台風も近づく肌寒い朝。
鳥肌が立ちそうな寒さだが、息が白くなるほど凍えてはいない早朝。
じきに白くなるに違いない。私は空を見上げた。お気に入りの時間だ。
期待した色合いではなく、私の心を映すように灰色。
ふと、小雨に気づき、傘を持って出た。
風が強くなり、台風が近づいていることを思い出した。
テレビを見る暇が無く、ラジオは持っていても使うことはない。都内で発達している地下鉄での通勤に、ラジオは何の役にも立たない。
徐々に世情に疎くなる。
吊り広告だけが情報収集源では先が思いやられる。
駅の売店で経済誌を買い足したが、目当ての雑誌は置いていない。
職場に届いていることを期待するしかないのだろうか。
駅から出ると再び寒い世界が待ってる。
せっかく温まった体がまた冷えていくのを感じながら、私は急いで雑居ビルを目指した。
肌寒さも、空調の利いた室内なら忘れられる。
ほっと一息したいところだけれど、すぐに仕事がはじまる。
朝礼。
……退屈な連絡事項。
メールに目を通す。日本語が書けない日本人が増えている。これならインド人のほうがマシなメールを送ってくる。
午前中は受信したメールを読み、用意した資料を取引先にメールし、ファクシミリで送っただけで終わった。
取引先にはただただ、良質な記事を仕上げて、私の負担を減らしてもらいたいものだ。
仕出しの海苔弁を食べながら、午後最初の記事を読む。酷い出来だ。やる気が萎える。後輩に記事を渡し、自分なりに書き直すように指示。取引先のライターはレベルにばらつきがあって困る。
今日もあまり早くは帰れないみたいだ。
彼が別れたいと私に告げてから数日が経過していた。
涙を流すほど余裕がなかった。むしろ、当然のようにしか思えなかった。
取引先とやりとりするように、私は淡々と受け答えした。
引き留めたら、もしかしたら、まだ関係は続いていただろうか。
けれど、どちらにしても長くなかった、と私は思った。
終電に乗れるか乗れないか、そういう生活の末に、会社に泊まる羽目になることは度々あった。そして、今日のような週末もそうなのだ。花の金曜日と誰が言っただろうか。そんなことを信じている輩はさっさと退職してもらいたいものだ。
始発の時間を確認し、私は会社を退社する。また月曜日には仕事があり、曙にかわりゆくはずの空を見ながら、私は東雲の赤と青が好きだ、と黒々とした天気に毒づいた。
―幕―