第15回気象学史研究会「日本における都市気候研究の展開-都市気候研究における長期気象観測の意義-」を日本気象学会2024年度春季大会にあわせて5月18日(土)に国立情報学研究所(東京都千代田区)で開催しました。2023年春に続き、大会とは別の会場で現地開催し、オンライン中継も行いました。会場約20名・オンライン約75名あわせて約95名の参加がありました。
本研究会では、20世紀前半にさかのぼる日本における都市気候研究の歴史を振り返り、都市気候研究の将来も見通して議論を深めるため、長年にわたって日本における都市気候研究をリードしてこられた、藤部文昭氏(元気象庁気象研究所)と三上岳彦氏(東京都立大学・成蹊気象観測所所長)に講演いただきました。コンビーナ・司会は平野淳平(帝京大学)が務めました。
藤部氏は「日本の都市気候研究を振り返る」と題して講演されました。1930年代に主に地理学者による実態研究として始まった日本の都市気候研究が、1970年代以降は大気汚染、夏季における都市の暑熱環境、熱中症増加などの社会的問題の高まりに対応して遷移してきた。気象学では局地循環、都市境界層の熱収支、気温のミクロ構造など関心が変化してきた。南関東大気環境調査(1974-1976)のような大規模プロジェクト、現場観測・統計解析・リモートセンシングから数値シミュレーションに至るまで多くの研究手法が適用され、都市気候形成に多様な見方が形成されたことが紹介されました。今日では都市気候・ヒートアイランドに対する社会的関心はやや低下し、地球温暖化・熱中症などの問題への対策(緩和策・適応策)の社会的要請が高まっている状況で気象学がどう対応するかが問われていると結ばれました。
三上氏は「吉祥寺・成蹊気象観測所98年間の歴史」と題して講演されました。学校設置の観測所として1926年から戦時下を含めて1日も休まずに観測が続けられていること、自動観測も取り入れつつ地中温度やフォルタン型気圧計・貯水型雨量計など気象庁では現在は行っていない項目・測器の観測も続け均質性の確保に留意されていること、視程観測など独自の観測も長期に続けられ近年の著しい視程増大など興味深い変化を示していること、都市気候の実態解明に有用な資料であり過去の資料の提供要望にも応じていることなど,多くの成果が紹介されました。
質疑応答も活発に行われました。本研究会が都市気候の研究の長い歴史を踏まえた今後の発展の方向性についての議論の契機になることを期待します。
最後に、開催にあたり多大なご協力いただいたROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)、国立情報学研究所の関係各位に厚く御礼申し上げます。日本気象学会講演企画委員会および日本気象学会2024年度春季大会実行委員会から多くの支援を受けました。本研究会の開催にあたっては日本気象学会の研究連絡会等活動補助金の支給を受けました。(2024/6/8)
第15回気象学史研究会「日本における都市気候研究の展開-都市気候研究における長期気象観測の意義-」(2024年5月18日・国立情報学研究所1903会議室)にて講演した藤部文昭氏(a)・三上岳彦氏(b)とコンビーナ・司会を務めた平野淳平(c)。(d)会場での現地開催には多くの参加があり質疑応答も活発に行われ、オンライン中継にもさらに多数の参加があった。
公開をご了承くださった藤部氏・三上氏に感謝申し上げます。
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藤部文昭(元 気象庁気象研究所)「日本の都市気候研究を振り返る」
三上岳彦(東京都立大学・成蹊気象観測所)「吉祥寺・成蹊気象観測所98年間の歴史」