彼は〕近しく赴いた──すなわち、テーミヤが在するところに。

 

74.(74) そして、彼がやってくるのを見て──威光によって燃え盛っているかのような、王臣たちの群れに取り囲まれた〔王〕を〔見て〕──テーミヤは、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。

 

75.(75) 〔菩薩は尋ねた〕「父よ、はてさて、どうでしょう、健やかにあられますか。父よ、どうでしょう、悩みなくあられますか。そして、全ての王女たちは、わたしの母は、無病であられますか」〔と〕。

 

76.(76) 〔王が答えた〕「子よ、わたしには、まさしく、そして、健やかにある。子よ、さらに、悩みなくある。そして、全ての王女たちは、おまえの母は、無病である」〔と〕。

 

77.(77) 〔菩薩は尋ねた〕「父よ、どうでしょう、酒を飲まずにあられますか。どうでしょう、あなたにとって、穀物酒は、愛しからざるものとしてありますか。どうでしょう、あなたの意は、布施を喜びますか──そして、真理を、さらに、法(教え)を」〔と〕。

 

78.(78) 〔王が答えた〕「子よ、わたしは、酒を飲まずにいる。そこで、わたしにとって、穀物酒は、愛しからざるものとしてある。そこで、わたしの意は、布施を喜ぶ──そして、真理を、さらに、法(教え)を」〔と〕。

 

79.(79) 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、あなたの車馬は無病ですか。どうでしょう、車両は運行していますか。どうでしょう、あなたに、諸々の病は存在しませんか。肉体に、諸々の悩苦は〔存在しませんか〕」〔と〕。

 

80.(80) 〔王が答えた〕「そこで、わたしの車馬は無病である。そこで、車両は運行している。そこで、わたしに、諸々の病は存在しない。肉体に、諸々の悩苦は〔存在しない〕」〔と〕。

 

81.(81) 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、あなた〔の国土〕の、そして、辺境の者たちは栄えていますか。あなた〔の国土〕の、さらに、中央においても賑わっていますか。どうでしょう、あなたの、そして、貯蔵庫は、さらに、蔵は、満杯になっていますか」〔と〕。

 

82. 〔王が答えた〕「そこで、わたし〔の国土〕の、そして、辺境の者たちは栄えている。わたし〔の国土〕の、さらに、中央においても賑わっている。わたしの、そして、貯蔵庫は、さらに、蔵は、全てが満杯になっている」〔と〕。

 

83.(82) 〔菩薩は言った〕「大王よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。〔王臣たちは〕椅子を据え付けよ──すなわち、王が坐るであろうところに。

 

84.(83) まさしく、ここに、あなたのために定められた葉の敷物のうえに坐りたまえ。ここから水を汲んで、あなたの〔両の〕足を洗いたまえ。

 

85.(84) 王よ、わたしの、この、塩気なき葉の料理をもまた、大王よ、遍く受益されよ。ここにやってきた〔あなた〕は、わたしの客として存しています」〔と〕。

 

86.(85) 〔王が言った〕「さてまた、わたしは、葉を食べない。まさに、これは、わたしにとって、食料にあらず。諸々の米の飯を、肉汁を注いだ上等の〔食事〕を、〔わたしは〕食べるのだ」〔と〕。

 

87.(86) 〔王が尋ねた〕「わたしには、稀有であるかに思える。独りある者となり、さらに、静所に赴いたとは。このようなものを食べている者たちの色艶が、何によって清まるというのだろう」〔と〕。

 

88.(87) 〔菩薩は答えた〕「王よ、〔わたしは〕独り、定められた葉の敷物のうえに横たわります。王よ、その独臥によって、わたしの色艶は清まります。

 

89.(88) そして、刀を結び縛る者たちが、王を守護する者たちが、わたしに奉仕することはありません。王よ、その楽臥によって、わたしの色艶は清まります。

 

90.(89) 〔わたしは〕過去を憂い悲しまず、未来を渇望しません。現在あるものによって、〔身を〕保ち行きます。それによって、〔わたしの〕色艶は清まります。

 

91.(90) 未来を渇望することから、過去を憂い悲しむことから、これによって、愚者たちは干上がります──刈り取られた緑の葦のように」〔と〕。

 

92.(91) 〔王が言った〕「象〔兵〕の軍隊を、車〔兵〕の軍隊を、馬〔兵〕たちを、さらに、武装した歩〔兵〕たちを、諸々の喜ばしき住居地を、子よ、わたしは、おまえに与えよう。

 

93.(92) 全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた宮女をもまた、おまえに与えよう。子よ、それら〔の道〕を行くのだ。おまえは、わたしたちの王と成るであろう。

 

94.(93) 舞踏や歌詠に巧みで手練の者たちである四者の婦女たちが、おまえを欲望のうちに喜び楽しませるであろう。〔おまえは〕林のなかで、何を為すというのだ。

 

95.(94) 敵の王たちから、〔装いを〕十分に作り為した少女たちを、おまえのために連れてこよう。彼女たちに、子たちを生ませて、そこで、そのあとに出家するのだ。

 

96.(95) かつまた、若くある者として、かつまた、年少の者として、〔おまえは〕存している──〔人生の〕最初を生きる若者として。王権を為せ。おまえに、幸せ〔有れ〕。〔おまえは〕林のなかで、何を為すというのだ」〔と〕。

 

97.(96) 〔菩薩は言った〕「若くある者が、梵行を歩むべきです。若くある者が、梵行者として存するべきです。まさに、出家は、年少の者のためのもの。このことは、聖賢たちによって栄誉とするところ。

 

98.(97) 若くある者が、梵行を歩むべきです。若くある者が、梵行者として存するべきです。〔わたしは〕梵行を歩みます。わたしは、王権に義(目的)ある者ではありません。

 

99.(98) まさに、わたしは見ます──『母よ』『父よ』〔と〕言っている年少の者が、苦難をもって得た愛しき子でありながら、まさしく、老に至り得ずして死んだのを。

 

100.(99) まさに、わたしは見ます──典雅なる見た目ある年少の少女が、破損した若き筍のように、生命の滅尽あるのを。

 

101.(100) まさに、年少なるもまた、〔人間たちは〕死にます──そして、男たちも、さらに、女たちも。そこにおいて、人として、誰が、信頼するというのでしょう──『〔わたしは〕年少の者として存している』と、生命にたいし。

 

102.(101) その夜の明け方には、寿命は、より少なきものとして存するでしょう。水少なきところの魚たちにとってのように、いったい、どのような若々しさが、そこにあるというのでしょう。

 

103.(102) 世〔の人々〕は、常に悩み苦しめられ、かつまた、常に取り囲まれています。諸々の無駄ならざるものが行きつつあるのに、どうして、〔あなたは〕わたしを王権に灌頂させるのですか」〔と〕。

 

104.(103) 〔王が尋ねた〕「世〔の人々〕は、何によって悩み苦しめられ、かつまた、何によって取り囲まれているのだ。どのようなものが、諸々の無駄ならざるものとして去り行くのだ。〔問いを〕尋ねられた者として、それを、わたしに告げ知らせよ」〔と〕。

 

105.(104) 〔菩薩は答えた〕「世〔の人々〕は、死魔によって悩み苦しめられ、老によって取り囲まれています。諸々の夜が、諸々の無駄ならざるものとして去り行きます。士族よ、このように知りたまえ。

 

106.(105) あたかも、また、紐が広げられたとして、まさしく、その〔紐〕その〔紐〕が織られるなら、少なきものと成り、滅し去るべきものとしてあるように、このように、死すべき者(人間)たちの生命はあります。

 

107.(106) あたかも、満ち溢れる水流が、〔下流に〕赴きながら、〔上流に〕戻らないように、このように、人間たちの寿命は、〔老と死に〕赴きつつあり、戻ることはありません。

 

108.(107) あたかも、満ち溢れる水流が、岸辺に生える木々を運び去るように、このように、老と死によって、全ての命ある者たちは運び去られます」〔と〕。

 

109.(108) 〔王が言った〕「象〔兵〕の軍隊を、車〔兵〕の軍隊を、馬〔兵〕たちを、さらに、武装した歩〔兵〕たちを、諸々の喜ばしき住居地を、子よ、わたしは、おまえに与えよう。

 

110.(109) 全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた宮女をもまた、おまえに与えよう。子よ、それら〔の道〕を行くのだ。おまえは、わたしたちの王と成るであろう。

 

111.(110) 舞踏や歌詠に巧みで手練の者たちである四者の婦女たちが、おまえを欲望のうちに喜び楽しませるであろう。〔おまえは〕林のなかで、何を為すというのだ。

 

112.(111) 敵の王たちから、〔装いを〕十分に作り為した少女たちを、おまえのために連れてこよう。彼女たちに、子たちを生ませて、そこで、そのあとに出家するのだ。

 

113. かつまた、若くある者として、かつまた、年少の者として、〔おまえは〕存している──〔人生の〕最初を生きる若者として。王権を為せ。おまえに、幸せ〔有れ〕。〔おまえは〕林のなかで、何を為すというのだ。

 

114.(112) そして、貯蔵庫を、さらに、蔵を、かつまた、諸々の軍隊の旅団を、諸々の喜ばしき住居地を、子よ、わたしは、おまえに与えよう。

 

115.(113) 牛の集団に取り囲まれ、奴婢たちの群れに尊ばれる者となり、王権を為せ。おまえに、幸せ〔有れ〕。〔おまえは〕林のなかで、何を為すというのだ」〔と〕。

 

116.(114) 〔菩薩は言った〕「すなわち、〔いずれは〕滅尽する、財が、何だというのでしょう。〔いずれは〕死ぬ、妻が、何だというのでしょう。すなわち、老によって征服される、老い朽ちる若さが、何だというのでしょう。

 

117.(115) そこにおいて、何の愉悦があるというのでしょう。何の遊興があるというのでしょう。何の歓楽があるというのでしょう。何の求財があるというのでしょう。わたしにとって、子たちが、妻たちが、何だというのでしょう。王よ、〔わたしは〕結縛から解き放たれた者として存しています。

 

118.(116) 〔まさに〕その、わたしは、このように覚知します。死魔は、わたしのことを怠りません。死神に囚われた者にとって、何の歓楽があるというのでしょう。何の求財があるというのでしょう。

 

119.(117) 熟した諸果には、常に、落ちるがゆえの恐れがあるように、このように、死すべき者(人間)として生まれた者たちには、常に、死ゆえの恐れがあります。

 

120.(118) 早朝に見られた多くの人々が、或る者たちは、夕方には見られません。夕方に見られた多くの人々が、或る者たちは、早朝には見られません。

 

121.(119) まさしく、今日、為すべきは、苦行です。誰が、明日の死を知るというのでしょう。なぜなら、大いなる軍団の死魔と、彼と、わたしたちとに、〔期日の〕約束はないからです(死に期日の指定はなく、いつ死ぬかわからない)。

 

122.(120) 盗賊たちは、財を望み求めます。王よ、〔わたしは〕結縛から解き放たれた者として存しています。王よ、さあ、戻りたまえ。わたしは、王権に義(目的)ある者ではありません」〔と〕。ということで──

 

 ムーガパッカ・ジャータカが、第一となる。

 

22. 1. 2. マハージャナカ・ジャータカ(大なるジャナカ・本生物語539)

 

123.(121) 〔天神が尋ねた〕「海の中にあり、岸を見ずにいながらも、〔助かるべく〕健闘する、この者は、誰ですか。あなたは、何を、義(利益)たる所以と知って、このように、激しく努力するのですか」〔と〕。

 

124.(122) 〔菩薩は答えた〕「天神よ、世の転起を鑑みて、さらに、努力の〔転起を鑑みて〕、それゆえに、海の中にあり、岸を見ずにいながらも、〔助かるべく〕健闘するのです」〔と〕。

 

125.(123) 〔天神が言った〕「量ることができない深みのなか、〔まさに〕その〔あなた〕にとって、岸が見えないなら、無駄なるは、あなたの、人としての努力です。〔岸に〕至り得ずして、〔あなたは〕死ぬでしょう」〔と〕。

 

126.(124) 〔菩薩は言った〕「彼は、親族たちにとって、天〔の神々〕たちにとって、さらに、祖霊たちにとって、借りなき者として〔世に〕有ります。諸々の人として為すべきことを為しながら、そして、のちに悩み苦しみません」〔と〕。

 

127.(125) 〔天神が言った〕「その行為が、彼岸に導かず、果なく、疲れを生むものであるなら、そこにおいて、何が、努力による義(利益)となるのですか。その〔行為〕の完遂するところのもの、〔それは〕死魔です」〔と〕。

 

128.(126) 〔菩薩は言った〕「天神よ、彼が、結局のところ、彼岸に導かないと見出しても、もしくは、彼が、〔それを〕知り、〔命を〕失うとして、自己の命を、〔どうして〕守らないというのでしょう。

 

129.(127) 天神よ、一部の者たちは、果を志向し、この世において、諸々の行為に従事します。それらは、あるいは、実現し、あるいは、〔実現し〕ません。

 

130.(128) 天神よ、現に見られる行為の果を、はてさて、〔あなたは〕見ないのですね。他の者たちは沈むも、わたしは、〔海を〕超え渡るのです。そして、あなたを、現前に見るのです。

 

131.(129) 〔まさに〕その、わたしは、能のままに、力のままに、努力するでしょう。海の彼岸に赴くでしょうし、人としての為すべきことを為すでしょう」〔と〕。

 

132.(130) 〔天神が言った〕「〔まさに〕その、あなたが、このように赴く激流のなか、量ることができない大海のなか、法(真理)と努力を成就した者としてあるなら、〔その〕行為によって、〔海の中に〕沈み行くことはありません。〔まさに〕その、あなたは、まさしく、そこにおいて、赴きなさい。すなわち、あなたの意が喜ぶところへと(あなたを助けよう)」〔と〕。

 

132.(131)(※) 〔死の床にある王が言った〕「日の出における財宝、さらに、〔日の〕入りにおける財宝、内なる財宝、外なる財宝、内でもなく外でもない財宝──

 

※ 以下、132.(133)まで、PTS版により補う。

 

132.(132) 登り行くことにおける大いなる財宝、さらに、降り行くことにおける財宝、そして、四つの大いなるサーラ〔樹〕における〔財宝〕、〔一〕ヨージャナ(由旬:長さの単位・軛牛の一日の旅程距離)の遍きにわたる財宝──

 

132.(133) 〔象の両の〕牙の先端における大いなる財宝、そして、〔馬の尾の〕諸々の毛の先端における〔財宝〕、水における〔財宝〕、木々の先端における大いなる財宝──これらの十六の財宝、千の強さある者、寝台、さらに、〔娘の〕シーヴァリを喜ばすことによって(これらの課題を果たした者に王権を与える)」〔と〕。

 

133.(134) 〔課題を果たし王位に就いた菩薩は言った〕「人は、まさしく、願望するべきである。賢者は、厭離するべきにあらず。まさに、わたしは、自己を見る──すなわち、〔わたしが〕求めたとおり、そのとおりに、〔わたしは〕成ったのだ。

 

134.(135) 人は、まさしく、願望するべきである。賢者は、厭離するべきにあらず。まさに、わたしは、自己を見る──水から陸に引き上げられた〔自己〕を。

 

135.(136) 人は、まさしく、努力するべきである。賢者は、厭離するべきにあらず。まさに、わたしは、自己を見る──すなわち、〔わたしが〕求めたとおり、そのとおりに、〔わたしは〕成ったのだ。

 

136.(137) 人は、まさしく、努力するべきである。賢者は、厭離するべきにあらず。まさに、わたしは、自己を見る──水から陸に引き上げられた〔自己〕を。

 

137.(138) たとえ、〔今は〕苦に導かれたとして、智慧を有する人は、楽が至り来るために、願望を断ち切るべきではない。まさに、多くの、益なき接触(苦痛の感受)があり、さらに、益ある〔接触があり〕、思いもよらないものとして、死すべき者(人間)のもとに訪れる。

 

138.(139) 思っていなかったこともまた有り、思っていたこともまた滅し去る。まさに、諸々の財物は、思いから作られるものにあらず──女にとっても、あるいは、男にとっても」〔と〕。

 

139.(140) 〔出家を願う菩薩を嘆き、人々が言った〕「ああ、まさに、先ごろまで、王(菩薩)は、地上の全てをもつ者としてあり、方角の長としてあるも、今日、諸々の舞踏を傾聴せず、諸々の歌詠を〔彼の〕意は作らない。

 

140.(141) 鹿たちに〔眼を向け〕ず、諸々の庭園にもまた〔眼を向け〕ず、白鳥たちにもまた眼を向けない。唖者のように、沈黙のままに坐し、〔家臣に〕義(意味)を教示しない(命令しない)」〔と〕。

 

141.(142) 〔菩薩は言った〕「安楽を欲し静所を戒とする者たちは、殴打と結縛から止息した者たちは、年少の者たちであれ、そして、年長の者たちであれ、今日、いったい、誰の林園に居るのだろう。

 

142.(143) 〔欲の〕林の下生えを超え行った慧者たちなのだ。彼らに、大いなる聖賢たちに、礼拝〔有れ〕。彼らは、〔欲の〕思い入れある世において、思い入れなき者たちとして住む。

 

143.(144) 彼らは、死魔の網を断ち切って、幻術師の堅固な紐を〔断ち切って〕、執着を断ち切った者たちとして赴く。誰が、彼らの境遇に、〔わたしを〕至り得させるのだろう。

 

144.(145) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──等分に計量され区分された〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

145.(146) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──全てにあまねく光ある広き〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

146.(147) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──多くの城壁と楼門ある〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

147.(148) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──堅固な見張塔と門小屋ある〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

148.(149) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──見事に区分された大道ある〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

149.(150) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──見事に区分された市場ある〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

150.(151) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──牛や馬や車で押し合う〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

151.(152) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──林園や林や花畑ある〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

152.(153) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──庭園や林や花畑ある〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

153.(154) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──高楼や林や花畑ある〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

154.(155) いつ、わたしは、興隆するミティラーを──三つの砦があり王の眷属がいる〔都〕を──盛名あるヴェーデーハ〔王〕のソーマナッサによって造作された〔都〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

155.(156) いつ、わたしは、興隆するヴェーデーハ〔国〕を──豊かで法(正義)に守られた〔国〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

156.(157) いつ、わたしは、興隆するヴェーデーハ〔国〕を──〔誰も〕勝てない法(正義)に守られた〔国〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

157.(158) いつ、わたしは、喜ばしき内宮を──等分に計量され区分された〔内宮〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

158.(159) いつ、わたしは、喜ばしき内宮を──石膏と粘土で塗装された〔内宮〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

159.(160) いつ、わたしは、喜ばしき内宮を──清らかな香りの意が喜びとする〔内宮〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

160.(161) いつ、わたしは、さらに、諸々の楼閣を──等分に計量され区分された〔諸々の楼閣〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

161.(162) いつ、わたしは、さらに、諸々の楼閣を──石膏と粘土で塗装された〔諸々の楼閣〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

162.(163) いつ、わたしは、さらに、諸々の楼閣を──清らかな香りの意が喜びとする〔諸々の楼閣〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

163.(164) いつ、わたしは、さらに、諸々の楼閣を──栴檀が振りまかれ塗られた〔諸々の楼閣〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

164.(165) いつ、わたしは、諸々の黄金の寝台を──毛布が彩りあざやかに広げられた〔諸々の寝台〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

165. いつ、わたしは、諸々の宝珠の寝台を──毛布が彩りあざやかに広げられた〔諸々の寝台〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

166.(166) いつ、わたしは、木綿や絹を──さらに、諸々の亜麻の布地を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

167.(167) いつ、わたしは、諸々の喜ばしき蓮池を──鴛鴦たちが鳴き、諸々のマンダーラカ〔蓮〕に等しく覆われ、さらに、諸々の赤蓮や青蓮に〔等しく覆われた、諸々の喜ばしき蓮池を〕──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

168.(168) いつ、わたしは、そして、群れなす象たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔象たち〕を──金の飾紐をつけ金の鞍かけを装着する象たちを──

 

169.(169) 槍と鉤を手にする将校たちの乗る〔象たち〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

170.(170) いつ、わたしは、群れなす馬たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔馬たち〕を──まさしく、生まれながらの良馬たる、シンダヴァの駿馬(シンドゥ産の良馬)たちを──

 

171.(171) 短剣と弓を保持する将校たちの乗る〔馬たち〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

172.(172) いつ、わたしは、諸々の車の軍団を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の車の軍団〕を──

 

173.(173) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の車の軍団〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

174.(174) いつ、わたしは、諸々の金の車を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の金の車〕を──

 

175.(175) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の金の車〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

176.(176) いつ、わたしは、諸々の銀の車を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の銀の車〕を──

 

177.(177) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の銀の車〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

178.(178) いつ、わたしは、諸々の馬の車を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の馬の車〕を──

 

179.(179) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の馬の車〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

180.(180) いつ、わたしは、諸々の駱駝の車を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の駱駝の車〕を──

 

181.(181) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の駱駝の車〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

182.(182) いつ、わたしは、諸々の牛の車を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の牛の車〕を──

 

183.(183) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の牛の車〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

184.(184) いつ、わたしは、諸々の山羊の車を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の山羊の車〕を──

 

185.(185) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の山羊の車〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

186.(186) いつ、わたしは、諸々の羊の車を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の羊の車〕を──

 

187.(187) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の羊の車〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

188.(188) いつ、わたしは、諸々の鹿の車を──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の鹿の車〕を──

 

189.(189) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の鹿の車〕を──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

190.(190) いつ、わたしは、そして、象に乗る者たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちを──青の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちを──槍と鉤を手にする者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

191.(191) いつ、わたしは、そして、馬に乗る者たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちを──青の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちを──短剣と弓を保持する者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

192. いつ、わたしは、そして、車に乗る者たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちを──青の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちを──弓を手にし矢束ある者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

193.(192) いつ、わたしは、そして、弓の使い手たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちを──青の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちを──弓を手にし矢束ある者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

194.(193) いつ、わたしは、そして、王子たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちを──彩りあざやかな甲冑を〔身に〕付ける勇士たちを──黄金の頭飾を保持する者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

195.(194) いつ、わたしは、そして、衆をなす聖者(婆羅門)たちを──〔装いを〕十分に作り為した掟ある者たちを──黄の栴檀を手足に塗った者たちを──カーシ産の最上の〔衣〕を〔身に〕付ける者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

196. いつ、わたしは、そして、衆をなす家臣たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちを──黄の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちを──群叢や花畑を前にする者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

197.(195) いつ、わたしは、七百の侍女たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

198.(196) いつ、わたしは、七百の侍女たちを──善き表象ある体躯の均整なる者たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

199.(197) いつ、わたしは、七百の侍女たちを──従順で愛しき話し手たちを──捨棄して、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

200.(198) いつ、わたしは、百パラ(重さの単位)の銅〔の鉢〕を捨棄して、百ラージカ(重さの単位)の金〔の鉢〕を〔捨棄して〕、出家するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

201.(199) いったい、いつ、わたしを、群れなす象たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔象たち〕が──金の飾紐をつけ金の鞍かけを装着する象たちが──

 

202.(200) 槍と鉤を手にする将校たちの乗る〔象たち〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

203.(201) いったい、いつ、わたしを、群れなす馬たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔馬たち〕が──まさしく、生まれながらの良馬たる、シンダヴァの駿馬たちが──

 

204.(202) 短剣と弓を保持する将校たちの乗る〔馬たち〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

205.(203) いったい、いつ、わたしを、諸々の車の軍団が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の車の軍団〕が──

 

206.(204) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の車の軍団〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

207.(205) いったい、いつ、わたしを、諸々の金の車が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の金の車〕が──

 

208.(206) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の金の車〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

209.(207) いったい、いつ、わたしを、諸々の銀の車が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の銀の車〕が──

 

210.(208) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の銀の車〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

211.(209) いったい、いつ、わたしを、諸々の馬の車が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の馬の車〕が──

 

212.(210) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の馬の車〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

213.(211) いったい、いつ、わたしを、諸々の駱駝の車が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の駱駝の車〕が──

 

214.(212) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の駱駝の車〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

215.(213) いったい、いつ、わたしを、諸々の牛の車が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の牛の車〕が──

 

216.(214) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の牛の車〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

217.(215) いったい、いつ、わたしを、諸々の山羊の車が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の山羊の車〕が──

 

218.(216) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の山羊の車〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

219.(217) いったい、いつ、わたしを、諸々の羊の車が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の羊の車〕が──

 

220.(218) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の羊の車〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

221.(219) いったい、いつ、わたしを、諸々の鹿の車が──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔諸々の鹿の車〕が──

 

222.(220) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔諸々の鹿の車〕が──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

223.(221) いったい、いつ、わたしを、象に乗る者たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちが──青の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちが──槍と鉤を手にする者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

224.(222) いったい、いつ、わたしを、馬に乗る者たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちが──青の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちが──短剣と弓を保持する者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

225. いったい、いつ、わたしを、車に乗る者たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちが──青の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちが──弓を手にし矢束ある者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

226.(223) いったい、いつ、わたしを、弓の使い手たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちが──青の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちが──弓を手にし矢束ある者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

227.(224) いったい、いつ、わたしを、王子たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちが──彩りあざやかな甲冑を〔身に〕付ける勇士たちが──黄金の頭飾を保持する者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

228.(225) いったい、いつ、わたしを、衆をなす聖者たちが──〔装いを〕十分に作り為した掟ある者たちが──黄の栴檀を手足に塗った者たちが──カーシ産の最上の〔衣〕を〔身に〕付ける者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

229. いったい、いつ、わたしを、衆をなす家臣たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちが──黄の甲冑を〔身に〕付ける勇士たちが──群叢や花畑を前にする者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

230.(226) いったい、いつ、わたしを、七百の侍女たちが──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

231.(227) いったい、いつ、わたしを、七百の侍女たちが──善き表象ある体躯の均整なる者たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

232.(228) いったい、いつ、わたしを、七百の侍女たちが──従順で愛しき話し手たちが──進み行くわたしを、追い求めなくなるのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

233.(229) いつ、わたしは、鉢を収め取って、剃髪し大衣を着た者となり、〔行乞の〕食のために歩むのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

234.(230) いつ、わたしは、大道に放棄された諸々のぼろ布からなる大衣(糞掃衣)を保持するのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

235.(231) いつ、わたしは、七日のあいだの雨のなか、雨に打たれ、湿った衣料の者となり、〔行乞の〕食のために歩むのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

236.(232) いつ、わたしは、一切所に赴いて、木から木へと、林から林へと、期待なき者となり、赴くのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

237.(233) いつ、わたしは、諸々の山の難所において、〔あらゆる〕恐怖と恐ろしさを捨棄した者となり、伴侶なき者となり、赴くのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

238.(234) いつ、わたしは、意が喜びとする七弦の琵琶を弾く者のように、心を真っすぐに為すのだろう。それは、いったい、いつのことに成るのだろう。

 

239.(235) いつ、わたしは、履物を切り裂いている車工のように、諸々の欲望〔の対象〕という束縛するものを、それらが天のものであれ、さらに、それらが人間のものであれ、断ち切るのだろう」〔と〕。

 

240.(236) 〔世尊は言った〕「そして、それらの七百の侍女たちは──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちは──〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ。『何ゆえに、〔あなたは〕わたしたちを捨棄するのですか』〔と〕。

 

241.(237) そして、それらの七百の侍女たちは──善き表象ある体躯の均整なる者たちは──〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ。『何ゆえに、〔あなたは〕わたしたちを捨棄するのですか』〔と〕。

 

242.(238) そして、それらの七百の侍女たちは──従順で愛しき話し手たちは──〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ。『何ゆえに、〔あなたは〕わたしたちを捨棄するのですか』〔と〕。

 

243.(239) そして、それらの七百の侍女たちを──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた者たちを──捨棄して、出家を尊ぶ者は、王は、去り行った。

 

244.(240) そして、それらの七百の侍女たちを──善き表象ある体躯の均整なる者たちを──捨棄して、出家を尊ぶ者は、王は、去り行った。

 

245.(241) そして、それらの七百の侍女たちを──従順で愛しき話し手たちを──捨棄して、出家を尊ぶ者は、王は、去り行った。

 

246.(242) 百パラ(重さの単位)の銅〔の鉢〕を捨棄して、百ラージカ(重さの単位)の金〔の鉢〕を〔捨棄して〕、土の鉢を掴み取った。それが、〔彼の〕第二の灌頂(浄めの儀式)となる」〔と〕。

 

247.(243) 〔王妃のシーヴァリが言った〕「恐ろしく、祭火に等しき炎です。諸々の蔵が、等分に焼かれます。銀が、そして、金が、多くの真珠と瑠璃が──

 

248.(244) さらに、諸々の宝珠が、諸々の真珠貝が、衣が、黄の栴檀が、皮が、さらに、象牙の品が、多くの銅と黒鉄が。王よ、さあ、戻ってください。あなたのその財が、滅し去ってはいけません」〔と〕。

 

249.(245) 〔菩薩は言った〕「極めて安楽に、まさに、〔わたしたちは〕生きる──すなわち、わたしたちには、何も存在しない(無一物である)。ミティラーが焼かれているとき、わたしのものは、何も焼かれなかった」〔と〕。

 

250.(246) 〔シーヴァリが言った〕「森の者たちが現われ、〔あなたの〕その国土を砕破します。王よ、さあ、戻ってください。この国土が、滅し去ってはいけません」〔と〕。

 

251.(247) 〔菩薩は言った〕「極めて安楽に、まさに、〔わたしたちは〕生きる──すなわち、わたしたちには、何も存在しない。国土において〔盗賊が〕強奪しているとき、わたしのものは、何も奪われなかった。

 

252.(248) 極めて安楽に、まさに、〔わたしたちは〕生きる──すなわち、わたしたちには、何も存在しない。〔わたしたちは〕喜悦を食物とする者たちとして〔世に〕有るのだ──あたかも、光音天〔の神々〕たちのように」〔と〕。

 

253.(249) 〔菩薩に、苦行者のナーラダが尋ねた〕「まさに、この大いなる騒音は、何なのですか。はてさて、何かの遊び戯れが、まさしく、村にあるのですか。沙門よ、まさしく、あなたに、〔わたしどもは〕尋ねます。どこにおいて、この人々(菩薩のあとを追う者たち)は群れ集まったのですか」〔と〕。

 

254.(250) 〔菩薩は答えた〕「〔彼らを〕捨棄して、〔道を〕赴きつつある、わたしのもとへと、ここにおいて、この人々は群れ集まったのです。牟尼の寂黙〔の智慧〕に至り得るために、境界を超え行き、〔彼岸へと〕行きつつある〔わたし〕に──諸々の喜びに浸り、〔道を〕赴きつつある〔わたし〕に──〔そのことを〕知っていながら、どうして、〔あなたは〕尋ねるのですか」〔と〕。

 

255.(251) 〔ナーラダが言った〕「この肉体を保持している者は、まさに、〔自らについて〕『超え渡った者である』〔と〕思ってはいけません。岸に導かないのが、すなわち、この〔肉体〕です。まさに、多くの障害があります」〔と〕。

 

256.(252) 〔菩薩は尋ねた〕「いったい、何が、わたしにとって、障害として存するのですか──このように〔世に〕住む、わたしにとって。すなわち、諸々の欲望〔の対象〕を、まさしく、〔現に〕見られる〔この世〕において望み求めず、〔現に〕見られない〔あの世〕において〔望み求め〕ない、〔わたしにとって〕」〔と〕。

 

257.(253) 〔ナーラダが答えた〕「眠気、倦怠、欠伸、不満、食後のまどろみ──〔これらの障害が〕肉体に立脚するものとして住みつきます。まさに、多くの障害があります」〔と〕。

 

258.(254) 〔菩薩は尋ねた〕「婆羅門よ、貴君は、善きことを、まさに、わたしに教え示します。婆羅門よ、まさしく、あなたに尋ねます。敬愛なる方よ、あなたは、いったい、どのような方として存しているのですか」〔と〕。

 

259.(255) 〔ナーラダが答えた〕「『ナーラダ』というのが、わたしの名です。わたしのことを、〔人々は〕『カッサパ』と知ります。貴君の現前に、〔わたしは〕やってきました。善きかな、正しくある者たちとの会合は。

 

260.(256) 〔まさに〕その、あなたに、一切の喜びが、〔安穏なる〕住が、近しく転起せよ。それが、不足のものであるなら、それを、忍耐によって、さらに、寂止によって、円満成就させよ。

 

261.(257) そして、卑屈を追い払え、さらに、傲慢を追い払え。行為を、そして、明知を、さらに、法(正義)を──〔それらを〕敬して、遍歴遊行せよ」〔と〕。

 

262.(258) 〔菩薩に、苦行者のミガージナが尋ねた〕「多くのものを、そして、象たちを、さらに、馬たちを、諸々の城市を、かつまた、諸々の地方を──ジャナカ(菩薩)よ、〔それらを〕捨棄して、〔あなたは〕出家者として、椀のなかの喜びに到達しました。

 

263.(259) はてさて、どうでしょう、それらの、地方の者たちが、さらに、朋友と家臣たちが、親族たちが、ジャナカよ、裏切りを為したのですか。何ゆえに、それが、あなたにとって好ましくあったのですか」〔と〕。

 

264.(260) 〔菩薩は答えた〕「ミガージナよ、わたしは、誰であれ、いついかなる時も、けっして、求めません──法(正義)ならざる〔道〕によって、親族を征することは〔ありません〕。そして、また、親族たちも、わたしを〔征することは〕ありません。

 

265.(261) 世の転起しているのを見て、泥土と為され喰われているのを〔見て〕、そして、ここにおいて、〔人々は〕殺害され、結縛され、すなわち、〔世の〕凡夫が沈み行くところとなるなら、ミガージナよ、わたしは、これを喩えと為して、行乞者として〔世に〕存しているのです」〔と〕。

 

266.(262) 〔ミガージナが尋ねた〕「いったい、誰が、あなたの、世尊であり、教師なのですか。この清らかな言葉は、誰のものですか。車上の雄牛よ、あるいは、〔適確なる〕営為を、あるいは、明知を、まさに、拒絶して行持している者を、〔人々は〕沙門と言いません──そのように、苦しみを超え行った者として」〔と〕。

 

267.(263) 〔菩薩は答えた〕「ミガージナよ、わたしは、誰であれ、いついかなる時も、けっして、求めません──沙門を、あるいは、また、婆羅門を、敬して近坐したことは〔ありません〕。

 

268.(264) そして、大いなる威力をもって赴きつつある者として、吉祥によって燃え盛っている者として、諸々の歌詠が歌われているなか、諸々の音曲が奏でられているなか──

 

269.(265) 楽器と鉦が鳴らされるなか、鐃(シンバル)と鉦が打ち鳴らされるなか、ミガージナよ、〔まさに〕その〔わたし〕は、果のあるアンバ〔樹〕を垣根越しに見ました──人間たちによって、果を欲する人たちによって、打ちのめされている〔アンバ樹〕を。

 

270.(266) ミガージナよ、〔まさに〕その、わたしは、まさに、その吉祥を捨棄して、〔象から〕降りて、アンバ〔樹〕の根元へと近しく赴きました──果のある〔アンバ樹〕の〔根元へと〕、さらに、果のない〔アンバ樹〕の〔根元へと〕。

 

271.(267) 果のあるアンバ〔樹〕が、砕破され、分断され、打ちのめされたのを見て、そこで、他の一つのアンバ〔樹〕(果のないアンバ樹)が、青々と光り輝き、意が喜びとするのを〔見ました〕。

 

272.(268) まさしく、このように、まちがいなく、多くの棘あるイッサラ(王)たちとして〔世に有る〕わたしたちをもまた、朋友ならざる者たちは、まさに、打ち殺すでしょう──すなわち、果のあるアンバ〔樹〕が、〔人間たちによって〕打ちのめされたように。

 

273.(269) 皮あることで、豹は殺され、〔両の〕牙あるがゆえに、象は殺され、財あることで、財ある者たちは殺されます。家なき者を、親交なき者を、〔誰が殺すというのでしょう〕。果のあるアンバ〔樹〕が、さらに、果のない〔アンバ樹〕が、それらの両者が、わたしの師匠たちです」〔と〕。

 

274.(270) 〔王妃のシーヴァリが言った〕「全ての人が動揺しています。『王は、出家したのだ』と、象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、〔全ての者たちが動揺しています〕。

 

275.(271) 人民を安堵させて、防備を据え置いて、子を王権に据え置いて、そこで、そのあとに出家するのです」〔と〕。

 

276.(272) 〔菩薩は言った〕「地方の者たちも、さらに、朋友と家臣たちも、親族たちも、わたしによって捨て去られた。ヴィデーハ〔国〕には、子たちが存在する。ディーガーヴ(王子)は、国土を繁栄させる者である。ミティラーの夫人(王妃)よ、彼らは、王権を為すであろう。

 

277.(273) さあ、あなたに教示する。すなわち、わたしにとって好ましくある、言葉である。あなたは、王権を執行する──多くの、悪しきことを、悪しき行ないを。身体によって、言葉によって、意によって、それによって、〔あなたが〕悪しき境遇に赴く、〔まさに、その王権を〕。

 

278.(273) 他者によって施され、他者によって準備された、行乞〔の施食〕によって、〔身を〕保ち行け。それが、慧者の法(真理)である」〔と〕。

 

279.(274) 〔シーヴァリが言った〕「すなわち、また、〔人士たる者が〕四日目の食事の時にも食べず、貧窮者のように飢えで死ぬとして、まさしく、しかし、汚れにまみれた聖ならざる行乞〔の施食〕を〔食べることは〕ありません。良家の子息の形姿ある正なる人士は、〔そのようなものに〕慣れ親しむべきではありません。〔まさに〕その、このことは、善きことならず。〔まさに〕その、このことは、良きことならず。ジャナカよ、犬の残り物を、あなたが食べるのは」〔と〕。

 

280.(275) 〔菩薩は言った〕「シーヴァリよ、そして、また、わたしにとって、それは、食物ならざるにあらず──それが、捨て去られたものとして有るなら、在家者のものであれ、あるいは、犬のものであれ。それらが何であれ、諸々の財物は、ここに、法(正義)によって得られたなら、その一切は、『食物として、欠くことなきもの』と説かれた」〔と〕。

 

281.(276) 〔少女に、菩薩は尋ねた〕「いつも腕輪をしている、あどけない少女よ、どうして、あなたの一つの腕は、〔音を〕出すのに、あなたの一つの腕は、〔音を〕出さないのかな」〔と〕。

 

282.(277) 〔少女が答えた〕「沙門よ、わたしのこの手には、二つの腕輪がはまっています。〔それらが〕打ち合ったなら、音が出ます。まさしく、第二のものがあると、それが赴く所となります。

 

283.(278) 沙門よ、わたしのこの手には、一つの腕輪がはまっています。それは、第二のものがないので、〔音を〕出しません。まさしく、黙ったままでいるのです。

 

284.(279) 論争に至り得るのが、第二の者です。独りでいる者が、誰と論争するというのでしょう。それで、あなたが、天上を欲しているなら、独りでいることは、とても好ましいことです」〔と〕。

 

285.(280) 〔シーヴァリに、菩薩は言った〕「シーヴァリよ、〔あなたは〕聞いた──少女によって知らされた諸々の話を。肉のことで、〔あなたは〕わたしを非難した。まさしく、第二の者があると、それが赴く所となる。

 

286.(281) 幸いなる者よ、この二種の道がある。道行く者たちの歩み行くところである。それらのうち、あなたは、一つを収め取りなさい。いっぽう、わたしは、他の一つを〔収め取る〕。

 

287.(282) あなたは、わたしのことを『わたしの亭主』と言ってはならない。あるいは、いっぽう、わたしは、〔あなたのことを〕『妻』と〔言うことは〕ない」〔と〕。〔世尊は言った〕「まさしく、この〔言葉〕を話しながら、〔両者は〕トゥーナの城市へと近しく赴いた。

 

288.(283) 矢作りの小屋において、食事の時がやってきたところ、そして、そこには、その矢作りがいる。一つの棒が真っすぐに作り為され、そして、〔矢作りは〕一つの眼を制御して、〔他の〕一つ〔の眼〕で〔矢の〕曲がりを注視する」〔と〕。

 

289.(284) 〔矢作りに、菩薩は言った〕「善きかな、〔あなたは〕わたしたちのことを、このように見る。矢作りよ、わたしの〔言葉を〕聞け。すなわち、〔あなたは〕一つの眼を制御して、〔他の〕一つ〔の眼〕で〔矢の〕曲がりを注視する」〔と〕。

 

290.(285) 〔矢作りが言った〕「沙門よ、二つの眼では、広きものであるかのように見えてしまいます。最高の徴表に得達せずして、真っすぐの状態のために適確となりません。

 

291.(286) しかしながら、一つの眼を制御して、〔他の〕一つ〔の眼〕で〔矢の〕曲がりを注視しているなら、最高の徴表に得達して、真っすぐの状態のために適確となります。

 

292.(287) 論争に至り得るのが、第二の者です。独りでいる者が、誰と論争するというのでしょう。それで、あなたが、天上を欲しているなら、独りでいることは、とても好ましいことです」〔と〕。

 

293.(288) 〔シーヴァリに、菩薩は言った〕「シーヴァリよ、〔あなたは〕聞いた──矢作りによって知らされた諸々の話を。肉のことで、〔あなたは〕わたしを非難した。まさしく、第二の者があると、それが赴く所となる。

 

294.(289) 幸いなる者よ、この二種の道がある。道行く者たちの歩み行くところである。それらのうち、あなたは、一つを収め取りなさい。いっぽう、わたしは、他の一つを〔収め取る〕。

 

295.(290) あなたは、わたしのことを『わたしの亭主』と言ってはならない。あるいは、いっぽう、わたしは、〔あなたのことを〕『妻』と〔言うことは〕ない。シーヴァリよ、ムンジャ〔草〕から取り出された葦のように、独り、〔世に〕住みなさい」〔と〕。ということで──

 

 マハージャナカ・ジャータカが、第二となる。

 

22. 1. 3. スヴァンナサーマ・ジャータカ(スヴァンナサーマ・本生物語540)

 

296.(291) 〔菩薩は尋ねた〕「いったい、誰なのですか、水運びのために〔注意を〕怠ったわたしを、〔あなたは〕矢で貫きました。士族ですか、婆羅門ですか、庶民ですか、誰なのですか、〔あなたは〕わたしを貫いて隠れます。

 

297.(292) わたしの、諸々の肉は喰うべきものではなく、皮に義(目的)ある者は見出されません。そこで、いったい、何を理由に、わたしのことを、貫くべきものと思い考えたのですか。

 

298.(293) あなたは、あるいは、誰なのですか、あるいは、誰の子なのですか。どのように、わたしどもは、あなたのことを知るべきですか。友よ、〔問いを〕尋ねられた者として、わたしに告げ知らせてください。どうして、〔あなたは〕わたしを貫いて隠れるのですか」〔と〕。

 

299.(294) 〔王が答えた〕「わたしは、カーシ〔国〕の王として〔世に〕存している。わたしのことを、〔人々は〕『ピーリヤッカ』と知る。〔鹿の肉に〕貪欲あるがゆえに、国土を捨棄して、わたしは、鹿を探し求め、〔林のなかを〕歩む。

 

300.(295) そして、〔わたしは〕弓術に巧みな者として〔世に〕存している。『強弓をもつ者』として〔世に〕聞こえた者である。矢の射程に至り来たなら、龍でさえも、わたしから解き放たれない。

 

301.(296) おまえは、あるいは、誰なのだ、あるいは、誰の子なのだ。どのように、わたしたちは、おまえのことを知るべきなのだ。父の、さらに、また、自己の、名と姓を知らせよ」〔と〕。

 

302.(297) 〔菩薩は尋ねた〕「〔わたしは、卑しき〕山民の子です。あなたに、幸せ〔有れ〕。わたしのことを、親族たちは『サーマ』と呼びました──〔何ごともなく〕生きているあいだは。それが、まさしく、今日、わたしは、〔この〕境遇となり、〔地に〕臥すのです。

 

303.(298) 〔わたしは〕存しています──毒を有する太い矢に貫かれた者として、あたかも、鹿のように。王よ、見てください、〔わたしは〕自らの血のなかに潜り、〔地に〕臥します。

 

304.(299) 矢は貫通するに至り、見てください、〔わたしは〕血を流します。痛苦の者として、〔わたしは〕あなたに尋ねます。どうして、〔あなたは〕わたしを貫いて隠れるのですか。

 

305.(300) 皮あることで、豹は殺され、〔両の〕牙あるがゆえに、象は殺され、財あることで、財ある者たちは殺されます。そこで、いったい、何を理由に、わたしのことを、貫くべきものと思い考えたのですか」〔と〕。

 

306.(301) 〔王が答えた〕「鹿が、近しく立つものとして存した。矢の射程に至り来たのだ。サーマよ、おまえを見て、〔鹿は〕怯えた。それによって、忿激〔の思い〕が、わたしを侵したのだ」〔と〕。

 

307.(302) 〔菩薩は尋ねた〕「〔成長して〕自己のことを思念する、そののちは──知性に至り得た者として〔世に〕存する、そののちは──鹿たちは、わたしを恐れません──林のなかの〔他の〕犠牲獣たちもまた。

 

308.(303) 〔わたしが〕樹皮の衣をまとった、そののちは、〔わたしが〕若さ〔の盛り〕に至り得た者として存する、そののちは、鹿たちは、わたしを恐れません──林のなかの〔他の〕犠牲獣たちもまた。

 

309.(304) 王よ、ガンダマーダナ山には恐ろしい妖精たちがいますが、〔わたしたちは〕喜び合いながら、山々に、さらに、諸々の林に、赴きます。

 

310.(304) 鹿たちは、わたしを恐れません──林のなかの〔他の〕犠牲獣たちもまた。そこで、いったい、何を理由に、鹿たちが、わたしを恐れるというのでしょう」〔と〕。

 

311.(305) 〔王が答えた〕「サーマよ、おまえを恐れる鹿はいない。どうして、わたしが、おまえに、偽りを話せよう。忿激と貪欲に征服されたわたしが、おまえに、その矢を放ったのだ」〔と〕。

 

312.(306) 〔王が尋ねた〕「サーマよ、いったい、どこからやってきて、あるいは、誰に命じられ、おまえは、ミガサンマター〔川〕にやってきたのだ。『水運びとして、川に赴け』」〔と〕。

 

313.(307) 〔菩薩は答えた〕「わたしの母と父は、盲者たちです。密林のなかで、彼らを養います。彼らのために、わたしは、水運びとして、ミガサンマター〔川〕にやってきたのです。

 

314.(308) 彼らには、露ほどの〔水〕が存し、そこで、六日のあいだは生命があるとして、水を得ないなら、思うに、盲者たちは死ぬでしょう。

 

315.(309) まさに、人として得るであろう、この〔苦しみ〕は、そのような苦しみは、これは、わたしにとって、〔苦しみでは〕ありません。しかしながら、すなわち、〔もはや、わたしが〕母を見ないなら、それは、わたしにとって、この〔苦しみ〕よりも、さらなる苦しみとなります。

 

316.(310) まさに、人として得るであろう、この〔苦しみ〕は、そのような苦しみは、これは、わたしにとって、〔苦しみでは〕ありません。しかしながら、すなわち、〔もはや、わたしが〕父を見ないなら、それは、わたしにとって、この〔苦しみ〕よりも、さらなる苦しみとなります。

 

317.(311) 彼女は、まちがいなく、母は、困窮し、長夜に泣き叫ぶでしょう。あるいは、真夜中であれ、あるいは、夜のあいだであれ、川のように干上がるでしょう。

 

318.(312) 彼は、まちがいなく、父は、困窮し、長夜に泣き叫ぶでしょう。あるいは、真夜中であれ、あるいは、夜のあいだであれ、川のように干上がるでしょう。

 

319.(313) 足を上げて歩むために、さらに、足を揉みほぐすために、『サーマよ、息子よ』〔と〕悲嘆しながら、密林のなかで、〔彼らは〕彷徨うでしょう。

 

320.(314) この第二の矢もまた、わたしの心臓(心)を動かすのです。そして、すなわち、〔もはや、わたしが〕盲者たちを見ないなら、思うに、〔わたしは〕生命を捨棄するでしょう」〔と〕。

 

321.(315) 〔王が言った〕「サーマよ、美しき見た目ある者よ、激しく嘆き悲しんではいけない。わたしは、労夫と成って、密林のなかで、彼らを養おう。

 

322.(316) そして、〔わたしは〕弓術に巧みな者として〔世に〕存している。『強弓をもつ者』として〔世に〕聞こえた者である。わたしは、労夫と成って、密林のなかで、彼らを養おう。

 

323.(317) 鹿たちの食べ残しを探し求めながら、さらに、諸々の林の根や果を〔探し求めながら〕、わたしは、労夫と成って、密林のなかで、彼らを養おう。

 

324.(318) サーマよ、どれが、その林なのだ。すなわち、おまえの母と父がいるところだ。すなわち、おまえが、彼らを養ったように、そのように、わたしは、彼らを養おう」〔と〕。

 

325.(319) 〔菩薩は言った〕「王よ、この一本〔道〕です。すなわち、わたしの頭の側にある、この〔道〕です。ここから、半コーサ(長さの単位・四コーサで一ヨージャナ)を赴いて、そこにおいて、彼らの家があります。すなわち、わたしの母と父がいるところです。ここから〔家に〕赴き、彼らを養ってください。

 

326.(320) カーシ〔国〕の王よ、あなたに、礼拝が存せ。カーシ〔国〕を繁栄させる者よ、あなたに、礼拝が〔存せ〕。わたしの母と父は、盲者たちです。密林のなかで、彼らを養ってください。

 

327.(321) あなたに、合掌を差し出します。カーシ〔国〕の王よ、あなたに、礼拝が存せ。わたしの母と父に、〔わたしに〕言われた者として、〔わたしからの〕敬拝〔の言葉〕を説くのです」〔と〕。

 

328.(322) 〔世尊は言った〕「この〔言葉〕を説いて、サーマは、若く美しき見た目ある者は、彼は、毒の勢いによって混迷し、表象が離れ、気絶した。

 

329.(323) 多くの悲しみを伴うままに、その王は嘆き悲しんだ。〔王が言った〕『わたしは、老と死なき者として存していた。今日、このこと(死魔の到来)を知るも、かつては〔知ら〕ず。サーマが命を終えたのを見て、死魔の到来なきは存さず〔と知る〕。

 

330.(324) すなわち、毒を有する〔矢〕に射抜かれた者が、まさに、わたしに哀訴するも、彼は、今日、このように、〔死の〕時に至り、〔もはや〕何も語らない。

 

331.(325) まちがいなく、〔わたしは〕地獄に赴く。ここにおいて、わたしに、疑念は存在しない。なぜなら、そのとき、長夜にわたる悪しき罪障が作り為されたからだ。

 

332.(326) 村における罪障の作り手は、彼に説く者たちが有るも、人間のいない林のなかでは、誰が、わたしに説くことができるというのだろう。

 

333.(327) 村においては、人間たちが集いあつまって、まさに、諸々の行為を思念させるが、人間のいない林のなかでは、いったい、誰が、わたしに思念させるというのだろう』〔と〕。

 

334.(328) ガンダマーダナ山にいる、〔まさに〕その、天神は、〔山から〕消没し、まさしく、王を慈しんで、これらの詩偈を語った。

 

335.(329) 〔天神が言った〕『大王よ、まさに、罪悪を、悪行の行為を、〔あなたは〕為しました。汚れなき〔母と〕父と子の三者が、一なる矢で殺されたのです。

 

336.(330) さあ、〔わたしは〕あなたに従い学びます。すなわち、あなたに、善き境遇が存するように。法(正義)によって、盲者たちを、林において養育しなさい。わたしが思うに、あなたに、善き境遇が〔存するでしょう〕』〔と〕。

 

337.(331) 多くの悲しみを伴うままに、その王は嘆き悲しんで、水瓶を抱えて、南に向かい出発した」〔と〕。

 

338.(332) 〔父が尋ねた〕「いったい、これは、誰の足音なのか。至り来たのは、まさしく、人間の〔足音〕である。これは、サーマの足音にあらず。敬愛なる方よ、あなたは、いったい、どのような方として存しているのですか。

 

339.(333) まさに、サーマは、静かに行く。〔両の〕足を、静かに導く。これは、サーマの足音にあらず。敬愛なる方よ、あなたは、いったい、どのような方として存しているのですか」〔と〕。

 

340.(334) 〔王が答えた〕「わたしは、カーシ〔国〕の王として〔世に〕存している。わたしのことを、〔人々は〕『ピーリヤッカ』と知る。〔鹿の肉に〕貪欲あるがゆえに、国土を捨棄して、わたしは、鹿を探し求め、〔林のなかを〕歩む。

 

341.(335) そして、〔わたしは〕弓術に巧みな者として〔世に〕存している。『強弓をもつ者』として〔世に〕聞こえた者である。矢の射程に至り来たなら、龍でさえも、わたしから解き放たれない」〔と〕。

 

342.(336) 〔父が言った〕「大王よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。おいでになられた〔あなた〕は、イッサラ(イーシュヴァラ神・自在神)として存しておられます。それが、ここに存するものであるなら、〔何なりと〕お申し付けください。

 

343.(337) 諸々のティンドゥカ〔の果〕を、諸々のピヤーラ〔の果〕を、諸々のマドゥカ〔の果〕を、諸々のカースマーリー〔の果〕を、小さく少なきものではありますが、諸々の果を、王よ、優れたもの、優れたものを、お食べください。

 

344.(338) 山窟から運び込んだ、冷たい、この飲み物をもまた、大王よ、それで、もし、あなたがお望みなら、そののち、お飲みください」〔と〕。

 

345.(339) 〔王が尋ねた〕「盲者なるがゆえに、林において見ることは十分ならず。いったい、誰が、あなたたちに、果を運んだのですか。これは、まさしく、盲者ならざる者の糧食と、正しく、わたしには思われます」〔と〕。

 

346.(340) 〔父が答えた〕「年少にして、若く、大柄過ぎず、美しき見た目ある者、サーマです。彼の、諸々の髪は、長く、黒く、さらに、膨らんだ先端が巻かれています。

 

347.(341) 彼は、まさに、果を運んで〔そののち〕、ここから、水瓶を携えて、川に、水運びに赴いたところです。思うに、遠からず、帰り来るところです」〔と〕。

 

348.(342) 〔王が言った〕「そのサーマを、わたしは打ち殺しました。すなわち、あなたを世話する者です。その少年のことを、〔あなたさまは〕告げ知らせます──美しき見た目ある者、サーマと。

 

349.(343) 彼の、諸々の髪は、長く、黒く、さらに、膨らんだ先端が巻かれています。それらが血で塗られたなか、サーマは、〔地に〕臥します──わたしによって殺され」〔と〕。

 

350.(344) 〔母が尋ねた〕「ドゥクーラ(父)よ、誰と、〔あなたは〕話し合うのですか──『サーマは殺された』と説く〔誰〕と。『サーマは殺された』と聞いて、わたしの心臓(心)は動揺します。

 

351.(345) 風に揺らぐ、アッサッタ〔樹〕の幼い若芽のように、『サーマは殺された』と聞いて、わたしの心臓(心)は動揺します」〔と〕。

 

352.(346) 〔父が答えた〕「パーリカー(母)よ、この方は、カーシ〔国〕の王である。彼は、サーマを、ミガサンマタにおいて、忿激〔の思い〕から、矢で貫いた。彼に、悪しき〔報い〕を求めてはならない」〔と〕。

 

353.(347) 〔母が言った〕「苦難をもって得た愛しき子です。彼が、盲者たちを、林において養ったのです。その独り子を殺害する者にたいし、どうして、心を乱さないというのでしょう」〔と〕。

 

354.(348) 〔父が言った〕「苦難をもって得た愛しき子である。彼が、盲者たちを、林において養ったのだ。その独り子を殺害する者にたいし、忿激なくと、賢者たちは言う」〔と〕。

 

355.(349) 〔王が言った〕「激しく嘆き悲しんではいけません。『サーマは殺された』と説くからと。わたしは、労夫と成って、密林のなかで、〔あなたたちを〕養います。

 

356.(350) そして、〔わたしは〕弓術に巧みな者として〔世に〕存しています。『強弓をもつ者』として〔世に〕聞こえた者です。わたしは、労夫と成って、密林のなかで、〔あなたたちを〕養います。

 

357.(351) 鹿たちの食べ残しを探し求めながら、さらに、諸々の林の根や果を〔探し求めながら〕、わたしは、労夫と成って、密林のなかで、〔あなたたちを〕養います」〔と〕。

 

358.(352) 〔母と父が言った〕「大王よ、これは、法(正義)にあらず。このことは、わたしたちにとって適確ならず。あなたは、わたしたちの王として存しておられます。わたしたちは、あなたの〔両の〕足を敬拝します」〔と〕。

 

359.(353) 〔王が言った〕「山民よ、〔あなたさまは〕法(正義)を話します。あなたによって、〔わたしへの〕敬恭が為されました。あなたは、わたしどもの父として存しておられます。パーリカーよ、あなたは、母として存しておられます」〔と〕。

 

360.(354) 〔母と父が言った〕「カーシ〔国〕の王よ、あなたに、礼拝が存せ。カーシ〔国〕を繁栄させる者よ、あなたに、礼拝が〔存せ〕。あなたに、合掌を差し出します。まずは、サーマのところに至り得させてください。

 

361.(355) 彼の〔両の〕足を、さらに、清き見た目ある顔を、払い清めながら、自己を打ちつつ、〔死の〕時を待ちます」〔と〕。

 

362.(356) 〔王が言った〕「〔その林は〕大きく、猛々しい獣たちがそぞろ行き、虚空の極であるかのように見えます。そこにおいて、サーマは殺され、〔地に〕臥します──地に落ちた月のように。

 

363.(357) 〔その林は〕大きく、猛々しい獣たちがそぞろ行き、虚空の極であるかのように見えます。そこにおいて、サーマは殺され、〔地に〕臥します──地に落ちた日のように。

 

364.(358) 〔その林は〕大きく、猛々しい獣たちがそぞろ行き、虚空の極であるかのように見えます。そこにおいて、サーマは殺され、〔地に〕臥します──砂にまみれた者となり。

 

365.(359) 〔その林は〕大きく、猛々しい獣たちがそぞろ行き、虚空の極であるかのように見えます。そこにおいて、サーマは殺され、〔地に〕臥します──まさしく、ここに、〔この〕庵所に、〔このまま〕住してください」〔と〕。

 

366.(360) 〔母と父が言った〕「もしくは、そこにおいて、数百の〔獣〕が、数千の〔獣〕が、さらに、数万の〔獣〕がいるとして、わたしたちに、林のなかの猛獣たちにたいする恐怖〔の思い〕は、何であれ、まさしく、見出されません」〔と〕。

 

367.(361) 〔世尊は言った〕「そののち、カーシ〔国〕の王は、盲者たちを携えて、密林のなかに、〔彼らの〕手を掴んで出発した──そこにおいて、サーマが殺されることと成った、〔密林のなかに〕。

 

368.(362) 〔地に〕落ち、砂にまみれた、子のサーマを見て──地に落ちた月のように、密林のなかに捨てられた〔サーマ〕を〔見て〕──

 

369.(363) 〔地に〕落ち、砂にまみれた、子のサーマを見て──地に落ちた日のように、密林のなかに捨てられた〔サーマ〕を〔見て〕──

 

370.(364) 〔地に〕落ち、砂にまみれた、子のサーマを見て──密林のなかに捨てられた〔サーマ〕を〔見て〕──悲しみのままに(※)、〔彼らは〕嘆き悲しんだ。

 

※ テキストには kalūnaṃ とあるが、PTS版により karuṇaṃ と読む。

 

371.(365) 〔地に〕落ち、砂にまみれた、子のサーマを見て──〔両の〕腕を突き上げて、〔彼らは〕泣き叫んだ。〔母と父が言った〕『法(正義)ならざることです。まさに、ああ、かくのごとく。

 

372.(366) サーマよ、美しき見た目ある者よ、まさに、おまえは、激しく怠った者として存している。すなわち、今日、このように、〔死の〕時に至り、〔もはや〕何も語らない。

 

373.(367) サーマよ、美しき見た目ある者よ、まさに、おまえは、激しく燃えた者として存している。すなわち、今日、このように、〔死の〕時に至り、〔もはや〕何も語らない。

 

374.(368) サーマよ、美しき見た目ある者よ、まさに、おまえは、激しく怒った者として存している。すなわち、今日、このように、〔死の〕時に至り、〔もはや〕何も語らない。

 

375.(369) サーマよ、美しき見た目の者よ、まさに、おまえは、激しく眠った者として存している。すなわち、今日、このように、〔死の〕時に至り、〔もはや〕何も語らない。

 

376.(370) サーマよ、美しき見た目ある者よ、まさに、おまえは、激しく意が離れる者として存している。すなわち、今日、このように、〔死の〕時に至り、〔もはや〕何も語らない。

 

377.(372) 皺になり砂が掛かった結髪を、誰が、今や、据え置いてくれるのだろう。盲者たちを世話する者は、サーマは、この者は、命を終えたのだ。

 

378.(373) 誰が、わたしのために、箒を取って、庵所を掃き清めるのだろう。盲者たちを世話する者は、サーマは、この者は、命を終えたのだ。

 

379.(374) 誰が、今や、冷たい〔水〕で、さらに、温かい水で、沐浴させてくれるのだろう。盲者たちを世話する者は、サーマは、この者は、命を終えたのだ。

 

380.(375) 誰が、今や、そして、諸々の林の根や果を、食べさせてくれるのだろう。盲者たちを世話する者は、サーマは、この者は、命を終えたのだ』〔と〕。

 

381.(376) 〔地に〕落ち、砂にまみれた、子のサーマを見て、子の憂いに苦悩する者となり、母は、真なる〔言葉〕を語った。

 

382.(377) 〔母が言った〕『すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、かつて、法(正義)〔の道〕を歩む者として〔世に〕有りました。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

383.(378) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、かつて、梵行者として〔世に〕有りました。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

384.(379) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、かつて、真なる〔言葉〕を説く者として〔世に〕有りました。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

385.(380) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、母と父を養う者として〔世に〕有りました。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

386.(381) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、家における目上の者を敬う者として〔世に有りました〕。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

387.(382) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、わたしにとって、命よりもより愛しき者です。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

388.(383) まさしく、そして、わたしに、さらに、おまえの父に、それが何であれ、功徳として作り為されたものが存在するなら、その善なる〔功徳〕の全てによって、サーマの毒は打ちのめされよ』〔と〕。

 

389.(384) 〔地に〕落ち、砂にまみれた、子のサーマを見て、子の憂いに苦悩する者となり、父は、真なる〔言葉〕を語った。

 

390.(385) 〔父が言った〕『すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、かつて、法(正義)〔の道〕を歩む者として〔世に〕有りました。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

391.(385) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、かつて、梵行者として〔世に〕有りました。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

392.(385) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、かつて、真なる〔言葉〕を説く者として〔世に〕有りました。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

393.(385) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、母と父を養う者として〔世に〕有りました。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

394.(385) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、家における目上の者を敬う者として〔世に有りました〕。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

395.(385) すなわち、真なる〔言葉〕によって〔明言するなら〕、この者は、サーマは、わたしにとっては、命よりもより愛しき者です。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

396.(386) まさしく、そして、わたしに、さらに、おまえの母に、それが何であれ、功徳として作り為されたものが存在するなら、その善なる〔功徳〕の全てによって、サーマの毒は打ちのめされよ』〔と〕。

 

397.(387) ガンダマーダナ山にいる、〔まさに〕その、天神は、〔山から〕消没し、サーマを慈しんで、この真なる〔言葉〕を語った。

 

398.(388) 〔天神が言った〕『わたしは、ガンダマーダナ山において、長夜にわたり居住する者です。わたしにとって、サーマより他に、より愛しき者は、誰であれ見出されません。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ。

 

399.(389) ガンダマーダナ山において、全ての林は、香りある〔木〕で作られている。この真なる言葉によって、サーマの毒は打ちのめされよ』〔と〕。

 

400.(390) 多くの悲しみを伴うままに、彼らが泣き叫んでいると、すみやかに、サーマは起き上がった──若く、美しき見た目ある者は」〔と〕。

 

401.(391) 〔彼らに、菩薩は言った〕「わたしは、サーマとして〔世に〕存しています。あなたたちに幸せ〔有れ〕。〔わたしは、このように〕起き上がり、安穏に存しています。激しく嘆き悲しんではいけません。美妙なる〔言葉〕をもって、わたしを迎え取りたまえ」〔と〕。

 

402.(392) 〔王に、菩薩は言った〕「大王よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。おいでになられた〔あなた〕は、イッサラとして存しておられます。それが、ここに存するものであるなら、〔何なりと〕お申し付けください。

 

403.(393) 諸々のティンドゥカ〔の果〕を、諸々のピヤーラ〔の果〕を、諸々のマドゥカ〔の果〕を、諸々のカースマーリー〔の果〕を、小さく少なきものではありますが、諸々の果を、王よ、優れたもの、優れたものを、お食べください。

 

404.(394) 山窟から運び込んだ、冷たい、この飲み物が、わたしに存します。大王よ、それで、もし、あなたがお望みなら、そののち、お飲みください」〔と〕。

 

405.(395) 〔王が尋ねた〕「〔わたしは〕等しく迷乱します。〔わたしは〕遍く迷乱します。わたしにとって、一切の方角が迷乱します。サーマよ、〔わたしは〕亡者としてのあなたを見ました。サーマよ、いったい、誰が、あなたとして生きるのですか」〔と〕。

 

406.(396) 〔菩薩は答えた〕「大王よ、たとえ、生きているとして、人が、荒々しい〔苦痛の〕感受あるなら、思惟なき〔状態〕に導かれた〔その人〕のことを、生きていながらも、死んだと思うのです。

 

407.(397) 大王よ、たとえ、生きているとして、人が、荒々しい〔苦痛の〕感受あるなら、〔心の〕止滅に至り、〔そのように〕存している彼のことを、生きていながらも、死んだと思うのです。

 

408.(398) すなわち、人が、母を、あるいは、父を、法(正義)によって養育するなら、〔まさに〕その、母と父を養う人を、天〔の神々〕たちもまた癒します。

 

409.(399) すなわち、人が、母を、あるいは、父を、法(正義)によって養育するなら、まさしく、この〔世において〕、〔人々は〕彼を賞賛し、〔彼は〕死してのち、天上において歓喜します」〔と〕。

 

410.(400) 〔王が言った〕「〔まさに〕この〔わたし〕は、より一層、遍く迷乱します。わたしにとって、一切の方角が迷乱します。サーマよ、あなたを帰依所に、〔わたしは〕赴きます。そして、あなたは、わたしの帰依所と成ってください」〔と〕。

 

411.(401) 〔菩薩は言った〕「大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、母と父にたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

412.(402) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、子と妻たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

413.(403) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、朋友と家臣たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

414.(404) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──輸送の者たちにたいし、さらに、軍隊の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

415.(405) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──村の者たちにたいし、さらに、町の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

416.(406) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──国土の者たちにたいし、さらに、地方の者たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

417.(407) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──さらに、沙門と婆羅門たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

418.(408) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ──士族よ、獣と鳥たちにたいし。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

419.(409) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ。法(正義)〔の道〕を歩んだなら、安楽をもたらします。王よ、この〔世において〕、法(正義)〔の道〕を歩んで、〔あなたは〕天上に赴くでしょう。

 

420.(410) 大王よ、法(正義)〔の道〕を歩みたまえ。インダ(インドラ神)を含め、梵〔天〕(ブラフマー神)を含め、天〔の神々〕たちは、善き行ないによって、天〔の神〕たる〔境遇〕に至り得たのです。王よ、法(正義)を怠ること(放逸)があってはいけません」〔と〕。ということで──

 

 スヴァンナサーマ・ジャータカが、第三となる。

 

22. 1. 4. ニミ・ジャータカ(ニミ・本生物語541)

 

421.(411) 〔世尊は言った〕「世における、まさに、稀有なることとして、明眼の者たちは、〔世に〕生起する。すなわち、ニミ王(菩薩)が、善を義(目的)とする賢者が、〔世に〕有ったとき──

 

422.(412) 王は、敵を調御する者は、全てのヴィデーハ〔国〕の者たちに、布施を施した。彼が、その布施を施していると、思惟が生起した。『あるいは、布施か、あるいは、梵行か、いったい、どちらが、大いなる果となるのか』〔と〕。

 

423.(413) 彼の思惟を了知して、天の象たるマガヴァント(帝釈天)は、千の眼ある者は、〔その〕色艶によって闇を打ち払いながら、〔王の前に〕出現した。

 

424.(414) 身の毛のよだちを有する者となり、人のインダ(国王)は、ニミは、ヴァーサヴァ(帝釈天)に言った。〔菩薩は尋ねた〕『いったい、〔あなたは〕天神として存しているのですか、音楽神として〔存しているのですか〕、それとも、プリンダダ(都の破壊者)たる帝釈〔天〕として〔存しているのですか〕。

 

425.(414) そして、わたしにとって、そのような色艶は、あるいは、見たことも〔なく〕、もしくは、あるいは、聞いたこともありません。あなたは、わたしに告げ知らせてください。あなたに、幸せ〔有れ〕。どのように、わたしどもは、あなたのことを知るべきですか』〔と〕。

 

426.(415) 〔ニミが〕身の毛のよだちを有するのを知って、ヴァーサヴァは、ニミに言った。〔帝釈天が答えた〕『わたしは、天のインダたる帝釈〔天〕として存している。あなたの前に到来した者として存している。人間のインダよ、身の毛のよだちなき者となり、問いを尋ねよ。それを、〔あなたが〕求めるなら』〔と〕。

 

427.(416) そして、彼によって〔問い尋ねの〕機会が作られ、彼は、ニミは、ヴァーサヴァに言った。〔菩薩は尋ねた〕『大王よ、一切の生類たちのイッサラよ、あなたに尋ねます。あるいは、布施か、あるいは、梵行か、いったい、どちらが、大いなる果となるのですか』〔と〕。

