時を見る病
物体とは、ようは原子が人間の感覚で捉えられるほどの大きさにまで結合した状態である。
結合した瞬間から、物体とは独特の変化を見せる。
つまり、老い、である。
君は私に言った。
ぼくは人の老いていく様が見える、と。
冗談にしては薄気味悪く、さりとて、本当の話にしては真実味に欠けた。
君がされど画家などという生業でなければ、誰もそれを信じなかった。
君は人も風景も描いた。
君の絵は、必ず何年後かの未来を描いている。
なぜ、町並みならば荒廃した様を描き出すのか。人物画なら、精気に欠けた瞬間を切り取るのか。
君の絵を見ていると、とても不思議な感覚になる、と誰もが言う。
何らかの形で、若くして死んでしまう、そういう人物は、若いままの肖像画を得るという。
君の病状は私には理解できない。
人生に絶望したかのようなイラストを描き続ける君。されど、君の瞳に満ちる精気は、まさしく希望を見いだした者の色を帯びている。
果たして、君は何を思う。
君をつき動かす衝動こそ、君に巣くう病であろう。
そのような事実を、私はいつ告げればいいだろう。
若々しい私の肖像画は、あまり時が残されていないと告げている。
―幕―