第4回気象学史研究会「わが国における大気放射学の草創と東北大学」開催(2018/10/31仙台)のお知らせ

第4回気象学史研究会「わが国における大気放射学の草創と東北大学」開催(2018/10/31仙台)のお知らせ

主催:日本気象学会気象学史研究連絡会

わが国における大気放射学は、第二次世界大戦終戦の1945年に東北帝国大学(1947年から東北大学)理学部教授に就任した山本義一(1909~1980)によって草創され、山本とその後継者たちによって世界的水準の研究に到達しました。学生時代から長きにわたって山本と研究を続け、わが国の大気放射学の研究発展を担ってこられた田中氏に、山本の創始した大気放射学研究の大気物理学における重要性、その後の発展について貴重なご報告をいただきます。

また、第二次世界大戦後の早い時期における日本の科学研究活動の再構築という観点から当時の東北大学の特に理学部における動向について加藤氏からご紹介いただき、戦後わが国における大気物理学の発展過程について考察を深めたいと思います。

1. 概要

第4回気象学史研究会「わが国における大気放射学の草創と東北大学」

日時:2018年10月31日(水)18:00~20:00(日本気象学会2018年度秋季大会第3日夜)

場所:仙台国際センター(仙台市青葉区青葉山無番地・秋季大会会場)小会議室1(1階)

プログラム

・田中正之(東北大学名誉教授)「わが国における大気放射学の草創」

・加藤 諭(東北大学史料館)「第二次世界大戦時・戦後の東北大学と科学研究動向~理学部の動向を中心に~」

参加費:無料。どなたでもご自由にご参加ください。当日「参加者名簿」へのお名前の記載にご協力お願いいたします。

2. 講演要旨

・わが国における大気放射学の草創 田中正之(東北大学名誉教授)

東北大学理学部に気象学講座が誕生したのは太平洋戦争の終わった年である1945年であった。初代の講座担任として赴任された山本義一教授は、講座の研究教育の柱とすべき専門分野の構想を得るに当たって、数年間を調査・考察に費やされたと聞く。当時、大気放射学は気象学の必須分野というより気候学もしくは気候物理学の一分野として認識されていた面があり、欧米の大学の一部では大気放射学の初歩的な内容が「気候物理学」の科目名で講じられていた。山本教授はこれを気象学を包含する大気物理学の基礎分野の一つに相応しいものと考えられ、気象学講座の研究教育の柱とする結論に至られたのであった。山本教授の大気放射学研究は、教授就任以降に始められたもので、まさに無からの出発であった。最初に取組まれたのは地球放射(赤外熱放射)の研究で、特に大気各高度での赤外放射フラックスを高層気象観測データから精度良く求めることの出来る「山本の放射図」の開発であった。1952年に発表され、従来のエルサッサーの放射図を遥かに凌ぐ精度が注目され、内外で広く用いられた。我が国における大気放射学の出発点となった研究成果である。山本教授とその後継者らの研究はさらに太陽放射にも及び、エアロゾルや雲を含む現実的な大気の放射伝達特性、赤外活性気体の吸収特性の実験や理論、エアロゾル放射特性の解明、放射理論のリモートセンシングへの応用などへと発展して来た。偏に草創の山本義一教授の慧眼あってのことである。大気放射学はなお解明すべき多くの課題を抱えるが、それらの解明には他分野、取分け気候モデラーとのより緊密な連携が欠かせない。

・第二次世界大戦時・戦後の東北大学と科学研究動向~理学部の動向を中心に~ 加藤 諭(東北大学史料館)

1945年1月勅令第24号により、従来東北帝国大学に置かれていた物理学教室とは独立したかたちで、地震学を担当する地球物理学第一講座(既設)、地球電磁気学を担当する地球物理学第二講座(新設)、気象学を担当する地球物理学第三講座(新設)からなる、地球物理学教室が設置された。設置の背景として1944年段階で部局提出された概算要求では、当時、原子物理学や金属学などの講座新設・増設が求められている中で、地球物理学分野も独立した教室設置の機運が高まっていたこと、合わせて他分野のカリキュラムとの関係で、地球物理学の学修程度の低下が危惧されていたこと、また第二次世界大戦下の資源開発や航空の発達に伴い、物理探鉱学や気象学の需要の高まりと、人材養成が課題となっていたことなどがあげられている。このように気象学講座の新設は、理学部の諸研究分野との関係や人的資源の確保など、当該期の東北帝国大学における、科学研究活動の展開・再構築と密接に関係していた。本報告では、第二次世界大戦から戦後直後の時期にかけての東北大学の状況や理学部の講座状況等などから、気象学講座が設置された時期の東北大学の研究体制について、東北大学史料館に所蔵されている概算要求書などの関係資料を用いて紹介したい。

(2018/8/26)