 

428.(417) 人の天たる者に尋ねられ、彼は、ヴァーサヴァは、ニミに言った。梵行の報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

429.(418) 〔帝釈天が答えた〕『下劣なる梵行によって、士族〔の家〕に再生する。そして、中等なる〔梵行〕によって、天〔の神〕たる〔境遇〕を〔獲得し〕、最上なる〔梵行〕によって、清浄となる。

 

430.(419) 何であれ、乞いに応じること(布施)によっては、まさに、これらの身体は、得易きものにあらず──すなわち、家なき苦行者たちが再生する、〔それらの〕身体は。

 

431.(420) ドゥディーパ〔王〕、サーガラ〔王〕、セーラ〔王〕、ムジャキンダ〔王〕、バギーラサ〔王〕、ウシンダラ〔王〕、そして、カッサパ〔王〕、さらに、アサカ〔王〕、プトゥッジャナ〔王〕は──

 

432.(421) そして、こられの者たちは、さらに、他の王たちは、多くの士族たちと婆羅門たちは、多々なる祭祀を執り行なって〔そののち〕、餓鬼たる〔境遇〕を超克しなかった。

 

433.(422) そこで、すなわち、これらの家なき苦行者たちは、〔餓鬼たる境遇を〕超克した──七者の聖賢の、ヤーマハヌ〔聖賢〕、ソーマヤーマ〔聖賢〕、マノージャヴァ〔聖賢〕──

 

434.(423) サムッダ〔聖賢〕、マーガ〔聖賢〕、そして、バラタ〔聖賢〕、カーラプラッカタ聖賢であり──そして、アンギーラサ〔聖賢〕、カッサパ〔聖賢〕、さらに、キサヴァッチャ〔聖賢〕、アカッティ〔聖賢〕である。

 

435.(424) 北に、シーダー川がある。深く超え行き難い〔川〕である。葦の火の色をした黄金の山々が、常に輝く。

 

436.(425) タガラ(香料)の薮が生い茂り、ナガ〔樹〕の林の薮が生い茂り、そこにあって、一万の過去の聖賢たちが、かつて〔世に〕存していた。

 

437.(426) わたしは、布施によって、自制によって、さらに、調御によって、最勝なる者として〔世に〕存している──無上なる掟を為して、〔一切を〕振り払って歩む者となり、定められた〔心〕において。

 

438.(427) 〔善き〕生まれある者も、さらに、〔善き〕生まれならざる者も、人として真っすぐに赴く者を、わたしは、末永く礼拝するであろう。なぜなら、行為の眷属として、人間たちはあるからだ。

 

439.(428) 法(正義)ならざるものに依って立つ者たちは、全ての階級の者たちが、〔頭を〕下に、地獄に落ちる。全ての階級の者たちが、最上の法(正義)〔の道〕を歩んで、清浄となる』〔と〕。

 

440.(429) マガヴァント(帝釈天)は、天の王たるスジャーの亭主は、この〔言葉〕を説いて、ヴェーデーハ〔王〕に教え示して、天上の衆のもとへと立ち去った。

 

441.(430) 〔帝釈天が言った〕『諸君よ、この〔言葉〕を、こころして聞きたまえ──ここにおいて集いあつまった、そのかぎりの者たちは。法(正義)にかなう人間たちには、多くの高下なる階級がある。

 

442.(431) すなわち、この、ニミ王が、善を義(目的)とする賢者としてあるように。王は、敵を調御する者は、全てのヴィデーハ〔国〕の者たちに、布施を施した。

 

443.(432) 彼が、その布施を施していると、思惟が生起した。「あるいは、布施か、あるいは、梵行か、いったい、どちらが、大いなる果となるのか」』〔と〕。

 

444.(433) 〔人々が言った〕『まさに、世における、未曾有のことである。身の毛のよだつことが生起した。天の車が、盛名あるヴェーデーハ〔王〕(菩薩)のもとに出現した』〔と〕。

 

445.(434) 天子にして大いなる神通ある者は、天の馭者たるマータリ(帝釈天の馭者)は、ミティラーを収め取るヴェーデーハ王を招いた。

 

446.(435) 〔マータリが言った〕『最勝の王よ、方角の長よ、さあ、この車に乗ってください。天〔の神々〕たちは、インダを含む三十三〔天の神々〕たちは、あなたと会うことを欲しています。まさに、天〔の神々〕たちは、あなたのことを思い浮かべながら、スダンマー〔の集会場〕に共に坐しています』〔と〕。

 

447.(436) そののち、ミティラーを収め取るヴェーデーハ王は、急ぎ、坐から立ち上がって、〔マータリに〕面前し、〔彼の〕車に乗った。

 

448.(437) 天の車に乗り込んだ〔ニミ〕に、マータリは、この〔言葉〕を説いた。〔マータリが尋ねた〕『最勝の王よ、方角の長よ、どのような道によって、あなたをお連れしましょうか。あるいは、すなわち、悪しき行為の者たちがいるところであり、さらに、すなわち、善き行為の人たちがいるところです』〔と〕。

 

449.(438) 〔菩薩は答えた〕『マータリよ、天の馭者よ、まさしく、両者によって、わたしをお連れください。あるいは、すなわち、悪しき行為の者たちがいるところであり、さらに、すなわち、善き行為の人たちがいるところです』〔と〕。

 

450.(439) 〔マータリが尋ねた〕『最勝の王よ、方角の長よ、どのような〔道〕によって、最初に、あなたをお連れしましょうか。あるいは、すなわち、悪しき行為の者たちがいるところであり、さらに、すなわち、善き行為の人たちがいるところです』〔と〕。

 

451.(440) 〔菩薩は答えた〕『まずは、諸々の地獄を見ましょう──悪しき行為の者たちの諸々の居住所を。残忍な行為の者たちの諸々の境位であり、さらに、すなわち、劣戒の者たちの境遇です』〔と〕。

 

452.(441) マータリは、王に見せた──ヴェータラニー川の難所を、煮えたぎり、灰がまぶされ、熱せられた、火炎の如き〔川〕を。

 

453.(442) ニミは、まさに、マータリに語りかけた──難所に落ちている人を見て。〔菩薩は尋ねた〕『馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、ヴェータラニー〔川〕に落ち行きます』〔と〕。

 

454.(443) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

455.(444) 〔マータリが答えた〕『すなわち、極めて悪しき法(性質)の者たちが、力ある者たちとしてあり、生あるものの世において、力弱き者たちを害し、悩ますなら、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、ヴェータラニー〔川〕に落ちます』〔と〕。

 

456.(445) 〔菩薩は尋ねた〕『そして、黒犬たちが、さらに、まだらのものたちが、鷲たちが、大烏たちの群れが、恐ろしきものたちが、〔彼らを〕食べます。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちを、大烏たちの群れが食べます』〔と〕。

 

457.(446) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

458.(447) 〔マータリが答えた〕『彼らが誰であれ、これらの物惜で吝嗇の者たちが、沙門や婆羅門たちを誹謗する者たちとしてあり、極めて悪しき法(性質)の者たちとして、〔沙門や婆羅門たちを〕害し、悩ますなら、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちを、大烏たちの群れが食べます』〔と〕。

 

459.(448) 〔菩薩は尋ねた〕『〔熱せられ〕光を有するものと成った〔彼ら〕は、地を進み行きます。そして、〔獄卒たちは〕諸々の熱せられた棍棒で、〔彼らを〕打ちます。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、諸々の棍棒で打ち殺され、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

460.(449) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

461.(450) 〔マータリが答えた〕『すなわち、極めて悪しき法(性質)の者たちが、生あるものの世において、悪しき法(性質)なき者を──そして、男を、さらに、女を──害し、悩ますなら、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、諸々の棍棒で打ち殺され、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

462.(451) 〔菩薩は尋ねた〕『他の者たちは、火坑に〔落ち、諸々の炭火に〕まみれます。五体が遍く焼かれ、泣き叫んでいる人たちがいます。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、火坑に〔落ち、諸々の炭火に〕まみれます』〔と〕。

 

463.(452) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

464.(453) 〔マータリが答えた〕『彼らが誰であれ、組合の財産を因として、友誼を為して、借金を踏み倒すなら、人のインダよ、彼らは、人民を搾取して〔そののち〕、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、火坑に〔落ち、諸々の炭火に〕まみれます』〔と〕。

 

465.(454) 〔菩薩は尋ねた〕『〔熱せられ〕光を有するものと成り、燃え盛り、燃え上がる、大きな銅の釜が見えます。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、頭を下にして、銅の釜に落ちます』〔と〕。

 

466.(455) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

467.(456) 〔マータリが答えた〕『すなわち、極めて悪しき法(性質)の者たちが、戒ある沙門を──あるいは、〔戒ある〕婆羅門を──害し、悩ますなら、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、頭を下にして、銅の釜に落ちます』〔と〕。

 

468.(457) 〔菩薩は尋ねた〕『そこで、〔獄卒たちは、彼らの首を〕捩じ曲げて、〔彼らを〕熱水のなかに浸して、首を引き抜きます。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、頭を刈り取られ、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

469.(458) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

470.(459) 〔マータリが答えた〕『すなわち、極めて悪しき法(性質)の者たちが、生あるものの世において、翼あるものたちを捕捉して、〔その身体を〕捩じ曲げるなら、人のインダよ、彼らは、鳥〔の身体を〕を捩じ曲げて、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、頭を刈り取られ、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

471.(460) 〔菩薩は尋ねた〕『沢山の水があるも、依って立つ岸がないこともなく、美しい岸辺があり、この川は流れ行きます。炎暑に焼かれた人間たちが、〔水を〕飲みます。そして、〔水を〕飲んだとして、〔それを〕飲むべくも、彼らには、籾殻と成ります。

 

472.(461) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか。そして、〔水を〕飲んだとして、〔それを〕飲むべくも、彼らには、籾殻と成ります』〔と〕。

 

473.(462) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

474.(463) 〔マータリが答えた〕『すなわち、清浄ならざる行為の者たちが、清浄なる穀物を、葉〔や籾殻〕を混ぜ、〔偽って〕買い手に与えるなら、炎暑に焼かれ、渇きある〔彼ら〕が、そして、〔水を〕飲んだとして、〔それを〕飲むべくも、彼らには、籾殻と成ります』〔と〕。

 

475.(464) 〔菩薩は尋ねた〕『諸々の矢によって、さらに、諸々の刃によって、諸々の槍によって、〔獄卒たちは〕泣き叫んでいる者たちの両の脇を刺します。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、諸々の刃で打ち殺され、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

476.(465) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

477.(466) 〔マータリが答えた〕『すなわち、善ならざる行為の者たちが、生あるものの世において、与えられていないものを取って、生計を為すなら──穀物を、財産を、銀を、金を、さらに、また、山羊と羊を、家畜を、水牛を──それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、諸々の刃で打ち殺され、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

478.(467) 〔菩薩は尋ねた〕『また、どうして、これらの者たちは、或る者たちは首を縛られ、他の者たちは切り裂かれ、片々に為され、〔地に〕臥すのですか。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、片々に為され、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

479.(468) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

480.(469) 〔マータリが答えた〕『屠羊者たちは、そして、屠豚者たちは、漁夫たちは、家畜を、そして、水牛を、さらに、山羊と羊を、〔それらを〕打ち殺して、肉屋たちに差し出しました。それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、片々に為され、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

481.(470) 〔菩薩は尋ねた〕『この湖は、糞尿に満ち、悪しき臭いある様子で、不浄にして、腐臭を放ちます。飢えに打ち負かされた人間たちは、〔それを〕食します。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、糞尿を食物とする者たちです』〔と〕。

 

482.(471) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

483.(472) 〔マータリが答えた〕『彼らが誰であれ、これらの者たちが、懲罰者たちとして、圧政者たちとして、他者たちを害することに、常に固着しているなら、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、朋友を裏切る愚者たちは、糞を食します』〔と〕。

 

484.(473) 〔菩薩は尋ねた〕『この湖は、血と膿に満ち、悪しき臭いある様子で、不浄にして、腐臭を放ちます。炎暑に焼かれた人間たちは、〔それを〕飲みます。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、血と膿を食物とする者たちです』〔と〕。

 

485.(474) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

486.(475) 〔マータリが答えた〕『すなわち、極罪者たちとして、生あるものの世において、あるいは、母を、あるいは、父を、阿羅漢たちを打ち殺すならそれらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、血と膿を食物とする者たちとなります』〔と〕。

 

487.(476) 〔菩薩は尋ねた〕『そして、釣針で貫かれた舌を見てください。あたかも、百の杭で剥がされたかのような皮を。陸に投げ放たれた魚たちのように、〔彼らは〕震えおののきます。どうして、これらの者たちは、泣き叫びながら、唾液を放つのですか。

 

488.(477) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、鉤を呑み、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

489.(478) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

490.(479) 〔マータリが答えた〕『彼らが誰であれ、取引に赴いた人間たちが、価値によって値段を提示するも、財産への貪欲を因として、あたかも、隠れている魚を殺すための〔釣針〕ように、でまかせ〔の価値〕によってでまかせ〔の値段〕を〔提示するなら〕──

 

491.(480) まさに、でまかせを為す者に、諸々の自らの行為を偏重する者に、諸々の救護所は有りえず、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、鉤を呑み、〔地に〕臥します』〔と〕。

 

492.(481) 〔菩薩は尋ねた〕『これらの女たちは、五体が等しく遍く破壊され、〔両の〕腕を差し出して、泣き叫びます。悪しき生まれの者たちは、血と膿に汚れ、塗りたくられ、あたかも、屠殺場で切り裂かれた牛たちのようです。彼女たちは、土地の部分部分に常に埋められ、〔熱せられ〕光を有するものと成り、肩から身を出します。

 

493.(482) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの女たちは、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか。すなわち、土地の部分部分に常に埋められ、〔熱せられ〕光を有するものと成り、肩から身を出します』〔と〕。

 

494.(483) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

495.(484) 〔マータリが答えた〕『良家の婦女たちが、ここに、生あるものの世において、清浄ならざる行為の者たちとして、正しからざる〔道〕を歩みました。彼女たちは、倨傲なる形質の者たちは、亭主を捨棄して、歓楽と遊興を因として、他者のもとに歩みました。彼女たちは、生あるものの世において、〔自ら〕喜び楽しんで、〔熱せられ〕光を有するものと成り、肩から身を出します』〔と〕。

 

496.(485) 〔菩薩は尋ねた〕『また、どうして、これらの者たちは、或る者たちは、〔両の〕足を掴まれて、頭を下にして、地獄に落とされるのですか。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、頭を下にして、奈落に落とされます』〔と〕。

 

497.(486) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

498.(487) 〔マータリが答えた〕『すなわち、善ならざる行為の者たちが、生あるものの世において、他者の妻たちを犯すなら、彼らは、そのような者たちは、最上の物品を盗む者たちです。それで、これらの人たちは、頭を下にして、奈落に落とされます。

 

499.(488) 彼らは、多くの膨大なる年月のあいだ、そこにおいて、諸々の地獄において、苦痛の感受を感受します。まさに、悪しき〔行為〕を為す者に、諸々の自らの行為を偏重する者に、諸々の救護所は有りえず、それらの残忍な行為の者たちは、悪しき〔行為の果〕を生んで、それで、これらの人たちは、頭を下にして、奈落に落とされます』〔と〕。

 

500.(489) 〔菩薩は尋ねた〕『これらの、高下にして様々な種類のやり方の、極めておぞましき形態のものが、諸々の地獄において見られます。馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、恐怖〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような悪しき〔行為〕を為したのですか──すなわち、これらの人たちは、諸々の旺盛にして強烈なる、諸々の粗野にして辛辣なる、苦痛の感受を感受します』〔と〕。

 

501.(490) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。悪しき行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

502.(491) 〔マータリが答えた〕『すなわち、極めて悪しき見解ある迷者たちが、生あるものの世において、諸々の信頼の行為を為し、かつまた、諸々の見解にたいし、他者を受持させるなら、彼らは、悪しき見解を〔保持して〕、悪しき〔行為〕を生んで、それで、これらの人たちは、諸々の旺盛にして強烈なる、諸々の粗野にして辛辣なる、苦痛の感受を感受します。

 

503.(492) 大王よ、あなたによって、悪しき行為の者たちの諸々の居住所が知られました。残忍な行為の者たちの諸々の境位であり、さらに、すなわち、劣戒の者たちの境遇です。聖賢たる王よ、今や、お出かけなされ──天の王(帝釈天)の現前に』〔と〕。

 

504.(493) 〔菩薩は尋ねた〕『五つの塔ある、この天宮が見られます。臥所の中央には、諸々の花飾の装飾品が〔見られます〕。そこにおいて、大いなる威力ある女が坐し、高下に神通を変異しています。

 

505.(494) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、この者は、女として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼女は、天上に至り得た者として、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

506.(495) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

507.(496) 〔マータリが答えた〕『すなわち、あなたの聞くところである、ビーラニーは、生あるものの世において、婆羅門〔の家〕の生っ粋の奴婢として〔世に〕有りました。彼女は、時に至り得たなら、客(行乞者)を見出して、母が子を〔迎える〕ように、常に喜びました。自制あることから、かつまた、分与あることから、彼女は、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

508.(497) 〔菩薩は尋ねた〕『七つの天宮が化作され、発光しながら輝きわたります。そこにおいて、大いなる威力ある夜叉が、一切の装飾品に飾られ、女たちの群れに囲まれ、遍きにわたり巡り行きます。

 

509.(498) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、この者は、人間として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼は、天上に至り得た者として、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

510.(499) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

511.(500) 〔マータリが答えた〕『この者は、ソーナディンナは、家長として、施主として、〔世に〕有りました。この者は、出家者向けに、七つの精舎を作らせました。

 

512.(501) そこにおいて、住する比丘たちに、彼らに、恭しく奉仕しました。そして、衣服を、さらに、食事を、臥坐具を、灯具を、〔心が〕真っすぐと成った者たちにたいし施しました──清信した心で。

 

513.(502) 十四日と十五日に、そして、すなわち、半月〔ごと〕の第八日に、さらに、神変月には、八つの支分が見事に伴った──

 

514.(503) 斎戒に入りました──諸戒において、常に統御された者となり。自制あることから、かつまた、分与あることから、彼は、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

515.(504) 〔菩薩は尋ねた〕『この宮殿は、諸々の水晶のなか、見事に化作され、光り輝きます。美女たちの群れがそぞろ行き、優れた楼閣が積み重なり、諸々の食べ物と飲み物を具し、さらに、同様に、諸々の舞踏と歌詠を〔具しています〕。

 

516.(505) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼らは、天上に至り得た者たちとして、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

517.(506) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

518.(507) 〔マータリが答えた〕『彼女たちが誰であれ、女として、ここに、生あるものの世において、戒ある女性在俗信者たちとなり、布施を喜ぶ者たちとなり、常に清信した心の者たちとなり、真理に依って立つ者たちとなり、斎戒に怠りなき者たちとなるなら、自制あることから、かつまた、分与あることから、彼女たちは、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

519.(508) 〔菩薩は尋ねた〕『この宮殿は、諸々の瑠璃のなか、見事に化作され、光り輝きます。諸々の〔快意なる〕土地の区画を具し、等分に計量され区分されています。

 

520.(509) 諸々の鼓があり、さらに、諸々の小鼓があり、諸々の舞踏と歌詠があり、諸々の善き音楽があり、必聴にして、意が喜びとする、諸々の天の音声が放たれます。

 

521.(510) わたしは、まったくもって、ありません──かつて、このような在り方の、このような極めて好ましい、〔天の〕音声を等しく証知することは。あるいは、見たことも〔なく〕、もしくは、あるいは、聞いたことも〔ありません〕。

 

522.(511) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼らは、天上に至り得た者たちとして、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

523.(512) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

524.(513) 〔マータリが答えた〕『彼らが誰であれ、人間として、ここに、生あるものの世において、戒ある在俗信者たちとなり、諸々の林園を、そして、諸々の井戸を、諸々の水場を、さらに、諸々の橋を、阿羅漢にたいし、〔心が〕清涼と成った者にたいし、恭しく奉施しました。

 

525.(514) 衣料を、そして、〔行乞の〕施食を、日用品を、臥坐具を、〔心が〕真っすぐと成った者たちにたいし施しました──清信した心で。

 

526.(515) 十四日と十五日に、そして、すなわち、半月〔ごと〕の第八日に、さらに、神変月には、八つの支分が見事に伴った──

 

527.(516) 斎戒に入りました──諸戒において、常に統御された者たちとして。自制あることから、かつまた、分与あることから、彼らは、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

528.(517) 〔菩薩は尋ねた〕『この宮殿は、諸々の水晶のなか、見事に化作され、光り輝きます。美女たちの群れがそぞろ行き、優れた楼閣が積み重なり──

 

529.(518) 諸々の食べ物と飲み物を具し、さらに、同様に、諸々の舞踏と歌詠を〔具しています〕。そして、川が巡り行き、種々なる花や木が群生しています。

 

530.(519) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、この者は、人間として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼は、天上に至り得た者として、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

531.(520) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

532.(521) 〔マータリが答えた〕『この者は、ミティラーの家長として、施主として、〔世に〕有りました。諸々の林園を、そして、諸々の井戸を、諸々の水場を、さらに、諸々の橋を、阿羅漢にたいし、〔心が〕清涼と成った者にたいし、恭しく奉施しました。

 

533.(522) 衣料を、そして、〔行乞の〕施食を、日用品を、臥坐具を、〔心が〕真っすぐと成った者たちにたいし施しました──清信した心で。

 

534.(523) 十四日と十五日に、そして、すなわち、半月〔ごと〕の第八日に、さらに、神変月には、八つの支分が見事に伴った──

 

535.(524) 斎戒に入りました──諸戒において、常に統御された者となり。自制あることから、かつまた、分与あることから、彼は、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

536.(525) 〔菩薩は尋ねた〕『この宮殿は、諸々の水晶のなか、見事に化作され、光り輝きます。美女たちの群れがそぞろ行き、優れた楼閣が積み重なり──

 

537.(526) 諸々の食べ物と飲み物を具し、さらに、同様に、諸々の舞踏と歌詠を〔具しています〕。そして、川が巡り行き、種々なる花や木が群生しています。

 

538.(527) 諸々のラージャーヤタナ〔樹〕が、そして、諸々のカピッタ〔樹〕が、諸々のアンバ〔樹〕が、そして、諸々のサーラ〔樹〕が、諸々のジャンブ〔樹〕が、そして、諸々のティンドゥカ〔樹〕が、そして、諸々のピヤーラ〔樹〕があり、木々の多くは、常に果があります。

 

539.(528) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、この者は、人間として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼は、天上に至り得た者として、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

540.(529) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

541.(530) 〔マータリが答えた〕『この者は、ミティラーの家長として、施主として、〔世に〕有りました。諸々の林園を、そして、諸々の井戸を、諸々の水場を、さらに、諸々の橋を、阿羅漢にたいし、〔心が〕清涼と成った者にたいし、恭しく奉施しました。

 

542.(531) 衣料を、そして、〔行乞の〕施食を、日用品を、臥坐具を、〔心が〕真っすぐと成った者たちにたいし施しました──清信した心で。

 

543.(532) 十四日と十五日に、そして、すなわち、半月〔ごと〕の第八日に、さらに、神変月には、八つの支分が見事に伴った──

 

544.(533) 斎戒に入りました──諸戒において、常に統御された者となり。自制あることから、かつまた、分与あることから、彼は、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

545.(534) 〔菩薩は尋ねた〕『この宮殿は、諸々の瑠璃のなか、見事に化作され、光り輝きます。諸々の〔快意なる〕土地の区画を具し、等分に計量され区分されています。

 

546.(535) 諸々の鼓があり、さらに、諸々の小鼓があり、諸々の舞踏と歌詠があり、諸々の善き音楽があり、必聴にして、意が喜びとする、諸々の天の音声が放たれます。

 

547.(536) わたしは、まったくもって、ありません──かつて、このような在り方の、このような極めて好ましい、〔天の〕音声を等しく証知することは。あるいは、見たことも〔なく〕、もしくは、あるいは、聞いたことも〔ありません〕。

 

548.(537) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、この者は、人間として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼は、天上に至り得た者として、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

549.(538) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

550.(539) 〔マータリが答えた〕『この者は、バーラーナシーの家長として、施主として、〔世に〕有りました。諸々の林園を、そして、諸々の井戸を、諸々の水場を、さらに、諸々の橋を、阿羅漢にたいし、〔心が〕清涼と成った者にたいし、恭しく奉施しました。

 

551.(540) 衣料を、そして、〔行乞の〕施食を、日用品を、臥坐具を、〔心が〕真っすぐと成った者たちにたいし施しました──清信した心で。

 

552.(541) 十四日と十五日に、そして、すなわち、半月〔ごと〕の第八日に、さらに、神変月には、八つの支分が見事に伴った──

 

553.(542) 斎戒に入りました──諸戒において、常に統御された者となり。自制あることから、かつまた、分与あることから、彼は、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

554.(543) 〔菩薩は尋ねた〕『あたかも、昇り行く太陽が、真紅にして大いなるものと成るように、その喩えのように、この宮殿は、黄金によって化作されています。

 

555.(544) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、この者は、人間として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼は、天上に至り得た者として、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

556.(545) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

557.(546) 〔マータリが答えた〕『この者は、サーヴァッティーの家長として、施主として、〔世に〕有りました。諸々の林園を、そして、諸々の井戸を、諸々の水場を、さらに、諸々の橋を、阿羅漢にたいし、〔心が〕清涼と成った者にたいし、恭しく奉施しました。

 

558.(547) 衣料を、そして、〔行乞の〕施食を、日用品を、臥坐具を、〔心が〕真っすぐと成った者たちにたいし施しました──清信した心で。

 

559.(548) 十四日と十五日に、そして、すなわち、半月〔ごと〕の第八日に、さらに、神変月には、八つの支分が見事に伴った──

 

560.(549) 斎戒に入りました──諸戒において、常に統御された者となり。自制あることから、かつまた、分与あることから、彼は、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

561.(550) 〔菩薩は尋ねた〕『宙空において、これらの多く〔の宮殿〕が、黄金によって化作され、発光しながら輝きわたります──雷光が、層雲の間に〔輝く〕ように。

 

562.(551) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、これらの者たちは、人間として、どのような善き〔行為〕を為したのですか。彼らは、天上に至り得た者たちとして、天宮において歓喜します』〔と〕。

 

563.(552) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

564.(553) 〔マータリが答えた〕『見事に知らされた正なる法(教え)にたいし、しっかりと確立した信によって、〔彼らは〕教師の言葉を為しました──正等覚者の教えにおいて。これらの境位は、彼らのものです──王よ、あなたが見る、それらのものは。

 

565.(554) 大王よ、あなたによって、悪しき行為の者たちの諸々の居住所が知られました。さらに、あなたによって、善き行為の者たちの諸々の境位が知られました。聖賢たる王よ、今や、お出かけなされ──天の王(帝釈天)の現前に』〔と〕。

 

566.(555) 千〔の馬〕を設えた馬車に、天の乗物に、〔ニミは〕立ち、進み行きつつ、大王は、シーダー〔海〕を間にする山々を見た。見て、馭者に語りかけた。〔菩薩は尋ねた〕『これらのものは、どのような名の山々なのですか』〔と〕。

 

567. マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

568.(556) 〔マータリが答えた〕『スダッサナ〔山〕であり、カラヴィーカ〔山〕であり、イーサダラ〔山〕であり、ユガンダラ〔山〕であり、ネーミンダラ〔山〕であり、ヴィナタカ〔山〕であり、アッサカンナ〔山〕であり、〔これらの〕高き山々です。

 

569.(557) シーダー〔海〕を間に、順次に屹立している、これらの山々は、大王たちの居住所です──王よ、あなたが見る、それらのものは』〔と〕。

 

570.(558) 〔菩薩は尋ねた〕『無数なる形態の、好ましく、種々なる彩りあるものが、光り輝きます。諸々のインダに等しき〔像〕によって取り囲まれ、虎たちによって善く守られているかのようです。

 

571.(559) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、〔神々は〕この門を、どのようなものと証知し、〔何と〕言うのですか。はるか遠くからでも、意が喜びとするものに見えます』〔と〕。

 

572.(560) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

573.(561) 〔マータリが答えた〕『それを、〔神々は〕「チトラクータ」と言います。天の王が入るところです。スダッサナ山の、まさに、この門が、光り輝きます。

 

574.(562) 無数なる形態の、好ましく、種々なる彩りあるものが、光り輝きます。諸々のインダに等しき〔像〕によって取り囲まれ、虎たちによって善く守られているかのようです。聖賢たる王よ、この〔門〕より、お入りなされ。塵なき地を、踏みしめられよ』〔と〕。

 

575.(563) 千〔の馬〕を設えた馬車に、天の乗物に、〔ニミは〕立ち、進み行きつつ、大王は、〔まさに〕この、天の集会場を見た。

 

576.(564) 〔菩薩は尋ねた〕『あたかも、秋の空に、青き輝きが見られるように、その喩えのように、この宮殿は、諸々の瑠璃のなかに化作されています。

 

577.(565) 馭者よ、まさに、見て〔そののち〕、歓悦〔の思い〕が、わたしを見出します。マータリよ、天の馭者よ、あなたに尋ねます。いったい、この宮殿を、〔神々は〕どのような宝と言うのですか。はるか遠くからでも、意が喜びとするものに見えます』〔と〕。

 

578.(566) マータリは、天の馭者は、〔問いを〕尋ねられた者として、彼に説き明かした。善き行為の者たちの報いを、知っている者として、知らずにいる者に告げ知らせた。

 

579.(567) 〔マータリが答えた〕『それを、〔神々は〕「スダンマ」と言います。見てください。この集会場が見えます。瑠璃にして、好ましく、彩りあざやかな、見事に化作されたものとして、〔神々は〕保持します。

 

580.(568) 八角の見事に作られた諸々の柱があり、〔それらの〕全ては、瑠璃で作られています。そこにおいて、インダを総領とする、全ての三十三天〔の神々〕たちがいます。

 

581.(569) 〔彼らは〕天〔の神々〕と人間たちの義(利益)を思い考えながら、共に坐しています。聖賢たる王よ、この〔門〕より、お入りなされ。天〔の神々〕たちに、随喜〔有れ〕』〔と〕。

 

582.(570) 天〔の神々〕たちは、王がやってきたのを見て、彼を歓迎した。〔神々が言った〕『大王よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。聖賢たる王よ、坐りたまえ、今や、天の王(帝釈天)の現前に』〔と〕。

 

583.(571) 帝釈〔天〕もまた、ミティラーを収め取るヴェーデーハ〔王〕を歓迎した。ヴァーサヴァ(帝釈天)は、諸々の欲望〔の対象〕をもって、さらに、坐をもって、〔彼を〕招いた。

 

584.(572) 〔帝釈天が言った〕『善きかな、まさに、〔あなたは〕存している──自在の転起ある者たちの住居に至り得た者として。聖賢たる王よ、一切の欲望が等しく実現する天〔の神々〕たちのなかで住したまえ。三十三天において、人間のものならざる諸々の欲望〔の対象〕を享受したまえ』〔と〕。

 

585.(573) 〔菩薩は言った〕『あたかも、借り物の乗物のように、あたかも、借り物の財産のように、このように、まさしく、〔この喩えと〕同様のものとして、これ(功徳なき欲望の享受)はあります──すなわち、他者からの施しを縁とするがゆえに。

 

586.(574) そして、わたしは、これ(功徳なき欲望の享受)を求めません──すなわち、他者からの施しを縁とするがゆえに。自ら作り為したものとして、諸々の功徳があるなら、それは、わたしにとって、固有の財産となります。

 

587.(575) 〔まさに〕その、わたしは、〔人間の世に〕赴いて、人間たち〔の世〕において、多くの善なる〔功徳〕を作り為すでしょう──布施によって、正しい性行によって、自制によって、さらに、調御によって。それを為して、〔世の人々が〕安楽の者たちと成り、そして、のちに悩み苦しまない、〔多くの善なる功徳を〕』〔と〕。

 

588.(576) 〔マータリに、菩薩は言った〕『マータリよ、天の馭者よ、貴君は、まさに、多くの資益ある方です。すなわち、わたしに、善き行為の者たちの〔報いを〕、悪しき〔行為〕の者たちの〔報いを〕、見せてくれました』〔と〕。

 

589.(577) ニミ王は、ミティラーを収め取るヴェーデーハ〔王〕は、この〔言葉〕を説いて、多々なる祭祀を執り行なって、自制に到達したのだった」〔と〕。ということで──

 

 ニミ・ジャータカが、第四となる。

 

22. 1. 5. ウマンガ・ジャータカ(隧道・本生物語546)

 

590.(1451) 〔ヴェーデーハ王が言った〕「パンチャーラ〔王〕のブラフマダッタが、この者が、全軍をもって到来したのだ。マホーサダ(菩薩)よ、〔まさに〕その、パンチャーラの軍団は、これは、量りようもない〔数〕のもの。

 

591.(1452) 機動部隊の者たちも、歩兵部隊の者たちも、全てが戦いの熟知者たちである。重々しき音声で、太鼓や法螺貝が目覚ましい。

 

592.(1453) 銅の工芸品が輝きを十分に作り為し、旗をあげ、〔象や馬に〕左から騎乗し、諸々の技能を善く成就し、勇士たちによって善く確立している。

 

593.(1454) 〔人々は〕言う。ここにおいて、広き智慧ある密事の顧問たる、十者の賢者たちがいる。王の母がいて十一者となり、パンチャーラ〔の軍団〕を指図する。

 

594.(1455) さらに、ここにおいて、従い行く者たちとして、一百の盛名ある士族たちがいる。国土を奪い取られ、動揺し、パンチャーラ〔の軍団〕の支配に赴いた者たちである。

 

595.(1456) 王のために、それを説くなら、それを為す者たちである──〔嫌々ながら〕欲することなく、愛しき話し手たちとして。〔彼らは〕パンチャーラ〔王〕に従い行く──〔嫌々ながら〕欲することなく、支配に赴いた者たちとして。

 

596.(1457) その軍団によって、ミティラーは、三重に取り囲まれた。ヴィデーハ〔国〕の王都は、遍きにわたり埋め尽くされた。

 

597.(1458) 高きにある星の類のように、遍きにわたり取り囲まれた。マホーサダよ、識知せよ。どうして、〔敵からの〕解放が有るというのだろう」〔と〕。

 

598.(1459) 〔菩薩は言った〕「陛下よ、〔両の〕足をお伸ばしください。諸々の欲望〔の対象〕を享受したまえ、そして、喜び楽しむのです。ブラフマダッタ〔王〕は、パンチャーラの軍団を捨棄して、逃げ去ります」〔と〕。

 

599.(1460) 〔ヴェーデーハ王に、和睦使のケーヴァッタが言った〕「親交を欲する王(ブラフマダッタ)は、あなたに、諸々の宝を献じます。こののち、美妙にして愛しき話し手の使者たちが、〔ここに〕到来せよ。

 

600.(1461) 諸々の柔和なる言葉を、〔彼らは〕語れ──すなわち、諸々の歓迎される言葉を。そして、パンチャーラ〔国〕は、さらに、ヴィデーハ〔国〕は、両者ともに、それらは、一つと成れ」〔と〕。

 

601.(1462) 〔ヴェーデーハ王が尋ねた〕「ケーヴァッタよ、いったい、どのように、マホーサダとの会合は存したのか。さあ、それを説きたまえ。どうであろう、あなたに、納得するところがあったのか。どうであろう、マホーサダは、満足したのか」〔と〕。

 

602.(1463) 〔ケーヴァッタが答えた〕「人のインダよ、〔マホーサダは〕人として、聖ならざる形質の者であり、親身ならず、強情で、卑劣なる形質の者です。あたかも、そして、唖でもあるかのように、さらに、聾でもあるかのように、何であれ、義(意味)あることを語りませんでした」〔と〕。

 

603.(1464) 〔ケーヴァッタを退去させ、一人になったヴェーデーハ王が言った〕「たしかに、この呪文の句(和睦の印としてパンチャーラ王の娘を娶り、婚姻のためにパンチャーラに行くことを要請する、ケーヴァッタの言葉)は、極めて見難きものである。義(道理)は、人の精進によって、清浄となり、〔事実のとおりに〕見られたものとなる。まさに、そのように、わたしの身体は、等しく動揺する(ケーヴァッタの言葉は信じられない)。自らの〔国土〕を捨棄して、誰が、他者の手に至るというのだろう」〔と〕。

 

604.(1465) 〔菩薩に、ヴェーデーハ王が言った〕「まさに、六者の思慧は、まさしく、一つに、合致する(相談した六者全員がパンチャーラ行きを進言したので、パンチャーラに行くつもりである)。彼らは、最上の広き〔智慧〕に至り得た賢者たちである。マホーサダよ、行くか、行かざるか、さらに、あるいは、また、止(とど)まるか、おまえもまた、思慧を為せ(意見を聞かせよ)」〔と〕。

 

605.(1466) 〔菩薩は言った〕「王よ、まさに、〔あなたは〕知っておられます。チューラニ・ブラフマダッタ(パンチャーラ王)は、大いなる威力ある者であり、大いなる勢力ある者です。そして、王は、〔あなたの〕死を義(目的)として、あなたに求めます──あたかも、猟師が、鹿を、家で飼う〔囮の鹿〕で〔捕獲する〕ように。

 

606.(1467) あたかも、また、釣針を、肉で覆われた鉤を、魚が、生(なま)ものを貪り求める魚が、自己の死と知らないように──

 

607.(1468) 王よ、まさしく、このように、あなたは、チューラネイヤ(チューラニ・ブラフマダッタ)の娘を、自己の死と知りません──欲望〔の対象〕を貪り求める〔あなた〕は、魚のようなもの。

 

608.(1469) それで、もし、〔あなたが〕パンチャーラ〔王〕のもとに赴くなら、すみやかに、自己を捨棄することになるでしょう──道に従い行く鹿のもとに、大いなる恐怖が至り行くように」〔と〕。

 

609.(1470) 〔ヴェーデーハ王が言った〕「まさしく、わたしたちは、愚者たちとして、聾唖たちとして、〔世に〕存している。すなわち、諸々の最上の義(意味)を、おまえと談じてしまったのだ。鋤の端で育て上げられたおまえが、まさしく、どうして、諸々の義(意味)を知るというのだろう──すなわち、また、他の者たちが〔知る〕ように。

 

610.(1471) この者を、首を掴んで、わたしの領土から消してしまえ。すなわち、宝を得るわたしの障りとなるべく、〔この者は〕語る」〔と〕。

 

611.(1472) 〔世尊は言った〕「そして、そののち、彼は、ヴェーデーハ〔王〕の近前から立ち去って、そこで、使者に告げた──鸚鵡の賢者たるマーダラに」〔と〕。

 

612.(1473) 〔菩薩は言った〕「友よ、緑の翼ある者よ、さあ、わたしのために、仕事を為しておくれ。パンチャーラ王には、臥所の番人として、雌の九官鳥が存在する。

 

613.(1474) 彼女に、ねんごろに尋ねるのだ。なぜなら、彼女は、一切の熟知者であり、彼女は、彼らの一切を知るからである──かつまた、王のことも、かつまた、コーシヤ(ケーヴァッタ)のことも」〔と〕。

 

614.(1475) 〔世尊は言った〕「『たしかに』と、彼は答えて、鸚鵡の賢者たるマーダラは、緑の翼ある者は、雌の九官鳥の近前に赴いた。

 

615.(1476) そして、そののち、まさに、彼は、〔雌の九官鳥のもとに〕赴いて、鸚鵡の賢者たるマーダラは、そこで、善き家の者に告げた──美妙なる鳴き手の雌の九官鳥に」〔と〕。

 

616.(1477) 〔鸚鵡が言った〕「善き家の方よ、どうでしょう、尊女には、息災であられますか。庶民の出たる方よ、どうでしょう、悩みなくあられますか。どうでしょう、尊女には、甘美なる炒り米は得られますか。善き家の方よ、尊女は」〔と〕。

 

617.(1478) 〔九官鳥が言った〕「友よ、まさしく、そして、わたしには、健やかにあります。友よ、さらに、悩みなくあります。そこで、わたしには、甘美なる炒り米が得られます。鸚鵡の賢者たる方よ。

 

618.(1479) 友よ、いったい、どこからやってきて、あるいは、誰の〔使者として〕、あなたは、〔ここに〕送られたのですか。そして、〔あなたは〕存します──わたしにとって、これより過去において、あるいは、見たことも〔なく〕、もしくは、あるいは、聞いたこともない者として」〔と〕。

 

619.(1480) 〔鸚鵡が言った〕「シヴィ〔王〕の高楼における臥所の番人として、〔わたしは〕有りました。そののち、彼は、法(正義)にかなう王は、結縛された者たちを、結縛から解き放ちました。

 

620.(1481) 〔まさに〕その、わたしには、一者の伴侶が存しました。美妙なる鳴き手の雌の九官鳥です。そこにおいて、彼女を、鷹が打ち殺したのです──善き家の方よ、わたしが見ているところで。

 

621.(1482) まさに、彼女への欲望ゆえに夢中になった〔わたし〕は、あなたの前に到来した者として存しています。それで、もし、機会を作ってくださるなら、まさしく、〔わたしとあなたの〕両者で住するのです」〔と〕。

 

622.(1483) 〔九官鳥が言った〕「まさしく、雄の鸚鵡は、雌の鸚鵡を欲するべきであり、いっぽう、雄の九官鳥は、雌の九官鳥を〔欲するべきです〕。雄の鸚鵡にとって、まさしく、雌の九官鳥との共住は、どのようなものと成るのでしょうか」〔と〕。

 

623.(1484) 〔鸚鵡が言った〕「すなわち、この者が、諸々の欲望〔の対象〕を欲するなら、たとえ、チャンダーラ(賎民)〔の女〕でさえも〔欲します〕。なぜなら、全ての者は、等しき者として〔世に〕有るからです。欲望〔の対象〕において、等しからざる者は存在しません。

 

624.(1485) ジャンパーヴァティーという名の〔チャンダーラの女〕が存在します。シヴィ王の母です。彼女は、ヴァースデーヴァの妻です。カンハ(ヴァースデーヴァ)の愛しき王妃です。

 

625.(1486) 妖精のラッタヴァティーは、彼女もまた、〔人間の〕ヴァッチャを欲しました。人間が、雌の獣と共にあるのです。欲望〔の対象〕において、等しからざる者は存在しません。

 

626.(1487) 美妙なる鳴き手の雌の九官鳥よ、さあ、まさに、わたしは、去りましょう。まさに、〔あなたの〕この〔言葉〕は、拒絶の句です。まちがいなく、〔あなたは〕わたしのことを軽んじておられます」〔と〕。

 

627.(1488) 〔九官鳥が言った〕「鸚鵡の賢者たるマーダラよ、急いでいる者に、吉祥はありません。すなわち、〔あなたが〕王を見るまで、それまでは、まさしく、ここに、居てください。諸々の小鼓の音声を聞くでしょう。さらに、王の威力を〔見るでしょう〕」〔と〕。

 

628.(1489) 〔鸚鵡が言った〕「はてさて、すなわち、まさに、これは、強烈なる音声(評判)にして、地方を超えて聞こえてきたものです。『パンチャーラ王の娘は、明星のように色艶ある方である。彼女を、ヴィデーハ〔国〕に与えるであろう。その婚姻が有るであろう』」〔と〕。

 

629.(1490) 〔九官鳥が言った〕「マーダラよ、朋友ならざる者たちに、このような婚姻が有ってたまりますか。すなわち、パンチャーラ王に、ヴェーデーハ〔王〕と〔娘との婚姻が〕有るであろう、〔という、そのような馬鹿げたことが〕。

 

630.(1491) ヴェーデーハ〔王〕を連れてきて、パンチャーラ〔国〕の車上の雄牛(王)は、そののち、彼を殺害するでしょう。彼の友人には成らないでしょう」〔と〕。

 

631.(1492) 〔鸚鵡が言った〕「さあ、まさに、わたしをお許しください──七夜ばかり〔の他在〕を。すなわち、わたしが、大いなる聖賢たるシヴィ王に、『さてまた、わたしの住居が、雌の九官鳥の近前に得られました』〔と〕告げるまで」〔と〕。

 

632.(1493) 〔九官鳥が言った〕「さあ、まさに、あなたを許します──七夜ばかり〔の他在〕を。それで、もし、あなたが、七夜ののち、わたしの前に帰ってこないなら、思うに、わたしは絶命し、〔あなたは〕死んだ者のもとに帰ってくるのです」〔と〕。

 

633.(1494) 〔世尊は言った〕「そして、そののち、まさに、彼は、〔マホーサダのもとに〕赴いて、鸚鵡の賢者たるマーダラは、マホーサダに告げ知らせた。『これが、雌の九官鳥の言葉です』」〔と〕。

 

634.(1495・1496) 〔王に、菩薩は言った〕「まさしく、彼の家で、財物を受益するなら、人士たる者は、まさしく、彼の義(利益)を、行なうべきです。人のインダよ、さあ、わたしが、先に赴きます──パンチャーラ王の、極めて喜ばしき都に、盛名あるヴェーデーハ〔王〕の諸々の住居地を造作するために。

 

635.(1497) 盛名あるヴェーデーハ〔王〕の諸々の住居地を造作して、すなわち、〔わたしが〕あなたに〔使者を〕送るとき、士族よ、そのとき、〔あなたは〕行かれませ」〔と〕。

 

636.(1498) 〔世尊は言った〕「そして、そののち、マホーサダは、先に出発した──パンチャーラ王の、極めて喜ばしき都に、盛名あるヴェーデーハ〔王〕の諸々の住居地を造作するために。

 

637.(1499) 盛名あるヴェーデーハ〔王〕の諸々の住居地を造作して、そこで、彼に、ミティラーを収め取るヴェーデーハ〔王〕に、使者を送った。〔使者が言った〕『大王よ、さあ、今や、あなたの住居地が造作されました』〔と〕。

 

638.(1500) そして、そののち、王は、四つの支分(象兵・馬兵・車兵・歩兵)ある軍団とともに出発した──無数の旅団があり、興隆するカピリヤの都を見るために。

 

639.(1501) そして、そののち、まさに、彼は、〔都に〕赴いて、ブラフマダッタ(パンチャーラ王)に、〔使者を〕送った」〔と〕。〔使者が言った〕「大王よ、あなたの〔両の〕足を敬拝するために到来した者として、〔わたしは〕存しています。

 

640.(1502) 今や、わたしに、全ての肢体が美しく輝く女を、妻として与えたまえ──金に覆われた、奴婢たちの群れに尊ばれる者を」〔と〕。

 

641.(1503) 〔パンチャーラ王が言った〕「ヴェーデーハよ、まさしく、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。まさしく、星宿を遍問したまえ。わたしは、あなたに、少女を与えよう──金に覆われた、奴婢たちの群れに尊ばれる者を」〔と〕。

 

642.(1504) 〔世尊は言った〕「そして、そののち、ヴェーデーハ王は、星宿を遍問した。星宿を遍問して、ブラフマダッタに、〔使者を〕送った」〔と〕。

 

643.(1505) 〔使者が言った〕「今や、わたしに、全ての肢体が美しく輝く女を、妻として与えたまえ──金に覆われた、奴婢たちの群れに尊ばれる者を」〔と〕。

 

644.(1506) 〔パンチャーラ王が言った〕「今や、あなたに、全ての肢体が美しく輝く女を、妻として与えよう──金に覆われた、奴婢たちの群れに尊ばれる者を」〔と〕。

 

645.(1507) 〔賢者たちに、ヴェーデーハ王が尋ねた〕「象〔兵〕たちが、馬〔兵〕たちが、車〔兵〕たちが、歩〔兵〕たちが、諸々の武装した軍団が、〔住居地を包囲して〕止住する。諸々の松明が燃やされている。賢者たちよ、いったい、〔彼らは〕何を思っているのだ」〔と〕。

 

646.(1508) 〔菩薩に、ヴェーデーハ王が尋ねた〕「象〔兵〕たちが、馬〔兵〕たちが、車〔兵〕たちが、歩〔兵〕たちが、諸々の武装した軍団が、〔住居地を包囲して〕止住する。諸々の松明が燃やされている。賢者よ、いったい、〔彼らは〕何を為すのであろう」〔と〕。

 

647.(1509) 〔菩薩は答えた〕「大王よ、大いなる勢力あるチューラネイヤ(チューラニ・ブラフマダッタ)は、あなたを〔逃がさないように〕守っています。ブラフマッダタ〔の命令〕によって、邪悪な者が、早朝に、あなたを殺害するでしょう」〔と〕。

 

648.(1510) 〔ヴェーデーハ王が言った〕「わたしの心臓は動揺する。そして、口は遍く干上がる。〔心の〕寂滅には到達しない。熱所において、火に焼かれた者のようである。

 

649.(1511) あたかも、鍛冶屋たちの溶炉が、外ならず、内に燃えるように、このように、また、わたしの心臓は、外ならず、内に燃える」〔と〕。

 

650.(1512) 〔菩薩は言った〕「士族よ、〔あなたは〕怠りある者にして、〔わたしの〕進言を過ぎ行き、〔わたしの〕助言を破り去った者として存しておられます。賢者にして助言者たる人たちは、今や、まさに、あなたを救護せよ。

 

651.(1513) 〔あなたの〕義(利益)を欲し益を探し求める家臣の言葉を為さずして、自己の喜悦を喜ぶ王は、奸計に落ちた鹿のようなもの。

 

652.(1514) あたかも、また、釣針を、肉で覆われた鉤を、魚が、生ものを貪り求める魚が、自己の死と知らないように──

 

653.(1515) 王よ、まさしく、このように、あなたは、チューラネイヤの娘を、自己の死と知りません──欲望〔の対象〕を貪り求める〔あなた〕は、魚のようなもの。

 

654.(1516) それで、もし、〔あなたが〕パンチャーラ〔王〕のもとに赴くなら、すみやかに、自己を捨棄することになるでしょう──道に従い行く鹿のもとに、大いなる恐怖が至り行くように。

 

655.(1517) 人のインダよ、聖ならざる形質の人士は、膝もとに至った蛇のように咬みます。慧者は、彼と友情を為すべきではありません。悪しき人士との交際は、まさに、苦痛です。

 

656.(1518) 人のインダよ、まさしく、その人士のことを、『この者は、戒ある多聞の者である』〔と〕知るなら、慧者は、まさしく、彼と友情を為すべきです。安楽なるは、まさに、正なる人士との交際なのです。

 

657.(1519) 王よ、あなたは、愚者として、聾唖として、〔世に〕存しています。すなわち、諸々の最上の義(意味)を、わたしと談じてしまったのです。鋤の端で育て上げられたたわたしが、まさしく、どうして、諸々の義(意味)を知るというのでしょう。すなわち、また、他の者たちが〔知る〕ように。

 

658.(1520) 〔あなたは言いました〕『この者を、首を掴んで、わたしの領土から消してしまえ。すなわち、宝を得るわたしの障りとなるべく、〔この者は〕語る』」〔と〕。

 

659.(1521) 〔ヴェーデーハ王が言った〕「マホーサダよ、賢者たちは、過去のことで追及しない。結縛された馬を、まさしく、鞭で〔叩く〕ように、どうして、わたしを、〔過去のことで〕責めるのか。

 

660.(1522) それで、もし、あるいは、〔あなたが〕解放〔の方法〕を見るなら、また、あるいは、〔あなたが〕平安〔の方法〕を見るなら、まさしく、それをもって、わたしに教示せよ。どうして、過去のことで責めるのか」〔と〕。

 

661.(1523) 〔菩薩は言った〕「〔それは〕人間の行為を過ぎ行き、為し難く、至得し難きもの。あなたを〔敵から〕解放することはできません。士族よ、あなたは、覚知するのです(あきらめるしかない)。

 

662.(1524) 神通と福徳ある宙の象たちが存在します。〔まさに〕その〔あなた〕に、そのような種類のものたちが有るなら、さてまた、彼らが、〔あなたを〕携えて、〔ここから〕去り行くのですが。

 

663.(1525) 神通と福徳ある宙の馬たちが存在します。〔まさに〕その〔あなた〕に、そのような種類のものたちが有るなら、さてまた、彼らが、〔あなたを〕携えて、〔ここから〕去り行くのですが。

 

664.(1526) 神通と福徳ある宙の鳥たちが存在します。〔まさに〕その〔あなた〕に、そのような種類のものたちが有るなら、さてまた、彼らが、〔あなたを〕携えて、〔ここから〕去り行くのですが。

 

665.(1527) 神通と福徳ある宙の夜叉たちが存在します。〔まさに〕その〔あなた〕に、そのような種類のものたちが有るなら、さてまた、彼らが、〔あなたを〕携えて、〔ここから〕去り行くのですが。

 

666.(1528) 〔それは〕人間の行為を過ぎ行き、為し難く、至得し難きもの。あなたを〔敵から〕解放することはできません。士族よ、空中をとおっては」〔と〕。

 

667.(1529) 〔セーナカが言った〕「大いなる水域において、岸を見ない人がいるとして、そこにおいて、彼が、依って立つ所を得るなら、そこにおいて、彼は、安楽を見出します。

 

668.(1530) このように、かつまた、わたしたちにとっても、かつまた、王にとっても、マホーサダよ、あなたは、立脚するものとして〔存しています〕。あなたは、助言者であるわたしたちのなかの最勝者として存しています。わたしたちを、苦しみから解放したまえ」〔と〕。

 

669.(1531) 〔菩薩は言った〕「〔それは〕人間の行為を過ぎ行き、為し難く、至得し難きもの。あなたを〔敵から〕解放することはできません。セーナカよ、あなたは、覚知するのです」〔と〕。

 

670.(1532) 〔セーナカに、王が尋ねた〕「わたしの、この言葉を聞け。大いなる恐怖の軍団を見よ。今や、セーナカに尋ねる。どうであろう、ここに、〔おまえは〕何を思う」〔と〕。

 

671.(1533) 〔セーナカが答えた〕「あるいは、門より火をつけましょう。切り裂くものを掴みましょう。互いに他を打ち殺して、すみやかに、生命を捨棄しましょう。ブラフマダッタ王が、わたしたちを、長き苦痛とともに殺すことがあってはなりません」〔と〕。

 

672.(1534) 〔プックサに、王が尋ねた〕「わたしの、この言葉を聞け。大いなる恐怖の軍団を見よ。今や、プックサに尋ねる。どうであろう、ここに、〔おまえは〕何を思う」〔と〕。

 

673.(1535) 〔プックサが答えた〕「毒を喰らって死にましょう。すみやかに、生命を捨棄しましょう。ブラフマダッタ王が、わたしたちを、長き苦痛とともに殺すことがあってはなりません」〔と〕。

 

674.(1536) 〔カーミンダに、王が尋ねた〕「わたしの、この言葉を聞け。大いなる恐怖の軍団を見よ。今や、カーミンダに尋ねる。どうであろう、ここに、〔おまえは〕何を思う」〔と〕。

 

675.(1537) 〔カーミンダが答えた〕「縄で縛って死にましょう。深淵から落ちましょう。ブラフマダッタ王が、わたしたちを、長き苦痛とともに殺すことがあってはなりません」〔と〕。

 

676.(1538) 〔デーヴィンダに、王が尋ねた〕「わたしの、この言葉を聞け。大いなる恐怖の軍団を見よ。今や、デーヴィンダに尋ねる。どうであろう、ここに、〔おまえは〕何を思う」〔と〕。

 

677.(1539) 〔デーヴィンダが答えた〕「あるいは、門より火をつけましょう。切り裂くものを掴みましょう。互いに他を打ち殺して、すみやかに、生命を捨棄しましょう。マホーサダなら、まさしく、安楽に、〔敵から〕解放することができなくもないのですが」〔と〕。

 

678.(1541) 〔ヴェーデーハ王が言った〕「あたかも、芭蕉の芯を探し求めながら、〔結局は〕到達しないように、このように、その問い〔の答え〕を探し求めながらも、〔ついに〕到達せず。

 

679.(1542) あたかも、綿花の芯を探し求めながら、〔結局は〕到達しないように、このように、その問い〔の答え〕を探し求めながらも、〔ついに〕到達せず。

 

680.(1543) 地ならざるところに、まさに、わたしたちは住している。水なきところに〔住する〕象たちのようなもの。識知せずにいる愚者たちの、劣った人間たちの、現前にいる。

 

681.(1544) わたしの心臓は動揺する。そして、口は遍く干上がる。〔心の〕寂滅には到達しない。熱所において、火に焼かれた者のようである。

 

682.(1545) あたかも、鍛冶屋たちの溶炉が、外ならず、内に燃えるように、このように、また、わたしの心臓は、外ならず、内に燃える」〔と〕。

 

683.(1546) 〔世尊は言った〕「そののち、彼は、賢者にして慧者たる者は、義(利益)を見る者たるマホーサダは、ヴェーデーハ〔王〕が苦しんでいるのを見て、この言葉を説いた」〔と〕。

 

684.(1547) 〔菩薩は言った〕「大王よ、あなたは恐れてはいけません。車上の雄牛よ、あなたは恐れてはいけません。わたしは、あなたを解放しましょう──ラーフ(阿修羅の一類で日蝕や月蝕を引き起こすとされる)に捕捉された月を〔解き放つ〕ように。

 

685.(1548) 大王よ、あなたは恐れてはいけません。車上の雄牛よ、あなたは恐れてはいけません。わたしは、あなたを解放しましょう──ラーフに捕捉された日を〔解き放つ〕ように。

 

686.(1549) 大王よ、あなたは恐れてはいけません。車上の雄牛よ、あなたは恐れてはいけません。わたしは、あなたを解放しましょう──泥に沈んだ象を〔解き放つ〕ように。

 

687.(1550) 大王よ、あなたは恐れてはいけません。車上の雄牛よ、あなたは恐れてはいけません。わたしは、あなたを解放しましょう──檻に縛された蛇を〔解き放つ〕ように。

 

688. 大王よ、あなたは恐れてはいけません。車上の雄牛よ、あなたは恐れてはいけません。わたしは、あなたを解放しましょう──籠に縛された鳥を〔解き放つ〕ように。

 

689.(1551) 大王よ、あなたは恐れてはいけません。車上の雄牛よ、あなたは恐れてはいけません。わたしは、あなたを解放しましょう──網に至った魚たちを〔解き放つ〕ように。

 

690.(1552) 大王よ、あなたは恐れてはいけません。車上の雄牛よ、あなたは恐れてはいけません。わたしは、あなたを解放しましょう──車と共に軍隊の旅団を〔解放しましょう〕。

 

691.(1553) 大王よ、あなたは恐れてはいけません。車上の雄牛よ、あなたは恐れてはいけません。パンチャーラ〔王の軍団〕を追い払いましょう──烏の軍団を石で〔追い払う〕ように。

 

692.(1554) それでは、智慧は、あるいは、また、そのようなものとして、家臣は、何を義(目的)とするものなのでしょう──すなわち、煩いに陥ったあなたを、苦しみから遍く解放できないなら」〔と〕。

 

693.(1555) 〔兵たちに、菩薩は言った〕「若者たちよ、さあ、奮起せよ。〔隧道との〕境目の口を清めるのだ。ヴェーデーハ〔王〕が、家臣たちと共に、隧道をとおって去り行くのだ(あらかじめ作っておいた隧道をとおって脱出する)」〔と〕。

 

694.(1556) 〔世尊は言った〕「彼の、その言葉を聞いて、賢者の従者たちは、隧道の扉を開いた──そして、諸々の機具と結び付いた諸々の閂を。

 

695.(1557) 先頭には、セーナカが行く──そして、最後には、マホーサダが、さらに、中間には、家臣たちに取り囲まれたヴェーデーハ〔王〕が。

 

696.(1558) 隧道から出て、ヴェーデーハ〔王〕は、舟に乗った。そして、彼が乗ったのを知って、マホーサダは教え示した」〔と〕。

 

697.(1559) 〔菩薩は言った〕「陛下よ、この方(パンチャーラ王の父)は、あなたの舅です。人の君主よ、この方(パンチャーラ王の母)は、〔あなたの〕姑です。あたかも、〔実の〕母に実践するように、このように、あなたの姑に、〔実践〕有れ。

 

698.(1560) あたかも、また、腹を共にし母を一つにする、自分の兄弟のように、車上の雄牛よ、このように、あなたによって、パンチャーラ・チャンダ(パンチャーラ王の子)は、可愛がられるべきです。

 

699.(1561) この方は、パンチャーラ・チャンディー(パンチャーラ王の娘)です。あなたが欲し求める王女です。あなたのものである彼女に、欲するままにお為しください。車上の雄牛よ、あなたの妻です」〔と〕。

 

700.(1562) 〔ヴェーデーハ王が尋ねた〕「急ぎ、舟に乗っておきながら、いったい、どうして、〔あなたは〕岸に立つのだ。苦難から、苦痛から、解放された者として、〔わたしたちは〕存している。マホーサダよ、今や、行くのだ。

 

701.(1563) 〔菩薩は答えた〕「大王よ、これは、法(正義)ではありません。すなわち、軍団の導き手であるわたしが、軍団の支分を遍く取り残して、自己を遍く解放するのは。

 

702.(1564) 陛下よ、あなたの住居地には、軍団の支分が遍く取り残されています。車上の雄牛よ、ブラフマダッタに許され、それを連れ戻してきます」〔と〕。

 

703.(1565) 〔ヴェーデーハ王が尋ねた〕「少なき軍団〔のあなた〕が、大いなる軍団〔のブラフマダッタ〕を、どのように収め取って、立つというのだ。賢者よ、力弱き者は、力ある者に打ちのめされるのだ」〔と〕。

 

704.(1566) 〔菩薩は答えた〕「たとえ、少なき軍団なるも、もし、明慧あるなら、明慧なき大いなる軍団に、〔一者の〕王なるも、〔明慧なき〕王たちに、勝利します──昇り行く太陽が、闇を〔打ち払う〕ように」〔と〕。

 

705.(1567) 〔ヴェーデーハ王が言った〕「セーナカよ、かくのごとく、極めて安楽に、まさに、賢者たちとの共住はある。籠に縛された鳥たちを〔解き放つ〕ように、網に至った魚たちを〔解き放つ〕ように、朋友ならざる者の手に落ちたわたしたちを、マホーサダは解放してくれた」〔と〕。

 

706.(1568) 〔セーナカが言った〕「大王よ、このように、このことはあります。まさに、賢者たちは、安楽をもたらす者たちです。籠に縛された鳥たちを〔解き放つ〕ように、網に至った魚たちを〔解き放つ〕ように、朋友ならざる者の手に落ちたわたしたちを、マホーサダは解放してくれました」〔と〕。

 

707.(1569) 〔世尊は言った〕「全夜のあいだ、〔敵を逃がさないように〕守って、大いなる力あるチューラネイヤは、昇り行く日の出とともに、ウパカーリ〔城〕へと近しく赴いた。

 

708.(1570) 力ある六十歳の最も優れた象に乗って、大いなる力あるチューラネイヤは、パンチャーラ〔王〕は、言った。

 

709.(1571) 宝珠の甲冑で武装した〔王〕は、手で矢を取って、下僕たちに言い渡した──集いあつまった多々なる群れの者たちに。

 

710.(1572) 象兵たちに、親兵たちに、車兵たちに、歩兵たちに、弓術において鍛え上げられた毛を貫く者たちに、〔それらの〕集いあつまった者たちに、〔王は言い渡した〕」〔と〕。

 

711.(1573) 〔パンチャーラ王が言った〕「力と牙ある六十歳のクンジャラ〔象〕たちを送れ。クンジャラ〔象〕たちは、ヴェーデーハ〔王〕によって見事に造作された城を踏みにじれ。

 

712.(1574) 子牛の口の歯の白さの、鋭い先端の、骨を貫く〔それらの矢〕は、弓から勢いをもって放たれ、そこかしこに飛び交え。

 

713.(1575) 様々な棒を武器として擁し、武装した勇士たる、若者たちは、大胆にして大いなる象たる者たちは、〔敵の〕象たちの面前に有れ。

 

714.(1576) 油で洗い清められ、火炎の光輝ある、諸々の槍は、百光の星々のように、きらめきながら林立せよ。

 

715.(1577) 武器と力があり、鎧と腕飾を〔身に〕付ける、このような者たちが、戦場において逃げない戦士たちがいるのに、どうして、ヴェーデーハ〔王〕が解放されるというのだろう──それで、もし、〔彼が〕鳥のように為すとしても。

 

716.(1578) わたしの三十〔の千〕(三万)と九十〔の百〕(九千)の家来たちは、まさしく、全ての者たちが、一者一者が不退転の者たちであり、彼らに等しきものを、全一なる大地を歩みつつ、〔わたしは〕見ない。

 

717.(1579) そして、力と牙ある六十歳の象たちが整えられた。彼らの背において、典雅なる見た目ある少年たちは美しく輝く。

 

718.(1580) 〔彼らは〕黄〔の装身具〕によって〔装いを〕十分に作り為し、黄の衣をまとい、黄の最上の上衣をまとい、象たちの背において、〔天の〕ナンダナ〔林〕における天子たちのように美しく輝く。

 

719.(1581) パーティーナ〔魚〕の色艶ある〔それらの〕刀は、油で洗い清められ、光輝があり、慧者たる人たちによって仕立てられ、切っ先等しく、しっかりと依拠している。

 

720.(1582) 〔それらの刀は〕閃光きらめき、垢を離れた、鋼鉄製の堅固なるものにして、しっかりと打っては打ちまくる力ある者たちによって把持されている。

 

721.(1583) 〔それらの刀は〕黄金の柄を伴い、赤の飾紐を近しく保持し、還転しながら美しく輝く──雷光が、層雲の間に〔輝く〕ように。

 

722.(1584) 幟をもつ武装した勇士たちは、剣と盾の熟知者たちにして、弓の使い手たちは、手練の者たちにして、象たちの背にまたがっている。

 

723.(1585) このような者たちに遍く囲まれたのだ。おまえに、ここからの解放は存在しない。おまえの威光を、〔わたしは〕見ない。それとともに、おまえがミティラーに行き着く、〔その威光を〕」〔と〕。

 

724.(1586) 〔パンチャーラ王に、菩薩は言った〕「いったい、どうして、かくも、急ぎながら、象を、クンジャラ〔象〕を、送るのですか。欣喜した様子で、至り来るのですか。『〔わたしは〕義(目的)の成就者として存している』と思うのですか。

 

725.(1587) この弓を取り払いたまえ。弓と矢を取り去りたまえ。瑠璃と宝珠をちりばめた、この美しい甲冑を取り払いたまえ」〔と〕。

 

726.(1588) 〔パンチャーラ王が言った〕「〔おまえは〕清らかな顔と色艶ある者として存している。そして、前もって量られたことを語る。まさに、死の時において、このような色艶の成就が有る」〔と〕。

 

727.(1589) 〔菩薩は言った〕「王よ、あなたが喚き立てたところで無駄なのです。士族よ、〔あなたは〕存しています──〔わたしの〕助言を破り去った者として。〔あなたは〕存しています──〔敵を〕捕捉し難き者として。あなたによって、〔ヴェーデーハ〕王が〔捕捉されることはありません〕──野馬によって、シンダヴァ〔の駿馬〕が〔捕捉されない〕ように。

 

728.(1590) 〔ヴェーデーハ〕王は、家臣たちと共に、従者たちと共に、昨日、ガンガー〔川〕を超え渡ったところです。鵞鳥の王を、烏が〔追う〕ように、〔あなたは〕追い掛けつつも落下するのです。

 

729.(1591) 野狐たちは、夜分に、咲き誇るキンスカ〔樹の花〕を見て、『肉片である』と思いながら、最低の獣たちは、〔それを〕取り囲んだのです。

 

730.(1592) 夜が過ぎ去り、〔日が〕昇り、昼の時に、咲き誇るキンスカ〔樹の花〕を見て、最低の獣たちは、願いが断たれたのです。

 

731.(1593) 王よ、まさしく、このように、あなたは、ヴェーデーハ〔王〕を取り囲んで〔そののち〕、願いが断たれた者となり、去り行くのです──キンスカ〔樹の花〕を〔取り囲んだ〕野狐たちのように」〔と〕。

 

732.(1594) 〔パンチャーラ王が言った〕「この者の、〔両の〕手を、そして、〔両の〕足を、さらに、〔両の〕耳と鼻を、断ち切ってしまえ。すなわち、わたしの手に落ちた、朋友ならざる者を、ヴェーデーハ〔王〕を、〔この者は〕遍く解放したのだ。

 

733.(1595) まさしく、この肉は、煮られるべきである。串に刺して、それを調理せよ。すなわち、わたしの手に落ちた、朋友ならざる者を、ヴェーデーハ〔王〕を、〔この者は〕遍く解放したのだ。

 

734.(1956) あたかも、また、雄牛の皮が、獅子の〔皮が〕、さらに、虎の〔皮が〕、地に広げられ、杭を打たれ、〔毛皮と〕成るように──

 

735.(1597) このように、彼〔の手足〕を広げて、槍で貫いてやるのだ。すなわち、わたしの手に落ちた、朋友ならざる者を、ヴェーデーハ〔王〕を、〔この者は〕遍く解放したのだ」〔と〕。

 

736.(1598) 〔菩薩は言った〕「それで、もし、わたしの、〔両の〕手を、そして、〔両の〕足を、さらに、〔両の〕耳と鼻を、〔あなたが〕断ち切るなら、このように、パンチャーラ・チャンダの〔手と足と耳と鼻を〕、ヴェーデーハ〔王〕が断ち切るでしょう。

 

737.(1599) それで、もし、わたしの、〔両の〕手を、そして、〔両の〕足を、さらに、〔両の〕耳と鼻を、〔あなたが〕断ち切るなら、このように、パンチャーラ・チャンディーの〔手と足と耳と鼻を〕、ヴェーデーハ〔王〕が断ち切るでしょう。

 

738.(1600) それで、もし、わたしの、〔両の〕手を、そして、〔両の〕足を、さらに、〔両の〕耳と鼻を、〔あなたが〕断ち切るなら、このように、ナンダー王妃の〔手と足と耳と鼻を〕、ヴェーデーハ〔王〕が断ち切るでしょう。

