第17回気象学史研究会「ヨーロッパ科学革命後の気象学の歴史」を開催しました(2025/5/18)
第17回気象学史研究会を日本気象学会2025年度春季大会(5月14日(水)~17日(土)・慶應義塾大学日吉キャンパス+オンライン)の時期に合わせ、5月18日(日)に開催しました。春季大会とは別に会場(北とぴあ・東京都北区王子1-11-1))を確保し、現地開催に加え、オンライン中継も行いました。会場約10名・オンライン中継42名あわせて52名の参加がありました。
今回は「ヨーロッパ科学革命後の気象学の歴史」をテーマとして、堤 之智氏(国立環境研究所)と濱中 春氏(法政大学)にご講演いただき、現代気象学の起源、ヨーロッパでの気象学の発展過程に焦点を当てました。堤氏は大学で大気力学を修められた後、気象庁で研究から行政まで幅広い業務経験を積まれ、さらに気象学の歴史に関する著作・訳書を3冊上梓されています。濱中氏はドイツ文学研究を入口に、ドイツの美術史・科学史に関心を広げられ、ひとつのテーマとして1800年前後のドイツの気象学を研究されました。
堤氏は「科学革命時代以降の気象学~19世紀までの推移~」と題して講演されました。アリストテレスの宇宙観に代表される古代ギリシャ自然哲学が17世紀の科学革命で破綻して以降19世紀までの気象学の発展が概観されました。気象測器や観測網の発達、大気循環理論の変遷、演繹的な理論研究と帰納的な観測・データ収集に基づく研究それぞれが、時には暴風雨論争など対立しながら発展、電信技術の導入による暴風警報の発表などの実践を経て、20世紀の物理方程式に基づく気象学へと繋がっていく様子を紹介されました。
濱中氏は「ゲーテと19世紀前半の気象学におけるダイアグラム」と題して講演されました。「文豪」として知られるヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)の自然科学、なかでも気象学への関心と、官僚として彼が監督したザクセン=ヴァイマル=アイゼナハ大公国の気象観測事業を紹介されました。当時描かれたグラフの例を多く示しながら、ゲーテが気圧グラフの比較から導いた「地球仮説」(気象の基盤は気圧の変動にあり、気圧が地球の重力の増減に応じて変化することによって、さまざまな大気現象が生じる、とする仮説)と、19世紀初頭の気象学におけるダイアグラム(特にグラフ)の役割の変化やその意義について論じられました。ゲーテの研究は、理論的には誤りを含みつつも、方法論的には同時代性を持っていたことを示しました。
質疑応答・総合討論では、離散的なデータを滑らかなグラフでつなぐという発想の発端、気圧の変化についてのさまざまな着目点とそれぞれの理解、ゲーテの自然観にあった両極性と社会への影響や思想史的意味づけ、イギリス、オランダ、フランスなどヨーロッパの国ごとの特徴、ゲーテとアレクサンダー・フォン・ フンボルト、ハインリヒ・ブランデスなど等温図や等圧図といった別種のダイアグラムを考案した同時代ドイツ語圏気象学者との交流・関係など、多くの話題について活発に議論されました。ゲーテの唱えた「地球仮説」の根源には科学革命によって棄却されたはずのアリストテレスの生気論的な思想が根源にあること、古代ギリシャ哲学思想の近代西洋科学への影響も指摘されました。提起された多くの課題について今後さらなる探求が進められ、また成果を共有できる機会が設けられることが期待されます。
最後にご講演いただいた堤氏・濱中氏に厚く御礼申し上げます。日本気象学会講演企画委員会および日本気象学会2025年度春季大会実行委員会から多くの支援を受けました。深く感謝申し上げます。本研究会の開催にあたっては日本気象学会の研究連絡会等活動補助金の支給を受けました。(2025/06/14)
第17回気象学史研究会「ヨーロッパ科学革命後の気象学の歴史」(北とぴあ・会議室806)にてそれぞれ深い内容の講演を行った堤之智氏(a)・濱中春氏(b)。 (c)講演後の質疑応答も活発に行われた。
公開をご了承くださった 堤氏に感謝申し上げます。
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堤 之智(国立環境研究所)「科学革命時代以降の気象学~19世紀までの推移~」
濱中氏の講演動画の公開は予定いたしておりません。