第17回気象学史研究会「ヨーロッパ科学革命後の気象学の歴史」(2025/5/18)開催のお知らせ
第17回気象学史研究会を日本気象学会2025年度春季大会に合わせ、下記の要領で開催いたします。
開催日時:2025年5月18日(日)14:00~16:00
会場:北とぴあ806会議室(東京都北区王子1-11-1・ 日本気象学会春季大会会場とは異なります)・Zoomによりオンライン中継
プログラム:
1. 科学革命時代以降の気象学~19世紀までの推移~ 堤 之智(国立環境研究所)
2. ゲーテと19世紀前半の気象学におけるダイアグラム 濱中 春(法政大学)
主催:日本気象学会気象学史研究連絡会
趣旨
現代の気象学はヨーロッパに起源を発するが、その発展の歴史には紆余曲折があった。このことをお二方の講演を元に考える。古代から現代にいたる気象学の通史をまとめられた堤 之智氏は、17世紀の科学革命時代以降19世紀までの気象学について、観測と理論が交わることなく、有用な法則のない中で気象予測が行われた時代であると説く。美学・文学の観点から1800年前後のドイツ語圏の気象学史を研究した濱中 春氏は、詩人としても有名なゲーテの気象学研究を取り上げ、気象データの図像化・視覚化と現象の認識との関係を考察する。これらを受けて、研究会では気象に対する人間の理解の進展、現代にも通じる気象学の学問としての特性など議論したい。
本会合は気象学史研究に関心を持つ、より多くの方の間の情報・意見交換をうながすため、学会員以外の方にも広く参加を呼びかけて開催する。
参加方法:参加を希望されさる方は会場・オンラインに関わらず、事前申し込みをお願いいたします。
参加申込フォームへのリンク
https://forms.gle/DAjmWQWD9esnNJyD8
日本気象学会員であるか、春季大会に参加するかどうかに関わらず、関心のある方はどなたでもご参加いただけます。
参加費は無料です。
オンライン中継についておことわり
オンライン中継は会場に大勢の方々に集まっていただくことが難しい 状況や、日頃会場への参加が容易でない方に参加の機会を広げるなど、多くの可能性がありますが、さまざまな理由により、接続が切断されたり画像・音声が途切れたりして、講演を十分にお楽しみいただけなかったり、質疑応答への参加に制約をお願いするなど、十分に満足いただけるような参加ができないこともあります。最悪の場合まったく中継ができなくなるおそれもあります。あらかじめご了承ください。
Zoom練習会
今回のオンライン中継はウェブ会議ツールZoomを使用いたします。Zoomの使用が初めての方、不慣れな方で、練習の機会があれば参加されたいという方は、参加申込フォームでその旨お知らせください。希望者が多い場合は練習の機会を準備いたします。
2. 講演要旨
1. 科学革命時代以降の気象学~19世紀までの推移~ 堤 之智(国立環境研究所)
17世紀の科学革命によって、アリストテレスの二元的宇宙像の考え方は否定されるとともに、英国のフランシス・ベーコン(1561-1626)によって、物事を客観的に観察・実験した結果を蓄積して法則性を見出す、という帰納法に基づくベーコン主義が始まった。ちょうど同時期に発達を始めた気象測器によって、気象についても観測データの蓄積が始まった。ところが気象は広域の現象であり、各地での統一された観測が必要だった。地域規模の統一された気象観測ネットワークが構築され始めたのは18世紀末だった。そして19世紀頃から、それらの蓄積された気象データを用いた広域の気象の法則性の探究が始まった。一方で18世紀頃から、ジャン・ル・ロン・ダランベール(1717-1783)やイマヌエル・カント(1724-1804)のように、地球規模の風をニュートン力学などを使って理論的に説明しようとする試みも始まった。それは19世紀のピエール=シモン・ラプラス(1749-1827)の潮汐方程式へと結実したが、当時はその理論から有用な法則を導くことは出来なかった。一方で気象観測の方でも他分野のように蓄積されたデータを使って法則を確立することはほとんど出来ず、観測データと理論は相互に独立したままとなった。そして理論的法則がないままに、19世紀後半には電信を用いた気象警報・予報の時代が始まった。そのような19世紀までの気象学の状況とその原因について議論できればと考えている。
2. ゲーテと19世紀前半の気象学におけるダイアグラム 濱中 春(法政大学)
著名な詩人であるだけではなく、熱心な自然研究者でもあったヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)は、その生涯において自然科学のさまざまな分野の研究に携わったが、気象学もその一つである。ゲーテは1820年前後、大臣を務めていたドイツのザクセン=ヴァイマル=アイゼナハ公国における気象観測網の構築にかかわっただけではなく、大気現象の根本的な原因は地球の重力の増減にあるという独自の仮説に傾倒していた。いうまでもなくこの仮説は科学的には成立しないが、本講演ではゲーテがその際に上記の気象観測網にもとづいて作られた各地の気圧の変動を比較するグラフを重要な根拠としたことに注目し、気象学におけるグラフや等温図、等圧図などのダイアグラムの歴史のなかにゲーテの気象研究を位置づけてみたい。講演者の関心の中心は科学における図像や視覚化という主題にあるが、ゲーテの事例を通して、19世紀前半のヨーロッパにおける気象観測事業の実態や、ダイアグラムの考案や使用という観点から気象学の歴史の一端に光をあてることができればと考えている。
(2025/3/11)