 

739.(1601) それで、もし、わたしの、〔両の〕手を、そして、〔両の〕足を、さらに、〔両の〕耳と鼻を、〔あなたが〕断ち切るなら、このように、あなたの子や妻の〔手と足と耳と鼻を〕、ヴェーデーハ〔王〕が断ち切るでしょう。

 

740.(1602) それで、もし、まさしく、〔わたしの〕肉が、煮られるべきであり、串に刺して、〔それを、あなたが〕調理するなら、このように、パンチャーラ・チャンダの〔肉を〕、ヴェーデーハ〔王〕が調理するでしょう。

 

741.(1603) それで、もし、まさしく、〔わたしの〕肉が、煮られるべきであり、串に刺して、〔それを、あなたが〕調理するなら、このように、パンチャーラ・チャンディーの〔肉を〕、ヴェーデーハ〔王〕が調理するでしょう。

 

742.(1604) それで、もし、まさしく、〔わたしの〕肉が、煮られるべきであり、串に刺して、〔それを、あなたが〕調理するなら、このように、ナンダー王妃の〔肉を〕、ヴェーデーハ〔王〕が調理するでしょう。

 

743.(1605) それで、もし、まさしく、〔わたしの〕肉が、煮られるべきであり、串に刺して、〔それを、あなたが〕調理するなら、このように、あなたの子や妻の〔肉を〕、ヴェーデーハ〔王〕が調理するでしょう。

 

744.(1606) それで、もし、わたし〔の手足〕を広げて、〔あなたが〕槍で貫くなら、このように、パンチャーラ・チャンダの〔身体を〕、ヴェーデーハ〔王〕が貫くでしょう。

 

745.(1607) それで、もし、わたし〔の手足〕を広げて、〔あなたが〕槍で貫くなら、このように、パンチャーラ・チャンディーの〔身体を〕、ヴェーデーハ〔王〕が貫くでしょう。

 

746.(1608) それで、もし、わたし〔の手足〕を広げて、〔あなたが〕槍で貫くなら、このように、ナンダー王妃の〔身体を〕、ヴェーデーハ〔王〕が貫くでしょう。

 

747.(1609) それで、もし、わたし〔の手足〕を広げて、〔あなたが〕槍で貫くなら、このように、あなたの子や妻の〔身体を〕、ヴェーデーハ〔王〕が貫くでしょう。このように、わたしたちには、内密の話し合いがあります──ヴェーデーハ〔王〕と、わたしと共に。

 

748.(1610) あたかも、また、皮職人によって見事に仕立てられた犀の皮が、体躯の救護のために、諸々の矢を跳ね返すべく働くように──

 

749.(1611) 盛名あるヴェーデーハ〔王〕のために、安楽をもたらし、苦痛を除き去る者として、〔わたしは〕あなたの思慧を跳ね返します──犀〔の皮〕で、矢を〔跳ね返す〕ように。

 

750.(1612) 大王よ、さあ、見たまえ──あなたの、空の内宮を。士族よ、そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、あなたの母も、隧道から運び出して、ヴェーデーハ〔王〕に差し出されました」〔と〕。

 

751.(1613) 〔家来たちに、パンチャーラ王が言った〕「さあ、わたしの内宮に赴いて、それを確かめよ──すなわち、この者の言葉が、あるいは、真理であるのか、もしくは、あるいは、虚偽であるのかを」〔と〕。

 

752.(1614) 〔家来たちが言った〕「大王よ、このことは、そのとおりです。すなわち、マホーサダが言ったとおりです。内宮は、全てが空です。烏の町(廃村)のようです」〔と〕。

 

753.(1615) 〔菩薩は言った〕「大王よ、ここから去り行った女の方(ナンダー王妃)は、全ての肢体が美しく輝き、コーサンバの延べ板の可愛いお尻をされ、鵞鳥の鳴き声の話し手たる方です。

 

754.(1616) 大王よ、ここから連れて行った女の方は、全ての肢体が美しく輝き、絹の衣をまとい、褐色〔の肌〕をされ、黄金の美しい帯をしています。

 

755.(1617) 美しい赤の足をされ、美しい方にして、黄金と宝珠の帯をされ、鳩の眼をされ、美しい体躯の方にして、ビンバ〔の果の朱色〕の唇をされ、体躯の均整なる方です。

 

756.(1618) 善き生まれの方にして、枝のような腕をされ、手すりのように体躯の均整なる方にして、諸々の髪は、黒く、馬の長さにして、先端が僅かに巻かれています。

 

757.(1619) 善き生まれの方にして、子鹿のようであり、冬の火炎のようであり、諸々の小笹に等しく覆われた、諸々の山の難所における川のような方です。

 

758.(1620) 象の鼻の腿をされ、美しい方にして、最高の方にして、ティンバル〔果〕の乳房をされ、〔背丈は〕高過ぎず、低過ぎず、〔うぶ毛は〕無毛にあらず、剛毛にあらず。

 

759.(1621) 吉祥をもたらす方よ、あろうことか、〔あなたは〕ナンダーの死によって喜ぶのです。かつまた、わたしも、かつまた、ナンダーも、まちがいなく、夜魔の王国に赴くのです」〔と〕。

 

760.(1622) 〔パンチャーラ王が言った〕「〔あなたは〕天の幻術を学得し、眼を迷わす〔幻術〕を為した。すなわち、わたしの手に落ちた、朋友ならざる者を、ヴェーデーハ〔王〕を、〔あなたは〕遍く解放したのだ」〔と〕。

 

761.(1623) 〔菩薩は言った〕「大王よ、賢者たちは、この〔世において〕、天の幻術を学得します。賢者にして助言者たる人たちは、彼らは、自己を解放します。

 

762.(1624) わたしには、若い男たちが存在します。巧みな智ある者たちであり、〔外界との〕境目を断ち切る者たちです(隧道作りの達人である)。彼らが作った道をとおり、ヴェーデーハ〔王〕は、ミティラーに赴いたのです。

 

763.(1625) 大王よ、さあ、見たまえ──善くしっかりと造作された隧道を──象〔兵〕たちのために、さらに、馬〔兵〕たちのために、車〔兵〕たちのために、さらに、歩〔兵〕たちのために、光明と成り安立している〔隧道〕を、善くしっかりと造作された隧道を」〔と〕。

 

764.(1626) 〔パンチャーラ王が言った〕「ヴィデーハ〔国〕には、まさに、諸々の利得がある。彼には、このような賢者たちがあり、領土の家に住しているのだ──マホーサダよ、すなわち、あなたが〔世に〕存しているように。

 

765.(1627) そして、生活〔の保証〕を、さらに、〔生活の〕維持を、二倍の食事と報酬を、諸々の広大なる財物を、〔あなたに〕与えよう。諸々の欲望〔の対象〕を享受せよ、そして、喜び楽しむのだ。ヴィデーハ〔国〕に戻ってはならない。ヴィデーハ〔国〕が、〔あなたに〕何を為すというのだろう」〔と〕。

 

766.(1628) 〔菩薩は言った〕「大王よ、すなわち、財産を動機として、主人を捨てるなら、そして、自己にとって、さらに、他者にとって、両者にとって非難されるべき者と成ります。ヴェーデーハ〔王〕が生きている、そのかぎりは、他者の家来として存するつもりはありません。

 

767.(1629) 大王よ、すなわち、財産を動機として、主人を捨てるなら、そして、自己にとって、さらに、他者にとって、両者にとって非難されるべき者と成ります。ヴェーデーハ〔王〕が〔世に〕止住する、そのかぎりは、他者の領土に住するつもりはありません」〔と〕。

 

768.(1630) 〔パンチャーラ王が言った〕「千の金貨を、さらに、カーシ〔国〕にある八十の村を、あなたに与えよう。四百の奴婢を、さらに、百の妻を、あなたに与えよう。マホーサダよ、一切の軍団の支分を携えて、〔無事〕安穏に〔ミティラーに〕赴きたまえ」〔と〕。

 

769.(1631) 〔家来たちに、パンチャーラ王が言った〕「あるかぎりの、象たちと馬たちには、二倍の種類のものを与えよ。車兵たちと歩兵たちを、食べ物と飲み物によって満足させよ」〔と〕。

 

770.(1632) 〔菩薩に、パンチャーラ王が言った〕「賢者よ、象〔兵〕たちを、馬〔兵〕たちを、車〔兵〕たちを、歩〔兵〕たちを、〔彼らを〕携えて、まさしく、〔ミティラーに〕赴きたまえ。大王は、ヴェーデーハは、ミティラーに赴いたあなたを見よ」〔と〕。

 

771.(1633) 〔セーナカに、ヴェーデーハ王が尋ねた〕「象〔兵〕たちが、馬〔兵〕たちが、車〔兵〕たちが、歩〔兵〕たちが、大いなる軍団が見える。四つの支分ある、恐ろしき形態〔の大いなる軍団〕である。賢者よ、いったい、〔おまえは〕何を思う」〔と〕。

 

772.(1634) 〔セーナカが答えた〕「大王よ、あなたにとっての喜びである、最上のものが見えます。一切の軍団の支分を携えて、マホーサダが、〔無事〕安穏に至り得たのです」〔と〕。

 

773.(1635) 〔菩薩に、ヴェーデーハ王が尋ねた〕「あたかも、〔死者を運ぶ〕四者の人が、墓場に亡者を捨て放って〔そののち、期待なき者たちとなり、去り行く〕ように、このように、カピリヤ〔の都〕にあなたを捨て放って、ここに到来した者たちとして、〔わたしたちは〕存している。

 

774.(1636) そこで、あなたは、何を理由に、また、あるいは、何を因に、あるいは、どのような義(事態)が生じたことで、自己を遍く解放したのだ」〔と〕。

 

775.(1637) 〔菩薩は答えた〕「ヴェーデーハよ、義(利益)には義(利益)をもって、士族よ、明慧には明慧をもって、〔パンチャーラ〕王を取り囲みました──海洋が、ジャンブ洲(閻浮提:インド大陸)を〔取り囲む〕ように。

 

776.(1638) 千の金貨が、さらに、カーシ〔国〕にある八十の村が、わたしに与えられました。四百の奴婢が、さらに、百の妻が、わたしに与えられました。一切の軍団の支分を携えて、〔無事〕安穏に、ここに到来した者として、〔わたしは〕存しています」〔と〕。

 

777.(1639) 〔ヴェーデーハ王が言った〕「セーナカよ、かくのごとく、極めて安楽に、まさに、賢者たちとの共住はある。籠に縛された鳥たちを〔解き放つ〕ように、網に至った魚たちを〔解き放つ〕ように、朋友ならざる者の手に落ちたわたしたちを、マホーサダは解放してくれた」〔と〕。

 

778.(1640) 〔セーナカが言った〕「大王よ、このように、このことはあります。まさに、賢者たちは、安楽をもたらす者たちです。籠に縛された鳥たちを〔解き放つ〕ように、網に至った魚たちを〔解き放つ〕ように、朋友ならざる者の手に落ちたわたしたちを、マホーサダは解放してくれました」〔と〕。

 

779.(1641) 〔ヴェーデーハ王が言った〕「全ての琵琶を打ち鳴せ──諸々の太鼓を、さらに、諸々の鐘鼓を。諸々のマガダ〔産〕の法螺貝を吹き鳴らせ。諸々の麗美なる鼓を打ち鳴らせ」〔と〕。

 

780.(1642) 〔世尊は言った〕「そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、多くの、そして、食べ物を、さらに、飲み物を、賢者に運んだ。

 

781.(1643) 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、多くの、そして、食べ物を、さらに、飲み物を、賢者に運んだ。

 

782.(1644) 集いあつまった地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、多くの、そして、食べ物を、さらに、飲み物を、賢者に運んだ。

 

783.(1645) 多くの人々が、賢者が帰還したのを見て、清信した者として存した。賢者が到着したとき、〔歓喜の〕布振りが転起した」〔と〕。ということで──

 

 ウマンガ・ジャータカが、第五となる。

 

22. 1. 6. ブーリダッタ・ジャータカ(ブーリダッタ・本生物語543)

 

784.(747) 〔カーシ国の王に、龍の使者たちが言った〕「〔龍の王の〕ダタラッタの住居地において、それが何であれ、宝として存するなら、〔それらの〕全てが、あなたに近しく至れ。王の娘を、〔ダタラッタに〕与えたまえ」〔と〕。

 

785.(748) 〔カーシ国の王が言った〕「〔人間である〕わたしたちにとって、龍たちとの婚姻は、いついかなる時も、過去に為されず。その相応しからざる婚姻を、どうして、〔人間である〕わたしたちが為すというのだろう」〔と〕。

 

786.(749) 〔龍の使者たちが言った〕「人間の君主よ、あなたの生命は、あるいは、〔あなたの〕国土は、まちがいなく、捨て去られた。まさに、龍が怒ったとき、そのような者たちは、長きに生きず。

 

787.(750) 陛下よ、すなわち、あなたは、人間として存している。神通なき者が、神通ある者を、ヴァルナの実の子であるヤームナ(ダタラッタ)を、〔あなたは〕軽んじる」〔と〕。

 

788.(751) 〔カーシ国の王が言った〕「〔わたしが〕盛名あるダタラッタ王を軽んじることはない。まさに、ダタラッタは、多くの龍たちにとってもまた、イッサラ(王)である。

 

789.(752) 蛇は、たとえ、大いなる威力あるも、わたしの娘に値せず。そして、ヴィデーハ〔国〕の士族が〔値する〕。〔娘の〕サムッダジャーは、善き生まれの者である」〔と〕。

 

790.(753) 〔ダタラッタは言った〕「カンバラ〔龍〕やアッサタラ〔龍〕たちは立ち上がれ。全ての龍たちに知らせよ。バーラーナシーに進み行け。しかしながら、誰をも傷つけてはならない。

 

791.(754) 諸々の住居地に、諸々の溝に、さらに、諸々の道や四つ辻に、〔身を横たえよ〕。そして、諸々の木の先端に垂れ下がれ。さらに、諸々の楼門に広がり、〔身を横たえよ〕。

 

792.(755) わたしもまた、純白の大いなる〔身体〕によって、極めて大いなる都を、〔何重もの〕蜷局で取り巻くであろう──カーシ〔国〕の者たちに恐怖を生じさせながら」〔と〕。

 

793.(756) 〔世尊は言った〕「彼の、その言葉を聞いて、無数の色艶ある龍たちは、バーラーナシーに進み行った。しかしながら、誰をも傷つけなかった。

 

794.(757) 諸々の住居地に、諸々の溝に、さらに、諸々の道や四つ辻に、〔身を横たえた〕。そして、諸々の木の先端に垂れ下がった。さらに、諸々の楼門に広がり、〔身を横たえた〕。

 

795.(758) それら〔の木々〕に垂れ下がっている〔龍〕たちを見て、女たちは多々に泣き叫んだ──鎌首をもたげた龍たちを見て、ながながと嘆息しながら。

 

796.(759) バーラーナシー〔の人々〕は動揺し、痛苦の者が現われた。〔彼らは、両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ。『王の娘を、〔龍に〕与えよ』」〔と〕。

 

797.(760) 〔菩薩に、猟師の婆羅門が尋ねた〕「誰なのですか、花をもたらす林の中にいる、赤い眼の〔あなた〕は、広い肩幅の〔あなた〕は。どのような者たちなのですか、指輪や腕飾を〔身に〕付け、美しい衣で、〔あなたを〕敬拝しながら立つ、十者の女たちは。

 

798.(761) 誰なのですか、林の中にいる、大きな腕のあなたは。酪を注いだ火のように、〔あなたは〕遍照します。大いなる権能ある随一の夜叉として、〔あなたは〕存しているのですか、それとも、大いなる威力ある龍として、〔あなたは〕存しているのですか」〔と〕。

 

799.(762) 〔菩薩は答えた〕「神通ある龍として、超え行き難き威光ある者として、わたしは存しています。〔わたしが〕怒ったなら、興隆する地方であろうが、威光によって咬み尽くすでしょう。

 

800.(763) まさに、わたしの母は、サムッダジャーです。そして、わたしの父は、ダタラッタです。スダッサナの弟として、〔わたしは〕存しています。わたしのことを、〔人々は〕『ブーリダッタ』と知ります。

 

801.(764) すなわち、深遠にして、常に渦がある、恐ろしい湖を、〔あなたは〕見ます。これが、わたしの、幾百の下僕がいる、天の居住所です。

 

802.(765) 孔雀や白鷺が鳴き、林の中には青い水があります。ヤムナー〔川〕に入りたまえ。恐れてはいけません。平安にして、〔日々の〕行持と掟があり、吉祥なるところです。

 

803.(766) 婆羅門よ、そこにおいて、子と共に、従者と共に、至り得たなら、婆羅門よ、諸々の欲望〔の対象〕によって、わたしに供養される者となり、安楽に住するでしょう」〔と〕。

 

804.(767) 〔猟師の婆羅門が言った〕「平坦で、一切に遍きにわたり、多大なるタガラ〔の香り〕ある大地は、諸々のインダゴーパカ〔草〕に等しく覆われ、最上の緑にして、美しく輝きます。

 

805.(768) 諸々の林の塔廟は喜ばしく、近しく鳴く鵞鳥たちは喜ばしく、諸々の蓮池が見事に化作され、諸々の花もつ蓮華が立っています。

 

806.(769) 八角の見事に作られた諸々の柱があり、〔それらの〕全ては、瑠璃で作られています。千の柱ある諸々の高楼は、少女たちで満ち、輝きます。

 

807.(770) 自己の諸々の功徳によって、天の宮殿に再生した者として、〔あなたは〕存しています──煩いなく、至福にして、喜ばしき、究極の安楽を伴った〔天の宮殿〕に。

 

808.(771) 思うに、千の眼ある者(帝釈天)の天宮を、〔あなたは〕希求しません。なぜなら、あなたには、光輝ある帝釈〔天〕の〔神通〕のようなものとして、この、広大なる神通があるからです」〔と〕。

 

809.(772) 〔菩薩は言った〕「光輝ある〔帝釈天〕の威力は、意によってもまた至り得られるべきものではありません(神通の力では得られない)──インダ(帝釈天)と共にあり、自在の転起ある者たちとして、〔自ら〕楽しんでいる〔神々〕たちの〔威力も〕。

 

810.(773) 不死なる〔神々〕たちのものであり、安楽を探し求める者たちにとっての、〔まさに〕その、天宮を貪り求めて、〔わたしは〕斎戒に入りつつ、蟻塚の頂きに臥すのです」〔と〕。

 

811.(774) 〔猟師の婆羅門が言った〕「そして、わたしは、鹿を探し求めながら、子と共に、林に入りました。〔まさに〕その、わたしのことを、あるいは、死んだのか、あるいは、生きているのか、親族たちは知りません。

 

812.(775) カーシ〔国〕の〔娘の〕子にして、福徳あるブーリダッタに、申し上げます。わたしどもは、あなたに許されたなら、さてまた、親族たちを見てやりたいのです」〔と〕。

 

813.(776) 〔菩薩は言った〕「まさに、これは、まさに、わたしの欲〔の思い〕です。すなわち、〔あなたが〕わたしの前にて住することです。まさに、このような諸々の欲望〔の対象〕は、人間〔の世〕においては、得易きものでは有りません。

 

814.(777) それで、もし、あなたが、諸々の欲望〔の対象〕によって、わたしに供養される者として、〔ここに〕住することを求めないなら、あなたは、わたしに許されました。〔無事〕安穏に、親族たちを見たまえ。

 

815.(778) この天の宝珠を保持したまえ。家畜を〔見出し〕、そして、子たちを見出し、無病の者と〔成り〕、安楽の者と成ります。婆羅門よ、〔この宝珠を〕携えて、赴きたまえ」〔と〕。

 

816.(779) 〔猟師の婆羅門が言った〕「ブーリダッタよ、あなたの善なる言葉を喜びます。〔わたしは〕出家するでありましょう。〔わたしは〕老い朽ちた者として存しています。〔もはや〕諸々の欲望〔の対象〕を切望することはありません」〔と〕。

 

817.(780) 〔菩薩は言った〕「もし、梵行に滅壊があり、諸々の財物によって為すべきことが有るなら、動揺することなく〔ためらわずに〕、至り来るのです。あなたに、多くの財を与えましょう」〔と〕。

 

818.(781) 〔猟師の婆羅門が言った〕「ブーリダッタよ、あなたの善なる言葉を喜びます。それで、もし、〔何らかの〕義(事態)が有るなら、ふたたび、また、帰り来るでしょう」〔と〕。

 

819.(782) 〔世尊は言った〕「ブーリダッタは、この〔言葉〕を説いて、四者の人たちに命じた。『さあ、赴け、立ち上がれ。婆羅門を、すみやかに〔人間の世に〕至り得させよ』〔と〕。

 

820.(783) 彼の、その言葉を聞いて、立ち上がって、四者の人たちは、ブーリダッタに命じられ、婆羅門を、すみやかに〔人間の世に〕至り得させた」〔と〕。

 

821.(784) 〔蛇使いの婆羅門のアランパーナに、猟師の婆羅門が尋ねた〕「意が喜びとする、善きものにして歓悦あるものを、幸福の宝珠を掴んで──誰なのですか、〔幸福の〕特徴を成就した宝石に、この宝珠に到達したのは」〔と〕。

 

822.(785) 〔アランパーナが答えた〕「千の赤い眼〔の龍の女〕たちに遍きにわたり取り囲まれた〔宝珠〕に、今日、〔しかるべき〕時に、道を赴きつつ、わたしは、この宝珠に到達したのだ」〔と〕。

 

823.(786) 〔猟師の婆羅門が言った〕「この宝石は、善く使用されたなら、常に、敬称され、思慕され、善く保持され、善く留置されたなら、一切の義(目的)を成し遂げるでしょう。

 

824.(787) 堕落した使用ある者に、留置され、あるいは、保持され、理ならずに使用されたなら、この宝石は、滅びのためのものとなります。

 

825.(788) 善ならざる者は、この天の宝珠を保持するに値せず。百の金貨を収めたまえ。わたしに、この宝玉を与えたまえ」〔と〕。

 

826.(789) 〔アランパーナが言った〕「さてまた、わたしのこの宝珠は、あるいは、牛たちによって、あるいは、諸々の宝によって、買われるべきものにあらず。〔幸福の〕特徴を成就した宝石は、わたしの宝珠は、まさしく、買われるべきものにあらず」〔と〕。

 

827.(790) 〔猟師の婆羅門が尋ねた〕「もし、あなたの宝珠が、あるいは、牛たちによって、あるいは、諸々の宝によって、買われるべきものではないなら、そこで、宝珠は、何によって買われるべきなのですか。〔問いを〕尋ねられた者として、それを、わたしに告げ知らせたまえ」〔と〕。

 

828.(791) 〔アランパーナが答えた〕「その者が、大いなる龍のことを、超え行き難く威光ある者のことを、わたしに伝えてくれるなら、彼に、威光によって燃え盛っているかのような、この宝石を与えよう」〔と〕。

 

829.(792) 〔猟師の婆羅門が尋ねた〕「婆羅門の姿であるとして、いったい、〔あなたは〕誰なのですか。鳥たちのなかの優れたものである、金翅鳥(龍を食べる天の鳥)なのですか。龍を求め願いながら、探し求める〔あなた〕は、自己の食物を探し求めているのですか」〔と〕。

 

830.(793) 〔アランパーナが答えた〕「わたしは、鳥の君主として有るのではない。ガルラ(金翅鳥)は、わたしの見るところにあらず。婆羅門よ、わたしのことを、〔人々は〕『蛇の毒によって富む医者(※)』と知る」〔と〕。

 

※ テキストには vajjo とあるが、PTS版により vejjo と読む。

 

831.(794) 〔猟師の婆羅門が尋ねた〕「いったい、どのような力が、あなたに存するのですか。どのような技能が、あなたに見出されるのですか。あるいは、何に支えられ、あなたは、龍を敬わないのですか」〔と〕。

 

832.(795) 〔アランパーナが答えた〕「林にある聖賢にして、長夜にわたる苦行者たるコーシヤに、金翅鳥は、無上なる毒の呪術を告げ知らせた。

 

833.(796) 彼に、自己を修めた随一の者と等しく思認された者に、山間において、恭しく、彼に、〔わたしは〕奉仕した──夜に、昼に、休みなく。

 

834.(797) そのとき、わたしに世話された彼は、行持と梵行ある者は、天の呪文を明らかと為した──欲するままに、尊貴なる者は、わたしに。

 

835.(798) それらに〔依拠して〕、呪文に支えられている、わたしである。わたしは、蜷局ある者たちを恐れない。わたしのことを、〔人々は〕『毒を殲滅する者たちの師匠であるアランパーナ』と知る」〔と〕。

 

836.(799) 〔子のソーマダッタに、猟師の婆羅門が言った〕「息子よ、〔わたしたちは〕宝珠を収め取るのだ。ソーマダッタよ、識知せよ。至り得た吉祥を、棒によって、欲するままに捨棄することがあってはならない(むやみに追い払ってはいけない)」〔と〕。

 

837.(800) 〔ソーマダッタが言った〕「婆羅門よ、彼(ブーリダッタ)は、自らの住居地に至り得た者を、あなたを、供養したのです。このように善を為す者への裏切りを、どうして、迷妄ゆえに求めるのですか(受け取りを拒否したものを欲しがってはいけない)。

 

838.(801) それで、もし、あなたが、財を欲する者として存するなら、ブーリダッタが与えるでしょう。まさしく、彼のもとに赴いて、乞い求めるのです。あなたに、多くの財を与えるでしょう」〔と〕。

 

839.(802) 〔猟師の婆羅門が言った〕「手に落ちたものは、鉢に落ちたものは、投げ込まれたものは、喰うに優れたものである。ソーマダッタよ、現に見られるものとしてある義(利益)が、わたしたちを過ぎ行くことがあってはならない」〔と〕。

 

840.(803) 〔ソーマダッタが言った〕「おぞましき地獄において、〔彼は〕煮られます。大地もまた、彼のために〔口を〕開けます。朋友を裏切り、益を捨て去る者は、まさしく、生きていながらもまた、〔飲食に〕干上がります。

 

841.(804) それで、もし、あなたが、財を欲する者として存するなら、ブーリダッタが与えるでしょう。思うに、自己の作り為した怨みを、長からずして、〔あなたは〕知るでしょう」〔と〕。

 

842.(805) 〔猟師の婆羅門が言った〕「大いなる祭祀を執り行なって、このように、婆羅門たちは清浄となる。大いなる祭祀を執り行なうのだ。このように、悪しきことから解き放たれるのだ」〔と〕。

 

843.(806) 〔ソーマダッタが言った〕「さあ、今や、〔わたしは〕離れ去ります。今日より、わたしは、あなたと共に、一歩も赴きはしません──このような罪障の作り手と〔共には〕」〔と〕。

 

844.(807) 〔世尊は言った〕「父に、この〔言葉〕を説いて、多聞の者たるソーマダッタは、精霊たちを譴責して、その場から立ち去った」〔と〕。

 

845.(808) 〔アランパーナに、猟師の婆羅門が言った〕「この大いなる龍(ブーリダッタ)を捕捉したまえ。わたしに、この宝珠をもたらしたまえ。彼の頭は、赤く、黄金虫の色艶と輝きがあります。

 

846.(809) 〔彼の〕この身体は、木綿の綿を集めたように見えます。蟻塚の先端に赴き、〔彼は〕臥しています。婆羅門よ、あなたは、彼を捕捉したまえ」〔と〕。

 

847.(810) 〔世尊は言った〕「そこで、諸々の天の薬草によって、さらに、諸々の呪文の句を詠唱しながら、〔婆羅門は〕自己の救護を為して、このように、彼(ブーリダッタ)を捕らえることができたのだった」〔と〕。

 

848.(811) 〔母のサムッダジャーに、長兄のスダッサナが尋ねた〕「一切の欲望が等しく実現する、わたしが至り来たのを見ても、諸々の〔感官の〕機能は欣喜せず、あなたの顔は、憂鬱を生じておられます。

 

849.(812) あたかも、手に落ちた蓮華が、手で圧し潰されたかのように、あなたの顔は、憂鬱を生じておられます──わたしがこのようにあるのを見ても。

 

850.(813) はてさて、どうでしょう、〔誰かが〕あなたを罵りませんでしたか。どうでしょう、あなたに、〔苦痛の〕感受が存するのですか。それによって、あなたの顔は、憂鬱なのですか──わたしがやってきたのを見ても」〔と〕。

 

851.(814) 〔サムッダジャーが答えた〕「息子よ、夢を見ました。これより、ひと月前のことです。わたしの右腕のようなものを断ち切って、血にまみれた〔腕〕を、男が取って、立ち去りました──わたしが、泣き叫びながら存しているところを。

 

852.(815) スダッサナよ、識知しなさい──わたしが夢を見た、そののち、そののち、昼であろうが、夜であろうが、わたしに、安楽は認められません。

 

853.(816) 過去にあっては、好ましい体格の少女たちが、彼を取り囲んでいました──金の網に覆われた者たちが。〔その〕ブーリダッタが、見えないのです。

 

854.(817) 過去にあっては、優れた刀を保持する者たちが、彼を取り囲んでいました──等しく咲き誇るカニカーラ〔樹〕のような者たちが。〔その〕ブーリダッタが、見えないのです。

 

855.(818) さあ、今や、〔わたしたちは〕赴くのです──ブーリダッタの住居地に。法(正義)に依って立つ者であり、戒を成就した者である、あなたの弟に、〔わたしたちは〕会うのです」〔と〕。

 

856.(819) 〔世尊は言った〕「ブーリダッタの母を〔見て〕、そして、彼女が至り来るのを見て、ブーリダッタの女たちは、〔両の〕腕を差し出して、泣き叫んだ」〔と〕。

 

857.(820) 〔女たちが言った〕「貴婦よ、あなたの子のことを、〔わたしたちは〕知りません。これより、ひと月前のことです。福徳あるブーリダッタのことを、あるいは、死んだのか、もしくは、あるいは、生きているのか、〔わたしたちは知りせん〕」〔と〕。

 

858.(821) 〔サムッダジャーが言った〕「空の巣を見て〔悲しむ〕、子を殺された雌鳥のように、ブーリダッタと会えずにいる〔わたし〕は、長きにわたり、苦しみに焼かれるでしょう。

 

859.(822) 空の巣を見て〔悲しむ〕、雛を殺された雌の鶚(みさご)のように、ブーリダッタと会えずにいる〔わたし〕は、長きにわたり、苦しみに焼かれるでしょう。

 

860.(824) あろうことか、〔まさに〕その、水なき湖にいる雌の鴛鴦(おしどり)のように、ブーリダッタと会えずにいる〔わたし〕は、長きにわたり、苦しみに焼かれるでしょう。

 

861.(825) あたかも、鍛冶屋たちの溶炉が、外ならず、内に燃えるように、このように、ブーリダッタと会えずにいる〔わたし〕は、憂いに焼かれます」〔と〕。

 

862.(826) 〔世尊は言った〕「風に押し倒され、等しく転倒したサーラ〔樹〕のように、ブーリダッタの住居地において、そして、子たちは、さらに、妻たちは、〔地に〕臥す。

 

863.(827) ブーリダッタの住居地における、この騒音を聞いて、そして、アリッタ(菩薩の末弟)は、さらに、スボーガ(菩薩の長弟)は、すぐさま走り行った」〔と〕。

 

864.(828) 〔アリッタとスボーガが言った〕「母よ、落ち着いてください。憂い悲しんではいけません。まさに、このような法(性質)ある者たちとして、命ある者たちはあります。〔彼らは〕死滅し、再生します。この〔世の人々〕には、この変化することがあります。

 

865.(829) 〔サムッダジャーが言った〕「息子よ、わたしもまた知ります。まさに、このような法(性質)ある者たちとして、命ある者たちはあります。しかしながら、ブーリダッタと会えずにいる〔わたし〕は、憂いに打ち負かされた者として存しています。

 

866.(830) スダッサナよ、識知しなさい──もし、今日、この夜のあいだ、わたしによって〔ブーリダッタが見られないなら〕、ブーリダッタと会えずにいる〔わたし〕は、思うに、生命を捨棄するでしょう」〔と〕。

 

867.(831) 〔スダッサナとアリッタとスボーガが言った〕「母よ、落ち着いてください。憂い悲しんではいけません。〔わたしたちが〕兄弟を連れ戻してきます。〔わたしたちは〕方々に赴きます──兄弟を遍く探し求め、〔至る所に〕歩みながら。

 

868.(832) 山において、諸々の山の難所において、諸々の村において、さらに、諸々の町において、七夜の内に、兄弟が帰り来るのを見よ」〔と〕。

 

869.(833) 〔婆羅門の姿をしたスダッサナに、アランパーナが言った〕「手から解き放たれた龍(菩薩)が、あなたの足もとに、激しく突進しました。親愛なる者よ、はてさて、どうでしょう、〔龍は〕あなたを咬みましたか。恐れてはいけません。安楽の者と成れ」〔と〕。

 

870.(834) 〔スダッサナが言った〕「わたしにとって、この龍は、何であれ、苦しみたるに、まさしく、十分ならず。およそ、〔世に〕蛇使いとして存するかぎり、わたしよりも、より一層の者は見出されない」〔と〕。

 

871.(835) 〔アランパーナが言った〕「婆羅門の姿であるとして、いったい、誰なのだ──衆のなかにやってきた倨傲なる者は。善き戦いによって、〔人々は〕喚呼せよ。衆の者たちよ、わたしの〔言葉を〕聞け」〔と〕。

 

872.(836) 〔スダッサナが言った〕「アーランパ(アランパーナ)よ、おまえは、わたしと、龍で〔戦え〕。わたしは、雌の子蛙で〔戦う〕。わたしたちにとって、未曾有〔の戦い〕と成れ──そこにおいて、〔賭けるに〕五千〔金〕に至るまで」〔と〕。

 

873.(837) 〔アランパーナが言った〕「まさに、わたしは、富ある富者なるも、学徒よ、おまえは、貧者として〔世に〕存している。おまえの保証人として、いったい、誰が存するというのだ。さらに、賭けるものとして、何が存在するというのだ。

 

874.(838) そして、わたしには、賭けるものが存在する──さらに、そのような者である保証人も。わたしたちにとって、未曾有〔の戦い〕と成れ──そこにおいて、〔賭けるに〕五千〔金〕に至るまで」〔と〕。

 

875.(839) 〔母の兄である現在のカーシ国の王に、スダッサナが言った〕「大王よ、わたしの言葉を聞いてください。あなたに、幸せが存せ。名誉ある者よ、わたしのために、まさに、五千〔金〕の保証人と〔成ってください〕」〔と〕。

 

876.(840) 〔カーシ国の王が尋ねた〕「あるいは、父の借金が有るのか、あるいは、すなわち、自ら作った〔借金〕が有るのか。婆羅門よ、どうして、あなたは、このように、多くの財を、わたしに乞い求めるのか」〔と〕。

 

877.(841) 〔スダッサナが答えた〕「まさに、アランパーナは、龍で、わたしに挑戦します。わたしは、雌の子蛙で、婆羅門を咬ませます。

 

878.(842) 大王よ、国土を繁栄させる者よ、それを見るために、あなたは、今日、士族たちの群れに取り囲まれ、蛇を見にお出かけください」〔と〕。

 

879.(843) 〔スダッサナに、アランパーナが言った〕「〔わたしが〕おまえを軽んじることは、まさしく、ない──学徒よ、技能の論によっては。〔おまえは〕技能によって極めて驕慢した者として存している。〔おまえは〕龍を敬わない」〔と〕。

 

880.(844) 〔スダッサナが言った〕「わたしもまた、〔あなたを〕軽んじることはない──婆羅門よ、技能の論によっては。しかしながら、〔あなたは〕毒なき龍によって、人々を大いに騙す。

 

881.(845) すなわち、わたしが、あなたのことを知るように、もし、このように、人々が、あなたのことを知るなら、アーランパよ、あなたは、ひと握りの籾も得ない──ましてや、財は〔言うまでもなく〕」〔と〕。

 

882.(846) 〔アランパーナが言った〕「粗い鹿皮をまとう結髪の汚き者が、衆のなかにやってきた倨傲なる者が、すなわち、おまえは、このような在り方の龍を、『毒なき〔龍〕』〔と〕軽んじる。

 

883.(847) 近づいて〔そののち〕、まさに、その〔龍〕のことを、気高き威光に満ちた者と知る。思うに、この〔龍〕は、おまえを、すみやかに、山積みの灰のように為すであろう」〔と〕。

 

884.(848) 〔スダッサナが言った〕「家蛇に、水蛇に、青蛇に、毒が存するとして、赤い頭の龍に、毒が見出されることは、まさしく、ない」〔と〕。

 

885.(849) 〔アランパーナが言った〕「これは、〔心身が〕自制された苦行者たる阿羅漢たちのものとして、聞くところ。この〔世において〕、諸々の布施を施して、施者たちは、天上に赴く。生きている者は、諸々の布施を施せ。すなわち、おまえに、施すべき〔施物が〕存するなら。

 

886.(850) この龍は、大いなる神通ある者にして、超え行き難き威光ある者である。彼によって、おまえを咬ませる。彼は、おまえを、灰と為すであろう」〔と〕。

 

887.(851) 〔スダッサナが言った〕「友よ、これは、〔心身が〕自制された苦行者たちのものとして、わたしによってもまた聞くところ。この〔世において〕、諸々の布施を施して、施者たちは、天上に赴く。あなたこそは、生きている者であり、〔諸々の布施を〕施したまえ。すなわち、あなたに、施すべき〔施物が〕存するなら。

 

888.(852) この〔雌の子蛙〕は、アジャムキーという名の者にして、気高き威光に満ちた者である。彼女によって、あなたを咬ませる。彼女は、あなたを、灰と為すであろう。

 

889.(853) すなわち、ダタラッタの娘にして、わたしの異母妹たる、彼女は、アジャムキーは、気高き威光(猛毒)に満ちた者であり、あなたを咬む」〔と〕。

 

890.(854) 〔王に、スダッサナが言った〕「ブラフマダッタよ、識知したまえ──もし、〔この猛毒を〕地に注ぐことになるなら、諸々の草や蔓は、諸々の薬草は、疑念〔の余地〕なく、枯れてしまうでしょう。

 

891.(855) ブラフマダッタよ、識知したまえ──もし、〔この猛毒を〕上に放つことになるなら、七年のあいだ、この天は、雨を降らさず、雪を落とさないでしょう。

 

892.(856) ブラフマダッタよ、識知したまえ──もし、〔この猛毒を〕水に注ぐことになるなら、魚や亀たちは死ぬでしょう──水から生まれる命あるものたちであるなら、そのかぎりの者たちが」〔と〕。

 

893.(857) 〔スボーガに、猟師の婆羅門が尋ねた〕「〔ヤムナー川の〕パヤーガ〔の水浴場〕に止住し、世理にかなう〔清めの〕水に浸かっている〔わたし〕を──ヤムナー川に沈潜するわたしを、誰が、飲み下したのだ、〔どのような〕精霊なのだ」〔と〕。

 

894.(858) 〔スボーガが答えた〕「すなわち、この、遍きにわたり、バーラーナシーを下して、世の君主たる盛名ある者がいる。わたしは、彼〔の娘〕の子であり、龍の雄牛の〔子である〕。婆羅門よ、わたしのことを、〔人々は〕『スボーガ』と知る」〔と〕。

 

895.(859) 〔猟師の婆羅門が言った〕「まさに、それで、もし、〔あなたが〕龍の雄牛の子であり、不死の君主たるカーシ〔国〕の王の〔娘の子であるなら〕、あなたの父は、大いなる権能ある随一の者であり、いっぽう、あなたの母も、人間たちにおける無比なる者です。そのような大いなる威力ある者は、たとえ、婆羅門の奴隷であれ、〔水に〕引き込む〔行為〕に値せず(沐浴する婆羅門を襲うのはなおさらのこと)」〔と〕。

 

896.(860) 〔スボーガが言った〕「〔水を〕飲みにやってきた羚羊を、〔おまえは〕木に依拠して、〔矢で〕貫いた。貫かれたその〔羚羊〕は、即座に、矢の勢いで、遠くに歩み去った。

 

897.(861) 林地のなかの密林において、その〔羚羊〕が倒れているのを、おまえは見た。〔おまえは〕肉を有する天秤棒を担いで、夕方に、ニグローダ〔樹〕のもとへと近しく赴いた──

 

898.(862) 鸚鵡(おうむ)や九官鳥たちが鳴きさえずり、褐色〔の実の木々〕が繁茂し群生し、郭公の鳴き声が喜ばしく、常に緑の若草があるところへと。

 

899.(863) そこにおいて、あなたのもとに、彼(菩薩)が出現した──神通と福徳によって燃え盛っている者であり、大いなる威力ある者であり、〔龍の〕少女たちに取り囲まれた、わたしの兄である。

 

900.(864) 〔まさに〕その、おまえは、彼に世話され、一切の欲望〔の対象〕によって満足させられた。おまえは、汚れなき者を裏切った。その怨みが、おまえのもとへと、ここに到来したのだ。

 

901.(865) すみやかに、首を差し出せ。おまえには、生命を与えない。兄の怨みを遍く思念しながら、おまえの頭を断ち切るのだ」〔と〕。

 

902.(866) 〔猟師の婆羅門が言った〕「婆羅門は、読誦者であり、乞いに応じる者であり、さらに、祭火を捧げる者です。これらの三つの境位によって、婆羅門は、不可侵の者として〔世に〕有ります」〔と〕。

 

903.(867) 〔スボーガが言った〕「すなわち、〔龍の王の〕ダタラッタの都は、ヤムナー川〔の底深く〕に沈潜したところにあり、ヤムナー〔川〕の山を映して、全てが黄金に輝く。

 

904.(868) そこにおいて、それらの人士たる虎たちが、わたしの同腹の兄弟たちがいる。婆羅門よ、すなわち、そこにおいて、彼らが説くであろうとおり、そのとおりに、〔おまえは〕成るのだ」〔と〕。

 

905.(869) 〔婆羅門を連行するスボーガに、アリッタが言った〕「スボーガよ、世において、そして、諸々の祭祀は、かつまた、諸々のヴェーダ〔聖典〕は、移り行くものと結び付きながらも、移り行くものではありません(不変のものである)。まさに、それゆえに、難詰するべきではない者を非難している者は、そして、富を、さらに、正しくある者たちの法(正義)を、捨棄します。

 

906.(870) 『聖者たちは、読誦によって〔世に有り〕、人のインダ(国王)たちは、地を〔治め〕、庶民たちは、耕作を〔為し〕、そして、奴隷たちは、〔主人たちの〕世話を〔為す〕。〔彼らは〕各自の分際のとおりに、〔各自の境遇に〕近しく赴いた。これらの者たちは、自在者(自在天)によって作り為され、〔そのようなものと〕成った』と、〔婆羅門たちは〕言います。

 

907.(871) ダータル、ヴィダータル、ヴァルナ、クヴェーラ、ソーマ、ヤマ、チャンディマント、ヴァーユ、スーリヤ──これら〔の神々たち〕もまた、読誦者たちのために、祭祀を多々に執り行なって、そこで、一切の欲望〔の対象〕を〔得ました〕。

 

908.(872) すなわち、五百の弓の引き手にして、恐ろしき軍団の力ある者、アッジュナは──千の腕をもち、地において等しき者なき者は──彼もまた、そのとき、〔祭祀の〕火を保ち置いたのです。

 

909.(873) すなわち、婆羅門たちを、〔自らの〕威力のままに、長夜にわたり、食べ物と飲み物によって受益させた、清信した心の者は、〔婆羅門たちに〕随喜しながら、スボーガよ、天〔の神々〕たちの或るひとりと成ったのです。

 

910.(874) すなわち、大いなる食ある天〔の神〕にして至上の色艶ある祭火〔の神〕を、酥によって受益させることができた、〔まさに〕その、ムチャリンダは、祭祀の儀礼を、優れた〔祭火〕のために執り行なって、天の境遇に到達したのです。

 

911.(875) すなわち、大いなる威力ある者として、千年の生ある者として、出家した、美しく秀逸なる者であるドゥディーパ王もまた、極限なき国土を残りなく捨棄して、天上に赴いたのです。

 

912.(876) すなわち、海洋を限りとする〔大地〕を征服して、黄金で作られている巨大にして浄美なる祭柱を掲げた、サーガラは、ヴェッサーナラ〔の祭火〕を保ち置く者として、スボーガよ、天〔の神々〕たちの或るひとりと成ったのです。

 

913.(877) スボーガよ、すなわち、〔彼の〕威力によって、ガンガー〔川〕が、乳酪の群れ集う海へと転起した、〔まさに〕その、アンガ〔王〕のローマパーダは、祭火を世話して、千の眼ある者の都に到達したのです。

 

914.(878) 大いなる神通ある優れた天〔の神〕にして福徳ある者、三十三〔天〕におけるヴァーサヴァ(帝釈天)の軍団長は、彼は、ソーマの祭祀によって、〔世俗の〕垢を打破して、スボーガよ、天〔の神々〕たちの或るひとりと成ったのです。

 

915.(879) バーギーラティー〔川〕を、さらに、ヒマヴァント〔山〕を、ギッジャ〔山〕を、この世を、さらに、他〔の世〕を、〔それらを〕作らせた、すなわち、神通ある優れた天〔の神〕にして福徳ある者は、スボーガよ、彼もまた、そのとき、〔祭祀の〕火を保ち置いたのです。

 

916.(880) マーラーギリ〔山〕も、ヒマヴァント〔山〕も、さらに、すなわち、ギッジャ〔山〕も、スダッサナ〔山〕も、ニサバ〔山〕も、クヴェール〔山〕も、そして、これら〔の山々〕も、さらに、他の、大いなる山々も、諸々の祭祀を為すことによって積み上げが為されたと、〔婆羅門たちは〕言います。

 

917.(881) 読誦者にして呪文の徳の具有者たる苦行者を、この〔世において〕、〔人々は〕『乞いに応じる者』と言います。岸において海の水に浸かっている彼を、海洋は飲み下しました。それによって、〔海の水は〕飲めないのです。

 

918.(882) 地において、諸々の供物の事例ある、多々なる婆羅門たちが、ヴァーサヴァ(帝釈天)のもとに〔至り得た者たちとして〕、等しく見出されます。東の方角に、西〔の方角〕に、南と北〔の方角〕に、等しく見出されながら、〔彼らは〕感嘆〔の思い〕を生じさせるのです」〔と〕。

 

919.(883) 〔婆羅門を賞賛するアリッタに、菩薩は言った〕「アリッタよ、諸々のヴェーダ〔聖典〕に到達したとして、獣愚の者たちにとっては、善き〔賽の目〕と〔成るも〕、まさに、慧者たちにとっては、諸々の〔悪しき〕賽の目と成る。陽炎の法(性質)と正視せざるがゆえに、諸々の幻惑の徳(ごまかしやあざむきの心)は、智慧をもたらさず。

 

920.(884) 諸々のヴェーダ〔聖典〕は、朋友を裏切り生あるものを殺す人の、彼の救護と成らず。そして、世話した祭火は、憤怒を内にする人間を、聖ならざる行為ある者を、救護せず。

 

921.(885) そして、人間たちは、財産を含め、財物を含め、全てのものを、木や草と混合し、燃やしてきたが、〔祭火の〕充全ならざる威光は、〔供物を〕焼きながら、〔一向に〕満足せず。乱想者よ、誰が、それを、善き食物に作り為すというのだろう。

 

922.(886) あたかも、また、変化の法(性質)ある牛乳が、乳酪と成って、生酥ともまた成るように、このように、また、祭火は、変化の法(性質)あるものであり、専念〔努力〕と結び付いたものである、〔その〕威光は、〔いずれ〕等しく降下する(生起の縁が尽きれば消滅する)。

 

923.(887) 諸々の乾いた薪に、さらに、また、諸々の新しい〔薪〕に、火の入ったものは見られない。火起こしの人によって摩擦されないなら、〔発現し〕ない。行為によらずして、火は生まれない。

 

924.(888) 諸々の乾いた薪に、さらに、また、諸々の新しい〔薪〕に、まさに、それで、もし、祭火〔の神〕が、〔それらの〕内に住するなら、世において、全ての林は枯れるであろうし、かつまた、諸々の乾いた薪は燃え上がるであろう。

 

925.(889) 煙や炎ある輝くものを受益させている人が、もし、木や草によって、功徳を作り為すなら、炭焼きたちは、さらに、塩作りたちも、料理人たちや火葬夫たちもまた、功徳を作り為すであろう。

 

926.(890) そこで、まさに、もし、これらの者たちが、功徳を作り為さないなら、この〔世において〕、読誦によって祭火〔の神〕を満足させて、煙や炎ある輝くものを受益させている人は、誰であれ、功徳を作り為さない。

 

927.(891) まさに、世〔の人々〕に敬われる者として存している者が、どうして、多くの者たちの欲さない快意ならざる臭いあるものを──乱想者よ、まさしく、すなわち、人間たちが遍く避ける、〔まさに〕その、〔誰も〕賞賛しないものを──受益するというのだろう。

 

928.(892) 天〔の神々〕たちについて、まさに、或る者たちは、さてまた、炎を、〔神と〕説き、いっぽう、蛮族たちは、水を、神と言う。これらの者たちは、まさしく、全ての者たちが、真実を離れることを話す。祭火は、天〔の神々〕たちの或るひとりにあらず。そして、水も、さにあらず。

 

929.(893) 〔感官の〕機能と結ばれず、身体に表象〔作用〕なき、ヴェッサーナラ〔の祭火〕は、〔世の〕人々のための労夫である。諸々の悪しき行為を為している者が、祭火を世話して、どうして、善き境遇に行くというのだろう。

 

930.(894) この〔世において〕、生計を義(目的)として、彼らは言う。『一切の征服者たる梵〔天〕は、祭火を世話する者である』と。さてまた、一切に威力ある自在者にして化作されざる者が、何を義(目的)として、化作されたものを敬拝する者として存するというのだろう。

 

931.(895) 納得と受認なく真実ならざる笑い事を、〔他者の〕尊敬を因として、過去において、〔婆羅門たちは、世に〕撒き散らした。彼らは、利得と尊敬が出現しないので、寂静の法(性質)を、諸々の生物〔の供犠〕と関係づけたのだった。

 

932.(896) 『聖者たちは、読誦によって〔世に有り〕、人のインダ(国王)たちは、地を〔治め〕、庶民たちは、耕作を〔為し〕、そして、奴隷たちは、〔主人たちの〕世話を〔為す〕。〔彼らは〕各自の分際のとおりに、〔各自の境遇に〕近しく赴いた。これらの者たちは、自在者(自在天)によって作り為され、〔そのようなものと〕成った』と、〔婆羅門たちは〕言う。

 

933.(897) そして、この言葉が、真理として有るなら、すなわち、婆羅門たちによって語られた、この〔言葉〕のとおりなら、士族ならざる者は、けっして、王権を得ないであろうし、婆羅門ならざる者は、諸々の呪文の句を学べないであろうし、庶民たちより他には、〔誰も〕耕作を為せないであろうし、奴隷は、他者に使われることから解き放たれないであろう。

 

934.(898) しかしながら、すなわち、この言葉が、事実ならざることから、これらの飽食の者たちが、虚偽を話し、智慧少なき者たちが、それを信じるも、賢者たちは、それを〔信ぜず〕、まさしく、自己みずから、〔事実ならざるものと、あるがままに〕見る。

 

935.(899) まさに、士族たちは、庶民たちに供物を運び、婆羅門たちは、諸々の刃を取って〔世を〕歩む。そのようなものとなり、掻き乱され、破壊した、〔まさに〕その、世〔のあり様〕を、何ゆえに、梵〔天〕は、真っすぐに作り為さないのであろう。

 

936.(900) まさに、それで、もし、彼が、一切の世におけるイッサラにして多くの生類の長たる梵〔天〕が、〔事実のとおりに〕覚知しているなら、どうして、一切の世を、不運なるものとして設置したのであろう、どうして、一切の世を、安楽なるものとして作り為さなかったのであろう。

 

937.(901) まさに、それで、もし、彼が、一切の世におけるイッサラにして多くの生類の長たる梵〔天〕が、〔事実のとおりに〕覚知しているなら、そして、また、〔欺瞞の〕幻惑や虚偽の言葉や驕慢〔の思い〕によって、法(正義)ならざるものによって、何を義(目的)として、世を作り為したのであろう。

 

938.(902) まさに、それで、もし、彼が、一切の世におけるイッサラにして多くの生類の長たる梵〔天〕が、〔事実のとおりに〕覚知しているなら、アリッタよ、生類の長は、法(正義)にかなわざる者である。彼は、法(正義)が存しているのに、法(正義)ならざるものを設置したのだ。

 

939.(903) 昆虫たちや蟋蟀たちを、そして、蛇たちや蛙たちや蛆虫たちを、さらに、蝿たちを、〔これらのものたちを〕殺して、〔人が〕清浄となるなら、これらの法(性質)もまた、聖ならざる形態のものであり、真実を離れるものであり、多くの〔無知なる〕カンボージャの者たちのものである。

 

940.(904) まさに、それで、もし、彼が、〔誰かを〕殺すことで、彼が、清浄となり、殺された彼もまた、天上の境位へと近しく至るなら、ボーヴァーディン(婆羅門)たちは、ボーヴァーディンを殺すべきである──さらに、また、彼らが、彼らの〔言葉を〕信じているなら。

 

941.(905) まさしく、鹿たちは〔懇願せ〕ず、家畜たちは〔懇願せ〕ず、牛たちもまた〔懇願せ〕ず──〔彼らが〕誰であれ、自己の屠殺を懇願する〔ことはない〕。この〔世において〕、生計を義(目的)として、諸々の祭祀において、命ある者がもがいているなか、〔婆羅門たちは〕家畜〔の屠殺〕に励む。

 

942.(906) そして、掲揚された祭柱に縛られた家畜にたいし、愚者たちは、様々な褒め称えによって、口を導く。『この祭柱は、おまえのために、他所(来世)において、欲するものを授けるものと〔成り〕、未来において、常久なるものと成るであろう』〔と〕。

 

943.(907) そして、それで、もし、祭柱に、諸々の乾いた薪に、さらに、また、諸々の新しい〔薪〕に、宝珠や法螺貝や真珠があり、穀物があり、財産があり、銀があり、金があるなら、それで、もし、三十三〔天〕において、一切の欲望〔の対象〕を授けてくれるなら、まさしく、三つのヴェーダある僧団の者たちは、多々に祭祀をするであろうし、誰であれ、婆羅門ならざる者には、祭祀をさせないであろう。

 

944.(908) しかしながら、どうして、祭柱に、諸々の乾いた薪に、さらに、また、諸々の新しい〔薪〕に、宝珠や法螺貝や真珠があり、穀物があり、財産があり、銀があり、金があるというのだろう。どうして、三十三〔天〕において、一切の欲望〔の対象〕を授けてくれるというのだろう。

 

945.(909) そして、狡猾で、さらに、残忍で、〔欲に〕誘惑された愚者たちは、様々な褒め称えによって、口を導く。『祭火を取って、わたしに、富を施したまえ。そののち、一切の欲望〔の対象〕において、安楽の者と成るであろう』〔と〕。

 

946.(910) 〔まさに〕その、祭火への捧げものをする家に入って、様々な褒め称えによって、口を導く。髪と髭を剃り下ろして、さらに、爪を〔取り去って〕、諸々のヴェーダ〔の読誦〕によって、〔信者の〕富を喪失させる。

 

947.(911) 多くの烏たちが、静所に独り存している梟を得て、共に赴いて〔襲い掛かる〕ように、虚言者たちは、諸々の食べ物を受益して、虚言を言って、〔人を〕剃髪と為して、祭祀の道に投げ捨てる。

 

948.(912) まさに、このように、彼は、婆羅門たちに騙されたのだ──独り存していると、多くの者たちが共に赴いて〔襲い掛かるように〕。彼らは、〔その〕専念〔その〕専念によって〔富を〕強奪しながら、見られないものによって見られるものである財を運び去る。

 

949.(913) 王たちに教示された収税官たちのように、彼のその財を取って、運び去る。彼らは、そのような者たちであり、盗賊に等しく、正しからざる者たちである。アリッタよ、屠殺されるべき者たちは、〔この〕世においては打ちのめされない。

 

950.(914) 〔婆羅門たちは〕『〔おまえは〕インダの右腕として存している』と〔言いながら〕、諸々の祭祀において、パラーサ〔樹〕の枝を切断する。もし、また、それが、真理であるなら、マガヴァントは、腕を切断された者として存するべきであり、〔その〕インダが、どうして、阿修羅たちに勝利するというのだろう。

 

951.(915) まさしく、そして、それは、虚妄であり、マガヴァントは、〔腕を〕保有する者であり、殺す者であり、不可侵の者であり、彼は、最高の天〔の神〕である。呪文者たる、これらの婆羅門たちは、虚妄なる形態の者たちである。これは、〔この〕世における現に見られる騙し事である。

 

952.(916) マーラーギリ〔山〕も、ヒマヴァント〔山〕も、さらに、すなわち、ギッジャ〔山〕も、スダッサナ〔山〕も、ニサバ〔山〕も、クヴェール〔山〕も、そして、これら〔の山々〕も、さらに、他の、大いなる山々も、諸々の祭祀を為すことによって積み上げが為されたと、〔婆羅門たちは〕言う。

 

953.(917) まさに、あたかも、流儀としては、諸々の煉瓦のように、諸々の祭祀を為すことによって積み上げが為されたと、〔婆羅門たちは〕言う。山々は、そのような流儀のものとして有るのではない。諸々の他なる方角に不動のものとして止住している岩である。

 

954.(918) 諸々の煉瓦は、長きをもってしても岩には成らない。そこにおいて、鉄が生み出されることはなく、銅が〔生み出されることも〕ない。しかしながら、祭祀を、これを遍く褒め称えながら、諸々の祭祀を為すことによって積み上げが為されたと、〔婆羅門たちは〕言う。

 

955.(919) 読誦者にして呪文の徳の具有者たる苦行者を、この〔世において〕、〔人々は〕『乞いに応じる者』と言う。岸において海の水に浸かっている彼を、海洋は飲み下した。それによって、〔海の水は〕飲めないのだと。

 

956.(920) 遍きにわたりヴェーダ〔の保持〕ある呪文の具有者たちを、たとえ、千を超えるも、諸々の川が運び行くとして、それによって、水の味が害されることはない。海は、何ゆえに、無比にして、飲めないのか。

 

957.(921) それらが何であれ、諸々の穴は、ここに、生あるものの世において、穴掘りたちによって掘られたなら、塩水あるものとなる。婆羅門を飲み下すことによってではなく、それら〔の深い穴〕において、〔水が塩水となるだけのこと〕。乱想者よ、〔人々が〕『〔海の〕水は飲めない』〔と〕言うとして。

 

958.(922) かつて、前には、誰かが、誰かの妻として〔有っただけのこと〕。過去において、意は、人間〔の区分〕を生んだが、その法(性質)によってもまた、誰であれ、劣った者は〔存在し〕ない。たとえ、このように、〔生業の〕差別と区分を、〔人々が〕言うとして。

 

959.(923) チャンダーラ(賎民)の子もまた、諸々のヴェーダ〔聖典〕を学得して、巧みな智ある者となり、思慧ある者となり、諸々の呪文を語るとして、彼の頭もまた、七様に裂けることはない。これらの呪文は、自己の屠殺のために作られたのだ。

 

960.(924) 言葉として作られた〔これらの呪文〕は、貪求〔の思い〕によって作られ、収め取られたのだ。詩の道に堕ちた者たちは、解き放ち難い。愚者たちの心は、不正のものに固着し、それについて智慧少なき者たちは、〔判別せずして〕信を置く。

 

961.(925) 獅子に、そして、虎に、さらに、豹に、力としては、人のものは見出されず、そして、期すべきものとして、人間の状態が、牛たちに〔見出されない〕ように、まさに、彼らの生まれは、等しからざるものとして存している。

 

962.(926) そして、それで、もし、王が、地を征圧して、閣僚ある者となり、従順なる従者ある者となるなら、彼は、まさしく、自ら、賊たちの群れを征圧するであろうし、彼の子孫は、常に安楽の者と成るであろう。

 

963.(927) そして、諸々の士族の智略も、さらに、三つのヴェーダも、これらは、義(意味)としては、等しきものとして有る。しかしながら、それらの義(意味)を判別せずして、覆い隠された、まさしく、激流の道を、〔愚者は〕覚らない。

 

964.(928) そして、諸々の士族の智略も、さらに、三つのヴェーダも、これらは、義(意味)としては、等しきものとして有る。利得と利得なきは、さらに、盛名と盛名なきは、まさしく、〔それらの〕全てが、そして、それらの四つ〔の階級〕の者たちの法(性質)となる。

 

965.(929) あたかも、また、資産家たちが、財産と穀物を因として、諸々の行為を、地において多々に為すように、そして、三つの学知ある僧団の者(婆羅門)たちは、まさしく、そのように、今日、諸々の行為を、地において多々に為す。

 

966.(930) すなわち、彼らは、資産家たちと等しき者たちとして〔世に〕有り、常に思い入れある者たちであり、〔五つの〕欲望の属性(色・声・香・味・触)に束縛された者たちであり、諸々の行為を、地において多々に為す。乱想者よ、彼らは、それについて智慧少なき者たちであり、〔真理から〕遠く離れている」〔と〕。

 

967.(931) 〔出家した先王に、カーシ国の王が尋ねた〕「諸々の太鼓は、そして、諸々の小鼓は、諸々の法螺貝は、諸々の銅鼓や鐘鼓は、誰のものであり、〔行列の〕前を行き、車上の雄牛(王)を笑わせているのですか。

 

968.(932) 金の紐によって個々に雷光の色艶ある、矢束を装着した若者たちは、誰のものであり、誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

969.(933) 溶炉の口のなかで精錬された〔黄金〕のような、カディラ〔樹〕の炭火の似姿ある、さてまた、〔誰の〕顔が、好ましく輝き、誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

970.(934) ジャンブー川の〔金貨の如き〕傘蓋は、傘骨を含め意が喜びとする〔傘蓋〕は、太陽の光を防護する〔傘蓋〕は、誰のものであり、誰が、吉祥によって光り輝きながら行くのですか。

 

971.(935) 鉤を掴んで、最上の毛扇を〔掴んで〕、優れた智慧ある、誰のために、上に上にと、〔誰の〕頭の両側から〔掲げて、人々は歩むのですか〕。

 

972.(936) 誰のために、かつまた、彩りあざやかで、かつまた、柔和なる、諸々の〔孔雀の〕尾翼の団扇を、黄金と宝珠の諸々の杖を、〔誰の〕顔の両側から〔掲げて、人々は〕歩むのですか。

 

973.(937) カディラ〔樹〕の炭火の色艶と輝きある者たちは、溶炉の口のなかで精錬された〔黄金の色艶と輝き〕ある者たちは、誰のものであり、これらの耳飾をした麗美なる者たちは、〔誰の〕顔の両側から、美しく輝くのですか。

 

974.(938) 風に吹かれ、なびいている、諸々の柔和なる黒〔髪〕は、誰のものであり、高き天空からの雷光のように、〔誰の〕額の際を美しく輝かせるのですか。

 

975.(939) 切れ長で、かつまた、広々とした、これらの眼は、誰のものであり、この白毫が生じる顔は、誰のものであり、大きな眼の者は、誰であり、美しく輝くのですか。

 

976.(940) 口から生じた、清浄で、優れた法螺貝の如き、これら〔の歯〕は、誰のものであり、〔誰が〕語っていると、〔これらの〕歯は、クッピラ〔樹の花〕に等しく、美しく輝くのですか。

 

977.(941) 〔赤の〕染料液に等しく、安楽に生長した〔両の〕手足は、誰のものであり、〔まさに〕その、ビンバ〔の果の朱色〕の唇を成就した者は、誰であり、昼の太陽のように光り輝くのですか。

 

978.(942) 雪〔の季節〕が過ぎたヒマヴァント(ヒマラヤ)に花ひらいた大いなるサーラ〔樹〕のような、〔まさに〕その、白の外衣をまとう者は、誰であり、勝利あるインダのように美しく輝くのですか。

 

979.(943) 金の突起物をちりばめた、様々な彩りある宝珠の杖を、剣の竿を、〔まさに〕その、誰が、衆のなかに入って解き放つのですか。

 

980.(944) 黄金で作られ、彩りあざやかで、見事に作り為され、彩りあざやかな刺繍ある、〔両の〕足〔の履物〕を、〔まさに〕その、誰が、大いなる聖賢(先王)への礼拝を為して脱ぐのですか」〔と〕。

 

981.(945) 〔先王が答えた〕「まさに、彼らは、ダタラッタの龍たちである。神通ある者たちであり、福徳ある者たちである。〔わたしの娘であり、おまえの妹である〕サムッダジャーによって生まれ来た者たちである。これらの龍たちは、大いなる神通ある者たちである」〔と〕。ということで──

 

 ブーリダッタ・ジャータカが、第六となる。

 

22. 1. 7. チャンダクマーラ・ジャータカ(チャンダ王子・本生物語542)

 

982.(578) 〔世尊は言った〕「エーカラージャン〔という名〕の残忍な行為の王が、プッパヴァティーに存した。彼は、梵の眷属に尋ねた──迷乱した者であるカンダハーラ司祭に」〔と〕。

 

983.(579) 〔王が尋ねた〕「諸々の天上への道を告げ知らせよ。婆羅門よ、おまえは、法(教え)と律に巧みな智ある者として存している。すなわち、〔世の〕人たちが、諸々の功徳を作り為して、ここ(現世)から善き境遇に行くとおりに、〔諸々の天上への道を告げ知らせよ〕」〔と〕。

 

984.(580) 〔カンダハーラが答えた〕「陛下よ、過度の布施を施して、侵すべからざる者たちを殺害して、このように、〔世の〕人たちは、諸々の功徳を作り為して、ここから善き境遇に行きます」〔と〕。

 

985.(581) 〔王が尋ねた〕「また、何が、その過度の布施であり、そして、どのような者たちが、この世において、侵すベからざる者たちなのだ。そして、まさに、このことを、わたしたちに告げ知らせよ。〔わたしは〕祭祀をするであろう。諸々の布施を施すのだ」〔と〕。

 

986.(582) 〔カンダハーラが答えた〕「陛下よ、子たちによって、王妃たちによって、さらに、町の者たちによって、祭祀がされるべきです。陛下よ、四者の善き生まれの雄牛によって、全ての四なるものによって、祭祀がされるべきです」〔と〕。

 

987.(583) 〔世尊は言った〕「『王子たちは、そして、王妃たちは、殺されよ』〔という〕、その〔言葉〕を聞いて、内宮において、恐怖の声が沸き上がり、一なる音と成った」〔と〕。

 

988.(584) 〔家来たちに、王が言った〕「赴け。王子たちに説け──チャンダ(菩薩)に、そして、スーリヤに、かつまた、バッダセーナに、さらに、そして、ヴァーマ姓のスーラにも。『祭祀を義(目的)として、まさに、十把ひとからげと成れ』〔と〕。

 

989.(585) 王女たちにもまた説け──ウパセーナーに、そして、コーキラーに、かつまた、ムディターに、さらに、また、ナンダー王女にも。『祭祀を義(目的)として、まさに、十把ひとからげと成れ』〔と〕。

 

990.(586) わたしの王妃にもまた〔説け〕──ヴィジャヤーに、エーラーヴァティーに、ケーシニーに、そして、スナンダーに、〔これらの〕優れた特相を具有した者たちに。『祭祀を義(目的)として、まさに、十把ひとからげと成れ』〔と〕。

 

991.(587) そして、家長たちに説け──プンナムカに、バッディヤに、そして、シンガーラに、さらに、また、ヴァッダ家長にも。『祭祀を義(目的)として、まさに、十把ひとからげと成れ』」〔と〕。

 

992.(588) 〔世尊は言った〕「子や妻たちに取り囲まれ、集いあつまった、それらの家長たちは、そこにおいて言った。『陛下よ、まさしく、全ての者たちを、冠毛ある者(奴隷)たちと為したまえ。そこで、あるいは、わたしたちのことを、奴隷たちと、〔人々に〕告げ聞かせたまえ』」〔と〕。

 

993.(589) 〔家来たちに、王が言った〕「わたしの象であるアバヤンカラをもまた、ナーラーギリを、アッチュッガタを、ヴァルナダンタを、まさに、彼らを、すみやかに連れてこい。祭祀を義(目的)として、〔犠牲獣たちと〕成るであろう。

 

994.(590) 馬の宝であるケーシをもまた、スラームカを、プンナカを、そして、ヴィナタカを、まさに、彼らを、すみやかに連れてこい。祭祀を義(目的)として、〔犠牲獣たちと〕成るであろう。

 

995.(591) 〔牛たちの〕群れの長たるウサバをもまた、アノージャを、ニサバを、ガヴァンパティを、彼らをもまた、わたしのもとに連れてこい。全てを、集団と為せ。〔わたしは〕祭祀をするであろう。諸々の布施を施すのだ。

 

996.(592) 全てを設えよ。また、太陽が昇ったなら、祭祀を〔執り行なえ〕。そして、王子たちに命じよ。『この夜を喜び楽しめ』〔と〕。

 

997.(593) 全てを調達せよ。また、太陽が昇ったなら、祭祀を〔執り行なえ〕。王子たちに説け。『今日は、まさに、最後の夜である』」〔と〕。

 

998.(594) 〔世尊は言った〕「〔王の〕母は、宮殿から泣きながらやってきて、彼に、その〔言葉〕を言った」〔と〕。〔母が尋ねた〕「子よ、四者の子たちによって、まさに、あなたに、祭祀が有るのですか」〔と〕。

 

999.(595) 〔王が答えた〕「全てもろともに、わたしの子たちは施捨され、チャンダ(菩薩)が殺されるとき、子たちによって、祭祀を執り行なって、善き境遇に、天上に、〔わたしは〕赴くでしょう」〔と〕。

