第10回気象学史研究会「気候変動解明への歴史からのアプローチ」を開催しました(2021/12/2

第10回気象学史研究会「気候変動解明への歴史からのアプローチ」を日本気象学会2021年度秋季大会(オンライン+三重大学現地開催)会期中の12月2日(木)にオンライン開催しました。本研究会ではこれまで最多の100名近い方がご参加くださいました。開催にあたり日本科学史学会東海支部にご後援をいただきました。

今回は科学史の立場で気象学史の分野に大きな貢献をしてこられ、第2回気象学史研究会では講演をいただいた財部香枝氏(中部大学)を招待コンビーナとしてお迎えし、「気候変動解明への歴史からのアプローチ」がテーマとなりました。財部氏には司会もお努めいただきました。

立花義裕氏(三重大学)は「太平洋戦争末期の異常気象について」と題して講演されました。太平洋戦争終焉直前の冬(1944~45年冬季)が観測史上最大級の豪雪と寒波,およびそれに引き続く夏(1945年夏季)が観測史上最大級の冷夏であったことを観測資料や再解析により示し、これら異常気象に伴い日本の食糧確保が著しく困難となり、このことが終戦の決断に大きな影響を及ぼしたとの仮説を多くの資料を元に議論されました。

中塚 武氏(名古屋大学)は「高時間分解能での古気候復元による新たな可能性」と題して講演されました。樹木年輪セルロースの酸素同位体比から夏の降水量の変動を復元する研究の進展を紹介し、中部日本では、21世紀の現在から弥生時代まで2500年以上の精度の高い年単位のデータが得られていることを示しました。現在21世紀の高温かつ湿潤な状況が,大きな社会変動をもたらした12世紀の平安末期,14世紀の鎌倉末期にも見られることを示し、年輪データに見られる過去の気候変動から,近未来の気候変化と社会影響を予測できる可能性を主張されました。

講演後の質疑応答では多くの質問・議論がなされ、最後に財部氏が、歴史学と気象学の協働を促す最新の研究成果を参加者と共有できたこの機会を今後、歴史学と気象学・気候学のコラボレーションの実現のひとつのステップとなることを期待したいと会を締めくくられました。

2020年8月の第7回研究会以降4回目のオンライン開催となりました。一方でオンライン研究会への適応が進んだことが見て取れるところ、他方、オンライン研究会に参加する意欲やスキルを獲得困難な方の多くが研究会への参加を諦めてしまった、ということが懸念されます。何らかの対応を考えていく必要があるように思われます。アンケートでは参加された方はもちろん、参加されなかった方・できなかった方からも多数の回答をいただきました。多くの方の関心を集めながら十分に応えられなかったことが示されています。今後の運営の参考としていきたいと考えます。

最後にご後援をいだたいた日本科学史学会東海支部、コンビーナとして研究会を組織されるとともに司会をおつとめいただいた財部氏、ご講演いただいた立花氏・中塚氏、前回に続きボランティアとして運営にご協力くださった遠藤正智氏・岸 誠之助氏(順不同)の各位に厚く御礼申し上げます。本研究会の開催にあたっては気象学会の研究連絡会等活動補助金の支給を受けました。(2022/1/22)



第10回気象学史研究会(2021年12月2日)にてコンビーナ・司会をつとめた財部香枝氏(左上)講演された立花義裕氏(下)と中塚 武氏(右上)。総合討論時のひとこま。ウェブ会議ツールZoomのオンライン画面。

研究会の講演動画を公開しました。 (2022/06/22)

公開をご了承くださった立花氏・中塚氏に感謝申し上げます。

講演の著作権は講演者にあり,その権利を尊重する必要があります。
動画をダウンロードすること、および録画・録音・撮影・キャプチャなどしたものをご自分以外の方(家族・知人や会社等組織内の方を含みます)に閲覧させる、提供する、一般に公開しようなどすることは一切禁止といたします。

立花義裕氏(三重大学)「太平洋戦争末期の異常気象について」

中塚 武氏(名古屋大学)「高時間分解能での古気候復元による新たな可能性」

・日本気象学会機関紙「天気」に関連記事を掲載

研究会報告記事が「天気」2022年7月号に掲載されました。無料でどなたでもお読みいただけます。(2023/1/26)
第10回気象学史研究会「気候変動解明への歴史からのアプローチ」を開催
https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2022/2022_07_0039.pdf