第9回気象学史研究会「モンスーンアジアの気象データレスキュー」をオンライン開催しました(2021/5/19)

第9回気象学史研究会「モンスーンアジアの気象データレスキュー」を日本気象学会2021年度春季大会(オンライン開催)会期中の5月19日(水)にオンライン(リアルタイム形式)で開催しました。約90名と、今回も多くの参加をいただきました。

今回は「データレスキュー」の活動を取り上げました。過去にさかのぼり、紙やマイクロフィルムのまま保存されている観測記録を劣化・廃棄・紛失から「救出」し、デジタルデータとして保存・整備していくこの活動は現在世界各地で進められており、日本でも、国内のみならず、国際的協力で世界各地を対象に行われ、その成果が気候変動などの研究に活用されています。より長期連続した均質な観測データを得るためには、地域の統治体制や気象機関、観測手法・技術の変遷など多くの障壁があり、気象学史的な意義もあります。今回は、アジア東部から南部にかけてのモンスーンアジアと呼ばれる地域を中心に、これらの活動に精力的に取り組まれてきたお二方にご講演をいただきました。

久保田尚之氏(北海道大学)は「台風関連データのデータレスキューと観測の歴史的背景」と題して講演されました。西部太平洋各国気象局を訪問して、保管されている台風に関する紙資料を収集して台風の位置情報をデジタル化したこと、比較を可能な長期のデータが作成され、これらを元にした台風の変動の実態を報告されました。データの収集範囲が船舶などさらに広がっていることも紹介されました。

松本 淳氏(東京都立大学)は「ACRE-Japanでのアジアモンスーン域におけるデータレスキュー」と題して、データレスキューのための国際的な研究組織であるACRE(Atmospheric Circulation Reconstruction over the Earth)の日本での取り組みであるACRE-Japanの活動について講演されました。日本のみならず旧英領インド、中国、東南アジア諸国などアジアモンスーン域について紙媒体等の気象データの保全 画像化・数値化が取り組まれ、200年以上にわたる長期再解析データの作成等が進められていることが紹介されました。原簿や自記紙など膨大な未活用の資料があること、画像化・数値化・保存・公開などにおいて多くの課題を抱えていることも報告されました。

講演後の質疑応答では、戦時などデータ欠落の多い期間の軍などのデータの探察と活用、膨大な紙媒体データの保全・活用に必要な多大な資源の継続的確保方策、観測値以外の(古)文書等を活用した過去の気象の再現、社会学など文系諸科学との連携など活発な議論がありました。

司会とコンビーナは研究連絡会世話人の藤部文昭(東京都立大学)が務めました。

今回も前2回に続きオンライン開催となりました。運営や進行はこれまでのアンケート等でいただいたご意見・ご提言や反省点を参考に改善を図っておりますが、まだまだ課題も多くあります。これからの社会状況はまだまだ見通せませんが、今回もアンケートで多くの多数の貴重なご意見・ご提言を頂戴しており、これらを参考に研究会運営のさらなる改善を図っていきたいと考えます。

最後にご講演いただい久保田氏・松本氏、前回に続きボランティアとして運営にご協力くださった遠藤正智氏・岸誠之助氏(順不同)の各位に厚く御礼申し上げます。本研究会の開催にあたっては気象学会の研究連絡会等活動補助金の支給を受けました。(2021/7/2)

第9回気象学史研究会(2021年5月19日(水)にて講演された久保田尚之氏(a)と松本 淳氏(b)。ウェブ会議ツールZoomのオンライン画面。

研究会の動画を公開しました。 (2021/07/02)

公開をご了承くださった久保田氏・松本氏・質疑応答参加者のみなさまに感謝申し上げます。

講演の著作権は講演者にあり,その権利を尊重する必要があります。
動画をダウンロードすること、および録画・録音・撮影・キャプチャなどしたものをご自分以外の方(家族・知人や会社等組織内の方を含みます)に閲覧させる、提供する、一般に公開しようなどすることは一切禁止といたします。

・日本気象学会機関紙「天気」に関連記事を掲載
研究会報告記事が「天気」2021年12月号に掲載されました。無料でどなたでもお読みいただけます。2022/8/21)
第9回気象学史研究会「モンスーンアジアの気象データレスキュー」をオンライン開催
https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2021/2021_12_0035.pdf