白い糸を紡ぎながら、私は考える。
細く細く、それでいて繊細なのに強靭なそれ。
ふと、昔を思い出す、その甘く、早熟な酸味を。
深く味わうには、その記憶は薄く淡い。
白くあってほしいと願う記憶の糸は、日々様々な模様を見せ、ときに色づく。
ときに、赤く。
ときに、青く。
なめらかであってほしいと願う記憶の糸は、日々様々な手触りになる。
ときに、滑らかで。
ときに、ざらつく。
けれど、それはいつまでも続く一本の糸。
人は蚕を飼い、糸を紡がせ、絹を得る。
人の記憶にも、紡ぐべき時がある。
均一ではない糸。
それが溜まると繭を作り、見違えるように姿を変える。
心は繭を作り、そして破り、成長していくものらしい。
私は絹糸を束ねながら、そんなことを思い出していた。
―幕―