 

1000.(596) 〔母が言った〕「子よ、彼(カンダハーラ)に、信を置いてはいけません。『子の祭祀によって、まさに、善き境遇が有る』〔と〕。これは、諸々の地獄への道です。まさに、これは、諸々の天上への道ではありません。

 

1001.(597) コンダンニャ(王)よ、諸々の布施を施しなさい。一切の生類と生類たるべきものたちへの不害が〔為されるべきです〕。これは、善き境遇への道です。そして、子の祭祀によって、〔善き境遇に至ることはなく、正しい〕道ではありません」〔と〕。

 

1002.(598) 〔王が言った〕「師匠たちの言葉ゆえに、そして、チャンダを、さらに、スーリヤを、殺害するのです。施捨し難き子たちによって、祭祀を執り行なって、善き境遇に、天上に、〔わたしは〕赴くでしょう」〔と〕。

 

1003.(599) 〔世尊は言った〕「〔王の〕父たるヴァサヴァッティンもまた、正嫡たる自らの子に、彼に、その〔言葉〕を言った」〔と〕。〔父が尋ねた〕「子よ、四者の子たちによって、まさに、おまえに、祭祀が有るのか」〔と〕。

 

1004.(600) 〔王が答えた〕「全てもろともに、わたしの子たちは施捨され、チャンダが殺されるとき、子たちによって、祭祀を執り行なって、善き境遇に、天上に、〔わたしは〕赴くでしょう」〔と〕。

 

1005.(601) 〔父が言った〕「子よ、彼に、信を置いてはいけない。『子の祭祀によって、まさに、善き境遇が有る』〔と〕。これは、諸々の地獄への道である。まさに、これは、諸々の天上への道ではない。

 

1006.(602) コンダンニャよ、諸々の布施を施せ。一切の生類と生類たるべきものたちへの不害が〔為されるべきである〕。これは、善き境遇への道である。そして、子の祭祀によって、〔善き境遇に至ることはなく、正しい〕道ではない」〔と〕。

 

1007.(603) 〔王が言った〕「師匠たちの言葉ゆえに、そして、チャンダを、さらに、スーリヤを、殺害するのです。施捨し難き子たちによって、祭祀を執り行なって、善き境遇に、天上に、〔わたしは〕赴くでしょう」〔と〕。

 

1008.(604) 〔父が言った〕「コンダンニャよ、諸々の布施を施せ。一切の生類と生類たるべきものたちへの不害が〔為されるべきである〕。子たちに取り囲まれた、おまえは、国土を、さらに、地方を、守れ」〔と〕。

 

1009.(605) 〔王に、菩薩は言った〕「陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、象たちを、さらに、馬たちを、〔わたしたちは〕守ります(飼育し世話をする)。

 

1010.(606) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、象の糞を、〔わたしたちは〕片付けます。

 

1011.(607) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、馬の糞を、〔わたしたちは〕片付けます。

 

1012.(608) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。すなわち、あなたに、諸々の欲することが有るなら〔思いのままに〕。たとえ、国土から追放されたとして、行乞の行を、〔わたしたちは〕歩みます」〔と〕。

 

1013.(609) 〔王が言った〕「まさに、悲嘆しながら、生命を欲する〔おまえたち〕は、まさに、わたしに、苦しみを生じさせる。今や、王子たちを解き放て。子の祭祀は、わたしにとって、もう十分と成れ」〔と〕。

 

1014.(610) 〔王に、カンダハーラが言った〕「まさしく、過去において、まさに、わたしの説くところとして、〔この言葉が〕存しました。『これは、為し難きことであり、かつまた、征服し難きことである』〔と〕。そこで、わたしたちにとって資益ある祭祀に、何ゆえに、〔心の〕散乱を作り為すのですか。

 

1015.(611) 全ての者たちが、善き境遇に行くのです──すなわち、祭祀をする者たちも、すなわち、また、祭祀をさせる者たちも、すなわち、さらに、また、このような大いなる祭祀を執り行なっている者たちに随喜する者たちも」〔と〕。

 

1016.(612) 〔王に、菩薩は言った〕「そこで、どうして、人は、過去において、安穏〔の言葉〕を、婆羅門たちに言わせたのですか(無事息災を祈念させたのか)。陛下よ、そこで、わたしたちを、契機なき〔理由〕から、祭祀を義(目的)として、〔今や〕殺害するのです。

 

1017.(613) まさしく、過去において、年少の時には、わたしたちを、殺さず、殺害しませんでした。父よ、年少ののち、若さ〔の盛り〕に至り得た〔わたしたち〕は、汚れなき者たちであるのに殺されるのです。

 

1018.(614) 大王よ、象に乗り、馬に乗り、武装したわたしたちを見てください──あるいは、戦った〔わたしたち〕を、あるいは、戦っている〔わたしたち〕を。まさに、わたしたちのような勇士たちは、祭祀を義(目的)として〔世に〕有るのではありません。

 

1019.(615) あるいは、また、辺境が動乱したとき、あるいは、森の者たちが〔動乱した〕とき、わたしたちのような者たちを、〔王たちは〕送り込みます。父よ、そこで、わたしたちは、契機なき〔理由〕から、地ならざる所において殺されるのです。

 

1020.(616) まさに、すなわち、また、それらの雌鳥たちが、諸々の草の家を作って住するなら、彼女たちにとってもまた、子たちは、愛しきもの。陛下よ、そこで、あなたは、わたしたちを殺害するのです。

 

1021.(617) 彼に、信を置いてはいけません。『カンダハーラは、わたしを殺害しないであろう』〔と〕。陛下よ、まさに、彼は、わたしを殺害して〔そののち〕、すぐさま、あなたをもまた殺害するでしょう。

 

1022.(618) 大王よ、優れた村を、優れた町を、財物をもまた、〔王たちは〕彼(婆羅門)に与えます。そこで、また、至高の〔行乞の〕食ある者たちとなり、まさに、これら〔の婆羅門〕たちは、家々において〔施物を〕受益します。

 

1023.(619) 大王よ、そのような〔王〕たちを、彼らをもまた、裏切ることを、〔これらの者たちは〕求めます。陛下よ、多くのところとして、これらの婆羅門たちは、恩知らずの者たちです。

 

1024.(620) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、象たちを、さらに、馬たちを、〔わたしたちは〕守ります。

 

1025.(621) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、象の糞を、〔わたしたちは〕片付けます。

 

1026.(622) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、馬の糞を、〔わたしたちは〕片付けます。

 

1027.(623) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。すなわち、あなたに、諸々の欲することが有るなら〔思いのままに〕。たとえ、国土から追放されたとして、行乞の行を、〔わたしたちは〕歩みます」〔と〕。

 

1028.(624) 〔王が言った〕「まさに、悲嘆しながら、生命を欲する〔おまえたち〕は、まさに、わたしに、苦しみを生じさせる。今や、王子たちを解き放て。子の祭祀は、わたしにとって、もう十分と成れ」〔と〕。

 

1029.(625) 〔王に、カンダハーラが言った〕「まさしく、過去において、まさに、わたしの説くところとして、〔この言葉が〕存しました。『これは、為し難きことであり、かつまた、征服し難きことである』〔と〕。そこで、わたしたちにとって資益ある祭祀に、何ゆえに、〔心の〕散乱を作り為すのですか。

 

1030.(626) 全ての者たちが、善き境遇に行くのです──すなわち、祭祀をする者たちも、すなわち、また、祭祀をさせる者たちも、すなわち、さらに、また、このような大いなる祭祀を執り行なっている者たちに随喜する者たちも」〔と〕。

 

1031.(627) 〔王に、菩薩は言った〕「もしくは、まさに、子たちによって祭祀をして、ここ(現世)から死滅した者たちが、天の世に行くなら、まずは、婆羅門が祭祀をせよ。そのあとで、また、王であるあなたが、祭祀をするのです。

 

1032.(628) もしくは、まさに、子たちによって祭祀をして、ここから死滅した者たちが、天の世に行くなら、このカンダハーラこそが、自らの子たちによって祭祀をするのです。

 

1033.(629) このように知っているカンダハーラは、どうして、子たちを殺害しなかったのですか。そして、全ての親族の人々を、さらに、自己を、殺害しなかったのですか。

 

1034.(630) 全ての者たちが、地獄に行くのです──すなわち、祭祀をする者たちも、すなわち、また、祭祀をさせる者たちも、すなわち、さらに、また、このような大いなる祭祀を執り行なっている者たちに随喜する者たちも。

 

1035. まさに、それで、もし、彼が、〔誰かを〕殺すことで、彼が、清浄となり、殺された彼もまた、天上の境位へと近しく至るなら、ボーヴァーディン(婆羅門)たちは、ボーヴァーディンを殺すべきです──さらに、また、彼らが、彼らの〔言葉を〕信じているなら」〔と〕。

 

1036.(631) 〔人々に、菩薩は言った〕「さてまた、どうして、まさに、子を欲する者たちである、家長たちは、そして、家婦たちは、城市にありながら、王に申し立てないのか。『正嫡の子を殺害してはならない』〔と〕。

 

1037.(632) さてまた、どうして、まさに、子を欲する者たちである、家長たちは、そして、家婦たちは、城市にありながら、王に申し立てないのか。『実の子を殺害してはならない』〔と〕。

 

1038.(633) そして、王の義(利益)を欲する者として、さらに、全ての地方の者にとって益ある者として、〔わたしは〕存している。誰であれ、いないのか。わたしとともに、彼に敵対〔の思い〕を知らせる、地方の者はいないのか(義憤を感じ抗議する者はいないのか)」〔と〕。

 

1039.(634) 〔侍女たちに、菩薩は言った〕「家婦たちよ、おまえたちは、赴け。そして、父に、さらに、カンダハーラに、知らせよ。『王子たちを、獅子の似姿ある汚れなき者たちを、〔あなたたちは〕殺害してはならない』〔と〕。

 

1040.(635) 家婦たちよ、おまえたちは、赴け。そして、父に、さらに、カンダハーラに、知らせよ。『王子たちを、全ての世〔の人々〕に期待される者たちを、〔あなたたちは〕殺害してはならない』」〔と〕。

 

1041.(636) 〔菩薩は言った〕「それなら、さあ、わたしは、生まれるのだ──あるいは、車工の家々に、あるいは、非人の家々に、あるいは、庶民〔の家々〕に、生まれるのだ。王よ、まさに、今日、わたしを、祭祀において殺害するべきにあらず」〔と〕。

 

1042.(637) 〔女たちに、菩薩は言った〕「境界の内にある女たちよ、全ての者たちは、赴け。尊貴なる者(王)の、カンダハーラの、〔彼らの両の〕足もとに、ひれ伏せ(わたしの言葉を奏上せよ)。『わたしは、罪過を見ません(無実である)』〔と〕。

 

1043.(638) 境界の内にある女たちよ、全ての者たちは、赴け。尊貴なる者(王)の、カンダハーラの、〔彼らの両の〕足もとに、ひれ伏せ。『尊き方よ、どうして、わたしどもが、あなたを汚したというのですか』」〔と〕。

 

1044.(639) 〔世尊は言った〕「哀れなセーラー(菩薩の妹)は悲嘆する──兄弟たちが連れて行かれたのを見て。『天上を欲する、わたしの父によって、まさに、祭祀〔の話〕が持ち上がったのだ』〔と〕。

 

1045.(640) ヴァスラ(菩薩の子)は、ころがり回り、かつまた、のたうち回る──王の面前にて。『わたしたちの父を打ち殺さないでください。年少ののち、若さ〔の盛り〕に至り得た〔王子たち〕です』」〔と〕。

 

1046.(641) 〔王が言った〕「ヴァスラよ、この者は、おまえの父である。共に赴きなさい、父と共に。内宮のなかで悲嘆している〔おまえ〕は、まさに、わたしに、苦しみを生じさせる。今や、王子たちを解き放て。子の祭祀は、わたしにとって、もう十分と成れ」〔と〕。

 

1047.(642) 〔王に、カンダハーラが言った〕「まさしく、過去において、まさに、わたしの説くところとして、〔この言葉が〕存しました。『これは、為し難きことであり、かつまた、征服し難きことである』〔と〕。そこで、わたしたちにとって資益ある祭祀に、何ゆえに、〔心の〕散乱を作り為すのですか。

 

1048.(643) 全ての者たちが、善き境遇に行くのです──すなわち、祭祀をする者たちも、すなわち、また、祭祀をさせる者たちも、すなわち、さらに、また、このような大いなる祭祀を執り行なっている者たちに随喜する者たちも。

 

1049.(644) エーカラージャンよ、一切の宝物にとって資益ある祭祀が、あなたのために準備されました。陛下よ、お出でなされませ。あなたは、天上に赴く者となり、歓喜するでしょう」〔と〕。

 

1050.(645) 〔世尊は言った〕「チャンダ王子の、これらの七百の年少の侍女たちは、諸々の髪を振り乱して、泣き叫びながら、道に従い行った。

 

1051.(646) また、他の者たちも、〔天の〕ナンダナ〔林〕において、〔死滅する天子を取り囲む〕天〔の神々〕たちのように、憂いとともに出立し、諸々の髪を振り乱して、泣き叫びながら、道に従い行った」〔と〕。

 

1052.(647) 〔侍女たちが言った〕「カーシ産の清らかな衣を〔身に〕付け、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが連れて行かれる──エーカラージャンの祭祀を義(目的)として。

 

1053.(648) カーシ産の清らかな衣を〔身に〕付け、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが連れて行かれる──母に、心臓の憂いを作り為して。

 

1054.(649) カーシ産の清らかな衣を〔身に〕付け、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが連れて行かれる──人々に、心臓の憂いを作り為して。

 

1055.(650) 肉の味を食料とし、沐浴師によって美しく沐浴させられ、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが連れて行かれる──エーカラージャンの祭祀を義(目的)として。

 

1056. 肉の味を食料とし、沐浴師によって美しく沐浴させられ、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが連れて行かれる──母に、心臓の憂いを作り為して。

 

1057. 肉の味を食料とし、沐浴師によって美しく沐浴させられ、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが連れて行かれる──人々に、心臓の憂いを作り為して。

 

1058.(651) 過去においては、まさに、優れた象たちの先頭を赴く、彼らに、象たちとともに、〔家来たちが〕従い行くも、今日、彼らは、チャンダとスーリヤは、まさしく、両者ともに、徒歩の者たちとなり、〔道を〕行く。

 

1059.(652) 過去においては、まさに、優れた馬たちの先頭を赴く、彼らに、馬たちとともに、〔家来たちが〕従い行くも、今日、彼らは、チャンダとスーリヤは、まさしく、両者ともに、徒歩の者たちとなり、〔道を〕行く。

 

1060.(653) 過去においては、まさに、諸々の優れた車の先頭を赴く、彼らに、諸々の車とともに、〔家来たちが〕従い行くも、今日、彼らは、チャンダとスーリヤは、まさしく、両者ともに、徒歩の者たちとなり、〔道を〕行く。

 

1061.(654) 過去においては、まさに、それらの金の鞍かけの駿馬たちとともに、〔彼らは〕出発したが、今日、彼らは、チャンダとスーリヤは、まさしく、両者ともに、徒歩の者たちとなり、〔道を〕行く」〔と〕。

 

1062.(655) 〔人々が言った〕「雌鳥よ、もしくは、〔おまえが〕肉を求めるなら、東へと、プッパヴァティーへと、飛ぶのだ。ここにおいて、エーカラージャンは、四者の子たちによって祭祀をする──等しく迷乱した者となり。

 

1063.(656) 雌鳥よ、もしくは、〔おまえが〕肉を求めるなら、東へと、プッパヴァティーへと、飛ぶのだ。ここにおいて、エーカラージャンは、四者の少女たちによって祭祀をする──等しく迷乱した者となり。

 

1064.(657) 雌鳥よ、もしくは、〔おまえが〕肉を求めるなら、東へと、プッパヴァティーへと、飛ぶのだ。ここにおいて、エーカラージャンは、四者の王妃たちによって祭祀をする──等しく迷乱した者となり。

 

1065.(658) 雌鳥よ、もしくは、〔おまえが〕肉を求めるなら、東へと、プッパヴァティーへと、飛ぶのだ。ここにおいて、エーカラージャンは、四者の家長たちによって祭祀をする──等しく迷乱した者となり。

 

1066.(659) 雌鳥よ、もしくは、〔おまえが〕肉を求めるなら、東へと、プッパヴァティーへと、飛ぶのだ。ここにおいて、エーカラージャンは、四者の象たちによって祭祀をする──等しく迷乱した者となり。

 

1067.(660) 雌鳥よ、もしくは、〔おまえが〕肉を求めるなら、東へと、プッパヴァティーへと、飛ぶのだ。ここにおいて、エーカラージャンは、四者の馬たちによって祭祀をする──等しく迷乱した者となり。

 

1068.(661) 雌鳥よ、もしくは、〔おまえが〕肉を求めるなら、東へと、プッパヴァティーへと、飛ぶのだ。ここにおいて、エーカラージャンは、四者の雄牛たちによって祭祀をする──等しく迷乱した者となり。

 

1069.(662) 雌鳥よ、もしくは、〔おまえが〕肉を求めるなら、東へと、プッパヴァティーへと、飛ぶのだ。ここにおいて、エーカラージャンは、全ての四なるものによって祭祀をする──等しく迷乱した者となり。

 

1070.(663) これは、彼の高楼である。これは、極めて喜ばしき内宮である。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1071.(664) これは、彼の楼閣である。金にして、諸々の花環がちりばめられている。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1072.(665) これは、彼の庭園である。美しく花ひらき、全ての時に喜ばしくある。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1073.(666) これは、彼のアソーカ〔樹〕の林である。美しく花ひらき、全ての時に喜ばしくある。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1074.(667) これは、彼のカニカーラ〔樹〕の林である。美しく花ひらき、全ての時に喜ばしくある。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1075.(668) これは、彼のパータリー〔樹〕の林である。美しく花ひらき、全ての時に喜ばしくある。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1076.(669) これは、彼のアンバ〔樹〕の林である。美しく花ひらき、全ての時に喜ばしくある。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1077.(670) これは、彼の蓮池である。諸々の赤蓮や白蓮に等しく覆われている。そして、黄金で作られた舟があり、諸々の彩りあざやかな花環があり、極めて喜ばしくある。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1078.(671) これは、彼の象の宝である。力と牙あるエーラーヴァナ象である。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1079.(672) これは、彼の馬の宝である。一なる蹄の馬である。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1080.(673) これは、彼の馬の車である。九官鳥の鳴き声がする、浄美にして、様々な彩りの宝ある〔車〕である。そこにおいて、まさに、尊貴なる子たちは、〔天の〕ナンダナ〔林〕において、〔喜び楽しむ〕天〔の神々〕たちのように、美しく輝いていた。今や、彼らは、四者の尊貴なる子たちは、打ち殺されるために連れて行かれた。

 

1081.(674) どうして、まさに、金色に等しき壮麗なる者たちであり、栴檀の柔和なる五体ある者たちである、四者の子たちによって、王は、祭祀を執り行なうのであろう──等しく迷乱した者となり。

 

1082.(675) どうして、まさに、金色に等しき壮麗なる者たちであり、栴檀の柔和なる五体ある者たちである、四者の少女たちによって、王は、祭祀を執り行なうのであろう──等しく迷乱した者となり。

 

1083.(676) どうして、まさに、金色に等しき壮麗なる者たちであり、栴檀の柔和なる五体ある者たちである、四者の王妃たちによって、王は、祭祀を執り行なうのであろう──等しく迷乱した者となり。

 

1084.(677) どうして、まさに、金色に等しき壮麗なる者たちであり、栴檀の柔和なる五体ある者たちである、四者の家長たちによって、王は、祭祀を執り行なうのであろう──等しく迷乱した者となり。

 

1085.(678) あたかも、諸々の村や町が、空無にして人間のいない密林と成るように、そのように成るであろう──プッパヴァティーにおいて、チャンダとスーリヤが祭祀されたなら」〔と〕。

 

1086.(679) 〔王に、王妃が言った〕「〔わたしは〕狂者と成るでしょう。生あるものを殺す者と〔成り〕、さらに、砂にまみれた者と〔成るでしょう〕。陛下よ、それで、もし、優れたチャンダを殺すなら、わたしによって、諸々の命は止滅するでしょう。

 

1087.(680) 〔わたしは〕狂者と成るでしょう。生あるものを殺す者と〔成り〕、さらに、砂にまみれた者と〔成るでしょう〕。陛下よ、それで、もし、優れたスーリヤを殺すなら、わたしによって、諸々の命は止滅するでしょう」〔と〕。

 

1088.(681) 〔王子の侍女たちに、王妃が言った〕「いったい、どうなのでしょう、これらの者たちが、互いに他と愛語ある者たちとして、互いに他を喜び楽しませることはないのでしょうか──ガッティカーが、そして、ウパリッキーが、さらに、ポッカラニーが、バーリカーが、チャンダとスーリヤ〔の現前〕において舞いながら。彼女たちに等しき者は、〔誰も〕見出されません」〔と〕。

 

1089.(682) 〔カンダハーラに、王妃が言った〕「カンダハーラよ、〔まさに〕この、わたしの心臓の憂いを、おまえの母が味わうのです。すなわち、チャンダが打ち殺されるために連れて行かれたときの、わたしの心臓の憂いです。

 

1090.(683) カンダハーラよ、〔まさに〕この、わたしの心臓の憂いを、おまえの母が味わうのです。すなわち、スーリヤが打ち殺されるために連れて行かれたときの、わたしの心臓の憂いです。

 

1091.(684) カンダハーラよ、〔まさに〕この、わたしの心臓の憂いを、おまえの妻が味わうのです。すなわち、チャンダが打ち殺されるために連れて行かれたときの、わたしの心臓の憂いです。

 

1092.(685) カンダハーラよ、〔まさに〕この、わたしの心臓の憂いを、おまえの妻が味わうのです。すなわち、スーリヤが打ち殺されるために連れて行かれたときの、わたしの心臓の憂いです。

 

1093.(686) カンダハーラよ、おまえの母は、そして、子たちと〔会っては〕ならない、さらに、夫と会ってはならない。すなわち、王子たちを、獅子の似姿ある汚れなき者たちを、〔おまえが〕殺害するなら。

 

1094.(687) カンダハーラよ、おまえの母は、そして、子たちと〔会っては〕ならない、さらに、夫と会ってはならない。すなわち、王子たちを、全ての世〔の人々〕に期待される者たちを、〔おまえが〕殺害するなら。

 

1095.(688) カンダハーラよ、おまえの妻は、そして、子たちと〔会っては〕ならない、さらに、夫と会ってはならない。すなわち、王子たちを、獅子の似姿ある汚れなき者たちを、〔おまえが〕殺害するなら。

 

1096.(689) カンダハーラよ、おまえの妻は、そして、子たちと〔会っては〕ならない、さらに、夫と会ってはならない。すなわち、王子たちを、全ての世〔の人々〕に期待される者たちを、〔おまえが〕殺害するなら」〔と〕。

 

1097.(690) 〔王に、菩薩は言った〕「陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、象たちを、さらに、馬たちを、〔わたしたちは〕守ります。

 

1098.(691) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、象の糞を、〔わたしたちは〕片付けます。

 

1099.(692) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。たとえ、足枷を結縛とする者たちとなるもまた、馬の糞を、〔わたしたちは〕片付けます。

 

1100.(693) 陛下よ、わたしたちを打ち殺してはいけません。奴隷たちとして、わたしたちを、カンダハーラに与えてください。すなわち、あなたに、諸々の欲することが有るなら〔思いのままに〕。たとえ、国土から追放されたとして、行乞の行を、〔わたしたちは〕歩みます。

 

1101.(694) 陛下よ、子を義(目的)とする者たちとして、貧者たちもまた、天〔の神〕に近しく乞い求めます。たとえ、〔彼らの〕応答を捨棄して、一部の者たちが、子たちを得ないとして。

 

1102.(695) 諸々の願い求めを、〔人々は〕為します。『わたしたちに、子たちが生まれよ。そののち、孫たちが』〔と〕。陛下よ、そこで、わたしたちを、契機なき〔理由〕から、祭祀を義(目的)として、〔今や〕殺害するのです。

 

1103.(696) 近しく乞い求めることによって、〔人々は〕子を得ます。父よ、わたしたちを殺害してはいけません。苦難をもって得た子たちによって、この祭祀を執り行なってはいけません。

 

1104.(697) 近しく乞い求めることによって、〔人々は〕子を得ます。父よ、わたしたちを殺害してはいけません。困窮をもって得た子たちである、わたしたちと、母とを離住させてはいけません」〔と〕。

 

1105.(698) 〔王妃に、菩薩は言った〕「母よ、苦しみ多き者として、チャンダを養い育てて、あなたは、子を失うのです。まさに、あなたの〔両の〕足を敬拝します。父は、他の世を得たまえ。

 

1106.(699) 母よ、さあ、そして、わたしを抱いて、あなたの〔両の〕足を敬拝することをお許しください。今や、〔わたしは〕離住へと赴きます──エーカラージャンの祭祀を義(目的)として。

 

1107.(700) 母よ、さあ、そして、わたしを抱いて、あなたの〔両の〕足を敬拝することをお許しください。今や、〔わたしは〕離住へと赴きます──母に、心臓の憂いを作り為して。

 

1108.(701) 母よ、さあ、そして、わたしを抱いて、あなたの〔両の〕足を敬拝することをお許しください。今や、〔わたしは〕離住へと赴きます──人々に、心臓の憂いを作り為して」〔と〕。

 

1109.(702) 〔王妃が言った〕「ゴータミーの子よ、さあ、そして、諸々の蓮の葉の頭布を結ぶのです。諸々のチャンパカ〔樹〕の花弁の混ざった〔花飾〕を〔飾るのです〕。これは、あなたの、過去からのしきたりなのです。

 

1110.(703) さあ、そして、あなたの香料を、最後の栴檀を、塗るのです。そして、それらによって美しく塗られた〔あなた〕は、王の衆のなかで美しく輝きます。

 

1111.(704) さあ、そして、諸々の柔らかな衣を、最後のカーシ産のものを、着衣するのです。それらによって美しく着衣した〔あなた〕は、王の衆のなかで美しく輝きます。

 

1112.(705) 諸々の真珠と宝珠と黄金で飾られた、諸々の手の装飾品を、掴むのです。そして、それらの手の装飾品によって、王の衆のなかで美しく輝きます」〔と〕。

 

1113.(706) 〔王に、菩薩の妻のチャンダーが言った〕「まさに、まちがいなく、この〔王〕は、国土の警護者にして、地上の長たる、地方の相続者ではありません。世のイッサラ(王)は、大いなる者は、子にたいし、愛執〔の思い〕を生みます」〔と〕。

 

1114.(707) 〔王が言った〕「わたしにとってもまた、子たちは、愛しきもの。そして、愛しきは、自己であり、さらに、あなたたちであり、妻たちである。しかしながら、わたしは、天上を切望している者であり、それによって、〔彼らを〕殺害するのだ」〔と〕。

 

1115.(708) 〔チャンダーが言った〕「わたしを最初に殺害してください。わたしの心臓を、苦しみのまま切り裂いてはいけません。陛下よ、あなたの子は、繊細なる方です。〔装いを〕十分に作り為した壮麗なる方です。

 

1116.(709) 尊貴なる方よ、さあ、わたしを殺すのです。他の世において、〔わたしは〕チャンダカ(チャンダ)とともに有るでしょう。〔あなたは〕広大なる功徳を作り為すのです。他の世において、〔わたしたちは〕両者ともどもに渡り歩くでしょう」〔と〕。

 

1117.(710) 〔王が言った〕「チャンダーよ、あなたは、死を選んではならない。大きな眼をした者よ、あなたには、多くの義理の兄弟たちがいる。彼らは、あなたを喜ばせるであろう──ゴータミーの子が、祭祀〔の供物〕とされたとき」〔と〕。

 

1118.(711・712) 〔世尊は言った〕「このように説かれたとき、チャンダーは、〔両の〕手の平で、自己を打つ」〔と〕。〔チャンダーが言った〕「ここにおいて、生命は、〔もう〕十分です。毒を飲みます。〔わたしは〕死ぬでしょう。

 

1119.(713) まさに、まちがいなく、この王の朋友たちは、さらに、家臣たちも、善き心の者たちは見出されません。彼らは、王に、『正嫡たる子を殺害してはならない』〔と〕説きません。

 

1120.(714) まさに、まちがいなく、この王の親族たちは、さらに、朋友たちも、善き心の者たちは見出されません。彼らは、王に、『実の子を殺害してはならない』〔と〕説きません。

 

1121.(715) 王よ、わたしの子である、これらの者たちは、彼らもまた、徳ある者たちであり、腕飾を〔身に〕付ける者たちです。彼らによってもまた、祭祀を執り行なうのです。そこで、ゴータミーの子たちを解き放ってください。

 

1122.(716) 大王よ、わたしを、百の片々に為して、七種に祭祀をするのです。長子を、獅子の似姿ある汚れなき者を、打ち殺してはいけません。

 

1123.(717) 大王よ、わたしを、百の片々に為して、七種に祭祀をするのです。長子を、全ての世〔の人々〕に期待される者を、打ち殺してはいけません」〔と〕。

 

1124.(718) 〔チャンダーに、菩薩は言った〕「〔かつて、あなたが〕見事に話したとき、あなたには、高下諸々の多くの装飾品が与えられた──諸々の真珠と宝珠と瑠璃が。これは、あなたへの最後の贈り物である」〔と〕。

 

1125.(719) 〔チャンダーが言った〕「過去においては、彼らの〔両の〕肩に、諸々の咲き誇る花飾の連なりが舞い落ちました。今日もまた、彼らの〔両の〕肩に、極めて鋭利な刀が舞い落ちることでしょう。

 

1126.(720) 過去においては、彼らの〔両の〕肩に、諸々の彩りあざやかな花飾の連なりが舞い落ちました。今日もまた、彼らの〔両の〕肩に、極めて鋭利な刀が舞い落ちることでしょう。

 

1127.(721) 長からずして、まさに、王子たちの〔両の〕肩に、刀が舞い落ちることでしょう。そこで、わたしの心臓は、さてまた、わたしに〔彼らとの〕堅固なる絆が存している、それまでは裂けません。

 

1128.(722) カーシ産の清らかな衣を〔身に〕付け、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが出発した──エーカラージャンの祭祀を義(目的)として。

 

1129.(723) カーシ産の清らかな衣を〔身に〕付け、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが出発した──母に、心臓の憂いを作り為して。

 

1130.(724) カーシ産の清らかな衣を〔身に〕付け、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが出発した──人々に、心臓の憂いを作り為して。

 

1031.(725) 肉の味を食料とし、沐浴師によって美しく沐浴させられ、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが出発した──エーカラージャンの祭祀を義(目的)として。

 

1132.(726) 肉の味を食料とし、沐浴師によって美しく沐浴させられ、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが出発した──母に、心臓の憂いを作り為して。

 

1133.(727) 肉の味を食料とし、沐浴師によって美しく沐浴させられ、耳飾をし、沈香と栴檀を塗った、チャンダとスーリヤが出発した──人々に、心臓の憂いを作り為して」〔と〕。

 

1134.(728) 〔世尊は言った〕「〔備品の〕全てが資益あるものとなり、祭祀を義(目的)として、チャンダが坐したとき、パンチャーラ〔国〕の王女は合掌し、全ての衆のなかを等しく歩き回った」〔と〕。

 

1135.(729) 〔チャンダーが言った〕「カンダハーラは、思慮浅き者にして、悪しき行為を為す。それが、〔偽りなき〕真理であるなら、この真なる言葉によって、〔わたしは〕主人を保有する者と成ります。

 

1136.(730) すなわち、ここに存している、人間ならざる者たちは、さらに、すなわち、夜叉や生類や生類たるものたちも、わたしのために支援を為したまえ。〔わたしは〕主人を保有する者と成ります。

 

1137.(731) すなわち、ここに到来した者たちである、天神たちは、さらに、すなわち、夜叉や生類や生類たるものたちも、帰依所を探し求める孤独なわたしを救いたまえ。〔神々の〕長たる方よ、わたしは、乞い求めます。わたしが、〔主人を〕失うことがあってはなりません」〔と〕。

 

1138.(732) 〔世尊は言った〕「その〔言葉〕を聞いて、人間ならざる者(帝釈天)は、鉄槌を回転させて、王に、恐怖を生じさせながら、彼に、この〔言葉〕を言った」〔と〕。

 

1139.(733) 〔帝釈天が言った〕「〔悪しき〕賽の目の王よ、まさに、覚るのだ。わたしが、おまえの頭を打ち据えることがあってはならない。長子を、獅子の似姿ある汚れなき者を、打ち殺してはならない。

 

1140.(734) 〔悪しき〕賽の目の王よ、おまえは、何を見たのだ。子と妻たちが、殺されつつあるのだ──さらに、長者の家長たちが、まさに、汚れなき者たちである、天上を欲する者たちが」〔と〕。

 

1141.(735) 〔世尊は言った〕「カンダハーラは、さらに、王は、その〔言葉〕を聞いて、この未曾有のものを見て、全ての者たちの結縛を解き放った。すなわち、〔誰も〕害されることなく、そのとおりに。

 

1142.(736) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、全ての者たちが、それぞれに石を〔カンダハーラに〕投げた。これが、カンダハーラを打ち殺すところとなる。

 

1143.(737) すなわち、悪しき〔行為〕を為して、そのとおりに、全ての者たちが、地獄に入った。なぜなら、悪しき行為を為して〔そののち〕、ここ(現世)から善き境遇に赴くことを得ないからである。

 

1144.(738) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、そして、集いあつまった王の衆たちは、チャンダを灌頂した。

 

1145.(739) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、そして、集いあつまった王女たちは、チャンダを灌頂した。

 

1146.(740) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、そして、集いあつまった天の衆たちは、チャンダを灌頂した。

 

1147.(741) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、そして、集いあつまった天女たちは、チャンダを灌頂した。

 

1148.(742) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、そして、集いあつまった王の衆たちは、〔歓喜の〕布振りを為した。

 

1149.(743) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、そして、集いあつまった王女たちは、〔歓喜の〕布振りを為した。

 

1150.(744) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、そして、集いあつまった天の衆たちは、〔歓喜の〕布振りを為した。

 

1151.(745) 全ての者たちが解き放たれたとき、すなわち、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった者たちは、そして、集いあつまった天女たちは、〔歓喜の〕布振りを為した。

 

1152.(746) 全ての者たちが解き放たれたとき、多くの者たちが、歓嘆した者たちと成った。〔チャンダは〕喜びの城市に入った。結縛からの解き放ちがあり、〔人々は〕喚呼した」〔と〕。ということで──

 

 チャンダクマーラ・ジャータカが、第七となる。

 

22. 1. 8. マハーナーラダカッサパ・ジャータカ(大なるナーラダカッサパ・本生物語544)

 

1153.(946) 〔世尊は言った〕「ヴィデーハ〔国〕の王が、アンガティという名の士族が、〔世に〕有った──沢山の車馬をもち、財産があり、無数なる軍人をもつ〔王〕として。

 

1154.(947) そして、彼は、十五〔日〕の夜、初更の至らぬうちに、〔雨季の〕第四の月(十一月)、カッティカ月の満月〔の夜〕に、家臣たちを集めた──

 

1155.(948) 所聞(学識)を成就した賢者たちを、まずは微笑する(※)明眼の者たちを、そして、ヴィジャヤを、さらに、スナーマを、軍団長のアラータカ(アラータ)を。

 

※ テキストには mitapubbe とあるが、PTS版により mihitapubbe と読む。

 

1156.(949) その〔一者一者〕に、ヴェーデーハ〔王〕は問い尋ねた。〔王が尋ねた〕『各自それぞれに、自らの好みを説け。〔雨季の〕第四の月、カッティカ月の満月〔の夜〕である、今日、月明かりのもと、闇は打ち砕かれた。どのような喜びをもって、今日、この季節の夜を、〔わたしたちは〕過ごすとしようか』〔と〕。

 

1157.(950) そののち、軍団長のアラータは、王に、この〔言葉〕を説いた。〔アラータが答えた〕『全ての、象を、車馬を、軍隊を、軍団を武装するのです。

 

1158.(951) 陛下よ、戦いに出発するのです。無数なる軍人をもつ〔わたしたち〕です。すなわち、それらの者たちが、〔わたしたちの〕支配に入らないなら、〔彼らを、わたしたちの〕支配に導くのです。これが、わたしの自らの見解です。〔いまだ〕勝ち得ていないものを、〔わたしたちは〕勝ち取るのです』〔と〕。

 

1159.(952) アラータの言葉を聞いて、スナーマは、この〔言葉〕を説いた。〔スナーマが答えた〕『大王よ、全ての朋友ならざる者たちは、あなたの支配に至り着き──

 

1160.(953) 各自それぞれに刃を置き、安全なるままに従い転じ行きます。最上の祝日である今日、戦いは、わたしたちにとって好ましからず。

 

1161.(954) そして、食べ物と飲み物を、さらに、固形の食料を、それらを、すみやかに運び来たれ。陛下よ、諸々の欲望〔の対象〕とともに、舞踏と歌詠を、善き音楽を、喜び楽しむのです』〔と〕。

 

1162.(955) スナーマの言葉を聞いて、ヴィジャヤは、この〔言葉〕を説いた。〔ヴィジャヤが答えた〕『大王よ、全ての欲望〔の対象〕は、常に、あなたに現起しています。

 

1163.(956) 陛下よ、まさに、これらのものは、得難きものにあらず──あなたにとって、諸々の欲望〔の対象〕によって歓喜することは。常に、また、諸々の欲望〔の対象〕は、得易きものにして、このことは、わたしにとって、心に思うところではありません。

 

1164.(957) 沙門に、あるいは、また、婆羅門に、〔わたしたちは〕多聞の者に近侍するのです。すなわち、今日、わたしたちの疑いを取り除いてくれる、義(道理)と法(真理)を知る聖賢です』〔と〕。

 

1165.(958) ヴィジャヤの言葉を聞いて、王のアンガティは説いた。〔王が尋ねた〕『すなわち、ヴィジャヤが話すとおり、まさしく、このことは、わたしにとってもまた好ましくある。

 

1166.(959) 沙門に、あるいは、また、婆羅門に、〔わたしたちは〕多聞の者に近侍するのだ。すなわち、今日、わたしたちの疑いを取り除いてくれる、義(道理)と法(真理)を知る聖賢である。

 

1167.(960) 〔ここに〕存している、まさしく、全ての者たちは、思いを為せ。どのような賢者に、〔わたしたちは〕近侍するのだ。すなわち、今日、わたしたちの疑いを取り除いてくれる、義(道理)と法(真理)を知る聖賢である』〔と〕。

 

1168.(961) ヴェーデーハ〔王〕の言葉を聞いて、アラータは、この〔言葉〕を説いた。〔アラータが答えた〕『存在します──この者が、ミガダーヤにおいて。慧者として敬われる無衣行者です。

 

1169.(962) この者は、グナというカッサパ姓の者です。所聞と様々な言説ある衆師です。陛下よ、彼に、〔わたしたちは〕奉侍するのです。彼は、わたしたちの疑いを取り除いてくれるでしょう』〔と〕。

 

1170.(963) アラータの言葉を聞いて、王は、馭者を促した。〔王が言った〕『ミガダーヤに、〔わたしたちは〕赴くのだ。〔馬を〕設えた乗物を、ここに連れてこい』〔と〕。

 

1171.(964) 彼のために、〔家来たちは〕乗物を設えた──象牙と銀の縁取りある〔乗物〕を、白く艶やかな付属品ある〔乗物〕を、月明かりの顔の白さある〔乗物〕を。

 

1172.(965) 白蓮〔の色〕の四者のシンダヴァの馬たちが設えられ、そこに存した──風の如く現われ、善く調御され、金の花飾ある〔馬〕たちが。

 

1173.(966) 白の傘蓋が、白の車が、白の馬たちが、白の扇が、〔そこに存した〕。ヴェーデーハ〔王〕は、家臣たちと共に、出発しつつ、月のように美しく輝く。

 

1174.(967) 多くの剣を保持する軍人たちが、彼に従い行った──馬の背に乗った勇者たる人たちが、優れた君主たる人に。

 

1175.(968) 彼は、まさしく、寸時に行き着いて、乗物から降りて、士族は、ヴェーデーハ〔王〕は、家臣たちと共に、徒歩になり、グナのもとへと近しく赴いた。

 

1176.(969) すなわち、また、そこにおいて、そのとき存していた、集いあつまった婆羅門や資産家たちであるが、王は、彼らを退去させなかった──〔立錐の〕余地なき地に到来した者たちを。

 

1177.(970) そののち、彼は、柔和なる敷布にうえに、柔らかく彩りあざやかな敷物が柔らかく広げられたところで、王は、一方に近坐した。

 

1178.(971) 坐って、王は、〔グナと、今回の出会いを〕喜び合った。そののち、〔喜ばしく〕記憶されるべき話を〔グナと交わした〕。〔王が言った〕『尊き方よ、どうでしょう、順調ですか。諸々の風〔の病〕の不調なくありますか。

 

1179.(972) どうでしょう、生活は困難なくありますか。〔身を〕保ち行く〔行乞の〕食を得ますか。さてまた、そして、どうでしょう、〔あなたは〕病苦少なく(※)存していますか。眼〔の機能〕は遍く衰退していませんか』〔と〕。

 

※ テキストには Apābādho とあるが、PTS版により Appābādho と読む。

 

1180.(973) グナは、律を喜ぶヴェーデーハ〔王〕と、彼と、〔今回の出会いを〕喜び合った。〔グナが言った〕『大王よ、順調です──その両者ともに、この一切が。

 

1181.(974) ヴェーデーハ〔王〕よ、また、どうでしょう、あなた〔の国土〕の諸々の辺境は乱れていないですか。どうでしょう、あなたの車馬は無病ですか。どうでしょう、車両は運行していますか。どうでしょう、あなたに、諸々の病は存在しませんか。肉体に、諸々の悩苦は〔存在しませんか〕』〔と〕。

 

1182.(975) 〔今回の出会いを〕喜び合った王は、そののち、すぐさま尋ねた──義(道理)を、そして、法(真理)を、さらに、正理を、法(正義)を欲する者として、車上の雄牛は。

 

1183.(976) 〔王が尋ねた〕『カッサパ(グナ)よ、人間は、法(正義)〔の道〕を、どのように、母と父にたいし歩むのですか。どのように、師匠にたいし歩むのですか。どのように、子と妻にたいし歩むのですか。

 

1184.(977) どのように、年長の者たちにたいし歩むのですか。どのように、沙門や婆羅門にたいし〔歩むのですか〕。そして、どのように、軍隊の衆にたいし〔歩むのですか〕。どのように、地方の者にたいし歩むのですか。

 

1185.(978) どのように、法(正義)〔の道〕を歩んで、人間たちは、善き境遇に赴くのですか。そして、どのように、或る者たちは、法(正義)ならざるものに依って立ち、そこで、地獄に落ちるのですか』〔と〕。

 

1186.(979) ヴェーデーハ〔王〕の言葉を聞いて、カッサパは、この〔言葉〕を説いた。〔グナが答えた〕『大王よ、わたしの〔言葉を〕聞きたまえ──真理にして真実を離れざる句を。

 

1187.(980) 法(正義)〔の道〕を歩んだ者に、善と悪の果は存在しない。陛下よ、他の世は存在しない。まさに、そこ(前世)から、ここ(現世)にやってきた者として、誰がいるというのだろう。

 

1188.(981) 陛下よ、あるいは、父祖たちは存在しない。どうして、母が〔存在するというのだろう〕。どうして、父が〔存在するというのだろう〕。師匠というものは存在しない。調御されざる者を、誰が調御するというのだろう。

 

1189.(982) 等しく均等なるは、生類たちにして、目上の者を敬う者たちは存在しない。活力は〔存在せず〕、あるいは、精進は存在しない。どうして、奮起の人士が〔存在するというのだろう〕。なぜなら、生類たちは、〔運命が〕決定されているからである。すなわち、舟の船尾のように、そのように。

 

1190.(983) 人間は、得るべきものを得るのであり、そこにおいて、どうして、布施の果が〔存在するというのだろう〕。陛下よ、布施の果は存在しない。陛下よ、自在ある者なく、精進ある者なし。

 

1191.(984) 布施は、愚者たちによって設定され、賢者たちによって受容される。自在なき者たちは、慧者たちに施す。〔自らを〕賢者と思量する、愚者たちである。

 

1192.(985) これらの七つの常久なる体系は、切断されざるべきものにして、動乱なきものである。これらの、そして、火であり、地であり、水であり、かつまた、風であり、安楽であり、苦痛であり、さらに、生命である。これらの七つの体系が〔存在し〕、それらを切断する者は見出されない。

 

1193.(986) あるいは、打破する者は存在せず、あるいは、切断する者は〔存在せず〕、まさしく、また、すなわち、打破される者も、誰であろうが〔存在しない〕。まさしく、〔七つの〕体系の間を、諸々の刃が過ぎ去る〔だけのこと〕。

 

1194.(987) さらに、また、すなわち、他者たちの頭を取って、鋭利な剣で〔切るとして〕、彼は、それらの体系を切断しない。そこにおいて、どうして、悪しき果が〔存在するというのだろう〕。

 

1195.(988) 八十四の大いなるカッパ(:時間の単位・極めて長い時間)のあいだ輪廻しながら、全ての者たちは清浄となる。その時が到来しないあいだは、自制の者もまた、清浄とならない。

 

1196.(989) たとえ、多くの善き〔道〕を歩んでも、〔その時が〕到来しないあいだは、まさしく、清浄とならない。たとえ、もし、多くの悪しき〔行為〕を為しても、その時節を過ぎ行くことはない(運命は変わらない)。

 

1197.(990) 八十四のカッパをもって、順次に、わたしたちの清浄はある。〔運命の〕決定を、〔わたしたちは〕過ぎ行かない──海洋が、海岸を〔過ぎ行かない〕ようなもの』〔と〕。

 

1198.(991) カッサパの言葉を聞いて、アラータは、この〔言葉〕を説いた。〔アラータが言った〕『すなわち、幸甚なる方が話すとおり、まさしく、このことは、わたしにとってもまた好ましくあります。

 

1199.(992) わたしもまた、自己の輪廻してきた以前の生を思念します。かつて、わたしは、ピンガラという名の残忍な屠牛者として〔世に〕存しました。

 

1200.(993) 興隆するバーラーナシーにおいて、多くの悪しき〔行為〕が、わたしによって為されました。多くの命あるものたちが、わたしによって殺されました──水牛たちが、豚たちが、山羊たちが。

 

1201.(994) そこ(前世)から死滅し、ここ(現世)に生まれました──繁栄する軍団長の家に。まちがいなく、悪しき果は存在しません。すなわち、地獄に赴いた者ではなく、わたしはあります』〔と〕。

 

1202.(995) そこで、ここにおいて、ビージャカという名の身なり汚き奴隷が存した。斎戒に入りながら、グナの現前へと近しく赴いたのだった。

 

1203.(996) カッサパの言葉を聞いて、さらに、アラータの語ったことを〔聞いて〕、まじまじと嘆息しながら泣き叫び、諸々の涙をこぼした。

 

1204.(997) ヴェーデーハ〔王〕は、彼に問い尋ねた。〔王が尋ねた〕『友よ、何を義(目的)として、〔あなたは〕泣き叫ぶのだ。何が、あなたによって、あるいは、聞かれ、あるいは、見られたのだ。どのような〔苦痛の〕感受を、〔あなたは〕わたしに知らせるのだ』〔と〕。

 

1205.(998) ヴェーデーハ〔王〕の言葉を聞いて、ビージャカは、この〔言葉〕を説いた。〔ビージャカが答えた〕『わたしに、苦痛の感受は存在しません。大王よ、わたしの〔言葉を〕聞きたまえ。

 

1206.(999) わたしもまた、自己の安楽なる以前の生を思念します。かつて、わたしは、サーケータにおいて、徳を喜ぶバーヴァ長者として〔世に〕存しました。

 

1207.(1000) 婆羅門や資産家たちにとって、分与を喜ぶ清らかな者と等しく思認された者であり、さらに、また、自己の為した悪しき行為を思念しません。

 

1208.(1001) ヴェーデーハ〔王〕よ、わたしは、そこから死滅し、ここに生まれました──貧しき婦女のもとに、水汲みの奴婢の胎に。すなわち、極めて悪しき境遇の者として生まれたのです。

 

1209.(1002) たとえ、このように、悪しき境遇の者として存しつつも、正しい性行を確立している〔わたし〕は、食事の半分を施します。すなわち、わたしに求める者がいるなら。

 

1210.(1003) 〔月の〕十四〔日〕と十五〔日〕には、〔わたしは〕常に〔斎戒に〕入ります。さらに、また、生類たちを害することもありません。さらに、また、盗みも避けてきました。

 

1211.(1004) まさに、まちがいなく、この善き行ないは、まさしく、全てが、果なきものとして有ります。思うに、この戒は、義(意味)なきものです。すなわち、アラータが語るとおりに。

 

1212.(1005) まちがいなく、まさしく、〔悪しき〕賽の目を、〔わたしは〕掴みます──あたかも、技能なき博徒のように。善き〔賽の目〕を、アラータは掴みます──あたかも、手練の賭博師のように。

 

1213.(1006) 〔わたしは〕門を見ません。それによって、〔わたしが〕善き境遇に赴く、〔まさに、その門を〕。王よ、それゆえに、泣き悲しむのです──カッサパの語ったことを聞いて』〔と〕。

 

1214.(1007) ビージャカの言葉を聞いて、王のアンガティは説いた。〔王が言った〕『善き境遇への門は存在しない。ビージャカよ、〔運命の〕決定を待て。

 

1215.(1008) 安楽であろうが、もしくは、苦痛であろうが、〔運命の〕決定によって、まさに、得られる。輪廻による清浄は、全ての者たちにある。〔その時が〕到来しないあいだは、急いではならない。

 

1216.(1009) わたしもまた、過去において、善き者として〔世に有った〕。婆羅門や資産家たちにたいし懸命になり、訴訟を裁いている、その間は、喜びを捨棄する者として〔世に有った〕(楽しい時間を持てなかった)』〔と〕。

 

1217.(1010) 〔グナに、王が言った〕『尊き方よ、ふたたび、また、会いましょう。もし、出会いが有るなら』〔と〕。ヴェーデーハ〔王〕は、この〔言葉〕を説いて、自らの住居地に戻った。

 

1218.(1011) そののち、夜の明け方に、奉仕〔堂〕において、アンガティは、家臣たちを集めて、この言葉を説いた。

 

1219.(1012) 〔王が言った〕『わたしのチャンダカの宮殿において、常に、諸々の欲望〔の対象〕を、わたしのために設置せよ。そして、諸々の秘密や明示の義(事態)があるときも、〔わたしのもとへと〕近しく赴いてはならない。

 

1220.(1013) そして、ヴィジャヤが、さらに、スナーマが、軍団長のアラータカ(アラータ)が、これらの三者の訴訟に巧みな智ある者たちが、義(事態)があるときに、〔裁きの場に〕坐るのだ』〔と〕。

 

1221.(1014) ヴェーデーハ〔王〕は、この〔言葉〕を説いて、諸々の欲望〔の対象〕のことだけを多く思い考えた。さらに、また、どのような義(事態)があるときも、婆羅門や資産家たちにたいし懸命になることなく〔世に有った〕。

 

1222.(1015) そののち、十四〔日〕の夜に、ヴェーデーハ〔王〕の愛しき実子にして王女たる、ルチャーという名の者が、乳母に説いた。

 

1223.(1016) 〔王女が言った〕『〔装いを〕十分に作り為すのです──すみやかに、わたしを。さらに、わたしの侍女たちも、〔装いを〕十分に作り為すのです。明日、十五〔日〕は、天の〔日〕です。イッサラ(王)の現前に、〔わたしは〕赴きます』〔と〕。

 

1224.(1017) 彼女のもとに、花環を、〔女官たちは〕運んだ──そして、高価な栴檀を、宝珠や法螺貝や真珠の宝を、さらに、種々に染められた諸々の衣装を。

 

1225.(1018) そして、黄金で作られている椅子に坐った彼女を、好ましき色艶あるルチャーを、多くの士族の女たちは取り囲んで、美しく輝いた。

 

1226.(1019) そして、侍女たちの中央に在し、一切の装飾品に飾られた彼女は、雲に〔入る〕雷光のように、ルチャーは、チャンダカ〔宮殿〕に入った。

 

1227.(1020) 近づいて行って、律を喜ぶヴェーデーハ〔王〕を敬拝して、黄金をあしらった椅子のうえ、一方に近坐した。

 

1228.(1021) そして、ヴェーデーハ〔王〕は、彼女を見て、仙女たちとの逢瀬あるかのような、侍女たちの中央に在するルチャーを〔見て〕、この言葉を説いた。

 

1229.(1022) 〔王が尋ねた〕『どうであろう、高楼のなか、内なる蓮池に向かい、喜び楽しんでいるかな。どうであろう、おまえのもとに、多くの種類の固形の食料を、〔女官たちは〕常に運んでいるかな。

 

1230.(1023) どうであろう、多くの種類の花環を摘んで、王女たちは、遊興と歓楽に喜びある者たちとなり、喜々として、各自それぞれに、〔花々の〕家を作っているかな。

 

1231.(1024) あるいは、おまえに、何らかの欠けているものがあるかな。おまえのもとに、何を、〔女官たちは〕すみやかに運ぶのだ。端正なる顔の者よ、たとえ、月に等しきものについてであろうが、意を為すのだ(欲しいものは何でも言いなさい)』〔と〕。

 

1232.(1025) ヴェーデーハ〔王〕の言葉を聞いて、ルチャーは、父に説いた。〔王女が答えた〕『大王よ、全てのものは、これは、イッサラの現前において得られます。

 

1233.(1026) 明日、十五〔日〕は、天の〔日〕です。わたしのもとに、千〔金〕を運んでください。そして、与えられたとおりのものを、布施として、全ての乞食者たちにたいし、わたしは施します』〔と〕。

 

1234.(1027) ルチャーの言葉を聞いて、王のアンガティは説いた。〔王が言った〕『多くの富が、おまえによって失われ、義(意味)なく、果なきものとなる。

 

1235.(1028) 斎戒に住している〔おまえ〕は、常に、食べ物と飲み物を受益しないが、これは、受益するべきではない〔という運命〕の決定なのだ。受益せずにいるとして、功徳は存在しない。

 

1236.(1029) まさに、ビージャカもまた、そのとき、カッサパの語ったことを聞いて、まじまじと嘆息しながら泣き叫び、諸々の涙をこぼした。

 

1237.(1030) ルチャーよ、生きている、そのかぎりは、食事を取り去ってはいけない。幸いなる者よ、他の世は存在しない。どうして、義(意味)なく、打ちのめされるのだ』〔と〕。

 

1238.(1031) ヴェーデーハ〔王〕の言葉を聞いて、好ましき色艶あるルチャーは、過去と未来の法(真理)を知っている者として、父に、この〔言葉〕を説いた。

 

1239.(1032) 〔王女が言った〕『かつて、わたしによって、まさしく、聞かれ、じかに見られたものとして、このことが存しました。愚者に仕え親しむ者として有る、その者が、まさしく、愚者として現われたのです。

 

1240.(1033) まさに、迷乱した者は、迷乱した者を縁として、より一層、迷妄に遭遇します。〔愚者に〕適切なるは、アラータによって、さらに、ビージャカによって、迷うこと。

 

1241.(1034) 陛下よ、そして、あなたは、智慧を有する慧者として、義(道理)の熟知者として、〔世に〕存しておられます。どうして、愚者たちによる、そのような劣った見解に近しく赴いたのですか。

 

1242.(1035) それで、もし、また、輪廻の道によって清浄となるなら、グナにとって、出家は、義(道理)なきものとなります。虫が、燃え盛る火にもまた落ち行くように、迷妄によって迷乱した者は、裸の状態に再生します(裸行者に生まれ変わる)。

 

1243.(1036) 「輪廻による清浄がある」と、かつて、〔思いが〕固着した者たちは、多くの者たちが、行為を汚します。知ることなく、過去において、〔悪しき〕賽の目を誤って掴んだ者のように、釣針に〔掛かった〕魚のように、〔その〕義(事態)から解き放ち難くあります(※)。

 

※ テキストには dummo ca yā とあるが、PTS版により dummocayā と読む。

 

1244.(1037) 大王よ、あなたの義(利益)のために、あなたに、喩えを為しましょう。喩えによって、ここに、一部の賢者たちは、義(道理)を知ります。

 

1245.(1038) たとえば、商人たちの舟が、無量の荷で重くなり、過度の荷を受持して、海に沈むように──

 

1246.(1039) まさしく、このように、人は、たとえ、少しずつでも、悪を蓄積しながら、過度の荷を受持して、地獄に沈みます。

 

1247.(1040) 大地の長よ、アラータの荷は、まだ、遍く満ちていないのです。そして、〔彼は〕その悪を蓄積します。それによって、〔彼が〕悪しき境遇に赴く、〔まさに、その悪を〕。

 

1248.(1041) 大地の長よ、彼には、アラータには、まさしく、過去(過去世)において、作り為された功徳があります。陛下よ、まさしく、彼には、〔過去の行為の〕成果があります。そして、その〔成果〕として、この者は、安楽を得るのです。

 

1249.(1042) そして、彼の、その功徳は滅尽します。徳ならざることを喜ぶ者として〔世に有る〕、まさに、そのとおりに。〔彼は〕真っすぐな道を捨棄して、悪しき道に走り行きます。

 

1250.(1043) たとえば、秤が差し出され、秤の皿に〔荷が〕置かれたとして、〔少しずつ〕荷が降ろされ、〔そのように〕存しつつあるなら、〔いずれは〕秤の頭を上げるように──

 

1251.(1044) まさしく、このように、人は、たとえ、少しずつでも、功徳を蓄積しながら、天上に過度の思量ある奴隷のビージャカのように、〔行為の〕善果を喜ぶ者となるのです。

 

1252.(1045) すなわち、今日、奴隷のビージャカは、自己において、苦しみを見ますが、彼には、まさしく、過去(過去世)において、作り為された悪しき〔行為〕があります。この者は、それを受けるのです。

 

1253.(1046) そして、彼の、その悪しき〔行為〕は滅尽します。律を喜ぶ者として〔世に有る〕、まさに、そのとおりに。しかしながら、カッサパに関与して、まさしく、まさに、悪路に至り着いてはいけません。

 

1254.(1047) 王よ、まさに、その者、その者に、親近するなら──もしくは、正しくある者であろうが、正しからざる者であろうが、あるいは、戒ある者であれ、戒を離れる者であれ──まさしく、彼の支配に赴きます。

 

1255.(1048) そのような者を朋友と為し、かつまた、そのような者に仕え親しむなら、彼もまた、そのような者と成ります。まさに、そのようなものとして、共に住むこと(他者との付き合い)はあります。

 

1256.(1049) 〔他者と〕慣れ親しんでいる〔愚者〕は、慣れ親しんでいる〔他者〕を〔汚します〕。〔他者と〕接触した〔愚者〕は、〔他者と〕接触しながら、他者を〔汚します〕。毒塗りの矢が〔他の〕矢束を〔汚す〕ように、〔汚れある者は〕汚れなき者を汚します。慧者は、汚れの恐怖あることから、悪しき者の友として存することは、まさしく、ありません。

 

1257.(1050) その人が、草の葉先で、腐った魚を包むなら、〔それらの〕草もまた、腐〔臭〕を放ちます。このように、愚者に仕え親しむことはあります。

 

1258.(1051) しかしながら、その人が、パラーサ〔樹の葉〕で、タガラ(香料)を包むなら、〔それらの〕葉もまた、芳〔香〕を放ちます。このように、慧者に仕え親しむことはあります。

 

1259.(1052) それゆえに、葉の器のように、自己の報いとなるものを知って、賢者は、正しからざる者たちには仕え親しまず、正しくある者たちと慣れ親しむべきです。正しからざる者たちは、〔人を〕地獄に導き、正しくある者たちは、〔人を〕善き境遇に至り得させます。

 

1260.(1053) わたしもまた、自己の輪廻してきた七つの生を思念します。すなわち、ここから死滅した〔わたし〕が赴くことになる、まさしく、七つの未来〔の生〕をもまた〔思念します〕。

 

1261.(1054) 人の君主よ、すなわち、わたしの、その第七の生として、過去において、〔このような生が〕有りました。かつて、〔わたしは〕マガダ〔国〕のラージャガハにおいて、鍛冶屋の子として〔世に〕有りました。

 

1262.(1055) 悪しき仲間を縁として、多くの悪しき〔行為〕が、わたしによって為されました。他者の妻を悩ませながら、不死であるかのように、〔わたしたちは〕歩みました。

 

1263.(1056) その行為は、貯蔵され、止住しました──灰に覆われた火のように。そこで、諸々の他の行為〔の果〕によって、ヴァンサ〔国〕の地に、〔わたしは〕生まれました──

 

1264.(1057) 繁栄し、興隆する、大いなる財ある、コーサンビーの長者の家において、大王よ、常に尊敬され供養される、独り子として。

 

1265.(1058) そこにおいて、〔善き〕朋友に慣れ親しみました──〔行為の〕善果を喜ぶ道友に、所聞(学識)を成就した賢者に。彼は、わたしを、義(道理)において確たるものとしました。

 

1266.(1059) 〔月の〕十四〔日〕と十五〔日〕には、多くの夜を、〔斎戒に〕入りました。その行為は、貯蔵され、止住しました──水底にある財宝のように。

 

1267.(1060) そこで、諸々の悪しき行為の〔果が〕、すなわち、マガダにおいて作り為された、〔まさに〕この、〔諸々の悪しき行為の〕果が、そのあと、わたしに遍く至り着いたのです──あたかも、汚れた毒を食べて〔のちに苦しむ〕ように。

 

1268.(1061) ヴェーデーハ〔王〕よ、そこから死滅し、わたしは、叫喚地獄において、長きにわたり、自らの行為〔の果〕によって煮られました。それを思念していると、安楽を得ません。

 

1269.(1062) そこにおいて、多くの年数を過ごして、多くの苦しみを〔受けました〕。王よ、ビンナーガタにおいて、〔わたしは〕睾丸を引き抜かれた山羊として〔世に〕有りました。

 

1270.(1063) 貴公子たちが、わたしによって運ばれました──そして、背において、さらに、車によって。他者の妻のもとに赴くわたしの、その行為の成果です。

 

1271.(1064) ヴェーデーハ〔王〕よ、そこから死滅し、わたしは、密林において、猿として〔世に〕存しました。尊大なる群れの長によって、まさしく、睾丸を去勢されました。他者の妻のもとに赴くわたしの、その行為の成果です。

 

1272.(1065) ヴェーデーハ〔王〕よ、そこから死滅し、わたしは、ダッサナ〔国〕において、去勢された速く賢い雌の家畜として〔世に〕有りました。長きにわたり、車が、わたしによって運ばれました。他者の妻のもとに赴くわたしの、その行為の成果です。

 

1273.(1066) ヴェーデーハ〔王〕よ、そこから死滅し、わたしは、ヴァッジー〔国〕において、〔人間の〕家に至り着きました。まさしく、女でもなく男でもない者として〔世に〕存しました──人間たることが極めて得難きなかで。他者の妻のもとに赴くわたしの、その行為の成果です。

 

1274.(1067) ヴェーデーハ〔王〕よ、そこから死滅し、わたしは、〔天の〕ナンダナ林において生まれました。三十三〔天〕の居所において、わたしは、欲する色艶ある仙女として〔存しました〕。

 

1275.(1068) 様々な彩りの衣と装飾品を〔付け〕、宝珠の耳飾を付け、舞踏と歌詠に巧みな、帝釈〔天〕の侍女として。

 

1276.(1069) ヴェーデーハ〔王〕よ、そこにおいて止住した者として、わたしは、これらの生を思念します。すなわち、ここから死滅した〔わたし〕が赴くことになる、まさしく、七つの未来〔の生〕をもまた〔思念します〕。

 

1277.(1070) すなわち、コーサンビーにおいて、わたしによって作り為された、〔まさに〕その、善なる〔果〕が、〔わたしに〕遍く至り着いたのです。まさしく、そして、天において、さらに、人間〔の世〕において、〔わたしは〕流転するでしょう──ここから死滅した〔そのあとは〕。

 

1278.(1071) 大王よ、七つの生のあいだ、常に尊敬され供養される者として〔世に有るでしょう〕。これら〔の生〕は、第六までが決定のものとしてあり、女の状態からはなお、解き放たれることはないでしょう(悪業の影響を受ける)。

 

1279.(1072) 陛下よ、しかしながら、第七の境遇は、大いなる神通ある天子として、男の天〔の神〕として、天の衆における最上者として、〔わたしは〕有るでしょう。

 

1280.(1073) 今日もまた、サンターナ〔樹〕から作られる花飾を、〔天の〕ナンダナ〔林〕において、〔天の神々たちは〕結び束ねます。ジャヴァという名の天子が、彼が、わたしのために、花飾を受け取ります。

 

1281.(1074) この〔世における〕十六年は、それは、天のものとしては、寸時のようなものです。人間の百秋は、そして、それは、天のものとしては、〔ただの〕夜と昼なのです。

 

1282.(1075) たとえ、数えようもない生のあいだであれ、かくのごとく、諸々の行為は従い行きます。なぜなら、善きものであれ、もしくは、あるいは、悪しきものであれ、行為は消失しないからです。

 

1283.(1076) 彼が、〔その〕生、〔その〕生を、繰り返し、男として〔世に〕有ることを求めるなら、他者の妻を避けるべきです──足を洗い清めた者が、泥土を〔避ける〕ように。

 

1284.(1077) 彼女が、〔その〕生、〔その〕生を、繰り返し、男として〔世に〕有ることを求めるなら、主人を敬うべきです──侍女たちが、インダを〔敬う〕ように。

 

1285.(1078) 彼が、そして、天の財物を、天の寿命を、〔天の〕福徳を、〔天の〕安楽を、求めるなら、諸々の悪を遍く避けて、三つの種類の法(性質)を習行するべきです。

 

1286.(1079) 身体によって、言葉によって、意によって、怠ることなき明眼の者は、自己の義(利益)のために〔世に〕有ります──あるいは、女であれ、もしくは、あるいは、男であれ。

 

1287.(1080) 彼らが誰であれ、これらの人間たちが、生あるものの世において、福徳ある者たちであり、全てに遍きにわたり財物ある者たちであるなら、疑念〔の余地〕なく、かつて、彼らによって善き行ないがあったのです。一切の有情たちは、個々に行為を自らのものとする者たちです。

 

1288.(1081) 陛下よ、さあ、自らもまた思い考えるのです。人のインダよ、あなたの、これら〔の侍女〕たちは、因縁としてどこから〔生まれ来たのですか〕。すなわち、あなたの、これらの仙女に似た者たちです。〔装いを〕十分に作り為し、金の網に覆われた者たちです』〔と〕。

 

1289.(1082) かくのごとく、このように、王女は、父を、ルチャーは、アンガティを、満足させた。善き掟の者は、迷乱した者に、道を告知し、法(正義)を告げ知らせた。

 

1290.(1084) そこで、梵の世から、ナーラダ(菩薩)が、人間の女(ルチャー)のもとにやってきた。〔彼は〕ジャンブ洲(インド大陸)を注視しながら、王のアンガティを見た。

 

1291.(1085) そののち、高楼のなか、ヴェーデーハ〔王〕の前に立った。そして、ルチャーは、至り得た彼を見て、聖賢を敬拝した。

 

1292.(1086) そこで、意図が動揺した王は、坐から降りて、ナーラダに遍く問い尋ねつつ、この言葉を説いた。

 

1293.(1087) 〔王が尋ねた〕『天の色艶ある者よ、いったい、どこから、やってきたのですか──月のように、一切の方角を照らしながら。〔問いを〕尋ねられた者として、名と姓を、わたしに告げ知らせてください。人間の世において、あなたのことを、〔人々は〕どのように知るのですか』〔と〕。

 

1294.(1088) 〔菩薩は答えた〕『まさに、わたしは、今や、天から至り行く──月のように、一切の方角を照らしながら。〔問いを〕尋ねられた者として、名と姓を、あなたに告げ知らせよう。わたしのことを、ナーラダと、さらに、カッサパと、〔人々は〕知る』〔と〕。

 

1295.(1089) 〔王が尋ねた〕『〔あなたは〕宙を赴き、さらに、〔宙に〕立ちます。そして、あなたの、そのような〔行ない〕は、稀有なる形態のものです。ナーラダよ、この義(意味)を、〔わたしは〕あなたに尋ねます。そこで、何を理由に、あなたに、この神通があるのですか』〔と〕。

 

1296.(1090) 〔菩薩は答えた〕『そして、真理が、さらに、法(正義)が、かつまた、調御と施捨が──これらの徳が、以前に作り為されたものとして、わたしにはある。まさしく、それらの法(性質)に善く慣れ親しんだことで、〔わたしは〕意のままの速さある者として、欲するところに赴く者として、〔世に〕存している』〔と〕。

 

1297.(1091) 〔王が尋ねた〕『稀有なることを、〔あなたは〕告げ知らせます──〔すなわち〕功徳による神通を。まさに、それで、もし、〔あなたが〕説く、そのように、これら〔の法〕によるなら、ナーラダよ、この義(意味)を、〔わたしは〕あなたに尋ねます。そして、〔問いを〕尋ねられた者として、どうか、わたしに説き明かしてください』〔と〕。

 

1298.(1092) 〔菩薩は答えた〕『王よ、わたしに尋ねるのだ。あなたにある、この義(意味)である。地上の警護者よ、すなわち、疑念を、〔あなたが〕作り為すなら。わたしは、それを、疑念なき〔状態〕に至らせよう──諸々の方法によって、そして、諸々の正理によって、さらに、諸々の因によって』〔と〕。

 

