第6回気象学史研究会「地形から見た気象災害の歴史」(2019/10/30)開催のお知らせ

第6回気象学史研究会「地形から見た気象災害の歴史」(2019/10/30)開催のお知らせ

主催:日本気象学会気象学史研究連絡会

今回の気象学史研究会は、「地形から見た気象災害の歴史」をテーマに、特に豪雨による土砂災害や洪水災害の発生に関し地形学や地域開発学の視点から考察します。黒木氏からは「気象災害の地形学的な見方・考え方」と題して、社会科教育の教員の立場から十分に浸透していない気象災害の地形的理解等についてご講演をいただきます。また、コンビーナの山本氏からは近年日本各地で発生した大規模な水害について、現地踏査やアンケート調査、地図や空中写真等を用いた扇状地や氾濫平野の開発による土地利用の変遷を分析し、それぞれの災害地における地域開発と災害発生との関係についてご講演をいただきます。

1. 概要

第6回気象学史研究会「地形から見た気象災害の歴史」

日時: 2019年10月30日(水)18:00~20:00(日本気象学会2019年度秋季大会第3日夜)

場所:福岡国際会議場小会議室404,405,406(秋季大会D会場)

プログラム

・黒木貴一(福岡教育大学)「気象災害の地形学的な見方・考え方」

・山本晴彦(山口大学)「土地利用の変遷から見たわが国で発生した気象災害の特徴」

コンビーナ・司会:山本晴彦(山口大学)

参加費:無料。どなたでもご自由にご参加ください。(当日「参加者名簿」へのお名前の記載にご協力お願いいたします。)

2. 講演要旨

・気象災害の地形学的な見方・考え方 黒木貴一(福岡教育大学)

2017年九州北部豪雨では、福岡・大分県境付近の広範囲で山地に斜面崩壊、平野に氾濫が生じ、両地形場で甚大な自然災害となった。地理学の中の自然地理学の一部である地形学では従来から、その自然現象の意味を、発災の都度、地形形成を追求する中で整理してきた。一般社会にその成果は還元され続けているが、自然災害が絶えることはない。この背景の一つに地形学的な現象の見方・考え方が社会になかなか浸透しにくいことがある。高等学校までの自然地理は、その単元ごとの内容が断片的で時・空間的な連続性が絶たれており、地理が暗記科目と認識される要因になっている。しかし気象災害の地形としての顕在化は、その理解さえ進めば防災力向上に直結することが期待される。たとえば平野部では、治水地形分類図で区分される氾濫平野や旧河道の危険な宅地開発は、心理学でいう正常性バイアスが、地形形成の時・空間スケールを過小評価することで成立する。また、山地部で被災地に対し治水地形分類図がないあるいは地形区分数が十分ではないことは、地形の時・空間スケールを研究者がまだ十分理解できていないことによる。ここでは平野部と山地部の(非)被災状況とその地形特性に関して、お話をさせて頂きたい。

・土地利用の変遷から見たわが国で発生した気象災害の特徴山本晴彦(山口大学)

近年、大規模な風水害が日本各地で発生している。たとえば、2011年台風12号による紀伊山地の土砂・洪水災害、2012年7月の梅雨前線による九州北部豪雨、2013年台風26号による伊豆大島の土石流災害、2014年8月の秋雨前線による広島市土石流災害、2016年台風10号による北海道・東北豪雨、2017年7月の梅雨前線による九州北部豪雨、2018年7月の梅雨前線による西日本を中心とした豪雨など、毎年のように甚大な豪雨災害に見舞われている。雨の降り方も短時間で局地性を有する集中豪雨から、比較的雨量強度が高くない長雨型の豪雨まで様々であり、地面に到達した豪雨により土石流災害や洪水災害が引き起こされる。戦後の復興期から土石流跡の扇状地や氾濫平野の低平地における宅地開発等が進み、特に高度経済成長期末期や日本列島改造論に相当する1970~1980年代は、地方でも戸建てブームにより、農地を転用して多くの住宅が建設された。2018年7月豪雨で大規模な浸水被害に見舞われた岡山県の倉敷市真備町も、1973年から1975年にかけて水田の転用による宅地開発が急速に進んだ地域である。江戸時代からの史料を紐解くと、幾度となく洪水に見舞われる水害常襲地であり、昨年の災害の前年にはハザードマップが作成され、大部分が5m以上の浸水想定区域に指定されていた。しかし、災害のリスクを十分に理解していない「新住民」も数多く認められ、避難のタイミングが遅れて取り残されるケースが相次いだ。ここでは、2010年代に発生した災害を中心に、地域開発と災害の発生についてのお話をさせて頂きたい。

(2019/10/22)