D004-01 J.S.バッハ「主よ、人の望みの喜びよ」

BWV147より 解説

【SJPOジュニアオーケストラ講座】 「主よ、人の望みの喜びよ」BWV147より

「主よ、人の望みの喜びよ」 教会カンタータBW147より

【ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(ヨハン・セバスチャン・バッハ) Johann Sebastian Bach]】作曲

◆J[※J.S.バッハについては、「講座C004:J.S.バッハを知ろう」を参照。]

【「主よ、人の望みの喜びよ」について】 [Jesu, Joy of Man's Desiring]

・この曲はJ.S.バッハ(ヨハン・ゼバスティアン・バッハ)の作曲した10曲からなる教会カンタータ「心と口と行いと生活で」BWV147の最終曲として作曲されました。

【教会カンタータ「心と口と行いと生活で」BWV147】

[「心と口と行いと生活で」の構成] Herz und Mund und Tat und Leben

この教会カンタータは、J.S.バッハが1723年に主の母マリア訪問の祝日のために作曲したと推測されていて、下記の10曲からなり、歌詞はマルティン・ヤーンが作詞したドイツ語で書かれています。

第1部

第1曲 合唱「心と口と行いと生活で」

第2曲 レチタティーヴォ「祝福されし口よ」

第3曲 アリア「おお魂よ、恥ずることなかれ」

第4曲 レチタティーヴォ

「頑ななる心は権力者を盲目にし、最高者の腕を王座より突き落とす」

第5曲 アリア「イエスよ、道をつくり給え」

第6曲 コラール合唱「イエスはわたしのもの」(Wohl mir, daß ich Jesum habe)

第2部

第7曲 アリア「助け給え、イエスよ」

第8曲 レチタティーヴォ「全能にして奇跡なる御手は」

第9曲 アリア「われは歌わんイエスの御傷」

第10曲 コラール合唱「イエスは変わらざるわが喜び」(Jesus bleibet meine Freude)

実はこのうち6曲目と10曲目はどちらも同じ曲ですが歌詞が違って別のコラールとして使われています。このうち最終10曲目の方が「主よ、人の望みの喜びよ」とされています。

[題名の由来]

・上の曲一覧の10曲目のドイツ語の題名を日本語にすると「イエスは変わらざるわが喜び」となり、一般に知られている「主よ、人の望みの喜びよ」とは少し違っています。

・それはドイツ語で書かれたM.ヤーンの詩の"Jesus bleibet meine Freude"の部分をイギリスの詩人のR.S.ブリッジズが英語の賛美歌に"Jesu,joy of man's desiring"として訳しましたが、さらにその曲をイギリスのピアニストのマイラ・ヘスがピアノ曲として爆発的に広まりました。

・その英語を日本語訳にしたものが、「主よ、人の望みの喜びよ」となり、元のドイツ語を直訳したものと少し違う題名で、日本では広く親しまれるようになりました。

【カンタータとは】

・カンタータとは一般的に楽器で伴奏される声楽曲のことをいいます。元々はイタリア語で歌うという意味のカンターレ(cantare)からきた言葉です。

・バッハが作曲したカンタータは、教会で音楽的な説教として使われる教会カンタータ(約250曲)と、キリスト教の題材にとらわれない世俗カンタータ(約20曲)があります。

◇バッハはカントール在任中の5年間で、毎週のミサでほぼ毎回新しい教会カンタータを作り続けてなんと250曲もの教会カンタータを作曲したとされ、現在約200曲の楽譜が残っています。

【バッハ自身はカンタータを作っていない?】

・実はバッハは自分の作品に「カンタータ」という言葉を使っておらず、教会カンタータは「コンチェルト(concerto)」、世俗カンタータは「音楽劇(Dramma per musica)」という言葉を用いていました。特に教会カンタータについてはバッハはタイトルもなく演奏する日と最初の数行の歌詞のみ楽譜にメモしていたそうです。

「カンタータ」という言葉は、19世紀になってバッハ協会の楽譜校訂者がこう呼び始めたのがきっかけと言われています。それまでジャンルの呼び名がなかった「コンチェルト」とバッハが書いた「器楽伴奏付きの声楽曲」を、協奏曲(コンチェルト)と区別するためとも言われています。

そして教会カンタータと呼び始めた後に、バッハ以前の1700年頃に書かれた同じような声楽曲まで「カンタータ」と呼ぶようになったと言われてます。

【バッハの教会カンタータがもたらしたもの】

◇キリスト教における礼拝の目的は、神の言葉を人々に伝えることなので、分かりやすく伝える手段として音楽は不可欠なものでした。

◇特にプロテスタント(新教)の場合、牧師が聖書の物語を説明し、教会カンタータによって聖書の物語を伝える役割がありました。

◇ルターの宗教改革後、賛美歌をドイツ語で歌えるようにするコラールを含めた教会カンタータの助けもあり、一気にルター派教会(ルーテル教会)が民衆にとって身近なものとして普及していきました。

【カンタータに関係する歌の種類】

◇コラール

コラール(独:Choral)とは、もともとは1517年の宗教改革から起こったプロテスタントのルター派教会で始まった賛美歌のことを指します。それまでラテン語で聖歌隊しか歌えなかったものを、ドイツ語で皆で歌えるように作られたものでした。現代では賛美歌の典型的な形式や似たような性格をもつ作品をも含めてコラールと呼ばれることが多いです。

◇アリア

アリアは、オペラ、オラトリオ、カンタータなどで歌われる旋律性が強く叙情的な独唱曲のことです。オペラなどではソリストの聴かせどころとなる曲で「詠唱」と訳されることもあります。中には独唱曲ではなくてもアリアを連想させる曲にアリアと名付けることがあります。代表的なものにJ.S.バッハの「G線上のアリア」があります。

◇レチタティーボ

レチタティーヴォは、オペラ、オラトリオ、カンタータなどの中で、感情や状況の説明などを旋律性の少ない独唱として用いられてアリアの前などに置かれます。叙唱や朗唱とも訳されます。