1299.(1093) 〔王が尋ねた〕『ナーラダよ、この義(意味)を、〔わたしは〕あなたに尋ねます。ナーラダよ、そして、〔問いを〕尋ねられた者として、わたしに、虚偽を話してはいけません。いったい、天〔の神々〕たちは存在するのですか。いったい、祖霊たちは存在するのですか。すなわち、人々が言うところの、他の世は存在するのですか』〔と〕。

 

1300.(1094) 〔菩薩は答えた〕『まさしく、天〔の神々〕たちは存在する。そして、祖霊たちは存在する。すなわち、人々が言うところの、他の世は存在する。そして、諸々の欲望〔の対象〕にたいし貪求ある者たちは、人として、遍く迷乱した者たちであり、迷妄に束縛された者たちであり、他の世を知らない』〔と〕。

 

1301.(1095) 〔王が言った〕『ナーラダよ、もし、「〔他の世は〕存在する」と、死んだ者たちの他の世における住居地に、〔あなたが〕信を置くなら、まさしく、この〔世において〕、わたしに、五百〔金〕を与えたまえ。他の世において、あなたに、千〔金〕を与えましょう』〔と〕。

 

1302.(1096) 〔菩薩は言った〕『もし、〔あなたのことを〕戒ある者と、寛容なる者と、〔わたしたちが〕知るなら、貴君に、まさに、五百〔金〕を与えよう。残忍なあなたに、地獄に住している貴君に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1303.(1097) まさしく、この〔世において〕、彼が、法(正義)ならざるものを戒とする者として有るなら──悪しき習行ある者であり、怠け者であり、残忍な行為の者として〔有るなら〕──賢者たちは、彼にたいし、負債を与えない。なぜなら、そのような種類の者からの返却は有りえないからである。

 

1304.(1098) そして、人間たちは、〔彼のことを〕能ある人と見出して〔そののち〕──奮起する者であり、戒ある者であり、寛容なる者と〔見出してそののち〕──まさしく、自ら、諸々の財物によって、〔彼を〕招請する。行為を為して〔そののち〕、ふたたび、〔彼は、財物を〕持参する。

 

1305.(1099) 王よ、ここから死滅し、そこにおいて、〔あなたは〕見る。大烏たちの群れによって引き伸ばされている者に、彼に──烏たちによって、そして、鷲たちによって、鷹たちによって、喰われている地獄に住する者に、五体が断ち切られ血が流れ出ている者に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1306.(1100) 暗闇があり、そこにおいて、月と日はなく、地獄は、常に騒がしく、おぞましき形態のもの。それが、夜と〔覚知されることは〕、まさしく、なく、昼と覚知されることもない。そのような種類のところで、誰が、財を義(目的)とする者となり、渡り歩くというのだろう。

 

1307.(1101) そして、まだらのものと、さらに、黒いものと、二者の犬が──増大した身体をもち、力がある、大いなる〔二者の犬〕が──鉄で作られている諸々の牙で、ここから除去され他の世に至り得た者を喰う。

 

1308.(1102) 彼に──残忍な猛獣たちによって、そして、獰猛な野獣たちによって、喰われている地獄に住する者に、五体が断ち切られ血が流れ出ている者に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1309.(1103) 諸々の矢で、そして、諸々の極めて鋭利な刃で、打ち、さらに、貫く──仇なす者たちが、おぞましき地獄における番人たちが、過去において、人として、悪行の行為を為す者を。

 

1310.(1104) 彼に──打ちのめされている地獄に住する者に、腹と脇が〔破れ〕胃が引き裂かれた者に、五体が断ち切られ血が流れ出ている者に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1311.(1105) 諸々の刃が、諸々の矢が、諸々の槍や鉾が、様々な種類の武器が、そこにおいて、天から降ってくる。炭火のような炎ある諸々のものが落ちてくる。石の雷が、残忍な行為ある者に降ってくる。

 

1312.(1106) そして、地獄においては、耐え難き熱風がある。そこにおいては、暫しの安楽でさえも得られない。〔まさに〕その、彼に、避難所なく痛苦の者として走り行く者に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1313.(1107) また、諸々の車に結び付けられ流転している者に、〔熱せられ〕光を有するものと成り地を進み行く者に、諸々の鞭や杖によって厳しく叱責されている者に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1314.(1108) 彼に──剃刀が等しく積み上げられた山を登っている者に、禍々しく燃え盛り恐怖させる〔山〕を〔登っている者に〕、五体が断ち切られ血が流れ出ている者に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1315.(1109) 彼に──山に似た炭火の集積物を登っている者に、燃え盛り恐怖させる〔炭火の集積物〕を〔登っている者に〕、五体が激しく焼け泣き叫んでいる哀れな者に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1316.(1110) 雲の峰に等しき高さにして、諸々の棘がちりばめられた木々がある。鉄で作られ、人の血を飲む、諸々の鋭い〔棘〕が〔ちりばめられた木々がある〕。

 

1317.(1111) 女たちは、さらに、他者の妻のもとに赴く男たちは、その〔木〕を登る──夜魔の指示を為す、刃を手にする者たちによって、促され。

 

1318.(1112) 彼に──血にまみれたシンバリ〔樹〕の地獄を登っている者に、身体が焼けただれ皮膚が剥がれた者に、荒々しい〔苦痛の〕感受ある痛苦の者に──

 

1319.(1113) まじまじと嘆息している者に、過去の行為の違反ある者に、木の先端にいる五体の皮膚が剥がれた者に、誰が、彼に、その財を乞い求めるというのだろう。

 

1320.(1114) 雲の峰に等しき高さにして、諸々の剣の葉がちりばめられた木々がある。鉄で作られ、人の血を飲む、諸々の鋭い〔剣の葉〕が〔ちりばめられた木々がある〕。

 

1321.(1115) 彼に──剣の葉ある木を登っている者に、そして、諸々の鋭利な剣によって断ち切られている者に、五体が断ち切られ血が流れ出ている者に、誰が、他の世において、千〔金〕を催促するというのだろう。

 

1322.(1116) 彼に──剣の葉がちりばめられたその木から出たばかりの者に、ヴェータラニー〔川〕に飛び落ちた者に、誰が、彼に、その財を乞い求めるというのだろう。

 

1323.(1117) ヴェータラニー川の難所は、粗野にして、水は荒々しく、熱せられている。諸々の鉄の蓮に等しく覆われ、諸々の鋭利な葉に〔等しく覆われ〕、流れ行く。

 

1324.(1118) 彼に──頼るものなきヴェータラニー〔川〕において、そこにおいて、五体が等しく断ち切られ血にまみれ運ばれ行く者に、誰が、彼に、その財を乞い求めるというのだろう』〔と〕。

 

1325.(1119) 〔王が言った〕『切られつつある木のように、〔わたしは〕動揺します。表象が遍く迷乱した〔わたし〕は、方角を知りません。恐怖ゆえに、〔わたしは〕悩み苦しみます。そして、大いなる恐怖が、わたしにあります。聖賢よ、あなたが語った諸々の話を聞いて〔そののち〕。

 

1326.(1120) 〔身体が〕燃えているときに水の中に〔入る〕ように、激流の大河における洲のように、暗闇における灯火のように、聖賢よ、わたしどもにとって、あなたは、帰依所として存しておられます。

 

1327.(1121) 聖賢よ、そして、義(道理)を、法(真理)を、わたしに教え示してください。過去に、確実に、わたしは、〔正義に〕反しました。ナーラダよ、清浄への道を、わたしに告げ知らせてください。すなわち、わたしが、地獄に落ちないように』〔と〕。

 

1328.(1122) 〔菩薩は言った〕『すなわち、〔かつて世に〕有った、ダタラッタ〔王〕やヴェッサーミッタ〔王〕やアッタカ〔王〕やヤーマタッギ〔王〕のように、そして、また、ウシンダラ〔王〕や、さらに、シヴィ王のように、〔これらの〕沙門や婆羅門たちを世話する〔王〕たちのように──

 

1329.(1123) そして、これらの〔王〕たちのように、さらに、他の、すなわち、天上の境域に赴いた王たちのように、大地の長よ、法(正義)ならざる〔道〕を遍く避けて、法(正義)〔の道〕を歩め。

 

1330.(1124) そして、食べ物を手にする〔家来たち〕が、あなたの宮殿において、あなたの都において、布告するのだ。「誰が、飢えているのか。そして、誰が、渇いているのか。誰が、花飾を〔求めるのか〕。誰が、香料を〔求めるのか〕。誰が、裸で、種々に染った諸々の衣を〔身に〕まとうのだろうか。

 

1331.(1125) 誰が、道において、傘を用いるのか。さらに、柔和にして浄美なる〔両の〕履物を〔用いるのか〕」〔と〕。かくのごとく、かつまた、夕に、かつまた、朝に、あなたの都において、布告するのだ。

 

1332.(1126) 老いた人を、さらに、〔老いた〕牛や馬を、かつてのように、まさに、束縛してはならない。そして、介護を与えるべきである──〔かつて〕献身を為した力ある〔功労者〕として。

 

1333.(1127) あなたの身体が、車として了解されたとする。意は、軽快なる馭者である。不害は、流れ行く車軸である。分与は、覆いである。

 

1334.(1128) 足の自制は、〔両の〕外輪である。手の自制は、縁取りである。腹の自制は、中心の轂(こしき)である。言葉の自制は、音を立てないことである。

 

1335.(1129) 真なる言葉は、完全なる部品である。中傷なき〔言葉〕は、善く自制されていることである。友誼ある言葉は、無欠の部品である。節度ある話し方は、接着されていることである。

 

1336.(1130) 信と貪欲なき〔心〕は、善き形成である。謙譲と合掌は、軸である。強情ならざることは、傾きなき轅(ながえ)である。戒による統御は、縛り縄である。

 

1337.(1131) 忿激なき〔心〕は、振動なきことである。法(真理)は、白い傘である。多聞は、歯止めである。安立した心は、座布団である。

 

1338.(1132) 時を知ることは、彩りあざやかな芯である。離怖は、三つの棒である。謙譲の生活は、結び紐である。高慢なき〔心〕は、軽快なる軛(くびき)である。

 

1339.(1133) 畏縮なき心は、敷物である。年長者に仕え親しむことは、塵を取り払うことである。慧者の気づきは、刺し棒である。そして、堅固なる専念〔努力〕は、諸々の手綱である。

 

1340.(1134) 調御された意は、正しく調御された馬たちによって、道を導く。欲求は、そして、貪欲は、悪しき道である。そして、自制は、真っすぐな道である。

 

1341.(1135) 形態にたいし、音声にたいし、味感にたいし、臭気にたいし、馬が走り行きつつあるなら、王よ、智慧は、〔鞭を〕打つことであり、そこにおいて、まさしく、自己は、馭者である。

 

1342.(1136) それで、もし、この乗物によって、正しい性行があり、断固たる〔道心〕堅固があるなら、王よ、一切の欲望〔の対象〕を授かる者となり、もはや、地獄に行くことはありません』〔と〕。

 

1343.(1137) デーヴァダッタは、アラータとして、〔世に〕存した。バッダジは、スナーマとして、〔世に〕存した。サーリプッタは、ヴィジャヤとして、〔世に〕存した。モッガッラーナは、ビージャカとして、〔世に〕存した。

 

1344.(1138) リッチャヴィ族のスナッカッタは、無衣行者のグナとして、〔世に〕存した。アーナンダは、すなわち、王を清信させた、〔まさに〕その、ルチャーとして、〔世に〕存した。

 

1345.(1139) ウルヴェーラカッサパは、そのとき、悪しき見解ある王として、〔世に〕有った。菩薩は、大いなる梵〔天〕として、〔世に存した〕。このように、ジャータカを保持しなさい」〔と〕。ということで──

 

 マハーナーラダカッサパ・ジャータカが、第八となる。

 

22. 1. 9. ヴィドゥラ・ジャータカ(ヴィドゥラ・本生物語545)

 

22. 1. 9. 1. 異常嗜好の章

 

1346.(1140) 〔王妃に、龍の王が尋ねた〕「青ざめ、痩せ細り、力衰えた者として、〔あなたは〕存している。かつて、あなたに、このような色艶と形態はない。ヴィマラーよ、〔問いを〕尋ねられた者として、告げ知らせよ。あなたの、肉体における〔苦痛の〕感受は、どのようなものなのだ」〔と〕。

 

1347.(1141) 〔王妃が答えた〕「人間たちにおける母たちの法(性質)です。人のインダ(龍の王)よ、『〔妊婦の〕異常嗜好』という名で呼ばれます。龍のクンジャラ(龍の王)よ、〔その〕法(性質)に触発されたのです。ヴィドゥラ(菩薩)の心臓を、〔わたしは〕切望します」〔と〕。

 

1348.(1142) 〔王が言った〕「月を、あるいは、日を、さらに、あるいは、また、風を、まさに、あなたは異常嗜好する。まさに、得難きは、ヴィドゥラと会うこと。誰が、ヴィドゥラを、ここに連れてくるというのだろう」〔と〕。

 

1349.(1143) 〔王に、王女が尋ねた〕「父よ、いったい、どうして、あなたは困惑するのですか。あなたの顔は、手に落ちた蓮華のようです。イッサラよ、いったい、どうして、失意の様子で存しているのですか。朋友ならざる者(敵)を苦しめる方よ、あなたは憂い悲しんではいけません」〔と〕。

 

1350.(1144) 〔王が答えた〕「イランダティーよ、まさに、おまえの母は、ヴィドゥラの心臓を懇望する。まさに、得難きは、ヴィドゥラと会うこと。誰が、ヴィドゥラを、ここに連れてくるというのだろう。

 

1351.(1145) すなわち、ヴィドゥラを、ここに連れてくるであろう、その者を、〔おまえの〕夫として、遍く探し求めに〔道を〕歩め」〔と〕。〔世尊は言った〕「そして、父の言葉を聞いて、彼女は、夜のあいだに出て、〔男の〕欲をそそりに〔道を〕歩んだ(頼りになる男を探しに家を出た)」〔と〕。

 

1352.(1146) 〔王女が言った〕「音楽神の、さらに、羅刹の、龍の、誰なのでしょう。さらに、また、妖精の、人間の、誰なのでしょう。一切の欲望〔の対象〕を授かる賢者の、誰なのでしょう。長夜にわたり、わたしの夫として〔世に〕有るのは」〔と〕。

 

1353.(1147) 〔夜叉が言った〕「落ち着いてください。〔わたしが〕あなたの亭主と成りましょう。文句なしの眼をした方よ、〔わたしが〕あなたの夫と成りましょう。まさに、わたしの智慧は、〔あなたが求めている〕そのような種類のものです。落ち着きなさい。〔あなたは〕わたしの妻と成るのです」〔と〕。

 

1354.(1148) 〔世尊は言った〕「イランダティーは、プンナカ(夜叉)に言った──過去の道(前世の習性)に従い行く心のままに」〔と〕。〔王女が言った〕「さあ、わたしの父の前に赴きましょう。まさしく、彼が、この義(意味)を、あなたに言い示すでしょう」〔と〕。

 

1355.(1149) 〔世尊は言った〕「〔イランダティーは、装いを〕十分に作り為し、美しい衣で、花飾をつけ、栴檀〔の香り〕芳しく、夜叉の手を掴んで、父の現前へと近しく赴いた」〔と〕。

 

1356.(1150) 〔王に、夜叉が言った〕「優れた龍よ、わたしの言葉を聞きたまえ。〔わたしの〕適切なる持参金を収めたまえ。わたしは、イランダティーを望み求めます。あなたは、わたしを、彼女の保有者と為したまえ。

 

1357.(1151) 百の象が、百の馬が、百の騾馬の車が、種々なる宝で全部が満ちた百の荷車があります。龍よ、それらを収めるのです。〔あなたの〕娘を、イランダティーを、〔わたしに〕与えたまえ」〔と〕。

 

1358.(1152) 〔王が言った〕「まずは、親族たちに、さらに、朋友たちに、善き心の人たちに、告げてみよう。告げずに行為が為されたなら、のちに、それを悩み苦しむ」〔と〕。

 

1359.(1153) 〔世尊は言った〕「そののち、彼は、龍のヴァルナ(王)は、住居地に入って、妻に告げて、この言葉を説いた」〔と〕。

 

1360.(1154) 〔王が言った〕「彼が、夜叉のプンナカが、この者が、イランダティーを、わたしに乞い求める──多くの富と利得によって。わたしの愛しき者を、彼に、〔わたしたちは〕与えるのだ」〔と〕。

 

1361.(1155) 〔王妃が言った〕「財によってにあらず、富によってにあらず──わたしたちのイランダティーが得られるのは。それで、もし、あなたが、賢者の心臓を、法(正義)によって得て、ここに持ってくるなら、この富によって、王女は得られます。さらなる他の財を、〔わたしたちは〕望み求めません」〔と〕。

 

1362.(1156) 〔世尊は言った〕「そののち、彼は、龍のヴァルナは、住居地から出て、プンナカに告げて、この言葉を説いた」〔と〕。

 

1363.(1157) 〔王が言った〕「財によってにあらず、富によってにあらず──わたしたちのイランダティーが得られるのは。それで、もし、あなたが、賢者の心臓を、法(正義)によって得て、ここに持ってくるなら、この富によって、王女は得られる。さらなる他の財を、〔わたしたちは〕望み求めない」〔と〕。

 

1364.(1158) 〔夜叉が尋ねた〕「彼のことを、世において、或る者たちが、『賢者である』と説くとして、まさしく、彼のことを、いっぽうで、他の者たちは、『愚者である』と言います。わたしに告げ知らせたまえ。ここにおいて、〔人々が〕別々に説くとして、龍よ、あなたは、誰を、賢者と説くのですか」〔と〕。

 

1365.(1159) 〔王が答えた〕「クルの子孫の王の、ダナンチャヤの、侍官にして、もしくは、あなたの聞くところであるなら、ヴィドゥラという名の者である。彼を、〔その〕賢者を、法(正義)によって得て、連れてこられよ。イランダティーは、あなたの下女と成れ」〔と〕。

 

1366.(1160) 〔世尊は言った〕「そして、ヴァルナの、この言葉を聞いて、最高に満足した夜叉は、立ち上がって、まさしく、その場に存しつつ、家来に指示した」〔と〕。〔夜叉が言った〕「まさしく、ここに、良馬を設え、連れてこい。

 

1367.(1161) 黄金で作られている〔両の〕耳の、玻璃で作られている〔両の〕蹄の、ジャンブー川で採れた金の胸覆い〔の良馬〕だ」〔と〕。

 

1368.(1162) 〔世尊は言った〕「天の車両を運ぶ馬の乗物に乗って、プンナカは、〔装いを〕十分に作り為し、髪と髭を整え、宙空に〔赴き〕、空中に立ち去った。

 

1369.(1163) 彼は、プンナカは、欲望〔の対象〕にたいする貪り〔の思い〕によって貪求ある者となり、龍の少女のイランダティーを求め願いながら、生類の長にして盛名あるヴェッサヴァナ・クベーラ(毘沙門天)のもとに、彼のもとに赴いて、かくのごとく説いた」〔と〕。

 

1370.(1164) 〔夜叉が言った〕「『ボーガヴァティー』という名の都にある住居は、『ヒランニャヴァティー』と呼ばれます。黄金で作られている化作された城市において、蜷局まく龍のために仕立てられました。

 

1371.(1165) 諸々の見張塔は、駱駝の首〔の形〕にして、紅玉と瑪瑙からなり、ここにおいて、高楼は、宝石で作られ、諸々の黄金や宝玉に覆われています。

 

1372.(1166) 諸々のアンバ〔樹〕が、さらに、諸々のティラカ〔樹〕が、諸々のジャンブ〔樹〕が、諸々のサッタパンナ〔樹〕が、諸々のムチャリンダ〔樹〕やケータカ〔樹〕が、諸々のピヤング〔樹〕が、諸々のウッダーラカ〔樹〕が、諸々のサハ〔樹〕が、諸々のウパリバッダカ〔樹〕が、諸々のシンドゥヴァーラカ〔樹〕が──

 

1373.(1167) 諸々のチャンペイヤカ〔樹〕が、諸々のナーガマッリカ〔樹〕が、諸々のバギニーマーラ〔樹〕が、さらに、ここにおいて、諸々の棗が、これらの変化ある木々が、龍の都を美しく輝かします。

 

1374.(1168) ここにおいて、諸々のカジュラ〔樹〕は、宝石で作られ、多くが、常に黄金に花ひらいています。そこにおいて、化生の者たる龍の王のヴァルナが住しています。大いなる神通ある者です。

 

1375.(1169) 彼には、若々しい妻のヴィマラーがいます。金の塊を身とする者です。若きカーラー〔樹〕のように気高く、プチマンダ〔樹〕の乳房があり、典雅なる見た目ある者です。

 

1376.(1170) 〔赤の〕染料液で染めた美しい肌の、風なく花ひらいたカニカーラ〔樹〕のような者です。三十三〔天〕の家を歩む仙女のような、雲の層雲から出離した雷光のような者です。

 

1377.(1171) 彼女は、異常嗜好があり、激しく驚愕し、ヴィドゥラの心臓を懇望します。イッサラよ、それを、彼らに、〔わたしが〕与えるなら、それによって、彼らは、イランダティーを、わたしに与えます」〔と〕。

 

1378.(1172) 〔世尊は言った〕「彼は、プンナカは、生類の長にして盛名あるヴェッサヴァナ・クベーラに告げて、まさしく、その場に存しつつ、家来に指示した」〔と〕。〔夜叉が言った〕「まさしく、ここに、良馬を設え、連れてこい。

 

1379.(1173) 黄金で作られている〔両の〕耳の、玻璃で作られている〔両の〕蹄の、ジャンブー川で採れた金の胸覆い〔の良馬〕だ」〔と〕。

 

1380.(1174) 〔世尊は言った〕「天の車両を運ぶ馬の乗物に乗って、プンナカは、〔装いを〕十分に作り為し、髪と髭を整え、宙空に〔赴き〕、空中に立ち去った。

 

1381.(1175) 彼は赴いた──アンガ王の城市にして、攻略し難く、極めて喜ばしき、ラージャガハに──沢山の食物があり、多くの食べ物と飲み物がある、ヴァーサヴァ(帝釈天)のマサッカサーラ〔宮殿〕のような〔城市〕に──

 

1382.(1176) 孔雀や白鷺たちの群れが等しく鳴きさえずり、鳥たちが鳴きさえずり、鳥たちの群れが慣れ親しむ〔城市〕に──種々なる鳥の鳴き声がする美しい庭があり、花々に満ち溢れている、ヒマヴァント(ヒマラヤ)の山嶺のような〔城市〕に。

 

1383.(1177) 彼は、プンナカは、妖精たちが歩み行くヴェープラの連山に登った。秀逸なる宝珠の宝を探し求めながら、山の峰の中に、それを見た。

 

1384.(1177) 見て〔そののち〕、光輝ある天然の宝珠を、意を奪い去る秀逸なる宝珠の宝を、空中における雷光のように光り輝く、福徳によって発光している福徳ある〔宝珠〕を──

 

1385.(1178) 〔まさに〕その、高価なる瑠璃を、まさに、意を奪い去る大いなる威力ある〔宝珠〕を、〔彼は〕掴み取った。至上の色艶ある者は、良馬に乗って、宙空に〔赴き〕、空中に立ち去った。

 

1386.(1179) 彼は赴いた──インダパッタの城市に。〔馬から〕降りて、クル〔国〕の集会場へと近しく赴いた。夜叉は、動揺することなく、集いあつまった一百の会合者たちに喚呼した」〔と〕。

 

1387.(1180) 〔夜叉が言った〕「いったい、誰が、ここに、王たちの〔現前において〕、優れた〔宝〕ある者と勝負するのですか。優れた財〔を賞品〕に、誰と、〔わたしたちは〕勝負しましょうか。無上なる優れた宝ある誰に、〔わたしたちは〕勝利するのですか。あるいは、また、優れた財〔を賞品〕に、誰が、わたしたちと勝負するのですか」〔と〕。

 

1388.(1181) 〔クル王が尋ねた〕「おまえの出生地は、いったい、どこの国土にあるのだ。おまえの、この言葉は、まさしく、クルの子孫のものにあらず。恐怖なき者として、〔おまえは〕存している──色艶と輝きをもってして、わたしたちの全てに。そして、名前を、さらに、眷属たちのことを、わたしに告げ知らせよ」〔と〕。

 

1389.(1182) 〔夜叉が答えた〕「王よ、カッチャーヤナ〔という名〕の学生として、〔わたしは〕存しています。〔わたしのことを、人々は〕『アヌーナナーマ』と呼びます。わたしの親族たちは、さらに、眷属たちは、アンガ〔国〕にいます。陛下よ、博打〔を目的〕に、ここに至り得た者として、〔わたしは〕存しています」〔と〕。

 

1390.(1183) 〔王が尋ねた〕「どうして、学徒に、諸々の宝が存するのだ。博打をする博徒が、おまえに勝利しながら奪い去ることになる、それら〔の宝〕だ。王には、多くの宝が存するとして、貧しいおまえが、どうして、彼らに喚呼したのだ」〔と〕。

 

1391.(1184) 〔夜叉が答えた〕「わたしには、『意を奪い去る』という名の、この宝珠があります。意を奪い去る秀逸なる宝珠の宝を、さらに、朋友ならざる者を苦しめるこの良馬を──わたしの、この〔宝〕を、博打をする博徒は、〔わたしに〕勝利して奪い去るのです」〔と〕。

 

1392.(1185) 〔王が言った〕「学徒よ、この宝珠が、何を為すというのだ。また、一なる良馬が、何を為すというのだ。王には、多くの宝珠の宝が存する。風の速さの良馬が、少なからずいる」〔と〕。

 

 〔以上が〕異常嗜好の章ということになる。

 

22. 1. 9. 2. 宝珠の章

 

1393.(1186) 〔夜叉が言った〕「最上の二足者たる方よ、では、あなたは、わたしのこの宝珠の宝を見てください。ここにおいて、そして、女たちの姿形があり、さらに、男たちの姿形があります。

 

1394.(1187) ここにおいて、そして、獣たちの姿形があり、さらに、鳥たちの姿形があります。龍の王たちがあり、さらに、金翅鳥たちがあります。宝珠において化作されたものを見てください。

 

1395.(1188) 象〔兵〕の軍隊を、車〔兵〕の軍隊を、馬〔兵〕たちを、さらに、武装した歩〔兵〕たちを、四つの支分ある軍団を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1396.(1189) 象兵たちを、親兵たちを、車兵たちを、歩兵たちを、連なり行く諸々の兵列を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1397.(1190) 多くの城壁と楼門を高く伴った都を、諸々の十字路における広場を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1398.(1191) 諸々の石柱を、さらに、諸々の堀を、さらに、諸々の防御の閂を、さらに、諸々の見張塔を、さらに、諸々の門を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1399.(1192) 見てください。諸々の楼門や道において、多くの種々なる鳥たちの群れがいます。白鳥たちが、白鷺たちが、さらに、孔雀たちが、さらに、鴛鴦(おしどり)たちが、鶚(みさご)たちが──

 

1400.(1193) 郭公たちが、多くの彩りあざやかな、冠毛ある雉たちがいます。種々なる鳥たちの群れがそぞろ行くのを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1401.(1194) 見てください。見事な城壁ある城市があります。未曾有にして身の毛のよだつ〔城市〕があります。諸々の旗が立ち並ぶ喜ばしき〔城市〕があります。諸々の金の砂礫が広げられた〔城市〕があります。

 

1402.(1195) 見てください。ここにおいて、等分に計量され区分された諸々の草庵があります。諸々の住居地を、さらに、諸々の住居を、諸々の脇道を、諸々の街道を──

 

1403.(1196) そして、諸々の酒場を、さらに、酒飲みたちを、諸々の肉屋を、諸々の飯屋を、そして、娼婦たちを、さらに、遊女たちを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1404.(1197) そして、花飾師たちを、洗濯師たちを、調香師たちを、さらに、衣服商たちを、金工たちを、宝珠職人たちを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1405.(1198) そして、調理師たちを、さらに、料理人たちを、芸人や舞踏家や歌手たちを、手鈴の者たちを、銅鑼の者たちを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1406.(1199) 見てください。諸々の太鼓が、そして、諸々の小鼓が、諸々の法螺貝が、諸々の銅鼓や鐘鼓があります。そして、一切の打楽器を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1407.(1200) そして、鐃(シンバル)と鉦が、さらに、琵琶が、舞踏と歌詠が、善き音楽が、楽器と鉦が鳴らされるのを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1408.(1201) ここにおいて、軽業師たちが、そして、拳闘師たちが、さらに、幻術師たちが、道化師たちがいます。そして、呪術師たちを、さらに、曲芸師たちを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1409.(1202) ここにおいて、そして、男と女たちに満ち溢れた諸々の祭礼が転起します。諸々の床席と高床席がある広場を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1410.(1203) 見てください。祭礼において、力士たちが、二重に腕を交わし合っているのを、打たれた者たちを、そして、打っている者たちを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1411.(1204) 見てください。諸々の山麓において、多くの種々なる獣たちの群れがいます。獅子たちが、虎たちが、さらに、猪たちが、熊や狼や鬣狗(ハイエナ)たちが──

 

1412.(1205) 犀たちが、さらに、野牛たちが、水牛たちが、ローヒタ〔鹿〕たちが、ルル〔鹿〕たちが、さらに、羚羊たちが、さらに、野豚たちが、ガニン〔鹿〕たちが、ニーカ〔鹿〕たちや豚たちが──

 

1413.(1206) 多くの彩りあざやかなカダリー鹿たちが、山猫たちが、耳ある兎たちがいます。種々なる獣たちの群れがそぞろ行くのを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1414.(1207) 金の砂礫が広げられ、美しい岸辺がある、諸々の川があります。魚たちの群れが慣れ親しむ、諸々の澄んだ水が流れ行きます。

 

1415.(1208) ここにおいて、鰐たちが、そして、大魚たちが、さらに、鮫たちが、亀たちがいます。パーティーナ〔魚〕たちが、パーヴサ〔魚〕たちが、〔滋味に富み〕力を生じる魚たちが、ムンジャやローヒタ〔魚〕たちがいます。

 

1416.(1209) 種々なる鳥たちの群れがそぞろ行き、種々なる木々の群れが群生しています。瑠璃で作られている森があります。宝珠において化作されたものを見てください。

 

※ テキストには Veḷuriyaka-rodāyo とあるが、PTS版により Veḷuriyakaro dāyo と読む。

 

1417.(1210) 見てください。ここにおいて、四つの方角に見事に区分された、諸々の蓮池があります。種々なる鳥たちの群れがそぞろ行き、多毛〔魚〕たちが慣れ親しむところです。

 

1418.(1211) 遍きにわたり水に満ちた、海洋を耳飾とする大地を、林の王たちを具した〔大地〕を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1419.(1212) 見てください。東にヴィデーハ〔洲〕を、そして、西にゴーヤーニヤ〔洲〕を、〔北に〕クル〔洲〕を、さらに、〔南に〕ジャンブ洲(インド大陸)を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1420.(1213) 見てください。月が、さらに、日が、四つの方角に光り輝いているのを、シネールを巡り行くのを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1421.(1214) シネールを、さらに、ヒマヴァントを、さらに、海洋を、地面を、さらに、四者の大王(四天王)を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1422.(1215) 諸々の林園を、さらに、諸々の林の茂みを、さらに、諸々の岩盤が連なる岩山を、妖精たちがそぞろ行く諸々の喜ばしきところを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1423.(1216) パールサカ〔林〕を、チッタラター〔林〕を、ミッサカ〔林〕を、〔天の〕ナンダナ林を、さらに、ヴェージャヤンタの高楼(最勝講堂)を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1424.(1217) スダンマー〔の集会場〕(善法講堂)を、さらに、三十三〔天〕を、さらに、花ひらいたパーリチャッタ〔樹〕を、象の王のエーラーヴァナを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1425.(1218) 見てください。ここにおいて、高き天空からの雷光のような、天女たちがいます。〔天の〕ナンダナ〔林〕において渡り歩いている〔天女〕たちを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1426.(1219) 見てください。ここにおいて、天子たちを誘惑する、天女たちがいます。喜び楽しんでいる天子たちを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1427.(1220) 瑠璃の延べ板が広げられ、そして、色艶によって光り輝いている、千を超える高楼を、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1428.(1221) そして、三十三〔天の神々〕たちを、さらに、耶摩〔天の神々〕たちを、さらに、また、兜率〔天の神々〕たちを、化作〔天の神々〕たちを、他化自在〔天の神々〕たちを、宝珠において化作されたものを見てください。

 

1429.(1222) 見てください。ここにおいて、清らかな水の清澄なる、諸々の蓮池があります。諸々の蓮に等しく覆われ、さらに、諸々の赤蓮や青蓮に〔等しく覆われています〕。

 

1430.(1223) ここにおいて、意が喜びとする、十の白の線が、十の青の〔線〕が、六の褐色の〔線〕が、十五〔の褐色の線〕が、さらに、四十の鬱金色の〔線〕があります。

 

1431.(1224) そこにおいて、二十の金の〔線〕が、二十の銀で作られている〔線〕が、三十の黄金虫の色艶と輝きある〔線〕が、まずは見られます。

 

1432.(1225) ここにおいて、十の黒の〔線〕が、さらに、六〔の黒の線〕が、二十五の緋の〔線〕が、諸々のバンドゥカ〔草〕の花〔の色〕が混ざった青蓮の様々な彩りの〔線〕があります。

 

1433.(1226) このように、一切の支分が成就したものを、炎の光輝あるものを、大王よ、最上の二足者たる方よ、あなたは、〔わたしの〕特別の持参金を見てください」〔と〕。

 

 〔以上が〕宝珠の章ということになる。

 

22. 1. 9. 3. 博打の章

 

1434.(1227) 〔夜叉が言った〕「王よ、近しく赴いた標的を具したまえ。宝珠の宝として、このようなものは、あなたに存在せず。法(正義)によって、〔わたしたちは〕勝利するでしょう──無理やりではなく。そして、勝負あったなら、すみやかに、わたしたちに、〔賞品を〕譲渡したまえ。

 

1435.(1228) そして、傑出した方たちである、パンチャーラ〔王〕とスーラセーナ〔王〕とマッチャ〔王〕は、ケーカカ〔王〕と共にマッダ〔王〕は、これらの方たちは、わたしたちの、狡猾ならざる戦いを御覧なれ。集会において、まさに、〔肩入れ〕なく、何であれ、為すことなく」〔と〕。

 

1436.(1229) 〔世尊は言った〕「クル〔国〕の王は、さらに、また、夜叉のプンナカも、彼らは、賭博の酔いに酔い痴れ、没入した。王は、選別するままに〔悪しき〕賽の目を掴み取り、プンナカという名の夜叉は、善き〔賽の目〕を掴み取った。

 

1437.(1230) 賭博において、対峙するなか、そこにおいて、彼らの両者はある──王たちの現前において、かつまた、友人たちの中央において。夜叉は、人のなかの最勝の勇者(クル王)に勝利した。そこにおいて、まさしく、どよめきの大歓声が〔起きた〕」〔と〕。

 

1438.(1231) 〔夜叉が言った〕「大王よ、健闘する〔両者〕のいずれかに、勝利が〔有り〕、そして、敗北が有ります。人のインダよ、〔あなたは〕存しています──優れた財を失った者として。そして、勝負あったのです、すみやかに、わたしに、〔賞品を〕譲渡したまえ」〔と〕。

 

1439.(1232) 〔王が言った〕「象や牛や馬たち、そして、諸々の宝珠の耳飾、さらに、また、すなわち、地において、わたしの宝としてあるもの──カッチャーナ(夜叉)よ、諸々の財のなかの優れたものを収め取れ。〔それを〕携えて、〔おまえが〕求めるところに、そこへと去り行け」〔と〕。

 

1440.(1233) 〔夜叉が言った〕「象や牛や馬たち、そして、諸々の宝珠の耳飾、さらに、また、すなわち、地において、あなたの宝としてあるもの──それらのなかの優れたものとして、ヴィドゥラという名の侍官がいます。彼です、わたしのものになるのは。勝負あったのです、わたしに、彼を譲渡したまえ」〔と〕。

 

1441.(1234) 〔王が言った〕「わたしにとって、彼は、かつまた、自己であり、帰依所であり、かつまた、赴く所であり、かつまた、洲であり、かつまた、避難所であり、かつまた、行き着く所である。わたしにとって、彼は、財によって比較できず、わたしにとって、この侍官は、命と同等の者なのだ」〔と〕。

 

1442.(1235) 〔夜叉が言った〕「さてまた、わたしとあなたの論争は、長きにわたり存するでしょう。では、むしろ、〔わたしたちは〕尋ねるのです──まさしく、彼のもとに赴いて。まさしく、この者が、わたしたちに、この義(意味)を開顕せよ。すなわち、〔彼は〕説くでしょう。〔わたしたちの〕両者に、託宣有れ」〔と〕。

 

1443.(1236) 〔王が言った〕「学徒よ、まさに、たしかに、〔おまえは〕真理を話す──そして、無理やりではなく。まさしく、彼のもとに赴いて、〔わたしたちは〕尋ねるのだ。それによって、〔わたしたちは〕人として、両者ともに満足するのだ」〔と〕。

 

1444.(1237) 〔菩薩に、王が尋ねた〕「真に、たしかに、天〔の神々〕たちは、クル〔国〕に、法(正義)に依って立つ者を、ヴィドゥラという名の家臣を、遣わされた。〔あなたは〕王の奴隷として存しているのか、それとも、あるいは、〔王の〕親族として存しているのか。ヴィドゥラという名称があるが、〔あなたは〕どのような者として世に存しているのだ」〔と〕。

 

1445.(1238) 〔菩薩は答えた〕「まさに、或る者たちは、生っ粋の者としてもまた、奴隷たちと成り、財によって買われた者としてもまた、奴隷たちと成り、まさに、或る者たちは、自ら〔望んで〕もまた、奴隷たちとして近しく至り、恐怖に駆られた者としてもまた、奴隷たちと成ります。

 

1446.(1239) 人たちのなかでは、まさしく、これらの四者が、奴隷たちとして〔世に有ります〕。まさに、たしかに、わたしもまた、胎から生まれた者として〔世に有ります〕。そして、王のもとに有るも、かつまた、王のもとに有ることなくも、たとえ、他所に赴いても、わたしは、陛下の奴隷です。法(正義)によって、わたしを、学徒よ、あなたに与えるべきです」〔と〕。

 

1447.(1240) 〔夜叉が言った〕「これは、わたしにとって、今日、第二の勝利です。まさに、〔問いを〕尋ねられた者として、侍官は、ここにおいて、問いを開顕しました。法(正義)ならざる形態あるのが、まさに、最勝の王なのです。わたしにとって見事に語られた〔託宣〕を、〔あなたは〕承認しません」〔と〕。

 

1448.(1241) 〔王が言った〕「もし、このように、わたしたちに、彼が、ここにおいて、問いを開顕したなら、『わたしは、奴隷として存し、そして、まさに、親族として存さず』〔と〕、カッチャーナよ、諸々の財のなかの優れたものを収め取れ。〔それを〕携えて、〔おまえが〕求めるところに、そこへと去り行け」〔と〕。

 

 〔以上が〕博打の章ということになる。

 

22. 1. 9. 4. 在家の居住についての問い

 

1449.(1242) 〔菩薩に、王が尋ねた〕「ヴィドゥラよ、自らの家に、在家者として住しているなら、どのように、平安の生活は存するのか、いったい、どのように、愛護は存するのか。

 

1450.(1243) どのように、〔苦痛なく〕加害なき〔あり方〕は存するのか、そして、学徒は、真理を説く者として〔世に有るのか〕。どのように、この世から、他の世へと、死してのち、憂い悲しまないのか」〔と〕。

 

1451.(1244) 〔世尊は言った〕「彼に、そこにおいて、〔善き〕境遇の者は、〔道心〕堅固の者は、思慧ある者は、義(道理)を見る者は、一切の法(真理)を究めた者は、ヴィドゥラは、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。

 

1452.(1245) 〔菩薩は答えた〕「〔他者と〕共通の妻ある者として存するべきではありません。美味なるものを独りで食べるべきではありません。処世術に慣れ親しむべきではありません。これは、智慧を増大させるものではありません。

 

1453.(1246) 戒ある者として、行持を成就した者として、怠らない者として、明眼の者として、謙譲の生活者として、強情ならざる者として、快活なる者として、友誼ある者として、柔和なる者として、〔世に有るべきです〕。

 

1454.(1247) そして、朋友たちに、愛護ある者として、分与する者として、配慮ある者として、〔世に有るべきです〕。常に、沙門や婆羅門たちを、食べ物と飲み物によって満足させるべきです。

 

1455.(1248) 法(正義)を欲する者として、所聞を保持する者として、遍問者として、〔世に〕有るべきです。戒ある多聞の者たちに、恭しく奉侍するべきです。

 

1456.(1249) 自らの家に、在家者として家に住しているなら、このように、平安の生活は存するべきであり、まさに、このように、愛護は存するべきです。

 

1457.(1250) このように、〔苦痛なく〕加害なき〔あり方〕は存するべきであり、そして、学徒は、真理を説く者として〔世に有るべきです〕。このように、この世から、他の世へと、死してのち、憂い悲しみません」〔と〕。

 

 〔以上が〕在家の居住についての問いということになる。

 

22. 1. 9. 5. 特相の章

 

1458.(1251) 〔夜叉が言った〕「さあ、今や、去り行くのだ。まさに、イッサラ(クル王)によって、わたしに与えられたのだ。まさしく、わたしの義(利益)を実践せよ。これは、昔ながらの法(真理)である」〔と〕。

 

1459.(1252) 〔菩薩は言った〕「学徒よ、〔わたしは〕知る。あなたあるがゆえに、わたしは存している。イッサラ(王)によって、あなたに与えられた者として、わたしは存している。さてまた、三日のあいだ、あなたに、〔わたしの〕家に住していただきたい。その時をもって、子供たちに教え示したいのだ」〔と〕。

 

1460.(1253) 〔夜叉が言った〕「わたしにとって、それ、そのとおりと成れ。三日のあいだ、〔あなたの家に〕住するとしよう。貴君は、今日、家々における為すべきことを為したまえ。貴君は、今日、子と妻たちに教え示したまえ。すなわち、あなたが去ってしまっても、安楽の者として有るように」〔と〕。

 

1461.(1254) 〔世尊は言った〕「『善きかな』と言って、多大なる欲望〔の対象〕ある者は、夜叉は、ヴィドゥラと共に立ち去った。彼(ヴィドゥラ)に、クンジャラ〔象〕と善き生まれの馬を随行させ、最勝の聖者(夜叉)は、内宮に進み行った。

 

1462.(1255) コンチャ、そして、マユーラ、さらに、ピヤケータ〔という名の家〕へと、〔ヴィドゥラは〕近しく赴いた──そこにおいて、極めて喜ばしき形態の、沢山の食物があり、多くの食べ物と飲み物がある、ヴァーサヴァ(帝釈天)のマサッカサーラ〔宮殿〕のような〔家〕へと。

 

1463.(1256) そこにおいて、〔女たちは〕踊り、歌い、優れたものから優れたものへと、〔舞踏や歌詠で〕喚呼する。諸天における仙女たちのような、〔装いを〕十二分に作り為した女たちである。

 

1464.(1257) 法(正義)の警護者は、夜叉を、女人たちの保有者と為して、さらに、食べ物と飲み物の〔保有者と為して〕、義(目的)のなかの義(目的)だけを熟慮しながら、そのとき、妻の現前に進み行った。

 

1465.(1258) 栴檀の香液を塗った彼女に、黄金のジャンブー川の金貨に等しき妻に、〔ヴィドゥラは〕言った。『尊女よ、さあ、聞いておくれ、赤銅の眼をした者よ、子供たちを呼んできておくれ』〔と〕。

 

1466.(1259) 亭主の言葉を聞いて、アヌッジャー(妻)は、赤銅の爪をした美しい眼の嫁に言った。『チェーターよ、青蓮の花に等しき者よ、甲冑を〔身に〕付ける〔勇士〕たちを、子供たちを呼んできておくれ』〔と〕。

 

1467.(1260) やってきた彼らの頭にくちづけをして、法(正義)の警護者は、動揺することなく、子供たちに呼びかけて、言葉を言った」〔と〕。〔菩薩は言った〕「ここに、わたしは、王によって、学徒に与えられた。

 

1468.(1261) 彼の〔承諾によって〕、今日、わたしは、自己の安楽ある者として、〔三日のあいだ〕遣わされた。〔彼は、わたしを〕携えて、求めるところに、そこへと去り行く。そして、わたしは存している──おまえたちに教え示すために到来した者として。わたしが、どうして、〔おまえたちを〕救護せずして、去り行くというのだろう。

 

1469.(1262) それで、もし、クルの国土の住者たる王が、多大なる欲望〔の対象〕あるジャナサンダが、おまえたちに尋ねるなら、『どのようなことなのだ、〔おまえたちが〕証知する、かつての過去のことは。どのようなことなのだ、前に、おまえたちの父が教え示したことは。

 

1470.(1263) 〔あなたたちの〕全てが、まさしく、わたしと等しく近しき者たちとして有る。いったい、誰が、ここに、王として運命づけられた人間なのだ』〔と〕、彼に合掌を為して、このように説きなさい。『陛下よ、まさに、このようなことはなりません。まさに、これは、法(正義)ではありません。陛下よ、下劣なる生まれの者が、どうして、虎の王と等しく近しき者と成れましょう』」〔と〕。

 

 〔以上が〕特相の章ということになる。

 

22. 1. 9. 6. 王〔の家〕における住〔のあり方〕

 

1471.(1264) 〔世尊は言った〕「そして、彼は、子供たちに、さらに、家臣たちに、善き心の人たちである親族たちに、畏縮なき意と思惟あるヴィドゥラは、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。

 

1472.(1265) 〔菩薩は言った〕「尊貴なる者よ、さあ、坐って、わたしの〔言葉を〕、王〔の家〕における住〔のあり方〕を、聞きたまえ。すなわち、王の家に至り得た家来として、盛名に遭遇するように。

 

1473.(1266) まさに、王の家に至り得たとして、〔人に〕知られない者は、盛名を得ません。勇士ならざる者は、〔盛名を得〕ず、思慮浅き者もまた、〔盛名を得〕ず、怠る者は、いついかなる時も、〔盛名を得〕ません。

 

1474.(1267) そのとき、彼の、戒に、そして、智慧に、さらに、清廉に、〔王が〕到達するなら、そこで、彼にたいし信頼し、彼には秘密を守りません(何でも打ち明ける)。

 

1475.(1268) たとえば、秤が差し出され、棒が等しく善く保たれているように、〔王に〕要請されたとして、動揺するべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1476.(1269) たとえば、秤が差し出され、棒が等しく善く保たれているように、全てに〔正しく〕対処している者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1477.(1270) 昼であろうが、もしくは、夜であろうが、賢者としてあり、諸々の王の為すべきことについて、〔王に〕要請されたとして、動揺するべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1478.(1271) 昼であろうが、もしくは、夜であろうが、賢者としてあり、諸々の王の為すべきことについて、全てに〔正しく〕対処している者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1479.(1272) そして、すなわち、その王のために見事に作られ見事に整備された道があり、〔たとえ、王に〕言われたとして、その〔道〕によって赴くべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1480.(1273) 欲望〔の対象〕の受益あるとき、いついかなる時も、王と同等のものを受益するべきではありません。一切所において、最後に赴くべきです。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1481.(1274) 王と同等の、衣を〔受益せ〕ず、花飾を〔受益せ〕ず、香料を〔受益せ〕ず、王と同等の、所作を、あるいは、口調を、行なうべきではありません。他なる所作を為すべきです。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1482.(1275) 王が、侍女たちに取り囲まれ、家臣たちとともに遊び戯れるとして、賢者たる家臣は、王の侍女たちにたいし、情愛を為すべきではありません。

 

1483.(1276) 〔心が〕高揚せず、軽薄ならず、賢明で、〔感官の〕機能が統御され、意の誓願を成就した者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1484.(1277) 彼の侍女たちと遊び戯れるべきではありません。静所に赴き、話し合うべきではありません。彼の蔵から財を収め取るべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1485.(1278) 眠りを多く貪るべきではありません。酔うために酒を飲むべきではありません。彼の園にいる獣たちを殺すべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1486.(1279) 彼の、椅子に〔乗ら〕ず、寝台に〔乗ら〕ず、坐席に〔乗ら〕ず、舟に、車に、『〔わたしは、人々に〕敬われる者として存している』と乗るべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1487.(1280) 王とは、遠過ぎず、近過ぎず、親しむべきです──明眼の者として。そして、彼の、自らの主人の、面前に立つべきです──現に見られている者として。

 

1488.(1281) まさに、王は、友人として〔世に〕有るのではありません。王は、仲間として〔世に〕有るのではありません。王たちは、すみやかに怒ります──穂先で眼を傷つけられたかのように。

 

1489.(1282) 思慮ある者にして賢者たる人は、供養されていると思い考えながら、衆のうちに赴いた王に、粗暴な〔言葉〕で話しかけるべきではありません。

 

1490.(1283) 門を得た者となり、門を得るとして、王たちにたいし、まさしく、信頼するべきではありません。祭火のように〔心を配り〕、自制の者として立つべきです。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1491.(1284) 自らの、あるいは、子供を、あるいは、兄弟を、士族(王)が厚遇するとして──あるいは、諸々の村をもって、諸々の町をもって、あるいは、諸々の国土をもって、諸々の地方をもって──沈黙のままに有り、放捨するべきです。良し悪しを話すべきではありません。

 

1492.(1285) 象兵たちを、親兵たちを、車兵たちを、歩兵たちを、彼らの手柄話によって、王が、報酬を増やすとして、彼らを邪魔しに赴くべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1493.(1286) 慧者は、弓のように、腹を満たさず、あるいは、また、竹のように、しなやかであるべきです。逆に転ずるべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1494.(1287) 弓のように、腹を満たさずに存するべきです。魚のように、舌のない者(無口の者)として存するべきです。食少なく賢明なる勇士は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1495.(1288) 婦女のもとに甚だしく赴くべきではありません──威光の消滅〔という結果〕を正しく見ながら。思慮が滅尽した者は、咳病に、喘息に、懊悩に、愚鈍に、遭遇します。

 

1496.(1289) 限度を超えて語るべきではありません。一切時に、沈黙の者として存するべきではありません。時に至り得たなら、雑駁ならず節度ある言葉を発するべきです。

 

1497.(1290) 忿激せず、相打たず、真理の者としてあり、優しく、中傷せず、雑談を語るべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1498. 母と父を養う者として存するべきです。家における目上の者を敬う者としてあり、優しく、友誼ある会話の者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1499.(1291) 教導され、調御され、技能ある者としてあり、自己を作り為し、定められ、柔和なる者としてあり、怠らず、清らかで、能ある者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1500.(1292) 謙譲の生活者としてあり、年長者たちにたいし、敬虔〔の思い〕を有し、尊重〔の思い〕を有し、快活で、安楽なる共住者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1501.(1293) 打ち負かすために送られた人を、遠く離れて、遍く避けるべきです。主人のことだけを見守るべきです──そして、他の王ではなく。

 

1502.(1294) 戒ある多聞の者たちである、沙門たちに、さらに、また、婆羅門たちに、恭しく奉侍するべきです。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1503.(1295) 戒ある多聞の者たちである、沙門たちに、さらに、また、婆羅門たちに、恭しく薫習するべきです。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1504.(1296) 戒ある多聞の者たちである、沙門たちを、さらに、また、婆羅門たちを、食べ物と飲み物によって満足させるべきです。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1505.(1297) 戒ある多聞の者たちである、沙門たちに、さらに、また、婆羅門たちに、智慧ある者たちに近づいて、慣れ親しむべきです──自己の繁栄を望みながら。

 

1506.(1298) 沙門や婆羅門にたいし、過去に施した布施を減らすべきではありません。さらに、布施の時において、乞食者たちを、何であれ、妨げるべきではありません。

 

1507.(1299) 覚慧を成就した智慧ある者としてあり、〔仕事の〕規定と手順の熟知者としてあり、時を知り、かつまた、時分を知る者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1508.(1300) 諸々の行為の領域において奮起する者としてあり、〔気づきを〕怠らない明眼の者としてあり、生業が上手に差配された者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1509.(1301) 穀倉に、会堂に、家畜に、田畑に、そして、幾度となく赴く者として存するべきです。計量された穀物を貯蔵するべきであり、家においては、計量されたものだけを調理するべきです。

 

1510.(1302) 自らの、あるいは、子供でも、あるいは、兄弟でも、諸戒において〔心が〕定められていないなら、まさに、彼らは、不具者たちであり、愚者たちであり、彼らは、あたかも、餓鬼たちのように、まさしく、そのようにあり、坐している〔だけ〕の彼らには、そして、ぼろ布を、かつまた、団子飯を、与えておくべきです。

 

1511.(1303) 奴隷たちでも、労夫たちでも、召使たちでも、諸戒において〔心が〕善く定められているなら、能ある者たちを、奮起を伴った者たちを、優位に据え置くべきです。

 

1512.(1304) そして、戒ある者であり、さらに、〔欲の〕妄動なき者であり、かつまた、王の守護者として、公然であれ、内密であれ、その〔王〕に益ある者は、彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1513.(1305) そして、王の欲(嗜好)を知る者として存するべきです。王の心に依って立つ者として存するべきです。反逆なき生活者として存するべきです。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1514.(1306) そして、〔王に〕塗油し、〔王を〕沐浴させ、〔王に〕頭を下げ、〔両の〕足を洗い清めるべきです。たとえ、〔王に〕打たれたとして、怒るべきではありません。彼は、王〔の家〕における住〔のあり方〕を〔成就して〕住するでしょう。

 

1515.(1307) 瓶に合掌を〔為すこともあり〕、あるいは、烏に(※)右回り〔の礼〕を為すこともあるのです。まさしく、どうして、一切の欲望〔の対象〕を与えてくれる慧者たる最上者に〔礼拝できないというのでしょう〕。

 

※ テキストには cāṭañcāpi とあるが、PTS版により vāyasaṃ vā と読む。

 

1516.(1308) 彼は、臥所を、衣を、乗物を、住居を、家屋を、〔わたしたちに〕与えてくれます。生類たちを〔潤す〕雨雲のように、〔王は〕諸々の財物の雨を降らせます。

 

1517.(1309) 尊貴なる者よ、これが、王〔の家〕における住〔のあり方〕です。そのとおりに転起している人は、王を喜ばせ、主人たちにおいて供養を得ます」〔と〕。

 

 〔以上が〕王〔の家〕における住〔のあり方〕ということになる。

 

22. 1. 9. 7. 中略あるもの

 

1518.(1310) 〔世尊は言った〕「このように、明眼の者は、親族たちの群れに等しく教え示して、善き心の者たちに取り囲まれ、王のもとへと近づいて行った。

 

1519.(1311) 頭をもって、〔王の両の〕足を敬拝して、そして、彼に、右回り〔の礼〕を為して、合掌を差し出して、ヴィドゥラは、王に言った」〔と〕。

 

1520.(1312) 〔菩薩は言った〕「この学徒が、わたしを連れて行きます──思いのとおりに為すことを欲する者として。親族たちのために、義(道理)を、〔わたしは〕言い示します。敵を調御する者(王)よ、それを聞いてください。

 

1521.(1313) そして、わたしの子供たちのことを、さらに、すなわち、他に、わたしの家にある財産をも、見守られますように──わたしが去り行ったとき、すなわち、〔わたしが〕去ってしまっても、親族たちの群れが衰え滅びないように。

 

1522.(1314) すなわち、まさしく、地にありて倒れ、まさしく、地にありて立つように、このように、わたしにとって、これが倒れたなら、〔わたしは〕これを〔わたしの〕過誤と見ます」〔と〕。

 

1523.(1315) 〔王が言った〕「『去り行くことはかなわぬ』という〔思いが〕、わたしには有る。ここに、カーティヤーナ(夜叉)を、断ち切って、打ち殺して。『まさしく、ここに有れ』という〔思いが〕、わたしにとって好ましくある。最上の広き智慧ある者よ、あなたは去り行ってはならない」〔と〕。

 

1524.(1316) 〔菩薩は言った〕「まさに、諸々のこのような法(性質)に、意を向けてはいけません。そして、義(道理)に、さらに、法(真理)に、専念する者として〔世に〕有りたまえ。厭わしきものとして存せ──それを為して、そのあと、地獄に行くことになる、善ならず聖ならざる行為は。

 

1525.(1317) これは、まさしく、法(正義)にあらず。かつまた、これは、為すべきことにあらず。まさに、奴隷にとって、人のインダたるイッサラ(王)は、聖者として〔世に有ります〕。そして、わたしには、〔他者を〕害し傷つけるべき、さらに、また、殺すべき、忿激〔の思い〕は存在せず、そして、わたしは行くのです」〔と〕。

 

1526.(1318) 〔世尊は言った〕「長子を抱いて、心臓の懊悩を取り除いて、涙に満ちた〔両の〕眼で、彼は、〔自らの〕大いなる家に入った。

 

1527.(1319) 風で押し倒され、倒れ落ちたサーラ〔樹の木々〕のように、そして、子たちは、さらに、妻たちは、〔地に〕臥す──ヴィドゥラの住居地において。

 

1528.(1320) 侍女たちのなかの、千の婦女たちは、さらに、七百の奴婢たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──ヴィドゥラの住居地において。

 

1529.(1321) そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──ヴィドゥラの住居地において。

 

1530.(1322) 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──ヴィドゥラの住居地において。

 

1531.(1323) 集いあつまった地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──ヴィドゥラの住居地において。

 

1532.(1324) 侍女たちのなかの、千の婦女たちは、さらに、七百の奴婢たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──『何ゆえに、わたしたちを捨棄するのか』〔と〕。

 

1533.(1325) そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──『何ゆえに、わたしたちを捨棄するのか』〔と〕。

 

1534.(1326) 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──『何ゆえに、わたしたちを捨棄するのか』〔と〕。

 

1535.(1327) 集いあつまった地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──『何ゆえに、わたしたちを捨棄するのか』〔と〕。

 

1536.(1328) 家々における諸々の為すべきことを為して、自らの〔縁ある〕人々に教え示して──そして、朋友と家臣たちに、さらに、扶養者たちに、かつまた、子と妻たちに、眷属たちに──

 

1537.(1329) 生業〔の管理〕を差配して、家にある財産〔の管理状況〕を告げ知らせて、そして、財宝〔の保管場所〕を〔告げ知らせて〕、さらに、〔他者に〕施し与えた負債を〔告げ知らせて〕、プンナカに、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。

 

1538.(1330) 〔菩薩は言った〕「三日のあいだ、あなたは、わたしの家に住した。わたしの家々における諸々の為すべきことは、〔全てが〕為された。そして、子と妻たちは、わたしによって教え示された。カッチャーナよ、あなたの思いのとおりに、〔わたしたちは〕為すのだ」〔と〕。

 

1539.(1331) 〔夜叉が言った〕「侍官よ、まさに、それで、もし、そして、子たちが、妻たちが、さらに、従僕たちが、あなたによって教え示されたなら、さあ、来たれ、今や、急ぎ至急。まさに、この先、さらに、長き旅となるのだ。

 

1540.(1332) まさしく、驚愕せず、良馬の尾を掴みたまえ。あなたにとって、これは、生あるものの世に見る最後のものとなる」〔と〕。

 

1541.(1333) 〔菩薩は言った〕「〔まさに〕その、わたしが、いったい、何を恐れるというのだろう。すなわち、わたしに、悪行は存在しない。身体によって、言葉によって、意によって、それによって、〔わたしが〕悪しき境遇に赴く、〔まさに、その悪行は〕」〔と〕。

 

1542.(1334) 〔世尊は言った〕「〔まさに〕その、馬の王は、ヴィドゥラを運びつつ、宙空に〔赴き〕、空中に立ち去った。枝々に、岩々に、当たることなく、すみやかに、カーラー山へと近しく赴いた。

 

1543.(1335) 侍女たちのなかの、千の婦女たちは、さらに、七百の奴婢たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──『婆羅門の姿をした夜叉が、ヴィドゥラを取って去り行った』〔と〕。

 

 ……略……

 

1544.(1338) 集いあつまった地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──『婆羅門の姿をした夜叉が、ヴィドゥラを取って去り行った』〔と〕。

 

1545.(1339) 侍女たちのなかの、千の婦女たちは、さらに、七百の奴婢たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──『賢者は、彼は、どこに去り行ったのだ』〔と〕。

 

 ……略……

 

1546.(1342) 集いあつまった地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──『賢者は、彼は、どこに去り行ったのだ』」〔と〕。

 

1547.(1343) 〔人々が言った〕「それで、もし、賢者が、彼が、七夜をもって帰還しないなら、全ての者たちは、火に入ります。わたしたちにとって、生命に義(利益)は存在しません」〔と〕。

 

1548.(1344) 〔王が言った〕「そして、賢者は、かつまた、明敏なる者であり、かつまた、分明なる者であり、明眼の者である。すみやかに、自己を解き放って帰還するであろう。恐れてはならない」〔と〕。

 

 〔以上が〕中略あるものということになる。

 

22. 1. 9. 8. 善き人の法の章

 

1549.(1345) 〔世尊は言った〕「そこにおいて、赴いて〔そののち〕、彼(夜叉)は熟慮している。〔彼には〕高下諸々の思欲が有る。『わたしにとって、この者の生命に、何であれ、義(利益)は存在しない。この者を殺して、心臓を取り出すのだ』〔と〕。

 

1550.(1346) そこにおいて、赴いて〔そののち〕、彼は、山間の内へと入って、邪悪な心の者は、カーティヤーナ(夜叉)は、地上の場所ほどに限りなく〔広い〕ところに、〔賢者を〕頭を下に吊るした。

 

1551.(1347) 彼(菩薩)は、奈落の深淵において、大いなる恐怖ある身の毛のよだつ難所において、垂れ下がりながらも、クル〔国〕の最勝の侍官は、動じることなく、プンナカという名の夜叉に、かくのごとく説いた」〔と〕。

 

1552.(1348) 〔菩薩は尋ねた〕「聖者の外見あるも聖ならざる形質の者として、自制者の似姿あるも自制なき者として、〔あなたは〕存している。残忍で極めて益なき行為を、〔あなたは〕為す。そして、あなたの状態たるや、善なるものは、何であれ、存在しない。

 

1553.(1349) すなわち、〔あなたは〕わたしを深淵に落とすことを求めるが、あなたにとって、わたしの死に、いったい、どのような義(利益)があるのだ。今日、あなたの姿は、まさしく、人間ならざるものである。わたしに告げ知らせたまえ。どのような天神として、あなたは存しているのだ」〔と〕。

 

1554.(1350) 〔夜叉が答えた〕「もしくは、おまえの聞くところとしては、プンナカという名の夜叉である。まさに、クヴェーラ王の、それなる閣僚である。地上の保持者たるヴァルナという名の龍がいる。偉丈夫にして、清らかで、色艶と活力を具有した方である。

 

1555.(1351) 〔わたしは〕彼の息女たる娘を欲している。彼女は、イランダティーという名の龍の少女である。美しいくびれた胴の愛しい彼女を因として、慧者よ、〔わたしは〕おまえの殺戮のために努めてきたのだ」〔と〕。

 

1556.(1352) 〔菩薩は尋ねた〕「夜叉よ、まさしく、まさに、あなたは、迷乱した者と成ってはならない。悪しく執持したものによって、世において、多くの者たちが滅びたのだ。美しいくびれた胴の愛しい者のために、あなたに、どのような為すべきことがあるというのだ──わたしの死をもってして。さあ、全てを聞こう」〔と〕。

 

1557.(1353) 〔夜叉が答えた〕「大いなる威力ある大いなる龍の娘を欲し、親族たちに支援された者として、わたしは存している。彼女を乞い求めている〔わたし〕に、舅は言った。わたしのことを、善き欲望〔の対象〕に導かれた者と、〔彼らが〕知った、そのとおりに。

 

1558.(1354) 〔龍の王が言った〕『まさに、あなたに、美しい体躯の者を、美しい眼の者を、清らかに微笑する者を、栴檀を手足に塗った者を、〔わたしたちは〕与えよう。それで、もし、あなたが、賢者の心臓を、法(正義)によって得て、ここに持ってくるなら、この富によって、王女は得られる。さらなる他の財を、〔わたしたちは〕望み求めない』〔と〕。

 

1559.(1355) 侍官よ、聞け、このように、〔わたしは〕迷乱した者として存しているのではなく、さらに、また、わたしに、悪しく執持したものは、何であれ、存在しない。法(正義)によって得た、おまえの心臓によって、龍たちは、龍の少女のイランダティーを与えてくれるのだ。

 

1560.(1356) それゆえに、わたしは、おまえの殺戮に専念する者として〔世に有る〕。わたしにとって、おまえの死に、このような義(利益)があるのだ。まさしく、ここに、おまえを奈落の深淵に落として、おまえを殺して、心臓を取り出すのだ」〔と〕。

 

1561.(1357) 〔菩薩は言った〕「カーティヤーナよ、すみやかに、わたしを引き上げよ。すなわち、わたしの心臓によって為すべきことが、あなたに存するなら、およそ、何であれ、これらの善き人の法(教え)としてあるものは、まさしく、それらの全てを、今日、〔わたしは〕明らかと為すであろう」〔と〕。

 

1562.(1358) 〔世尊は言った〕「彼は、プンナカは、クル〔国〕の最勝の侍官を、すみやかに、山の頂きに据え置いて、落ち着いて坐している者を正視して、至上の智慧ある侍官に遍く問い尋ねた」〔と〕。

 

1563.(1359) 〔夜叉が尋ねた〕「おまえは、わたしによって深淵から引き上げられた者として存している。今日、おまえの心臓によって為すべきことが、わたしに存するのだ。およそ、何であれ、これらの善き人の法(教え)としてあるものは、まさしく、それらの全てを、今日、〔おまえは〕明らかと為せ」〔と〕。

 

1564.(1360) 〔菩薩は答えた〕「わたしは、あなたによって深淵から引き上げられた者として存している。すなわち、わたしの心臓によって為すべきことが、あなたに存するなら、およそ、何であれ、これらの善き人の法(教え)としてあるものは、まさしく、それらの全てを、今日、〔わたしは〕明らかと為すであろう。

 

1565.(1361) 学徒よ、そして、行じられたままに行ずる者と成りなさい。そして、水気ある〔清らかな〕手〔を焼くこと〕を遍く避けなさい。そして、朋友たちにたいし、いついかなる時も、裏切る者として存してはならない。そして、念慮なき〔女〕たちの支配を受けてはならない」〔と〕。

 

1566.(1362) 〔夜叉が尋ねた〕「いったい、どのように、行じられたままに行ずる者と成るのだ。そして、彼は、どのように、水気ある〔清らかな〕手を焼くのだ。そして、どのような者が、念慮なき者であり、また、どのような者が、朋友を裏切る者なのだ。〔問いを〕尋ねられた者として、この義(意味)を、わたしに告げ知らせよ」〔と〕。

 

1567.(1363) 〔菩薩は答えた〕「親交なき者を、さらに、また、過去に見たことなき者を、たとえ、〔ただの〕坐であれ、その者が招くなら、まさしく、彼のために、人は、義(利益)を為すべきである。その〔人〕のことを、賢者たちは『行じられたままに行ずる者』と言う。

 

1568.(1364) その者の家に、たとえ、一夜であれ、住するなら、そこにおいて、人が、食べ物と飲み物を得るなら、彼にとって悪しきことを、たとえ、意によってであれ、思い考えるべきではない。朋友を裏切る者は、裏切ることなき者の手を焼く。

 

1569.(1365) その木の影に、坐るなら、あるいは、臥すなら、その〔木〕の枝を折るべきではない。まさに、朋友を裏切る者は、悪しき者である。

 

1570.(1366) たとえ、もし、財に満ちたこの地を、男が、等しく思い認めた婦女に与えるとして、〔女というものは〕時節を得たなら、彼をもまた軽んじるであろう。彼女たちの支配に、念慮なき者たちの〔支配に〕、赴くべきではない。

 

1571.(1367) このように、まさに、行じられたままに行ずる者と成る。そして、また、このように、水気ある〔清らかな〕手を焼く。そして、彼女は、念慮なき者であり、また、彼は、朋友を裏切る者である。彼は、法(正義)にかなう者と成れ。法(正義)ならざるものを捨棄せよ」〔と〕。

 

 〔以上が〕善き人の法の章ということになる。

 

22. 1. 9. 9. カーラー山の章

 

1572.(1368) 〔夜叉が言った〕「三日のあいだ、わたしは、あなたの家に住した。食べ物と飲み物によって、〔あなたに〕奉仕された者として、〔わたしは〕存している。わたしの朋友として、〔あなたは〕存している。わたしは、あなたを捨て放つ。最上の智慧ある者よ、欲するままに、家に去り行きたまえ。

 

1573.(1369) さてまた、義(利益)は、龍の家から衰退せよ。わたしにとって、龍の少女は、もう、十分と成れ。智慧ある者よ、〔まさに〕その、あなたは、まさしく、自らの、見事に語られた〔言葉〕によって、今日、わたしによる殺戮から解き放たれた者として存している」〔と〕。

 

1574.(1370) 〔菩薩は言った〕「夜叉よ、さあ、あなたは、わたしをもまた、あなたの舅のもとに連れて行きたまえ。わたしにおける〔あなたの〕義(利益)を行なうのだ。そして、わたしたちは、龍の君主を、過去に見たことのない龍の天宮を、見るのだ」〔と〕。

 

1575.(1371) 〔夜叉が尋ねた〕「それが、まさに、人にとって益なきことのために存するなら、智慧ある者は、それを見るに値せず。最上の智慧ある者よ、そこで、何を理由に、あなたは、朋友ならざる者の村に赴くことを求めるのですか」〔と〕。

 

1576.(1372) 〔菩薩は答えた〕「たしかに、わたしもまた、このことを覚知する。智慧ある者は、それを見るに値せず。しかしながら、わたしによって為された悪しき〔行為〕は、どこにも存在しない。それゆえに、死の至り来ることを危惧しないのだ」〔と〕。

 

