紳士はロマンを求めるか
午後の紅茶をたしなみながら、二人はテラスで休憩している。
点けっぱなしにしているラジオからは、ゴルフツアーの生中継が流れている。
エレニアは立ち上がり、ゴルフのスイングをまねた。ぎこちない。
ジーナはそれを見て、どこが悪いか指摘した。
「ジーナ、ゴルフと言えば紳士のスポーツと言われているわ」
「そうね。でも女性ゴルフ選手も負けていないわ」
クラブの材質改善や、スポンサー契約による選手に合ったドライバーの設計が進んでいる。
「宇宙という新天地に旅立つ男たちは、ロマンを求めているのかしら」
「さあね」
二人はイスに腰を下ろし、しばらく仕事がないことについて愚痴を言い合った。
「ジーナわかったわ。仕事がないから、中世の終わりに大航海時代なんて時期ができたんだわ。一攫千金を目指したのよ」
「じゃあ、現代の大航海時代――宇宙開発はどう? なかなか上手く行かないわ」
「最初は失敗の積み重ねよ」
宇宙開発はまだ始まったばかりで、まだ課題が山積みであると愚痴を言い合った。まったく手付かずの場所に行くとき、莫大な金が掛かるのは、どんな業種でも変わらない。
「大航海時代と宇宙開発には似ていることがあるわ。引力があるから、天体に近づくと宇宙船の向かう方向が変わるの」
「帆船みたいに風任せって訳?」
ジーナの想像したことはわかった。だからエレニアは即座に否定した。
「いいえ。帆船の原理は、太陽が出すエネルギーの風を受ける形で実用化が進められているわ。今回の話だと、ゴルフコースね」
ジーナが首を傾げた。
「天体に近づくと、物体は引き寄せられる。ニュートンの発見した法則で、物体は引き合うと言うわね。その天体を複数配置すると、説明が煩雑になってしまうわ」
「数式を並べたら怒るわよ」
「しないわ。言ってる私も混乱しそうだから」
エレニアはラジオの中継にあわせて立ち上がり、再びスイングしてみせた。
『ナイスショット』
「宇宙は紳士のスポーツ、ゴルフに似ているわ。特に重力を考えるときは」
「……そうなの?」
「ゴルフは何度もショットしてカップを目指す。それは打ち上げから目的地到達までの探査機の動きに似ている。何度も推進剤で進んだり方向転換するからね。バンカーは、まるで天体。捕まればアウトね」
「ああ、惑星に墜落してしまう訳ね」
「自分の推進剤だけで目的地に進むとき、ちょうどフェアウェイを転がっていくようなものね。ほんの少し角度が違うだけで、ラフに突っ込むし、油断すればOBになる。でも、そうはならないようにする」
エレニアのスイングはぎこちないが、語る言葉によどみはない。
「ロマンの塊のような宇宙は、紳士のスポーツで語ることができる。とても不思議ね」
「次からゴルフ場に行くときは、宇宙旅行の気持ちになれそうだわ、エレニア」
「そう、それはよかったわね」
『……ナイス、バーディ』
―幕―