『気象百五十年史』合評会を開催しました(2026/1/22)
『気象百五十年史』合評会を2026年1月22日(木)にオンラインで開催しました。約60名の参加がありました。
「気象業務150周年」の2025年、気象庁は気象業務の150年の変遷を記録するため編纂した『気象百五十年史』を公開しました。気象業務100周年の1975年に発行され、日本の気象学史の基本的資料として広く参照されてきた『気象百年史』同様、今後の活用が期待されるものです。本合評会では、気象庁が日々の業務の傍ら組織をあげて『気象百五十年史』を編纂・公開したことに深い敬意と謝意を表し、さまざまな立場からの建設的な批評を交換して,同書のさらなる活用に資することを目的として開催しました。
参考:『気象百五十年史』は気象庁ホームページで公開されている。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/info/150th/chronicle.html
合評会ではまず、気象庁の須藤大地氏(総務部企画課・気象百五十年史編纂委員会事務局)と倉内利浩氏(同)から『気象百五十年史』の概要が説明されました。略史・通史・部門史からなる本編と関連する写真やグラフなどを掲載した資料編という構成、部門史は『気象百年史』(1975)編纂以降の50 年間を主な対象とした、公文書に基づく客観的な事実を記述したことが紹介されました。
つづいて評者として3名にコメントをいただきました。3名共通して「正史」としての『気象百五十年史』発刊の意義が大きいことが述べられました。
藤部文昭氏(元気象研究所)は本書が気象庁業務やその変遷を網羅的に紹介している一方で,それらの背景にある政治・社会情勢を俯瞰した記述が少ないことを指摘しました.研究分野では業務研究と基盤研究のバランス、大型研究プロジェクトの増加等に関して議論の余地があり、これらについては学会での今後のフォローアップへの期待が述べられました。
若林悠氏(大東文化大学)は行政史研究の立場から、『気象百年史』との比較を通じて、資料の構成や内容の変化について分析し、行政学的観点からその意義を検討されました。気象学史的叙述、人物叙述が少なくなるなど気象学史の資料から気象行政史の資料への変化が見られる一方、『気象百年史』では資料編に多く掲載された公文書系資料や組織管理情報が少なくなったなどの特徴をあげ、語られなかった史実の発掘や歴史叙述の再検討が課題として与えられたことを述べました。
塚原東吾氏(神戸大学)は、科学史・科学論・科学技術社会論の立場から(1)モノとして出版、様式の変容(手に取れる本でなくデジタル)(2)150年ではなく100+50年では?(時代設定)(3)『気象百五十年史』、とは気象の(何の)歴史なのだろう?(学問の歴史から制度の歴史へ)(4)顕著な「ヒストリオグラフィー」(ロマン主義の排除・典型的な合理主義など)の論点をあげて議論しました。
参加者からの質問・意見として、公式見解のみが述べられていること,個々の職員の業績がほとんど述べられていないこと、『気象百五十年史』という題名であるが「気象庁百五十年史」ではないか、廃止された気象官署や観測業務についての記述がわずか,刊行前に歴史研究者・学識経験者のコメントを受けておくとよかった、編纂にあたり収集された資料の保管・活用・公開などについて挙げられました。
これらを受けて気象庁からは、個人ではなく組織として取り組んだ事柄をできる限り客観的に記述した、補完的なものとして歴代長官らによる随筆を掲載した、印刷版(本編のみ)は国立国会図書館をはじめ都道府県立図書館などに提供した、廃止官署や中止業務についてもわかる範囲で記述した、部外専門家の助言を仰ぐ構想もあったが期間や労力の制約があった、『気象百年史』からは時代も移り、使用した資料を図書館でまとめて紙の形で保管するようなことは予定していない、改訂増補の計画はないが正誤表については予定している、本書の公開を元に今日示されたようないろいろな視点から議論や研究が進められることを期待する、などと回答されました。
参加者アンケートでは多くの方が『気象百五十年史』への理解が深まった、あらためて読み返したい/さらに読み進めたいと回答されました。本合評会をきっかけにした『気象百五十年史』への関心への高まり、気象学史をはじめ行政史、科学史などの研究の活性化が期待されます。この時代の気象学・気象事業について後世にどのような歴史が残されるのか、読者にも多くがかかっていることが確認できたように思います。
最後に気象庁の須藤氏・倉内氏、コメントをいただいた藤部氏、若林氏、塚原氏に厚く御礼申し上げます。
本研究会の開催にあたっては日本気象学会の研究連絡会等活動補助金の支給を受けました。(2026/2/24)
『気象百五十年史』合評会の登壇者。(a)須藤大地氏(気象庁総務部企画課・気象百五十年史編纂委員会事務局)(左)・倉内利浩氏(同)(b)藤部文昭氏(元・気象研究所)(c)若林 悠氏(大東文化大学)(d) 塚原東吾氏(神戸大学)。