1577.(1373) 〔夜叉が言った〕「さあ、では、侍官よ、来たれ、わたしと共に、無比なる威力ある場を見るのです。あたかも、ナリニーにおけるヴェッサヴァナ王(毘沙門天)のように、そこにおいて、龍は、諸々の舞踏と歌詠とともに暮らします。

 

1578.(1374) それは、龍の少女たちの群れが歩むところにして、常に、そして、昼に、夜に、遊楽あるところです。沢山の花環があり、多くの花に覆われ、空中における雷光のように光り輝きます。

 

1579.(1375) 食べ物と飲み物を具した形態があり、さらに、諸々の舞踏と歌詠と音楽を〔具した形態があり〕、〔装いを〕十分に作り為した少女たちで遍く満ち、衣と装飾品で美しく輝きます」〔と〕。

 

1580.(1376) 〔世尊は言った〕「彼は、プンナカは、クル〔国〕の最勝の侍官を後の坐に坐らせ、至上の智慧ある侍官を携えて、龍の王の居所に連れて行った。

 

1581.(1377) 無比なる威力ある場に至り得て、侍官は、プンナカの後に立った。〔夜叉の〕同伴者を熟視しつつも、龍の王は、まずは、先に、婿に語りかけた」〔と〕。

 

1582.(1378) 〔龍の王が尋ねた〕「はてさて、すなわち、あなたは、人間の世に赴いた──賢者の心臓を探し求めつつ。どうであろう、上首尾をもって、ここに至り得たのかな──至上の智慧ある侍官を携えて」〔と〕。

 

1583.(1379) 〔夜叉が答えた〕「まさに、この方です。すなわち、あなたが求めるところの、彼が、やってきたのです。法(正義)によって得たのです。わたしにとっての、法(正義)の警護者です。彼をご覧ください──面前にて、語っている〔彼〕を。安楽なるは、まさに、正なる人士との交際なのです」〔と〕。

 

 〔以上が〕カーラー山の章ということになる。

 

1584.(1380) 〔王が言った〕「過去に見たことのないものを見て、〔この〕人間は、死魔の恐怖に苦悩し、驚き恐れ、〔わたしを〕敬拝しない。これは、まさしく、智慧ある者たちのものならざるなり」〔と〕。

 

1585.(1381) 〔菩薩は言った〕「龍よ、そして、〔わたしは〕驚き恐れている者として存するのではなく、さらに、死魔の恐怖に苦悩する者として〔存するのでも〕ありません。屠殺される者が、〔誰かを〕敬拝することはなく、あるいは、屠殺される者を、〔誰かが〕敬拝させることも〔ありません〕。

 

1586.(1382) いったい、どうして、敬拝するというのでしょう、まさに、敬拝させるというのでしょう。すなわち、人が、殺すことを求めるなら、それは、行為として成り立ちません」〔と〕。

 

1587.(1383) 〔王が言った〕「このことは、そのとおりです。すなわち、〔あなたが〕説くとおりです。賢者よ、〔あなたは〕真理を語ります。屠殺される者が、〔誰かを〕敬拝することはなく、あるいは、屠殺される者を、〔誰かが〕敬拝させることも〔ありません〕。

 

1588.(1384) いったい、どうして、敬拝するというのでしょう、まさに、敬拝させるというのでしょう。すなわち、人が、殺すことを求めるなら、それは、行為として成り立ちません」〔と〕。

 

1589.(1385) 〔菩薩は尋ねた〕「いったい、あなたの、この、神通は、光輝は、活力と精進と再生は、常久ならざるものですか、常久なるものですか。龍の王よ、この義(意味)を、〔わたしは〕あなたに尋ねます。いったい、どのように、この天宮は、あなたによって得られたのですか。

 

1590.(1386) あなたにとって、偶然に得られたものですか、〔必然による〕変化から生じるものですか、それとも、自ら作り為したものですか、天〔の神々〕たちによって与えられたものですか。龍の王よ、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください。この天宮が、あなたによって得られた、まさしく、そのとおりに」〔と〕。

 

1591.(1387) 〔王が答えた〕「わたしにとって、偶然に得られたものではなく、〔必然による〕変化から生じるものではなく、自ら作り為したものではなく、あるいは、また、天〔の神々〕たちによって与えられたものでもありません。諸々の悪ならざる自らの行為によって、諸々の功徳によって、この天宮は、わたしによって得られたのです」〔と〕。

 

1592.(1388) 〔菩薩は尋ねた〕「あなたにとって、どのようなものが、掟なのですか、また、どのようなものが、梵行なのですか。これは、どのような善き行ないの報いなのですか──神通は、光輝は、活力と精進と再生は、龍よ、そして、あなたの、この大いなる天宮は」〔と〕。

 

1593.(1389) 〔王が答えた〕「そして、わたしは、さらに、妻は、人間の世において、両者ともに、信ある施主たちとして〔世に〕有りました。〔布施の〕泉と成った、わたしの家が、そのとき、存しました(家は、布施の場となった)。そして、沙門や婆羅門たちは満足したのです。

 

1594.(1390) そして、花飾を、そして、香料を、そして、塗料を、灯具を、臥所を、そして、在所を、衣服を、臥具を、食べ物や飲み物を、諸々の布施を、そこにおいて、〔わたしたちは〕恭しく施しました。

 

1595.(1391) わたしにとって、それが、掟です。また、それが、梵行です。これは、その善き行ないの報いです──神通は、光輝は、活力と精進と再生は、慧者よ、そして、わたしの、この大いなる天宮は」〔と〕。

 

1596.(1392) 〔菩薩は言った〕「もし、このように、この天宮が、あなたによって得られたなら、〔あなたは〕諸々の功徳の果と再生を知ります。まさに、それゆえに、怠ることなく、法(正義)〔の道〕を歩みなさい。すなわち、〔あなたが〕ふたたび天宮に住するように」〔と〕。

 

1597.(1393) 〔王が尋ねた〕「しかしながら、ここに、沙門や婆羅門たちは存在しません。侍官よ、彼らのために、諸々の食べ物や飲み物を施すべくも。〔問いを〕尋ねられた者として、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください。すなわち、〔わたしたちが〕ふたたび天宮に住するように」〔と〕。

 

1598.(1394) 〔菩薩は答えた〕「まさに、蜷局ある者たちとして、ここに再生した者たちが、彼らが存在します──そして、子たちとして、妻たちとして、さらに、従僕たちとして。彼らにたいし、あなたは、言葉によって、さらに、行為によって、そして、常に、等しく汚れなき者として有りなさい。

 

1599.(1395) 龍よ、このように、あなたは、言葉によって、さらに、行為によって、等しく汚れなき〔状態〕を守りなさい。ここに、天宮に、寿命のあるかぎり止住して〔そののち〕、ここから、上なる天の世に、〔あなたは〕赴きます」〔と〕。

 

1600.(1396) 〔王が言った〕「まさに、たしかに、彼は、〔クル国の〕最勝の王は、憂い悲しむわけです。あなたが、彼の閣僚であるとして、あなたなしでは。たとえ、苦痛に導かれた者であるとして、あなたと行き合って〔そののちは〕、病める人もまた、安楽を見出すでしょう」〔と〕。

 

1601.(1397) 〔菩薩は言った〕「龍よ、たしかに、〔あなたは〕正しくある者たちの法(教え)を語ります──無上なるものを、義(利益)ある境処を、善き行ないを。なぜなら、このようなものとして、諸々の災難があるとき、わたしのような者たちの特質が覚知されるからです」〔と〕。

 

1602.(1398) 〔王が尋ねた〕「わたしたちに告げ知らせてください。あなたを、この者は、まさに、空手で得たのですか。まさに、あなたに、この者は、諸々の博打によって、賭事において勝利したのですか。あなたのことを、この者は、『法(正義)によって得たのです』と言いました。いったい、どのように、あなたは、彼の手に至り着いたのですか」〔と〕。

 

1603.(1399) 〔菩薩は答えた〕「すなわち、そこにおいて、イッサラたる王として有った、彼(クル王)に、この者は、諸々の博打によって、賭事において勝利しました。彼は、勝負あった王は、わたしを、この者に与えました。法(正義)によって得た者として、〔わたしは〕存しています──無理やりではなく」〔と〕。

 

1604.(1400) 〔世尊は言った〕「慧者の、諸々の見事に語られた〔言葉〕を聞いて、大いなる龍は、わが意を得た者となり、勇躍する者となり、そのとき、至上の智慧ある者の手を取って、妻の現前に進み行った」〔と〕。

 

1605.(1401) 〔王が言った〕「ヴィマラーよ、彼によって、おまえは青ざめ、彼によって、食事は好ましからず。しかしながら、わたしに、そのような色艶はない。この方は、彼は、闇を除去する方である。

 

1606.(1402) 彼の心臓に、あなたの義(目的)はある。この方が、光の作り手たる方が、やってきたのだ。彼の言葉を、こころして聞きなさい。得難きは、〔彼と〕ふたたび会うこと」〔と〕。

 

1607.(1403) 〔世尊は言った〕「ヴィマラーは、彼を、広き智慧ある者を、見て、十指の合掌を差し出して、欣喜した状態で満足した様子となり、クル〔国〕の最勝の侍官に、かくのごとく説いた」〔と〕。

 

1608.(1404) 〔王妃が言った〕「過去に見たことのないものを見て、〔この〕人間は、死魔の恐怖に苦悩し、驚き恐れ、〔わたしを〕敬拝しない。これは、まさしく、智慧ある者たちのものならざるなり」〔と〕。

 

1609.(1405) 〔菩薩は言った〕「龍の女よ、そして、〔わたしは〕驚き恐れている者として存するのではなく、さらに、死魔の恐怖に苦悩する者として〔存するのでも〕ありません。屠殺される者が、〔誰かを〕敬拝することはなく、あるいは、屠殺される者を、〔誰かが〕敬拝させることも〔ありません〕。

 

1610.(1406) いったい、どうして、敬拝するというのでしょう、まさに、敬拝させるというのでしょう。すなわち、人が、殺すことを求めるなら、それは、行為として成り立ちません」〔と〕。

 

1611.(1407) 〔王妃が言った〕「このことは、そのとおりです。すなわち、〔あなたが〕説くとおりです。賢者よ、〔あなたは〕真理を語ります。屠殺される者が、〔誰かを〕敬拝することはなく、あるいは、屠殺される者を、〔誰かが〕敬拝させることも〔ありません〕。

 

1612.(1408) いったい、どうして、敬拝するというのでしょう、まさに、敬拝させるというのでしょう。すなわち、人が、殺すことを求めるなら、それは、行為として成り立ちません」〔と〕。

 

1613.(1409) 〔菩薩は尋ねた〕「いったい、あなたの、この、神通は、光輝は、活力と精進と再生は、常久ならざるものですか、常久なるものですか。若き龍の女よ、この義(意味)を、〔わたしは〕あなたに尋ねます。いったい、どのように、この天宮は、あなたによって得られたのですか。

 

1614.(1410) あなたにとって、偶然に得られたものですか、〔必然による〕変化から生じるものですか、それとも、自ら作り為したものですか、天〔の神々〕たちによって与えられたものですか。若き龍の女よ、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください。この天宮が、あなたによって得られた、まさしく、そのとおりに」〔と〕。

 

1615.(1411) 〔王妃が答えた〕「わたしにとって、偶然に得られたものではなく、〔必然による〕変化から生じるものではなく、自ら作り為したものではなく、あるいは、また、天〔の神々〕たちによって与えられたものでもありません。諸々の悪ならざる自らの行為によって、諸々の功徳によって、この天宮は、わたしによって得られたのです」〔と〕。

 

1616.(1412) 〔菩薩は尋ねた〕「あなたにとって、どのようなものが、掟なのですか、また、どのようなものが、梵行なのですか。これは、どのような善き行ないの報いなのですか──神通は、光輝は、活力と精進と再生は、龍の女よ、そして、あなたの、この大いなる天宮は」〔と〕。

 

1617.(1413) 〔王妃が答えた〕「そして、わたしは、さらに、また、まさに、わたしの主人は、両者ともに、信ある施主たちとして〔世に〕有りました。〔布施の〕泉と成った、わたしの家が、そのとき、存しました。そして、沙門や婆羅門たちは満足したのです。

 

1618.(1414) そして、花飾を、そして、香料を、そして、塗料を、灯具を、臥所を、そして、在所を、衣服を、臥具を、食べ物や飲み物を、諸々の布施を、そこにおいて、〔わたしたちは〕恭しく施しました。

 

1619.(1415) わたしにとって、それが、掟です。また、それが、梵行です。これは、その善き行ないの報いです──神通は、光輝は、活力と精進と再生は、慧者よ、そして、わたしの、この大いなる天宮は」〔と〕。

 

1620.(1416) 〔菩薩は言った〕「もし、このように、この天宮が、あなたによって得られたなら、〔あなたは〕諸々の功徳の果と再生を知ります。まさに、それゆえに、怠ることなく、法(正義)〔の道〕を歩みなさい。すなわち、〔あなたが〕ふたたび天宮に住するように」〔と〕。

 

1621.(1417) 〔王妃が尋ねた〕「しかしながら、ここに、沙門や婆羅門たちは存在しません。侍官よ、彼らのために、諸々の食べ物や飲み物を施すべくも。〔問いを〕尋ねられた者として、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください。すなわち、〔わたしたちが〕ふたたび天宮に住するように」〔と〕。

 

1622.(1418) 〔菩薩は答えた〕「まさに、蜷局ある者たちとして、ここに再生した者たちが、彼らが存在します──そして、子たちとして、妻たちとして、さらに、従僕たちとして。彼らにたいし、あなたは、言葉によって、さらに、行為によって、そして、常に、等しく汚れなき者として有りなさい。

 

1623.(1419) 龍の女よ、このように、あなたは、言葉によって、さらに、行為によって、等しく汚れなき〔状態〕を守りなさい。ここに、天宮に、寿命のあるかぎり止住して〔そののち〕、ここから、上なる天の世に、〔あなたは〕赴きます」〔と〕。

 

1624.(1420) 〔王妃が言った〕「まさに、たしかに、彼は、〔クル国の〕最勝の王は、憂い悲しむわけです。あなたが、彼の閣僚であるとして、あなたなしでは。たとえ、苦痛に導かれた者であるとして、あなたと行き合って〔そののちは〕、病める人もまた、安楽を見出すでしょう」〔と〕。

 

1625.(1421) 〔菩薩は言った〕「龍の女よ、たしかに、〔あなたは〕正しくある者たちの法(教え)を語ります──無上なるものを、義(利益)ある境処を、善き行ないを。なぜなら、このようなものとして、諸々の災難があるとき、わたしのような者たちの特質が覚知されるからです」〔と〕。

 

1626.(1422) 〔王妃が尋ねた〕「わたしたちに告げ知らせてください。あなたを、この者は、まさに、空手で得たのですか。まさに、あなたに、この者は、諸々の博打によって、賭事において勝利したのですか。あなたのことを、この者は、『法(正義)によって得たのです』と言いました。いったい、どのように、あなたは、彼の手に至り着いたのですか」〔と〕。

 

1627.(1423) 〔菩薩は答えた〕「すなわち、そこにおいて、イッサラたる王として有った、彼(クル王)に、この者は、諸々の博打によって、賭事において勝利しました。彼は、勝負あった王は、わたしを、この者に与えました。法(正義)によって得た者として、〔わたしは〕存しています──無理やりではなく」〔と〕。

 

1628.(1424) 〔世尊は言った〕「まさしく、すなわち、龍のヴァルナ(王)が、賢者に問いを尋ねたとおりに、まさしく、そのように、若き龍の女もまた、賢者に問いを尋ねた。

 

1629.(1425) まさしく、すなわち、〔問いを〕尋ねられた慧者が、龍のヴァルナを満足させたとおりに、まさしく、そのように、〔問いを〕尋ねられた慧者は、若き龍の女をもまた満足させた。

 

1630.(1426) 大いなる龍が、さらに、若き龍の女が、彼らが、両者ともどもに、わが意を得たのを見出して、慧者は、驚愕せず、恐怖せず、身の毛をよだてず、龍の王のヴァルナに、かくのごとく説いた」〔と〕。

 

1631.(1427) 〔菩薩は言った〕「龍よ、躊躇してはいけません。〔あなたの〕収益物として、わたしは存しています。それに、あなたの義(利益)があるなら、これが、〔その〕肉体です。心臓の肉によって、為すべきことを為したまえ。あなたの思いのとおりに、〔わたしは〕自ら、為しましょう」〔と〕。

 

1632.(1428) 〔王が言った〕「智慧は、まさに、賢者たちの心臓です。〔まさに〕その、わたしたちは存しています──あなたの智慧によって極めて満足した者たちとして。アヌーナナーマ(夜叉)は、今日、妻を得よ。まさしく、今日、あなたを、クル〔国〕に至り得させよ」〔と〕。

 

1633.(1429) 〔世尊は言った〕「龍の少女のイランダティーを得て、彼は、プンナカは、わが意を得た者となり、勇躍する者となり、欣喜した状態で満足した様子となり、クル〔国〕の最勝の侍官に、かくのごとく説いた」〔と〕。

 

1634.(1430) 〔夜叉が言った〕「あなたは、わたしを、妻の保有者と為しました。ヴィドゥラよ、では、わたしも、あなたに、為すべきことを為しましょう。そして、この宝珠の宝を、あなたに与えましょう。まさしく、今日、あなたを、クル〔国〕に至り得させましょう」〔と〕。

 

1635.(1431) 〔菩薩は言った〕「カッチャーナよ、愛しい妻を相手に、この友愛が、あなたにとって、不朽のものと成れ。歓嘆の者となり、歓悦の者となり、悦意の者となり、満足した者となり、宝珠を与えて、そして、わたしを、インダパッタ〔の城市〕に導きたまえ」〔と〕。

 

1636.(1432) 〔世尊は言った〕「彼は、プンナカは、クル〔国〕の最勝の侍官を前の坐に坐らせ、至上の智慧ある侍官を携えて、インダパッタの城市に連れて行った。

 

1637.(1433) あたかも、また、人間の意が赴くように、それよりも、なお、よりすみやかなるものが、彼には有った。彼は、プンナカは、クル〔国〕の最勝の侍官を、インダパッタの城市に連れて行った」〔と〕。

 

1638.(1434) 〔夜叉が言った〕「これです。インダパッタの城市が見えます──さらに、等分に〔区画された〕諸々の喜ばしきアンバ林が。そして、わたしは、妻の保有者と成り、かつまた、あなたは、自らの家に至り得た者として存しています」〔と〕。

 

1639.(1435) 〔世尊は言った〕「彼は、プンナカは、クル〔国〕の最勝の侍官を、法(教え)の集会場の中央に降ろして、至上の色艶ある者は、良馬に乗って、宙空に〔赴き〕、空中に立ち去った。

 

1640.(1436) 彼を見て、最高に満足した王は、立ち上がって、〔両の〕腕で抱きしめて、動揺することなく〔ためらわずに〕、法(教え)の集会場の中央の筆頭の坐に坐らせた」〔と〕。

 

1641.(1437) 〔クル王が尋ねた〕「あなたは、車を〔引く〕縛り縄のように、わたしたちの教導者として存しています。クル〔国〕の者たちは、あなたを見ることで喜んでいます。〔問いを〕尋ねられた者として、この義(意味)を、わたしに告げ知らせてください。どのように、学徒からの解き放ちが有ったのですか」〔と〕。

 

1642.(1438) 〔菩薩は答えた〕「人のインダよ、人のなかの最勝の勇者よ、すなわち、『学徒である』と宣説したものの、彼は、人間ではありません。もしくは、あなたの聞くところとしては、プンナカという名の夜叉です。まさに、クヴェーラ王の、それなる閣僚です。

 

1643.(1439) 地上の保持者たるヴァルナという名の龍がいます。偉丈夫にして、清らかで、色艶と活力を具有した者です。〔夜叉は〕彼の息女たる娘を欲しています。彼女は、イランダティーという名の龍の少女です。

 

1644.(1440) 美しいくびれた胴ある愛しい彼女を因として、〔夜叉は〕わたしの死のために努めてきたのです。そして、まさしく、彼は、妻の保有者と成り、かつまた、わたしは許され、さらに、宝珠が得られたのです」〔と〕。

 

1645.(1441) 〔王が言った〕「まさに、わたし〔の宮殿〕の門には(※)、善き生まれの木がある(この国には賢者がいる)。智慧を幹とし、戒から作られる枝がある。そして、義(道理)において、さらに、法(真理)において、安立し、成熟し、牛を果とし、象や牛や馬たちに覆われている。

 

※ テキストには paddhāre とあるが、PTS版により padvāre と読む。

 

1646.(1442) 舞踏や歌詠や楽器〔の音〕が鳴り響くなか、人(夜叉)が、木を断ち切って、運び去った。〔まさに〕その、わたしたちのこの〔木〕が、自らの家に帰還したのだ。この木に、敬恭を為すのだ。

 

1647.(1443) 彼らが誰であれ、わたしとの縁によって歓悦〔の思い〕ある者たちは、まさしく、彼らの全てが、今日、〔歓悦の思いを〕明らかと為せ。諸々の熱烈なる貢物を為して、この木に、敬恭を為すのだ。

 

1648.(1444) 彼らが誰であれ、わたしの国土に存する結縛ある者たちは、まさしく、彼らの全てが、結縛から解き放たれよ。まさしく、すなわち、〔侍官が〕結縛から解き放たれた、そのとおりに、このように、これらの者たちを、結縛から解き放つのだ。

 

1649.(1445) このひと月のあいだ、鋤を外し、〔休息を〕為せ。婆羅門たちは、肉の飯を食物とせよ。酒を飲まない者たちと酒を嗜む者たちは、〔共に〕飲め──諸々の溢れ出る満杯の盃で。

 

1650.(1446) 大道では、常に呼び合え。そして、強き守りを、国土において施せ。すなわち、互いに他を悩ますことがないように、この木に、敬恭を為すのだ」〔と〕。

 

1651.(1447) 〔世尊は言った〕「そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、多くの、そして、食べ物を、さらに、飲み物を、賢者に運んだ。

 

1652.(1448) 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、多くの、そして、食べ物を、さらに、飲み物を、賢者に運んだ。

 

1653.(1449) 集いあつまった地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、多くの、そして、食べ物を、さらに、飲み物を、賢者に運んだ。

 

1654.(1450) 多くの人々が、清信した者として存した──賢者が帰還したのを見て。賢者が到着したとき、〔歓喜の〕布振りが転起した」〔と〕。ということで──

 

 ヴィドゥラ・ジャータカが、第九となる。

 

22. 1. 10. ヴェッサンタラ・ジャータカ(ヴェッサンタラ・本生物語547)

 

22. 1. 10. 1. 十の願い事の話

 

1655.(1685) 〔帝釈天が言った〕「プッサティーよ、優れた色艶と輝きある者よ、十種の願い事を願うのだ──全ての肢体が典雅なる者よ、地において、すなわち、あなたの意に愛しきことがあるなら」〔と〕。

 

1656.(1686) 〔プッサティーが尋ねた〕「天の王よ、あなたに、礼拝が存せ。どのような悪しき〔行為〕が、わたしによって為されたのですか。〔あなたは〕わたしを喜ばしき境位から死滅させます──風が、木を〔枯らす〕ように」〔と〕。

 

1657.(1687) 〔帝釈天が答えた〕「まさしく、そして、あなたによって、悪しき〔行為〕が為されたのではなく、さらに、わたしにとって、あなたが、愛しからざる者として存するのでもない。しかしながら、あなたの功徳が、完全に滅尽したのだ。それによって、わたしは、あなたに、このように説く。

 

1658.(1688) あなたの現前には、死が、変じ異なる状態が、有るであろう。わたしが献じる、これらの十の願い事を、〔あなたは〕納受しなさい」〔と〕。

 

1659.(1689) 〔プッサティーが言った〕「帝釈〔天〕よ、一切の生類のイッサラよ、もし、わたしに、願い事を与えてくれたのなら──あなたに、幸せ〔有れ〕──シヴィ王の住居地において、そこにおいて、〔わたしが〕存しますように。

 

1660.(1690) 黒き髪、黒き眉、かつまた、鹿のように黒い眼をした、名としては、プッサティーという名の者で、プリンダダよ、そこにおいて、また、〔わたしが〕存しますように。

 

1661.(1691) 物惜〔の思い〕なく、乞いに応じ、願い事を与える子(菩薩)を、〔シヴィ王が〕得ますように──敵の王たちに供養される者を、名誉ある者を、福徳ある者を。

 

1662.(1692) 〔子を〕保持するわたしの胎が、均整なる肢体のまま膨れ上がらずに〔存しますように〕。腹が、平坦に加工された弓のように、膨れ上がらずに存しますように。

 

1663.(1693) わたしの〔両の〕乳房が垂れ落ちませんように。ヴァーサヴァよ、諸々の白髪が存さずにあれ。身体に、塵が付着しませんように。さらに、また、殺戮されるべき者を解き放ちますように。

 

1664.(1694) 孔雀や白鷺が鳴き、美女たちの群れが満ち溢れるところに──傴僂やチェーラーパカ〔鳥〕たちがそぞろ行き、詩人や香料師が褒め称えるところに──

 

1665.(1695) 諸々の彩りあざやかな閂が音を立て、酒や肉〔を勧める声〕で目覚めるところに──そこにおいて、シヴィ王の愛しき王妃として、〔わたしが〕存しますように。あなたに、幸せ〔有れ〕」〔と〕。

 

1666.(1696) 〔帝釈天が言った〕「全ての肢体が美しく輝く者よ、すなわち、それらの、わたしによって与えられた十の願い事は、それらの願い事の全てを、シヴィ王の領土において、〔あなたは〕得るであろう。

 

1667.(1697) 〔世尊は言った〕「マガヴァントは、天の王たるスジャーの亭主は、この〔言葉〕を説いて、プッサティーに願い事を与えて、ヴァーサヴァは、〔彼女に〕随喜したのだった」〔と〕。

 

 〔以上が〕十の願い事の話ということになる。

 

22. 1. 10. 2. 雪山

 

1668.(1704) 〔婆羅門たちに、菩薩は尋ねた〕「脇毛や爪や体毛を長くし、歯には泥、頭には塵の者たちがいる。右腕を差し出して、婆羅門たちは、わたしに、何を乞い求めるのだ」〔と〕。

 

1669.(1705) 〔婆羅門たちが答えた〕「陛下よ、〔わたしたちは〕宝を乞い求めます。シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる〔宝〕を。最も優れた象を、〔わたしたちに〕施したまえ──轅の牙ある巨大なる〔象〕を」〔と〕。

 

1670.(1706) 〔菩薩は言った〕「それを、婆羅門たちが、わたしに乞い求めるなら、動揺することなく、〔わたしは〕施す──激情にして牙あるクンジャラ〔象〕を、王室の最上の象を」〔と〕。

 

1671.(1707) 〔世尊は言った〕「王は、施捨に卓越の意図ある者は、象の背から降りて、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者は、婆羅門たちに、布施を施した。

 

1672.(1708) そのとき、すなわち、恐るべきことが存した。そのとき、身の毛のよだつことが存した。巨象が施されたとき、地は等しく激動した。

 

1673.(1709) そのとき、すなわち、恐るべきことが存した。そのとき、身の毛のよだつことが存した。巨象が施されたとき、そのとき、城市は揺れ動いた。

 

1674.(1710) 都は、混乱きわまるものとして存した。そして、広大にして大いなる騒音が〔沸き起こった〕(都中が大騒ぎとなった)──シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる巨象が施されたとき。

 

1675.(1714) そして、高貴の者たちは、かつまた、王子たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは──

 

1676.(1715) そして、また、全ての町の者は、さらに、集いあつまったシヴィ〔国〕の者たちは──彼らは、象が連れて行かれるのを見て、王(菩薩の父)に知らせた」〔と〕。

 

1677.(1716) 〔人々が言った〕「陛下よ、あなたの子のヴェッサンタラ(菩薩)が、あなたの国土を砕破しつつあります。どうして、わたしたちの象を、国土が供養する象を、施すのでしょう。

 

1678.(1717) どうして、わたしたちのクンジャラ〔象〕を施すのでしょう。轅の牙ある巨大なる〔象〕を、全ての戦士たちの田畑(戦場)を知る〔象〕を、純白にして最上の象を──

 

1679.(1718) 黄の毛布に等しく覆われた〔象〕を、激情にして賊を蹂躙する〔象〕を、毛扇を有し牙ある〔象〕を、ケーラーサ(カイラーサ山)に等しき白の〔象〕を──

 

1680.(1719) 白の傘蓋を有し、座布団を有し、施術師を有し、象番を有し、王を運ぶ至高の乗物たる象を、婆羅門たちに施したのです。

 

1681.(1720) 彼が、食べ物を、そして、飲み物を、さらに、諸々の衣や臥坐具を施すなら、これは、まさに、布施として適切であり、これは、まさに、婆羅門に値するものです。

 

1682.(1721) この者は、あなたの系譜の王は、わたしたちのシヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者は、サンジャヤよ、〔あなたの〕子のヴェッサンタラは、どうして、象を分け与えるのでしょう。

 

1683.(1722) それで、もし、あなたが、シヴィ〔国〕の者たちの、この言葉を為さないなら、思うに、シヴィ〔国〕の者たちは、子と共に、あなたを、手のうちと為すでしょう(拘束し幽閉することになる)」〔と〕。

 

1684.(1723) 〔王が言った〕「むしろ、地方など、存するな。さらに、また、国土など、消えて無くなれ。わたしは、シヴィ〔国〕の者たちの言葉ゆえに、王子を、汚れなき者を、自らの国土から追放したくはない。まさに、わたしの、正嫡の子なのだ。

 

1685.(1724) むしろ、地方など、存するな。さらに、また、国土など、消えて無くなれ。わたしは、シヴィ〔国〕の者たちの言葉ゆえに、王子を、汚れなき者を、自らの国土から追放したくはない。まさに、わたしの、実の子なのだ。

 

1686.(1725) そして、わたしは、彼を裏切りたくはない。まさに、彼は、聖なる戒と掟ある者なのだ。たとえ、わたしに名声なきが存するとして、かつまた、多くの悪を生むとして、どうして、子のヴェッサンタラを、〔わたしたちが〕刃によって殺害するというのだろう」〔と〕。

 

1687.(1726) 〔人々が言った〕「彼を、棒によって、刃によって、〔殺害しては〕いけません。なぜなら、彼は、結縛するに値しないからです。そして、彼を、国土から追放してください。〔彼は〕ヴァンカ山に住するのです」〔と〕。

 

1688.(1727) 〔王が言った〕「もし、これが、シヴィ〔国〕の者たちの欲するところであるなら、〔わたしたちは、彼らの〕欲するところを除くわけにはいかない。彼は、この夜を〔自らの家に〕住し、そして、諸々の欲望〔の対象〕を遍く享受せよ。

 

1689.(1728) そののち、夜の明け方に、日の出に向かい、シヴィ〔国〕の者たちは、一団と成って、彼を、国土から追放するのだ。

 

1690.(1729) 侍官よ、急ぎ、出起せよ、ヴェッサンタラのもとに赴いて、〔彼に〕説け。『陛下よ、シヴィ〔国〕の者たちは、あなたに忿激しています──さらに、集いあつまった町の者たちも。

 

1691.(1730) そして、高貴の者たちは、かつまた、王子たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、そして、また、全ての町の者は、さらに、集いあつまったシヴィ〔国〕の者たちは──

 

1692.(1731) こののち、夜の明け方に、日の出に向かい、シヴィ〔国〕の者たちは、一団と成って、あなたを、国土から追放します』」〔と〕。

 

1693.(1732) 〔世尊は言った〕「彼は、侍官は、まさしく、急ぎ、シヴィ王によって、〔使者として〕送られた。手に装飾品を付け、美しい衣で、栴檀を施し──

 

1694.(1733) 水で頭を洗い、宝珠の耳飾を付け、彼は、ヴェッサンタラの住居地がある喜ばしき都へと近しく赴いた。

 

1695.(1734) そこにおいて、彼は、王子を見た──自らの都において、喜び楽しんでいる〔王子〕を──家臣たちに取り囲まれ、三十三〔天の神々〕たちのヴァーサヴァのような〔王子〕を。

 

1696.(1735) 彼は、侍官は、そこにおいて、赴いて〔そののち〕、急ぎ、ヴェッサンタラに説いた」〔と〕。〔侍官が言った〕「車上の雄牛よ、苦しきことをあなたにお知らせしますが、わたしにお怒りになってはいけません」〔と〕。

 

1697.(1736) 〔世尊は言った〕「彼は、侍官は、泣きながら敬拝して、王に説いた」〔と〕。〔侍官が言った〕「大王よ、わたしにとって、〔あなたは〕主人として、一切の欲望の味を運び来る方として、存しておられます。

 

1698.(1737) 苦しきことをあなたにお知らせしますが、そこにおいて、〔まずは〕わたしを落ち着かせたまえ。陛下よ、シヴィ〔国〕の者たちは、あなたに忿激しています──さらに、集いあつまった町の者たちも。

 

1699.(1738) そして、高貴の者たちは、かつまた、王子たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、そして、また、全ての町の者は、さらに、集いあつまったシヴィ〔国〕の者たちは──

 

1700.(1739) こののち、夜の明け方に、日の出に向かい、シヴィ〔国〕の者たちは、一団と成って、あなたを、国土から追放します」〔と〕。

 

1701.(1740) 〔菩薩は尋ねた〕「何について、シヴィ〔国〕の者たちは、わたしに忿激しているのだ。わたしは、〔自己の〕悪行を見ない。侍官よ、それを、わたしに告げ知らせよ。何ゆえに、わたしを追放するのだ」〔と〕。

 

1702.(1741) 〔侍官が答えた〕「そして、高貴の者たちは、かつまた、王子たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、象の布施によって憤慨しています。それゆえに、あなたを追放するのです」〔と〕。

 

1703.(1742) 〔菩薩は言った〕「心臓を、眼をもまた、わたしは施すであろう。わたしにとって、外のものである財産が、何だというのだ。あるいは、金貨が、あるいは、黄金が、真珠が、瑠璃が、宝珠が、〔何だというのだ〕。

 

1704.(1743) あるいは、右腕をもまた、わたしは、乞い求める者たちがやってきたのを見て、動揺することなく、施すであろう。わたしの意は、布施を喜ぶ。

 

1705.(1744) シヴィ〔国〕の者たちは、全ての者たちが、欲するままに、わたしを追放せよ、あるいは、〔わたしを〕殺せ。〔わたしが〕布施から離れることは、まさしく、ないであろう。欲するままに、〔わたしを〕七様に引き裂け」〔と〕。

 

1706.(1745) 〔侍官が言った〕「シヴィ〔国〕の者たちは、あなたに、このように言っています──さらに、集いあつまった町の者たちも。『コンティマーラー〔川〕の岸をとおり、アーランジャラ山に向かい、善き掟の者は、追放された者たちが行くところに、そこへと赴きたまえ』」〔と〕。

 

1707.(1746) 〔菩薩は言った〕「〔まさに〕その、わたしは、〔世を〕汚す者たちが赴くところに、そこへと赴くであろう。わたしに、〔さらなる〕夜と昼を許せ。わたしが、〔さらなる〕布施を施す、それまでのあいだ」〔と〕。

 

1708.(1747) 〔世尊は言った〕「王は、彼女に、全ての肢体が美しく輝くマッディーに、語りかけた」〔と〕。〔菩薩は言った〕「それが何であれ、わたしによって、あなたに与えられたもので、財産として、さらに、穀物として、見出されるなら──

 

1709.(1748) あるいは、金貨であれ、あるいは、黄金であれ、多くの真珠と瑠璃であれ、その全てを、〔あなたは〕安置するのだ──さらに、すなわち、あなたの父祖の財産も。

 

1710.(1749) 〔世尊は言った〕「王妃は、全ての肢体が美しく輝くマッディーは、彼に説いた」〔と〕。〔マッディーが尋ねた〕「陛下よ、どこに安置するのですか。〔問いを〕尋ねられた者として、それを、わたしに告げ知らせてください」〔と〕。

 

1711.(1750) 〔菩薩は答えた〕「マッディーよ、戒ある者たちにたいし、分のままに、布施を施すのだ。全ての命ある者たちにとって、立脚するものとして、布施より他のものは、まさに、存在せず(布施は輪廻する有情にとって最高の依り所となる)。

 

1712.(1751) マッディーよ、子たちを、姑を、さらに、舅を、愛しむがよい。そして、すなわち、『夫である』〔と〕、あなたが思う者がいるなら、彼に、恭しく奉仕するがよい。

 

1713.(1752) もし、『夫である』〔と〕、あなたが思う者がいないなら、わたしとあなたの離住ののち、他の夫を遍く探し求めよ。わたしと別れて、痩せ細ってはならない。

 

1714.(1753) まさに、猛々しい獣たちが群れつどう、おぞましき林に、わたしは赴く。密林のなか、独りあるわたしには、生命の憂慮がある」〔と〕。

 

1715.(1754) 〔世尊は言った〕「王妃は、全ての肢体が美しく輝くマッディーは、彼に説いた」〔と〕。〔マッディーが言った〕「いったい、どうして、諸々の地なきことを話すのですか。まさに、悪しきことを、〔あなたは〕語ります。

 

1716.(1755) 大王よ、これは、法(正義)ではありません。すなわち、あなたが、独りある者となり、〔林へと〕赴くのは。士族よ、わたしもまた、〔あなたが〕赴くところに、そこへと赴きます。

 

1717.(1756) あるいは、あなたと共に死があり、あるいは、あなたと別れて生があります。その死こそは、より勝っています。すなわち、もし、あなたと別れて生きることになるなら。

 

1718.(1757) 火を燃やして、一なる光が定められたなら、そこにおいて、わたしの死は、より勝っています。すなわち、もし、あなたと別れて生きることになるなら。

 

1719.(1758) あたかも、林にある牙ある象に、雌象が従い行くように──諸々の山の難所において、諸々の平坦なところにおいて、さらに、諸々の平坦ならざるところにおいて、征し行く者に〔従い行くように〕──

 

1720.(1759) このように、あなたに従い行きます──子たちを携えて、そのあとから。あなたにとって、扶養し易き者と成ります。あなたにとって、扶養し難き者と成りません。

 

1721.(1760) これらの童子たちを見ていると、美妙にして愛しき話し手たちを〔見ていると〕、林の茂みに坐す者たちを〔見ていると〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1722.(1761) これらの童子たちを見ていると、美妙にして愛しき話し手たちを〔見ていると〕、林の茂みで遊び戯れている者たちを〔見ていると〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1723.(1762) これらの童子たちを見ていると、美妙にして愛しき話し手たちを〔見ていると〕、喜ばしい庵所のなかで、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1724.(1763) これらの童子たちを見ていると、美妙にして愛しき話し手たちを〔見ていると〕、喜ばしい庵所のなかで遊び戯れている者たちを〔見ていると〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1725.(1764) これらの童子たちを見ていると、花飾を〔身に〕付け〔装いを〕十分に作り為した者たちを〔見ていると〕、喜ばしい庵所のなかで、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1726.(1765) これらの童子たちを見ていると、花飾を〔身に〕付け〔装いを〕十分に作り為した者たちを〔見ていると〕、喜ばしい庵所のなかで遊び戯れている者たちを〔見ていると〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1727.(1766) すなわち、童子たちが花飾を〔身に〕付け、踊っているのを見るとき、喜ばしい庵所のなかで、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1728.(1767) すなわち、童子たちが花飾を〔身に〕付け、踊っているのを見るとき、喜ばしい庵所のなかで遊び戯れている者たちを〔見るとき〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1729.(1768) すなわち、六十歳のクンジャラ象を見るとき、独りで林のなかを歩んでいる〔象〕を〔見るとき〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1730.(1769) すなわち、六十歳のクンジャラ象を見るとき、夕に朝に渡り歩いている〔象〕を〔見るとき〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1731.(1770) すなわち、象たちの群れの集団の先頭を行く、六十歳のクンジャラ象が、威嚇の雄叫びを為すとき、咆哮している彼の、その〔雄叫び〕を聞いて、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1732.(1771) すなわち、欲するものを与える〔あなた〕が、両側に〔開けた〕林の空地を見るとき、猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1733.(1772) 夕刻に、五つの花模様ある鹿がやってきたのを見て、さらに、妖精たちが踊っているのを〔見て〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1734.(1773) すなわち、流れ行くシンドゥー〔川〕の音を聞くとき、さらに、妖精たちの歌を〔聞くとき〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1735.(1774) すなわち、山窟を歩む梟の鳴いている声を聞くとき、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1736.(1775) すなわち、獅子や虎の、さらに、犀や野牛の、林のなかにいる猛獣たちの〔鳴き声を〕聞くとき、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1737.(1776) すなわち、雌孔雀たちに取り囲まれた、〔山の〕頂きに坐している孔雀を〔見るとき〕、孔雀が踊っているのを見るとき、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1738.(1777) すなわち、雌孔雀たちに取り囲まれた、彩りあざやかな翼ある鳥を〔見るとき〕、孔雀が踊っているのを見るとき、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1739.(1778) すなわち、雌孔雀たちに取り囲まれた、青首の冠毛ある〔鳥〕を〔見るとき〕、孔雀が踊っているのを見るとき、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1740.(1779) すなわち、冬になり、花ひらいた木々を見るとき、芳香を等しく香りただよわせている〔木々〕を〔見るとき〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1741.(1780) すなわち、冬の月になり、緑の地を見るとき、インダゴーパカ〔草〕に等しく覆われた〔地〕を〔見るとき〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1742.(1781) すなわち、冬になり、花ひらいた木々を見るとき、クタジャ〔樹〕を、さらに、ビンバジャーラ〔樹〕を、花ひらいたロッダ〔樹〕やパドゥマカ〔樹〕を、芳香を等しく香りただよわせている〔木々〕を〔見るとき〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう。

 

1743.(1782) すなわち、冬の月になり、花ひらいた林を見るとき、さらに、諸々の花もつ蓮華を〔見るとき〕、〔もはや、あなたは〕王権のことを思い浮かべることはないでしょう」〔と〕。

 

 〔以上が〕雪山ということになる。

 

22. 1. 10. 3. 布施の章

 

1744.(1783) 〔世尊は言った〕「子の、さらに、嫁の、彼らの泣き叫びを聞いて、福徳ある王妃(プッサティー)は、悲しみのままに嘆いた」〔と〕。

 

1745.(1784) 〔プッサティーが言った〕「わたしとっては、毒を喰らうほうが、より勝っています。わたしは、深淵から落ちましょう。わたしは、縄で縛られて死にましょう。何ゆえに、〔人々は〕子のヴェッサンタラを、汚れなき者を、追放するのですか。

 

1746.(1785) 読誦者を、施主を、乞いに応じる者を、物惜〔の思い〕なき者を、敵の王たちに供養される者を、名誉ある者を、福徳ある者を、何ゆえに、〔人々は〕子のヴェッサンタラを、汚れなき者を、追放するのですか。

 

1747.(1786) 母と父を養う人を、家における目上の者を敬う者を、何ゆえに、〔人々は〕子のヴェッサンタラを、汚れなき者を、追放するのですか。

 

1748.(1787) 王にとって益ある者を、妃にとって益ある者を、親族たちにとって、友人たちにとって、益ある者を、全ての国土にとって益ある者を、何ゆえに、〔人々は〕子のヴェッサンタラを、汚れなき者を、追放するのですか。

 

1749.(1788) 蜜蜂たちが逃げ去ったかのように、地に落ちた諸々のアンバ〔の果〕のように、このように、あなたの国土は成るでしょう。〔人々は〕汚れなき者を追放します。

 

1750.(1789) 水なき湖にいる翼を失った白鳥のように、家臣たちに捨てられ、王は、独り、衰え滅びます。

 

1751.(1790) 大王よ、それを、あなたに説きます。義(道理)が、あなたを過ぎ行くことがあってはなりません。シヴィ〔国〕の者たちの言葉ゆえに、彼を、汚れなき者を、追放してはいけません」〔と〕。

 

1752.(1791) 〔王が言った〕「〔わたしは〕法(正義)への敬恭を為す──シヴィ〔国〕の旗(菩薩)を取り除きつつも。〔わたしは〕自らの子を追放する──まさに、わたしにとって、命よりも、より愛しき者なるも」〔と〕。

 

1753.(1792) 〔プッサティーが言った〕「過去において、彼には、花ひらいたカニカーラ〔樹〕のような諸々の旗の先端があり、行きつつある〔彼〕に従い行くも、今日、彼は、まさしく、独り、赴きます。

 

1754.(1793) 過去において、彼には、カニカーラ〔樹〕の林のような諸々の旗の先端があり、行きつつある〔彼〕に従い行くも、今日、彼は、まさしく、独り、赴きます。

 

1755.(1794) 過去において、彼には、花ひらいたカニカーラ〔樹〕のような諸々軍隊があり、行きつつある〔彼〕に従い行くも、今日、彼は、まさしく、独り、赴きます。

 

1756.(1795) 過去において、彼には、カニカーラ〔樹〕の林のような諸々の軍隊があり、行きつつある〔彼〕に従い行くも、今日、彼は、まさしく、独り、赴きます。

 

1757.(1796) 黄金虫の色艶と輝きある、ガンダーラ〔産〕の諸々の黄の毛布が、行きつつある〔彼〕に従い行くも、今日、彼は、まさしく、独り、赴きます。

 

1758.(1797) 過去において、彼は、象によって、駕篭によって、さらに、車によって、行くも、今日、〔まさに〕その、ヴェッサンタラが、王が、どのように、徒歩になり、赴くのでしょう。

 

1759.(1798) どのように、栴檀を手足に塗った者が、舞踏や歌詠〔の音〕で目覚める者が、刺々しい皮衣を、そして、斧を、さらに、カーリの天秤棒を、運ぶのでしょう。

 

1760.(1799) 何ゆえに、〔彼らが〕黄褐色〔の衣〕の者たちとなり(※)、そして、諸々の皮衣を運ばないというのでしょう。〔彼が〕密林に入りつつあるなら、何ゆえに、〔彼らが〕樹皮〔の衣〕に結び縛られないというのでしょう。

 

※ テキストには kāsāva とあるが、PTS版により kāsāvā と読む。

 

1761.(1800) いったい、どのように、王によって追放された人たちが、樹皮〔の衣〕を〔身に〕付けるのでしょう。どのように、マッディーが、草で作られる樹皮〔の衣〕をまとうのでしょう。

 

1762.(1801) そして、諸々のカーシ〔産の衣〕を、さらに、諸々の亜麻の布地を、〔身に〕付けて〔そののち〕、諸々の草の樹皮〔の衣〕を〔身に〕付ける者となり、どのように、マッディーが為すのでしょう。

 

1763.(1802) 諸々の輿によって、駕篭によって、さらに、車によって、〔各地に〕遍行して〔そののち〕、今日、〔まさに〕その、麗しき肢体ある者が、どのように、徒歩になり、道を赴くのでしょう。

 

1764.(1803) 彼女には、柔らかい手の平をした〔両の〕手があり、かつまた、安楽に生長した〔両の〕足があるのに、今日、〔まさに〕その、麗しき肢体ある者が、どのように、徒歩になり、道を赴くのでしょう。

 

1765.(1804) 彼女には、柔らかい足の裏をした〔両の〕足があり、かつまた、安楽に生長した〔両の〕足があり、金の履物で締め付けられているかのように赴くのに、今日、〔まさに〕その、麗しき肢体ある者が、どのように、徒歩になり、道を赴くのでしょう。

 

1766.(1805) 彼女は、まさに、花飾をつけ、数千の婦女たちの先頭を赴くのに、今日、〔まさに〕その、麗しき肢体ある者が、どのように、独り、林に赴くのでしょう。

 

1767.(1806) かつて、彼女は、まさに、野狐の〔鳴き声を〕聞いて、まじまじと恐れわななくのに、今日、〔まさに〕その、麗しき肢体ある者が、どのように、恐怖する者でありながら、林に赴くのでしょう。

 

1768.(1807) 彼女は、まさに、インダと姓を共にする梟が鳴き声をあげると、鳴いている〔梟〕の〔声を〕聞いて恐怖し、神憑かりのように動揺するのに、今日、〔まさに〕その、麗しき肢体ある者が、どのように、恐怖する者でありながら、林に赴くのでしょう。

 

1769.(1808) 子を殺された雌鳥が、空の巣を見て〔悲しむ〕ように、空のこの都にやってきて、長きにわたり、〔わたしは〕苦しみに焼かれるでしょう。

 

1770.(1809) 子を殺された雌鳥が、空の巣を見て〔悲しむ〕ように、愛しき子たちと会えずにいる〔わたし〕は、痩せ細り青ざめた者と成るでしょう。

 

1771.(1810) 子を殺された雌鳥が、空の巣を見て〔悲しむ〕ように、愛しき子たちと会えずにいる〔わたし〕は、そこかしこに走り回るでしょう。

 

1772.(1811) 雛を殺された雌の鶚が、空の巣を見て〔悲しむ〕ように、空のこの都にやってきて、長きにわたり、〔わたしは〕苦しみに焼かれるでしょう。

 

1773.(1812) 雛を殺された雌の鶚が、空の巣を見て〔悲しむ〕ように、愛しき子たちと会えずにいる〔わたし〕は、痩せ細り青ざめた者と成るでしょう。

 

1774.(1813) 雛を殺された雌の鶚が、空の巣を見て〔悲しむ〕ように、愛しき子たちと会えずにいる〔わたし〕は、そこかしこに走り回るでしょう。

 

1775.(1814) あろうことか、〔まさに〕その、水なき湖にいる雌の鴛鴦のように、空のこの都にやってきて、長きにわたり、〔わたしは〕苦しみに焼かれるでしょう。

 

1776.(1815) あろうことか、〔まさに〕その、水なき湖にいる雌の鴛鴦のように、愛しき子たちと会えずにいる〔わたし〕は、痩せ細り青ざめた者と成るでしょう。

 

1777.(1816) あろうことか、〔まさに〕その、水なき湖にいる雌の鴛鴦のように、愛しき子たちと会えずにいる〔わたし〕は、そこかしこに走り回るでしょう。

 

1778.(1817) このように、わたしが悲嘆しているのに、王は、子を、汚れなき者を、国土から林に追放します。思うに、〔わたしは〕生命を捨棄するでしょう」〔と〕。

 

1779.(1818) 〔世尊は言った〕「彼女の泣き叫びを聞いて、内宮にいる全ての者たちの多くは、集いあつまったシヴィ〔国〕の少女たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ。

 

1780.(1819) 風で押し倒され、倒れ落ちたサーラ〔樹の木々〕のように、そして、子たちは、さらに、妻たちは、〔地に〕臥す──ヴェッサンタラの住居地において。

 

1781. そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──ヴェッサンタラの住居地において。

 

1782. 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──ヴェッサンタラの住居地において。

 

1783.(1820) そののち、夜の明け方に、日の出に向かい、そこで、ヴェッサンタラは、王は、布施を施すべく近しく赴いた」〔と〕。

 

1784.(1821) 〔菩薩は言った〕「衣を欲する者たちには、諸々の衣を〔施せ〕。酒飲みたちには、酒を施せ。食料を義(目的)とする者たちには、食料を〔施せ〕。まさしく、正しく授与せよ。

 

1785.(1822) そして、何であれ、乞食者たちを、ここにやってきた者たちを、悩ましてはならない。食べ物と飲み物によって満足させよ。歓迎された者たちとして、〔彼らは、ここから〕去り行くのだ」〔と〕。

 

1786. 〔世尊は言った〕「そこで、ここにおいて、騒がしく恐ろしい大いなる音声が転起する」〔と〕。〔乞食者たち言った〕「布施によって(布施を因として)、〔シヴィ国の者たちは〕あなたを追い出すが、ふたたび、あなたは、布施を施しました」〔と〕。

 

1787.(1823) 〔世尊は言った〕「彼らは、乞食者たちは、まさに、逆上し疲弊したかのように、等しく倒れ落ちる──大王が、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出立するにおいて」〔と〕。

 

1788.(1824) 〔乞食者たちが言った〕「ああ、まさに、〔シヴィ国の者たちは〕木を、種々なる果を保持する木を、断ち切った。すなわち、ヴェッサンタラを、汚れなき者を、国土から追放するとは。

 

1789.(1825) ああ、まさに、〔彼らは〕木を、一切の欲望〔の対象〕を与えてくれる木を、断ち切った。すなわち、ヴェッサンタラを、汚れなき者を、国土から追放するとは。

 

1790.(1826) ああ、まさに、〔彼らは〕木を、一切の欲望の味を運び来る木を、断ち切った。すなわち、ヴェッサンタラを、汚れなき者を、国土から追放するとは」〔と〕。

 

1791.(1827) 〔世尊は言った〕「すなわち、年長者たちは、かつまた、すなわち、年少者たちは、さらに、すなわち、中年の人たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──大王が、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出立するにおいて。

 

1792.(1828) 巫女たちは、宦官たちは、さらに、王の宮女たちは、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ──大王が、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出立するにおいて。

 

1793.(1829) すなわち、その城市のうちに有った、女たちもまた、そこにおいて泣き叫んだ──大王が、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出立するにおいて。

 

1794.(1830) すなわち、婆羅門たちは、さらに、すなわち、沙門たちも、あるいは、また、他の乞食者たちも、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んだ」〔と〕。〔人々が言った〕「法(正義)ならざることだ。まさに、ああ、かくのごとく。

 

1795.(1831) すなわち、ヴェッサンタラが、王が、自らの都において祭祀をしながら(布施をしながら)、シヴィ〔国〕の者たちの言葉を義(道理)とする者によって、自らの国土から放り出されるとは。

 

1796.(1832) 七百の象を施して──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られ、金の飾紐をつけ金の鞍かけを装着する象たちを〔施して〕──

 

1797.(1833) 槍と鉤を手にする将校たちの乗る〔七百の象〕を〔施して〕──〔まさに〕この、ヴェッサンタラが、王が、自らの国土から放り出されるとは。

 

1798.(1834) 七百の馬を施して──全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られ、まさしく、生まれながらの良馬たる、シンダヴァの駿馬(シンドゥ産の良馬)たちを〔施して〕──

 

1799.(1835) 短剣と弓を保持する将校たちの乗る〔七百の馬〕を〔施して〕──〔まさに〕この、ヴェッサンタラが、王が、自らの国土から放り出されるとは。

 

1800.(1836) 七百の車を施して──武装し旗を掲げ、豹〔の皮〕が〔飾られ〕、さらに、また、虎〔の皮〕が〔飾られ〕、全てが〔装いを〕十分に作り為し〔美しく〕飾られた〔七百の車〕を〔施して〕──

 

1801.(1837) 弓を手にし武装する将校たちの乗る〔七百の車〕を〔施して〕──〔まさに〕この、ヴェッサンタラが、王が、自らの国土から放り出されるとは。

 

1802.(1838) 七百の婦女を施して──車に一者一者が立ち、金の首飾りを装着し、黄金によって〔装いを〕十分に作り為した〔七百の婦女〕を〔施して〕──

 

1803.(1839) 黄金色に〔装いを〕十分に作り為し、黄金色の衣をまとい、黄金色の装飾品で飾られた〔七百の婦女〕を〔施して〕、濃い睫毛ある明朗なる〔七百の婦女〕を〔施して〕、善き表象ある体躯の均整なる〔七百の婦女〕を〔施して〕──〔まさに〕この、ヴェッサンタラが、王が、自らの国土から放り出されるとは。

 

1804.(1840) 七百の乳牛を施して──全てが赤銅の容器をもつ〔七百の乳牛〕を〔施して〕──〔まさに〕この、ヴェッサンタラが、王が、自らの国土から放り出されるとは。

 

1805.(1841) 七百の奴婢を施して、さらに、七百の奴隷を〔施して〕──〔まさに〕この、ヴェッサンタラが、王が、自らの国土から放り出されるとは。

 

1806.(1842) 諸々の象と馬と車を施して、さらに、〔装いを〕十分に作り為した女たちを〔施して〕──〔まさに〕この、ヴェッサンタラが、王が、自らの国土から放り出されるとは」〔と〕。

 

1807.(1843) 〔世尊は言った〕「そのとき、すなわち、恐るべきことが存した。そのとき、身の毛のよだつことが存した。大いなる布施が施されたとき、地は等しく激動した。

 

1808.(1844) そのとき、すなわち、恐るべきことが存した。そのとき、身の毛のよだつことが存した。すなわち、合掌を為した王が、自らの国土から放り出されると──

 

1809. そこで、ここにおいて、騒がしく恐ろしい大いなる音声が転起する」〔と〕。〔乞食者たちが言った〕「布施によって(布施を因として)、〔シヴィ国の者たちは〕あなたを追い出すが、ふたたび、あなたは、布施を施しました」〔と〕。

 

1810. 〔世尊は言った〕「彼らは、乞食者たちは、まさに、逆上し、疲弊したかのように、等しく倒れ落ちる──大王が、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出立するにおいて。

 

1811.(1845) 〔ヴェッサンタラは〕王に語りかけた──サンジャヤに、法(正義)ある優れた者に」〔と〕。〔父に、菩薩は言った〕「陛下よ、〔あなたは〕わたしを放逐します。〔わたしは〕ヴァンカ山に赴きます。

 

1812.(1846) 大王よ、まさに、彼らが誰であれ、〔かつて世に〕有った者たちは、さらに、すなわち、〔これから世に〕有るであろう者たちも、まさしく、諸々の欲望〔の対象〕に不満ある者たちは、夜魔の王国に赴きます。

 

1813.(1847) 〔まさに〕その、わたしは、自らの〔都〕において、自らの都において祭祀をしながら、〔人々を〕苛みました(布施をして怨みを買った)。シヴィ〔国〕の者たちの言葉を義(道理)とする者によって、自らの国土から放り出されるのです。

 

1814.(1848) その悩苦を受けましょう。猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、犀や豹が慣れ親しむ〔林〕のなかで、わたしは、諸々の功徳を作り為します。あなたたちは、〔欲望の〕汚泥に沈むとして」〔と〕。

 

1815.(1849) 〔母に、菩薩は言った〕「母よ、わたしをお許しください。家を出ることは、わたしにとって好ましくあります。〔まさに〕その、わたしは、自らの都において祭祀をしながら、自らの〔都〕において〔人々を〕苛みました。シヴィ〔国〕の者たちの言葉を義(道理)とする者によって、自らの国土から放り出されるのです。

 

1816.(1850) その悩苦を受けましょう。猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、犀や豹が慣れ親しむ〔林〕のなかで、わたしは、諸々の功徳を作り為します。あなたたちは、〔欲望の〕汚泥に沈むとして」〔と〕。

 

1817.(1851) 〔プッサティーが言った〕「子よ、あなたを許します。家を出ることが、あなたに等しく実現せよ。しかしながら、この美しきマッディーは、善き表象ある体躯の均整なる者は、子たちと共に、〔ここで〕暮らすのです。林のなかで、何を為すのでしょう」〔と〕。

 

1818.(1852) 〔菩薩は言った〕「わたしは、欲することなき者たちを、たとえ、奴婢であれ、林に連れて行くことはできません。それで、もし、〔彼女が〕求めるなら、従い行けばよく、それで、もし、〔彼女が〕求めないなら、〔ここで〕暮らせばよいのです」〔と〕。

 

1819.(1853) 〔世尊は言った〕「そののち、大王は、嫁に乞い求め始めた」〔と〕。〔王が言った〕「栴檀〔の塗布〕を励行する者よ、塵や埃を〔身に〕保ってはならない。

 

1820.(1854) 諸々のカーシ〔産の衣〕を〔身に〕付けて〔そののち〕、草の樹皮〔の衣〕を〔身に〕付けてはならない。苦痛なるは、林に住すること。〔美しき〕特相ある者よ、まさに、あなたは、赴いてはならない」〔と〕。

 

1821.(1855) 〔世尊は言った〕「王妃は、全ての肢体が美しく輝くマッディーは、彼に説いた」〔と〕。〔マッディーが言った〕「わたしは、その安楽を求めません。わたしにとって、その〔安楽〕が、ヴェッサンタラなしのものであるなら」〔と〕。

 

1822.(1856) 〔世尊は言った〕「大王は、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者は、彼女に説いた」〔と〕。〔王が言った〕「マッディーよ、さあ、こころして聞きなさい。林には、すなわち、諸々の耐え難きことが有る。

 

1823.(1857) 多くの昆虫が、そして、蟋蟀たちが、蚊たちが、蜜蜂たちがいる。彼らもまた、おまえを、そこにおいて害するであろう。それは、おまえにとって、さらなる苦痛として存するであろう。

 

1824.(1858) 見よ──他の諸々の熱苦を、川に慣れ親しむものたちを。アジャガラという名の蛇たちがいる。彼らは、毒なくも、大いなる力がある。

 

1825.(1859) 彼らは、人間を、あるいは、また、獣を、さてまた、近くにやってきたなら、諸々の蜷局で取り巻いて、自己の支配に導き入れる。

 

1826.(1860) 他にもまた、黒い剛毛をした、熊という名の獰猛な獣たちがいる。彼らに見つかった人は、木に登っても解き放たれない。

 

1827.(1861) 〔両の〕角を相打ち、鋭い先端を激しく打つ、水牛たちがいる。ソートゥンバラ川に向かい、ここにおいて、〔彼らは〕渡り歩く。

 

1828.(1862) 獣たちの群れを見て、林を行き来している牛を〔見て〕、子牛にたいし貪求ある乳牛のように、マッディーよ、どのように為すというのだ。

 

1829.(1863) 木々の先端を飛び交う、おぞましき猿たちを見て、マッディーよ、田畑を知らぬおまえには、大いなる恐怖が有るであろう。

 

1830.(1864) かつて、〔まさに〕その、おまえは、野狐の〔鳴き声を〕聞いて、まじまじと恐れわなないたが、〔まさに〕その、おまえが、ヴァンカ〔山〕に至り得たとして、マッディーよ、どのように為すというのだ。

 

1831.(1865) 時が立ち行き、日中になり、鳥たちが群れ集まったなら、密林は、まさしく、騒ぎ立てるのだ。そこにおいて、赴くことを、どうして、〔おまえは〕求めるのだ」〔と〕。

 

1832.(1866) 〔世尊は言った〕「王妃は、全ての肢体が美しく輝くマッディーは、彼に説いた」〔と〕。〔マッディーが言った〕「すなわち、これらの林のなかの恐怖を、〔あなたは〕わたしに告げ知らせてくれました。〔それらの〕全てを、〔わたしは〕征服するでしょう。車上の雄牛よ、まさしく、〔わたしは〕赴くでしょう。

 

1833.(1867) カーサ〔草〕を、クサ〔草〕を、ポータキラ〔草〕を、ウシーラ〔草〕を、ムンジャ〔草〕とパッバジャ〔草〕を、〔わたしは〕胸をもって除け行くでしょう。彼の邪魔には成りません。

 

1834.(1868) まさに、多くの行ないによって、少女は、亭主を見出します──腹を引き締めることによって、さらに、〔身体を〕牛の顎の骨〔で叩くこと〕や帯〔で引き締めること〕によって──

 

1835.(1869) 祭火の世話によって、さらに、〔沐浴し〕水から浮かび上がることによって。世において辛辣なるは、寡婦なること。車上の雄牛よ、まさしく、〔わたしは〕赴くでしょう。

 

1836.(1870) たとえ、その〔寡婦〕の、残り物でさえも食べることに至り得ない者として〔世に〕有る、〔まさに〕その〔男〕が、彼女の手を掴んで、欲することなき者を引き回します。世において辛辣なるは、寡婦なること。車上の雄牛よ、まさしく、〔わたしは〕赴くでしょう。

 

1837.(1871) 髪を掴み投げ上げたり、さらに、地に投げ捨てたり、そして、少なからざる多くの苦痛を与えて、彼女に襲い掛かります。世において辛辣なるは、寡婦なること。車上の雄牛よ、まさしく、〔わたしは〕赴くでしょう。

 

1838.(1872) 白き肌の寡婦の子たちが、〔自らを〕幸運と思量し、〔金を、彼女に〕与えて、烏たちが梟を〔引き回す〕ように、欲することなき者を引き回します。世において辛辣なるは、寡婦なること。車上の雄牛よ、まさしく、〔わたしは〕赴くでしょう。

 

1839.(1873) たとえ、赤銅に輝き、興隆する親族の家に住しながらも、兄弟たちから、友人たちからもまた、責め咎め〔の言葉〕を得ずにいることは、まさしく、ありません。世において辛辣なるは、寡婦なること。車上の雄牛よ、まさしく、〔わたしは〕赴くでしょう。

 

1840.(1874) 裸なるは、水なき川です。裸なるは、王なき国土です。たとえ、彼女に、十者の兄弟がいるとして、寡婦なる婦女もまた、裸なのです。世において辛辣なるは、寡婦なること。車上の雄牛よ、まさしく、〔わたしは〕赴くでしょう。

 

1841.(1875) 旗は、車の標識です。煙は、火の標識です。王は、国土の標識です。夫は、婦女の標識です。世において辛辣なるは、寡婦なること。車上の雄牛よ、まさしく、〔わたしは〕赴くでしょう。

 

1842.(1876) すなわち、〔夫が〕貧しくあるなら貧しく、〔夫が〕富めるなら富む、名誉ある〔妻〕を、彼女を、まさに、天〔の神々〕たちは賞賛します。なぜなら、彼女は、為し難きことを為すからです。

 

1843.(1877) 〔わたしは〕常に黄褐色〔の衣〕を着ける者となり、主人に付き従うでしょう。たとえ、地において沈むことなくあるも、婦女にとって辛辣なるは、寡婦なること。

 

1844.(1878) たとえ、海を極限とし多くの富を保持する大地をも、種々なる宝に遍く満ちる〔大地〕をも、ヴェッサンタラなくして、〔わたしは〕求めません。

 

1845.(1879) いったい、どうして、彼女たちに、心臓があるというのでしょう。まさに、極めて粗野なる婦女たちである、彼女たちは、主人が苦しんでいるときに、自己の安楽を求めます。

 

1846.(1880) 大王が、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出立するにおいて、わたしは、彼に付き従うでしょう。なぜなら、わたしにとって、一切の欲望〔の対象〕を与えてくれる者であるからです」〔と〕。

 

1847.(1881) 〔世尊は言った〕「大王は、彼女に、全ての肢体が美しく輝くマッディーに、説いた」〔と〕。〔王が言った〕「おまえのこれらの子たちは、年少の者たちである──ジャーリは、かつまた、カンハージナーは、両者ともに。〔美しき〕特相ある者よ、〔彼らを〕置いて赴きなさい。わたしたちが、彼らを養育しよう」〔と〕。

 

1848.(1882) 〔世尊は言った〕「王妃は、全ての肢体が美しく輝くマッディーは、彼に説いた」〔と〕。〔マッディーが言った〕「陛下よ、わたしにとって、愛しき子たちです──ジャーリは、かつまた、カンハージナーは、両者ともに。林のなかで、世の憂いあるわたしたちのために、そこにおいて、彼らは、〔わたしたちを〕喜び楽しませるでしょう」〔と〕。

 

1849.(1883) 〔世尊は言った〕「大王は、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者は、彼女に説いた」〔と〕。〔王が言った〕「諸々の米の飯を、肉汁を注いだ上等の〔食事〕を、食べて〔そののち〕、諸々の木の果を食べながら、どのように、年少の者たちが為すというのだ。

 

1850.(1884) 百パラ(重さの単位)の銅〔の鉢〕で、百ラージカ(重さの単位)の金〔の鉢〕で、食べて〔そののち〕、諸々の木の鉢で食べながら、どのように、年少の者たちが為すというのだ。

 

1851.(1885) そして、諸々のカーシ〔産の衣〕を、さらに、諸々の亜麻の布地を、〔身に〕付けて〔そののち〕、諸々の草の樹皮〔の衣〕を〔身に〕付ける者たちとなり、どのように、年少の者たちが為すというのだ。

 

1852.(1886) 諸々の輿によって、駕篭によって、さらに、車によって、〔各地に〕遍行して〔そののち〕、徒歩になり、駆けずり回りながら、どのように、年少の者たちが為すというのだ。

 

1853.(1887) 安全で閂が掛かった楼閣のなかで臥して〔そののち〕、木の根元において臥しながら、どのように、年少の者たちが為すというのだ。

 

1854.(1888) 諸々の寝台のなかで臥して〔そののち〕、羊毛の布団と彩りあざやかな敷物のなかで〔臥してそののち〕、草の敷物に臥しながら、どのように、年少の者たちが為すというのだ。

 

1855.(1889) そして、沈香や栴檀の香料を塗って〔そののち〕、塵や埃を〔身に〕保ちながら、どのように、年少の者たちが為すというのだ。

 

1856.(1890) 諸々の払子や孔雀の団扇で肢体を扇がれ、安楽に生長した者たちが、虻たちや蚊たちに刺されたなら、どのように、年少の者たちが為すというのだ」〔と〕。

 

1857.(1891) 〔世尊は言った〕「王妃は、全ての肢体が美しく輝くマッディーは、彼に説いた」〔と〕。〔マッディーが言った〕「陛下よ、嘆き悲しんではいけません。そして、あなたは、意が離れる者と成ってはいけません。すなわち、わたしたちが有るであろうように、そのように、年少の者たちも有るでしょう」〔と〕。

 

1858.(1892) 〔世尊は言った〕「全ての肢体が美しく輝くマッディーは、この〔言葉〕を説いて、立ち去った。〔美しき〕特相ある者は、子たちを携えて、シヴィ〔国〕の道を、〔夫に〕従い行った。

 

1859.(1893) そののち、ヴェッサンタラは、王は、布施を施して、士族は、父を〔敬拝して〕、かつまた、母を敬拝して、そして、彼に、右回り〔の礼〕を為して──

 

1860.(1894) 四頭立ての車に、駿馬の戦車に、乗って、そして、子たちと妻を携えて、ヴァンカ山に出発した。

 

1861.(1895) そののち、ヴェッサンタラは、王は、多くの人々が存しているところに、〔そこへと赴いた〕」〔と〕。〔菩薩は言った〕「〔別れを〕告げて、まさに、その〔ヴァンカ山〕へと、〔わたしたちは〕赴きます。親族たちよ、無病の者たちと成れ。

 

1862.(1897) マッディーよ、さあ、こころして聞きなさい。まさしく、喜ばしき景色が見られる。シヴィ〔国〕の最勝者の居住所にして、わたしの父祖の居所である」〔と〕。

 

1863.(1898) 〔世尊は言った〕「婆羅門たちは、彼に従い行った。彼らは、彼に、馬たちを乞い求めた。乞い求められた者は、四者に、四馬を施した」〔と〕。

 

1864.(1899) 〔菩薩は言った〕「マッディーよ、さあ、こころして聞きなさい。まさしく、彩りあざやかな景色が見られる。赤鹿の色をした良馬たちが、わたしを運び行く(妖精たちが馬車を引く)」〔と〕。

 

1865.(1900) 〔世尊は言った〕「そこで、ここにおいて、第五の者がやってきた。彼は、その車を乞い求めた。乞い求められた者は、彼に、それを施した。しかしながら、彼の意が打ち砕かれることはなかった。

 

1866.(1901) そののち、ヴェッサンタラは、王は、自らの人々(妻子)を降ろして、財を探し求める婆羅門に、馬車を持たせてやった」〔と〕。

 

1867.(1902) 〔菩薩は言った〕「マッディーよ、あなたは、カンハーを抱きなさい。この者は妹で、軽い。わたしは、ジャーリを抱こう。なぜなら、彼は兄で、重いからだ」〔と〕。

 

1868.(1903) 〔世尊は言った〕「王は、王子を抱いて、そして、王妃は娘を〔抱いて〕、互いに他と愛語ある者たちとして、喜び合いながら、立ち去った」〔と〕。

 

 〔以上が〕布施の章ということになる。

 

22. 1. 10. 4. 入林

 

1869.(1904) 〔世尊は言った〕「もしくは、誰であれ、人間たちが〔道を〕行くなら、道のままに、道の向こうに、彼らに、道を問い尋ねる。『それなるヴァンカ山は、どこにあるのですか』〔と〕。

 

1870.(1905) 彼らは、そこにおいて、わたしたちを見て、悲しみのままに嘆いた。彼らは、苦を知らせる。『それなるヴァンカ山は、遠くにあります』〔と〕。

 

1871.(1906) もしくは、山林のなかで、幼児たちが、果のある木々を見るなら、まさに、それらの果を因に、幼児たちは泣き叫ぶ。

 

1872.(1907) 幼児たちが泣き叫んでいるのを見て、高く広大なる木々は、まさしく、自ら、〔枝を〕下げて、幼児たちへと近しく赴く。

 

1873.(1908) この稀有なることを見て、未曾有にして身の毛のよだつことを〔見て〕、全ての肢体が美しく輝くマッディーは、『善きかな』の歓呼を転起させた」〔と〕。

 

1874.(1909) 〔マッディーが言った〕「まさに、世における稀有なることです。未曾有にして身の毛のよだつことです。ヴェッサンタラの威光によって、木々は、まさしく、自ら、〔枝を〕下げたのです」〔と〕。

 

1875.(1910) 〔世尊は言った〕「幼児たちを慈しんで、夜叉たちは、道を短縮した。まさしく、〔城市から〕出た〔その〕日に、〔彼らは〕チェータ〔国〕の国土へと近しく赴いた。

 

1876.(1911) 彼らは、長き旅程を赴いて、チェータ〔国〕の国土へと近しく赴いた──多くの肉と酒と飯がある、繁栄し、興隆する、地方に。

 

1877.(1912) チェータ〔国〕の者たちは、〔美しき〕特相ある者がやってきたのを見て、〔彼女を〕取り囲んだ」〔と〕。〔人々が言った〕「まさに、繊細なる貴婦が、徒歩になり、駆けずり回るとは。

 

1878.(1913) 諸々の輿によって、駕篭によって、さらに、車によって、〔各地に〕遍行して〔そののち〕、彼女が、マッディーが、今日、林のなかで、徒歩になり、駆けずり回るとは」〔と〕。

 

1879.(1914) 〔世尊は言った〕「彼女を見て、チェータ〔国〕の貴人たちは、泣き叫びながら近しく赴いた」〔と〕。〔貴人たちが尋ねた〕「陛下よ、はてさて、どうでしょう、健やかにあられますか。陛下よ、どうでしょう、悩みなくあられますか。どうでしょう、あなたの父は、無病であられますか。そして、シヴィ〔国〕の者たちには、悩みなくあられますか。

 

1880.(1915) 大王よ、あなたの軍隊は、どうなっているのですか。はてさて、あなたの車の集団は、どうなっているのですか。馬なく、車なく、長き旅程をやってきたのですか。どうでしょう、朋友ならざる者たちにやられたのですか。この方角に至り得た者として、〔あなたが〕存しているのは、〔どうしてですか〕」〔と〕。

 

1881.(1916) 〔菩薩は答えた〕「友よ、まさしく、そして、わたしには、健やかにあります。友よ、さらに、悩みなくあります。そこで、わたしの父は、無病です。シヴィ〔国〕の者たちには、悩みなくあります。

 

1882.(1917) まさに、わたしは、クンジャラ〔象〕を施しました──轅の牙ある巨大なる〔象〕を、全ての戦士たちの田畑(戦場)を知る〔象〕を、純白にして最上の象を──

 

1883.(1918) 黄の毛布に等しく覆われた〔象〕を、激情にして賊を蹂躙する〔象〕を、毛扇を有し牙ある〔象〕を、ケーラーサ(カイラーサ山)に等しき白の〔象〕を──

 

1884.(1919) 白の傘蓋を有し、座布団を有し、施術師を有し、象番を有し、王を運ぶ至高の乗物たる〔象〕を、わたしは、婆羅門たちに施したのです。

 

1885.(1920) それで、シヴィ〔国〕の者たちは、わたしに忿激し、そして、父は、意が打ち砕かれたのです。王は、わたしを放逐しました。〔わたしは〕ヴァンカ山に赴きます。友よ、〔あなたたちは〕知っています──林のなかで、そこにおいて、〔わたしたちが〕住する、〔その〕箇所を」〔と〕。

 

1886.(1921) 〔貴人たちが言った〕「大王よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。おいでになられた〔あなた〕は、イッサラとして存しておられます。それが、ここに存するものであるなら、〔何なりと〕お申し付けください。

 

1887.(1922) 野菜を、蓮根を、蜜を、肉を、清浄なる米の飯を、大王よ、遍く受益したまえ。わたしたちの客として、〔ここに〕到来した者として、〔あなたは〕存しています」〔と〕。

 

1888.(1923) 〔菩薩は言った〕「その施しは納受され、供物は全ての者に為されました。王は、わたしを放逐しました。〔わたしは〕ヴァンカ山に赴きます。友よ、〔あなたたちは〕知っています──林のなかで、そこにおいて、〔わたしたちが〕住する、〔その〕箇所を」〔と〕。

 

1889.(1924) 〔貴人たちが言った〕「車上の雄牛よ、まずは、まさしく、ここに、チェータ〔国〕の国土において、暮らしてください。すなわち、チェータ〔国〕の者たちが、〔シヴィ国の〕王の現前に赴くまで──〔許しを〕乞い求めるために──

 

1890.(1925) 大王を、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者を、納得させるために。そのうえで、満足し、頼りになる方を得た、チェータ〔国〕の者たちは、あなたを先頭にして、〔あなたを〕取り囲んで、〔シヴィ国に〕赴きます。士族よ、このように知りたまえ」〔と〕。

 

1891.(1926) 〔菩薩は言った〕「〔シヴィ国の〕王の現前に赴くことが、あなたたちにとって好ましくあってはいけません──〔許しを〕乞い求めるために、大王を納得させるために。王もまた、そこにおいては、イッサラならざるのです(このことは、王の自由にならない)。

 

1892.(1927) まさに、シヴィ〔国〕の者たちは興奮し、軍人たちは、さらに、すなわち、町の者たちも、彼らは、わたしを契機として、王を砕破することを求めます」〔と〕。

 

1893.(1928) 〔貴人たちが言った〕「国土を繁栄させる者よ、それで、もし、ここにおいて、これが、〔シヴィ国の〕国土における経緯としてあるなら、まさしく、ここに、チェータ〔国〕の者たちに取り囲まれ、王権を為したまえ。

 

1894.(1929) そして、この国土は、繁栄し、興隆し、地方は、繁栄し、大いなるものとしてあります。陛下よ、あなたは、王権を行使するべく、思いを為したまえ」〔と〕。

 

1895.(1930) 〔菩薩は言った〕「王権を行使するべくも、わたしに、欲と思いは存在しません。チェータ〔国〕の〔王〕族たちよ、国土から追放された者である、わたしの〔言葉を〕聞きたまえ。

 

1896.(1931) 満足なき者たちとして、シヴィ〔国〕の者たちは存しました──軍人たちは、さらに、すなわち、町の者たちも。国土から追放された者を、チェータ〔国〕の者たちが、王権に灌頂するなら──

 

1897.(1932) さてまた、喜ばしくないことが、あなたたちに存するでしょう──幾久しく、わたしを契機として。そして、また、シヴィ〔国〕の者たちとの言い争いが〔存するでしょう〕。口論は、わたしにとって好ましくありません。

 

1898.(1933) そこで、おぞましき言い争いが、少なからざる攻撃が、存するでしょう。一者であるわたしを契機として、多くの人々が害されるでしょう。

 

1899.(1934) その施しは納受され、供物は全ての者に為されました。王は、わたしを放逐しました。〔わたしは〕ヴァンカ山に赴きます。友よ、〔あなたたちは〕知っています──林のなかで、そこにおいて、〔わたしたちが〕住する、〔その〕箇所を」〔と〕。

 

1900.(1935) 〔人々が言った〕「それでは、わたしたちは、あなたに告げ知らせましょう──すなわち、また、巧みな智ある者たちのように、そのように──そこにおいて、祭火を捧げる、〔心が〕定められた、聖賢たる王たちが在する、〔その箇所を〕。

 

1901.(1936) 大王よ、この岩〔山〕が、ガンダマーダナ山です。そこにおいて、あなたは、子たちと共に、かつまた、妻と共に、暮らすことになります」〔と〕。

 

1902.(1937) 〔世尊は言った〕「チェータ〔国〕の者たちは、涙を眼に、泣き顔で、彼に教え示した」〔と〕。〔人々が言った〕「大王よ、すなわち、北に向かい、ここから真っすぐに赴きたまえ。

 

1903.(1938) そこで、〔あなたは〕見るでしょう──あなたに、幸せ〔有れ〕──ヴェープッラという名の山を、種々なる木々の群れが散在し、意が喜びとする涼やかな影ある〔山〕を。

 

1904.(1939) それを超え行って、そこで、〔あなたは〕見るでしょう──あなたに、幸せ〔有れ〕──水が赴く〔川〕を、ケートゥマティーという名の川を、深き山窟ある〔川〕を──

 

1905.(1940) 多毛魚たちがそぞろ行き、美しい岸辺があり、大いなる水がある〔川〕を。そこにおいて、沐浴して、かつまた、〔水を〕飲んで、自らの子たちを安堵させて──

 

1906.(1941) そこで、〔あなたは〕見るでしょう──あなたに、幸せ〔有れ〕──ニグローダ〔樹〕を、蜜あるピッパラ〔樹〕を、喜ばしき〔山の〕頂きに生じ、意が喜びとする涼やかな影ある〔樹〕を。

 

1907.(1942) そこで、〔あなたは〕見るでしょう──あなたに、幸せ〔有れ〕──ナーリカという名の山を、種々なる鳥たちの群れがそぞろ行き、妖精たちが群れつどう岩〔山〕を。

 

1908.(1943) その〔山〕の北東に、ムチャリンダという名の池があり、それは、諸々の白蓮に等しく覆われ、かつまた、白の睡蓮に〔等しく覆われています〕。

 

1909.(1944) 〔まさに〕その〔あなた〕は、雲に似た林に、常に緑の若草ある〔林〕に、まさしく、餌を狙う獅子のように、〔その〕密林に入りたまえ──果ある木々に等しく覆われ、さらに、同様に、花ある木々に〔等しく覆われた、その密林に〕。

 

1910.(1945) そこにおいて、まろやかな声ある、麗美にして、種々なる色の、多くの鳥たちが、季節に等しく花ひらいた木のうえで、互いに鳴きさえずります。

 

1911.(1946) 諸々の山の難所の、さらに、諸々の川の、〔それらの〕起源に赴いて、〔まさに〕その〔あなた〕は見るでしょう(※)──カランジャ〔樹〕やカクダ〔樹〕が群生する蓮池を──

 

※ テキストには addasa とあるが、PTS版により dakkhasi と読む。

 

1912.(1947) 多毛魚たちがそぞろ行き、美しい岸辺があり、大いなる水がある〔蓮池〕を──そして、四辺が等しく、かつまた、美味にして、悪臭なき〔蓮池〕を。

 

1913.(1948) その〔蓮池〕の北東に、草庵を造作したまえ。草庵を造作して、〔あなたたちは〕落穂の行に発奮されたまえ」〔と〕。

 

 〔以上が〕入林ということになる。

 

22. 1. 10. 5. ジュージャカの部

 

1914.(1949) 〔世尊は言った〕「ジュージャカという名の婆羅門が、カーリンガ〔国〕の住者として〔世に〕有った。名としてはアミッタターパナー(朋友ならざる者を悩ます者)という年少の妻が、彼には存した。

 

1915.(1950) 川に水汲みに赴いた者たちは、そこにおいて、彼女たちは、彼女に言った。女たちは、彼女を誹謗した──集いあつまって、騒擾の者たちとなり」〔と〕。

 

1916.(1951) 〔女たちが言った〕「朋友ならざる者(アミッタ)は、まちがいなく、あなたの母上。朋友ならざる者は、まちがいなく、あなたの父上。このように、年少の者として存しているあなたを、彼らは、老いぼれに与えてしまったのだから。

 

1917.(1952) 益なきことを、まさに、あなたの親族たちは、静所に赴き、話し合ったのね。このように、年少の者として存しているあなたを、彼らは、老いぼれに与えてしまったのだから。

 

1918. 朋友ならざる者は、まさに、あなたの親族たち。静所に赴き、話し合ったのね。このように、年少の者として存しているあなたを、彼らは、老いぼれに与えてしまったのだから。

 

1919.(1953) 悪行を、まさに、あなたの親族たちは、静所に赴き、話し合ったのね。このように、年少の者として存しているあなたを、彼らは、老いぼれに与えてしまったのだから。

 

1920.(1954) 悪しきことを、まさに、あなたの親族たちは、静所に赴き、話し合ったのね。このように、年少の者として存しているあなたを、彼らは、老いぼれに与えてしまったのだから。

 

1921.(1955) 意に適わないことを、まさに、あなたの親族たちは、静所に赴き、話し合ったのね。このように、年少の者として存しているあなたを、彼らは、老いぼれに与えてしまったのだから。

 

1922.(1956) 意に適わない暮らしを、老いぼれの亭主と共に暮らしてきたのね。〔まさに〕その、あなたが、老いぼれのために暮らすなら、生きているよりも、死んだほうが、あなたにとって優れているのよ。

 

1923.(1957) お美しい方よ、美しく輝く方よ、まさに、あろうことか、父上は、さらに、母上は、他の夫を見出さなかったのね。このように、年少の者として存しているあなたを、彼らは、老いぼれに与えてしまったのだから。

 

1924.(1958) あなたの第九〔日の祭祀〕は、悪しく執り行なわれ、祭火への捧げものは、為されなかったのね。このように、年少の者として存しているあなたを、彼らは、老いぼれに与えてしまったのだから。

 

1925.(1959) まちがいなく、沙門たちに、婆羅門たちに、梵行を行き着く所とする者たちに、戒ある多聞の者たちに、〔まさに〕その、あなたは、世において、呪いをかけたのね。このように、年少の者として存している、〔まさに〕その、あなたが、老いぼれのために暮らすのだから。

 

1926.(1960) 蛇に咬まれたとして、苦痛ではなく、刃で打たれたとして、苦痛ではなく、でも、それは、苦痛でもあるし、激痛でもあるし、そう、老いぼれの亭主を見るのはね。

 

1927.(1961) 老いぼれの亭主と共にいると、遊興は存在せず、歓楽は存在せず、談話や会話は存在せず、たとえ、笑ったとして、美しく輝かないのよ。

 

1928.(1962) でも、年少の男と年少の女が、静所に赴き、〔愛を〕話し合う、そのときは、全ての者たちの憂いは消えるのよ。彼らが誰であれ、心臓に依拠した者たちであるなら(心が通じる者たちであるなら)。

 

1929.(1963) あなたは、年少にして形姿ある者、男たちの切望するところ。去りなさいよ。親族の家で暮らしなさいよ。どうして、老いぼれが、〔あなたを〕喜ばせてくれるというのでしょう」〔と〕。

 

1930.(1964) 〔ジュージャカに、アミッタターパナーが言った〕「婆羅門よ、〔わたしが〕あなたのために、川に水汲みに赴くことはもうありません。女たちが、わたしを誹謗します。婆羅門よ、あなたが老いぼれであることで」〔と〕。

 

1931.(1965) 〔ジュージャカが言った〕「わたしのために、おまえが〔嫌な〕行為を為すことがあってはならない。わたしのために、〔おまえが〕水を汲むことがあってはならない。わたしが、水を汲もう。尊女よ、怒りの者と成ってはならない」〔と〕。

 

1932.(1966) 〔アミッタターパナーが言った〕「それで、あなたが、水を汲むことになるとして、わたしは、その家系に生まれた者ではありません(わたしは、夫に水汲みをさせるような家柄の者ではない)。婆羅門よ、このように知りなさい。わたしが、あなたの家に住することはもうありません。

 

1933.(1967) 婆羅門よ、それで、もし、わたしのために、奴隷を、あるいは、奴婢を、〔あなたが〕連れてこないなら、婆羅門よ、このように知りなさい。あなたの現前に住することはもうありません」〔と〕。

 

1934.(1968) 〔ジュージャカが言った〕「婆羅門尼よ、わたしには、あるいは、技能の境位も、財産も、さらに、穀物も、存在しない。わたしが、どこから、奴隷を、あるいは、奴婢を、尊女のために連れてくるというのだ。わたしが、尊女に奉仕しよう。尊女よ、怒りの者と成ってはならない」〔と〕。

 

1935.(1969) 〔アミッタターパナーが言った〕「さあ、わたしは、あなたに告げ知らせましょう。すなわち、わたしが聞いた言葉のとおりに。〔まさに〕この、ヴェッサンタラは、王は、ヴァンカ山に住しています。

 

1936.(1970) 婆羅門よ、あなたは、彼のもとに赴いて、奴隷を、さらに、奴婢を、乞い求めるのです。彼は、士族は、乞い求められたなら、奴隷を、さらに、奴婢を、あなたに施すでしょう」〔と〕。

 

1937.(1971) 〔ジュージャカが言った〕「わたしは、力弱き老いぼれとして〔世に〕存している。そして、長きの旅は、極めて赴き難くある。尊女よ、嘆き悲しんではならない。そして、あなたは、意が離れる者と成ってはならない。わたしが、尊女に奉仕しよう。尊女よ、怒りの者と成ってはならない」〔と〕。

 

1938.(1972) 〔アミッタターパナーが言った〕「あたかも、戦場に赴かずして、まさしく、戦うことなく敗れた者であるかのように、婆羅門よ、まさしく、このように、あなたは、赴かずして、敗れたのです。

 

1939.(1967) 婆羅門よ、それで、もし、わたしのために、奴隷を、あるいは、奴婢を、〔あなたが〕連れてこないなら、婆羅門よ、このように知りなさい。わたしが、あなたの家に住することはもうありません。あなたに、意に適わないことを、〔わたしは〕為すでしょう。それは、あなたにとって、苦痛と成るでしょう。

 

1940.(1974) 星祭りにおいて、諸々の季節の始まり〔の祭り〕において、そのとき、〔あなたは〕わたしを見るでしょう──〔装いを〕十分に作り為し、他の者たちと共に喜び楽しんでいる〔わたし〕を。それは、あなたにとって、苦痛と成るでしょう。

 

1941.(1975) わたしを見ないことで、老いぼれのあなたが嘆き悲しんでいると、婆羅門よ、そして、ヴァンカ〔山〕の〔如き、あなたの〕諸々の白髪は、より一層、多きものと成るでしょう」〔と〕。

 

1942.(1976) 〔世尊は言った〕「そののち、その婆羅門は、〔妻に〕恐怖し、婆羅門尼の支配に従い行く者となり、欲望〔の対象〕(婆羅門尼)にたいする貪り〔の思い〕に苦悩し、婆羅門尼に、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。

 

1943.(1977) 〔ジュージャカが言った〕「おまえは、わたしのために、〔旅の〕路銀を作り為せ──さらに、諸々の砂糖入りの菓子を、さらに、諸々の上手に作った蜜団子を、婆羅門尼よ、さらに、麦の食事を。

 

1944.(1978) 〔ヴェッサンタラの子を〕両者ともに同伴し、奴隷の童子たちとして連れてこよう。彼らは、おまえを世話するであろう──夜に、昼に、休みなく」〔と〕。

 

1945.(1979) 〔世尊は言った〕「梵の眷属は、この〔言葉〕を説いて、〔両の〕履物を履いた。そののち、彼は、〔妻と〕話し合って、妻に、右回り〔の礼〕を為して──

 

1946.(1980) 涙顔の彼は、〔禁欲の〕掟を伴った婆羅門は、出発した──シヴィ〔国〕の興隆する城市へと、奴隷を遍く探し求め、〔世を〕歩みつつ。

 

1947.(1981) 彼は、そこにおいて、赴いて〔そののち〕、〔人々に〕言った──すなわち、そこにおいて、集いあつまり、存していた、〔それらの人々に〕」〔と〕。〔人々に、ジュージャカが尋ねた〕「ヴェッサンタラは、王は、どこにいるのですか。どのように、〔わたしどもは〕士族と会えるのですか。

 

1948.(1982) 〔世尊は言った〕「それらの人たちは、彼に言った──すなわち、そこにおいて、集いあつまり、存していた、〔それらの人々は〕」〔と〕。〔人々が答えた〕「梵(婆羅門)よ、あなたたちにやられ、過度の布施によって、士族は、自らの国土から追放され、ヴァンカ山に住しています。

 

1949.(1983) 梵よ、あなたたちにやられ、過度の布施によって、士族は、そして、子たちと妻を携えて、ヴァンカ山に住しています」〔と〕。

 

1950.(1984) 〔世尊は言った〕「婆羅門尼に叱責された彼は、欲望〔の対象〕(婆羅門尼)にたいし貪求ある婆羅門は、その悩苦を受けた──猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、犀や豹が慣れ親しむ〔林〕のなかで。

 

1951.(1985) ベールヴァ〔樹〕の杖を取って、祭火への捧げものと水瓶を〔取って〕、彼は、密林に入った。そこにおいて、欲するものを与える者(菩薩)がいると、〔彼が〕聞いた、〔その密林に〕。

 

1952.(1986) 彼が、密林に入ると、彼を、狼たちが取り囲んだ。彼は、跳んで逃げたが、遭難者となり、道から遠くに出てしまった。

 

1953.(1987) そののち、その婆羅門は、〔方々に〕赴いて、財物を貪る自制なき者は、ヴァンカ〔山〕へと辿り着く〔道〕が消えてしまったとき、これらの詩偈を語った」〔と〕。

 

1954.(1988) 〔ジュージャカが言った〕「誰なのだ、王子を、〔人の〕雄牛を、勝者を、敗者ならざる者を、恐怖のなかで平安を与えてくれる者を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1955.(1989) すなわち、乞い求める者たちにとっては、生類たちにとっての大地のように、立脚するものとして存した、大地の如き大王を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1956.(1990) すなわち、乞い求める者たちにとっては、諸々の流れにとっての海洋のように、赴く所として存した、海洋の如き大王を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1957.(1991) 美しい岸辺があり、清らかで、水は冷たく、意が喜びとし、諸々の白蓮に等しく覆われ、花糸と花粉を擁する、湖沼の如き大王を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1958.(1992) 意が喜びとする涼やかな影ある、道に生えているアッサッタ〔樹〕のように、疲労している者たちを静めてくれる者を、疲弊している者たちを迎え取る者を、そのような喩えある大王を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1959.(1993) 意が喜びとする涼やかな影ある、道に生えているニグローダ〔樹〕のように、疲労している者たちを静めてくれる者を、疲弊している者たちを迎え取る者を、そのような喩えある大王を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1960.(1994) 意が喜びとする涼やかな影ある、道に生えているアンバ〔樹〕のように、疲労している者たちを静めてくれる者を、疲弊している者たちを迎え取る者を、そのような喩えある大王を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1961.(1995) 意が喜びとする涼やかな影ある、道に生えているサーラ〔樹〕のように、疲労している者たちを静めてくれる者を、疲弊している者たちを迎え取る者を、そのような喩えある大王を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1962.(1996) 意が喜びとする涼やかな影ある、道に生えている木のように、疲労している者たちを静めてくれる者を、疲弊している者たちを迎え取る者を、そのような喩えある大王を──ヴェッサンタラのことを知る者は、わたしにとって、誰なのだ。

 

1963.(1997) そして、このように、密林に入り、悲嘆しているわたしに、『わたしは知っている』と、彼が説くなら、彼は、わたしに、喜びを生むであろう。

 

1964.(1998) そして、このように、密林に入り、悲嘆しているわたしに、『わたしは知っている』と、彼が説くなら、その一つの言葉によって、彼は、少なからざる功徳を生み出すであろう」〔と〕。

 

1965.(1999) 〔世尊は言った〕「チェータ〔族〕の者が、彼に答えた──林のなかを歩んでいる猟師が」〔と〕。〔チェータ族の者が言った〕「梵(婆羅門)よ、あなたたちにやられ、過度の布施によって、士族は、自らの国土から追放され、ヴァンカ山に住している。

 

1966.(2000) 梵よ、あなたたちにやられ、過度の布施によって、士族は、そして、子たちと妻を携えて、ヴァンカ山に住している。

 

1967.(2001) 為すべきではないことを為す思慮浅き者が、国土から山林にやってきたわけだ──水のなかの魚を〔狙う〕青鷺のように、王子を探し求めながら。

 

1968.(2002) 婆羅門よ、〔まさに〕その、おまえの生命を、この〔世において〕、わたしは見ない。なぜなら、わたしによって放たれた、この矢が、おまえの血を飲むからだ。

 

1969.(2003) おまえの頭を打ち砕いて、結節と共に心臓を断ち切って、道にいる鳥にお供えしよう──婆羅門よ、おまえの肉で。

 

1970.(2004) 婆羅門よ、おまえの、肉で、脂肪で、さらに、頭で。捧げものを差し出そう──おまえの心臓を断ち切って。

 

1971.(2005) それは、わたしにとって、善き供えものとなり、善き捧げものとなる──婆羅門よ、おまえの肉で。そして、おまえが、王子の妻を、さらに、子たちを、連れて行くことはないであろう」〔と〕。

 

1972.(2006) 〔ジュージャカが言った〕「侵すベからざるは、婆羅門であり、使者である。チェータ族の者よ、わたしの〔言葉を〕聞け。まさに、それゆえに、〔人々は〕使者を殺さない。これは、昔ながらの法(真理)である。

 

1973.(2007) シヴィ〔国〕の者たちは、全ての者たちが納得したのだ。〔彼の〕父は、彼と会うことを求めている。かつまた、彼の母は、力衰え、〔両の〕眼は、長からずして失われるであろう。

 

1974.(2008) わたしは、彼らの使者として派遣されたのだ。チェータ族の者よ、わたしの〔言葉を〕聞け。〔わたしは〕王子を連れて行くのだ。すなわち、〔おまえが〕知っているなら、わたしに指し示せ」〔と〕。〔チェータ族の者が言った〕「愛しき者への使者は、わたしにとって、愛しき者となる。あなたに、盛り沢山の贈り物を与えよう。

 

1975.(2009) 婆羅門よ、そして、この蜜の桶を、さらに、鹿の腿を。では、その地を、あなたに告げ知らせよう。そこにおいて、欲するものを与える者は在している」〔と〕。

 

 〔以上が〕ジュージャカの部ということになる。

 

22. 1. 10. 6. 小なる森の説明

 

1976.(2010) 〔チェータ族の者が言った〕「大いなる梵(婆羅門)よ、この岩〔山〕が、ガンダマーダナ山である。そこにおいて、ヴェッサンタラは、王は、子たちと共に在している。

 

1977.(2011) 婆羅門の姿を、〔祭祀の〕鉤と匙を、結髪を、〔身に〕保ちながら、皮の〔衣〕を着ける者となり、地に臥し、火を礼拝する。

 

1978.(2012) 種々なる果を保持する、これらの青々とした木々が、〔そこにおいて〕見られる──雲に峰々が盛り上った漆黒の山々のような、青々とした〔木々〕が。

 

1979.(2013) 諸々のダヴァ〔樹〕やアッサカンナ〔樹〕が、諸々のカディラ〔樹〕が、諸々のサーラ〔樹〕が、諸々のパンダナ〔樹〕や蔓草が、風に揺れ動く──〔酒を〕一度に飲んだ若者たちのように。

 

1980.(2014) 高き木々の梢では、まさしく、〔鳥たちの〕合唱が聞こえてくる。鶏たちが、郭公たちの群れが、木から木へと飛び回る。

 

1981.(2015) 枝や葉を動き回る〔鳥〕たちが、赴く者に、まさしく、喚呼し、やってくる者を、まさしく、喜び楽しませ、居住する者を歓喜させる。そこにおいて、ヴェッサンタラは、王は、子たちと共に在している。

 

1982.(2016) 婆羅門の姿を、〔祭祀の〕鉤と匙を、結髪を、〔身に〕保ちながら、皮の〔衣〕を着ける者となり、地に臥し、火を礼拝する。

 

1983.(2017) 諸々のアンバ〔樹〕が、諸々のカピッタ〔樹〕が、諸々のパナサ〔樹〕が、諸々のサーラ〔樹〕が、諸々のジャンブ〔樹〕が、諸々のヴィビータカ〔樹〕が、諸々のハリータキー〔樹〕が、諸々のアーマラカ〔樹〕が、諸々のアッサッタ〔樹〕が、そして、諸々の棗がある。

 

1984.(2018) そして、ここにおいて、諸々の典雅なるティンバル樹が、さらに、諸々のニグローダ〔樹〕が、諸々のカピッタナ〔樹〕があり、諸々の蜜ある〔木〕が蜜をしたたらせ、かつまた、低きには、諸々の熟したウドゥンバラ〔樹〕がある。

 

1985.(2019) 諸々のパーレーヴァタ〔樹〕が、そして、諸々のバヴェイヤ〔樹〕があり、さらに、諸々の蜜をしたたらせる葡萄があり、そこにおいて、〔彼らは〕純粋な蜜を自ら取って受益する。

 

1986.(2020) ここにおいて、他にも、諸々の花ひらいたアンバ〔樹〕が〔立ち〕、他にも、諸々の結実した〔アンバ樹〕が立ち、他にも、そして、諸々の生のものがあり、さらに、諸々の熟したものがあり、その両者ともに、蛙の色をしている。

 

1987.(2021) そこで、ここにおいて、下では、人が、諸々の熟したアンバ〔樹の果〕を収め取る。まさしく、そして、諸々の生のものも、諸々の熟したものも、色と香りと味は最上である。

 

1988.(2022) わたしには、あまりに極めて稀有であり、わたしに、驚嘆〔の思い〕が明白となる。天〔の神々〕たちの居住所のようであり、〔天の〕ナンダナ〔林〕の如く、美しく輝く。

 

1989.(2023) 諸々の棕櫚があり、諸々の椰子があり、諸々の棗椰子の密林において、結び束ねられた花飾のように、〔種々なる木々が〕立ち、旗の先端のように見え、種々なる色の花々によって、天空にちりばめられた星々のように〔見える〕。

 

1990.(2024) 諸々のクタジー〔樹〕やクッタ〔樹〕やタガラ〔樹〕が、そして、諸々のパータリー〔樹〕が、花ひらいている。諸々のプンナーガ〔樹〕が、諸々のギリプンナーガ〔樹〕が、さらに、諸々のコーヴィラーラ〔樹〕が、花ひらいている。

 

1991.(2025) 諸々のウッダーラカ〔樹〕が、諸々のソーマルッカ〔樹〕が、諸々のアガル〔樹〕やパッリー〔樹〕が、多くあり、そして、諸々のプッタジーヴァ〔樹〕が、諸々のカクダ〔樹〕が、さらに、諸々のアサナ〔樹〕が、ここにおいて、花ひらいている。

 

1992.(2026) 諸々のクタジャ〔樹〕が、諸々のサララ〔樹〕が、諸々のニーパ〔樹〕が、諸々のコーサンバ〔樹〕が、諸々のラブジャ〔樹〕が、諸々のダヴァ〔樹〕が、そして、諸々のサーラ〔樹〕が、脱穀する稲に似て、そこにおいて、花ひらいている。

 

1993.(2027) その〔居住所〕から遠く離れていないところに蓮池があり、土地の区画は、意が喜びとするものにして、〔天の〕ナンダナ〔林〕における天〔の神々〕たちの〔蓮池〕のように、諸々の赤蓮や青蓮に等しく覆われている。

 

1994.(2028) そこで、ここにおいて、花の味に酔った、美妙なる鳴き手の郭公たちが、季節に等しく花ひらいた木のうえで、山林に鳴き声を響かせる。

 

1995.(2029) 諸々の花液から、諸々の蜜〔の滴〕が、蓮〔の葉〕に、蓮〔の葉〕にと、したたり落ちる。そこで、ここにおいて、諸々の風が、南から、さらに、西から、吹き渡る。庵所は、諸々の蓮華の花糸と花粉が振りつもるところと成る。

 

1996.(2030) そして、ここにおいて、諸々の大きな水草があり、諸々の野生の水稲がある。そして、ここにおいて、魚や亀たちが泳ぎ回り、多くの蟹たちがいる。諸々の蓮の根や芽から、蜜が、乳や酥が、流れ出る。

 

1997.(2031) 種々なる香りに溢れたその林に、芳香が吹き渡る。香りによって、諸々の花ある枝によって、その林を酔い潰すかのように、蜜蜂たちが、花の香りに〔誘われ〕、遍きにわたり羽音を立てている。

 

1998.(2032) そこで、ここにおいて、鳥たちが存在し、種々なる色の多くの鳥たちが、妻たちを相手に、互いに他と歌い合い、歓喜する。

 

1999.(2033) 『ナンディカー・ジーヴァプッター・チャ』『ジーヴァプッター・ピヤー・チャ・ノー』『ピヤー・プッター・ピヤー・ナンダー』〔と〕、蓮池を家とする鳥たちが〔歌い合う〕。

 

2000.(2034) 結び束ねられた花飾のように、〔種々なる木々が〕立ち、旗の先端のように見え、種々なる色の花々によって、まさしく、諸々の善巧なるものによって、美しく結び束ねられている。そこにおいて、ヴェッサンタラは、王は、子たちと共に在している。

 

2001.(2034) 婆羅門の姿を、〔祭祀の〕鉤と匙を、結髪を、〔身に〕保ちながら、皮の〔衣〕を着ける者となり、地に臥し、火を礼拝する」〔と〕。

 

2002.(2035) 〔ジュージャカが言った〕「そして、わたしの、蜜を付けた、この麦の食事を、さらに、諸々の上手に作った蜜団子を、麦の食事を、あなたに与えよう」〔と〕。

 

2003.(2036) 〔チェータ族の者が言った〕「まさしく、あなたのものとして、糧食は有れ。わたしは、糧食を求めない。梵よ、ここからもまた、収め取りたまえ。梵よ、安楽なるままに赴きたまえ。

 

2004.(2037) この一本〔道〕が至り行く。庵所へと、真っすぐに赴く。そこにおいて、また、歯には泥、頭には塵の、アッチュタ聖賢がいる。婆羅門の姿を、〔祭祀の〕鉤と匙を、結髪を、〔身に〕保ちながら──

 

2005.(2038) 皮の〔衣〕を着ける者となり、地に臥し、火を礼拝する。あなたは、彼のもとに赴いて、〔彼に〕尋ねたまえ。彼は、あなたに、道を言い示す」〔と〕。

 

2006.(2039) 〔世尊は言った〕「梵の眷属は、この〔言葉〕を聞いて、チェータ〔族〕の者に、右回り〔の礼〕を為して、勇躍する心の者となり、立ち去った──すなわち、アッチュタ聖賢が存したところへと」〔と〕。

 

 〔以上が〕小なる森の説明ということになる。

 

22. 1. 10. 7. 大なる森の説明

 

2007.(2040) 〔世尊は言った〕「〔道を〕赴きつつ、彼は、バーラドヴァージャ(ジュージャカ)は、アッチュタ聖賢を見た。彼を見て、バーラドヴァージャは、聖賢と共に〔今回の出会いを〕喜び合った」〔と〕。

 

2008.(2041) 〔ジュージャカが尋ねた〕「はてさて、どうでしょう、貴君には、健やかにあられますか。どうでしょう、貴君には、悩みなくあられますか。どうでしょう、〔あなたは〕落穂によって〔身を〕保ち行きますか。どうでしょう、多くの根や果がありますか。

 

2009.(2042) どうでしょう、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくありますか。どうでしょう、猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、害は見出されませんか」〔と〕。

 

2010.(2043) 〔アッチュタが答えた〕「梵よ、まさしく、そして、わたしには、健やかにあります。梵よ、さらに、悩みなくあります。そこで、〔わたしは〕落穂によって〔身を〕保ち行きます。さらに、多くの根や果があります。

 

2011.(2044) そこで、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくあります。猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、わたしに、害は見出されません。

 

2012.(2045) 多くの膨大なる年月のあいだ、庵所に住しているわたしに、意が喜びとしない病苦が生起したことを、〔わたしは〕証知しません(記憶しない)。

 

2013.(2046) 大いなる梵よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。内に入りたまえ。あなたに、幸せ〔有れ〕。あなたの〔両の〕足を洗いたまえ。

 

2014.(2047) 諸々のティンドゥカ〔の果〕を、諸々のピヤーラ〔の果〕を、諸々のマドゥカ〔の果〕を、諸々のカースマーリー〔の果〕を、小さく少なきものではありますが、諸々の果を、梵よ、優れたもの、優れたものを、お食べください。

 

2015.(2048) 山窟から運び込んだ、冷たい、この飲み物をもまた、大いなる梵よ、それで、もし、あなたがお望みなら、そののち、お飲みください」〔と〕。

 

2016.(2049) 〔ジュージャカが言った〕「その施しは納受され、供物は全ての者に為されました。サンジャヤの自らの子たる方と、シヴィ〔国〕の者たちによって離住させられた方と──わたしは、彼と会うためにやってきたのです。すなわち、〔あなたが〕知っているなら、わたしに指し示したまえ」〔と〕。

 

2017.(2050) 〔アッチュタが言った〕「貴君は、功徳を義(目的)として、シヴィ王と会いに行くのではありません。思うに、貴君は、王の妻を、亭主に掟ある者を、望み求めています。思うに、カンハージナーを、奴婢として、かつまた、ジャーリを、奴隷として、求めています。

 

2018.(2051) そこで、あるいは、母と子の三者を、林から連れて行くためにやってきたのです。婆羅門よ、彼には、諸々の財物も、財産も、さらに、穀物も、見出されません」〔と〕。

 

2019.(2052) 〔ジュージャカが言った〕「貴君にとって、わたしは、忿激の形態なき者としてあります。わたしは、乞い求めるためにやってきたのではありません。善きかな、聖者たちと会うことは。〔聖者たちと〕共に住むのは、常に、安楽です。

 

2020.(2053) シヴィ王は、シヴィ〔国〕の者たちによって離住させられた方は、過去にお会いしたことがなく、わたしは、彼と会うためにやってきたのです。すなわち、〔あなたが〕知っているなら、わたしに指し示したまえ」〔と〕。

 

2021.(2054) 〔アッチュタが言った〕「大いなる梵よ、この岩〔山〕が、ガンダマーダナ山です。そこにおいて、ヴェッサンタラは、王は、子たちと共に在しています。

 

2022.(2055) 婆羅門の姿を、〔祭祀の〕鉤と匙を、結髪を、〔身に〕保ちながら、皮の〔衣〕を着ける者となり、地に臥し、火を礼拝します。

 

2023.(2056) 種々なる果を保持する、これらの青々とした木々が、〔そこにおいて〕見られます──雲に峰々が盛り上った漆黒の山々のような、青々とした〔木々〕が。

 

2024.(2056) 諸々のダヴァ〔樹〕やアッサカンナ〔樹〕が、諸々のカディラ〔樹〕が、諸々のサーラ〔樹〕が、諸々のパンダナ〔樹〕や蔓草が、風に揺れ動きます──〔酒を〕一度に飲んだ若者たちのように。

 

2025.(2057) 高き木々の梢では、まさしく、〔鳥たちの〕合唱が聞こえてきます。鶏たちが、郭公たちの群れが、木から木へと飛び回ります。

 

2026.(2058) 枝や葉を動き回る〔鳥〕たちが、赴く者に、まさしく、喚呼し、やってくる者を、まさしく、喜び楽しませ、居住する者を歓喜させます。そこにおいて、ヴェッサンタラは、王は、子たちと共に在しています。

 

2027.(2059) 婆羅門の姿を、〔祭祀の〕鉤と匙を、結髪を、〔身に〕保ちながら、皮の〔衣〕を着ける者となり、地に臥し、火を礼拝します。

 

2028.(2060) カレーリの花畑が広がり、土地の区画は、意が喜びとするものにして、若草の緑ある土地は、そこにおいて、塵が舞い上がることはありません。

 

2029.(2061) 孔雀の首に似た、綿毛の感触の如くにして、遍きにわたり、諸々の草が、四アングラ(長さの単位・一アングラは約二センチ)を超え行くことはありません。

 

2030.(2061) 諸々のアンバ〔樹〕が、諸々のジャンブ〔樹〕が、そして、諸々のカピッタ〔樹〕があり、かつまた、低きには、諸々の熟したウドゥンバラ〔樹〕があります。〔これらの〕受益ある木々によって、その林は、喜びを増大させるものとなります。

 

2031.(2062) 瑠璃の色に似た、魚たちの群れが慣れ親しむ、清らかで善き香りの水があります。そこにおいて、また、水は流れ行きます。

 

2032.(2063) その〔居住所〕から遠く離れていないところに蓮池があり、土地の区画は、意が喜びとするものにして、〔天の〕ナンダナ〔林〕における天〔の神々〕たちの〔蓮池〕のように、諸々の赤蓮や青蓮に等しく覆われています。

 

2033.(2064) 婆羅門よ、その池には、三つの蓮類があります──様々な彩りある、諸々の青のものが、諸々の白のものが、そして、諸々の赤のものが。

 

2034.(2065) そこにおいて、諸々の亜麻のような白蓮があり、そして、諸々の白の睡蓮と諸々の水草によって等しく覆われた、その池は、ムチャリンダという名があります。

 

2035.(2066) そこで、ここにおいて、諸々の咲き誇る白蓮が、まさしく、はてしなく見られ、夏も冬も咲き誇り、膝の高さに敷き詰められています。

 

2036.(2067) 諸々の芳香が等しく香り、様々な彩りの花々が広がり、蜜蜂たちが、花の香りに〔誘われ〕、遍きにわたり羽音を立てています。

 

2037.(2068) 婆羅門よ、そこで、ここにおいて、水際には、〔多くの〕木々が立っています。諸々のカダンバ〔樹〕が、諸々のパータリー〔樹〕が、咲き誇っています。さらに、諸々のコーヴィラーラ〔樹〕が、花ひらいています。

 

2038.(2069) 諸々のアンコーラ〔樹〕が、そして、諸々のカッチカーラ〔樹〕が、さらに、諸々のパーリジャンニャ〔樹〕が、花ひらいています。諸々のヴァーラナ〔樹〕が、諸々のヴァヤナ〔樹〕が、ムチャリンダ池の両側には、〔これらの〕木々があります。

 

2039.(2070) 諸々のシリサ〔樹〕が、諸々のセータパーリサ〔樹〕が、諸々のパドマカ〔樹〕が、善く香りただよいます。諸々のニッグンディ〔樹〕が、諸々のシリーニッグンディ〔樹〕が、そして、ここにおいて、諸々のアサナ〔樹〕が、花ひらいています。

 

2040.(2071) 諸々のパングラ〔樹〕が、諸々のヴァクラ〔樹〕が、諸々のサーラ〔樹〕が(※)、そして、諸々のソーバンジャナ〔樹〕が、花ひらいています。諸々のケータカ〔樹〕が、そして、諸々のカニカーラ〔樹〕が、さらに、諸々のケーナヴェーラ〔樹〕が、花ひらいています。

 

※ テキストには bahulā selā とあるが、PTS版により vakulā sālā と読む。

 

2041.(2072) 諸々のアッジュナ〔樹〕が、そして、諸々のアッジュカンナ〔樹〕が、さらに、諸々のマハーナーマ〔樹〕が、花ひらいています。諸々のキンスカ〔樹〕が、燃え上がるかのように、先端が美しく花ひらき、立っています。

 

2042.(2073) 諸々のセータパンニ〔樹〕が、諸々のサッタパンナ〔樹〕が、諸々の芭蕉が、諸々の紅花が、諸々の花とともにダヌタッカリ〔樹〕が、そして、諸々のシーサパー〔樹〕やヴァラナ〔樹〕があります。

 

2043.(2074) 諸々のアッチヴァ〔樹〕が、諸々のサッラヴァ〔樹〕が、〔これらの〕木々があり、そして、諸々のサッラキー〔樹〕が、花ひらいています。そして、諸々のセータゲール〔樹〕が(※)、諸々のタガラ〔樹〕が、諸々のマンシ〔樹〕やクッタ〔樹〕が、諸々のクラーヴァラ〔樹〕があります。

 

※ テキストには Setageru とあるが、PTS版により Setagerū と読む。

 

2044.(2075) そして、若い木々が、さらに、古い〔木々〕が、そして、ここにおいて、屈曲のない〔木々〕が、花ひらいた〔木々〕が、庵所の両側には、祭火堂の遍きにわたり、立っています。

 

2045.(2076) そこで、ここにおいて、水際には、諸々のパニッジャカ〔草〕が、多く生じ、諸々のムッガティ〔豆〕が、諸々のカラティ〔豆〕が、諸々のセーヴァーラ〔草〕やシーサカ〔草〕が、多くあります。

 

2046.(2077) 堤防が波打ち、さざめいています。ヒング〔草〕を飛び交う、蜂たちがいます。そして、ここにおいて、ダーシマ〔草〕やカンジャカ〔草〕が、低きには、カランバカ〔草〕が、多くあります。

 

2047.(2078) 婆羅門よ、諸々のエーランプラカ〔蔓〕に等しく覆われた木々が立っています。それら〔の花〕が〔身に〕保たれていると、七日のあいだ、香りが断たれません。

 

2048.(2079) ムチャリンダ池の両側には、美しく輝く花々が立っています。諸々の青蓮に等しく覆われ、その林は、美しく輝きます。

 

2049.(2080) それら〔の花〕が〔身に〕保たれていると、半月のあいだ、断たれません。諸々のニーラプッピッン〔草〕が、諸々のセータヴァーリン〔草〕が、諸々のギリカンニカ〔草〕が、花ひらいています。その林は、諸々のカレールッカ〔蔓〕に、さらに、トゥラシン〔草〕に、等しく覆われています。

 

2050.(2081) 香りによって、諸々の花ある枝によって、その林を酔い潰すかのように、蜜蜂たちが、花の香りに〔誘われ〕、遍きにわたり羽音を立てています。

 

2051.(2082) 婆羅門よ、その池には、三つの瓜の類があります。そして、一つは、瓶ほどのものであり、〔他の〕両者は、それらは、鼓ほどのものです。

 

2052.(2083) そこで、ここにおいて、緑溢れる、川の芥子が、多くあります。諸々のアシ〔樹〕が、ターラ〔樹〕のように立っています。断つにふさわしい青蓮が、多くあります。

 

2053.(2084) 諸々のアッポータ〔樹〕が、そして、諸々のスリヤヴァッリー〔樹〕が、諸々のカーリヤ〔樹〕が、蜜の香りをさせます。諸々のアソーカ〔樹〕が、さらに、諸々のムダヤンティー〔樹〕が、小さな花をつけた瓢箪があります。

 

2054.(2085) 諸々のコーランダカ〔樹〕が、そして、諸々のアノージャ〔樹〕が、諸々のナーガマッリカー〔樹〕が、花ひらいています。諸々のキンスカ〔樹〕の蔓が咲き誇り、木を登って立っています。

 

2055.(2086) そして、諸々のカテールハ〔蔓〕が、諸々のヴァーサンティー〔樹〕が、諸々のユーティカー〔樹〕が、蜜の香りをさせます。諸々のニリヤー〔草〕が、諸々のスマナー〔草〕が、諸々のバンディー〔草〕があり、紅花が、美しく輝いています。

 

2056.(2087) 諸々のパータリー〔樹〕が、諸々のサムッダカッパーシー〔樹〕が、そして、諸々のカニカーラ〔樹〕が、花ひらいています。〔それらは〕光輝ある祭火の炎の如くにして、諸々の金の網のように見えます。

 

2057.(2088) そして、すなわち、それらの、諸々の陸に生じるものが、さらに、諸々の水のものが、花ひらいています。そこにおいて、全てのものが見られます。このように、喜ばしき大いなる池があります。

 

2058.(2089) そこで、その蓮池には、多くの水棲のものたちがいます。ローヒタ〔魚〕たちが、ナラピン〔魚〕たちが、シング〔魚〕たちが、鰐たちが、大魚たちが、鮫たちがいます。

 

2059.(2090) そして、蜜〔の木〕が、さらに、蜜の草が、かつまた、諸々のターリサ〔草〕が、諸々のピヤングカ〔草〕が、諸々のクタンダジャ〔草〕が、諸々のバッダムッタ〔草〕が、そして、諸々のセータプッパ〔草〕が、諸々のロールパ〔草〕があります。

 

2060.(2091) そして、芳香ある木々である、諸々のタガラ〔樹〕が、諸々のトゥンガヴァンタカ〔樹〕が、多くあります。諸々のパドマカ〔樹〕が、諸々のナラダ〔草〕が、諸々のクッタ〔草〕が、そして、諸々のジャーマカ〔草〕が、諸々のハレーヌカ〔草〕があります。

 

2061.(2092) 諸々の鬱金の香塊が、そして、諸々のヒリヴェーラ〔草〕が、諸々のグッグラ〔樹〕が、諸々の棕櫚が、諸々のチョーラカ〔草〕が、諸々のクッタ〔草〕が、そして、諸々のカップラ〔樹〕が、諸々のカリングカ〔樹〕があります。

 

2062.(2093) そこで、ここにおいて、そして、獅子や虎たちが、さらに、半人獣たちが、象たちが、羚羊たちが、まさしく、そして、パサダ〔鹿〕たちが、ローヒッチャ〔鹿〕たちが、サラバ〔鹿〕たちが、〔これらの〕鹿たちがいます。

 

2063.(2094) 野狐や犬たちが、そして、小鹿たちが、飛び狐たちが、葦に似た獣たちが、チャーマリー〔鹿〕たちが、チャラニー〔鹿〕たちが、ランギー〔鹿〕たちが、ジャーピタ〔猿〕たちが、ピチュ〔猿〕が、〔これらの〕猿たちがいます。

 

2064.(2095) カッカタ〔鹿〕たちが、そして、カッタマーヤ〔鹿〕たちが、熊たちが、野牛たちが、多くいます。ここにおいて、犀たちが、猪たちが、鼬(いたち)たちが、カーラカ〔鹿〕たちが、多くいます。

 

2065.(2096) 水牛たちが、犬や野狐たちが、そして、遍きにわたり、猿たちがいます。大蜥蜴たちが、そして、色蜥蜴たちが、さらに、また、まだら色の〔羚羊〕たちが、豹たちがいます。

 

2066.(2097) そして、兎たちが、残飯を拾う〔鳥〕たちが、獅子たちが、牛主を食べる〔獣〕たちがいます。そして、八足のものたちが、さらに、孔雀たちが、かつまた、白鳥たちが、野鶏たちがいます。

 

2067.(2098) 鷓鴣(しゃこ)たちが、鶏たちが、ナーガ〔鳥〕たちが、互いに他と歌い合っています。青鷺たちが、鶴たちが、鶏たちが、ディンディバ〔鳥〕たちが、クンジャ〔鳥〕やヴァージタ〔鳥〕たちがいます。

 

2068.(2098) ブヤッギナサ〔鳥〕たちが、ローハピッタ〔鳥〕たちが、パンマカ〔鳥〕たちが、ジーヴァジーヴァカ〔鳥〕たちが、カピンジャラ〔鳥〕たちが、ティッティリ〔鳥〕たちが、そして、クラ〔鳥〕たちが、パティクッタカ〔鳥〕たちがいます。

 

2069.(2099) マンダーラカ〔鳥〕たちが、チェーラケートゥ〔鳥〕たちが、バンドゥ〔鳥〕やティッティラ〔鳥〕やナーマカ〔鳥〕たちが、チェーラーヴァカ〔鳥〕たちが、ピンガリ〔鳥〕たちが、ゴータカ〔鳥〕たちが、アンガヘートゥカ〔鳥〕たちがいます。

 

2070.(2100) そして、カラヴィヤ〔鳥〕たちが、さらに、サッガ〔鳥〕たちが、かつまた、梟たちが、鶏たちがいます。種々なる鳥たちの群れがそぞろ行き、種々なる声が鳴きわたるところです。

 

2071.(2101) そこで、ここにおいて、〔種々なる〕鳥たちが存在します。青い〔鳥〕たちが、美妙なる鳴き手たちが、妻たちを相手に、互いに他と歌い合い、歓喜します。

 

2072.(2102) そこで、ここにおいて、〔種々なる〕鳥たちが存在します。美妙なる声の鳥たちが、依拠しています。白い目尻の〔鳥〕たちが、美しい眼の〔鳥〕たちが、彩りあざやかな翼の鳥たちがいます。

 

2073.(2103) そこで、ここにおいて、〔種々なる〕鳥たちが存在します。美妙なる声の鳥たちが、依拠しています。冠毛ある〔孔雀〕たちが、青首の〔孔雀〕たちと、互いに他と歌い合っています。

 

2074.(2104) 野鶏たちが、川蝉たちが、啄木鳥(きつつき)たちが、鶴たちが、カーラーメイヤ〔鳥〕たちが、バリヤッカ〔鳥〕たちが、雁たちが、鸚鵡や九官鳥たちがいます。

 

2075.(2105) そこで、ここにおいて、鬱金〔の色の鳥〕たちが、赤〔の色の鳥〕たちが、白〔の色の鳥〕たちが、葦〔の色の鳥〕たちが、多くいます。野雁たちが、そして、大雁たちが、雁たちが、鸚鵡や郭公たちがいます。

 

2076.(2106) 黒鶚たちが、鶚たちが、鵞鳥たちが、アータ〔鳥〕たちが、パリヴァデンティカ〔鳥〕たちが、極めて力あるパーカ鵞鳥たちが、鶏たちが、ジーヴァジーヴァカ〔鳥〕たちがいます。

 

2077.(2107) 鳩たちが、ラヴィ鵞鳥たちが、川を行場とする鴛鴦たちがいます。野雁たちの鳴き声が、喜ばしく、〔昼夜の〕両時に歌い合っています。

 

2078.(2108) そこで、ここにおいて、〔種々なる〕鳥たちが存在します。種々なる色の多くの鳥たちが、妻たちを相手に、互いに他と歌い合い、歓喜します。

 

2079.(2109) そこで、ここにおいて、〔種々なる〕鳥たちが存在します。種々なる色の多くの鳥たちが、〔それらの〕全てが、美妙なる〔声の鳥〕たちであり、ムチャリンダ池の両側に、鳴きわたります。

 

2080.(2110) そこで、ここにおいて、〔種々なる〕鳥たちが存在します。カラヴィヤという名のそれらの鳥たちが、妻たちを相手に、互いに他と歌い合い、歓喜します。

 

2081.(2111) そこで、ここにおいて、〔種々なる〕鳥たちが存在します。カラヴィヤという名のそれらの鳥たちが、〔それらの〕全てが、美妙なる〔声の鳥〕たちであり、ムチャリンダ池の両側に、鳴きわたります。

 

2082.(2112) 羚羊やパサダ〔鹿〕たちがそぞろ行き、象たちが慣れ親しむ林です。種々なる蔓に等しく覆われ、カダリー〔鹿〕たちが慣れ親しむところです。

 

2083.(2113) そこで、ここにおいて、芥子が、多くあります。野生米が、豆が、多くあります。そして、そこにおいて、不耕米が、甘蔗が、少なからずあります。

 

2084.(2114) この一本〔道〕が至り行きます。庵所へと、真っすぐに赴きます。そこにおいて、飢えに、渇きに、不満〔の思い〕に、至り得た者は見出されません。そこにおいて、ヴェッサンタラは、王は、子たちと共に在しています。

 

2085.(2115) 婆羅門の姿を、〔祭祀の〕鉤と匙を、結髪を、〔身に〕保ちながら、皮の〔衣〕を着ける者となり、地に臥し、火を礼拝します」〔と〕。

 

2086.(2116) 〔世尊は言った〕「梵の眷属は、この〔言葉〕を聞いて、聖賢に、右回り〔の礼〕を為して、勇躍する心の者となり、立ち去った──すなわち、ヴェッサンタラが有ったところへと」〔と〕。

 

 〔以上が〕大なる森の説明ということになる。

 

22. 1. 10. 8. 幼児たちの部

 

2087.(2117) 〔菩薩は言った〕「ジャーリよ、起きよ、立ち上がれ。過去のことを見るかのようだ。〔わたしが〕見るのは、婆羅門のようだ。諸々の喜びが、わたしを押し流す」〔と〕。

 

2088.(2118) 〔ジャーリが言った〕「父よ、わたしもまた見ます。すなわち、彼は、婆羅門のように見えます。やってくるのは、旅の者のようです。わたしたちの客と成るでしょう」〔と〕。

 

2089.(2119) 〔ジュージャカが尋ねた〕「はてさて、どうでしょう、貴君には、健やかにあられますか。どうでしょう、貴君には、悩みなくあられますか。どうでしょう、〔あなたは〕落穂によって〔身を〕保ち行きますか。どうでしょう、多くの根や果がありますか。

 

2090.(2120) どうでしょう、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくありますか。どうでしょう、猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、害は見出されませんか」〔と〕。

 

2091.(2121) 〔菩薩は答えた〕「梵よ、まさしく、そして、わたしたちには、健やかにあります。梵よ、さらに、悩みなくあります。そこで、〔わたしたちは〕落穂によって〔身を〕保ち行きます。さらに、多くの根や果があります。

 

2092.(2122) そこで、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくあります。猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、わたしたちに、害は見出されません。

 

2093.(2123) わたしたちは、七月のあいだ、生の憂いある者たちとして、林のなかに住していますが、これはまた、最初の方として、婆羅門を、天の色艶ある方を、見ます──ベールヴァ〔樹〕の杖を取って、祭火への捧げものと水瓶を〔取って、ここに到来したあなたを〕。

 

2094.(2124) 大いなる梵よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。内に入りたまえ。あなたに、幸せ〔有れ〕。あなたの〔両の〕足を洗いたまえ。

 

2095.(2125) 諸々のティンドゥカ〔の果〕を、諸々のピヤーラ〔の果〕を、諸々のマドゥカ〔の果〕を、諸々のカースマーリー〔の果〕を、小さく少なきものではありますが、諸々の果を、梵よ、優れたもの、優れたものを、お食べください。

 

2096.(2126) 山窟から運び込んだ、冷たい、この飲み物をもまた、大いなる梵よ、それで、もし、あなたがお望みなら、そののち、お飲みください」〔と〕。

 

2097.(2127) 〔菩薩は尋ねた〕「そこで、あなたは、何を理由に、また、あるいは、何を因に、密林に至り得たのですか。〔問いを〕尋ねられた者として、それを、わたしに告げ知らせてください」〔と〕。

 

2098.(2128) 〔ジュージャカが答えた〕「あたかも、満ち溢れる水流が、全ての時に尽きないように、このように、あなたに乞い求めるために、〔わたしは〕やってきた。乞い求められた者として、わたしに、子たちを施したまえ」〔と〕。

 

2099.(2129) 〔菩薩は言った〕「動揺することなく、施しましょう。婆羅門よ、〔あなたは〕イッサラです。〔子たちを〕連れて行きたまえ。早朝に赴いた王妃が、夕方に、落穂集めから戻ります。

 

2100.(2130) 婆羅門よ、一夜を住して、早朝に赴くのです。〔子たちの身体を〕彼女が洗い、接吻し、そこで、花飾を保持する彼らを〔連れて行きたまえ〕。

 

2101.(2131) 婆羅門よ、一夜を住して、早朝に赴くのです。種々なる花々に等しく覆われ、種々なる香りに飾られ、種々なる根と果に満ち溢れた者たちを、婆羅門よ、〔まさに〕その〔あなた〕は、〔彼らを〕携えて、赴きたまえ」〔と〕。

 

2102.(2132) 〔ジュージャカが言った〕「〔一夜の〕滞在を、〔わたしは〕願わない。〔今すぐ〕赴くことが、わたしにとって好ましくある。わたしにとって、〔一夜の滞在は〕障りとしてもまた存するであろう。車上の雄牛よ、まさしく、〔今すぐ、わたしは〕赴くであろう。

 

2103.(2133) まさに、これら〔の女たち〕は、彼の乞いに応じる者たちではなく、障りを為す者たちである。女たちは、呪文を知る。一切を、逆から収め取る。

 

2104.(2134) 〔あなたが〕信によって布施を施しているなら、〔わたしが〕この者たちの母と会うことがあってはならない。彼女は、障りをもまた為すであろう。車上の雄牛よ、まさしく、〔今すぐ、わたしは〕赴くであろう。

 

2105.(2135) あなたの子たちを呼びなさい。彼らが母と会うことがあってはならない。〔あなたが〕信によって布施を施しているなら、このように、功徳は増大する。

 

2106.(2136) あなたの子たちを呼びなさい。彼らが母と会うことがあってはならない。わたしのような者に、財を施して〔そののち〕、王よ、〔あなたは〕天上に赴くであろう」〔と〕。

 

2107.(2137) 〔菩薩は言った〕「それで、もし、あなたが、わたしの妻と、亭主に掟ある者と、会うことを求めないなら、ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに、ともあれ、〔彼らの〕祖父と会わせたまえ。

 

2108.(2138) これらの童子たちを見て、美妙にして愛しき話し手たちを〔見て〕、満足した者となり、悦意の者となり、歓悦の者となり、多くの財を、あなたに施すでしょう」〔と〕。

 

2109.(2139) 〔ジュージャカが言った〕「〔わたしは〕略奪を恐れる。王子よ、わたしの〔言葉を〕聞きたまえ。〔王は〕王の棒(刑罰)を、わたしに与えるであろう。〔わたしを〕売るであろうし、あるいは、殺すであろう。そして、財を、さらに、奴隷たちを、〔両者ともに〕失った〔わたし〕は、梵の眷属(妻)に非難されるべき者として存するであろう」〔と〕。

 

2110.(2140) 〔菩薩は言った〕「これらの童子たちを見て、美妙にして愛しき話し手たちを〔見て〕、法(正義)に依って立つ大王は、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者は、喜悦と悦意を得て、多くの財を、あなたに施すでしょう」〔と〕。

 

2111.(2141) 〔ジュージャカが言った〕「それもまた、わたしは為さないであろう──それを、あなたが、わたしに教え示すとして。わたしは、まさしく、幼児たちを連れて行くであろう──婆羅門尼(妻)の侍者たちとして」〔と〕。

 

2112.(2142) 〔世尊は言った〕「そののち、残忍な者が語ったことを聞いて、動揺した童子たちは、ジャーリは、かつまた、カンハージナーは、両者ともに、そこかしこに逃げ走った」〔と〕。

 

2113.(2143) 〔ジャーリに、菩薩は言った〕「息子よ、愛しい子よ、さあ、わたしの〔布施の〕完全態(波羅蜜・到彼岸)を円満しておくれ。わたしの心臓を灌頂しておくれ。わたしの言葉を為しておくれ。

 

2114.(2144) 〔迷いの〕生存の海洋における、不動の乗物に、そして、わたしの舟に、成っておくれ。〔わたしは〕生の彼岸へと超え渡るのだ。天を含む〔迷いの世〕を等しく超え渡るのだ」〔と〕。

 

2115.(2145) 〔カンハージナーに、菩薩は言った〕「娘よ、愛しい娘よ、さあ、わたしの〔布施の〕完全態を円満しておくれ。わたしの心臓を灌頂しておくれ。わたしの言葉を為しておくれ。

 

2116.(2146) 〔迷いの〕生存の海洋における、不動の乗物に、そして、わたしの舟に、成っておくれ。〔わたしは〕生の彼岸へと超え渡るのだ。天を含む〔迷いの世〕を等しく超え渡るのだ」〔と〕。

 

2117.(2147) 〔世尊は言った〕「そののち、ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに、童子たちを携えて、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者は、婆羅門に、布施として施した。

 

2118.(2148) そののち、ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに、童子たちを携えて、歓悦の者となり、婆羅門に、子供たちを、最上の布施として施した。

 

2119.(2149) そのとき、すなわち、恐るべきことが存した。そのとき、身の毛のよだつことが存した。すなわち、童子が施されたとき、地が等しく激動したのだ。

 

2120.(2150) そのとき、すなわち、恐るべきことが存した。そのとき、身の毛のよだつことが存した。すなわち、合掌を為した王が、安楽に住していた童子たちを、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、婆羅門に、布施として施したのだ。

 

2121.(2151) そののち、その残忍な婆羅門は、蔓を諸々の歯で断ち切って、蔓で〔童子たちの〕手を縛って、蔓で〔彼らを〕叩いた。

 

2122.(2152) そののち、その婆羅門は、縄を取って、かつまた、杖を取って、彼らを打ちながら、連れて行く──シヴィ王が、見ているところを。

 

2123.(2153) そののち、童子たちは立ち去ったが、婆羅門〔の手〕を解き放って、涙に満ちた〔両の〕眼で、彼(ジャーリ)は、父を凝視する。

 

2124.(2154) 揺れ動くアッサッタ〔樹〕の葉のように、父の〔両の〕足を敬拝する。父の〔両の〕足を敬拝して、この言葉を説いた」〔と〕。

 

2125.(2155) 〔ジャーリが言った〕「父よ、ですが、母は、〔外に〕出ているのです。父よ、ですが、あなたは、わたしたちを施すのです。まずは、ともあれ、母に、お会したいのです。父よ、そこで、わたしたちを施すのです。

 

2126.(2156) 父よ、ですが、母は、〔外に〕出ているのです。父よ、ですが、あなたは、わたしたちを施すのです。父よ、あなたは、わたしたちを施してはいけません。まずは、ともあれ、母が、わたしたちのもとに来ていただき、そのとき、この婆羅門は、欲するままに、〔わたしたちを〕売るなり、あるいは、殺すなりすればいいのです。

 

2127.(2157) 鶴の足、黒の爪、さらに、垂れ下がった〔脛の〕団〔肉〕、長い上唇、軽薄で、出っ歯で、潰れた鼻。

 

2128.(2158) 瓶の腹、潰れた背、さらに、変な眼で、赤の髭、黄の髪、皺があり、斑点だらけ。

 

2129.(2159) そして、醜い赤眼で、そして、腰曲がりで、そして、汚物で、大柄で、粗野で、そして、諸々の皮衣を着込んだ、人間ではなく、恐ろしいやつです。

 

2130.(2160) 人間なのか、それとも、夜叉なのか、肉と血を食べる者が、村から林にやってきて、父よ、あなたに、財を乞い求めます。

 

2131.(2161) 〔わたしが〕魔物に連れて行かれているときに、父よ、いったい、どうして、凝視するのですか。あなたの心臓は、まちがいなく、石です。鉄でできていて固く結ばれています。

 

2132.(2161) すなわち、わたしたちが縛られているのを、〔あなたは〕知りません──財を探し求める婆羅門に、とてつもなく残忍な者に、〔わたしたちが縛られているのを〕。彼は、わたしたちを、牛であるかのようになぐります。

 

2133.(2162) カンハーは、まさしく、ここで暮らすのです。彼女は、何ごとについても知りません。群れからはぐれた、乳をほしがる雌鹿のように、泣き叫びます。

 

2134.(2163) まさに、人として得るであろう、この〔苦しみ〕は、そのような苦しみは、これは、わたしにとって、〔苦しみでは〕ありません。ですが、すなわち、〔わたしが〕母を見ないなら、それは、わたしにとって、この〔苦しみ〕よりも、さらなる苦しみとなります。

 

2135.(2164) まさに、人として得るであろう、この〔苦しみ〕は、そのような苦しみは、これは、わたしにとって、〔苦しみでは〕ありません。ですが、すなわち、〔わたしが〕父を見ないなら、それは、わたしにとって、この〔苦しみ〕よりも、さらなる苦しみとなります。

 

2136.(2165) 彼女は、まちがいなく、母は、困窮し、長夜に泣き叫ぶでしょう──典雅なる見た目ある童女を、カンハージナーを、見ずにいる〔母〕は。

 

2137.(2166) 彼は、まちがいなく、父は、困窮し、長夜に泣き叫ぶでしょう──典雅なる見た目ある童女を、カンハージナーを、見ずにいる〔父〕は。

 

2138.(2167) 彼女は、まちがいなく、母は、困窮し、庵所のなかで、長きにわたり泣き叫ぶでしょう──典雅なる見た目ある童女を、カンハージナーを、見ずにいる〔母〕は。

 

2139.(2168) 彼は、まちがいなく、父は、困窮し、庵所のなかで、長きにわたり泣き叫ぶでしょう──典雅なる見た目ある童女を、カンハージナーを、見ずにいる〔父〕は。

 

2140.(2169) 彼女は、まちがいなく、母は、困窮し、長夜に泣き叫ぶでしょう。あるいは、真夜中であれ、あるいは、夜のあいだであれ、川のように干上がるでしょう。

 

2141.(2170) 彼は、まちがいなく、父は、困窮し、長夜に泣き叫ぶでしょう。あるいは、真夜中であれ、あるいは、夜のあいだであれ、川のように干上がるでしょう。

 

2142.(2171) それらの、諸々のジャンブ〔樹〕が、諸々のヴェーディサ〔樹〕が、諸々のシンドゥヴァーラカ〔樹〕が、これらの木々があります。様々な種類の木の類を、それらを、今日、〔わたしたちは〕捨棄するのです。

 

2143.(2172) 諸々のアッサッタ〔樹〕が、そして、諸々のパナサ〔樹〕が、さらに、諸々のニグローダ〔樹〕が、諸々のカピッタナ〔樹〕が、これら〔の木々〕があります。様々な種類の果の類を、それらを、今日、〔わたしたちは〕捨棄するのです。

 

2144.(2173) これらの林園が依って立つ、この冷たい水の川があります。そこにおいて、まさに、過去において、〔わたしたちは〕遊び戯れるも、それらを、今日、〔わたしたちは〕捨棄するのです。

 

2145.(2174) 様々な種類の花の類が、この山の上にあります。それらを、まさに、過去において、〔わたしたちは〕保持するも、それらを、今日、〔わたしたちは〕捨棄するのです。

 

2146.(2175) 様々な種類の果の類が、この山の上にあります。それらを、まさに、過去において、〔わたしたちは〕受益するも、それらを、今日、〔わたしたちは〕捨棄するのです。

 

2147.(2176) わたしたちの、これらの象や馬〔の玩具〕があります。そして、わたしたちの、これらの牛〔の玩具〕があります。それらによって、まさに、過去において、〔わたしたちは〕遊び戯れるも、それらを、今日、〔わたしたちは〕捨棄するのです」〔と〕。

 

2148.(2177) 〔世尊は言った〕「連れて行かれながら、童子たちは、彼らは、父に、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。〔ジャーリが言った〕「母に、無病なることを説くのです。父よ、さらに、あなたも、安楽の者として有れ。

 

2149.(2178) わたしたちの、これらの象や馬〔の玩具〕があります。そして、わたしたちの、これらの牛〔の玩具〕があります。母に、それらを与えるのです。それらによって、憂いを取り除くでしょう。

 

2150.(2179) わたしたちの、これらの象や馬〔の玩具〕があります。そして、わたしたちの、これらの牛〔の玩具〕があります。母は、それらを凝視しながら、憂いを取り除くでしょう」〔と〕。

 

2151.(2180) 〔世尊は言った〕「そののち、ヴェッサンタラは、王は、財を施して、士族は、草庵に入って、悲しみのままに嘆いた」〔と〕。

 

2152.(2181) 〔菩薩は言った〕「はてさて、どうであろう、今日、幼児たちは、飢え、渇き、泣き叫んでいるのだろうか。夕方、横たわる時には、誰が、食料を、彼らに与えるのだろうか。

 

2153.(2182) はてさて、どうであろう、今日、幼児たちは、飢え、渇き、泣き叫んでいるのだろうか。夕方、横たわる時には、『母よ、わたしたちは存しています──飢えた者たちとして。わたしたちに、〔食べるものを〕与えてください』〔と〕。

 

2154.(2183) いったい、どのように、〔彼らは〕道を赴くのだ──徒歩になり、履物なく、疲労し、膨らんだ〔両の〕足で。誰が、彼らの手を掴むのだ。

 

2155.(2184) いったい、どのように、彼は、恥じずにいられるのだ──わたしの面前で、汚れなき子たちを打ちながら。まさに、恥〔の思い〕なき婆羅門だ。

 

2156.(2185) すなわち、また、わたしに、奴婢や奴隷が存するとして、また、あるいは、他に、下僕が〔存するとして〕、たとえ、彼が、極めて下劣なるも、恥〔の思い〕あるなら、誰が、打つというのだ。

 

2157.(2186) 網の入り口にいる捕縛された魚のように存しているわたしが、見ていないとして、愛しい子たちを、罵倒し、打つのだ。

 

2158.(2187) それでは、弓を掴んで、左に剣を結んで、自らの子たちを連れ戻すのだ。まさに、子たちへの殴打は、苦しみだ。

 

2159.(2188) すなわち、童子たちが打ちのめされるのは、これは、苦しみの形態にして、状況なきことである(理不尽である)。しかしながら、正しくある者たちの法(正義)を了知して、〔布施を〕施して〔そののち〕、誰が、悩み苦しむというのだろう」〔と〕。

 

2160.(2189) 〔ジャーリが言った〕「真に、まさに、ここに、一部の人たちは、このように言った。『彼に、自らの母が存在しないなら、存在しない、そのとおりに、まさしく、そのように、彼はある』〔と〕。

 

2161.(2190) カンハーよ、さあ、死のう。わたしたちにとって、生命に義(意味)は存在しない。施された者たちとして、〔わたしたちは〕存在する。かくのごとく、人のインダによって、財を探し求める婆羅門に、とてつもなく残忍な者に、〔施された者たちとして〕。彼は、わたしたちを、牛であるかのようになぐる。

 

2162.(2191) それらの、諸々のジャンブ〔樹〕が、諸々のヴェーディサ〔樹〕が、諸々のシンドゥヴァーラカ〔樹〕が、これらの木々がある。カンハーよ、様々な種類の木の類を、それらを、〔わたしたちは〕捨棄するのだ。

 

2163.(2192) そして、諸々のアッサッタ〔樹〕が、かつまた、諸々のパナサ〔樹〕が、さらに、諸々のニグローダ〔樹〕が、諸々のカピッタナ〔樹〕が、これら〔の木々〕がある。カンハーよ、様々な種類の果の類を、それらを、〔わたしたちは〕捨棄するのだ。

 

2164.(2193) これらの林園が依って立つ、この冷たい水の川がある。そこにおいて、まさに、過去において、〔わたしたちは〕遊び戯れるも、カンハーよ、それらを、〔わたしたちは〕捨棄するのだ。

 

2165.(2194) 様々な種類の花の類が、この山の上にある。それらを、まさに、過去において、〔わたしたちは〕保持するも、カンハーよ、それらを、〔わたしたちは〕捨棄するのだ。

 

2166.(2195) 様々な種類の果の類が、この山の上にある。それらを、まさに、過去において、〔わたしたちは〕受益するも、カンハーよ、それらを、〔わたしたちは〕捨棄するのだ。

 

2167.(2196) わたしたちの、これらの象や馬〔の玩具〕がある。そして、わたしたちの、これらの牛〔の玩具〕がある。それらによって、まさに、過去において、〔わたしたちは〕遊び戯れるも、カンハーよ、それらを、〔わたしたちは〕捨棄するのだ」〔と〕。

 

2168.(2197) 〔世尊は言った〕「連れて行かれながら、童子たちは、彼らは、婆羅門〔の手〕を解き放って、ジャーリは、かつまた、カンハージナーは、両者ともに、そこかしこに逃げ走った。

 

2169.(2198) そののち、その婆羅門は、縄を取って、かつまた、杖を取って、彼らを打ちながら、連れて行く──シヴィ王が、見ているところを。

 

2170.(2199) 〔まさに〕その、彼に、カンハージナーは言った」〔と〕。〔カンハージナーが言った〕「お父さま、この婆羅門は、鞭で、わたしを打ちます──家に生まれた奴婢を〔打つ〕ように。

 

2171.(2200) お父さま、だから、このひとは、婆羅門ではありません。法(正義)にかなうひとたちが、婆羅門と成るのです。お父さま、夜叉が、婆羅門の姿で、わたしたちを、食べてしまうために連れて行きます。〔わたしが〕魔物に連れて行かれているときに、お父さま、いったい、どうして、凝視するのですか。

 

2172.(2201) わたしたちの、これらの〔両の〕足が苦しい。そして、長い旅は、とてもたいへん。そして、お日さまが低く垂れているのに、でも、婆羅門は、わたしたちを追い立てます(※)。

 

※ テキストには dhāreti とあるが、PTS版により tareti と読む。

 

2173.(2202) 〔わたしたちは〕泣き叫びます──精霊たちに、山たちに、そして、林たちに。〔わたしたちは〕頭で敬拝します──池に、そして、美しい岸辺の川にたいし。

 

2174.(2203) 草や蔓たちは、薬草たちは、山たちは、そして、林たちは、お母さまに、無病なることを説いてください。この婆羅門は、わたしたちを連れて行きます。

 

2175.(2204) そして、あなたたちは、お母さまのマッディーに、わたしたちのお母さまに、説くのです。『それで、もし、追いかけることを欲する者として、〔あなたが〕存しているなら、すみやかに、わたしたちを追いかけるのです。

 

2176.(2205) この一本〔道〕が至り行きます。庵所へと、真っすぐに赴きます。まさしく、その〔道〕を、〔あなたが〕追いかけるなら、すぐに、また、彼らに会えるのです』〔と〕。

 

2177.(2206) ああ、まさに、まあ、髪を巻き上げた〔お母さま〕、林の根や果を運ぶ〔お母さま〕、空の庵所を見て、それは、あなたにとって、苦しみと成るでしょう。

 

2178.(2207) たぶん、とっても、たくさんの落穂が、お母さまに得られたのです。それで、〔お母さまは〕知らないのです──財を探し求める婆羅門に、わたしたちが縛られているのを──

 

2179.(2207・2208) とてつもなく残忍な者に、〔わたしたちが縛られているのを〕。彼は、わたしたちを、牛であるかのようになぐります。でも、いま、お母さまと会いたい──夕方に、落穂集めから帰った〔お母さま〕に。

 

2180.(2208・2209) お母さまは、婆羅門に、小さなものと混ぜた果を施すでしょう。そのとき、このひとは、〔それを〕食べ、満腹し、わたしたちを、はげしく追い立てないでしょう(※)。

 

※ テキストには dhārayeyya とあるが、PTS版により tarayeyya と読む。

 

2181.(2209) でも、わたしたちの〔両の〕足は、まさに、膨らみ、婆羅門は、はげしく追い立てます(※)」〔と〕。〔世尊は言った〕「そこにおいて、童子たちは、母にたいし貪求ある者たちは、かくのごとく、悲嘆したのだった」〔と〕。

 

※ テキストには dhāreti とあるが、PTS版により tāreti と読む。

 

 〔以上が〕幼児の部ということになる。

 

22. 1. 10. 9. マッディーの部

 

2182.(2210) 〔世尊は言った〕「彼らの泣き叫びを聞いて、林のなかにいる、三者の猛々しい獣たちは──獅子は、そして、虎は、さらに、豹は──この言葉を説いた」〔と〕。

 

2183.(2211) 〔獣たちが言った〕「まさしく、まさに、わたしたちの王妃(マッディー)が、夕方に、落穂集めから帰ることがあってはならない。まさしく、まさに、わたしたちの受益なきところで、林のなかの獣たちが、〔王妃を〕傷つけることがあってはならない。

 

2184.(2212) そして、獅子が、彼女を悩み苦しめるなら、虎が、さらに、豹が、〔美しき〕特相ある者を〔悩み苦しめるなら〕、童子のジャーリは、まさしく、〔世に〕存在しないであろう。どうして、カンハージナーが、〔世に〕存在するというのだろう。〔美しき〕特相ある者は、亭主を、そして、子たちを、まさしく、両者ともに失うであろう」〔と〕。

 

2185.(2213) 〔マッディーが言った〕「わたしの鋤は落ち、さらに、右眼は震えおののく。果のある木々は果なく、わたしの全ての方角は迷い乱れる」〔と〕。

 

2186.(2214) 〔世尊は言った〕「夕刻の時になり、彼女が庵所に帰る頃、太陽が滅却に至ったとき、道に、猛獣たちが近しく立った」〔と〕。

 

2187.(2215) 〔マッディーが言った〕「そして、太陽は低く垂れるも、しかしながら、まさに、庵所は遠い。そして、すなわち、彼らのために、〔わたしが〕ここから運ぶ、〔まさに〕その、食料を、彼らが食べるのに。

 

2188.(2216) 彼は、士族は、まちがいなく、独りで、草庵に暮らします。空腹の幼児たちをあやしながら。わたしが帰り至らないのを見て。

 

2189.(2217) 彼らは、わたしの子供たちは、まちがいなく、困窮し、惨めにしています。夕方、横たわる時には、乳を飲む者たちであるかのように暮らすでしょう。

 

2190.(2218) 彼らは、わたしの子供たちは、まちがいなく、困窮し、惨めにしています。夕方、横たわる時には、水を飲む者たちであるかのように暮らすでしょう。

 

2191.(2219) 彼らは、わたしの子供たちは、まちがいなく、困窮し、惨めにしています。わたしを出迎え、母を〔待つ〕幼い子牛たちのように立っています。

 

2192.(2220) 彼らは、わたしの子供たちは、まちがいなく、困窮し、惨めにしています。わたしを出迎え、湖の上を〔飛ぶ〕白鳥たちのように立っています。

 

2193.(2221) 彼らは、わたしの子供たちは、まちがいなく、困窮し、惨めにしています。わたしを出迎え、庵所から遠く離れていないところに立っています。

 

2194.(2222) 道は一つなのです。路は一つなのです。脇には、諸々の池があり、さらに、諸々の溝があります。〔わたしは〕他の道を見ません。それによって、〔わたしが〕庵所に赴く、〔そのような道を〕。

 

2195.(2223) 獣の王たちよ、森のなかの大いなる力ある者たちよ、〔あなたたちに〕礼拝が存せ。〔あなたたちは〕法(性質)からして、〔わたしたちの〕兄弟として〔世に〕有ります(王族同士である)。道を、わたしに与えてください──乞い求められた者たちとして。

 

2196.(2224) わたしは、〔国土から〕放逐された吉祥なる王子の妻です。かつまた、彼のことを、わたしが軽んじることはありません──互恵の者であるシーターが、ラーマを〔敬慕する〕ように。

 

2197.(2225) そして、あなたたちは、夕方、横たわる頃、〔自身の〕子たちを見ますし、かつまた、わたしも、子たちを見るでしょう──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2198.(2226) そして、この、多くの根と果があり、さらに、この、少なからざる食物があります。それから半分を、〔あなたたちに〕施します。道を、わたしに与えてください──乞い求められた者たちとして。

 

2199.(2227) そして、わたしたちの母は、王族であり、かつまた、わたしたちの父も、王族です。〔あなたたちは〕法(性質)からして、〔わたしたちの〕兄弟として〔世に〕有ります。道を、わたしに与えてください──乞い求められた者たちとして」〔と〕。

 

2200.(2228) 〔世尊は言った〕「泣き叫んでいる彼女の、多くの慈悲〔の思い〕を伴った情け深い言葉を聞いて、猛獣たちは、道から立ち去った」〔と〕。

 

2201.(2229) 〔マッディーが言った〕「それで、この地においては、砂だらけの子供たちが、わたしを出迎え、母を〔待つ〕幼い子牛たちのように立っている。

 

2202.(2230) それで、この地においては、砂だらけの子供たちが、わたしを出迎え、湖の上を〔飛ぶ〕白鳥たちのように立っている。

 

2203.(2231) それで、この地においては、砂だらけの子供たちが、わたしを出迎え、庵所から遠く離れていないところに立っている。

 

2204.(2232) 二者の鹿のように耳を立て、遍きにわたり走り行き、歓嘆の者たちとなり、歓喜した者たちとなり、まさしく、飛び跳ねながら、動いている。彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ない──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2205.(2233) 子獣を〔置き去りにした〕雌の山羊のように、籠から解き放たれた鳥のように、子たちを捨棄して、〔庵所を〕出た──餌にたいし貪求ある獅子のように。彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ない──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2206.(2234) 山に象たちの〔足跡がある〕ように、彼らのこの足跡があるのに、庵所から遠く離れていないところに、〔砂遊びの砂が〕積み上げられ、撒き散らかっているのに、彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ない──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2207.(2235) ともあれ、砂にまみれた砂だらけの子供たちが、遍きにわたり走り行くのに、彼らを、幼児たちを、〔わたしは〕見ない。

 

2208.(2236) かつて、彼らは、遠く林からやってくるわたしを出迎えるのに、彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ない──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2209.(2237) 雌の山羊を〔見つめる〕子獣たちのように、母を出迎えて、遠く、わたしを眺め見るのに、彼らを、幼児たちを、〔わたしは〕見ない。

 

2210.(2238) 彼らのこの玩具が、黄色い栃の実が、落ちているのに、彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ない──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2211.(2239) そして、わたしのこれらの〔両の〕乳房は、〔不安に〕満ち溢れ、さらに、胸は、〔不安で〕破れ去る。彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ない──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2212.(2240) 一者は、膝を尋ね求め、一者は、乳房に垂れ下がる。彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ない──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2213.(2241) すなわち、まさに、夕刻時には、砂だらけの子供たちが、わたしの膝のうえで転がり回るのに、彼らを、幼児たちを、〔わたしは〕見ない。

 

2214.(2242) 過去において、この庵所は、それは、わたしにとって、祭礼〔の場〕であるかに思えるのに、彼らを、子たちを、今日、見ずにいる〔わたし〕にとって、庵所は、迷走するかのようなもの。

 

2215.(2243) 何なのだろう、この庵所は、わたしにとって、まさしく、声少なくあるかに思え、大烏たちもまた、鳴き声をあげない。わたしの幼児たちは、まちがいなく、死んだのだ。

 

2216.(2244) 何なのだろう、この庵所は。わたしにとって、まさしく、声少なくあるかに思え、鳥たちもまた、鳴き声をあげない。わたしの幼児たちは、まちがいなく、死んだのだ」〔と〕。

 

2217.(2245) 〔菩薩に、マッディーが言った〕「何なのでしょう、これは。〔あなたは〕存しています──沈黙の状態で。わたしの意は、真夜中にあるかのようです。大烏たちもまた、鳴き声をあげません。わたしの幼児たちは、まちがいなく、死んだのです。

 

2218.(2246) 何なのでしょう、これは。〔あなたは〕存しています──沈黙の状態で。わたしの意は、真夜中にあるかのようです。鳥たちもまた、鳴き声をあげません。わたしの幼児たちは、まちがいなく、死んだのです。

 

2219.(2247) 旦那様、いったい、どういうことなのですか。獣たちが、わたしの幼児たちを喰ったのですか。林のなかで、荒地のなかで、荒野のなかで、わたしの幼児たちは、誰に連れて行かれたのですか。

 

2220.(2248) それとも、彼らは、使者たちとして派遣されたのですか。それとも、愛語の者たちは、眠っているのですか。それとも、まさに、外に出たまま、今も、彼らは、諸々の遊興を追い求めているのですか。

 

2221.(2249) 彼らの、諸々の髪は、さらに、〔飾り〕網をした〔両の〕手と足は、まさしく、見えません。さてまた、鳥たちが襲来したのですか。わたしの幼児たちは、誰に連れて行かれたのですか。

 

2222.(2250) たとえば、矢に貫かれた傷があるとして、これは、それよりも、さらなる苦しみです。彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ません──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2223.(2251) これもまた、第二の矢となり、わたしの心臓を動かします。すなわち、そして、子たちを、〔わたしは〕見ず、さらに、わたしに、あなたは〔何も〕語りません。

 

2224.(2252) 王子よ、まさしく、今日、この夜、わたしに、〔あなたは何も〕指し示しません。思うに、早朝に、疲れ果て死んでしまったわたしを、まさに、〔あなたは〕見るでしょう」〔と〕。

 

2225.(2253) 〔菩薩は言った〕「まちがいない──優美にして崇高なるマッディーではないか、福徳ある王妃ではないか。〔あなたは〕存している──早朝に落穂集めに赴いた者として。どうであろう、これは──夕方に帰り来たとは」〔と〕。

 

2226.(2254) 〔マッディーが言った〕「まちがいなく、あなたは、〔彼らの〕声を聞いたはずです。彼らが、池に〔水を〕飲みにやってきたのです。吼え叫んでいる獅子の〔声を〕もまた〔聞き〕、さらに、虎の唸るところを〔聞いたはずです〕。

 

2227.(2255) 密林のなかを渡り歩いているわたしに、前兆が有りました。鋤が、わたしの手から落ち、さらに、また、吊り紐も、肩から〔落ちたのです〕。

 

2228.(2256) そのとき、わたしは、動揺し、恐怖し、多々に合掌を為して、一切の方角に礼拝しました。『これからも、安穏がまた、存しますように。

 

2229.(2257) まさしく、まさに、獅子によって、豹によって、まさに、王子が、殺されることがあってはなりません。あるいは、幼児たちが、熊や狼や鬣狗(ハイエナ)たちに襲われることが〔あってはなりません〕』〔と〕。

 

2230.(2258) 獅子は、そして、虎は、さらに、豹は、林のなかにいる、三者の猛々しい獣たちは、彼らは、わたしの道を遍く妨げました。それで、〔わたしは〕夕方に帰り来たのです。

 

2231.(2259) わたしは、そして、亭主に、さらに、子たちに、師匠に〔仕える〕学徒のように、昼夜に奉仕してきた者です──結髪者となり、梵行者となり。

 

2232.(2260) 諸々の皮衣をまとって、諸々の林の根や果を運んで、昼夜に渡り歩きます──子供たちよ、まさに、あなたたちを欲する者として。

 

2233.(2261) わたしは、黄金色の鬱金を、運び込んだ黄色い栃の実を、さらに、諸々の木の実を、持って帰りました。『子よ、これらは、あなたたちの玩具ですよ』〔と〕。

 

2234.(2262) この蓮根の玉を、蓮根を、チンチャ〔樹〕の実を、諸々の小さなものと合わせ、士族よ、子たちと共に食べてください。

 

2235.(2263) 赤蓮を、ジャーリに与えてください。さらに、白蓮を、童女に〔与えてください〕。花飾をつけ踊っている者たちを見てください。シヴィ〔王〕よ、子たちを呼んでください。

 

2236.(2264) 車上の雄牛よ、そののち、カンハージナーの〔言葉を〕もまた、聞いてやってください──美妙なる声ある麗美なる〔カンハージナー〕の〔言葉を〕、庵所へと近づきつつある〔カンハージナー〕の〔言葉を〕。

 

2237.(2265) 楽苦を等しくする者たちとして、〔わたしたちは〕存しています──国土から追放された者たちとして、両者ともに。シヴィ〔王〕よ、ともあれ、〔あなたは〕子たちを見ます──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2238.(2266) まちがいなく、沙門たちに、婆羅門たちに、梵行を行き着く所とする者たちに、戒ある多聞の者たちに、わたしは、世において、呪いをかけたのです。彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ません──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2239.(2267) それらの、諸々のジャンブ〔樹〕が、諸々のヴェーディサ〔樹〕が、諸々のシンドゥヴァーラカ〔樹〕が、これらの木々があります。様々な種類の木の類があるのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2240.(2268) そして、諸々のアッサッタ〔樹〕が、かつまた、諸々のパナサ〔樹〕が、さらに、諸々のニグローダ〔樹〕が、諸々のカピッタナ〔樹〕が、これら〔の木々〕があります。様々な種類の果の類があるのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2241.(2269) これらの林園が依って立つ、この冷たい水の川があります。そこにおいて、まさに、過去において、〔彼らは〕遊び戯れたのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2242.(2270) 様々な種類の花の類が、この山の上にあります。それらを、まさに、過去において、〔彼らは〕保持したのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2243.(2271) 様々な種類の果の類が、この山の上にあります。それらを、まさに、過去において、〔彼らは〕受益したのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2244.(2272) それらのものが、これらの象や馬〔の玩具〕があります。そして、それらのものが、これらの牛〔の玩具〕があります。それらによって、まさに、過去において、〔彼らは〕遊び戯れたのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2245.(2273) 褐色の兎や梟たちが、多くのカダリー鹿たちが、これら〔の獣たち〕がいます。それらによって、まさに、過去において、〔彼らは〕遊び戯れたのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2246.(2274) そして、白鳥たちが、さらに、白鷺たちが、彩りあざやかな尾翼ある孔雀たちが、これら〔の鳥たち〕がいます。それらによって、まさに、過去において、〔彼らは〕遊び戯れたのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2247.(2275) それらの、全ての時に花ひらいている林の茂みが、これら〔の林の茂み〕があります。そこにおいて、まさに、過去において、〔彼らは〕遊び戯れたのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2248.(2276) それらの、鴛鴦たちが鳴き、諸々のマンダーラカ〔蓮〕に等しく覆われ、さらに、諸々の赤蓮や青蓮に〔等しく覆われた〕、諸々の喜ばしき蓮池が、これら〔の蓮池〕があります。そこにおいて、まさに、過去において、〔彼らは〕遊び戯れたのに、彼らは、童子たちは、見えません。

 

2249.(2277) 諸々の薪は、あなたによって折られず、水は、あなたによって運ばれず、祭火もまた、あなたによって捧げられず、いったい、どうして、愚か者のように思い惑うのですか。

 

2250.(2278) 愛しき者が愛しき者と一緒になって、わたしの疲れは打ち砕かれるのに、彼らを、子たちを、今日、〔わたしは〕見ません──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。

 

2251.(2279) 陛下よ、まったくもって、まさに、〔わたしは〕見ません──死んだ彼らが、どこやらに運び出されたとして。大烏たちもまた、鳴き声をあげません。わたしの幼児たちは、まちがいなく、死んだのです。

 

2252.(2280) 陛下よ、まったくもって、まさに、〔わたしは〕見ません──死んだ彼らが、どこやらに運び出されたとして。鳥たちもまた、鳴き声をあげません。わたしの幼児たちは、まちがいなく、死んだのです」〔と〕。

 

2253.(2281) 〔世尊は言った〕「彼女は、そこにおいて嘆き悲しんで、諸々の山に〔赴いて〕、そして、諸々の林に〔赴いて〕、まさしく、ふたたび、庵所に赴いて、主人の現前において泣き叫んだ」〔と〕。

 

2254.(2282) 〔マッディーが言った〕「陛下よ、まったくもって、まさに、〔わたしは〕見ません──死んだ彼らが、どこやらに運び出されたとして。大烏たちもまた、鳴き声をあげません。わたしの幼児たちは、まちがいなく、死んだのです。

 

2255.(2283) 陛下よ、まったくもって、まさに、〔わたしは〕見ません──死んだ彼らが、どこやらに運び出されたとして。鳥たちもまた、鳴き声をあげません。わたしの幼児たちは、まちがいなく、死んだのです。

 

2256.(2284) 陛下よ、まったくもって、まさに、〔わたしは〕見ません──死んだ彼らが、どこやらに運び出されたとして。諸々の木の根において、諸々の山において、さらに、諸々の洞窟において、渡り歩きながらも(※)、〔彼らを見ません〕」〔と〕。

 

※ テキストには Vicaranti とあるが、PTS版により Vicarantī と読む。

 

2257.(2285) 〔世尊は言った〕「かくのごとく、優美にして崇高なるマッディーは、福徳ある王妃は、〔両の〕腕を突き上げて泣き叫んで、まさしく、そこにおいて、地に倒れ落ちたのだった。

 

2258.(2286) 〔ヴェッサンタラは〕彼女のもとに至り行き、王妃に水を降り注いだ。彼女が落ち着いたのを見出して、そこで、彼女に、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。

 

2259.(2287) 〔菩薩は言った〕「マッディーよ、まさしく、最初に、苦しみを、あなたに告げ知らせることを、〔わたしは〕求めなかった。貧しく年長けた婆羅門が、乞い求める者として、家にやってきたのだ。

 

2260.(2288) 子たちは、わたしによって、彼に施されたのだ。マッディーよ、恐れてはならない。落ち着きなさい。マッディーよ、わたしを見なさい。子たちを〔見ては〕ならない。激しく嘆き悲しんではならない。生きているなら、子たちを得よう。そして、〔わたしたちは〕無病の者たちとして、〔世に〕有るのだ。

 

2261.(2289) 子たちを、そして、家畜を、そして、穀物を、さらに、すなわち、他の、家にある財産も、正なる人士は、布施として施すべきなのだ──乞い求める者がやってきたのを見て〔そののちは〕。マッディーよ、わたしに随喜せよ──子供たちを、最上の布施を〔施して〕」〔と〕。

 

2262.(2290) 〔マッディーが言った〕「陛下よ、あなたに随喜します──子供たちを、最上の布施を〔施して〕。〔あなたは〕施して〔そののち〕、心を清信させたまえ。より一層、布施を施す者と成りたまえ。

 

2263.(2291) 人の君主よ、すなわち、あなたは、物惜の生類たる人間たちのなかにありながら、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者として、婆羅門に、布施を施しました。

 

2264.(2292) 地は、あなたのために吼え叫び、あなたの声は、三十三〔天〕に行き及び、諸々の雷光は、まさしく、山々に反響し、遍きにわたり到来しました。

 

2265.(2293) 〔まさに〕その、あなたに、ナーラダとパッバタは、両者ともに随喜します。そして、インダ(帝釈天)は、ブラフマー(梵天)は、パジャーパティは、ソーマは、ヤマは、ヴェッサヴァナ(毘沙門天)は、全ての天〔の神々〕たちは、インダを含む三十三〔天の神々〕たちは、〔あなたに〕随喜します」〔と〕。

 

2266.(2294) 〔世尊は言った〕「かくのごとく、優美にして崇高なるマッディーは、福徳ある王妃は、ヴェッサンタラに随喜した──子供たちを、最上の布施を〔施して〕」〔と〕。

 

 〔以上が〕マッディーの部ということになる。

 

22. 1. 10. 10. 帝釈天の部

 

2267.(2295) 〔世尊は言った〕「そののち、夜の明け方に、日の出に向かい、帝釈〔天〕は、婆羅門の姿で、早朝に、彼らのもとに現われた」〔と〕。

 

2268.(2296) 〔帝釈天が尋ねた〕「はてさて、どうでしょう、貴君には、健やかにあられますか。どうでしょう、貴君には、悩みなくあられますか。どうでしょう、〔あなたは〕落穂によって〔身を〕保ち行きますか。どうでしょう、多くの根や果がありますか。

 

2269.(2297) どうでしょう、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくありますか。どうでしょう、猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、害は見出されませんか」〔と〕。

 

2270.(2298) 〔菩薩は答えた〕「梵よ、まさしく、そして、わたしたちには、健やかにあります。梵よ、さらに、悩みなくあります。そこで、〔わたしたちは〕落穂によって〔身を〕保ち行きます。さらに、多くの根や果があります。

 

2271.(2299) そこで、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくあります。猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、わたしたちに、害は見出されません。

 

2272.(2300) わたしたちは、七月のあいだ、生の憂いある者たちとして、林のなかに住していますが、これは、第二の方として、婆羅門を、天の色艶ある方を、見ます──ベールヴァ〔樹〕の杖を取って、網状の皮衣を〔身に〕付けている〔あなた〕を。

 

2273.(2301) 大いなる梵よ、あなたにとって、善き訪問と〔成れ〕。さらに、あなたにとって、悪しき訪問ならざるものと〔成れ〕。内に入りたまえ。あなたに、幸せ〔有れ〕。あなたの〔両の〕足を洗いたまえ。

 

2274.(2302) 諸々のティンドゥカ〔の果〕を、諸々のピヤーラ〔の果〕を、諸々のマドゥカ〔の果〕を、諸々のカースマーリー〔の果〕を、小さく少なきものではありますが、諸々の果を、梵よ、優れたもの、優れたものを、お食べください。

 

2275.(2302) 山窟から運び込んだ、冷たい、この飲み物をもまた、大いなる梵よ、それで、もし、あなたがお望みなら、そののち、お飲みください」〔と〕。

 

2276.(2304) 〔菩薩は尋ねた〕「そこで、あなたは、何を理由に、また、あるいは、何を因に、密林に至り得たのですか。〔問いを〕尋ねられた者として、それを、わたしに告げ知らせてください」〔と〕。

 

2277.(2305) 〔帝釈天が答えた〕「あたかも、満ち溢れる水流が、全ての時に尽きないように、このように、あなたに乞い求めるために、〔わたしは〕やってきた。乞い求められた者として、わたしに、妻を施したまえ」〔と〕。

 

2278.(2306) 〔菩薩は言った〕「動揺することなく、施しましょう。婆羅門よ、それを、〔あなたが〕わたしに乞い求めるなら。〔わたしは〕所有するものを隠しません。わたしの意は、布施を喜びます」〔と〕。

 

2279.(2307) 〔世尊は言った〕「マッディーの手を掴んで、〔清めの〕水のための長口の水瓶を〔掴んで〕、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者は、婆羅門に、布施として施した。

 

2280.(2308) そのとき、すなわち、恐るべきことが存した。そのとき、身の毛のよだつことが存した。〔ヴェッサンタラが〕マッディーを遍捨していると、地は等しく激動した。

 

2281.(2309) 彼女は、マッディーは、まさしく、渋面の者とならず、怨むこともなく、泣くこともなく、彼女は、沈黙のまま、まさしく、彼の〔顔を〕見る。『この方は知る──すなわち、優れたものを』」〔と〕。

 

2281.(2310) 〔菩薩は言った〕「ジャーリを、娘のカンハージナーを、亭主に掟あるマッディー妃を、〔彼らを〕献じつつ、〔わたしは、何も〕思い考えなかった(まったく後悔しなかった)──まさしく、覚りのために、契機たることから。(※)

 

※ テキストは本偈を欠くが、PTS版により補う。

 

2281.(2311) わたしにとって、子たちは、両者ともに、嫌うべき者たちにあらず。マッディー妃は、嫌うべき者にあらず。わたしにとって、愛しきものは、一切知者たることであり、それゆえに、わたしは、愛しき者たちを施した」〔と〕。(※)

 

※ テキストは本偈を欠くが、PTS版により補う。

 

2282.(2312) 〔マッディーが言った〕「童女のわたしが、その者の妻となるなら、わたしにとって、〔その者は〕主人であり、イッサラです。〔主人であるあなたが〕彼のためにと求めるなら、彼に、わたしを施すなり、売るなり、あるいは、殺すなりすればよいのです」〔と〕。

 

2283.(2313) 〔世尊は言った〕「彼らの思惟を了知して、天のインダは、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。〔帝釈天が言った〕「それらが天のものであれ、さらに、それらが人間のものであれ、諸々の害障は、それらの全てが、〔あなたによって〕勝利された。

 

2284.(2314) 地は、あなたのために吼え叫び、あなたの声は、三十三〔天〕に行き及び、諸々の雷光は、まさしく、山々に反響し、遍きにわたり到来した。

 

〔まさに〕その、あなたに、ナーラダとパッバタは、両者ともに随喜します。そして、インダ(帝釈天)は、ブラフマー(梵天)は、パジャーパティは、ソーマは、ヤマは、ヴェッサヴァナ(毘沙門天)は、全ての天〔の神々〕たちは、インダを含む三十三〔天の神々〕たちは、〔あなたに〕随喜します。

 

2286.(2316) 施し難きものを施している者たちに、為し難き行為を為している者たちに、正しからざる者たちは従わない。正しくある者たちの法(性質)は、捉えどころがない。

 

2287.(2317) それゆえに、そして、正しくある者たちと正しからざる者たちには、ここから赴く所として、種々なる〔境遇〕が有る。正しからざる者たちは、地獄に行き、正しくある者たちは、天上を行き着く所とする。

 

2288.(2318) すなわち、この、林に住している〔あなた〕が、童子たちを施し、妻を施した、その〔功徳〕は、梵の乗物に従い行って、天上において、あなたのために実れ。

 

2289.(2319) 〔わたしは〕施す──貴君の妻を、全ての肢体が美しく輝くマッディーを。まさしく、そして、あなたは、マッディーに適する者であり、かつまた、マッディーは、亭主と共なる者である。

 

2290.(2320) たとえば、かつまた、乳が、かつまた、法螺貝が、両者ともに、色艶を等しくするように、このように、かつまた、あなたは、かつまた、マッディーは、意と心を等しくする者たちである。

 

2291.(2321) ここにおいて、林のなかに放逐され、両者ともに、庵所に在している。姓を伴った士族たちであり、母と父も善き生まれの者たちである。すなわち、諸々の功徳を作り為すままに、〔あなたたちは〕次から次に施している。

 

2292.(2322) わたしは、天のインダたる帝釈〔天〕として存している。あなたの前に到来した者として存している。聖賢たる王よ、願い事を願うのだ。あなたに、八つの願い事を与えよう」〔と〕。

 

2293.(2323) 〔菩薩は言った〕「帝釈〔天〕よ、一切の生類たちのイッサラよ、もし、願い事を、〔あなたが〕わたしに与えてくれたのなら、父が、わたしに随喜しますように。ここから自らの家に至り得た〔わたし〕を、坐に招きますように。第一に、この願い事を、〔わたしは〕願います。

 

2294.(2324) 人の殺戮を、〔わたしが〕選び取りませんように──たとえ、〔彼が〕罪障の作り手であるとして。殺戮されるべき者を、殺戮から、〔わたしが〕解き放ちますように。第二に、この願い事を、〔わたしは〕願います。

 

2295.(2325) すなわち、年長者たちは、かつまた、すなわち、年少者たちは、さらに、すなわち、中年の人たちも、まさしく、わたしに、依拠して生きますように。第三に、この願い事を、〔わたしは〕願います。

 

2296.(2326) 他者の妻のもとに、〔わたしが〕赴きませんように。自らの妻を追い求める者として、〔わたしが〕存しますように。婦女たちの支配に、〔わたしが〕赴きませんように。第四に、この願い事を、〔わたしは〕願います。

 

2297.(2327) 帝釈〔天〕よ、わたしに、子が生まれますように。そして、彼が、長寿の者として存しますように。法(正義)によって、地を勝ち得ますように。第五に、この願い事を、〔わたしは〕願います。

 

2298.(2328) そののち、夜の明け方に、日の出に向かい、諸々の天の食物が出現しますように。第六に、この願い事を、〔わたしは〕願います。

 

2299.(2329) 施しているわたしに、〔誰も〕憤慨しませんように。施して〔そののち〕、わたしが悩み苦しませんように。施している〔わたし〕が、心を清信させますように。第七に、この願い事を、〔わたしは〕願います。

 

2300.(2330) ここ(現世)から解き放たれつつ、わたしが、天上に赴く者となり、殊勝〔の境地〕に至る者となり、そこから退転なき者として存しますように。第八に、この願い事を、〔わたしは〕願います。

 

2301.(2331) 〔世尊は言った〕「彼の、その言葉を聞いて、天のインダは、この〔言葉〕を説いた」〔と〕。〔帝釈天が言った〕「長からずして、まさに、そののち、あなたの父が、あなたと会うために至り来るであろう」〔と〕。

 

2302.(2332) 〔世尊は言った〕「マガヴァントは、天の王たるスジャーの亭主は、この〔言葉〕を説いて、ヴェッサンタラに、願い事を与えて、天上の衆のもとへと立ち去った」〔と〕。

 

 〔以上が〕帝釈天の部ということになる。

 

22. 1. 10. 11. 大王の部

 

2303.(2333) 〔ジュージャカ一行を目にした王が言った〕「誰のものなのだ、光り輝く、この顔は。火で鍛えられた金のようであり、溶炉の口のなかで打たれた黄金の首飾のようである。

 

2304.(2334) 両者ともに、等しき肢体をもち、両者ともに、等しき特相をもち、一者は、ジャーリに等しく、一者は、あたかも、カンハージナーのようである。

 

2305.(2335) 洞窟から出た獅子のようであり、両者ともに、双対の形姿であり、これらの幼児たちは、まさしく、黄金で作られているかに見える」〔と〕。

 

2306.(2336) 〔ジュージャカに、王が尋ねた〕「バーラドヴァージャよ、貴君は、いったい、どこから、これらの幼児たちを連れてきたのだ。婆羅門よ、今日、国土に至り得た〔貴君〕は、どこに赴くのだ」〔と〕。

 

2307.(2337) 〔ジュージャカが答えた〕「陛下よ、サンジャヤよ、それらの幼児たちは、歓悦の者によって、わたしに施されました。すなわち、幼児たちが、わたしに得られてから、今日で、十五の夜となります」〔と〕。

 

2308.(2338) 〔王が尋ねた〕「あるいは、どのような、愛しき言葉によって、正しき正理によって、信を置くというのだろう。誰が、あなたに、この布施を施したのだ──子供たちを、最上の布施を」〔と〕。

 

2309.(2339) 〔ジュージャカが答えた〕「すなわち、乞い求める者たちにとっては、生類たちにとっての大地のように、立脚するものとして存した、彼が、林に住している、ヴェッサンタラが、王が、わたしに、子たちを施しました。

 

2310.(2340) すなわち、乞い求める者たちにとっては、諸々の流れにとっての海洋のように、赴く所として存した、彼が、林に住している、ヴェッサンタラが、王が、わたしに、子たちを施しました」〔と〕。

 

2311.(2341) 〔家臣たちが言った〕「ああ、まさに、王によって、信ある家主によって、悪しく為されたとして、いったい、どうして、林のなかに放逐された者が、子供たちを施すというのでしょう。

 

2312.(2342) 諸君よ、この〔言葉〕を、こころして聞きたまえ──ここにおいて集いあつまった、そのかぎりの者たちは。どうして、林に住している、ヴェッサンタラが、王が、子たちを施したというのでしょう。

 

2313.(2343) 彼は、奴婢を、そして、奴隷を、さらに、馬を、雌騾馬の車を、施すべきです。そして、クンジャラ象を施すべきです。どうして、彼が、幼児たちを施すというのでしょう」〔と〕。

 

2314.(2344) 〔ジャーリが言った〕「彼の家に、奴隷が存在せず、さらに、馬が〔存在せず〕、雌騾馬の車が〔存在せず〕、そして、クンジャラ象が〔存在せず〕、象が〔存在しないなら〕、祖父よ、彼は、何を施すというのでしょう」〔と〕。

 

2315.(2345) 〔王が尋ねた〕「子供たちよ、彼の布施を、〔わたしたちは〕賞賛し、かつまた、非難しない。いったい、どのように、〔彼の〕心臓は存したのかな──おまえたちを、乞食者にたいし施して」〔と〕。

 

2316.(2346) 〔ジャーリが答えた〕「彼の心臓は、苦しきものとして存しました。さらに、熱きものをもまた見ました。まさに、赤牛のような赤眼となり、父は、諸々の涙をこぼしました。

 

2317.(2347) すなわち、その〔言葉〕を、カンハージナーは言いました。『お父さま、この婆羅門は、鞭で、わたしを打ちます──家に生まれた奴婢を〔打つ〕ように。

 

2318.(2348) お父さま、だから、このひとは、婆羅門ではありません。法(正義)にかなうひとたちが、婆羅門と成るのです。お父さま、夜叉が、婆羅門の姿で、わたしたちを、食べてしまうために連れて行きます。〔わたしが〕魔物に連れて行かれているときに、お父さま、いったい、どうして、凝視するのですか』」〔と〕。

 

2319.(2349) 〔王が尋ねた〕「そして、おまえたちの母は、王妃であり、さらに、おまえたちの父は、王子である。過去においては、わたしの膝のうえに登って、いったい、どうして、〔今のおまえたちは〕遠くに立つのかな」〔と〕。

 

2320.(2350) 〔ジャーリが答えた〕「そして、わたしたちの母は、王妃であり、さらに、わたしたちの父は、王子です。〔しかしながら、今の〕わたしたちは、婆羅門の奴隷であり、それゆえに、〔わたしたちは〕遠くに立ちます」〔と〕。

 

2321.(2351) 〔王が尋ねた〕「愛しい者よ、このように言ってはならない。わたしの心臓が焼かれる。わたしの身体は、荼毘の薪山のうえにあるかのようだ。坐のうえにあるも、〔わたしは〕安楽を得ない。

 

2322.(2352) 愛しい者よ、このように言ってはならない。わたしに、より一層の憂いが生まれる。対価のものをもってして、〔おまえたちを〕買い戻そう。おまえたちが奴隷として〔世に〕有ることはないであろう。

 

2323.(2353) 親愛なる者よ、まさに、どのような価値あるものとして、父は、おまえたちを、婆羅門に施したのかな。事実のとおりに、わたしに告げ知らせなさい。婆羅門に施してやるのだ」〔と〕。

 

2324.(2354) 〔ジャーリが答えた〕「親愛なる方よ、まさに、千〔金〕の価値あるものとして、父は、わたしを、婆羅門に施しました。そこで、少女のカンハージナーを、そして、象〔の価値〕をもってして、さらに、百〔金の価値〕をもってして」〔と〕。

 

2325.(2355) 〔王が言った〕「侍官よ、急ぎ、出起せよ、婆羅門に与えよ。百者の奴婢を、百者の奴隷を、百の、雌牛を、象を、雄牛を、さらに、千の黄金を、子たちの代償として施せ」〔と〕。

 

2326.(2356) 〔世尊は言った〕「そののち、侍官は、急ぎ、婆羅門に与えた。百者の奴婢を、百者の奴隷を、百の、雌牛を、象を、雄牛を、さらに、千の黄金を、子たちの代償として施した。

 

2327.(2357) 〔王は〕幼児たちを、買い戻して、沐浴させて、食事させて、物品をもってして〔装いを〕十二分に作り為して、膝のうえに坐らせた。

 

2328.(2358) 頭を洗い、清らかな衣をまとい、一切の装飾品に飾られた者たちを、王は、祖父は、膝のうえに為して、遍く問い尋ねた。

 

2329.(2359) 耳飾を鳴らし、花飾をつけ、一切の装飾品に飾られた者たちを、王は、祖父は、膝のうえに為して、この言葉を説いた」〔と〕。

 

2330.(2360) 〔王が尋ねた〕「ジャーリよ、どうであろう、おまえの母と父は、おまえにとって、両者ともに、無病であるのかな。どうであろう、〔彼らは〕落穂によって〔身を〕保ち行くのかな。どうであろう、多くの根や果があるのかな。

 

2331.(2361) どうであろう、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくあるのかな。どうであろう、猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、害は見出されないのかな」〔と〕。

 

2332.(2362) 〔ジャーリが答えた〕「陛下よ、そこで、わたしの母と父は、わたしにとって、両者ともに、無病です。さらに、〔彼らは〕落穂によって〔身を〕保ち行きます。さらに、多くの根や果があります。

 

2333.(2363) そこで、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくあります。猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、彼らに、害は見出されません。

 

2334.(2364) 諸々のアールやカランバ〔の球根〕を掘りながら、さらに、諸々のビラーリやタッカラ〔の球根〕を〔掘りながら〕(※)、彼女は、棗を、胡桃を、蜜柑を、〔それらを〕運んで、わたしたちを養います。

 

※ テキストには bilāni takkalāni とあるが、PTS版により biḷālitakkalāni と読む。

 

2335.(2365) まさしく、そして、彼女は、林の根や果を運ぶ者として、それを運び、わたしたちの全てが集いあつまって、それを、夜に食べます──昼ではなく。

 

2336.(2366) まさしく、わたしたちの母は、痩せ細り青ざめた者となり、木の果を運びながら、熱風によって繊細になり、手に落ちた蓮華のようです。

 

2337.(2367) 密林のなかを渡り歩いている母の、諸々の髪は薄くなりました──猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、犀や豹が慣れ親しむ〔林〕のなかで。

 

2338.(2368) 諸々の髪を結髪に結んで、脇に汗を保つようになりました。皮の〔衣〕を着ける者となり、地に臥し、火を礼拝します。

 

2339.(2369) 人間たちにとって、子たちは、愛しき者たちとして、世に生まれ来ました。まさに、まちがいなく、わたしたちの祖父には、子にたいする愛執〔の思い〕は生まれなかったのです」〔と〕。

 

2340.(2370) 〔王が言った〕「子よ、そして、まさに、わたしたちには、悪行がある。わたしによって、極罪が為された。すなわち、わたしは、シヴィ〔国〕の者たちの言葉ゆえに、汚れなき者を追放したのだ。

 

2341.(2371) それが何であれ、わたしのものとして、ここに存在するなら、財産が、さらに、穀物が、見出されるなら、さあ、ヴェッサンタラは、王は、シヴィ〔国〕の国土において統治せよ」〔と〕。

 

2342.(2372) 〔ジャーリが言った〕「陛下よ、わたしの言葉ゆえに、シヴィ〔国〕の最上者が至り来ることはないでしょう。まさしく、自ら、陛下が赴いて、諸々の財物によって、実子を灌頂してください」〔と〕。

 

2343.(2373) 〔世尊は言った〕「そののち、王は、サンジャヤは(※)、軍団長に言い渡した」〔と〕。〔王が言った〕「象〔兵〕たちは、馬〔兵〕たちは、車〔兵〕たちは、歩〔兵〕たちは、〔全ての〕軍団は、まさに、武装せよ。そして、町の者たちは、さらに、婆羅門たちも、司祭たちも、わたしに従え。

 

※ テキストには sajjayo とあるが、PTS版により sañjayo と読む。

 

2344.(2374) そののち、典雅なる見た目ある六万の戦士たちは、武装し、種々なる色によって〔装いを〕十分に作り為し、すみやかに到来せよ。

 

2345.(2375) 或る者たちは、青の衣を〔身に〕付け、或る者たちは、黄〔の衣〕を着衣し、他の者たちは、赤の頭巾をし、或る者たちは、白〔の衣〕を着衣し、武装し、種々なる色によって〔装いを〕十分に作り為し、すみやかに到来せよ。

 

2346.(2376) たとえば、雪があり、香りを保持する、ガンダマーダナ山が、種々なる木々に等しく覆われ、大いなる精霊たちの群れが集まる所であり──

 

2347.(2377) かつまた、諸々の天の薬草によって、方々に輝き、かつまた、香り行くように、武装し、方々に輝け、かつまた、香り行け、すみやかに到来せよ。

 

2348.(2378) そののち、一万四千の象を設えよ──金の飾紐をつけ金の鞍かけを装着する象たちである。

 

2349.(2379) 槍と鉤を手にする将校たちの乗る〔象〕たちは、武装し、象の背〔の将校〕たちとともに〔装いを〕見示し、すみやかに到来せよ。

 

2350.(2380) そののち、一万四千の馬を設えよ──まさしく、生まれながらの良馬たる、シンダヴァの駿馬たちである。

 

2351.(2381) 短剣と弓を保持する将校たちの乗る〔馬〕たちは、武装し、馬の背〔の将校〕たちとともに(※)〔装いを〕十分に作り為し、すみやかに到来せよ。

 

※ テキストには assapiṭṭhe alaṃkatā とあるが、PTS版により assapiṭṭheh' alaṃkatā と読む。

 

2352.(2382) そののち、一万四千の車を設えよ──鉄で見事に作られた外輪があり、黄金をちりばめた縁取りがあるものを。

 

2353.(2383) そこにおいて、諸々の旗を掲揚せよ──諸々の盾を、さらに、諸々の鎧を。そして、強弓をもつ射撃手たちは、諸々の弓を護持せよ。車隊の者たちは、諸々の車において、武装し、すみやかに到来せよ。

 

2354.(2384) ラージャの花々が切り落とされるべきである──諸々の花飾や香料や塗料として。そして、諸々の供物を立てよ──その道をとおり、〔彼が〕至り来るのだ。

 

2355.(2385) 〔その〕村〔その〕村において、百の瓶を、果実酒のものであれ、さらに、穀物酒のものであれ、道に据え置け──その道をとおり、〔彼が〕至り来るのだ。

 

2356.(2386) 諸々の肉を、諸々の焼き菓子を、諸々の菓子を、諸々の魚を付けた粥を、道に据え置け──その道をとおり、〔彼が〕至り来るのだ。

 

2357.(2387) 酥と油を、酪と乳を、諸々の黍の種を、多くの酒を、道に据え置け──その道をとおり、〔彼が〕至り来るのだ。

 

2358.(2388) そして、調理師たちは、さらに、料理人たちは、芸人や舞踏家や歌手たちは、手鈴の者たちは、銅鑼の者たちは、太鼓の者たちは、道化師たちは──

 

2359.(2389) 全ての琵琶を打ち鳴せ──諸々の太鼓を、さらに、諸々の鐘鼓を。諸々の巻き貝を吹き鳴らせ。諸々の片太鼓を吼え鳴らせ。

 

2360.(2390) 諸々の小鼓を、諸々の銅鼓を、諸々の法螺貝を、諸々の遍く響き渡る琴を、そして、諸々の鐘鼓を、さらに、諸々のクトゥンパの鐘鼓を、打ち叩け」〔と〕。

 

2361.(2391) 〔世尊は言った〕「その軍団は、大いなるものとして存した。シヴィ〔国〕の旅団は熱狂し、ジャーリの道案内によって、ヴァンカ山へと出発した。

 

2362.(2392) 六十歳のクンジャラ象は、威嚇の雄叫びを吼え叫ぶ。飾紐が結ばれていると、象は、威嚇の雄叫びを吼え叫ぶ。

 

2363.(2393) 良馬たちはいななき、外輪は音を立てた。シヴィ〔国〕の旅団は熱狂し、塵は雲を覆った。

 

2364.(2394) その軍団は、大いなるものとして存した。熱狂し、〔何であれ〕運びに運び、ジャーリの道案内によって、ヴァンカ山へと出発した。

 

2365.(2395) 彼らは、密林に入った──多くの枝があり、大いなる水があり、果ある木々に等しく覆われ、さらに、同様に、花ある木々に〔等しく覆われた、その密林に〕。

 

2366.(2396) そこにおいて、まろやかな声ある、麗美にして、種々なる色の、多くの鳥たちが、季節に等しく花ひらいた木のうえで、互いに鳴きさえずる。

 

2367.(2397) 彼らは、長き旅程を赴いて、諸々の昼と夜の経過あるとき、その地へと近しく赴いた──すなわち、ヴェッサンタラが有ったところへと」〔と〕。

 

 〔以上が〕大王の部ということになる。

 

22. 1. 10. 12. 六者の士族の行為

 

2368.(2398) 〔世尊は言った〕「彼らの物音を聞いて、ヴェッサンタラは、恐怖する者と成った。山に登って、恐怖する者は、軍団を凝視する」〔と〕。

 

2369.(2399) 〔菩薩は言った〕「マッディーよ、さあ、こころして聞け──林における、どのような物音も。良馬たちはいななき、そして、諸々の旗の先端が見える。

 

2370.(2400) これらの者たちは、まちがいなく、林のなかで鹿たちの群れを〔追う〕猟師たちだ。諸々の網で取り巻いて、穴に落として、まさしく、ただちに、喚声をあげながら、諸々の鋭い〔槍〕で殺すのだ──彼らのなかの、優れたもの、優れたものを。

 

2371.(2401) すなわち、汚れなきわたしたちが、林のなかに放逐されたように。朋友ならざる者の手中に落ちたのだ。見よ──力弱き者たちを殺害する者を」〔と〕。

 

2372.(2402) 〔マッディーが言った〕「朋友ならざる者たちが、〔あなたを〕打ち負かすことはありません──火が、水ある所を〔打ち負かせない〕ように。まさしく、それを、あなたは、熟慮してください。さてまた、安穏が、こののち存するでしょう」〔と〕。

 

2373.(2403) 〔世尊は言った〕「そののち、ヴェッサンタラは、王は、山から降りて、草庵に坐った──〔道心〕堅固に、意図を為して。

 

2374.(2404) 車を反転させて、諸々の軍団を待機させて、父は、独りで林のなかに住んでいる子のもとへと近しく赴いた。

 

2375.(2405) 象の背から降りて、一肩の者となり、合掌を為した〔父〕は、家臣たちに取り囲まれ、子を灌頂するべくやってきた。

 

2376.(2406) そこにおいて、彼は、王子を見た──喜ばしき形態にして、〔心が〕定められた者を──草庵に坐り、瞑想している、何も恐れない者を。

 

2377.(2407) そして、至り来る彼を見て、子にたいし貪求ある父を〔見て〕、そして、ヴェッサンタラは、さらに、マッディーは、出迎えて敬拝した。

 

2378.(2408) そして、マッディーは、頭をもって、舅の〔両の〕足を敬拝した」〔と〕。〔マッディーが言った〕「陛下よ、マッディーは、まさに、わたしは、あなたの〔両の〕足を敬拝します──あなたの嫁として」〔と〕。〔世尊は言った〕「まさに、そこにおいて、〔王は〕彼らを抱きしめて、手で擦りまわした」〔と〕。

 

2379.(2409) 〔王が尋ねた〕「子よ、どうであろう、あなたたちには、健やかにあるのかな。子よ、どうであろう、悩みなくあるのかな。どうであろう、〔あなたたちは〕落穂によって〔身を〕保ち行くのかな。どうであろう、多くの根や果があるのかな。

 

2380.(2410) どうであろう、虻たちは、さらに、蚊たちは、蛇たちは、まさしく、少なくあるのかな。どうであろう、猛々しい獣たちがそぞろ行く林のなかで、害は見出されないのかな」〔と〕。

 

2381.(2411) 〔菩薩は答えた〕「陛下よ、わたしたちに、生計は存在します──そして、それが、それなりのものであるとはいえ。〔わたしたちは〕困難なるも、生計ある者たちとして〔世に〕有ります。落穂集めの行によって、生命は〔保たれます〕。

 

2382.(2412) 大王よ、馭者が、馬を調御するように、繁栄なき〔境遇〕を〔調御します〕。〔まさに〕その〔わたしたち〕は、繁栄なくあるも調御された者たちとして〔世に〕存しています。繁栄なき〔境遇〕は、わたしたちを調御します。

 

2383.(2413) 父に、母に、会えないことから、さてまた、わたしたちの諸々の肉は、痩せ細りました──大王よ、林のなかに放逐され、生の憂いある者たちの〔諸々の肉は〕」〔と〕。

 

2384.(2414) 〔菩薩は尋ねた〕「すなわち、また、それらの、シヴィ〔国〕の最勝者の相続者たちは、〔いまだ〕意図に至り得ていない者たちである、ジャーリは、かつまた、カンハージナーは、両者ともに、とてつもなく残忍な婆羅門の支配に従い行く者たちとなり、彼は、彼らを、牛であるかのようになぐります。

 

2385.(2415) 彼らのことを、王妃の子たちのことを、すなわち、〔あなたたちが〕知っているなら、わかっているなら、すみやかに、わたしたちに伝えてください──蛇に咬まれた学徒に、〔解毒の呪文を伝える〕ように」〔と〕。

 

2386.(2416) 〔王が答えた〕「童子たちは、両者ともに買い戻された──ジャーリは、かつまた、カンハージナーは、両者ともに、婆羅門に、財を施して。子よ、恐れてはならない。落ち着きなさい」〔と〕。

 

2387.(2417) 〔菩薩は尋ねた〕「父よ、はてさて、どうでしょう、健やかにあられますか。父よ、どうでしょう、悩みなくあられますか。父よ、はてさて、どうでしょう、わたしの母の眼は遍く衰退していませんか」〔と〕。

 

2388.(2418) 〔王が答えた〕「子よ、まさしく、そして、わたしには、健やかにある。子よ、さらに、悩みなくある。子よ、そして、さらに、おまえの母の眼は遍く衰退していない」〔と〕。

 

2389.(2419) 〔菩薩は尋ねた〕「どうでしょう、あなたの車馬は無病ですか。どうでしょう、車両は運行していますか。どうでしょう、地方は興隆していますか。どうでしょう、雨は断たれませんか」〔と〕。

 

2390.(2420) 〔王が答えた〕「そこで、わたしの車馬は無病である。そこで、車両は運行している。そこで、地方は興隆している。そこで、雨は断たれない」〔と〕。

 

2391.(2421) 〔世尊は言った〕「かくのごとく、このように話し合っていると、彼らの母が現われた。王妃は、山の門口において、徒歩になり、履物なくある。

 

2392.(2422) そして、至り来る彼女を見て、子にたいし貪求ある母を〔見て〕、そして、ヴェッサンタラは、さらに、マッディーは、出迎えて敬拝した。

 

2393.(2423) そして、マッディーは、頭をもって、姑の〔両の〕足を敬拝した」〔と〕。〔マッディーが言った〕「貴婦よ、マッディーは、まさに、わたしは、あなたの〔両の〕足を敬拝します──あなたの嫁として」〔と〕。

 

2394.(2424) 〔世尊は言った〕「そして、遠くから〔無事〕安穏にやってきた子供たちは、マッディーを見て、泣き叫びながら走り行った──母を〔求める〕幼い子牛たちのように。

 

2395.(2425) そして、遠くから〔無事〕安穏にやってきた子供たちを見て、マッディーは、神憑かりのように動揺しながら、乳房に保っている〔乳〕を降り注いだ。

 

2396.(2426) 集いあつまった親族たちの、大いなる騒音が生じた。山々は等しく吼え叫び、地は揺れ動くものと成った。

 

2397.(2427) 雨を保持する〔雲〕を転起させながら、天は、まさしく、ただちに、雨を降らせた。そこで、ヴェッサンタラは、王は、親族たちと集いあつまったのだった。

 

2398.(2428) 孫たちが、嫁が、子が、王が、そして、王妃が、〔六者の士族が〕一つになり、すなわち、〔彼らが〕集いあつまり、〔そのように〕存したとき、そのとき、身の毛のよだつことが存した。

 

2399.(2429) 合掌の者たちが、密林のなかで、泣き叫びながら、彼に乞い求める──そして、ヴェッサンタラに、さらに、マッディーに、国土から集いあつまった全ての者たちが」〔と〕。〔人々が言った〕「あなたは、わたしたちの、イッサラとして、王として、存しておられます。王権を為してください──わたしたちのために、両者ともに」〔と〕。

 

 〔以上が〕六者の士族の行為ということになる。

 

2400.(2430) 〔菩薩は言った〕「法(正義)によって王権を為しているわたしを、国土から追放しました──そして、あなたは、まさしく、そして、地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも」〔と〕。

 

2401.(2431) 〔王が言った〕「子よ、そして、まさに、わたしたちには、悪行がある。わたしによって、極罪が為された。すなわち、わたしは、シヴィ〔国〕の者たちの言葉ゆえに、汚れなき者を追放したのだ。

 

2402.(2432) それが、どのような理由によってであれ、父の苦しみを取り去るのだ──母の〔苦しみを〕、さらに、また、妹の〔苦しみを〕、たとえ、自己の諸々の命によっても」〔と〕。

 

2403.(2433) 〔世尊は言った〕「そののち、ヴェッサンタラは、王は、塵や埃を流し去った。塵や埃を流し去って、法螺貝の色艶を〔身に〕保持した。

 

2404.(2434) 頭を洗い、清らかな衣をまとい、一切の装飾品に飾られ、〔自己に〕縁ある象に乗って、他者を熱苦させる剣を結んだ。

 

2405.(2435) そののち、典雅なる見た目ある六万の戦士たちは、〔ヴェッサンタラと〕共に生まれた者たちは、車上の雄牛を喜ばせながら、取り囲んだ。

 

2406.(2436) そののち、集いあつまったシヴィ〔国〕の少女たちは、マッディーをもまた沐浴させた」〔と〕。〔少女たちが言った〕「ヴェッサンタラは、あなたを守りたまえ──ジャーリを、かつまた、カンハージナーを、両者ともに。そこで、また、大王は、サンジャヤは、あなたを守護したまえ」〔と〕。

 

2407.(2437) 〔世尊は言った〕「そして、この縁を得て、過去における、自己の〔心の〕汚染を、〔マッディーは〕喜んだ(過去の苦労を懐かしんだ)──すなわち、喜ばしき山間において、〔彼らが〕歩んだ、〔苦難の道を〕。

 

2408.(2438) そして、この縁を得て、過去における、自己の〔心の〕汚染を、〔マッディーは〕喜んだ──〔美しき〕特相ある者は、子たちと集いあつまって、歓悦の者となり、悦意の者となり。

 

2409.(2439) そして、この縁を得て、過去における、自己の〔心の〕汚染を、〔マッディーは〕喜んだ──〔美しき〕特相ある者は、子たちと共に、歓悦の者となり、満足した者となり」〔と〕。

 

2410.(2440) 〔マッディーが言った〕「かつて、〔わたしは〕存しました。一なる食事の者として、常に野に臥す者として。かくのごとく、わたしには、この掟が存しました。子供たちよ、まさに、あなたたちを欲する者として。

 

2411.(2441) わたしの、その掟は、今日、等しく実現しました──子供たちよ、あなたたちと集いあつまって。母が生む〔功徳〕もまた、かつまた、父が生む〔功徳〕もまた、子供よ、あなたを守りたまえ。さらに、また、大王は、サンジャヤは、あなたを守護したまえ。

 

2412.(2442) それが何であれ、功徳として作り為されたものが、まさしく、そして、わたしに、さらに、おまえの父に、存在するなら、その全ての善なる〔功徳〕によって、不老にして無病なる者と成れ」〔と〕。

 

2413.(2443) 〔世尊は言った〕「そして、木綿を、絹を、さらに、諸々の亜麻の布地を、姑は、嫁に送った。マッディーは、それらによって美しく輝いた。

 

2414.(2444) そののち、そして、金の腕飾を、宝玉製の首飾を、姑は、嫁に送った。マッディーは、それらによって美しく輝いた。

 

2415.(2445) そののち、そして、金の腕飾を、腕輪を、宝珠の帯を、姑は、嫁に送った。マッディーは、それらによって美しく輝いた。

 

2416.(2446) 頭飾を、そして、顔飾を、さらに、種々に染められた諸々の宝珠細工を、姑は、嫁に送った。マッディーは、それらによって美しく輝いた。

 

2417.(2447) 胸飾を、装身具を、帯を、足飾を、姑は、嫁に送った。マッディーは、それらによって美しく輝いた。

 

2418.(2448) そして、糸あるものを、さらに、糸を省いたものを、〔それらの装身具を〕凝視して、より勝る者として存した。王妃は、〔天の〕ナンダナ〔林〕における天女のように美しく輝いた。

 

2419.(2449) 頭を洗い、清らかな衣をまとい、一切の装飾品に飾られ、王妃は、三十三〔天〕における仙女のように美しく輝いた。

 

2420.(2450) 〔天の〕チッタラター林に生じた、風に吹かれた芭蕉であるかのように、〔美しい〕唇を成就した者は、王妃は、美しく輝いた。

 

2421.(2451) 彩りあざやかな翼と羽ある者として生じた、人間の鳥であるかのように、熟したニグローダやビンバ〔の果の朱色〕の唇ある者は、王妃は、美しく輝いた。

 

2422.(2452) そして、彼女のために、〔人々は〕象を連れてきた──まさしく、年長ならざるクンジャラ〔象〕を──槍を忍受し、矢を忍受し、轅の牙ある巨大なる〔象〕を。

 

2423.(2453) 彼女は、マッディーは、象に乗った──まさしく、年長ならざるクンジャラ〔象〕に──槍を忍受し、矢を忍受し、轅の牙ある巨大なる〔象〕に。

 

2424.(2454) その林の全てにおいて、ここにおいて、獣たちとして有った、そのかぎりの者たちは、ヴェッサンタラの威光によって、互いに他を悩ますことなくあった。

 

2425.(2455) その林の全てにおいて、ここにおいて、鳥たちとして有った、そのかぎりの者たちは、ヴェッサンタラの威光によって、互いに他を悩ますことなくあった。

 

2426.(2456) その林の全てにおいて、ここにおいて、獣たちとして有った、そのかぎりの者たちは、一所に集まった──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2427.(2457) その林の全てにおいて、ここにおいて、鳥たちとして有った、そのかぎりの者たちは、一所に集まった──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2428.(2458) その林の全てにおいて、ここにおいて、獣たちとして有った、そのかぎりの者たちは、美妙なる〔声〕の者たちは、まさに、鳴くことなくあった──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2429.(2459) その林の全てにおいて、ここにおいて、鳥たちとして有った、そのかぎりの者たちは、美妙なる〔声〕の者たちは、まさに、鳴くことなくあった──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2430.(2460) 王の道は整備され、様々な彩りの花が広げられた──すなわち、ヴェッサンタラが住したところから、ジェートゥッタラまでの、そのかぎりが。

 

2431.(2461) そののち、典雅なる見た目ある六万の戦士たちは、遍きにわたり、〔ヴェッサンタラを〕取り囲んだ──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2432.(2462) そして、後宮の者たちは、かつまた、〔王宮の〕少年たちは、さらに、庶民たちは、婆羅門たちは、遍きにわたり、〔ヴェッサンタラを〕取り囲んだ──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2433.(2463) 象兵たちは、親兵たちは、車兵たちは、歩兵たちは、遍きにわたり、〔ヴェッサンタラを〕取り囲んだ──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2434. 集いあつまった地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、遍きにわたり、〔ヴェッサンタラを〕取り囲んだ──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2435.(2464) 兜の者たちは、盾を保持する者たちは、短剣を手にする者たちは、美しく武装した者たちは、〔ヴェッサンタラを〕先導した──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、出発したとき。

 

2436.(2465) 彼らは、大いなる城壁と楼門ある喜ばしき都に入った──諸々の食べ物と飲み物を具し、さらに、同様に、諸々の舞踏と歌詠を〔具した、その都に〕。

 

2437.(2466) 地方の者たちは、さらに、集いあつまった町の者たちも、歓悦の者たちとして存した──王子が、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、至り得たとき。

 

2438.(2467) 〔歓喜の〕布振りが転起した──財の相続者が帰還したとき。〔人々は〕喜び〔の声〕を放ち、城市において、結縛からの解き放ちが布告された。

 

2439.(2468) 黄金で作られている雨を、まさしく、ただちに、天は雨降らせた──ヴェッサンタラが、シヴィ〔国〕の国土を繁栄させる者が、〔城市に〕入ったとき。

 

2440.(2469) そののち、ヴェッサンタラは、王は、布施を施して、士族は、彼は、智慧を有する者として、身体の破壊ののち、天上に再生した」〔と〕。ということで──

 

 ヴェッサンタラ・ジャータカが、第十となる。

 

 大なるものの集まりは〔以上で〕終了となる。

 

 ジャータカ聖典は〔以上で〕終了となる。